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2012年03月05日22:37

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アビガエルって書いてある

 クリスマスの直前、保育園でチョコレート菓子を一人に一袋ずつもらった。
 サンタさんの形をしてサンタさんの絵の描いてある銀紙にくるまれた空洞のチョコレートや、キャンディ形に包まれた空洞のチョコボール、マジパンだかキャラメルだかをチョコレートでくるんだ平らで丸いチョコレート菓子を動物の絵が描いてある銀紙でくるんだの、など、子供騙しの嵩ばかりあるお菓子の袋だったが、子どもたちは大喜びだった。それを毎日、ひとつずつ、冬休みの終わるまで食べた。キャンディ形のはみんな中身は同じだけど、包み紙の色が違うだけで子どもたちには違うものだった。今日は黄色にする、私は赤、などと言いながら、大事そうにひとつ取り出して、大袋をちゃんと閉めてしまってから、今日のチョコレートを食べにかかる。
 マジパンのはおいしくないから、二人とも少しかじってやめてしまうけど、包みの絵が違うし、大好きな動物の絵だから、藤吾さんはだまされてよくマジパンのを取った。アビはすぐ気がついて、これはおいしくない、といってほかのを先に食べたので、アビの袋にはマジパンのチョコだけがたくさん残った。
 それでも助かったのは、袋に、園長先生がそれぞれの子どもの名前を書いておいてくれたことだった。もらったとき、「ここにアビガエルって書いてあるよ、藤吾さんのは、ここにフェルディナンって書いてある」と言って見せると、ふたりともとても感心した。そして、いつも誇らしげに、「ここにアビガエルって書いてある」「フェルディナンって書いてある」と大人に見せた。だから、アビの袋にマジパンのしかなくなって、アビがその袋は自分のではないと言い出すと、私は、「これがアビのよ、ここにアビガエルって書いてあるもん」と見せることができた。
 そしてそれ以来、アビは、名前が書いてある、ということに興味を持つようになった。
 冬休みの間に出た小旅行で、牛乳の小さいパックを二人のために持ち歩いたが、二人でいつもどっちが誰のだとけんかするので、私が名前を書くと言った。書くと言ったものの、ペンが見つからない。でもアビがうるさく言っておさまらないので、ペンがあったふり、書くふりをして、アビに、「ほら、ここにアビガエルって書いてある」と適当な場所を見せた。そこには本当は、「250ML」と書いてあった。
 ところが、次の日新しい牛乳パックを渡したときも、アビはパックをぐるぐるっと回して見て、「250ML」と書いてある場所を見つけて、「見て!見て!ここにアビガエルって書いてある!私のよ」。

 まもなく保育園が再開して、お迎えに行くと、アビの今日のお絵かきを保育士さんがくれた。まんなかにはぐりぐりと何か描いてあって(本人は風船だとかなんとかちゃんとなにかを描いたつもりのものだったと思うが)、紙の右上に大人の字で「アビガエル」と書いてあって、左上の空白に、クレヨンで、短い線で縦線やばってんがきちんと水平に並んでいる。
 そうやってアビはよく自分の名前を紙の隅っこにサインするようになった。 

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