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2015年12月15日19:21

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脱北少女の手記

 北朝鮮から脱出した少女の手記を読みました。パク・ヨンミ著『生きるための選択です』脱北したとき作者は13歳でした。

 第一部は北朝鮮でのすさまじい生活がつづられます。飢えと寒さと監視の中での極貧生活は今の日本人ではうまく想像できません。
 第二部は北朝鮮から脱出していった中国。ここでは別の苦難が待っていました。人身売買,レイプ・・・,ここも安らぎはありませんでした。無一文の北朝鮮女性が中国人ブローカーに売るものは”自分の体”しかありません。そのことを作者も母親も脱北してはじめて知ります。作者はそのとき13歳ですからその恐怖は想像を超えています。
 第三部は韓国での再出発です。人間性と人権を取り戻していく苦悩がつづられています。教育と環境の影響は人間にとっていかに大きいがわかります。自分を大切にすることがあたりまえになっている日本人には驚きがたくさんありました。そのなかのひとつ,いかに引用するエピソードが印象に残りました。

<以下引用>
P259
 ほかの脱北者も同じかどうか分からないが,私にとって一番大変だったのは,クラスで自己紹介をすることだった。自己紹介のやり方をほとんど誰も知らなかったので,教師が一から教えてくれた。まず最初に,名前と歳と出身地を言う。次に,自分の趣味や,好きなミュージシャンや映画スターについて話し,最後に,将来何になりたいかを話す。自分の番になったとき,私は固まってしまった。そもそも”趣味”とは何なのかわからなかった。自分の楽しみや喜びのためにすることだと説明されても,何も思いつかなかった。北朝鮮では,国や政権を喜ばせることだけが目的とされていたし,”私”が大きくなったら何になりたいかなんて誰も気にしなかった。北朝鮮に”私”はない。あるのは”私たち”だけ。この自己紹介の練習に困惑した私は,ただもじもじしていた。
 すると,教師が助け舟を出してくれた。「むずかしければ,あなたの好きな色を教えて」そう言われて,私はまた固まった。
 北朝鮮の学校では,何でも丸暗記するように教えられるし,ほとんどの場合に正解はひとつしかない。だから,教師に好きな色を尋ねられたとき,私は必死に”正解”を出そうとした。あるものがべつのものよりいいと考えられる理由を合理的に判断する,そういう批判的思考のやり方を教わったことがなかった。
 教師が言った。「そんなにむずかしくないでしょう? じゃあ私から言うわね。わたしの好きな色はピンクよ。あなたは?」
「ピンクです!」ようやく正解を教えてもらえたことにほっとして,そう答えた。
<以上引用>

 自分の考えをもってはいけない社会って,・・・・・・。想像を絶します。

 作者のパク・ヨンミはこんなことも言っています。
「自由であるというのは,常に頭を使って考えなければならないことなのだと気づいた。それはすごく疲れることだった。いつも飢えてさえいなければ,北朝鮮にいたほうがよかったかもしれないと思うことすらあった。そこでは自分で考えたり選択したりしなくていいから」

 自分の考えを持たなければいけない苦労と,自分の考えを持てない苦悩,そのどちらが悲惨なのかは明かのように思いますが・・・・・・。
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