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2011年05月01日18:12

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欲望という名の電車

松尾スズキ氏演出の『欲望という名の電車』を見てきました。

以前も書きましたが。私は、松尾スズキ氏が好きで、テネシー・ウィリアムズも好きです。でも、この2人を結びつけるコトは出来ず、「えぇ?松尾さんが、『欲望〜』の演出するの?どうなんの?想像出来ん!」と思っておりました。

私の中で、松尾スズキ氏と言う方は、熱量が高く、混沌として、濁った感じ(イメージ)の演出(作劇)をなさる方で、テネシーの作品は、透明度が高い・・・と言う印象があったからです。

見て吃驚。私、本気で途中「アレ?これ、松尾スズキの新作だっけ?」と思ってしまいました。
つまり、合っていたのです。スゲエ、新発見。(笑)

良く考えたらサ。『欲望という名の電車』・・てか、ウィリアムズの作品の多くはそうだと思うケド、『悪人じゃないケド、ダメな奴』が沢山出てくる芝居なのよね・・・。あぁ、そうか。それって・・・松尾さんの普段のお芝居じゃん(笑)。松尾スズキ氏の普段のテイストじゃないか・・・と。松尾氏のお芝居って、基本「悪人じゃないケド、ダメな奴が、そのダメさから脱却しようとした結果、周りに災いを呼び込んじゃったり、周りが被害を被ったりする話」が多いと思うのですが、『欲望〜』は、脱却しようとはしてないケド、ブランチもスタンリーもミッチも、結果、ダメな奴じゃん(^_^;)。だから、合うんだね。

因みに。演出は、普段の松尾氏から考えるとかなり、スタンダードと言うか、ねじっくてない演出だったので、あんまり濁りはなかったです。熱量は、他の方演出の『欲望〜』と比べるとあるかもだケド。
そこが、ちょびっと物足りなくて、「もうちょっとこねくっても・・・」とは思ったんだケドね。
それでも、松尾さんっぽい、演出は随所にあったのだが。あと、森田童子と、シナロケの『レモンティー』には吃驚した(笑)。♪アナタと飲みますレモンティー〜。コレ、ブランチのイメージ?

秋山さんのブランチは、キュートブランチでした。いっちゃってるケド可愛らしさのあるブランチ。

私、1番最初『欲望〜』見た時、ブランチ嫌いだったんだ。だって、KYだし、人見下すし、高飛車だし、美女で元お嬢様だから、仕方ない部分もあるかもだケド、腹立つ女じゃん。不幸自慢するしサ。でも、2回目見たら、「あ・・・違うは。この人は、“こうならないと、壊れてしまう(いや、もう壊れちゃってるんだケド)”人なんだ・・・」って思えてきて、テネシーの回想録やら、資料やら読んだらさ・・・。もう、ブランチって、そのままテネシー・ウィリアムズ本人じゃん・・・。完全に自己投影じゃん。アル中になって、薬でラリって、自暴自棄になって、自傷行為みたいなセックスを男と繰り返すテネシー・ウィリアムズ。コレ・・・ブランチじゃないか・・と。そう思ったとたん、切なくて悲しくてねぇ・・・・・。
だから、ブランチが言い放つ。「見たわよ。男同士で。なんて、汚らわしい!」って言う台詞が重く痛いのです。

あと、意外だったのは、座席が満席じゃなかった。後ろが3列くらい空いてて「勿体ねえ!」って思った。大人計画のお芝居は、満席になるのにねぇ。テネシー・ウィリアムズの戯曲は、敷居が高いと思われちゃったのかな?(確かに、当時のアメリカ南部の風習知らないと、「何コレ?」って思う場面はあるかも知れんが・・・(^_^;))

※以下、『欲望という名の電車』の感想を書きます。お芝居は、まだ続いておりますので、ネタバレになる部分もあると思いますので、ネタバレがお嫌な方は読まれない方が宜しいかと存じます。

では、ネタバレOKの方のみいらっしゃいませ〜。

『欲望という名の電車』
会場:パルコ劇場

作・テネシー・ウィリアムズ 訳・小田島恒志 演出・松尾スズキ

出演。ブランチ・デュボア/秋山菜津子 スタンリー・コワルスキー(ステラの夫)/池内博之 ステラ・コワルスキー(ブランチの妹)/鈴木砂羽 ハロルド・ミッチェル〔ミッチ〕(スタンリーの友人)/オクイシュージ ユーニス・ハベル(上階の住人)/猫背椿 スティーヴ・ハベル(ユーニスの夫)/村杉蝉之介 パブロ・ゴンザレス(スタンリーの友人)/水夫/顔田顔彦 見知らぬ男〔医者〕/タマーリ売り/河合克夫 見知らぬ女〔看護婦〕/メキシコ女/小林麻子 黒人女/桔川友嘉 集金人の若者/男/娼婦 井上尚

あらすじ・・・って、『欲望〜』は、映画になってるは、舞台に何百回ってかけられてるはで、皆さん「知ってるよ!」でしょうけれど・・・・(^_^;)。まぁ、ザックリと。

『欲望』と言う名の電車に乗って、『墓場』と言う名の駅で乗り換えて、ニューオリンズの『天国』と言う名の町に来たブランチ。彼女は、大農園ベル・レーヴで育ったお嬢様で、高校の国語教師をしていたが、「高校教師が嫌になって」休暇を取り、妹ステラ夫婦の住むこの町に来たらしい。
ステラのアパートへ居候するコトにするブランチだったが、野卑で少々下品である、ステラの夫ポーランド系のスタンリーとは、あまり相性が良くないらしく、ささいなコトで衝突ばかり起こしている。ブランチは居候の身でありながら、居丈高で、まるでお姫様のように振舞う。ブランチは「農園はなくなってしまった。借金のかたに取られてしまった。」と言うが、スタンリーは信じない。「あの金無垢のドレスを見たか?あの銀ぎつねの毛皮や、ダイヤのティアラは一体なんだ?アレは農園を売った金で買ったモノじゃないのか?」と。ステラは言う。「あのティアラは、ラインストーンの偽者。銀ぎつねは、姉さんが昔から持っていたモノよ・・・。」 スタンリーは、高飛車なブランチを酷く嫌っている様子。ステラのお腹には、スタンリーとの子供がいるのだが・・・。

スタンリーの友人は同じように野卑な男性が多いが、その中で、ブランチをお姫様のように扱ってくれる紳士な男性がいた。ミッチ(ミッチェル)がその男だ。ブランチはミッチに恋心を抱き「結婚したい」と思うようになる。

しかし、ある夜。スタンリーは、ブランチとステラの会話を立ち聞きしてしまう。ブランチは言う。「スタンは・・あの方は・・ほら、下品じゃない。私達とは違うのよ。」 スタンリーのブランチに対する憎しみは増すばかりだ。
ミッチは、本気でブランチのコトを好きになっていた。ある夜、ブランチは、ミッチにある事実を打ち明ける。それは、ブランチがまだ16歳の頃に起こった出来事。ブランチは、16歳で恋に堕ちる。相手は、詩を作る、繊細なそれはそれは美しい少年。名をアランと言う。ブランチは、アランを恋と言うより崇拝し、結婚した。ところが、あるパーティーでのコト。ホテルの部屋で見てしまう。自分の愛する夫が、男と一緒にベッドにいるところを。
ダンスパーティーでブランチは堪らず、言い放つ。絶対に言ってはならない一言を。
「見たわよ。男同士で。なんて、汚らわしい!」 ショックを受けたアランは、会場を飛び出す。自分が絶対してはならないコトをしたと悟ったブランチは必死で追うが・・・銃声が。周りはブランチを止める。「見てはいけない!アンタが見るモノじゃない!」それでもブランチは見てしまう。「あの人・・・拳銃を口に咥えたまま引き金を引いたの・・・。頭の後ろ半分が吹き飛んで・・・」 ミッチは、その告白をしたブランチを抱きしめ、2人で生きていこうと決意する。

その頃スタンリーは、ブランチの良くない噂を聞き入れてきた。今まで未確認情報だったのだが、どうやら確かな裏が取れたらしい。スタンリーはステラに言う。「とんだ、お嬢様もあったもんだ!キスから先は行かせませんみたいな顔をしておいて!」
ブランチは、ここに来る前、ホテル・フラミンゴと言うところに宿泊していた。そのホテルは、「お客様のプライバシーには一切口を出しません。」だけがモットーの2流ホテル。ブランチは、そこで、男をとっかえひっかえ、まるで娼婦のような生活をしていたらしい。しかも、高校は『休職』したのではない。ブランチは勤めていた学校の男子生徒(高校2年生)にまで手を出したのだ。それがバレ、怒った父兄が、校長に手紙を書いた。『ミス・デュボアは、教師に相応しくありません。』高校は解雇された。又、あまりの乱行っぷりに、市長も苦慮。ブランチは「市外退去」を命ぜられていた。つまり、その町にいられなくなり、ここに来たというのだ。その話を、ミッチにもしたと言うスタンリー。「酷い!」と言うステラに、「ミッチは軍隊時代からの友達なんだ!騙されているのをみすみす黙っていられるか!」と突っぱねる。

誕生日の日。ミッチも呼んだはずなのに、あの話を聞いたミッチは、ここに来ない。ここでも、又、スタンリーとブランチは言い争いをするが、ステラが産気づいてしまう。病院にステラを運び、帰って来たスタンリー。スタンリーとブランチは、又ここでも言い争う。が、スタンリーはブランチを追い詰める。ブランチに言うスタンリー。「まさか、俺がオマエを襲うと思ってんじゃねえだろうな?・・・いや、それもなかなか面白れえ!」 追いかけられ、スタンリーにより、ベッドに押し倒されるブランチ。 

日は変わり。ステラには赤ちゃんが。ブランチは、あれから物を食べようとしないし、どうやら意識混濁をしているようだ。とある男がスタンリーの家の前に立つ。ブランチを迎えに来たらしい。ブランチは、意識混濁しているのか、その男が自分を迎えに来てくれた「億万長者」だと思っている様子。実は、その男は、精神病院の医師。ブランチは精神病院に入れられるコトになっている。知らない男が迎えに来て、パニックになるブランチを、看護婦は押さえつける。医師は言う。「ミス・デュボア?」 ブランチは「はい」と反応する。ブランチは、医師と腕を組みこう言う、「どこのどなたか存じませんが、有難うございます。私のように力のない人間は、力のある方のお力添えが必要ですのよ。」 姉と医師が出て行った後を追い、ステラは泣き崩れる。

こんなお話。
こう書くと、松尾さんの脚本にそう遠くないような気もしますよね。テネシーの方がシンプルだけどね。

終盤。ブランチがティアラを被って、ピラッピラのドレス着て、スタンリーに「石油王に、クルージングに誘われたは。」って言う目一杯の嘘をつくのが切なくてねぇ〜・・・・。もう、バッレバレの嘘じゃん。そんなの。しかも、その姿で、アル中ブランチは酒をかっくらい、集金人の男の子をたらしこもうとキスをする。衣装とのこのチグハグさ加減。切ない。切ないケド、チグハグ過ぎて笑える。

松尾氏風の演出で、ミッチに「アナタは本当はいくつなんだ?」(ブランチは、いつも薄暗い所でしかミッチと会わない)と聞き、ブランチに電気を近づけようとして、配線が伸びて、ブランチの顔を照らした瞬間、森田童子の『ぼくたちの失敗』が流れたのが笑けました。ミッチもブランチも失敗しちゃったんだなぁ〜(^_^;)。

このお話。今思うと、「何それ?」って思う部分沢山あるよね。良くない噂ってサ。ようは清純だと思ってた女が実はヤリマンだっただけのコトでしょ?まぁ、生徒に手を出しちゃったのはいけないケド・・・。男性側からしたら「3Pとか出来て、超ラッキー♪」みたいに思わない?今の感じだと?当時は、女性の地位も今ほど高くなくて、南部だから保守的で、「女性は純潔が当たり前!良妻賢母が当たり前!女が耐えて当たり前!」だったのでしょうね。

あとね。私がどうしても思うコト。
昔から思っているんだが。ブランチが、自分の夫に言い放つ絶対に言ってはならなかった言葉。
「見たわよ。男同士で。なんて、汚らわしい!」
この台詞を、テネシー・ウィリアムズはどんな気持ちで書いたんだろう?・・・と。
だって、テネシー、ゲイだよ?しかも、おそらく、ブランチは、テネシー自身だよ?自分自身に、「男同士で。なんて、汚らわしい!」って言わせるんだよ?もう・・・自傷行為通り越して、自殺に近いよ・・・(-_-;)。

回想録やら、戯曲やら小説やら読むと思うのですが。どうやら、テネシーさんは、自分が「同性愛者である」って言うのが認められなかった・・と言うか、自分で許せなかった節があるように見えるんだ。自分で「私は、同性愛者だから、汚らわしい存在」って、ちょっと本気で思っていた節が。だから、それを思うと、この台詞が尚重い。自分自身の分身に、自分を傷つける言葉を吐かせる。どんな気持ちだったのかな?テネシーさん。

ワルシャワ・ジンタだっけ?あの曲。あの曲の使い方も良いよね。スタンと争ってても聴こえて来るの。自分がしでかした最大の罪の記憶は、ワルシャワ・ジンタに乗って出てくるのかな?

あと、松尾さんっぽい演出は、汗を異常にかくとか、ミッチとブランチのトリッキーなダンスとかは、松尾調だったような気がします。でも、他は、比較的ストレートな演出だったなと。冒頭、蝶(蛾?)が沢山飛んでいく映像が結構好きだった。ブランチは白い蝶なのか?男を食う蛾なんでしょうかね?それとも町の人々が蛾で、白蝶のブランチも蛾になって行くのかな?

ブランチって、改めて思ったのだが、冒頭から結構もう、気は狂ってるんだよね。変にテンション高かったり・・・。旦那ある意味自分のせいで死んじゃって、両親も死んじゃって、借金でお家取られちゃって、満身創痍。でも、それで庶民として頑張れば良いモノを、天性のお嬢様気質って言うか、お姫様気質が抜けてないから、町では当然浮いちゃうし。そりゃ、「下品だ。あんなのに詩なんか分かるか」とか、そんなコト言われりゃスタンも怒るよ・・なんだケド、お姫様ブランチは「嫌いなモン嫌いって言って何悪いのさ?」くらいにしか思ってないだろうから、どんどん肩身も狭くなって、精神状態悪化しちゃう・・・(-_-;)。
ミッチにも若干ムカつくんだケド(あまりに弱々人間の為)。あと、「ミッチも、ブランチ甘やかせ過ぎ!」って思う(^_^;)。ステラもだケド、ステラからしたらブランチはお姉さんだから、そりゃ邪険には出来ねえよな・・とも思うし。

冒頭のブランチの「メイドはいるのでしょう?」って言う台詞も、何か・・もう・・「現実見ろ!」って思うよな(^_^;)。あのボロアパートに、メイドさんなんかおるかっ!

スタンリーもスタンリーで、ド直球人生過ぎる奴なので、「はいはい」って適当に流せば良いのに、真っ正直に受け止めるし、おそらく自分は、ポーランド移民って言うコンプレックスもあるだろうし、何かにつけて、「私の先祖はフランス人だ」とかブランチ抜かすしサ・・・。ブランチ側は支配階級で、スタンリー側は、支配される側だもんなぁ〜・・・。
最後、ブランチをレイプするのって、そのコンプレックスの鬱屈した状態の表現なのかな?とも思うんだ。支配階級を逆に支配する感覚。

何か、そんなコトも思います。

松尾氏とテネシー・ウィリアムズの戯曲は相性が良いと分かったので、次回は『地獄のオルフェウス』か『やけたトタン屋根の上の猫』辺りをやってくれないかなぁ〜とも思います。

最後、カーテンコールの時、松尾氏が出てきて「こんな時にお芝居見に来てくれて有難うございます。役者を語りましょうか?」と訊いていた。で、拍手が半分くらいで「半々ってところですね。じゃあ、語りますまい。」って言っていた。コレ、毎回やるんでしょうか?
鈴木さんと秋山さんが「何言っての?」みたいな苦笑顔で見詰め合ってたのが可笑しかったです。
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