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2017年09月24日23:22

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山登りはじめました＃175「北穂高岳に行ってきた」その③

◆3日目
　4:30/起床⇒5:00/朝食⇒6:00/涸沢小屋(標高2350m)チェックアウト、不要な
　荷物をデポする⇒6:10/北穂高岳ピークアタック開始⇒7:25/南陵鎖場(ここで下
　山者とのすれ違いのため7:40まで小休止)⇒7:45/南陵稜線へ⇒8:30/標高2900m
　地点にて自分以外の3名が撤退⇒9:00/北穂分岐⇒9:10/北穂高岳(標高3106m)登頂
　⇒北穂高小屋(ここで9:30まで小休止)⇒　9:35/北穂高岳山頂より下山開始⇒9:40/
　北穂分岐⇒10:45/南陵鎖場(ここで10:55まで小休止)⇒その先も無線連絡のため途
　中で10分小休止⇒11:55/涸沢小屋(標高2350m)へ帰還(ここでデポした荷物の回収
　とパッキング、昼食のため13:10まで大休止)⇒13:30/涸沢⇒Sガレ先で5分小休止⇒
　15:10/本谷橋⇒15:50/岩小屋跡(途中この手前で10分小休止)⇒16:15/横尾山荘
　(標高1620m)到着、チェックイン

続きました。

【北穂のピークへ！クライムオン！】

涸沢小屋から山腹へ繋がる小路を少し歩くと、「北穂」と木の道標が。ここを左折するともう、いきなりの急登が始まる。出だしの雰囲気は槍沢ルートの大曲から東鎌尾根の水俣乗越に向かう感じに似ている。ロケーション的には北穂沢を挟んで左が南陵、右が東陵で、南陵の側面を沢を詰める感じで登って行く。急傾斜だがよく整備されていて歩きやすい。ハイマツ帯をジグザグに進んだりしながら、順調に高度を上げて行く。15分も歩くと涸沢ヒュッテがミニチュアの様に見下ろせる。涸沢小屋は崖の真下の陰にあるため、南陵ルートからは見ることは出来ない。

「いいペースですね、この調子なら標準コースタイム内で登頂できますよ！」

とOG原さん。標高2350mで一泊して高度順応しているので、スタートからいきなりの急登だが息が上がらなくて良い。先頭はOG原さん、二番手に自分、後ろが舞Tさんで最後尾がHGさん。基本OG原さんが一歩先を歩いて、自分とHGさんで舞Tさんを挟み、上下でサポートしながらOG原さんをトレースして行くフォーメーション。ハイマツ帯を抜けると早速クライミングの必要なサイズの岩が出てきた。しかしここは舞Tさんも難なくクリア。岩を登り切ると今度は大きな岩がゴロゴロしているガレ場に出た。浮石に注意しながらペイントの〇印を頼りにゆっくりと登って行く。ガレ場を登り切る辺りで左上方に鎖場が見えてきた。下山してくる人が結構な数いる。ここですれ違い待ちを兼ね、小休止することに。見下ろせば素晴らしい眺望。常念岳まで良く見える。ただ、スタート時よりも若干風が出てきたかな？

下山者が全員降りて行き、ようやく登りに取り掛かる。スラブ状の長い岩にかけてある鎖だが、難易度はさほどでもない。岩にはバケツが掘ってあるので、スタンスに困ることはない。が、面倒なので鎖を使って一気に登ってしまった。鎖場と梯子の間は岩にボルトが何本も打ってある。掴んでよし、足を置いてよし、だが、全体的にここの岩場は雨が降ったら下りるのは怖いかも知れないなあ。続く10m程の鉄梯子を登り切れば南陵の稜線！ここで一気に視界が開ける。今まで見えなかったザイテングラートが間近に良く見える。涸沢ヒュッテからザイテンまでって、あんなに距離があるんだ。南陵と違ってザイテンの取り付きまではカールを歩いて上がるわけだが、ザイテングラート自体の長さよりもアプローチの方が長いんじゃないだろうか？見上げると涸沢岳。左の白出のコルには穂高岳山荘の端っこがチラッと見える。そして飛騨側からどんどんガスが流れ込んで来る。稜線に上がったせいか、風もかなり強い。

梯子を登り切った所は人が滞留できる場所ではないので、着いた順にどんどん先へ進む。舞Tさんが梯子を登り切ったのを確認して自分もOG原さんを追う。取り付きまでとは岩のレベルが全然違う。いよいよ本格的になって来た！両腕を使うのは当然のことながら、岩が大きいのでルートファインディングをおなざりにすると途端に行き詰まる。高度感は怖いというレベルではないが、「絶対に転倒してはいけない」場所であることに間違いはない。

「舞Tさん、大丈夫～？三点支持だよ～！基本通り落ち着いてね～！」

「そこは〇印あるけど行かないでこっち回った方が楽だよ～！」

「そこのトラバース、岩掴みやすいけど、足上げる時膝ぶつけないように気を付けて！」

など、自分とHGさんで上下から舞Tさんをサポート、3人固まってOG原さんの後をトレースして行く。特に高さにビビッているわけでもないし、疲労もしてないようなので、このまま慎重に登り続ければ舞Tさんは大丈夫だろう。途中、左側から雷の様なスゴい音がして3人同時に振り向く。落石だった。場所はザイテンの一つ右隣りの岩尾根の右側。人がいるエリアではないのだが、目測で直径1m以上はあるだろう岩が恐ろしい音を立てて転がり落ちている。他の岩に当たる時のガツーンっていう音が雷の様に聞こえるのだ。これには肝を冷やした。あんなサイズの岩が何個もガラガラと斜度70度くらいある斜面を転がり落ちてきたら、とても助かるとは思えない！

ひょえ～、コワイコワイ！

OG原さんに追いついたので落石の話をしたが、OG原さんは見ていなかったとのこと(音は聞こえたそう)。

「そんなことより、結構ガス出てきましたねえ。風も強くなったし。大丈夫かなあ。取り合えず急ぎましょう！」

OGさんが再び先頭を切る。3人で後を追う。二ヶ所目の鎖場の取り付き辺りでOG原さんの動きが止まった。何やら思案している様子。追い付いた。すると、

「自分、やっぱ降ります。行きたい人は行って下さい。」

「なな、何ですと～！？」

【選択と決断】

「いや、やっぱりこの風とガス、ちょっと嫌な感じがするので。元々今回は少しでも不安要素があれば登らないつもりだったし。自分のことは気にせず、行って下さい！」

「確かになあ、飛騨側の空、遠くに黒いの見えるし。私も下りますわ。」

え？HGさんも降りるの？マジ？

「じゃあ僕も降ります！HGさんかOG原さんが行くなら登ろうと思ったけど、経験者無しなら怖いから降りるよ。途中何かあって足手まといになるのは嫌だし・・・。」

なぬ～！3人とも降りるだって？

確かに風が強くなってきているので、舞Tさんがリタイアするのは反対しない。でもせっかくここまで来たのに・・・。しばしの逡巡。取り合えず天気予報をチェックする。すると昨夜と予報が変わっていた。雨の降り出しが6時間も早まって午後からとなっている。でも時間はまだ8時半。大丈夫なんじゃね？

「ではうちら3人はここで下山しますね。この先もこんな感じの岩場が続くよ。同じペースで行けばあと40分くらいかな？たぶん天気は大丈夫だと思うけど、気を付けてね！」

えー、どうしよう！考えろ考えろ！無茶は禁物、それは重々承知の助。では無茶って何だ？怖いの我慢してキャパオーバーな行動を取ることだよね。冷静になって考えるのだ。キャパオーバーか？このルート。いや、否！体力的にも技術的にも何ら問題はない。十分行ける自信はある。では懸念事項は何か？そう、天気だ。天気が心配。下山時に雨に降られて一面の岩場が濡れてしまうのが怖い。じゃあ雨はいつ降るの？予報では午後。正午まではあと3時間半。十分行って戻ってこれるのでは？仮に天候の崩れが早まったとしても、南陵の取り付き、つまりスラブ岩の梯子と鎖を降り切ってしまってから降り出すなら問題はないだろう。ここはもう、自分の観天望気を信じるしかない。空を見ろ！風を感じろ！

落ち着いて良く観察するのだ。風とガスは確かに増加傾向。しかしカールにガスが溜まっているわけではない。元々スタートからカール上空は薄曇りだった。地形的に風を感じなかっただけで、最初から稜線上は風が吹いていたはずだ。標高を上げてガスの流れに目線が合わさったことで「ガスが出てきた」と感じているだけじゃないだろうか？稜線上は確かにガスがかかっているが、下界の涸沢ヒュッテは良く見える。そして常念山脈の方向、安曇野側はまだ青い空が広がっている。10分20分の差でそこまで急激に天候が悪化するとはとても思えない。天気が崩れるのは間違いない。しかしそれは今すぐでは無い。

行ける！！

そう思った。3年もかけて、まだ未達の目標をゴール直前で手放す悔しさが決断を後押ししたのは間違いない。でも決して無茶な選択ではない。

「わかりました。ここから別行動ですね。自分はこのまま行きます！」

「了解。問題無いとは思うけど、危ないと思ったら必ず撤退してね。もし雨に降られたら下山しちゃダメよ？北穂小屋に泊まること！その場合明日は大荒れなので連泊だよ！」

「わかった。無理はしないよ、大丈夫！」

「台風の進行によっては2日間、北穂小屋に缶詰になるかも知れないよ。その場合、会社も休まないといけないけど、安全第一だからね、約束して！」

「了解やで！」

普段は寡黙なOG原さんも今回ばかりは熱心に念押しをしてくる。まあ、当然だよね。

午前8時30分。標高2900m地点。自分以外の3人が撤退した。

【独り旅】

下山する3人を見送る。一緒に降りるなら今だぞ！自分の中ではまだ葛藤があり、上を見上げることが出来ない。降りてくる登山客はボチボチすれ違うが、登ってくる人は皆無だ。この先多分、登りも下りも一人だろう。みんなにこの次会えるのは夕方、無事横尾まで下山してからだ。それを考えるとかなりの長丁場、逡巡している間にも時間は経過していく。岩陰に入る直前、舞Tさんが手を振った。

「よし、行こう！」

振り向くと鎖場だ。登る。問題無し。岩場を慎重に進む。一人降りて来たので話かけてみる。

「いやー、予報よりかなり早く崩れ出しましたねえ。山頂は真っ白で何も見えないですよ。午後から降ると思うので、早めに降りた方が良いですよ～！」

とアドバイスをいただく。聞いたところ、大キレットから縦走してきて昨夜は北穂高小屋に泊まったそうだ。本来は涸沢岳から奥穂高岳の方に抜ける予定だったのを中止して北穂から下山するとのこと。下山者と別れ、先に進む。岩場を登って行くと急に開けた場所に出た。風が強くなる。ガレ場にしては何かおかしい。岩には〇×ペイント以外に番号が振ってある。①とか⑱とか。気に留めずに先へ進むと左に少し登った所に道標があった。北穂分岐だ。これはガイドブックとかで何度か見たことがあるが、こんな標高の高い場所にあったのか！事前に頭に叩き込んできた地形を思い出す。ガスがかかっていて良く見えないが、この標識の真上が確か南峰だ。すると直ぐ右側には北峰があるはず。風で一瞬ガスが晴れると見えた！北穂高岳の山頂が見える！標識の先は左にグルっと回り込んで一旦高度を下げる。正面には東陵が見える。下り切った場所が「松濤のコル」。今自分の背中側には松濤岩があるはず。ここから登り返した場所が北峰の山頂、つまり北穂高岳の山頂だ。石の階段を上がり切ると着いた！

午前9時10分。北穂高岳3106m、登頂～！

実に久々の3000m峰。富士山を除くと3年前の槍ヶ岳(3180m)以来である。が、何も見えないし誰も居ないし。嬉しさや達成感より不安な気持ちが大きい。確かに事前情報の通り、山頂は丸くて平で広い。しかし360度ガスで真っ白、何も見えない。仕方無いので山頂の証だけ記念撮影して、直下の北穂高小屋に下りる。今回は登頂よりここの山小屋が目的だったんだよね。梅さんの元職場。石段を下りるとテラスに出た。写真でよく見る絵。6人ほど先客が居る。みな電話をしているが、聞いていると今日の小屋のキャンセルとか別小屋の予約の電話の様だ。みんな昨日大キレットを縦走してきて北穂高小屋に泊まり、雨が降り出す前に下山する人達らしい。さっきすれ違った人と同じである。

みんなそそくさと撤収準備をしている中、ノコノコと登頂してきたのは自分一人しかいない。これが更に不安な気持ちを煽る。今ここに居る面々は大キレットを通過出来るようなツワモノばかり。それが急いで下山しようとしているのだ。比して自分は登りも下りも今回が初めて。

ゆっくり寛ぎたいのだが焦る気持ちがそれをさせない。取り合えずザックをベンチに下して小屋に入る。小屋番の人に本日の予約をキャンセルする旨を伝える。これでまずはミッションを1つクリア。下山に備えて自家製のトレイルミックス(オレンジピールの入ったチョコとバナナチップ、カシューナッツ)をバリバリと頬張る。ハイドレーションの水をジュージューと吸って飲む。一服しながらテラスから外を眺めるが、真下のヒュッテと東陵の一部以外は真っ白で何も見えない。しばらく槍ヶ岳方面を見ていると、風で一瞬ガスが晴れ、大キレットの一部が顔を出した。写真を撮る間もなくガスに隠れてしまったが、見えた！

北穂小屋から急降下しているナイフリッジ状の岩尾根。○×ペイントが沢山付いてる。何この角度！登るにしても降りるにしても確実に無理ゲーや！自分が行けるとはとてもじゃないが思えない！

もう少し長居したかったが、そろそろ出発しなくては。6人いた先客の内4人はもう出発してしまった。気分的に自分がラストになるのは怖いので、トイレを済ませて下山の支度を始める。結局座っての休憩は無し。ザックを下して燃料補給をしただけ。滞在時間は20分程度。石段を登り、再び北穂の山頂へ。グルッと見渡すが視界はゼロ。まあ仕方ない、今度は晴天時にまた来よう。

さらば北穂高岳！さらば北穂高小屋！

午前9時35分。北穂高岳山頂、3106mより下山開始！

山頂を下ると目の前に折った割り箸を逆さまに突き刺した様な岩峰が見える。往きは確認しなかったけど、これが有名な「松濤岩」だ。そういえば部室で

「2日目、お昼に北穂登頂したら夕方まで何すればいい？荷物軽くして行くので、1日目みたいな量の酒とつまみは持っていかないからさ。」

「まあ取りあえずは散歩じゃない？小屋に荷物置いたら色々散策すればいいよ！お勧めはまず南峰だね、特に標識も何もないから適当に。後は是非滝谷を覗いて欲しい。北穂の醍醐味は何と言っても滝谷だからね。松濤岩の右側から裏道があるんだけど、取りあえずは覗き込んでみて！マジで凄いよ～！」

なんて会話をしてたのです。カウンターでね。で、その「松濤岩」。根本に×ペイントがある。この×の方向に行くと滝谷が覗けるらしいんだけど、無理！行っちゃいけない場所だよこれ。それに南峰も「適当に」って言われたってどこをどうやって？そもそも散歩って何？そういうロケーションじゃないでしょ！部室で会話している時はふんふん、なるほどー、メモメモ、なんて感じだったんですが、いざ現場に来てみるとトンデモナイ場所じゃないですか！一体全体何を言っているんだ、あの御仁は！！

松濤のコルを通過して一登り、北穂分岐の標識に来た。振り返るとガスの中に東稜が見える。良く考えたら南陵ルートってこれでも一番易しいルートなんよね。南陵が嫌なら後は大キレットで南岳に行くか涸沢岳通って白出のコルに抜けザイテンで下りるか。どちらもとても一般ルートとは思えない死亡遊戯。これがこのエリアでバリエーションとなると、飛騨側の滝谷とか東稜ルートとかになるんだけど、もうレベルがあまりにも違い過ぎる。近場の低山(例えば丹沢とか)のバリ道って地図に載ってないとか道がないとか、基本その程度じゃん。槍穂エリアのバリ道は全く違う。技術の無い人間が踏み込んだら確実に死ぬ。そういう場所なんだと実感する。

ちなみに岩に数字が書いてある所、後で確認したらあれってテント場だったのね。ホントもう、意味わからん。あんな場所までテント担いでくるわけ？軽量化して南陵往復するのだって結構大変なのに、テン泊装備で大キレットから縦走する人とかいるんだろうね、きっと。次元が違い過ぎるわ！それとテント場と小屋、めちゃくちゃ離れてね？さっき歩いた感じだと小屋まで20分はかかるぞ？トイレとか買い物とかその度に往復するんかいな。

そのテント場に差し掛かる手前で山岳救助隊のパトロールの人とすれ違った。お馴染みの赤と黄色の制服着てる人ね。ハーネスにはガチャ装備。多分ザックにはロープとか入ってて重たいんだろうなあ。でもまるで平地を散歩するかのごとく、この岩稜帯を颯爽と歩いてる。やっぱりこういう人しか来ちゃいけないんだよ、このエリアは。

とにかく先を急ごう。「慌てず急いで正確に」ですよ。先に小屋を出発したであろう、先行者1名が視界に入る。後ろはすれ違ったパトロールの人しかいない。視界に誰も居ないのは何かあった時に怖いので、先行の人と同じペースで歩いて行く。それにしても今回驚いたのはスマホが全く圏外にならないってこと。昨年まではauはだいたい徳澤までで、横尾から先はずっと圏外だった。それが横尾山荘でもつながるし、涸沢までの区間でもずっと圏外にならない。辛うじて繋がる、ではなく常にアンテナ3本。北穂の山頂からもTwitterに写真を投稿できるレベルだった。しかしスマホも携帯も相手があってのこと。山では概ね繋がるdocomoは今回、涸沢から先は全くの圏外(SBは論外)なのだよ。何という逆転現象！またウチラの副部長が頑張ったのかしら？

※うけもち登山部の副部長は富士山の全山小屋50ヶ所に歩荷でWi-Fiを設置してニュースにも出た某電話会社の人。山岳指導員の有資格者で自分らにとってはリアル「山の先生」です。

自分以外の3人は全員docomoなので、今回涸沢に上がってからはスマホでの連絡は無し。こちらは電話が常に繋がるので、最悪の場合どこでも救助を呼べるという安心感があるのはとても良い。などなど考えながら下山を続けると、先行の人に追いついてしまった。道を譲ってくれたので、仕方なく先を進む。とにかく独りだと色々と考え事をしてしまう。しかし上の空で歩くのは危険ですよ、集中しなくては！とにかく転倒だけは絶対にしてはいけない。進行方向(つまり登ってきた道)に転んで滑落した場合は怪我で済むかも知れないが、側面に滑落してしまったら多分死ぬんじゃないか？

「足を雑に置かない。足を雑に置かない。」

念仏の様に唱えながら、往きは腕を使わなければ登れなかった岩場を降りて行く。立ちバランスが危ないと思った所は躊躇せずしゃがみ姿勢で降りる。時間はかかるが安全優先だ。なお、腕も使うためかなり疲れる模様。二ヶ所目の鎖場を通過し、ちょうど3名が引き返した地点を少し過ぎたあたりで無線にコールが。二足歩行可能な場所だったので応答するとHGさんだった。最初のツルツル岩辺りを通過中らしい。こちらは無事登頂して下山中である旨を伝える。いやー、今回ほど無線を頼もしく思ったことはない。スマホは前述の通りだし、無線がなかったらパーティーの分断はあり得なかっただろう。最初の2名2名はともかく、この1名3名の分断は絶対になかった。スマホはダメでも無線で常に繋がっているという安心感、本当にありがたみを感じたよ、今回。電話と違って「かける」動作は出来ない代わり、ラジオと一緒で「聞く」だけが出来るからね。お互いの現在位置を報告しあうだけでも十分効果がある。そして安心感は精神的ゆとりに直結し、プレッシャーによるミスを軽減、しいては安全の向上につながるわけですよ。

南陵取り付きの鎖場・梯子場の手前で、更に先行2名のカップルを追い越した。女性の方がバテ気味なのか動きが悪い。追いつくと道を譲ってくれた。梯子と鎖を降りて、往きに小休止した場所で再度小休止を取る。この頃から右足の小指の爪の痛みが我慢出来ないレベルになってくる。無線を飛ばすと今度はOG原さんが応答した。もう涸沢小屋に着いてお昼を食べているとのこと。こちらの現在位置を知らせ、QSOを終える。昨年の蝶ヶ岳の時も思ったが、この辺は全然電波が飛んでない。やってる人が来ないのか、ロケーション的に電波が入らないのか、メイン待機の状態でもCQが全く出ないのだ。他の山だったら標高を上げれば上げるほど、そこいら中からCQが飛んできて、うっかりすると自分宛てのコールを聞き逃すほどだ。サブ探すのも一苦労で直ぐ混線するのだが、槍穂エリアはメインで会話してても全く問題ない。ワッチしてる人もいないんだろうか？

小休止中に上で追い越したカップルが再び自分を追い抜いて行った。一服しながら目線で追うと、女性の方が転びまくってる。多分足がガタガタで力入らんのだろう。この状態は非常に危険で、やっちゃいけない場所でヨロけて転ぶとそのまま滑落してしまう可能性がある。相手の男性は特にフォローする様子もなくどんどん先に行ってしまう。大丈夫か？こんなんで。

自分も小休止を切り上げ、出発。当たり前だが直ぐ先行の女性に追いついた。再び道を譲ってもらう。話しかけたら今日はこのまま上高地まで下りてその足で関西方面まで帰るのだそうだ。マジかよ、見た感じ絶対無理じゃね？ヨレヨレじゃねーか。

「無理せずお気をつけて！」

ツルツル岩の後に出て来るガレ場の上で先行カップルの男性の方が立ち止まっている。どうも女性を待っているのではなく、先行者をトレースしたいみたいだ。くそー、自分も同じこと考えてたのに！仕方ないので〇ペイントをたどってガレ場を下降する。すると間隔を開けて男性がついてきた。女性を待たなくてよいのだろうか？気にせず先に進む。ツルツル岩を通過してハイマツ帯に入った辺りで振り返ると、彼はいなかった。まあどうでもいいか。

「足を雑に置かない。足を雑に置かない。」

再び安全祈願の念仏を唱え出す。北穂沢まで南陵側面を降りた辺りで再びOG原さんから無線が。右足の小指の爪が痛くて仕方ないので、小休止を兼ねて道端に座り込む。応答すると、実はまだ涸沢小屋に居るとのこと。現在位置と残りの予想所要時間を伝えると、こちらが下りるまで涸沢小屋で待つとのこと。あまり待たせてはいけないので休憩を切り上げ、歩き出す。ここまで下りればもう危険な岩場はないのだが、とにかく右足の小指の爪が痛い。緊張が緩んで我慢していた痛みを自覚しだしたのだろう。

行きに見た小さな木の標識を右折する。テラスからはHGさんが手を振っている。

午前11時55分。雨に降られることなく無事、北穂高岳を往復。涸沢小屋に戻ってきた。

その④へ続く・・・。

■写真解説(日記の都合上、時系列はバラバラです)

①南陵取り付きの鎖場。下山者が結構居たのですれ違いのためここで小休止。登頂まで休憩したのはここ1ヶ所だけでした。

②鎖場を超えると次はハシゴが登場！このハシゴを登り切った所が南陵の稜線です。稜線に出ると反対側の景色が開け、ザイテングラートや涸沢岳・白出のコル・奥穂高岳などが一望出来るようになる。

③南陵の稜線上から涸沢カールを見下ろす。素ン晴らしい眺望です！涸沢ヒュッテとテント場がミニチュアの様。ジオラマみたい！

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