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2016年12月23日06:27

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老人と『月に吠える』

 『月に吠える』は萩原朔太郎(1886—1942)の第一歌集。大正6年(1917)、感情詩社・白日社出版部共刊で、56編を収録。朔太郎は、この詩集で自らの心象風景を口語で鋭く歌い上げた。鋭利で繊細な感覚で異常なイメージを表現する文体は現代詩の夜明けとなった。

ありあけ

ながい疾患のいたみから、
その顔はくもの巣だらけとなり、
腰からしたは影のやうに消えてしまひ、
腰からうへには藪が生え、
手が腐れ

身体いちめんがじつにめちやくちやなり、
ああ、けふも月が出で、
有明の月が空に出で、
そのぼんぼりのやうなうすらあかりで、
畸形の白犬が吠えてゐる。
しののめちかく、
さみしい道路の方で吠える犬だよ。

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長く生きた老人には、「月に吠える」と聞けば、青春の淡く、脆く、やくざな追憶。
吠える若者など過ぎ去った遺物と片付けてしまうのが老人の癖。
老人は若い頃口遊んだ詩を懐かしく思い起こすだけではない。
そんな「青春している」老人は嘘っぽく、老人自身はもっと屈折しており、それが長く生き延びた老人の錆や滓なのかも知れない。
月に吠えるもよし、吠えなくてもよし、そう呟くのが普通の老人。

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