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2015年03月21日17:24

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シューマン:弦楽四重奏曲全集/エルメス四重奏団

【収録曲】
 R.シューマン
1 弦楽四重奏曲 第1番 イ短調 Op.41−1
2 弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 Op.41−2
3 弦楽四重奏曲 第3番 イ長調 Op.41−3

エルメス四重奏団
 オメール・ブシェーズ(Vn)
 エリーゼ・リュウ(Vn)
 ユン=シン・チャン(Vl)
 アンソニー・コンドウ(Vc)

録音 2014年6月,パリ,Paroisse protestante lutherienne “Bon-Secouse”
La Dolce Volta LDV17


弦楽四重奏曲の世界が拡がるかも知れない,と考えてこのCDを買った。そして,フランスで結成された若い弦楽四重奏団による演奏を選んだのは,シューマンの「密室的告白」(吉田秀和)を少し中和したいという思惑からだ。もちろん,新しいカルテットを聴くことも目的のひとつ。

シューマンは,生涯に弦楽四重奏曲を3曲しか書いていない。1842年の夏,6月4日から7月22日かけて書かれた作品41の3曲が,このCDに収録されている。3曲で終わりというのは,「禁欲的」な趣が強い弦楽四重奏曲は,ロマン派の自由な表現スタイルに向いていないからなのかも知れない。そういえば,総じてドイツ・ロマン派の作曲家は,弦楽四重奏曲の傑作を書いていないようだ。シューマンばかりでなく,メンデルスゾーンやブラームスも,室内楽のジャンルでは,ピアノと弦楽器を組み合わせた作品で優れた仕事を残している。

結論を先取りすると,弦楽四重奏曲のジャンルで,シューマンは彼自身の持ち味を十分に発揮する作品を書くに至らなかったのではないだろうか。ただし,エルメス四重奏団の演奏スタイルのせいで,このような印象を受けた可能性も排除できないのだが。

まずは作品の印象から。このCDに収められている作品41の弦楽四重奏曲は,互いに似かよった雰囲気をもつ楽曲である。短期間で書き上げられた最初の弦楽四重奏曲集であることからも察しがつくように,表現の幅はそれほど広くない。それ以上に,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲,なかでも後期の作品の影響から脱しきれていないように思う。それだけ,ベートーヴェンのインパクトが大きかったとも取れる。

シューマンは作品41の作曲に先立って,ハイドン,モーツァルト,そしてベートーヴェンの弦楽四重奏曲を研究したと伝えられている。だが,ベートーヴェンをはじめとする作曲家たちの弦楽四重奏曲を十二分に消化吸収する前の段階で,作品41の3曲が書かれたという印象をぬぐい切れない。完全に消化し切れていないベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲の断片に,シューマン風の味付けを施して繋ぎ合せたようにさえきこえる。

とはいえ,第1番から第2番,そして第3番へと進むにしたがって,作品の成熟度が増しているのも事実だ。作品を書きながら,長足の進歩を遂げたことがうかがわれる。そして,成熟の度合いが増すにつれ,シューマンの個性が滲み出る作品となっている。たとえば,第3番のフィナーレでは,シューマンの特徴のひとつといえるスフォルツァンドが効果的に使われており,シューマン特有の大胆さと緊張感をあわせ持つ弦楽四重奏曲となっている。このような面があるにせよ,ブラインド・テストでこの作品をだれが書いたか当てられる人は少ないのではないだろうか。

つぎに,話を演奏に移そう。エルメス四重奏団は,2008年に結成された新しいカルテットである。結成当時,メンバーはリヨン国立音楽院の弦楽四重奏クラスに在籍する学生だった。メンバーの名前から判るとおり,フランスあるいはヨーロッパのカルテットというより,グローバル化した時代の申し子のような団体だ。フランス風の洗練された薫り以上に現代的なセンスをより強く感じさせる,インターナショナルな演奏スタイルを身上とする弦楽四重奏団といっていいだろう。

シューマンの作品の演奏に際しても,作品の内部に深く切り込む,あるいは,作品の内に秘められた感情を劇的に表現することに関しては抑制的である。緊密なアンサンブルによって,表面的に美しく仕上げられたアプローチといって差し支えないだろう。たしかに「密室的告白」の濃厚さは希釈されているが,どこか隔靴掻痒の感は免れない。

このCDの演奏から,シューマンの作品がもつ強烈さを感じ取れないのは,エルメス四重奏団のアプローチのせいなのか,それとも,シューマンの弦楽四重奏曲がそれだけのエネルギーを秘めていないためなのか,判断に迷うところだ。

余談になるが,このCDはパリにあるルター派の教会で録音されたようだ。カトリックの国フランスの中心であるパリの街に,プロテスタントの教会があるとはおもしろい。

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