続きました。
◆4日目【活動時間/5:40、行動時間/3:35】
7:40/剣山荘(標高2475m)チェックアウト⇒8:25/剱沢キャンプ場(標高2520m)
着(ここで梅さんと再度合流、9:30までテント撤収待ち&コーヒータイム)⇒10:10
/石井逸太郎レリーフ(ここで10:25まで小休止)⇒10:35/別山乗越(標高2760m)着
(ここで10:55までお昼休憩)⇒12:00/雷鳥沢野営場(標高2354m)着(ここで12:25
まで小休止)⇒13:20/室堂ターミナル(標高2420m)に着
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剱岳
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【復路】
おはようございます。朝です。早いものでアッと言う間に4日目です。昨日はあんなに大勢の登山客で小屋の中がごった返していたのに、朝5時の段階で部屋にはもう、自分らを含めて4人しかいない。36人部屋に昨日は45人、押し込んでいたので、実に40人以上はもう出立済みってことになる。まあ、予想通りです。昨日の夕食時、朝食をお弁当に変えて受け取りをする人が大勢いたので。もうね、準備されているお弁当の数が尋常じゃない。これは翌朝、殆どの人が日の出前に出立するな、と思っていたらドンピシャでした。
のんびり朝食を摂ったらザックを布団に持ち込み、一旦全て中身を出して荷物整理開始。混雑時はこういう芸当、出来ないもんね。トイレ行ってコンタクト入れて着替えたりして7時過ぎに剣山荘をチェックアウト。この時間だともう、小屋の中に客はほとんど居ない。今日も快晴、空を見上げれば雲一つ無い抜けるような青空！そりゃこの天気だもの、みんな剱岳に向かいますわな。山小屋のスタッフの話だと、剱岳でこんな雲一つない快晴が3日も連続して続くのは10年に1度あるかないか、だそうですよ。小屋の後ろの尾根を見上げれば、一服剱まで登山者が数珠つなぎになっている。何だこれ、富士山のご来光登山かよ〜！渋滞を避けるために早出する意味が分かりました。自分達はこれを避けるために平日休みを入れて1日早く前乗りしたんですが、大正解でした。前剱を見上げるとこっちもカラフルな細かい点が沢山動いているのがわかる。
さて、昨日は梅さんに剣山荘に来てもらいましたが、今日は室堂に戻る日なので自分とHGさんが梅さんの居る剱沢キャンプ場に向かいます。話は少し戻って二日前。雷鳥沢キャンプ場から別山乗越を見上げた時、この標高差を登って一度立山連峰の稜線に出るのなら、そのまま立山を縦走しても大差ないんじゃないか、なんて話をしていたのですよ。ただ、初日はそれを想定したタイムスケジュールを組んでいなかったので、やるなら最終日、剱沢から室堂に戻る復路で。別山乗越から真砂岳を踏み、立山を登って一の越経由で室堂に降りる、というプランです。流石に時間的に浄土山までは無理なので、立山三山縦走、ってわけにはいきませんが。ただその場合、最終日のスタートは遅くとも朝6時くらいでないと、富山に出るのが時間ギリギリになってしまう。
で、昨日。最終日のプランは剱岳を下山してからの残体力と相談して考えよう、となりました。前剱に戻って来た段階では、
「こりゃあ立山は無理だよ、真砂岳まで行って大走りルートで雷鳥沢キャンプ場に降りるべ。」
となり、一服剱に戻って来た段階で更に
「うーん、真砂岳も厳しくね？別山乗越から別山のピークだけピストンして、あとはそのまま帰ろう。」
となり、剣山荘に帰還してビールを飲みながら
「もう寄り道、やめません？中途半端は良くないっす。立山は立山で、別途山行計画を立てて、浄土山から立山・真砂岳・別山と、全部回りましょうよ！」
「そうね、そうしよう。なので明日は超ゆっくりでいいよ！テントの所には8時位に来て。二人が来てから片付けするから。9時頃出発なら昼過ぎ室堂着で、時間もちょうどいいっしょ！」
と、梅さん。
確かに二日目は小屋が大混雑ですから。特に早朝は日の出前出立の人でごったがえすはずなので、その時間帯に急いで荷物整理をしてチェックアウトするのは、ちょっとイヤやん、と正直思ってました。
「こちとらもうジジーだから。無理はしたくねえ。」
と、HGさんも同意見。
ってことで、色々検討した結果、最終日は来た道戻るで寄り道はしないこととしたのです。
8時過ぎ、剱沢キャンプ場に到着。手を振る梅さんを発見したので、テントまで移動する。振り返ると剱岳の全景が見渡せるじゃないですか！これは素晴らしい〜！テントから剱岳を見ながら酒を飲んで日没を待つ、とか確かに魅力的ですよね。梅さんがテントを片付けている間、ジェットボイルでお湯を沸かし、これまた梅さんのネパール土産のコーヒーを淹れる。剱岳を眺めながらのモーニングコーヒータイム。しばし3人とも無言でコーヒーを啜る。至福のひと時。下山後のビールも最高だが、山の朝のコーヒーもまた格別です！
9時過ぎ、剱沢キャンプ場を撤収して別山乗越へ登り返す。途中、別山へ直登する分岐があり、一瞬の逡巡があるも、時間も時間なので昨日の夕方みんなで決めた通り、寄り道はしないことにしました。
別山乗越からは初日はガスで見えなかった剱沢と剱岳の絶景を拝むことができました。そして反対側、室堂の全景を見渡せる眺望も相変わらず素晴らしい。ここを超えると剱岳はもう見えなくなる。名残惜しい気持ちを残し、雷鳥坂を下って行く。標準コースタイムを若干巻いて、浄土沢に降りてきた。雷鳥沢キャンプ場は日陰が無くて暑いので、手前の川でザックを降ろして休憩に入る。川の水は雪解け水なので猛烈に冷たく、長時間手を浸けていられない。行動食を食べて水分補給をしたら、再び歩き出す。
雷鳥沢キャンプ場を跨ぎ、長い石畳の階段を上がって行くとだいぶ観光客とすれ違うようになってきた。三連休の中日でこの快晴、おそらく室堂ターミナルは物凄いことになってるんじゃないか？予想通り、閻魔台あたりからターミナルが視界に入ってくるが、途中のルート上に黒いブツブツしたシルエットが沢山見える。おー、これ。人だわ！みくりが池まで戻ってくると、石畳の道は人で溢れかえっていた。
人込みを抜けて往きと同じテラスに向かう。ここで公共の交通機関に乗るための身支度と荷物整理。嬉しいのは室堂ターミナルでゴミが棄てられること。ホテルまでゴミを持ち歩かなくてよいのは助かります。各人、個別で軽食を摂ったら(梅さんとHGさんは往きと同じ立ち食いソバ、自分は別のフードコートでカレーを食す)高原バスの列に並ぶ。美女平までバスで移動、そこからケーブルカーで立山へ。立山からは富山地方鉄道で富山駅へ。
なお、予想外に乗り継ぎが良く、立山からは予定の電車の一本前の特急に乗ることが出来ました(追加の特急券だけ窓口で購入する必要あり)。しかも知らずに乗った特急はとってもレアな「アルプスエクスプレス」。車内で更にチケットを買って、立ち飲み屋みたいな作りの車両へ移動。地ビールなど飲みながら、終点の富山までノンビリと過ごす。
富山は駅前のビジネスホテルを予約していたので、ここで一泊して翌朝は9時台の新幹線「かがやき」で帰京。富山の夜は寿司屋に行ったり、地の旨い食い物と酒を楽しみました。
【まとめ】
「北アルプス永遠のツートップ」と謳われる槍ヶ岳と剱岳。どちらも日本きっての峻険な岩峰ですが、この「槍」と「刀」という表現はホント秀逸だと思うのですよ。槍と刀を比べると、槍の方が全長は遥かに長く、下手したら刀の倍くらいある。でも刃のついた危険な部分は槍は先端だけで、刀の刃の方が槍よりも3〜4倍は長い。つまり槍も刀もその姿形が山行そのものを表している。刀の全長よりも長い槍の柄の部分は槍の肩まで。肩から山頂までの「穂先」は槍の正に「穂先」、刃の付いてる危険な部分。比して刀は全長こそ短いが、柄の部分はわずかで危険な刃の部分が全長の殆どを占めている。ちょうど鍔の部分が登山口の剣山荘で、刃先が山頂といった感じかな？アプローチは短いが、刀の刃を往復するのは槍の穂先の何倍も大変で、かつ危険だ。槍ヶ岳と剱岳、両方登頂して真っ先に思った感想がこれ。
今回無事、剱岳に登頂して下山することが出来た。前述の通り剱岳は一般登山に於いて最も登頂が困難とされる山である。では難しかったか？と言われるとそうでもないし、かと言って簡単か？と言われるとそうでもない。個人的感想としては
「しっかりと山の経験を積み、基本を疎かにしなければ、決して登頂が難しい山ではない」
である。
ただ、自分自身、剱岳のような岩山は初めての経験であった。剱に匹敵する難度の低山としては妙義山がよく例に上がるが、決定的に違うのはそのアプローチである。要は核心部とされる難所へ到達するまでに、どれくらい体力を使うか。妙義山は標高が低い分、アプローチは短い。確かに剱も室堂からだとアプローチは短いが、別山尾根ルートの場合、前剱を登らないといけないのが大きな違いかと思う。別山尾根ルートだとやたら「カニのたてばい」と「カニのよこばい」がフォーカスされるが、これは13個ある鎖場、往復だと17箇所通過する鎖場のほんの2つに過ぎない。標高のほとんどは前剱の登攀で稼ぐし、核心部に到達するには、前剱の門から平蔵のコルまで、かなり危険度の高い鎖場が連続する。そうした事前の体力・気力消費を考慮して「カニのたてばい」と「カニのよこばい」の難しさを語るべきかと思う。また、単なる「登山」と「下山」ではなく、山頂から復路は再び平蔵の頭・前剱・一服剱を登り返さないといけない点も考慮しないといけない。
なので登頂は難しくないが無事下山まで、となると一気に難易度が上がるんじゃないかと。今回の剱アタックで一番辛かったのは紛れもなく復路、前剱の下りだった。前述の通り剱岳本峰登頂への標高は、ほとんどが前剱で稼ぐ。前剱の山頂近辺には3番目鎖場と4番目鎖場があるが、むしろ大変なのはこの鎖場まで延々と続くガレ斜面の登高である。鎖を設置するほどの斜度ではないが、手を使わないで登れる斜度でもないガレの急斜面。浮石も多く、落石にも注意しないといけない。落石は落ちてくる石と自分が石を落とさないよう、上にも下にも気を配る必要がある。勿論、転倒したらそのまま岩斜面を転がり落ちて止まらないだろう斜度なので、滑落にも注意を払う。この「様々なことに同時に注意を払う」が地味に精神力を削っていく。剱岳登山は体力面とは別にもう一つ、「精神力」のキャパが試されるのだと実感した。
少し掘り下げてみる。全く岩場の経験が無い人や登攀技術を持たない人が山行中、高度感満点の鎖場やハシゴ場に遭遇したとする。極端な怖がりや高所恐怖症の人を除き、普通はみんな問題無く通過するだろう。感想を聞くとおそらく、
「怖かった」「緊張した」
などと言うんじゃないだろうか。これは自分個人の解釈だが、この「怖い」や「緊張する」というのは精神力を消費する。体力と対比して、以降わかりやすように「気力」と表現するが、この「気力ゲージ」がゼロになると事故を起こす確率が跳ね上がるんだと思う。気力ゲージの量は体力のようにトレーニングで劇的に変動するものではないと思うし、「気力」の総量には個人差がある。なのでトレーニングで体力は総量を増やすが、気力は「技術」と「経験」で消費量を抑えるようにすべきなのだ。岩場経験の無い人は、初めての岩場を歩くだけで神経を使い、集中力を使い、気力ゲージを消費する。岩場に慣れた人は気力ゲージを消費しない。剱岳で事故を起こす人は、おそらく「技術」と「経験」不足により、安全下山の前に気力ゲージを消耗してしまっているのだろう。その最大公約数的ポイントが復路の前剱の門〜一服剱までの区間であり、事故最多発エリアになっているものと推測できる。
また、技術面は体力消費のセーブにも大きく寄与している。今回、先行登山者で鎖を両手で握ってゴボウ登りをしている年配の方がいた。鎖場で絶対にやってはいけない登り方で、不必要に握力を消耗してしまう。すると、本当に握力で鎖を握らないといけない場面で力尽き、滑落してしまう。妙義山は毎年、多数の滑落死者を出し続けているが、統計では下りの鎖場で力尽きて滑落する女性が圧倒的に多いのだそうだ。ここで「じゃあ、握力を、腕力を、鍛えよう」と言うのは根本的な大間違い。腕力を使う登り方自体が間違っているのだから。
長くなったが、ここでフォーカスされるのが「技術」である。分かり易く言えば、鎖場で腕力を使わない登り方ができるか、である。出来る人は意識すらすることなく、サラッと鎖場を通過してしまうが、出来ない人はここで腕力を消費してしまう。気力ゲージが満タンでも、間違った登り方すればそれは即事故につながるのだ。
さて、なんでこんな話をするかと言うと、今回の剱岳アタックでは普段クライミングジムで練習していることが本当に役に立ったからだ。クライミングを始めてかれこれ丸5年経つが、レベルは正直大した事はない。それどころか、5年もやっててこの程度？と確実に思われる恥ずかしいものであると自覚している(どちらもベストエフォートでトップロープなら5.10a、リードなら5.9とか、その程度っす)。そもそも元々の理由が「山で岩稜帯を安全に通過するための練習」であったので、難しい課題にトライするよりは易しい課題をひたすら反復練習するのが是、としているので。具体的には各クライミングジムで最も易しいウォール、だいたい寝ている壁だが、そこの課題を休まず連続で3本とか4本とか登るのだ。ジムの人工壁はだいたい12m。場所によっては8mだったり16mだったりするが、休まずに3〜4本登ると36m〜48mを登ることになる。グレードは5.2〜5.6くらいの間。つまりホールドにカチはなく、全部ガバである。
このシチュエーションそのままが今回剱岳で対面した平蔵の頭への登りと前剱の門への登り、そしてカニのたてばいである。登る距離・斜度・ホールドなど、普段の練習と何ら変わりがない。唯一違うのは剱岳ではビレイヤーが居ないことだが、レベル的には全く不要なので問題ない。どういうことかと言うと、この「慣れ」のおかげで気力ゲージも体力ゲージも消耗を大幅にセーブ出来たのだ。今回、鎖を握って握力を消耗したのはカニのよこばいだけだったし、極度の緊張で気力ゲージを消耗したのもカニのよこばいと前剱の下りだけだったと思う。それでも復路の前剱手前で一気に疲労感に襲われたのは、鎖場の数も多く距離も長く、高度感も大きくて、剱岳そのものが危険個所の塊だから、と思う。そしていくら岩場に慣れていても、最初から最後まで全て岩しかない山が初めての経験だったのも大きい。室堂からのアプローチも含め今回、土を全く踏みませんでしたからね。
そして最後にもう一つ。9/8(日)に行方不明になった横浜市磯子区の19歳の女性会社員が、我々が北アルプス入りする前日の9/12(木)に前剱と一服剱の間で遺体で発見された。行方不明段階から彼女のお兄さんがTwitterでずっと捜索・情報収集をしていたのを見ていたし、自分と同じ横浜市民だったのでずっと気にしていたのだ。結論から言うと彼女は、「山でやってはいけないこと」の見本市状態で結果、150mも滑落して亡くなってしまった。ネットでは山を全くやらない人、やっていても「剱岳」を知らない人・登ったことがない人の誹謗中傷が散見された。当然、小屋でも登山客はこの話題で持ち切りだったし、自分らも前剱の往復では「どこで滑落したんだろう」と考えながら登り降りしていた。自分は登山には「体力」「技術」「知識」「経験」「装備」の5要素が重要かと思っている。剱岳登山に於いて、体力はあって当然、あと絶対的に必要なのは「技術」と「経験」であると確信するようになった。
さて、段々自分でも何書いているのかわからなくなってきたので、そろそろ筆をおきます。今回10年に一度の奇跡的連日晴天だそうなので、美しい思い出を汚したくないので多分、剱岳にはもう行かないかな。ただ、立山三山縦走は課題として残っているので、室堂の観光も兼ね、晴天が見込めればこのエリアに再訪はしたいと思っております。
■写真解説
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