国技である以上にスポーツであってくれ

本日、横綱稀勢の里が引退を発表されました。
そんな日に書くべきことかとも思いましたが、私の中にある稀勢の里引退や昇進に関しての違和感を正直に綴りたいと思います。

2年前、稀勢の里の横綱昇進が決まった頃から私は彼がやたらと「日本人横綱」と喧伝されていることに、何とも言葉では言い表せない気持ち悪さを覚えていました。
日本人だろうと何人だろうと、横綱とはその成績が認められてなるもののはずです。
稀勢の里誕生までの間角界を支えていたのは白鵬や朝青龍などモンゴルなど出身の横綱でした。
稀勢の里をやたらと持ち上げることが、私には彼らを無視するかのような行いに思えたのでした。

別に日本人横綱が必要無いとは言いません。
ですが殊更に日本人であることを喧伝する必要などなかったと、私は今でも思っています。

稀勢の里の昇進が、私にはネトウヨ−−ネット右翼や人種差別団体の在特会(日本第一党)、そして本屋でいやでも目にしてしまう数多のヘイト本などに代表される昨今の日本に見られる歪んだ愛国心を思わせてならなかったのです。

たかだか一場所での優勝だけで横綱に昇進させないでもっと腕を磨かせてからでもよかったはずです。
にも関わらず昇進を急いだのは、「国技」である相撲で外国人横綱が活躍することへの拒否感があった恐れがあります。
"ネトウヨのみなさんはこのことが話題になるや、さっそく〈稀勢の里関は『カエルの楽園』を読まれて支那国と本気で戦う勇気を与えられたと思います。その結果稀勢の里関のパワーアップに繋がったのでは〉〈『カエルの楽園』を読んだ稀勢の里は、対戦相手をみんなデイブレイク（引用者註：つまり朝日新聞のこと）だと思って突進したんだと思う〉などと、無茶苦茶な解釈をして、稀勢の里を自分たちのヘイト思想、歴史修正主義の体現者にまつりあげはじめた。"
"日本の相撲界にあって、外国人力士は品格のない悪役であり、それに対抗できるたったひとりの日本出身力士として稀勢の里が登場した。そういうナショナリズムの物語に大衆は熱狂している。そして、横綱審議委員会もその熱狂に引っ張られ、大甘な裁定で、今回、稀勢の里の横綱昇進を決めた。"
LITERA:2017年1月26日『「稀勢の里に『カエルの楽園』が力を与えた」百田尚樹の自慢は本当か？ 新横綱はネトウヨの広告塔に』より一部引用
https://lite-ra.com/i/2017/01/post-2877-entry_3.html

正直に言いますと、相撲協会が引用した記事内のようなことを考えているなどとは夢にも思いたくはありません(これはネット右翼のような思想の持ち主を私が嫌っているのもあります)が、似た様なことは頭の中にあった恐れがあります。
そうでなければ、たかだか一場所の成績だけで飛び級紛いの真似などしないと思います。

稀勢の里の昇進が愛国心に基づいているかの真偽は知れません。
ですが、稀勢の里がけがをした後にそれも完治しないままに出場したのは、性急に与えられた日本人横綱という地位の重責からだと思います。
それが稀勢の里に無理をさせて、横綱として初となる大相撲春場所で負ったけがを完璧に治すこともできず悪化してしまい、昨日までの不調に繋がってしまったのではないでしょうか。

そもそも、先に述べたことの繰り返しになりますが稀勢の里はより実力を付けさせた上で横綱に昇進させるべきでした。
稀勢の里の不調はけがのみならず、稀勢の里自身の実力不足もあった恐れもあります。
この先有望な力士が現れたならば、性急に横綱の地位を与えずじっくりと実力を付けさせるべきです。
何処の生まれであるかに関わらず。

また、けがを押しての出場や性急な昇進を顧みずにいたずらに進退を問うマスコミの姿勢には違和感と怒りを私は禁じ得ません。
そして、その元凶と言えるであろう相撲協会に対してはなおさらです。

私は普段から全く相撲を見ない人間です。
ですが、横綱とはその力士の強さの研鑽の結果として与えられるべき栄光だと思っています。
稀勢の里は、その理由はさておいて「日本人横綱」という栄光を押し付けられ、そのために押し潰されてしまったように思えてなりません。
横綱個々人の力量差や立ち居振舞いからの評価はあるでしょう。ですが、どこの国で生まれたかなどで優劣は付きませんし、過度に生まれで持ち上げたり非難したりしては絶対にいけないはずです。

最後になりますが、もう10年も前、私の生まれ住む新潟出身の力士がかわいがりという名の暴行で命を落としたという傷ましい過去がありました。
稀勢の里の場合は力士生命の死ですが、若者の前途を奪ったという点ではこれと変わらなく思えます。
私はこれからの相撲は国技であること以上に、力士−−アスリートを大事にするスポーツであってほしいと思うのです。