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2018年05月26日09:42

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米朝会談中止は中韓が北に幻想を抱かせたのも一因、元駐韓大使が解説

 下記は、2018.5.26 付の ダイヤモンド・オンライン に寄稿した、武藤正敏 氏の記事です。

                        記

会談中止に関する書簡は北朝鮮に対する強いメッセージ

 米国のトランプ大統領は5月24日、6月12日に予定されていた米朝首脳会談の中止を告げる金正恩朝鮮労働党委員長宛ての書簡を公表した。その中でトランプ大統領は、北朝鮮が示した最近の「怒りとあからさまな敵意」を理由に、首脳会談を「この時期に開催するのは適切ではない」としている。

 米国のホワイトハウス当局者は、トランプ大統領の書簡発出の直接的な契機になったのは、5月24日に公表された北朝鮮の崔善姫外務次官の談話だったと述べている。ペンス副大統領が米国のテレビ番組で、北朝鮮に対する軍事的対応を排除しない姿勢を示し、「リビアのように終わる」と発言したことを非難する談話だ。

 ペンス副大統領はそれまでにも、「北朝鮮は守るつもりのない約束をめぐって米国から譲歩を引き出そうとすべきではない」「トランプ大統領を手玉にとれると思ったら大間違いだ」と語っており、会談を取りやめる可能性はあるのかとの質問に「疑いを挟む余地はない」と答えていた。

 これに対して崔次官は談話の中で、「政治的に愚鈍な間抜けであることは察するに余りある」などとの認識を示した上で、「われわれはリビアの轍を踏まないために高い代価を払った」と述べ、最高指導者が殺害されたリビアと、「核保有国」となった北朝鮮との違いを強調、「米国がわれわれと協議の席につくことを望まないのならば、対話を懇願することも、説得を試みることもしない」とした。

 トランプ大統領は、5月22日に開かれた韓国の文在寅大統領との首脳会談の席上、米朝首脳会談が延期される可能性に言及、週末に予定されていたヘイギン大統領次席補佐官と北朝鮮側との実務会談の結果を見る構えだった。だが、崔次官が北朝鮮は「核保有国」であるとする発言などを受け、態度を硬化させたのだろう。

 ただ、トランプ大統領は同じ書簡の中で、金正恩委員長に対し、「いつかあなたと対面できることを期待している」「もし首脳会談について考えが変われば、いつでも連絡してほしい」とも語るなど、「米国としては対話の窓口を完全に閉ざすつもりはない」との意思も示している。

 北朝鮮にしても、「核ミサイルを保有しても、体制を存続させられないかもしれない」という厳しい現実を理解しており、もしここで対話をやめてしまえば、米国による軍事攻撃の危険性が高まり、経済的にもますます窮地に陥ってしまうことについて分かっているはずだ。

 それが強硬姿勢に転じたのは、対話の窓口となってきた韓国や中国から、「体制保証を得つつ、段階的な非核化で乗り切れる」との感触を得てきたものが、崩れてしまったからだ。より強い態度を示すことで、一層の譲歩を引き出そうとする瀬戸際作戦だったのだろう。

 しかしトランプ大統領は、北朝鮮とのこれまでの交渉の失敗を繰り返さないと述べている。今回の米国の米朝首脳会談中止の書簡は、北朝鮮に態度の再考を促す強いメッセージととっていいのではないか。そういう意味で今回の書簡は、首脳会談の「決裂」というよりは、「延期」と取ることもできる。

 とはいえ、これは単なる条件交渉ではない。北朝鮮が真摯に向き合わなければ、今度こそ軍事攻撃の危険が高まってくるかもしれない。

非核化をめぐっては根本的に大きな違いがあった

 そもそも、非核化に関する米国と北朝鮮の考え方には、根本的に大きな開きがあった。米国の考えは、「先に核放棄、後に体制保証、経済支援」で、トランプ政権は「完全かつ検証可能、不可逆的な非核化」を短期間で実現することを想定していた。

 そのため、首脳会談の準備のため訪朝したポンぺオ国務長官は、5月9日の金正恩委員長との会談で、核弾頭やICBMを半年以内に国外搬出するよう要求しつつ、応じれば「テロ国家支援」指定を解除する可能性を伝達したといわれる。

 また、複数の米政府関係者によると、米朝首脳会談で北朝鮮が「完全かつ検証可能で不可逆的」な非核化に応じれば、その見返りとして、金正恩政権の体制を保証する方針を両首脳の合意文書に盛り込む方向で調整していたという。

 これに対し北朝鮮は、見返りを得ながら段階的に非核化を進めることを念頭に置いていた。北朝鮮が繰り広げる瀬戸際作戦は、譲歩は小出しにし、時に緊張を高め、時に事態打開の期待を高めて国際社会からの経済支援を獲得してきた。また、思い通りに行かないときには、交渉のゴールさえ移動させてきた。

 今回の非核化の議論においても、そうした瀬戸際作戦で行けば、自身のペースで交渉できると考えていたのだろう。事実、今月上旬にもシンガポールで実務者級協議を設定したにもかかわらず北朝鮮の代表団が姿を見せず、ホワイトハウス内部で北朝鮮への不信感が広がっていた。

 高麗大学の南成旭教授は、北朝鮮は「今でも最終的には核を維持し、核保有国の地位を誇示する考え」であると分析する。であるならば、北朝鮮にとって非核化が実現するまで経済協力が“お預け”というのではメリットを感じない。しかし米国としても、これまで5回に渡って北朝鮮が非核化の約束を反故にしてきてこともあり、段階的な非核化は呑めるものではなかった。

 米朝両国は当初こそ対話ムードだったが、変化が生じたのは5月16日未明、北朝鮮が「南北高官協議を無期延期とする」と韓国側に通知してきたときからだ。これはボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が、北朝鮮の非核化を「リビア方式」で行うべきとする発言に過剰に反応した形だ。リビアのカダフィ政権が崩壊したのと同じ運命を連想したに違いない。

 これに対しトランプ大統領は5月17日、北朝鮮の懸念に答える形で、「彼は国にいて、国を支配し、国は豊かになる」「カダフィとは体制保証に関する合意がなかった。(北朝鮮の非核化は)リビア方式とは全く異なる」として、非核化を実現すれば金正恩体制は保証されると一定の歩み寄りの姿勢を示していた。

 ところが北朝鮮は、米韓軍の戦闘機100機以上が韓国周辺で行っている定例の合同軍事演習「マックスサンダー」を理由に、南北高官協議を無期延期すると韓国側に通知してきた。それ以降、金桂官第一外務次官が朝鮮中央通信を通じ、「(米政権が)われわれを隅に追い込んで、一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、朝米会談に応じるか再考するしかない」と論じるなど、北朝鮮側が強硬姿勢を強めたのだ。

及び腰だった韓国の交渉姿勢が完全非核化に逆効果

 北朝鮮との交渉の窓口を韓国と中国が担ったことも、今回、会談が中止になった大きな要因だ。韓国や中国が前面に立って交渉したことで、北朝鮮は、「完全かつ検証可能で不可逆的」な非核化ではなく、「朝鮮半島の非核化」「段階的非核化」によって、米国に自国の体制を保証させ、合わせて見返りとして経済制裁の緩和、経済援助を獲得できると誤解させてしまったからだ。

 まず、韓国は、南北首脳会談の結果をまとめた板門店宣言において、「完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する共同目標を確認」するとの表現にとどめてしまった。しかも、会談時間はわずか1時間40分のみ、非核化の期限や手法、査察や核物質や核技術者の扱いといった具体的な問題には一切触れずじまいだった。

 それより前のオリンピック参加問題をめぐる南北閣僚協議においても、韓国が提起した非核化の問題に北朝鮮が反発すると、韓国はそれ以上踏み込まなかった。金正恩委員長の特使として、妹の金与正氏が派遣された際には、文在寅大統領は非核化の問題さえ提起しなかった。

 そして、文在寅大統領の特使が北朝鮮を訪問したときにも、特使団は金正恩委員長の発言をほぼ一方的に聞いたことを「合意」と称し、南北首脳会談を決めてしまった。加えて、特使団は「北朝鮮には非核化の意思がある」とトランプ氏に伝え、「米国が米朝首脳会談に応じる」との言質を取りつけてしまったのだ。

 こうしたボタンの掛け違えによって南北の交渉が進んだため、北朝鮮から「完全かつ検証可能で不可逆的」な非核化という言葉が出るはずはなく、韓国の行動は極めて逆効果だったといえる。

米国主導で進むことを懸念代弁者になってしまった中国

 さらに中国である。金正恩委員長は国の最高指導者に就任して以来、一度も中国を訪問せず、中国の意向を無視して核ミサイル開発を加速化してきた。しかし、米朝首脳会談の開催が決まるや、意を決して2度にわたって中国を訪問、習近平国家主席と会談した。

 そこで北朝鮮が主張したのは、「朝鮮半島の非核化」「段階的非核化」であり、見返りとして「北朝鮮の体制保証」を求めるというものだ。そして、米朝首脳会談が決裂した場合に備えて、中国が「後ろ盾」となり6者協議を主催すること、そして実務者協議で厳しい姿勢を貫く米国との「仲介者」になることを取りつけたのだ。

 中国が、北朝鮮の非核化を実現させたいのであれば、「米国がこれでは納得しないであろう、より踏み込んだ具体的な非核化が不可欠である」と主張すべきだった。しかし中国は、朝鮮半島の問題について米国主導で進められることを懸念し、北朝鮮の「代弁者」を買って出てしまったのだ。

 こうした中国の姿勢に対しトランプ大統領は、中国の習近平国家主席が北朝鮮の金正恩氏に「影響を及ぼしている可能性がある」と不満をあらわにしている。

日本の出番は必ずくる拉致解決に有利な時期を見計らえ

 北朝鮮との非核化をめぐる交渉は、これを契機に軌道修正し、仕切り直しする必要がある。

 5月24日、北朝鮮が米国など5ヵ国の記者団を招いた上で、豊渓里の核実験施設を爆破、廃棄したのを受けて、「北朝鮮が非核化を進める第一歩」との見方がある。しかし、坑道の廃棄にIAEAを受け入れなかったのは、これまでの核実験を精査されたくなかったからではないかと思われる。

 これは、非核化への真摯な姿勢というより、証拠隠滅と捉える方が正しいかもしれない。つまり、北朝鮮はいまだ核を隠し持とうとしていると見ることができるのだ。

 そうした前提に立って、北朝鮮を非核化させるために有効なのは、やはり圧力以外にない。北朝鮮は切羽詰まった時に初めて態度を軟化させる。中国や韓国が北朝鮮に対する圧力を弱めれば、北朝鮮は再度、核ミサイル開発に乗り出す機会をうかがうだろう。そういう意味では今後、中国や韓国に対しても厳しい姿勢で臨むことを求めることが肝要だ。

 同時に、朝鮮半島における軍事的緊張が高まらないよう、北朝鮮に体制存続が期待できると思わせる「対話の窓口」は常に開いておく必要がある。

 一方で日本は、北朝鮮との交渉で置いてきぼりになったと考える必要はない。北朝鮮は日本との国交正常化、戦後処理に伴う経済支援を期待しており、日本の出番は必ずくる。拉致問題を解決するのに最も有利な時期を見計らって出ていけばいいのだ。

 5月25日午前、北朝鮮の金桂官第1外務次官は、「我々はいつでも向かい合って問題を解決する用意がある」との談話を発表した。トランプ氏の書簡について「突然の会談中止の発表は予想外で非常に遺憾だ」と強調。「金正恩委員長は会談の準備にあらゆる努力を傾けてきた」と指摘し、「大胆で開かれた心で米国に時間と機会を与える用意がある」と訴えた。その上で、敵対関係を改善するためにも「首脳会談が切実に必要」との認識を示した。

 米国に対する強硬姿勢を和らげているのは、米国の反発に当惑していることの表れであり、北朝鮮の変化の前触れであると期待する。

 北朝鮮との交渉は、ぎりぎりのせめぎあいである。こちらも覚悟を決めて果敢に交渉していく以外にない。一喜一憂するのではなく、北朝鮮の真意を見抜いていく必要がある。北朝鮮との本当の交渉は、これから始まると考えていいのではないか。

(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)

 https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%e7%b1%b3%e6%9c%9d%e4%bc%9a%e8%ab%87%e4%b8%ad%e6%ad%a2%e3%81%af%e4%b8%ad%e9%9f%93%e3%81%8c%e5%8c%97%e3%81%ab%e5%b9%bb%e6%83%b3%e3%82%92%e6%8a%b1%e3%81%8b%e3%81%9b%e3%81%9f%e3%81%ae%e3%82%82%e4%b8%80%e5%9b%a0%e3%80%81%e5%85%83%e9%a7%90%e9%9f%93%e5%a4%a7%e4%bd%bf%e3%81%8c%e8%a7%a3%e8%aa%ac/ar-AAxO8Nh#page=2
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