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2018年05月21日01:15

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5月20日

近頃、職場でよく盗難が起きる。中には5万円が財布から抜き取られていた人もいたりして、笑えない日々が続いている。はじめのうちは外部からの侵入を疑って、ものものしい鍵を取りつけてみたりしたけれど、それが適切な対策だったのかはわからない。なんとなく疑心暗鬼になって職場の雰囲気もすさんでしまう。社会人になってからの方が、確実にこういった盗難事件は多く起きている。社会には闇を育む何かがあるのかもしれないし、体育教師の竹刀が闇を切り裂くアイテムだったのかもしれない。いずれにせよちょっと物騒だ。
 かなり前になるけれど、ぼくも財布を丸ごと盗まれたことがある。流れ星を見た次の日のことだった。とりたてて貧困にあえぐ人を助けたいとか、景気の回復をお願いしたわけでもないので、たぶん悪い人に盗られて悪いことに使われたの思う。
どこにも財布がないとわかったときは、膝ががたがたと震えた。どこかにつかまっていないと、倒れてしまいそうだった。盗まれたのは3000円くらいだったと思う。でもそれは額の問題というわけではなく、暗闇からにゅっと誰かの手が伸びてきたという事実にただただ背筋を寒くした。しばらく更衣室のロッカーにもたれたまま身動きが取れなかった。
そんな時に、親身に話を聞いてくれた人がいた。ぼくの気持ちが落ち着くまでそばに寄り添って、優しく声をかけてくれた。ぼくがありがとうと言うと、その人はにっこりと笑って、とんでもないと首をふる。ぼくが心強いですと頭を下げると、その人はお互い様じゃないですかと言って手をにぎった。でも勤務状況から考えると犯人はたぶんその人で間違いなかった。ぼくは一体どんな顔でその人と接すればいいのかわからなかった。その人が優しくなればなるほど、あたまの中でパズルのピースがはめこまれていった。その人が絶対に犯人を見つけ出しましょうよ!と熱心になればなるほど、犯行時の光景が完成されていく。
笑顔で被害者に寄り添う。まさに3000円くらいの事件を起こす犯人が使うトリックといった感じだった。とはいえ、確たる証拠もないのでその人を指さすようなこともなく、この騒動はしずまっていった。その人は、それからしばらくして退職をしてしまった。理由はよくわからない。もしかしたら他にも何か悪事をはたらいていたのかもしれない。でもその人は、ぼくにいかなるときも財布をポケットに入れておくという習慣を与えてくれた。おかげで、今職場で起きている盗難事件だってたじろがないでいられる。もしかするとその人もぼくから盗んだ財布を、ちゃんと持っていてくれているのかな、とふと思った

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