mixiユーザー(id:6002189)

2020年09月06日18:14

28 view

ギリシャ危機

2010年5月に書いた記事です。隔世の感がある。

終戦から65年・食い違い始めた欧州の利益とドイツの利益

第二次世界大戦が終わってから、今年は65年目にあたる。ナチス・ドイツが欧州にもたらした悲劇に対する反省から、戦後の西ドイツ政府、そして統一ドイツは他の欧州諸国との協調を何よりも重視してきた。ドイツはヨーロッパの政治的、経済的な統合を強く推し進め、「良き欧州人」になるための努力を続けてきた。しかしその外交路線に、微妙な変化が見え始めた。
そのきっかけは、ギリシャの債務危機である。今年3月17日にメルケル首相は、連邦議会で「財政改革を真剣に行わず、マーストリヒト条約に何回も違反する国は、ユーロ圏から追放されるべきだ」と発言したのだ。
この発言は、欧州連合(EU)加盟国に強い衝撃を与えた。ベルギー出身のある欧州議会議員は「ドイツは欧州との連帯を捨てたのか。メルケル首相の言葉にはショックを受けた」と語った。当時EUの中でギリシャ支援に消極的だったのはドイツだけで、他の国は前向きな姿勢を見せていた。あるEU首脳は「ドイツ統一の時に、当時の欧州共同体は旧東ドイツへの支援を行ったのだから、ドイツは今回ギリシャを助けるべきだ」と指摘した。イタリアのある新聞は、メルケル氏を「ドイツ版・鉄の女」と呼んだ。
メルケル首相は、後に譲歩しEUの救済案にしぶしぶ同意した。4月下旬にギリシャ政府は財政赤字比率を再び上方修正したために、信用格付けを引き下げられ、国際市場で資金を調達できなくなった。このためギリシャはEUとIMF(国際通貨基金)に緊急融資を要請したのである。ドイツは「ギリシャが債務不履行に陥った場合、ユーロ圏全体に深刻な悪影響が及ぶ」と判断して、EUに協力することにした。
しかしメルケル氏は、最後までギリシャ支援に批判的な姿勢を崩さなかった。特に彼女の「規則に違反する国は追放するべきだ」という発言の余韻は、今も欧州に響いている。こうした厳しい発言は、彼女と同じCDU(キリスト教民主同盟)の大先輩であるコール氏が首相だった頃には、考えられなかった。ドイツ政府はこの発言によって、「欧州との協調を最優先にする」という姿勢を捨て、アデナウアー以来の伝統と訣別したのである。
コール氏を初め多くの西ドイツの政治家にとって、欧州諸国との協調路線は、戦争を放棄し永続的な平和をもたらすためのプロジェクトだった。コール氏がドイツ統一と並行して、フランスのミッテラン大統領(当時)とともに欧州統合のための機関車役を果たし、マルクという安定通貨をあえて捨てる決断を行ったのも、他の国々が大国ドイツに対する不信感を持つのを防ぐためだった。決して独り歩きをせず、EUの中に身を埋めることを国是とすることによって、周辺国との間に信頼感を醸成してきた。
だがナチス・ドイツの無条件降伏から65年が経ち、戦争を知らない世代が増えている今日、「欧州の平和を守る」という理屈だけではドイツ市民を納得させることはできない。
 メルケル首相があえて厳しい発言を行った背景には、厳しい台所事情もある。ドイツ国民は、220億ユーロ(約2兆64億円)もの金をギリシャに貸す。ショイブレ財務大臣は、「これは融資だから、ドイツの懐は痛まない」と言うが、ギリシャは本当に2兆円を超える金と利子をドイツに返済するだろうか?ドイツはリーマン・ブラザース破綻以降の金融危機のために、戦後最悪の財政赤字に苦しんでいる。メルケル政権は国内の銀行を救うために、すでに7000億ユーロ(約84兆円)もの負担を強いられた。



 ドイツ人の間では、ギリシャの債務危機が問題化する以前から「ドイツはEUに払いすぎではないか」という意見があった。EU加盟国は付加価値税などの一部をEUに対する「会費」として納める一方、農業やインフラ構築などのための「援助金」を受け取る。会費が援助金を上回る国をNettozahler(払い込み超過国) Nettoempfaenger(受け取り超過国)と呼ぶが、ドイツは2009年の時点でEUに払い込む額が、EUから受け取る額を88億ユーロ(約1兆560億円)も超過する、最大のNettozahlerだった。一方ギリシャは、EUから受け取る額がEUに払い込む額を63億ユーロ(約7560億円)も上回る最大のNettoempfaengerだった。
 つまりドイツはEUに対し最も大きく貢献し、ギリシャは最も多くEUからの恩恵を受けている国なのである。そのギリシャが公共債務の一部を隠してユーロ圏に加わっただけでなく、嘘のデータをブリュッセルに報告し続けることによって、財政赤字比率や債務比率を実際よりも低く見せかけていた。規則や法律を守ることを重視し、通貨の安定性を重んじるドイツ人にとっては、ギリシャ政府の態度は正に噴飯物である。
メルケル首相はドイツ国内で、極右勢力など欧州統合への反対勢力が伸張するのを防ぐ意味でも、EUに「喝」を入れようとしたのだろう。今回の発言はドイツの利益と欧州の利益が、将来対立する可能性をも示唆するものだ。ドイツは過去の影を抜け出して「普通の国」への歩みをゆっくりと、しかし着実に進め始めた。その意味で今年は、統合欧州の行方を占う上で、重要な年になりそうだ。

0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する