mixiユーザー(id:277042)

2015年11月08日12:18

831 view

経済談義第14回:クロダノミクスと物価目標

経済談義シリーズ第14回です。日本経済超悲観派の僕がその論拠を解説していきます。



報道によると、日銀の黒田総裁は記者会見で、年率2パーセントというの物価上昇目標の達成時期を、従来の「2016年度前半ごろ」から「16年度後半ごろ」へ半年間先送りすると発表したそうです。

■物価目標、半年先送り=原油安で「16年度後半」に―日銀
(時事通信社 - 10月30日 17:02)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=3689321


「デフレ脱却」すなわち物価上昇は安倍首相の掲げるアベノミクスの眼目のひとつです。安倍首相の意を受けて日銀総裁に就任した黒田氏は、年率2パーセントの物価上昇を2年程度で実現する、と期限を切って宣言しました。

黒田総裁は物価上昇に向けいくつかの手を打ちました。特に、いわゆる「黒田バズーカ」は、莫大な量の国債を買い取ることで市場に貨幣を供給するというものでした。貨幣が市場にあふれれば貨幣の価値が下がって、その分物価が上がるだろうという、経済学でいう「貨幣数量説」に基づいた施策です。

黒田バズーカは金融市場に大きな衝撃を与えて、株価などは瞬時に上昇しました。その意味では、物価上昇政策ははアベノミクスというより「クロダノミクス」と呼ぶほうが適切かもしれません。しかしその一方、肝心の物価はなかなか思うように上昇せず、当初は2015年春ごろのはずだった達成時期を、先延ばしして今に至っているという状況です。


今回目標達成を再延期する理由として黒田総裁は、原油の値段が大きく値下がりしたという点をあげています。原油の値段自体は物価指標には含まれていませんが、自動車や発電所の燃料代が安ければ、それは当然いろいろなものの値段に効いてくるわけです。
しかし石油が安いというのは、輸入国である日本にとっては本来好ましいことのはずです。それを嘆いたり言い訳にしたりしなければならない経済目標っていったいなんでしょうか。

あるいはまた、物価の指標を見直すようなことも黒田総裁は考えているようです。
世の中にはいろいろなものがあって、値上がりするものもあれば値下がりするものもあります。そのうちどれの価格を参考にするかによっていろいろな物価指標があり、その指標の動きも異なってきます。これまでの「コアCPI」という指標から、原油価格と関連の低いほかの指標に判断基準を変更しようというのです。
しかしこれにしても、その時々で都合のよい数字をもってくるというのでは、政策としての一貫性が問われてしまいます。


当初の期限が守れなかったからといって政策が失敗したと即いえるわけではない、大きな問題ではない。前回の先延ばしのときにはアベノミクス支持派の人たちはそういって黒田総裁を擁護しました。今回もおそらく同じことをいうでしょう。

一般的な話としてはそれも一理あります。しかし、ことアベノミクスという政策についていえば、数値目標を期限どおり達成できるかどうかは、政策の成否に大きく影響するのです。それは、アベノミクスが世間の「気分」に働きかける政策だからです。


アベノミクスは基本的にはケインズ経済学を基礎にする政策ですが、ケインズ経済学とは異なる点もあります。なかでも大きな違いは、特に黒田総裁が力説する「期待インフレ率」という概念です。

物価が上がることをインフレというわけですが、ここでいう期待インフレ率というのは、実際の物価上昇率ではなく、今後どれだけ物価が上がっていくか、市場が「予想する」上昇率のことです。

これからインフレがやってきそうだ、物価が上がりそうだ。
世の中全体がそういう雰囲気になれば、大きな買い物は値上がり前にしておこうとか、工場建設などの投資を前倒ししようとか、金利が低いうちに借金しておこうとか、そういう人や企業が増えて、結果としてお金が回るようになるだろう、景気がよくなるだろう。
たとえるなら、インフレ期待という笛を政府と日銀が吹いて、国民とお金に踊ってもらおうという目論見です。

ただし、そうして笛を吹いて国民に踊ってもらうためには、吹き手が全幅の信頼を得ていなければなりません。
物価が上がるのを見越して無理な買い物をしたあと、予想に反して物価が下がってしまったらかえって損失が出てしまいます。そういう疑いをもたれないよう、市場に疑念を抱かせないよう、政府と日銀は常に期待を上回る実績を上げ続けなければならないのです。
そのような事情があることを考えれば、政策のリーダーがあれこれと言い訳をして取り繕うようになってしまった時点で、クロダノミクスが成功する確率は相当低くなったとみるべきでしょう。


クロダノミクスはもともと賭けの要素が大きい政策ですから、それが成功していないこと自体は、悲観派から言わせてもらえばなかば予想されていたことであって驚きはありません。ただ、、黒田バズーカなど劇薬のような政策を投与したことによる深刻な副作用が今後現れてこないかどうか、その点を悲観派はとても心配しています。そういう悲観的な予想が当たらないことを祈るばかりです。



連載バックナンバー:
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942875057&owner_id=277042
2 9

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年11月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930