たろうおじいちゃんは、急に音が「バァ〜ン！」と出たので、ビックリしていた。
「お〜、久しぶりやねぇ、この音なつかしいわぁ。急にでかい音がするから、あぶなく漏らしそうになっちゃったよ。覚えているかどうかわからないけど、なんか弾いてみようかなぁ」
エレピの音を聴いて身体の奥がムズムズしだした「けんちゃん」が、自分で車イスを動かしてやってきた。
「なになに！どうしたの？」
さっきまでボォーッとしていたのに、今は目がキラキラしている。
けんちゃんは、若いころはやせてキリッとしていたのだが、50才ぐらいから止めどもなく肥りだした。
最近は、体重オーバーのせいか圧迫骨折したり、ステージでジャンプしたとたんに転んで、大腿部骨折となり、車イスが手放せなくなってしまった。
「ホンマに情けない話です」
「あぁ、けんちゃん、ちょうどいいところへ来たね。このあいだ、TVでポール・マッカートニーのライブを見て、おれ、ちょっと燃えちゃったのよ。一曲いっしょに歌ってくれる？」
いつの間にか修三ちゃんも、そばに来ていたので、アニキはジャズベーを渡した。
そして、もちろん、ベース・アンプのスイッチも、さりげなくONにしてあげた。
オーナーのひろちゃんは、ドラム・セットに座り、嬉々とした顔をほころばせ、スタートを待っている。
ひろちゃんは、若いころ、ナベサダとジャズ・コンボを組んでいたこともあるのだ。
「じゃあいくよ〜、ワン・トゥ・スリー・フォー」
誰もが聞き覚えのあるメロディーが流れてきた。
いつもはギターのイントロだが、きょうはエレピで、また違った良さがあった。
「あおい〜とりを〜みつけ〜たあよ〜♪」
おじいちゃんたちだけど、とてもきれいなハーモニーだ。
サビの途中で演奏が止まりそうになった。
「あ〜おい〜と〜り・・・ウウッ・・・」
たろうちゃんが、感極まって歌えなくなっている。
しかし、そこはかつての仲間、すぐに、けんちゃんがフォローして歌い「青い鳥」はエンディングまでいくことができた。
会場は暖かい拍手につつまれていた。
ひろちゃんは、こういう時のために楽器をスタンバイしておいて、良かったなと思った。
なお、この日の演奏は、ぐーちゃんがしっかりと、C−60のカセットテープに録音したと言っていたが、大丈夫だったんだろうか？
ぐーちゃんだけに、とても心配だ。
「あ〜、これで夏も終わりだなぁ。『夏の〜終わり〜が、き〜た〜ころ〜に、知らないく〜に〜へ、戦争にいった〜』ってか？アルファードの『帰らぬ少年』が、ぴったりだな。なにがあろうと、戦争は絶対にやっちゃあいけないよ。ねぇ、たろうおじいちゃん？」
ぐーちゃんの横で、たろうちゃんの目がたれたれになっていた。
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