昔々、アイルランドに
裕福な商人が住んでいました。あるとき彼は仕事で長い旅に出ることになりました。
主人が留守のあいだも召し使いたちは普段どおりに仕事をしていましたが、彼らをおびえさせる
ことが起こりました。
みんなが
寝静まったあと、ドア
がバタン
と閉まる音やお皿がガチャガチャいう音が調理場のほうから聞こえてくるのです。
ある夜、召し使いたちは遅くまで寝ないで、この不思議な物音は
幽霊の仕業ではないかと話しこんでいました。
下働きの
少年は、その話を聞きながら、調理場のぬくもりの残るかまどの上で、うとうとと眠り込んでしまいました。
召し使いたちがみな
寝にいってしまい、かまども冷えてきた頃でした。とつぜん調理場のドア
が開き、
←〔ロバ役〕ロバに似たプーカと呼ばれる妖精が入ってきました。
少年は驚きと恐怖で青ざめながら言いました。「僕を食べないで!」
プーカは少年をちらっと見ましたが、何ごともなかったかのように大鍋に
水を満たし、かまどの火で
お湯を沸かし始めました。
そして少年をつかんで、彼の目を
じっと見つめてから、かまどの下に降ろしました。
お湯が沸くと、さっそくプーカはお皿や調理道具
をぜんぶ
洗って、棚の決まった場所にしまい、床を磨き
ました。
そして、少年の横に座って片耳をぴんと立て、にっと笑い、かまどの
火を消して去っていきました。
少年はあっけに取られ、一体何があったのか理解できずに、ただそこにひとり残されていました。
次の朝、少年が仲間にプーカのことを話すと、ひとりの
怠け者が言いました。
「そりゃいいや。片づけは
プーカがやってくれるのなら、おれたちは働かなくてもいいってことだよな」
すると別の召し使いが言いました。
「あんた、頭がいいね
」こうしてその日、召し使いたちは調理場を汚れたままにしておきました。
つづくモンミ
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