岡津製塩遺跡
「塩」は、食塩以外に祭祀、馬飼い、鍛冶などの生産遺跡で使用されたを痕跡を残す。
日本列島では岩塩を算出しないことから、海水から塩を獲得するのが唯一の方法であった。
(世界では海以外で採取される岩塩が2/3を占める)
しかしながら、列島は全土的に湿潤な気候であることから、天日で海水を結晶差せしめる事は容易ではなかった。
そこで塩づくりの専用土器を用いて、海水を煮沸する「煎熬(せんごう)」の行程を経て塩を獲得したのである。
ところが、海水の塩分濃度が３%しかないことから、燃料の能率化を図るためには６%まで濃縮する「採鹹(さいかん)」の行程を必要とした。
最後に潮解するのを防いで保存可能な塩を得るために、「焼き塩」に処理する行程が加わる。
さて、小浜湾の奥まったところに岡津製塩遺跡は所在し、青戸の入り江に面し万葉集の歌枕にも読まれている若狭富士と称される青葉山が真正面に写し出される風光明媚な所にある。
若狭湾沿岸には、７８箇所以上の土器製塩遺跡が確認されており(１９９４年現在)、古墳時代から平安時代まで土器製塩が盛行していたことがわかっている。
岡津製塩遺跡は、１９７８(昭和５３)年から二次、三次、２年間にわたって調査が実施され、第一次調査では、焼土面、海岸部遺構、製塩炉が検出されている。
製塩炉は９面確認されおり、すべてが敷石炉であるが、１〜４号炉と５〜９号炉に大別することができる。
1〜4号炉浜穪(ね)��B式製塩土器に対応する製塩炉で、5〜9号炉は、船岡式製塩土器に対応する製塩炉である。
さらに現海岸線より約２０m奥に海岸部遺構(護岸)、その東に南北約３０m、東西約１０mの性格不明の焼土面が検出されていて、古代の土器製塩工場跡の全容を示す遺跡といえる。
若狭地方のなかでも本遺跡はきわめて保存の良好なものとして、香川県の喜兵衛島遺跡と共に国の史跡に指定された。(指定範囲４９８１��)
備讃瀬戸で弥生時代中期に成立した台脚をともなう製塩土器が大阪湾岸を経て若狭にもたされ、次に備讃瀬戸や大阪湾沿岸で薄い器壁小型丸底土器が使われ始めると、それが若狭にも波及したとみられる。
この土器は都への納税輸送用としても使用され、奈良・西大寺からは３３７kgもの大量な製塩土器が出土している。
若狭は飛鳥・奈良の時代には、豊富な海産物や塩を天皇家に納めた「御食国」(みけつのくに)といわれ、塩は税の租・庸・調のうち、各地の特産物を税として納める調として都に送られ、平城京出土の塩の木簡(荷札)は、若狭国からのものが圧倒的多数を占めている。
「日本書紀」には敦賀産の塩だけが天皇家の食事に用いられたとあるが、
これについては、5世紀末の雄略朝から武烈朝時の「大臣」の平群(へぐり)の真(ま)鳥(とり)が大伴金村により焼き殺された際、広く塩を指して呪ったが角鹿(敦賀市)の塩だけ呪い忘れた為、以後角鹿の塩だけが天皇の塩となったと記されている。
尚，調税は成人男子に課せられたものであるが、土器は女性が作ることが多かったと言い、若狭の東部、三方町食見の近世の里謡に、「嫁にやるまい海辺の村へ、夏は塩垂れ、冬は芋の根を叩く」と歌われていて、土器製造の労苦や、重税にあえぐ古代人の姿が思われる。
参考資料
若狭と越の古墳時代 入江文敏・糸阿雅文 編
若狭製塩遺跡の検討 古代を考える会 編
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