mixiユーザー(id:277042)

2016年05月04日11:23

530 view

経済談義第22回:人口減少と物価の下落について(2)

経済談義シリーズ第22回です。日本経済超悲観派の僕がその論拠を解説していきます。



前回の記事では、人口減少とデフレに関する統計データについて、明大飯田准教授による調査を紹介しました。
各国の人口増加率と物価上昇率についてグラフ上にプロットしたところ、その相関係数はほぼゼロであって両者は無関係であるという説でした。
これを根拠に、楽観派の評論家の皆さんは、人口減少の日本でも高い成長率は簡単に実現できると主張してきたわけです。
今回の記事はその続きで、この主張に反論します。



前回の記事に引用させていただいたグラフを見ると、なるほど確かにプロットされた点はバラバラで、関係はないように見えます。が…
さらに調べたら、上の記事を再検討・反論した記事がありました。

先進国の人口成長率と物価上昇はやっぱり関係あるんじゃないか?
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20120530/1338386595

abz2010さんという方の記事で、飯田氏と同様に、各国の人口増加率と消費者物価変化率をグラフにプロットしているのですが、飯田氏と違うところは、対象国を「先進国」と「発展途上国」に分けているところです。一人当たりの実質GDPを基準に分類したとのことです。

「先進国の人口増加率と物価上昇率」と、
「発展途上国の人口増加率と物価上昇率」
の2つのグラフができるわけですが、これを見ると、相関がないどころか明らかな相関があります。
しかも興味深いことに、先進国と発展途上国で傾向が全く異なっていて、

・先進国においては、人口増加率と物価上昇率に正の相関がある。人口が増加する国では物価も上昇する。
・発展途上国では、人口増加率と物価上昇率に負の相関がある。人口が増加する国では物価は低下する。

ということがみてとれます。2つのグラフのうち先進国についてのグラフを引用・掲載させていただきます。

先進国と発展途上国で傾向が全く異なることの原因として氏は、需要と供給の関係を挙げていて、先進国では供給過剰、発展途上国では供給不足であるために違いが生まれているのではないかと推測しています。
(需要と供給については、僕の日記「経済談義シリーズ」をご参照ください)


とまれ、飯田氏はいわば傾向が異なる2枚のグラフが重なったものを見ていたために、人口増加と物価上昇に関係がないという誤った結論に達してしまったものと思われます。
そして、そのグラフを引用した上念氏はその誤りを見抜くことができなかったということです。



なお前回の記事のコメントとして、データの選択についてコメントをいただきました。
各国のデータをもとに相関関係を調べたというが、どの国を選ぶかによって結果は大きく変わってくる、都合のよいように恣意的に選ばれているのではないかというご指摘です。
まったくおっしゃる通りで、これこれのことがデータから明らかなどとという論調にたいしてはデータの選択についても検証が必要です。
そこで、飯田氏とabz2010氏のそれぞれのグラフについて、対象国の選択について確認しておきましょう。


まずは飯田氏のグラフについてですが、記事の中の注釈によると、対象国については以下のように記載されています。これはIMFの分類によるものだそうです。
対象国:Czech Republic, Denmark, Estonia, Finland, France, Germany, Greece, Hong Kong SAR, Iceland, Ireland, Israel, Italy, Japan, Korea, Luxembourg, Malta, Netherlands, New Zealand, Norway, Portugal, Singapore, Slovak Republic, Slovenia, Spain, Sweden, Switzerland, Taiwan Province of China, United Kingdom, United States


一方、abz2010のグラフについては、氏の以下の記事に説明がありました。
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101011/1286799930
国際貿易投資研究所の統計データから、一人当たり名目GDPの上位20か国という基準で選んだそうです。
20か国というサンプル数が適切かどうかという議論は一応ありえますがともかく、都合のいい国々を勝手に選んでいるのではないことがわかります。


結果の違いの要因は不明ですが、可能性としては以下のような点が考えられます。
●両者に共通する可能性としては、例えばIMF分類に香港やルクセンブルクといった極小国が入っています。一般に小国では、分母となる経済規模が小さいので、様々な要因により変化率は大きくぶれがちで、ばらつきの検証は難しくなるかもしれません。
●IMFの分類にはマルタ、チェコ、スロバキアやスロベキアという中欧・東欧の国々が複数含まれていますが、中東欧の比重が少し高くなりすぎる気がします。それに正直言って、これらの国が主要先進国に分類されるというのは違和感を感じませんか。
●産油国など資源国の扱いをどうするか。IMFの分類には含まれていませんが、一人当たりGDPでは上位に入ってくるでしょう。これらの国々は工業的には先進国とはいえませんが、人口動態の観点からは先進国に近いと考えられます。



この例から得られる教訓は、相関関係のグラフ一枚だけをみて早急に結論を下してはいけないということです。
2つの指標に全く相関がないように見えても実は隠れた関連があるかもしれないし、また逆に、2つのグラフの形がよく似ていて因果関係があるように見える時でも、それは因果関係ではなくて、別の要因の2つの影響側面を並べてみているだけ、あるいはまた単なる偶然なのかもしれません。
グラフの上っ面だけを見るだけではなくて、その背後にある要因や原理がなんなのか、誤差要因がないか、よく検討して見極めなければなければならないのです。

逆に言うと、奥に潜む真の要因をよく検討しないまま、グラフ一枚示しただけで即結論に飛びついて議論を終わらせようとする人を見かけたら、眉にツバをつけて疑ってかかったほうがよい。
僕は大学でそう教わりました。

そして、僕が楽観派と呼ぶ学者や評論家の皆さんは、まさにそのような論法を好んで多用する傾向があります。
僕が彼らに対して常に懐疑的であるのはそういうところからきています。



連載バックナンバー:
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942875057&owner_id=277042
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年05月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031