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2019年10月29日18:55

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特別短編小説 巨人と虚人はかく語りき 中編


 
これは特別短編小説『巨人と虚人はかく語りき 前編』の続きです。
 前編後編のつもりが少し長くなり、中編をかきました。さあ楽しくなって来ちゃったぞう。
 こちらは前編です。こちらから読むともっと楽しくなると思います。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1973079997&owner_id=10063995

 それでは、中編、はじまります。








    いつかこんな時が来るのは分かっていた。
 ●●●●はいつか彼に捨てられる。
 いつか彼に忘れられ、蔑まれ、哀れと言われ、思い出す事すらなくなってしまうのだ。
 そして、彼は彼で幸せな人生を歩んでくれるなら、それで良かったのだ。
 なのに何故、彼は死んでしまった。
 今や●●●だけが、彼の過去を知る唯一の存在になってしまった。
 今や●バ●だけが、彼を覚え彼を記憶する存在になってしまった。
 教えて、神様。
 嘘人(ヒトデナシ)であるニバ●はこれから、どうすればいいのでしょうか。


 巨人と嘘人はかく語りき。後編。


〜某国秘密研究所・第七実験室〜

サイモン「はぁぁっ!」
ニバリ「さ、『サイファー・シールド』展開!」

 サイモンは素早く走りだし、サイモンに向かっていく。それを見たニバリは背中に設置された二基の『光波盾(サイファー・シールド)』を展開させ、光の泡が自身の周囲を覆っていく。
 バリアに気づいたサイモンは足を止め、『膨張(パンプアップ)』を解除しニバリから距離を置いた状態で睨みつける。
 ニバリの展開した光波盾(サイファー・シールド)もまた、ドリーム博士の開発した兵器の一つだ。
 背中の盾を上手く調整して発動させれば、翼のように空を飛ぶ事ができる。
 そして本来の用途として、自身をシャボンのようなバリアで覆い、それを高速回転させて敵に突進するのだ。

ニバリ「行くよサイモン!
 『グルグルタックル』!」

 ニバリはバリアを高速回転させ、サイモンに向かい突進していく。サイモンは一度ため息をついた後、両手を祈るように組み合わせた後、能力を発動させる。

サイモン「能力発動、『膨張(パンプアップ)』。
 『偉大なる拳骨(グランド・グー)』!」

 サイモンが能力を発動させると同時に、両腕を巨大化させる。そして真っ直ぐ向かってくるニバリに向かい拳を振り上げていく。
 それを見て、目を丸くしたのは隣の部屋からモニターしていた科学者達だ。

科学者A「な、なんだあの能力は!?
 回数制限もデメリットも一切なしで発動出来るのか!?」
科学者B「これがS級能力者の実力なのか!まずい、あのままではNo.5392がやられる!」
ドリーム「ちっ・・No.5392、真っ直ぐ進むな、ジグザグに動き狙いをつけさせるな!」
サイモン「もう遅い」

 サイモンは力強く拳を振り下ろし、ニバリにバリアに降りかかる。
 その威力たるや壮絶なもので、一撃を受けただけでニバリのバリアは破壊され、ニバリは巨大な拳に包まれ、実験室の床が大きく凹んだ。

ニバリ「うわあああああああ!!」
サイモン「・・『膨張(パンプアップ)、解除』」

 サイモンが能力を解除させると、クレーターの中心でひっくり返ったニバリが全員の目に映った。科学者がマイクで連絡を入れる。

科学者A『ちゅ、中止!
 訓練中止です!救護班、No.5392を至急運んで!』
サイモン「いいえ、まだです!」
 
 サイモンは視線を外さないままニバリに向かい走り出していく。ニバリはぴくりとも動かない。
 サイモンは右腕を『膨張(パンプアップ)』させ、動けないニバリに殴りかかる。
 一撃をまともに喰らい、ニバリは悲鳴をあげる。

ニバリ「ぎゃあ!」
サイモン「見なさい、まだ悲鳴をあげられる!まだ動ける!まだ彼女は戦えます!」
科学者A『し、しかし・・』
ニバリ「うう、あ、う・・!」
サイモン「さあ、行きますよ!」

 ニバリは全身に力を入れ、ふらふらとしながら何とか立ち上がろうとする。
 だが、サイモンは今度は右足を『膨張(パンプアップ)』させて蹴りあげてきた。
 まるで、車同士がアクセル全開のままぶつかったような激しい音が実験室に響く。
 蹴り飛ばされたニバリは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ、沈んでいく。

ニバリ「ぎいいやあああ!」
サイモン「まだです、まだ戦いなさい!気力に限界はありません!闘志は無限に湧きます!怒りを、憎しみを、絶望を、全て私に叩きつけなさい!!」
ニバリ「あ、あああ!うわあああああ!!」
サイモン「・・・・」

 床に落ちたニバリはもう一度立ち上がろうとするが、今度は動く事すら出来ない。
 それを見て、サイモンは拳をわなわなと震わせるが・・すぐに脱力したように手を開く。

サイモン「ふぅ・・申し訳ありません。
 彼女はもう戦えそうにないですね」
科学者A『見ればわかります!
 これだからS級能力者は・・早く救護班を中に!次の訓練は・・ニバリの回復を待ってから!』

 サイモンの目の前で救護班がニバリを巨大な担架に乗せて運んでいく。
 サイモンはその様子を黙って見ていたが、やがてその両手に手錠がかけられる。
 いつの間にか後ろには警備員が立っていた。

警備員「さあ、個室に戻るぞ」
サイモン「ええ・・。
 ああ、後でペンと紙をお願いします、今回の件で反省すべき事、これからの課題を書かねばならねばいけませんから」
警備員「分かった分かった・・ほら、行くぞ」

 サイモンは捕虜であり、ここで自由を許されていない。実験が終われば即座に逮捕され、独房に放り込まれる。
 そしてサイモンはすぐにペンを握り、様々な反省を纏めていく。
 その間、彼は一切周囲を確認せず、食事を取るのも全てを終えてからだった。
 ペンを走らせながら、彼は思う。

サイモン(まさか、私のような虚人(ヒトデナシ)にもう一度何かを行える機会が訪れるとはな・・出来れば死に神が来てほしかったが、今、彼女を放っておく訳には行かない。
 私はサイモン、『シンプル(真っ直ぐな)』サイモン。己がこうありたいと決めた道は、真っ直ぐ進むだけです)

 サイモンはペンを走らせる。
 これが次に繋がると、彼女の希望に繋がると信じながら沢山の課題、反省を書き連ねていく。
 
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 一方、科学者達はニバリの訓練とサイモンの処遇について話をしていた。
 その中にはドリームも参加している。

科学者A「なんなんだ、あの単純大馬鹿野郎は!
 うちの実験室をめちゃくちゃにしやがって!No.5392もろくな反撃一つ出来ずにいいようにやられて、あれで何が訓練のつもりなんだ!?」
科学者B「また部屋の修理に予算を出さなきゃ・・一番硬い部屋を用意したんだけどなあ・・」
科学者C「もうNo.5392なんかよりあのバカを操る方法を考えた方が良くありません?
 あれだけ強力な力を持つ能力者を洗脳し、前線に出させればそれだけで敵は混乱する筈です。
 如何します、ドリーム様」 
 
 科学者はサイモンに対し頭を悩ませていた。訓練の度に部屋は半壊され、ニバリを機能停止寸前まで追い込んでいく。
 それでも執拗に立ち上がる事を強要させ、最後には大量の課題と反省を科学者達に押し付けていく。
 しかもその課題は、戦闘経験の無い科学者連中には理解しづらいものが多く、ニバリが機械人形(アンドロイド)であるが故に身体能力の向上が難しい、というものばかりだった。
 科学者にとってサイモンはただの自分勝手な迷惑者でしかなかったのだ。
 ドリームは眉をひそめるしかなかった。

ドリーム「・・さて、どうしようかね。
 洗脳装置はまだ開発段階、実験には程遠いし、今は都合良く人を死体に変えるような実験は無い。
 アイツを追い出すにしても、胸に新型の人工心臓を埋め込んである以上、その技術をむざむざと捨てるような真似をしたくない。
 ・・俺にとっても、あの『シンプル(単純馬鹿)』は頭が痛くなる存在でしかない・・」
科学者A「んー・・」
「ちょっと宜しいかな、ドリーム博士」

 科学者達が頭を悩ます中、1人だけ手を上げた。それは医者ドクター・レミファソラ。医者という肩書きではあるがその実、人体実験が大好きな男でニバリの改造実験にも立ち会い、かつGチップの改造実験も任されている。
 その男が手を上げた時、全員の顔が青ざめた。ドリームだけは、真顔を取り繕って訊ねる。

ドリーム「何かね、レミファソラ氏?」
レミファソラ「私に妙案があります。
 No.5392にサイモンを殺す命令をするようにしてみてはいかがでしょう?
 サイモンを薬か何かで動けなくし、5392には無抵抗の人間を殺すよう命令するのです。
 サイモンが死ねば御の字ですし、ダメであれども奴に恐怖を与えれば余計な手出しをしなくなるはずです」
ドリーム「・・ふむ」

 ドリームは考えるそぶりを見せながらチラッと科学者達を見渡す。
 科学者達は僅かに腕を震わせていた。
 というのもこの男は生粋のサイコパスで、科学で人が栄えるより自分の改造手術を受けた人がどんな風に狂い、滅亡するかを楽しむ虚人(ヒトデナシ)なのだ。
 ニバリが麻酔なしで手術する間、彼女が血塗れになりながら苦痛を耐える姿に笑みを浮かべていたのは、ドリームにも印象に残っている。
 
レミファソラ「彼の食事に薬を入れて眠らせます。これで後はニバリに叩き殺させればいい」
ドリーム「それならコストもかからないな、よし、その案で行こう。
 実験は三日後に行う」
レミファソラ「かしこまりました」

 こうして、人殺し会議はあっさりと終わり別の実験報告の話が始まる。
 その間、ドクター・レミファソラは終始笑みを溢していた。

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △

 深夜、ニバリ・フランケンは眠っていた。夢を見ているのか小声で何か呟いている。

ニバリ「グー、グー、むにゃむにゃ・・セキ、タ・・セキタ・・会いたかった・・やっと、会えた・・グーグー」

 幸せそうな顔で眠るそれは、急に笑みが消えてしまう。そして小声が震え声に変わる。

ニバリ「む、にゃ・・セキタ・・な、に、それ・・きみ、の腕・・?ニバリが、食べていいって・・?
 いや、いやだ、いやだよ、ニバリ、そん、な事したくない!近付かないで!
 やめて、やめて!嫌、嫌だ!
 怖い、セキタ怖いよ嫌だ嫌だ!
 嫌だあああああああ!!
 もう食べたくなああああい!!」

 ニバリは悲鳴と共に目を覚まし、巨体を起き上がらせ周囲を見渡す。
 暗闇に支配された部屋が見え、その壁にセキタからもらったお気に入りの手紙が飾られた額縁や、お土産のピエロ人形が飾られていた。
 何処にも、自分の腕を食べさせようとするセキタの姿は見えなかった。

ニバリ「・・・・夢?
 ううん、違う、よね・・」

 セキタは頭を横に振り、静かに認識する。もし目の前にセキタの死体が置かれていて、それを誰かに『食べていい』と命令されたら、自分はそれを否定できないのを理解しているからだ。
 ならば、あの光景は。
 あのおぞましい世界は。
 決して、夢と断じて良いものでは・・!

ニバリ「う・・うう・・寝る!もっかい寝る!今度はもっといい夢見る!」

 これ以上考えると自分は戻れなくなる。いままでの人生でそれを嫌と言う程に理解しているニバリは頭を押さえ、目を強くつむって無理やり眠ろうとした。
 そうしてそのまま朝になった。

 次の日、サイモンは嬉々としてメモを提出し、科学者達は更に頭を悩ませた。
 その次の日、ドリーム博士が実験用の特殊な薬を用意した。
 その次の日、ニバリは体を動かせるよう自主トレした。

 そして運命の日が、訪れた。
 朝、目を覚ましたサイモンは今日の訓練に胸を踊らせながら朝食を食べ、薬の力に抗えず眠りこけてしまう。
 ドリームはそんなサイモンを木箱の中に詰め、いつもの実験室に運んでいく。
 そしてニバリが実験室に訪れた時、沢山の木箱が置いてあった。

ニバリ「ん?
 この箱は何?」
ドリーム『No.5392、サイモンが来る前にお前の体がどれ程動けるか訓練を始める。
 この沢山の木箱を全て壊してみろ』
ニバリ「へ?そんな事でいいの?」
ドリーム『ああ、サイモンの馬鹿が『私が来る前にこの箱を全部壊してみたら貴方をほめましょう』なんてほざいていたからな。わざわざ用意してやったんだ。
 だからさっさと壊せ』
ニバリ「へぇ・・あの人がそんな事を?
 わあ、嬉しいなぁ」
ドリーム『嬉しい?』
ニバリ「だってさ、あの人すごーい厳しいけど、ちゃんと動きを見てるじゃん。
 『脇が甘い、もっと狭めないと相手に攻撃が当たらない』とか『私にも貴方のような弱い人はいましたが、彼女は諦めませんでした。貴方は諦めるのですか?』とか。
 それでさ、彼女が誰なのって聞いたら、ススっていうセキタの妹なんだって」
ドリーム『・・・・』

 ドリーム博士は嫌な予感を覚えた。
 しかしニバリの言葉を黙って聞いていた。

ニバリ「サイモンはさ、厳しいし強いし怖いけど・・ニバリより辛い目にあってるんだよ。
 それでも、ニバリ達の為に精一杯、自分に出来る事をやろうとしている。
 なんでかなんて・・あの世界をみたらニバリには聞かないでも分かるよ」
ドリーム『あの世界だと?』
ニバリ「最初に取調室で会った時さ、あの人死ぬ事しか考えて無かったんだよ。
 それがニバリ達に会えた事で初めて希望を手に入れたんだ。
 ニバリを強くして、少しでも長生きしてくれるようにって願ってるんだと思う。
 あの人はそれだけの気持ちで生きているんだよ、きっと」
ドリーム『・・まあそれは分かるがな、だがあいつは・・』
科学者A「博士、そろそろ・・」

 ドリームが振り返ると、科学者が気まずそうに顔を横に降る。『これ以上聞いたらまずい』、と仕草だけで分かった。
 それを見て思い直そうとしたが、ニバリが更に言葉を続ける。

ニバリ「ニバリは虚人(ヒトデナシ)だからさ、誰かの希望になるなんてガラじゃないのは分かってる。
 それでもそんな風に真っ直ぐに願われたら、それに応えたい。
 ニバリはもうセキタにも、その家族にも会えないけど・・今、目の前にいる人まで失いたくない」
ドリーム『・・・・・・』
科学者A「・・ドリーム博士!」

 後ろで仲間が叫ぶ。
 ニバリは演説を終えて満足したのか、木箱の山に向かって歩いていく。

ニバリ「さあて、サイモンが『わーい、すごーい!』と誉めてくれるよう、この木箱をぜんぶ壊すんだ!」

 ニバリがそう言いながら嬉々として箱に向かって進む。それを見て、
 ドリームは必死に思考を巡らせ、思い付いた言葉を叫ぶ。

ドリーム『待て、No.5392!
 実験は中止だ!今すぐ停止せよ!』
ニバリ「うん?」
科学者A「ドリーム博士!どうしたんです!?あんな話しにほだされたんですか!?」
ドリーム「馬鹿野郎、俺がこんな話に動かされるわけないだろう!
 あ、あれだ・・今、サイモンを殺したら奴のトラウマはただの殺しによる苦しみに変わってしまう!
 それじゃダメだ、だから中止だ!
 ニバリ!早く停止しろ!これは命令だぞ!」
ニバリ「う?う、うん」
 その命令を聞いてニバリが腕を止めた時には既に箱は4つも破壊されていたが、
 そのどれにもサイモンの姿は入ってなかった。

ニバリ「どうしたのさドリーム博士?
 あと初めてニバリの事をニバリって呼んだね」
ドリーム『に・・!
 二世を、付けろ・・バカ』
 
 肝を冷やしながらドリームは落ち着きを取り戻しつつ、ニバリに語りかける。

ドリーム『いいかNo.5392、これは罠を発見する実験なんだ。
 だがスタッフの馬鹿が肝心要の罠を入れ忘れてな、本来ならお前は二、三回爆破に巻き込まれてなければいけないんだ』
ニバリ「ええ、そうなの!?」
ドリーム「だが箱は爆発しなかった。
 罠を入れ忘れたからな。
 だから実験は今すぐ中止だ。お前はさっさと部屋に戻れ」
ニバリ「・・・・?
 うん、分かったよ」

 ニバリはゆっくりと部屋に戻っていき、
 ドリームは部屋のスタッフに箱を戻し中身を独房に戻すよう命令をした後に、部屋を出る。
 廊下を少し歩き、周囲に誰も居ないのを確認してからドリームは大きくため息をついた。

ドリーム「あ、危なかったぁ・・。
 い、いやいや違うぞ。ああくそ、またニバリを兵器として一段階上げるチャンスを逃してしまった、何やってるんだ俺ぇ・・!」

 しばらく自分で自分を責め続けながら、ドリームは隠し持っていたロケットを開く。そこに切り取られた写真が入っていて写真の中ではまだ幼い金髪の少年が笑っていた。

ドリーム「メルヘン・・父さんはまだ、巨人(オオモノ)にはなれないみたいだ・・」



 続く。
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