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2016年03月20日23:05

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伝える その1

 ハマらいぶで毎月第2日曜日行っている勉強会の作品は毎回、私が持って行く
コレクションの中から選ぶ。
今回は「マルサの女2」。視覚障害者の方ではシネマデイジーで「マルサの女」は
聴いている方が多いのだが、「2があるとは知らなかった」というお声が上がる。
やはりシリーズ物は全部責任もってガイドつけるべきだね。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか。

 80年代の日本、バブルに浮かれる一方で地上げによる再開発が社会問題化
している時代、新興宗教・ヤクザ・銀行・政治家の癒着による複合汚職を「脱税」と
いう視点で暴く。多聞に露悪的で説明過剰な演出が相変わらずの伊丹演出だが、
俗っぽいところも含めて計算づくなのだから面白いに決まっている。

 ガイドをしてみて意外なところが問題として指摘された。
場面は映画の初めの方。地上げをたくらむやくざがマンションの住人を追い出す
ためにあらゆる嫌がらせをする。廊下にホームレスを連れてきて住まわせ、凶暴な
ドーベルマンを連れて廊下を歩きまわる。部屋の床を道路工事の機械(ランマーと
いうらしい)ではがし、階下の部屋に強烈な振動と騒音を振りまく。

このシーンのガイド
「部屋の床を工事の機械で剥がす」「下の部屋、(住人の)妻が耳を押さえて
しゃがみこむ」
 に、視覚障害者のモニターから質問が出た。

「工事をしている部屋と、振動している部屋の位置がわからない」

ガイドでは「下の部屋」と言ったので、わかるのではないかと思っていたのだが、
この質問は意外だった。

つまりこういうことだ。
「床を工事している」という言葉から、この工事をしている部屋は1階だと思いこんだ。
そこへ「下の部屋」というガイドが入ったので、工事をしているのが下の部屋で、
怖がっているのはその上の部屋の住人ではないか、と捉えたのだ。

これはあながち勘違いとは言えない。一回作った印象(工事をしているのは1階)を、
「下の部屋」と言われて、「ああ、2階だったんだな」と修正するのは、かなり図的な
イメージを持っていないといけない。我々は画面情報で何となくこの追い出しを
狙われている部屋が下の方の階であることを印象付けられている。チラッと出てきた
マンションの図面ではおそらく2階である。だから、この部屋が上の部屋から騒音攻撃を
受けているであろうことは簡単に想像できる。

 しかし、視覚情報を得ていない人にとって、床を工事しているのが実は3階であった、と
いうことをこのガイドから思い当てるのは(ましてや一度作ってしまった1階であるという
イメージを瞬時に修正するのは)難しいということだ。

原因は安易に「下の階」と表現(説明)したガイドにある。

 さて、ではなぜガイドはこの部屋が「上の階からの騒音攻撃を受けている」と解釈
できたのか?
 映画の中では上とか下とか直接説明した表現や映像はない。ここが映画的に
面白いところだ。
 映画では「床を機械で掘り返しているヤクザ達」が写った後、
「キッチンで怯えて座りこむ主婦」が写る。この時、この部屋が「下」にあるということは
観客が映像的に情報を得ているからだ。それは天井からばらばらと落ちてくる砂ぼこりと、
怯えた主婦の目が天井を見上げているからである。
 ならば、そのままガイドをするのが一番いい。

 「怯えて座りこむ妻」「耳を押さえ天井を見上げる」「砂ぼこりが落ちてくる」

 それならわかる、とモニターの方には言われた。つまり、自分が登場人物に同化して、
自分の上から「砂ぼこりが落ちてくる」ということは「上の階で床を掘っていたんだ」と
いうことが直感できるというのだ。

 これは視覚障害者、特に先天盲といわれる「映像を見たことがない人」の
「理解の仕方」がどうあるのか、という大きな特徴を示す。空間の理解は自分の身体を
基準にして理解するというものである。だから位置関係はその映画の中に自分を置いて、
その場所にいる自分にとってどういう方向かをバーチャルで体感するのである。

 映画のガイドとは言葉の問題だけではない。言葉が聴き手である視覚障害者にどう
理解されているかを検証し、その理解のシステムに効率的に働き掛けることだ。そして
その正解は、実は常に「映画に何が写っているか」にある。

というか、その一点にしかない。
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