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2016年10月10日19:02

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国芳ヒーローズ

太田記念美術館で開催中の“国芳ヒーローズ”に行きました。

今回の目玉は、水滸伝豪傑揃が見られます！だったのですが、前期に行けなかった為、仕方ないので図録を買いました。前期の展示は図録で観ます。でもなぁ～。印刷だと、細かい彫りの部分や、空摺りの美しさは分からないんだよなぁ。仕方ないケド。

この美術展。凄いのが所蔵先がほぼ、個人蔵なところ。個人蔵をこれだけ集めるの大変だぞ。個人蔵をここまで集めるの大変だから、もう、暫くはやれないかも知れない(^_^;)。

この展示。サブタイトルをつけるとすると、「やりすぎ！国芳さん！」　国芳さん、諸々やり過ぎです。筋肉もりもり、彫物もりもり、ポーズもド派手で、目がチカチカする（苦笑）。でも、イマイチぱっとしなかった国芳を一躍売れっ子絵師にしたのは、これなんだよなぁ。国芳は、そもそも12歳で描いた鍾馗の絵を、初代の豊国が賞賛しているので、元々絵の上手い人ではあったのだろう・・と思う。因みに、国芳さんは、生家が紺屋ね。

まず、水滸伝とは何か？と言えば。明代に書かれた伝奇小説。北宋末期を舞台に108人のアウトローがそれぞれの運命を辿りながら梁山泊へと終結し、戦い散って行くお話。今で言うピカレスクロマンみたいな物かな。悪党小説ね。

絵師は、全て歌川国芳ね。

まず、私のお気に入り、『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　智多星呉用』　空に北斗七星。呉用は右手の指を折り、七星を数えている。足元には渾天儀と測量計のような物がある。ふふんという表情の呉用。緑の床と藍色の衣の対比も美しい。呉用は、梁山泊の軍師。略奪の策をめぐらすリーダーの１人。

『通俗水滸伝豪傑百八人一個　神機軍師朱武』　花柄のやたら派手なマントを着て、刀と壺を掲げ、野原に素足で立っているロン毛の朱武。左上には赤鬼がいる。朱武は元は少華山の山賊のドン。計略を得意とし、鬼を使役する。でも、ここの朱武は何故か寄り目。ジャンプの漫画の斉木楠雄のように、術（超能力）を発動すると、こういう顔になっちゃうんだろうか？

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　九紋龍史進』　瓦罐寺を乗っ取り荒廃させた２人の悪党を史進と魯智深が寺近くの石橋で討つ場面。前面に仁王像の首に腰を下ろし、敵を左手でむんずと捕まえる史進。史進は右手に刀を持ち、キッと睨む。敵は苦しそうにもがいている。後ろに錫杖を手に敵を追う魯智深が小さく描かれている。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　菜團子張青』　張青が山の頂から山下を見ている。右手には棒を持ち背中に孫悟空の彫物がしてある。着物の柄も派手派手。山には滝も見える。張青は入山者の応対や情報収集を行った人物。だから、このポージングなのか。入山者を見ているんだね。因みに、原作に彫物の記述はないので、彫物は国芳の創作。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　活閻羅阮小七』　阮兄弟が各々舟に乗り敵をおびき寄せ、降り注ぐ矢を豹の皮で防いでいる場面。舟の上で阮小七が足を踏ん張り豹の皮を持っている。周りには沢山の矢。川の流れの速さも分かる。ふんっ！って感じの阮小七の顔が、いかにも豪傑。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　黒施鳳李逵一名李鉄牛』　李逵が廟の扉を斧で叩き開ける場面。斧を振り上げ左に体重をかけ（左足は建物の梁（かな？）の上）、今まさに壊そうとしてるところ。柱の彫物細工が派手派手で、目黒雅叙園かよ！と思う（笑）。李逵の褐色の肌も恰好良い。しかし、この李逵って奴は、暴れてばっかだよなっ！

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　病尉運孫立』　孫立が冤罪を仕組んだ毛家に討ち入った場面。刀を男の首にあて、左手で男の首を押さえつけている。男は驚き戦く様子。孫立の服の青い牡丹の花（よね？）が美しい。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　鉄笛仙馬麟』　馬麟が巨大な狒狒を踏み倒し、鹿を頭上に掲げ上げている。力強さが物凄い。原話には、こんな描写はないらしく、この場面は、国芳の創作らしい。馬麟は、狒狒を睨んでいる。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　金毛犬段景住』　道で手を広げ足を上げ、追いかける姿の段景住。段景住は、金国の王子の名馬を盗み出すも、曾頭市の曾家の息子に奪われてしまう。後ろに馬を奪って行く曾家の人々の姿。彼は、これを追いかけているのだろう。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　母夜叉孫二娘／醜郡馬宣賛』　左に騎馬の武将を引きずり下ろし襲う孫二娘。右に敵将を絡めとろうとする宣賛。孫二娘は、右手にロープを持ち、敵の首を押さえ、今まさに捕らえようとしているところ。でも、こんな場面は原話にはないらしい。なので、これも、国芳の創作。結構このパターン多いな。孫二娘は、雪の中争っているので、雪が散らかり、その描写が面白い。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　双虎蜴解宝　独角龍雛潤』　雛潤は灯籠売りの姿。解宝は猟師の姿になり、２人は顔を寄せ耳打ちしている。彼らは囚われた盧俊義と石秀を救いに来たのだ。雛潤は竿に灯籠を吊るしている。こんな風に灯籠って売ってたんだね。解宝は猿や兎を竿に刺している。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　没羽籠張清／大刀関勝』　張清は馬に乗り右の関勝を睨んでいる。馬には躍動感がある。関勝は足を踏ん張り槍の柄で石つぶてをはじいている。関勝の甲冑の前垂れ。角の生えた虎がバンザイしてるような動物（魔物？）の絵が描かれているんだケド、この動物は何？カン？（だっけ？中国の想像上の生き物）　因みに、張清は石投げの名人なのだな。なので、それに関勝は対抗しているのだ。

『通俗水滸伝豪傑百八人之一個　混世魔王樊瑞』　敵将の妖術に苦戦していた宋江軍が樊瑞の術で対抗する場面。上空には魔物の姿が見える。魔物自体はユーモラスで、あまり怖くはない。ゆるキャラっぽいし。下では、槍を構え、ニヤリ顔の樊瑞。

ここまでは通俗水滸伝豪傑百八人之一個　○○というシリーズ。これがヒットしたので、様々な関連作品が生まれた。今も似たような現象ってありますよね。ヒットアニメから、２次創作のアンソロが生まれたりね。それだな。

『通俗水滸伝豪傑百八人之内　立地太歳阮小二』　これは、中判の錦絵。前述の通俗水滸伝は、大判です。先ほどの阮小七と同じように舟に乗って矢を受けつつも躱している姿。こちらは、大判の通俗水滸伝のようなやり過ぎ感もなく、おとなしい感じで、私はどちらかと言うと、こちらの方が好みだった。

『通俗水滸伝豪傑百八人之内　行者武松』　武松の人食い虎退治。でも、これは虎が出て来る前を描いている。狂風が起こり、刀を持ち耳をそばだてている武松。黒い服も恰好良い。

『通俗水滸伝豪傑百八人之内　病関索楊雄』　今回のマイ・フェイヴァリットがこの絵！！緑の服を着た首切り役人の楊雄。右手に生首を持ち、妙にエロく微笑んでいる。左手には刀。後ろに石榴や錦の布が描かれる。妙に耽美的でエロい。男版サロメといった感じだ。国芳は、サロメの銅版画か何かを見たんじゃないかな？って思うんだ。後ろには海も見える。ようは、私は、生首持つ美女とか、イケメンに弱いワケですよ！こう・・嗜虐嗜好を刺激されると言うかね。

『通俗水滸伝豪傑百八人之内　醜軍馬宣賛』　強風で笠がすっ飛ばされた宣賛。後ろは滝。右手に刀。体を捻って左手を上げてポーズをとっている。恰好良い。

『水滸伝豪傑百八人之一個　清河懸之産武松』　通俗水滸伝シリーズの図柄の小判錦絵。武松が人食い虎を退治してるところ。さっきも大判であったね。こちらの武松は虎の首をムンズと掴んでいる姿。

『水滸伝豪傑百八人之一個　活閻羅阮小七』　こちらは、阮小七の豹の皮で矢を防御の中判錦絵。人気の絵柄は使いまわされるね。中判や小判の方が、大判よりは、安いんだろうな。

『水滸伝豪傑百八人　天罡星三十六員四枚内　十二枚内一』　また、大判に戻ります。これは、各図に９名の豪傑が登場するシリーズ。１枚につき、９人描いてあるってコトね。豪傑は兄弟や前職や梁山泊での職分けが同じ者等が組み合わせれている。

『水滸伝豪傑百八人　地煞星七十二員八番内　十二枚之内四』　師字旗を棒持する郁保四以外は、歩軍の豪傑たちだそうな。

『水滸伝豪傑百八人　地煞星七十二員八番内　十二枚之内十』　上段中央の樊瑞は妖術使いなので、印を結んだ手から小さな稲光を出している。

『狂画水滸伝豪傑一百八人　十番続之内弐』　10枚シリーズ。豪傑たちを１図９人～12人配してパロディで108人全員描いた物。狂画が得意な国芳らしい。朱武は、鏡が入っていない枠だけの鏡をのぞいているし、『十番続之内六』では、『唐前大蛇かばやき』の看板の前で、蛇に噛まれて死んだ丁得孫が蛇を捌いている。凄い復讐だね！（笑）　下段では、斧で大暴れするはずの李逵が、自慢の大斧で、せっせと薪割りをしていて可愛い。『十番続之内八』では、石つぶての名人張青は、無闇矢鱈に石を投げまくり子供は頭にタンコブが出来て大泣き(^_^;)。

水滸伝。人気が出たので、色んなパターンが登場する。日本の古今の武将英雄を題材とした本朝水滸伝。豪傑に見立てた日本の美女を描く風俗水滸伝（もう、ここまでくると、水滸伝関係なくね？と思うんだケド(^_^;)）。

『本朝水滸伝豪傑八百人一個　上総助広常』　九尾の狐を上総助広常が退治する姿。九尾は口に矢を咥え、首には矢が刺さっている。上総助の黒白市松模様の服が恰好良い。

『本朝水滸伝豪傑八百人一個　大谷古猪之助』　古猪之助は、尼子十勇士を題材とした物語の人物。古猪之助が19歳の時、田畑を荒らす老猪を退治した（だから、古猪之助って言う名前なのか）。皮が厚く、猟師が鉄砲を撃っても通じなかったが、古猪之助は拳で猪の頭を打ち砕いた。猪にまたがり、拳を振り下そうとする半裸の古猪之助。老猪の顔は、最早怪物である。

『本朝水滸伝剛勇百八人一個　下瀬加賀』　下瀬加賀が六角堂に現れた鬼神を捕まえたところ。鬼神の正体は、七尺ばかりの大男。この大男、ＳＭの仮面かよ！とツッコミたくなるような赤い仮面と、鹿の角がついた赤い鬘を被っている。下瀬加賀は、腕を捕まえ、縄を口に咥え、大男を縛り上げている。

『本朝水滸伝剛勇百八人一個　大己貢命』　満を持して神様登場！大己貢命・・大国主命のコトよね？大鷲の嘴をムンズと掴んで太刀を持った右手を振り上げ「ヒャッハー！」という表情の大己貢命。神様なので白装束。大鷲の羽根の描写も細かい。因みにこの話の元ネタ。古事記や日本書紀には載ってないそうです。相見神社の縁起に載ってるらしい。この絵も好きだったな。もう、表情、やり過ぎなんだよ、国芳さん（笑）。

『本朝水滸伝剛勇百八人一個　岩沼吉六郎信里』　吉六郎とデカイ黒イモリとのバトルの様子。吉六郎はイモリの胸に刀を刺している。イモリの腹は赤色で黒の斑入り。おそらく、赤腹イモリなのだろう。後ろには水の描写も。イモリだから？

『本朝水滸伝剛勇百八人一個　宮本無三四』　無三四が巨大な山鮫を退治する場面。さっきから、巨大動物シリーズ続くなっ！槍で山鮫の喉を突いている。無三四は力強い表情だ。無三四は、村人から鉄砲を奪って山鮫の左目を撃ち、次に槍を奪い右目を突いたらしい。奪ってばっかだな、無三四！そして、山鮫って何だよ？絵を観る限り、鮫と鰐を足して２で割ったような生き物だった。

『本朝水滸伝剛勇八百人弌個　渡辺源二綱』　ようは、渡辺綱の鬼退治。綱の兜を背後から掴む緑の鬼。綱はそれを睨み上げ、刀を構えている。兜を掴んだ鬼の手を綱は逆手で掴み、腕を切り落とそうとしているのだろう。赤い稲妻がアクセント。この絵のポーズの恰好良さな！特に、鬼の手を逆手で持ってるところ。痺れる！

『風俗女水滸伝　呉用』　当世の美女を水滸伝の豪傑にしたもの。座る美女。足元に渾天儀などの天文儀器を連想させる物があるので、呉用の見立てだと分かる。ん？ちょっと待て・・・ってコトは、コレって、呉用の女体化じゃねえのか！？（今気付いた！）　何だよ、ようは、今、ヲタアニメでやってるような、戦国武将を女体化しましたとか、義経女体化しましたとか、アレだろ？何だよ、日本、こんなコト江戸時代からやってんのかよ！ようは萌え絵じゃ～ん。

『風俗女水滸伝　張清』　小高い山の上から土器（かわらけ）を投げる美女。石投げの名手、張清の見立て。張清の女体化。女体化張清ちゃんは、女の子らしく、アンダースローで土器を投げている。

版本の展示もあった。挿絵が国芳。
『稗史水滸伝（国字水滸伝）』　頭がグシャって潰れて目玉飛び出してる絵がインパクト強かったな。あと、刀を構えて敵を倒そうとする楊志は恰好良かった。敵の脳天を刺す阮小七。敵の肩に足をかけている。挿絵なので白黒。

『当盛水滸伝』　上・中・下の艶本。ようは、水滸伝のエロパロディ。横柄な官吏が人間の煩悩を封じ込めていた塚をあばかせた為、108人の淫乱な男女が放たれるというお話。豪傑たちを様々な身分の男女に置き換えたエロパロディだそうな。エロ本なので、多少高くても売れたんでしょうね。挿絵は白黒ではなく、彩色された美しいもの。贅沢に作られていた。着物には空摺りまでしてあるんだぜ。

こんな感じでした。

お土産は、前述通り、図録と、ポストカードを３枚。でも、そのうちの一枚は、月岡芳年の血みどろ絵である！これ、持ってたかも知れないんだケド・・・。でも、買っちゃった。血みどろ大好き