下記は、2018.4.1 付の産経ニュース【書評】です。
記
誰もが疑問を抱くのは、北朝鮮が「最強の経済制裁」を幾度も受けながら、強力な核兵器やアメリカ本土まで届く長距離弾道ミサイルの開発をなぜできたか、である。国連安保理で北朝鮮への最初の制裁決議は2006年。17年までに9回も制裁決議がなされたにもかかわらず。
結論を先に述べよう。経済制裁は抜け穴だらけなのだ。パナマ当局が北朝鮮の貨物船を麻薬運搬容疑で捜索したところ、砂糖袋の下にミサイル兵器とみられる積み荷を発見し拿捕(だほ)したニュースは13年である。これはむしろ素朴な事件で、実際に運搬されるのは汎用(はんよう)品と変わらぬ工作機械や電子部品なのだ。船も北朝鮮船籍とは限らない。
国連安保理の制裁決議はどう履行されているのか。国連事務総長から任命され制裁違反を捜査する7人の専門家で構成される「専門家パネル」が重大な役割を担っており、著者はその任務を4年半の長期にわたり務めた。本書の優れた点は、著者自身の孤軍奮闘の活躍とその限界もまたきっちりと記されているところだ。何が壁か。7人の中にはロシアや中国など非協力的な委員がいるだけでなく、日本政府が本気ではないからだ。
貨物検査で国連の捜査チームを迎える国は、例えば「国連VSオールフランス」「国連VSオール韓国」で対応、その場での質問に迅速に答えられるようになっている。事前の省庁間協議で国連にどこまでの情報を提供するか、答えられないことには、はっきり「ノー」を言う。ところが日本との会合は「オールジャパン」ではないのだ。省庁ごとに説明内容が食い違い「それは××省の所管でして」と当事者性がなく責任感もない。
安倍政権が内閣人事局をつくったのは霞が関の縦割りの弊害を無くすためであったはずだが、官僚に忖度(そんたく)を強いるばかりで、北朝鮮に対する経済制裁について実務的な成果を挙げているとは言い難い。
一例を挙げれば外為法の規制品リストと貨物検査法のリストは役所が違うため異なっている。官邸は、著者の悲痛な叫びに真剣に耳を傾ける気持ちがあるのだろうか。(新潮社・1700円+税)
評・猪瀬直樹(作家)
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http://www.sankei.com/life/news/180401/lif1804010017-n1.html
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