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【オリバト+】コミュの【〜Freely Jail〜】

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文:るぱん

※るぱんさん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(29)

Freely Jail





「知ること、知っていること」は幸福なのか?
それともやはり「知らないこと」こそが幸福なのか?






〜episode1〜

「おい、巻(マキ)。ちょっと来い」
ニヤニヤしながらオレを呼ぶ。

始まった。コイツはいつもそうなんだ。
仕事中のミスはどんなに些細なことも見逃さず

相手を叱る…んじゃあなく、「オマエ頭悪いなァ」と見下す。
気に入らない相手限定。
それが日課。

「はい!」

オレは嫌な顔一つしないで返事をする。
悲しいかなオレってば新入社員。

「お前さァ、こんなに荷物並べたら通れないだろ?」

確かに荷物が多い、非常に通りにくそうだ。
「はい。」
「なァ、こんなに荷物あったら通れないだろ?」
二回目。これもいつものこと。返事をしたって繰り返す。
まるで相手が理解できていないから、しかたなく言い直してやってるって顔。


根暗な性悪ジジイ。


「はぁ。」
言ってる事は分かったが、オレが呼び出され説教されてる理由が分からない。
オレは確かにこのあたりの荷物の整理はした。しかし今の状況はオレの知っている状況ではない。
オレ以外の誰かが荷物を持ってきて加えた。そういう状況。

「『はぁ。』じゃあないんだよ。こんなに荷物があったら通れないだろ?」
三回目。クソッ!イラつく。
「これは自分がやったんじゃあないんですが。」
さっさと誤解を解いて仕事に戻ろう。
こんなときばっかり仕事をしようって気分になる。
「少しは頭使え。な?通れないと仕事になんないだろう?」
「あの、この状況は自分も今初めて見たんですが。」
「知らねェよ。頭使って仕事しろ。な?」

うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

ビシッ!ビシビシビシッ!

…
……
………
「スンマセン」
「そーいうことだ。戻れ。」
「はい。」

新入社員はツライ。
この不景気、新卒の内定取り消しなんて話があるくらいだ。
次の働き口があるかなんて保障はない。
問題は起こさないほうが良いのだ。
今日も長い一日だった。
なんでこんなにも仕事ってのはつまらないんだろうな。
時計の針がいつもの倍かけて進んでるみたいに感じる。
いつもと同じ感想を思い浮かべながら寮へと戻る。

ガチャ

「ただいまァ」
っても誰もいないんだけどとりあえず言う。
あんたの周りにもいない?そーいうヤツ。

6畳程の部屋にあるのは机、クローゼット、ベッド。
いたってシンプル。
先輩に寮に住んでるって話をすると決まって言われる。
『あの独房みたいな部屋だろ。』
全く同感。

自由に出入りできる牢獄。
そんなイメージ。

まぁここを出て暮らしていけないっつー意味じゃ自由でもないかもな。
4月から今の会社に入って、同時に入寮。

そして半年が過ぎていた。

「ダイコクゥ、お前さんさストレス溜まってんねー。」
「うぉ!!びっくりした!!」
気配もなく突然現れ声をかけてくるコイツはワラシ。
オレと同じ、社会人一年生。
「まぁな半年もキレなかったのは人生初だな。オレも大人になった。
もっとも、いつキレるかわかんないけど。」
「どんだけ短気だ…」
やれやれと呆れ気味にため息一つ。
オレからしたらなんで皆我慢できるのか理解『不能』。
「で、なんか面白いことでもあんの?」
ワラシのニヤニヤ顔はそういうサイン。
「お前さん格闘技とか超能力とかギャンブルって好き!?」
「どっちかっつーと自分が暴れる方が好きだけどな。
その組み合わせってことはなんかヤバい感じのイベントか?」
テレビで見れるファイトはクリーンなエンターテイメント。
プロレスはプロレスで面白いとは思うよ。三沢カッコ良いよ三沢。
でもやっぱりケンカはリアルじゃないと。そこにリスクはつきものだろ。
それが面白い。



…あ?
…超・能・力?

「実はよ、この寮のなかにファイトクラブがあるって噂なんだ。」

「おい、今さらっとおかしな言葉が挟まらなかったか?」
「だからファイトクラブがあるって話だよ。」
「いや、その前に。超能力とかって言わなかった?」
「言ったけどそっちの信憑性はイマイチだな。
噂ってのは尾ひれがつくもんなのさ。」
「だよな。」
「でさ…」

このあとオレは噂についてワラシに聞いた。

才能のあるヤツしか入れない。
入るためにはテストがある。
そのテストで死んだヤツもいるらしい。
行きたいと思うヤツが行けるとも限らないし
行きたくないと思うヤツが行ってしまうこともある。

「こんなんだから超能力って尾ヒレがついてんのよ。多分。」
ワラシは締めくくった。

なんとも噂話らしい噂話。
以前のオレにはちっとも信じられない話だけど。
だってそうだろ?
こんな狭い寮のなかでファイトクラブがあるなら
そんなの隠しきれる訳がない。
音もするし、怪我人だって出るだろ。
それに気づかないなんてことはないはずだ。
まぁ見たこともない人がこの寮にいるのは確かだけど。


でも今のオレは信じちゃうんだよ。
先輩が一人消えてるかんな。
それも今の話によく似た話をオレにした直後に。
今日もいつもと同じように、退屈な仕事を終え、寮へと向かう。
めっきり寒くなった最近はポケットから手を出すのも億劫。

ファイトクラブの噂を聞いて三ヶ月が過ぎていた。
こっちから探そうと思っても手がかりなんてない。
ワラシの話以上のものはなかった。

寮についていつもどおり玄関のオートロックにキーナンバーを入力する。
「0810、E…っと」
ウィィィンと音がしてサムターン式の鍵が開く。

はずなんだけど?

ウィィ゙ィ゙ィ
   ウィィ゙ィ゙ィ
 ウィィ゙ィ゙ィ

「アァん!?」
仕事で疲れてんのにイラつくぜ。
ガラス戸をブチ破ってやりたくなる。
でもそんなことはしない。
オレは大人になったんだ。ハハ…

「なんか引っかかってんのか?」
指なんか入らないのは分かっていたけど
ドアの隙間をチェックする。
一応ね。
あるだろ?無意味なのを分かってても思わずやっちゃうこと。


バチィッ!!


「イッテェッ!!!!」

ドォッバァァーーーン!

背後にあった植え込みに突っ込み強かに腰を、頭を打ちつける。
アニメで頭になんか降ってきてぶつかったとき、
キャラクターの目の前に星が出るってのよくあるだろ。
あれホントなんだな。

「クソッ!なんなんだ!電気系統がおかしかったのか!?」

ウィィィン…
何事もなかったかのように寮の入り口は開かれた。
なんともツイてないアフターファイブ。
玄関で下駄箱からスリッパをとりだし(当然ボヤきながら)履き替え
階段を上り五階の自分の部屋まで帰…

れなかったらしい。

四階まで上ってきたところで突然全身に毒入りの電流を流されてるような激しい痛みに襲われた。
オレが覚えてるのはそこまで。

その後意識をなくし、たまたま見つけたワラシが車で病院に連れて行ってくれたらしい。
その後四日間もの間、意識不明で高熱にうなされていたらしい。
気づいた時には病院のベッドで汗だくだった。
退院して一週間が過ぎた。
オレが入院していたことなんか誰も知らないって感じで淡々と毎日が過ぎていった。
むしろオレが休んでいたことすらこいつら知ってんのか?

「おい、巻。ちょっと来い。」

そうだよな、コイツが突っ込まない訳がない。
突然欠勤したオレなんてのは、格好の的だ。

「この書類な、ここ空いてるけど良いのか?」

ん?休みの話じゃあない…?
この書類はたしか休む前に提出した、四半期ごとにある自己評価のシートだ。
まさか、本当にオレが休んでたことを知らないのか?
お咎めなしなのか?

「継続しているところは書かなくて良いと先輩に聞いたので空白なのですが。
書いたほうが良いですか?書いたほうが良ければ書きます。」
「書いたほうが良いと思うが。強制はしない。」
「はい。では書きます。」
「書いたほうが良いと思うが。強制はしない。」
毎度毎度よくもまぁ飽きずに…
「えぇ、ですから書きます。」
「良いか?話を聞け。書いたほうが良いと思うが。強制はしない。
 仕事が出来ないんだから、日本語くらい理解してくれよ。」

アァ゙!?
ア゙ァァァァァァん!?

何言ってんだコイツ。
コイツ絶対ェ連立方程式解けねぇタイプ。
もっともそれ以前の問題かもしれないけどな。
つーかなんだ日本語がどうこうって。

とにかくそのニヤけ面をやめろ。

「で、どうする?」

ふぅ…オレも散々我慢してきたが限界がきたらしい。

プッツゥゥゥゥゥン!!!!

「あんだとコラァッ!!」




『待チナヨ。』

ズズ…



「ついに逆ギレか?…ん?」
「アァ?ア゙!?」




(動けねェ!コイツをブッ飛ばしたいのに!)
『ボクハキミダ。ダカラ動ケナイ。』
ズズズ…


金縛りにあったみたいだ。
腕を振り上げることも出来ない。

(何だコイツは!?)
オレの目の前には細身ながらも引き締まり、
しなやかな身体つきをした「人」のようなものが立っていた。
人に見えるソレは剣も盾も持ってないけど、
コロッセオにいるようなグラディエーターみたいなカッコをしていた。
パワーよりスピードやテクニックで勝負するタイプ。
全体的なデザインは左右非対称でありながらも、
均整の取れたものを美しいと感じるような美しさがあった。

『待チナヨ。ダイコク。キミガスベキコトハ、コンナクダラナイヤツヲ
ブチノメスコトジャアナイダロ。キミハスベキコトガアッテ今ココニイル。』


(そうだ、オレは先輩を探さなきゃあいけない。
 世話してくれた先輩との繋がりを切っちゃあいけない。)

「い、いえ。スンマセンでした。」
オレは急に冷静になった気がして頭を下げた。
「そうか、分かればよし。」
満足げに笑うとヤツは自分の席へと戻っていった。

「で、オマエはなんなんだ?」
グラディエーターに話しかける。

『サッキモ言ッタロ。ボクハキミダ。呼ブノナラ
【アンバランス】ソウ呼ンデ。』

そういうとソイツ【アンバランス】はふっと消えてしまった。
不思議な経験をしたそのあとは仕事はほとんど手につかず
アイツに嫌味を言われっぱなしだった。
でもなんでかプッツンするには至らなかったな。
こんな穏やかな気分は初めてだ。

そんなことを考えているうちに寮に着いた。
習慣ってヤツは凄い。いつ曲がったのか全然覚えていない。

ズォオォォォォ…

いつもの寮に着いたはずなのに何かが違う気がする。
思わず寮を見上げてしまった。
気のせいか…?


ジィィィ
玄関を入ると誰かに見られているような奇妙な感覚があった。
周囲を見回すが当然誰も見当たらない。

「クックック。」

「ッ!?」
突然の笑い声。
途端に得体の知れない気持ち悪い感覚が上から迫ってきた。
気づくとオレは笑い声から遠のくように飛んでいた。

「所詮新人か。ヌルいな。」
「アァ゙!?」

廊下の奥から男が出てきた。
ほっそりとした体躯、無精ひげの生えた青白い顔をしていた。
オレの見立てじゃあ喧嘩なら絶対に負けない。
が理由は説明できないが一筋縄ではいかない。
とっておきを隠している。
そんな印象があった。

経験からするとバックに本職がいたり、ナイフやレンチをもってたり、
実は格闘技の心得があったりするヤツがこんな雰囲気だ。


「凄んでんじゃあないよ。新人君。」
「新人新人ってうるせェな。なんなんだアンタ。」
「ふぅ、やっぱりそこから説明しなきゃあならないか。」


「オレは布施一義(フセ カズヨシ)
今夜の君の 対 戦 相 手 だよ。」

「へぇ…(そうかこれがファイトクラブ。)」

ベキンッ!ベキンッ!
慌てて構えるのもカッコ悪い。
首を鳴らし悠々と余裕を持って構える。

「準備は良いみたいだね。始めようか。



【マカブラ】ァッ!!」

ズササァァァ

フセと名乗った男はカッと目を見開き叫んだ。
すると腕の長い【アンバランス】のような人型のヴィジョンがフセの前に現れ音もなく迫ってきた。

「んなッ!

予想外の事態に動揺しながらもヴィジョン【マカブラ】に向けて拳を放つ!
完璧なカウンター。

ソラァッ!」

フォン!

拳はすり抜け、オレはその勢いでバランスを崩しそうになる。

「ッとと。」

その間に【マカブラ】は背後をとった。

「ククッ。そこだ。」

【マカブラ】は両手を振りかぶり、手のひらをオレに叩きつけた。

バシィィィーン!!
背中に衝撃が走る!

「ガフッ。」

ひょろい見た目の割りにいいもん持ってる。

が、まだいける。
このくらい、昔の喧嘩で経験済み。
あいつはゲーセン計測300kgのパンチを持ってた。

ただこっちのパンチが当たらないのはいただけない。
追撃を受ける前に向き直る。

「『スタンド』に生身の拳が当たるかよ。ククッ。」
「『スタンド』…?」

「やれやれそこからかい。」

ユラァ ヒュッ! ユラァ ヒュッ!

【マカブラ】がボクサーがサイドステップを踏むように床に届く程長い腕を右に左にけん制しながら近づいて来る。
身長170cm、ミニマム級。

オレも左右に体を振りながらバックステップ避ける。
右、左、大きく右フック。右、左、大きく右フック。右、左、大きく右フック。
こんなワンパターン避けるのは楽勝。
それよりもこっちの攻撃をどうやって相手に当てるか、だ。
いつまでも笑いやがって。イラつくぜ。
この【マカブラ】をほっといてフセをぶっ飛ばすのが理想的だが、
長い腕とその動きは実に効果的で、攻撃を避けることは出来ても、コイツを抜くことは難しそうだ。
そう遠い位置にいるわけでもないのに。クソッ!
たいしたダメージでもないし、開き直って突撃だッ…

ドンッ! ピタァ!
「んん!?」

「ここまで避けきるとはなかなかの運動神経と言いたい。


なんてな。」



ゴゴ…ゴゴゴゴゴゴゴゴ ゴ ゴ…

(ヤバい!)
ツゥーっと冷や汗が流れるのが分かった。

「気づいたか?自分がヤバい状況であることに。」
そう。オレはハメられていた。
相手の攻撃はワンパターンだったんじゃあない。
避けさせられていた。そして誘導されていた。
そこは壁際。
ただ壁際に追い詰められただけならなんてことはない。
いくらでも打開策はあるだろう。
今ヤバいのは。

背中が完全に馬鹿デカい共用の下駄箱にくっついちまって動けないってこと。

「ぐむむ…!」
服が引きちぎれても良いくらいの力で引っ張ってるのに剥がれやしない。
接着剤やなんかとは質が違う。もっと強く超常的な力でくっついている。
ただただ下駄箱がガチャガチャ鳴る音が響いていた。

「無駄だ。それはオレの【マカブラ】の能力。

オレから視線を外すと話し始めた。
こいつ絶対自分に酔うタイプ。

本当に何も知らない新人君みたいだから少し説明してあげよう。
オレの持っているこのチカラ。これは生命エネルギーが造りだすパワーある像(ビジョン)。『スタンド』呼ばれる超能力だ。
この【マカブラ】が見えているということは新人君もスタンド使いであるのだろう。

そしてこの『スタンド』にはいくつかルールがある。
…ん?なんでオレがご丁寧に説明してやってるか疑問か?

もっともだな。
オレの目的はお前をぶちのめして勝つことだが、殺すことじゃあない。
どういうことかわかるか?
新人君。君がオレに負けたとしても次があるってこと。
まぁたまたまオレには殺す意思がない。ところがメンバーの中にはそうでないヤツもいる。
そしてこのファイトクラブの目的の為には新人君に死なれたら困るから必要な説明なのさ。


疑問に対する答えはこのくらいで満足か?それとその悪あがきも。無駄だ。クックッ。」

フセが明後日の方向を見て話していたのを良いことに
ばれないように服を脱ごうとしていたのもお見通しだったらしい。

「うるせェ!」
なんと虚しい反抗か。
下駄箱に貼り付けられたオレの言葉はまさに負け犬の遠吠え。

「聞きたくないなら聞かなければいい。オレは勝手に話させてもらう。
ルール1
スタンドに触れることが出来るのはスタンドだけ。
さっき新人君の拳はすりぬけたよな。
ルール2
スタンドが傷つけば本体も傷つく。
スタンドの頭が吹っ飛べば君の頭も吹っ飛ぶ。
ルール3
本体から離れて行動できる距離には限界がある。
オレの【マカブラ】は力はそこそこのパワーだがくっ付ける能力にパワーがいる。
だからあまり遠くへは行けない。その逆の場合もある。わかるな?

まぁこんなところだ。」

一通り話しきってフセは視線をオレに戻した。

「すっかり脱力して…諦めたか。ククッ。

さて、決着だ。」
フセが得意げに『スタンド』の講釈を垂れてる頃。

「(どこだッ!【アンバランス】!!)」

『スタンド』には『スタンド』で立ち向かわねばならないなら
オレには【アンバランス】のチカラが必要だ。

ズズ…
(言ッタダロウ?ボクハキミダ。呼バナクテモソバニイル。
チカラガ必要カイ?ソレナラ強ク念ジルンダ。キミノ精神ノパワーガボクノエネルギーダ。)

「(【アンバランス】、この引っ付くチカラを解除できるか?)」

(ボクノ能力デ剥ガスコトハデキナイ。デモキミヲ少シダケナラ動カスコトハデキル。念ジテ。強ク。)

「(少し…か。)」
さて、決着だ。」

寮の玄関、裸足のフセの足音がペタペタと迫ってくる。
とどめは近くから確実に、か。
オレが動けないからっていい気になりやがって。

「【マカブラ】。」

スタンドを発現させ、オレにとどめを刺すべく長い腕の拳を振り上げる。

「じゃあな。」

フセがその拳を振り下ろそうとした瞬間。


「(【アンバランス】ッ!!!!)」


「ソラァッ!」
ガショッ!!
オレは下駄箱を背負ったまま立ち上がり

ガショッ!!
拳を引きながら

ガショッ!!
体を捻り

ガショッ!!
拳を振るう!

ブンッ!!

「うぉっと!」
素早く感づいたフセは飛びのき拳を避けた。
いかんせんモーションがデカすぎる。

「クソッ。避けられた。

(でも分かった。いや思い出した?まるで昔から知っていたみたいだ。
【アンバランス】の持つチカラ。
コイツはバランスをコントロールする…
下駄箱の重心をオレの重心に重ねたのか。)」


「動けるのか…どういう理屈だ。
しかし自由自在とはいかないらしいな。
しかし、警戒に値する。ここからは新人君は自由に動けると思って行動させてもらう。」

フセは【マカブラ】の手のひらで床に触れ距離をとった。

「(警戒すると言いながら…そこは十分にオレの可動範囲内だぜ。)

(【アンバランス】ッ!!)


ガションッ!!!!


ソッ…!!?」

攻撃モーションが途中で止まる。


「クックック。さっきから慢心が過ぎるな。不用意に突っ込んでくるとは。
足元に【マカブラ】の能力を発動している。
足を押さえてしまえば反撃の心配はしなくていい。
スタンドを出せない君の上半身だけのパンチと【マカブラ】のラッシュ。結果は見える。」

ペタペタペタ
「(来いもっと近くに。)」

フセはもう目と鼻の先。

「さて、今度こそ決着…だッ!?」
ペタ ピタァッ!


ドッ ド ド ド ド ド ド ド ド…

「どうだい。フセさん。ハメられる側の気分は。冷や汗がたらーり、か?
アンタは動けるオレを警戒するあまり、オレが下駄箱をしょったまま動けても関係ない必勝法を探しちまった。
それがアンタの心の隙だ。ハマれば必勝。それが油断。勝負に絶対はないんだぜ。」

「なぜ…ここに【マカブラ】の罠が…」

「アンタの距離のとり方が不自然だったからな。床に何かをしたんじゃあないかと思ったのさ。
あとは簡単。手前で引っかかった振りをすれば、距離を詰めてくる。そうすればアンタは自分で仕掛けた罠にハマる。オレの目の前で。
冷静に見れば間違える距離感じゃあなかったはずだ。必勝法で目が眩んだな。

さてどうする?能力を解除するかい?」

「解除するわけながない。状況は何も変わっていない。この距離は【マカブラ】の射程距離でもある。」

「そうか、じゃあオレの勝ちだ。」

オレは勝ち名乗りを上げるように拳を掲げる。

「【アンバランス】ッ!!!!」

左右非対称、グラディエーターのようなヴィジョンが下駄箱の陰から現れオレの拳を叩く。
拳がグングン重くなるのを感じる。
支え切れなくなったオレはそのまま拳を振り下ろす!!

「【マカブラ】ァッ!ガードしろッ!」

「アンタが教えてくれたんだぜ。
『ルール1
スタンドに触れることが出来るのはスタンドだけ。』
オレの拳をソイツで防ぐことはできない。

ソォォラァァァァァァッ!!!!」

ゴッギャァアアアン!!

【マカブラ】を素通りした拳がフセの顔面を捉えた。
下駄箱とオレの全重量が乗った拳による攻撃に歯はブチ折れ
フセの顔面がひしゃげ膝から崩れ落ちる。
意識は遥か彼方へ。

【本体:フセ カズヨシ 
 スタンド:マカブラ  再起不能】
ドガシャァーン!

能力が解除されオレの背後から下駄箱が落ちる。
文字通り肩の荷が下りた。使い方がおかしい?まぁ気にすんなよ。

「フゥ。なんとか勝った…か。」

オレもその場にへたり込む。
リアルでリスキー。
このファイトクラブ本物だ。オレが探してたファイトクラブだ。
先輩へと繋がる細い糸。
こいつを放しちゃあいけない。手繰って手繰ってたどり着かなければ。

〜episode1〜
END
〜episode2 〜

パチパチパチ…

「随分久しぶりじゃあないですか。新入社員が初戦を勝利で飾るというのは。」

小太りの眼鏡をかけたオッサンの登場にオレは驚きを隠せない。

「りょ、寮長!?」

日曜以外毎日旨くもない飯を作ってくれたり、
寮生宛てに届いた荷物を預かってくれたり
寮内での雑務をこなし、管理する人。
なのに会ったのはこれが二回目。

「今年の新入社員のマキ君ですね。
ご存知の通り私は寮長。そしてこのファイトクラブの管理も任されています。」

「へぇ。」
人は見かけによらない。
喧嘩なんかとは無縁に見えるオッサンがファイトクラブの管理人。

「疑問に思われることが沢山あるでしょうから、ファイトクラブについて簡単に説明しましょう。
まず、いつ行われるか。それはまったくわかりません。

『スタンド使いは引かれあう』

ただその運命にまかされます。
次に、どこで行われるか。

それは私のスタンド【グレイテストヒッツ】の屋敷幽霊の中で行われます。」


本体:寮長
スタンド:グレイテストヒッツ
能力:実際にある建物の屋敷幽霊になることができる。本体は屋敷幽霊からの強制退去を命じる権利を持つ。


「屋敷幽霊?」

「幽霊になるのは生物だけではないんです。建築物や部屋が空間ごと幽霊になるものもあり、それを屋敷幽霊と呼びます。
私の能力はそれを好きな建物で作ることが出来ます。屋敷生霊といったところでしょうか。」

スタンドの存在があるなら屋敷幽霊もあるんだろうなとなんとなく納得してしまった。

「説明に戻ります。ルールについてですが、特にはありません。
先ほどフセ君の話にもありましたが、できれば相手を殺さずに勝負をつけてもらえるとありがたいですね。
会社にとってはどちらも大切な資産ですから。

こんなところです。では。」

人の良さそうな笑顔で話を打ち切ろうとする寮長。
肝心なことが聞けてない。

「ちょっと待ってくれ。大事なトコが説明されてないだろ。
このファイトクラブの目的はなんだ。」

「血気盛んな君のような人材のストレス発散です。」
即答。
ニコリと笑いながら説明する。なんつー白々しい説明。


「それじゃあ納得できねェな。『スタンド使いは引かれあう』アンタが言ってたことだ。
それはすなわちファイトクラブに参加できるのはスタンド使いだけってこと。

ストレス発散が目的なら何故スタンド使いしか参加できない?

この会社にはスタンド使いではない人間も沢山いるはずだ。
フセの話ではスタンド使いにしかスタンドは見えない。ってことは少なくともうちの上司はスタンド使いじゃあない。
【アンバランス】が見えてなかったからな。」


「…しょうがないですね。話してもしかたのないことなんですが。暴れられても面倒ですしね。」
しぶしぶといった感じで話を始めた。
最初っから言えっつーの。

「この会社は表向きはマキ君もご存知のとおり清掃会社です。ですが違う一面を持っています。



スタンド使い養成所なんです。」



「へ…ェ。」
トンデモ発言だけど続きを聞こう。
驚いてると思われるのはなんかダセぇ。

「この日本をコントロールしているのは誰だかわかりますか。
政治家?ヤクザ?警察?宗教団体?
全て正解であり。不正解でもあります。」

「どういうことだよ。ハッキリ言ってもらえるか。」

「まぁまぁ。
政治家、ヤクザ、警察、宗教団体。
どの組織もお互いにけん制しあってこの国はバランスを取っています。
みな聖人ではありません。もちろん争いごとはあります。
そこで登場するのが『スタンド使い』同士による闘争です。
揉め事があったときそれぞれ組織の代表のスタンド使いが戦い、勝利者の所属する組織の言い分が認められる。
そういうシステムなんです。すなわちスタンド使いがこの日本をコントロールしているのです。
いつ決まったとか、どうやって決まったかは誰も知りません。
多くの人員を必要とする抗争なんていう野蛮な手段は今ないと言っても過言ではありません。」

ようするにオレらが思ってるような社会の支配者のなかで特にクレバーでクレイジーな奴らがスタンド使いを使って日本社会を仕切ってるってことか。

「そして、その為のスタンド使いを作り、集め、育成し、売る。それがこの会社の裏の顔であり、このファイトクラブの役割です。」

「売る…?っつーことはもうこの会社にいない人間もいるのか。」

「えぇそうですね。どこかの組織のお眼鏡に適えばその組織に送り出されます。
…さて、そろそろお開きの時間です。」

「おいッ!待てッ!話は終わってないッ!」

「いいえ、お開きです。」
言葉と同時に黒い服の男が現れた。


どこから?


いつの間に?


ドッドッ ド ド ド ド ド ド…

オレの肩に男の手が乗っている。
おかしい。
さっきまでアイツは寮長の隣に立っていた。
触れられるまで全く気づけなかった。

「 …ボソ 」

ゾキャァァァァァァァァァン!!


オレは





何を





何をされた?

「ご苦労様です。では。


【グレイテストヒッツ】!!


マキダイコクに強制退去を命じるッ!」
気づくとオレはいつも寮に向かう道の途中に立っていた。
目の前には細い路地。寮まではもうちょっと距離がある。
あのファイトクラブが屋敷幽霊の中でやってるってのはこういうことか。


「ふゥ。ただいまァー。」

本物の寮に帰り、部屋について一息。
仕事後に喧嘩ってのはつらい。疲れた。
なにより普通の喧嘩じゃあなかったからな。




んん…?

なんか。

なんか妙だ。





「オレはフセってヤツと喧嘩して、勝った。
そんで登場した寮長に先輩のことを聞こうと思ったんだ。
質問はした。ファイトクラブの目的から…
ストレス発散とか言ってたな。
そのあとは…アヤシイ男が出てきて(耳元で『消し屋』とかって名乗って)、
屋敷幽霊から追い出された。




肝心なコトが…聞けてねェのかッ!?」

覚えていないのは仕方がないが
気分の悪いモヤモヤが胸に残る。

消し屋。

どこかで聞いたことがあるのに思い出せない。
すぐそこに答えが出掛かってるのに分からない。
どこにもぶつけようのないストレスでブッチ切れそうだ。

こういうときは動くに限る。
じっとしてても始まらねェ。
追い出された路地に向かうことにした。

オレは部屋を出て階段を駆け下りる。

途中で誰かとすれ違った気がする。

玄関に着いていつものスニーカーを履き、サムターン式の鍵を捻って寮を出る。

目的地はさっき出た細い路地。
寮を出て門を抜け左へ。
少し進んだところでまた左。

バシィーーーン!

「ってェ。」
曲がり角での正面衝突。お約束にも程がある。
ぶつかったのは綺麗な顔してるけど男。残念。

「痛ゥ。」

「悪ぃな。急いでたもんでよ…?」
ちょっと前なら間違いなくキレてたな。
さァーっと謝って先を急ごう。
「いや…?」
パンパンと手に付いた砂を払い、ズボンをはたき、立ち上がる。

先に進もうとお互いに顔を上げた瞬間。

「「ダイコク。」「シイナ!!」」

同時に声を上げた。
そこにあった綺麗な顔はオレの良く知った男だった。
こいつは椎名(シイナ)。末縁 椎名(スエベリ シイナ)。

一個上の学年の不良連中をまとめてるのがこのシイナだった。
スリムに引き締まった身体、整った顔立ちで服装はおしゃれ。
オレと同じ不良だったのに、頭は良いし、女にモテた。
いまや格差社会はどこにでも広がってる。

間違いなく当時のオレの気に入らない存在ナンバーワンだった。

そんな気に入らないヤツをぶっ飛ばしたいのは不良の性。
女と一緒に登校してきたのが気に入らなかったんだったかな。
こっちを見て笑ったんだったかな。
理由はよく覚えてないけど当然授業なんかお構いなしで喧嘩を売りにいった。

でもオレは結局喧嘩しなかったんだ。

先客がいた。
牛山 倫太郎(ウシヤマ リンタロウ)。
ガタイが良く、パワーもあり、喧嘩も強い(オレの方が上だという確固たる自信はあるけど)。
マシンガンを持った逃走中の殺人犯を捕まえたこともあるらしい。
そいつがシイナに女を取られたとかで喧嘩を売っていた。
まァ多分シイナは何もしてない。女が勝手にシイナに惚れただけ。
モテる男はツライね。

「てめェ!よくも人の女を!」

「 … 。」
シイナは答えない。語らない。ただ呆れ顔で天を仰いだ。

「スカしてんじゃあねェェェッ!」

瞬間、喧嘩の火蓋が切って落とされた。

「ウォォォォォッ!!」

ウシヤマが声をあげ、拳を構えシイナへと突進する。
シイナの目つきがキュウッっと鋭くなる。

シイナの顔面に向かうウシヤマの拳は…

空を切る。

空を切る。

空を切る。

ヒラリと舞うように突進をかわすシイナはさながらマタドール。
次々と繰り出される拳を難なくかわし続ける。
その様子はまさに闘牛のようだった。

シイナが手を出さない状況が続き長くかかると思ったこの喧嘩。

決着は一瞬だった。

持ち前のガタイとパワーに任せた突進を繰り返していたウシヤマ。
(相手がシイナじゃなきゃもっといい線いってたはず。)
その身体が勢いあまってグラついたところに拳一閃。
的確にアゴを捉え、ウシヤマの意識は遥か彼方へ。

蝶の様に舞い蜂の様に刺す。

オレは完全に魅入ってた。
こんな経験は初めてだった。

「 … 。」
シイナは黙ってオレを見た。
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳に見つめられ思わずもらした。
「すげェな…」

ポツリ。
「オマエもオレに喧嘩売りにきたのか。」
「…あぁ。」


「 … ふゥ。

やめとく。オマエは強いだろ。

またな。」

シイナは返事も聞かずにクルリと振り返り校舎へと戻っていった。

あれだけ圧倒的なものを見せながらオレを強いと…?
疑問はあったがオレはただその背中を見送っていた。

それからしばらくしてオレは不思議な魅力に惹かれてシイナとつるみ始めた。
理由?ムカツクやつじゃあなくなったんだよ。
女にモテるのは相変わらずだし、頭も良いまんまだけど
それを鼻にかけるわけじゃあないし、やりたいことをやってるって感じに惹かれたんだ。
オレら不良は教師や学校なんかに反抗したくって『不良』の看板を掲げる。
けどシイナは違う。やりたいことを意思を持ってやってる。その結果『不良』のレッテルを貼られてる。

つるむようになってシイナが卒業するまで何度となく喧嘩を買った。
そんなに長い間じゃあなかったけど、オレらのコンビは敵無しだったよ。

卒業と同時にシイナはもっと見てみたいものがあるとか言って旅に出た。



おっと昔話が長くなったな。
シイナの紹介はこんなもんでいいか。
「「ダイコク。」「シイナ!!」」
久しぶりの再会。

「何してんだ。こんな田舎で。」

認めたくはないがここはド田舎。
近くにあるのはコンビニくらい。
車やバイクがなきゃあどこにも行けないし何もできない。
今だって周囲を見渡して見えるのは駐車場と金持ちの一軒家。
寮が一番背の高い建物だ。

「就職したんだ。この近くの寮に入る。」
相変わらずのクールな語り口。
「はァ?このあたりの寮!?」

もしかして。

「あれだな。」
シイナが指差したのはオレが飛び出した建物。
まさにオレが生活しているその寮。
ようこそシイナ。監獄へ。

「マジかよ。うちの会社に入社したのか!」
「そうみたいだな。」

卒業以来、姿を消したシイナとまさかの再開。
やっぱり繋がりってのは良いもんだよな。

そんなオレらに近づいてくる背の高い影が一つ。
黒髪ベースに金髪ラインの坊主頭。トラ頭。
喧嘩を買いまくってた頃の記憶が蘇る。
コイツはオレらに喧嘩を売りにきたヤツだ。
空気で分かる。冴え渡る不良の鼻。

「久しぶりの再会を喜んでばかりもいられないみたいだな。」
「ふゥ…。」


フセとの喧嘩で疲れてはいたものの、気持ちが昂ぶっていくのを感じた。
シイナとの喧嘩はテンションがあがる。

「オメーだろォォ?新人のクセにフセをヤったっつゥーのはよォー。」

ラリってんのかと思うようなしゃべり方でオレに絡んでくる。
でも、目には力がある。マジにラリってるわけじゃあないらしい。

しかし、ついさっきのことがもう知れてんのか。
オレも有名人の仲間入りか?
嬉しくねェけど。

ファイトクラブのことを知ってるっつーことは、十中八九…


コ イ ツ は ス タ ン ド 使 い!


「だったらなんだよ。」

「【メイ・レイ】ッ!!


ブヒュゥゥゥゥ…」
オレの言葉が終わらないうちからトラ頭はスタンドを発現し、大きく息を吐き出す。
そして、さっきまで力のこもっていた目はだらしなく垂れ下がり。口元からは涎が垂れた。
恍惚の表情。
現れたのはチャイニーズ系の筋骨隆々の人型。【アンバランス】とは正反対のパワータイプの見た目。

「フヒュッ!フヒュッ!フヒュゥゥゥゥゥ。

たまんねェェェ…」

【本体:須藤 励人(スドウ レイト) スタンド:メイ・レイ 能力:???】

「(なんだコイツ。スタンド出したとたんにトビやがった。)」

「こいつは…オレがやる。」
シイナが割って入った。
もちろんオレは納得いかない。
「何言ってんだ!?ご指名はオレだぜ?オレも一緒がスジだろうよ。」

「今は何も聞かずに任せとけ。こいつはダイコク、お前の知らない特別なチカラを持ってる。」
引かない。こんなシイナは珍しいな。

知らないチカラ…?

特別なチカラ?




…もしかしてスタンド?

もしかしてシイナ、見えてんのか?
トラ頭のマッチョ系のスタンドが。

考えてるうちにシイナはスタンドを発現していた。
シイナの周りを大小さまざまな球体が取り巻いている。
「おいッ!シイナッ!」
ちょっとは聞けよな。オレにも見えてんだからさァ。
でも久しぶりにシイナの喧嘩を見てみたい欲求に負けて黙るオレ。
よく見るとシイナのスタンドはただの球体ではなく、一つ一つに顔があるようだった。
とはいえシンプルな作り。大きな口と目。これらが球体の大半を占め「ニヤア」と笑っているように見える。

「フヒュゥゥゥゥ…フセをやったのは…お前だっけェェェェェェ?


まァ…


どっちでも…


イ イ ん だ け ど よ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ !!!!」
声を上げると同時にスタンドが大きな両拳を振りかざす。
トラ頭は相変わらず焦点が定まっていない。

「ジャンキーが。」
シイナが吐いて捨てる。どう見てもヤク中だもんな。

そんな言葉はもちろんトラ頭には届いていない。
【メイ・レイ】は振りかざした拳をもの凄いスピードで突き出した。
とてもじゃあないがシイナに拳の届く距離ではない。

パチュンッ!パチュンッ!

「油断したなァァァッ!」
パンチを繰り出すその動作の目的は殴りつけるためじゃあなかった。

【メイ・レイ】の拳から液体が飛ぶ。

シイナは左肩口に被弾した。
十分に警戒はしていた。クスリきめてるようなヤツは何をするかわからないからな。
でも液体は想定外。
コースからは逃げることに成功したが液体は空中で広がる。
そうそう避けられるもんじゃあない。

「浴びちまったなァ!【メイ・レイ】のスタンド毒を!!

【メイ・レイ】のスタンド毒はッ!浴びた場所を中心にィィィ!

徐々に全身の神経が麻痺していくゥゥゥゥゥゥッ!

フヒュッ!フヒュッ!」

シイナは肩を回しその具合を確認する。
まだ動くみたいだ。しかし毒とはヤバイな。
全身に回る前にブッ倒さなきゃあいけないのに
シイナのスタンドはどう見てもパワータイプじゃあない。

「解毒の方法が一つだけある。

それは…

このオレに触ること。

【メイ・レイ】を掻い潜りオレに触れるかァ。



さ わ れ る か ァ ァ ァ ァ ァ ッ!!? 」

一瞬トラ頭の目が鋭さを取り戻したような気がした。

「 … 。

【24シリンダー】(トゥエンティフォーシリンダー)。」

シイナの体の周りを回っていた球体の一つ。
ゴルフボール程のサイズの球体がトラ頭に向って飛んでいった。
鋭く飛ぶ【24シリンダー】。スピードはかなりのものだ。

「フヒャッ!」

  ブオン! ブオンッ!

トラ頭も当然ただ見ているだけじゃあない。
自分に向かってくる球体スタンドを打ち落とすべく拳を振り回す。
急上昇、急降下、急旋回。【24シリンダー】は一台で走るジェットコースターのように【メイ・レイ】の攻撃をかわしながらトラ頭の顔面を目指す。

「 …フン。センスが足りない。」
相手の猛攻にもシイナはクール。
【24シリンダー】はとうとうトラ頭の目前に到達した。

パチィンッ!

シイナが指を鳴らす。
この世界にその音しか存在しないかのように音は響いた。
するとトラ頭の目の前に浮かぶ【24シリンダー】は「ケタケタケタッ!」と笑い声をあげ大口を開ける。
そして口を開きすぎたパックマンのように消えていった。
そこに残ったのはまた球体。次の瞬間までは。
「あァン!?」
トラ頭は何事かとその球体を睨んでいた。
これが致命的ミス。

ビッカァァァーッ!

それは突然カメラのフラッシュのように輝きだした。
目を閉じるのも、手をかざすのも間に合わない。ヤツが気づいたときにはスデに、文字通り光の速さで網膜を焼かれてた。

「くァァッ!!」
完全に予想外であっただろう閃光に顔をゆがめるトラ頭。
少し離れていたオレでさえ目が眩み、状況を把握するのに時間がかかった。
とんだとばっちり。なんか合図くれよ。アンタもそう思うだろ。

「ダイコク。逃げるぞ。」
はァ?逃げる?
シイナ。今完全にチャンスだろ。いけよ。

と思ったがやっぱり…
シイナがオレに合図した。
『やっちまえ。』
そうこなくちゃな。

合図を皮切りにオレとシイナがトラ頭に向かう。
シイナは【24シリンダー】を自身の衛星のように周囲に纏い、音も立てずに距離を詰める。
オレは【アンバランス】 を発現し駆ける。
「…!!?」
シイナはそれを見て少し驚いたような表情を見せたがすぐにいつもの冷静なそれに戻った。

オレが殴りかかろうとしたそのとき。

「フヒュゥッ!」

 ブオンッ!

的確なカウンターが放たれた。
【メイ・レイ】の拳はタイミングばっちり。

その相手はオレではなくオレより先に攻撃を仕掛けたシイナだった。
「なッ。」

ハンドボール大の【24シリンダー】の表面で拳をそらす。

ガキンッ! ボグンッ!

金属バットで鉄球を殴るような音がした。
内側にはじけとんだ【24シリンダー】がシイナの肩口にめり込む。
「ぐふッ!」

「シイナッ!?」
オレの注意がシイナに向かったその瞬間。
拳を突き出し、そらされた勢いそのままに、逆の拳のバックハンドブローがオレを襲う。

 ブウンンッ!

「うぉぉぉぉッ!」

オレは急ブレーキで踏みとどまる。
なんとか【メイ・レイ】の射程距離から脱出した。

「あ、あぶねェ。」

なんつーパワーだ。風圧で顔がゆがむかと思った。

 ゴオンッ!

バックハンドブローから素早く構えなおし
放ったアッパーは当然空振り。
いまや【メイ・レイ】の射程内には誰もいないのだ。

トラ頭は180度向き直り、なにか警戒しているようにみえた。

「んん…?」
妙だな。オレが距離をとったことを知らないとはいえ
なんであのタイミング、あの方向なんだ。

「大体分かった。 ダイコク。」
今度はオレに下がるように合図する。
行けっつったり下がれっつったり。
オレのカリスマは気まぐれ。

「お前。見えてるな。それも第三者的な感覚で。」
見えてる?目くらましかましたのはシイナお前だぜ?

「正確すぎるんだよ。オレへのカウンターが。
足音も、気配も殺さなかったダイコクへの反撃は外し、オレへのカウンターはタイミング完璧。
おかしいだろ。オレは逃げてるかもしれないのに。向かってるって決め付けてなきゃああんな迷いないカウンターは無理だ。」
裁判の弁護士や検事さながら、シイナは問い詰める。

「さァねェェェ。
良いのかい?おしゃべりしてて?
こうしている間にも【メイ・レイ】のスタンド毒はお前の身体を蝕んでいるぜェェェ!」

トラ頭はを自分のスタイルを崩さない。
コイツの言ってる通りしゃべってる時間なんてない。

「それは嘘だ。

スタンドの長所は短所だ。

特別な場合を除けば相手の命を簡単に奪うような能力を持っているスタンドがそんなパワーを持ってるわけがない。
自分の得意な近距離戦に持ち込むための嘘だ。」

シイナはため息を一つつくと続けた。

「この二つのポイントから導き出されるのは一つの答え。
お前のスタンドの能力は拳から出る液体をつけた相手をマーキングし対象とそのスタンドの動向を探るもの。
そして【24シリンダー】に対する最後のアッパー。やはり完璧なカウンター。


当たらなかったことを除けば。


【24シリンダー】はお前の上空を飛んでいただけなんだよ。」

【メイ・レイ】のパンチのインパクトにビビって気づかなかったがそんなことをしてたとは。

…あァ。

だからアッパーだったのか。オレにも分かってきた。
トラ頭の様子が変わってきた。額には汗がにじんでいる。

「ヒヒッ!」
能力を隠す嘘がばれ自棄になったのか開き直ったのか
トラ頭は【メイ・レイ】を構えシイナに向かって駆け出した。

「すなわちお前が得られる情報は平面的なモノに過ぎない。



平面的な動きしか探れないなら攻撃ポイントは一つ。」



「「上空だ。」」



「そうくると思ったぜェェェ。ヒャハッ!」
【24シリンダー】の一つがトラ頭の真上からつむじが着地点だと言わんばかりに猛スピードで突撃する。
しかし、そこに待ち構えるは準備万端の【メイ・レイ】。

「高さは数値となってオレに伝えられてるんだよォォォ!!
また打ち返してやるぜェェェェェェッ!!」

 ビシィッ!

【メイ・レイ】の拳がソフトボール大の【24シリンダー】を捉える。
シイナに向かってはじき返すべく、完璧なタイミングで。



しかし【24シリンダー】がシイナに激突することはなかった。



「その【24シリンダー】はそんなに頑丈じゃあない。」
【24シリンダー】は【メイ・レイ】の一撃で破裂した。

 バチャンッ!

弾けた【24シリンダー】からは無色の液体が飛び散る。
「な、なんだァァ!?



…この匂いはッ!」

「わかるか?

そうガソリンだ。」
シイナの表情が氷柱のような鋭さと冷たさを見せたかと思うと口元がニヤリと笑った。
手にはジッポライター。
こんなシイナ、オレは知らねェ。

ヤバイ。

ヤバイ。

ヤバイ。

「オレが今持ってるライター。コイツを投げつけるだけでお前は死ぬ。
もう見えてるんだろう?


ほら。」
シイナが投げるフリをする。
「やめろッ!シイナッ!」
「ヒィッ!」

トラ頭は目の前にある死に完全に戦意を喪失していた。
さっきまでのラリった様子も見られない。
快感を恐怖が上回った瞬間だった。
つかつかと靴音をならし歩み寄っていくシイナ。
「フフ。」

「た、たたたたたたたのむ。命だけはッ!」

「お前らジャンキーはどれだけその台詞を聞き、無視してきた。」
シイナの周りの空気が震えているようだった。
そして次の瞬間。
ライターを持った手を振り上げ

「ヒィィィッ!」
「やめろォォォッ!」
「 … 。」

振り下ろす。

 バシンッ!

火は


…着かない。

「シイナぁ…」
「フン。当て身だ。」

【本体:スドウ レイト
 スタンド:メイ・レイ 再起不能】
「ダイコク。お前どこかに急いでたんじゃあないのか?」
ドス黒い雰囲気が解けいつものクールなシイナに戻っていた。
そう。オレはさっきの屋敷幽霊の入り口に戻ろうとしてたんだ。

「シイナも知っといたほうがいい。うちの寮に入るんだからな。」
オレはことのあらましをシイナに伝え屋敷幽霊から追い出された小道へとやってきた。
「目的はストレスの発散か…。」
「そんなわけねェとオレは思ってんだけどさ。

さァ着いた。ここだ。

行くぞ。」
目の前には何もない細い路地。
オレはちょっと緊張しながら一歩を踏み出した。

が結果は猫の糞を踏みかけただけだった。

出入り口は移動するするのか、オレが入室を認められてないのか、
それは分からないが結局オレのもやもやは解消されないということを示していた。

「クソッ!イラつくぜッ!」
「寮に案内してくれるか。」
シイナはオレがイライラしてんのには慣れてる。
悪態を完全にスルーしてエスコートの要求。
「だってよォ。」
「しょうがないだろ。」
「けッ。」

そういや誰か言ってたな。
大切なのは真実に向かう意思だ。
向かおうとする意思があれば今回はたどり着かなくてもいつかたどり着くだろう。



今日は間違いなく一歩進んだんだ。




「それでは参りましょうかご主人様。」
自嘲気味にオレは笑った。

〜episode2〜
END
〜episode3 〜


「ここが寮。監獄へようこそ。王子様。」
オレはうやうやしく頭を垂れてみせる。
あれ、ご主人様だっけか。まァどっちでもいいや。

「部屋番号とキーはある。助かった。またな。」
お払い箱だといわんばかり。
そういうのはクールじゃあなくって冷たいっていうんだよ。
そんなやりとりにも懐かしさを感じながらオレらは分かれ、それぞれの部屋へ戻った。
今日はいろんなことがありすぎた。オレは風呂にも入らずベッドに横になると死んだように眠った。





ファイトクラブデビュー、シイナとの再会から三日経った。
なんともいえないモヤモヤは相変わらず。
寮の周辺を探し回ったが屋敷幽霊への入り口は見つからなかった。
収穫といえば「消し屋」の話。
どっかで聞いたことあると思ってワラシに聞いてみたんだ。
ファイトクラブの情報もあいつが持ってきたしね。
そしたら「消し屋」ってのは都市伝説らしい。

『とある愛しあい結婚を誓った男女がいた。しかし、女の両親に特に父親に反対されそれは叶わなかった。
それをひどく悲しんだ二人は車のなかにガスを引き込んで心中してしまった。
女の母親は後悔した。二人の仲を認めていれば、父親を説得できていたら。
今頃二人には子供もいて幸せな生活を送っていたかもしれない。
後悔のあまり気が狂う一歩手前だった。その様子を見た父親は地図を見せそこに行くように薦めた。
カウンセリングクリニックだと言って母親に「ここの人に辛い思いをうちあけなさい。」とだけ話した。
母親は言われたように想い叶わず死を選んだ二人の話を打ち明けた。
すると妻は憑き物がとれたように清々しい顔をして夫のもとに帰ってきた。
「あの人はだれなの?」「あれは消し屋というんだよ。辛い思い出を消してくれる。君にはもう分からないだろうけど。」「そう。」

それからこんな噂が広まった。

忘れたい思い出ができたら、消し屋に会いに行け。
それが幸せなのか、不幸なのかは分からないけれど。』

クレイジーだよな、この親父。自分の子供のこと消しちまったんだ。
まァ都市伝説に食って掛かってもしょうがないからおとなしく聞いてたけどさ。

大事なのは消し屋ってヤツが何者かってこと。
この都市伝説もスタンドの存在を知ってるオレからするとただの噂話とは思えない。
オレらスタンド使いには至極真っ当な現象も、スタンドの存在を理解していない人間からしたら理解不能な怪奇になる。
そこで出てくるのはこの都市伝説が事実かもしれないってこと。結ばれなかった男女はまだしも消し屋と名乗る男の存在。
オレは会っちゃったからね。消し屋に。
この都市伝説とオレの今のモヤモヤ。この二つを繋ぐのは、消し屋は記憶を消す(あるいは操作する)スタンド使いであるという可能性。

オレはあの日、おそらく全てを聞いていた。
しかし、消し屋と名乗るあの男によって誰かにとって都合の悪い記憶を消されちまった。
多分そういうこと。
人間同士の繋がりをブチ切る行為。人の記憶を消すなんてコイツはメチャ許せんよなァ。
次あったときはぶっ飛ばしてやる。


分かったのはこれくらい。
でも当然毎日仕事はするわけで。相変わらず石井(オレの上司ね)は毎日ウゼェ。
ミスが無くたってなんかしら文句つける。こないだなんか書類見せたら数字の書き方を注意されたかんね。
数字の8あるじゃん。オレはクロスしてる所から書き始めるわけ、でもヤツは右上から書き始めろっていうんだよ。
どっちでも良いじゃんな。注意してるってことは8だって理解できてるってことだろ?
思い出すだけでもイラつく。

そんなことを考えてるうちにコンビニに到着。今日の晩飯はコンビニ弁当。
寮の近くにあるコンビニはこの一軒だけ。田舎にあるだけあってスゲェ広いし、品揃えはスーパーみたい。
この時間はいつもオレみたいな晩飯を求める一人者や、お母さんが晩御飯の材料を買いにきたりと賑わっている。

でも今日はやたら静かだ。
そういや店員も見当たらねェ。


「(そうかファイトクラブ。)」
今日の舞台はこのコンビニってわけか。寮以外にも屋敷幽霊があるとはね。
そんなことを考えながら雑誌を立ち読みしながら対戦相手を待つ。
ジャンプって面白いよな。
巻頭カラーを読み終わったところで来客を告げるチャイムが鳴った。間の抜けたゴング。

「!?」

開いた自動ドア。そこから意外な人物が現れた。完全に予想外だ。
スーツを着て、べったりの七三分け、とどめは眼鏡。ザッツジャパニーズサラリーマン。
最高にウザい最低の上司石井。
「い、しい…さん?」
構えるのも忘れて間抜けな質問。

「あぁ゙!?石井だ?あんなヤツと一緒にするんじゃねェよ。」

そう違うはずなんだ。あいつには【アンバランス】が見えてなかった。スタンド使いじゃあないはず。
じゃあ…瓜二つのコイツは誰だ?

「オレは尾黒(オグロ)。」

そいつは名乗りながらネクタイの結び目に指をかけ、ネクタイを緩める。
スーツを脱ぐと入り口すぐ脇の雑誌棚の女性週刊誌コーナーにかけた。

「もう一人のアイツ。」

そう言って髪をかき上げオールバックにした。そこで完全にスイッチが入ったように表情が変わった。
これがオレの本体のハンサム顔だ。ってか。
でも本当に別人みたいだ。卑屈にだらしなく上がった口角は締まり、バカにした目つきは丸い印象から相手を値踏みする三角の印象へ。

言ってることはよく分からんが迫力のあるチョイ悪オヤジ。

オグロは続ける。
「オレとイシイは二人で一つ。二重人格ってやつだ。」
なるほど。それでもう一人のアイツ。
スタンドに出会ってから驚くことに慣れてきた。スタンドがあるならと、どんな不思議なことでもスッと受け入れられてしまう気がした。
二重人格。スタンドよりは現実味のある話。
「お前ずいぶんイシイに気に入られてるみたいだな。楽に寝れると思うなよ。」
そういうとオグロはスタンドを発現させた。
自信満々。不遜な物言いはそのまんま。感じ悪いぜおっさん。

現れたスタンドは小柄な人型。身長は1m程か…
頭にはびっしりと羽飾りがついててネイティブアメリカンみたいだ。

【本体:オグロ スタンド:キャセイ・パシフィック】

「でかい態度とは裏腹にちっさいスタンドだ

      なッ!」

オレも【アンバランス】を発現し先手必勝とばかりに突っかける。

「デカけりゃ良いってもんでもないだろう!」
口の減らない管理職。
スタンドを構えオレに応じる。

「ソラァッ!ソラソラソラソラソラァァァァァァァァ!!!!!」

「コォォォォォ!!」

ガシイッ!ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガッ!!

オレは力任せに殴りかかる。
それに対し、オグロに攻め気は見られない。こちらの実力を見定めるようにラッシュを受ける。

手応えからしてパワーはこちらが上、スピードは互角といったところか。
しかし、オグロの方が巧い。オレのラッシュをことごとく受け流す。油の流れ落ちる円柱を叩いてるみたいだ。
これじゃあ埒が明かない。無酸素運動はそう続かない。

パワーはこっちが上なんだ。
「これならどうだッ!」
大きく息をつくと、フェイントを一ついれ、右腕を振り上げ能力発動。
「【アンバランス】ッ!!」

グンッ!グンンッ!!


「ッ!?」
バシッ!バシイッ!

鼻先に繰り出されたのは【キャセイ・パシフィック】のワンツー。クソッ!
「それはいくらなんでもスットロイぜェ。」

ゴウン!!
得意げにオレの側面に回りこみ振り下ろされる拳をかわす。
オグロはそこですかさずもいっぱつ。

バシイッ! バシバシィッ!


…三発!?

それは欲張りす ぎ だ ぜッ!

能力を解除し、すかさずオグロに向けてアッパー放つ。
ゴウン!

「か、空振りィ!?」

自信満々の拳が空を切る。しかしなんて間抜けな声だ。 情けねぇ。
オグロはオレの背後で口元に笑みを浮かべ佇んでいる。

「一体何を狙ったのかな?」

どっちの人格もムカつくなコイツ。
でも妙だ。確かにパンチの方向にアッパーをかましたハズだ。
なのにヤツはオレの背後に立っている。ちっこいあのスタンドの能力か…?
オグロの傍らに立つはヤツのスタンド【キャセイ・パシフィック】。

何が分かるはずもないが睨み付けてやろうと思ったんだ。
「あれ?」
オレは目をこする。それまではっきりと見えていたスタンドがダブって見える。
あのチビっこいヤツのパンチがそんなに効いちまってんのか?

「睨んだってオレの優位は動かない。

呆れるように呟くと、オグロはスタンドをけしかける。

【キャセイ・パシフィック】ッ!!」

正面からの攻撃。今度は攻め気満々。さっきの攻防とは違うってか。
どんなにスピードに自信があったって、正面からなんてオレもしかしてナメられてる?

【キャセイ・パシフィック】は向かってくる。

真っ直ぐ。真っ直ぐ。真っ直ぐ。

「【アンバランス】ッ!!」
オレもスタンドを発現して迎え撃つ。バッティングセンターのゴムボールみたいにぶっとばしてやる。
「ソォォラァァァァァァァァァァァッ!!!!」

カクゥン!

後ろからローキックをくらったような衝撃を受けた。
突然オレの視界は天井を捉え、振りかざした拳は空を切った。
ストライクツー。

「隙だらけだな。」
ボグゥッ!
牽制じゃあない力を込めた一撃が地面に叩きつけられる形でオレのボディに突き刺さる。
「かはッ…!」
身体中の酸素が出ていっちまったみたいだ。
今度は間違いなくイイのをもらった。

攻撃を完了すると【キャセイ・パシフィック】はオグロのもとへ。
パワーが弱いながらも的確な攻撃によるヒットアンドアウェイ。

でもただされるがままでいるわけにはいかない。こないだのシイナみたいに考えるんだ。
ヤツの能力が分からなければやられる。
すぐに起き上がり頭をフル回転させる。
「(何が起こった?)」
まずおかしかったは、一回目の空振りの後。確かにパンチが飛んできたほうに反撃したのに、ヤツはオレの背後にいた…

シュッ!シュッ!
【キャセイ・パシフィック】が再び正面から攻め立てる。今度は右に左にフェイントも混ぜながらの攻勢。
ボーっと考えてる時間はないらしい。能力がばれるのが敗北に繋がること。オグロもそれは重々承知。
捌きながら考えるしかねぇ。


そして二回目の空振り。オグロと正面からやってくるヤツのスタンドを視界に捉えていたのに背後からの衝撃。

「逃げ回るばかりか?負け犬には似合いの姿だな。」
「クソッ!」
悔しいが今のところ反論の余地なし。オレにできるのはただ避けること。そして考えること。

で、今に至るか。
バキィッ!

【キャセイ・パシフィック】のパンチが脇腹に食い込む。
クソッ!クソクソッ!
避けたと思ったのに死角からパンチが飛んでくる。

何か見落としてるのか。思い出せ。もっと他におかしなことがなかったか?
初めからだ。
一回目の空振り。そしてヤツの反撃。これが結構効いちまってんだな。スタンドがダブって見えたんだ。
自分ではそんなつもりはなかったんだけど…

バシィッ!

クソッ!また後ろから!まるで二人と戦ってるみたいだぜ。

んで二回目の空振り。ヤツは自信満々にこう正面から…






…ん?二人?
まるで二人と、か。
やっぱりヤツのパンチは効いてなくて、あの時ダブって見えたのはスタンドが二体いたからだとしたら…

「はんッ!分かったぜ。
こ の 卑怯モノがッ うお!
(カマかけてやる。)二対一と は なッ!」

例えひっかからなくても、間違いでも、なにもせずにやられっぱなしよりマシだろ?

「気づいたか。」
オグロは動揺して手を止めるわけでもなく、淡々と答えた。

「これまで隠してきたが、気づかれたからには全開だッ!」
【スタンド:キャセイ・パシフィック 能力:スタンド自体が増える】

バァアアアァァァァァンッ!

オグロが吼えるとそれまでは一体しか見えていなかった【キャセイ・パシフィック】が二体に増えた。
二対一。単純に目に見える手数はそれまでの二倍。
捌くにはちょいとしんどいが、意識の外からの攻撃は身体はもちろん、精神的にも効く。
面と向かってかかってくるなら覚悟ができる。受ける覚悟。
【キャセイ・パシフィック】のパンチが雨のように降り注ぐ。オレはガードを固めてオグロを睨む。

多少の被弾は気にしないッ!
いつもオレをイビリ倒すあのムカツク顔を直接ぶっ飛ばす!


「いくぞオラッ!!【アンバランス】ッッ!!!!」
右から左と【キャセイ・パシフィック】の攻撃はとまらない。
その攻撃を受けながら、時にかわし、捌きながら、ゆっくりジリジリと距離をつめる。

もう少し。もう少しだ。

「だァァァァァッ!」
オグロまでの距離3mといったところでオレは覚悟を決める。
「そこで待っとけ!ぶっ飛ばしてやるッ!」
気合を入れてガードを緩め、スピードを上げる。
地面を蹴り、目標は目の前。これまでの恨みを込めたとっておきをかましてやる。

「ソラソラソラァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「実に単純な思考回路だ。」
オグロはオレのパンチにひるむことなく、 言葉を吐き出す。
「『オレは自分を知っている』ッッ!!自分のスタンドの長所と短所。

その理解なくして勝利はない!

パワー不足は百 も 承 知 だッ! 【キャセイ・パシフィック】ッッッ!!!!」
ここまでで一番力の、熱のこもったオグロの言葉だった。
すると、オレの視界が何かに遮られる。
「なんッ!?」
【キャセイ・パシフィック】 の羽飾りだった。
羽飾りはオレの目の前を上に移動していく。スタンドの顔が見え、首が見え、腰が見えたと思った瞬間。

ドガァッ!

オグロ渾身の一撃がオレのこめかみを的確に捉えた。ここに来て一番の精度、一番のパワーの蹴り。
オレは受身もとれずにバッタリと倒れこんだ。
結果オレのパンチは三度届かず。
クソッ。これでスリーストライク。アウトか…





野 球 な ら な !





グゥゥゥゥゥゥゥゥン!

オレは頭が引っ張られるような遠心力を感じながら直立の姿勢で起き上がる。
七転び八起き。達磨ってのはこんな気分で倒されたり起き上がったりを繰り返してんのかな。

「へッ。ホントにパワー不足だな。」

「なん…だと…」
渾身の一撃、完全なる意識の外からの一撃を受けてなお、
不自然に立ち上がるオレを見るオグロの表情はこれまでの余裕のあるものではなくなっていた。
「アンタもそんな顔をするんだ。」

グゥゥゥン!グンッ!グンンッ!

起き上がる勢いを利用して、【アンバランス】による重心移動も利用して、今度はオレの渾身の一撃をお見舞いしてやる。

「ソォォォォォォォォォォラァッ!!」

「【キャセイ・パシフィック】ッ!!」
目の前にさらにもう一体のオグロのスタンドが現れる。

(四体目だとッ!? 知るかッ! もう! 止まらねぇ!)

フッ…
ドッゴッ!!!!

「へぶッ!」

ガッシャアアアアアアッ!

ガードの為に現れたはずの【キャセイ・パシフィック】は突然消えうせ
オグロは吹っ飛んで、おにぎりやら弁当やらの並んだショーケースに激突した。

「ハァ…ハァ…」

やった。やってやった。
「【キャ…キャセイ・パシフィック】…!」
その力の無い声にオグロのスタンドは応えなかった。

「オレの勝ちだ!」



「…何故効かなかった!何なんだあの起き上がりかたは!」
オグロは負けを認められないといった様子で強い口調で喋り始めた。

「アンタはこれまでスタンドが増えることを隠し、意識の外からの攻撃を繰り出してきてた。
そうやって精神にもダメージを与えることでスタンドのパワーの無さを補ってたんだ。
そのアンタがスタンドを見せて正面から打ち合うメリットはなんだ?

考えられないよなァ。

さらなる奥の手。すなわち 『 三 体 目 』 が無い限りは。」

「手品のネタを明かしたアンタの狙いはおそらく急所。それも相手の意識を飛ばすようなね。
早く勝負を決めたいのが人情。効果的なのはアゴかテンプル。そう、狙いは頭に絞られる。

そこで、【アンバランス】の能力でオレ自身の重心をかかとに集める。
するとどうだ。オレは空気で膨らませる安いパンチングマシーンみたいになるのさ。」

オレの頭がもとから軽いって話はしない約束。

「パンチの威力は半減以下。そして達磨みたいに起き上がる。おまけの加速付きで。
四体目が出てきたときはマジで焦ったけどね。」

「認めない!認めない!認めないッ!【キャセイ・パシフィック】ッ!」
オグロはスタンドを繰り出そうとするが、スタンドはやはりそれに応えない。

「あんた失敗したことがないだろう?
アンタの罠は何回も繰り返すにはシンプルすぎる。

プランを練って、それにハマる格下とばっかり戦ってきたんじゃあないのか?」

「うるさいッ!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ!」

「…そうか、アンタはイシイの理想。『自称』完全無欠のスーパーマン。」
オレはオグロに哀れみすら抱いていた。いやイシイになのか。
社会ってのは大変なんだな。
どんなに偉くなっても、強い力を持っても、そこで生きていくためにはその地位をその力を守らなきゃあならない。

うるさい親元を離れ、自由になったつもりでも、今度は違う鎖で雁字搦めか。

オレはオグロを起き上がらせるために手を差し伸べた。

「うるさいッ!言うなッ!近づくなッ!消えるッ!オレが…オレが消えるゥゥゥゥッ!!!!」

その叫び声をあげるオグロには先ほどまでの威圧感や迫力は全く感じられない。

「消えるッ!キエルッ!キエッ…」

バッタァーーン

【本体:オグロ 再起不能。 スタンド:キャセイ・パシフィック 能力:相手に対する優位さによってスタンドが増える。】

オグロはまるで支えを失ったフィギュアのように倒れた。
魂のない抜け殻のような身体。
オグロは消えてしまったんだろうか。

次の瞬間、オレは寮の近くのコンビニの駐車場に立っていた。
コンビニに駐車場なんてないって?
それはアンタが都会に住んでるから。田舎のコンビニには駐車場完備が普通なのさ。
クタクタになりながら、そのままコンビニに向かい晩飯を買う。
今度は元気な店員のいらっしゃいませが聞こえてきた。




次の日イシイは会社を休んだ。
オグロが消えてしまったのだとしたら相当のショックだ。
これまであったはずの人格一つ消し飛んでるんだからな。休んで当然。
何が本当にあったのかなんて分からないけど、
一つだけ分かるのはしばらくはオレにとって安息の日々が続くってこと。

何日か休んだあとイシイは職場に復帰した。
またこれまでの苦痛の日々が再開する。そう思ってた。

でも実際は違ったんだ。

「マキくゥゥン。」
何だコイツ。オグロ消失でおかしくなっちまったのか?
それ以来イシイのオレイビリは一切なくなった。

そのかわり…
「マキくん。昼ごはんどうする?一緒に食べに行こうよ。」

「あ゙ぁぁぁぁぁ!うっとおしいぞ!クソオヤジッ!」

コイツを少しでも可哀想だと思ってしまった自分を呪うよ。
また違う苦痛の日々が始まった。


〜episode3〜
END
〜episode4 〜

昼休み、今日もアイツはやってくる。
「マキくゥゥン。」
モーゼの十戒のように割れる先輩たち。そのまま逃げるように事務所から出て行く。
余計なことには関わりたくない。人間みんな自分が大事。


「なんスか。イシイさん。」
「旨いラーメン屋を見つけたんだよ〜。」
「へぇ。」
「行こうよ。おごるからさ。」
「へぇへぇ。」

最初は絶対無理だと思ってたけど、なんだかんだ言って結局付き合ってるオレがいる。
『下っ端は上司の期待に応えねばならない』か。
何つっても飯代が浮くのが一番の理由だけどな。

ラーメン屋に着くまでイシイは喋り続ける。
家に帰ってもカップラーメンが食卓に置いてあるだけだとか、娘に自分の服とイシイの服を一緒に洗うなと言われただとか
どっかで聞いたことのあるベタな話。退屈極まりない。オグロがまた出てこないかと期待してしまうくらいに。
いつもどおりの退屈な話に適当な相槌をうっているうちに店に到着した。

ラーメンすんどん(個室ありマス)


なんか気になる一文があった気がするがとりあえず入店。

「個室で。」

イシイは入店直後、店員に聞かれる前に言葉を発した。それもカウンターが空いているにも関わらずだ。
「ちょ!何で個室なんスか!」
店員は困ったような顔をしているのを見て、イシイは繰り返した
「個室で。」
カウンターに座るつもりはないらしい。おごられる身はこういうトコがツライよな。
おっさんと二人きりで個室でラーメン。はぁ…

店奥にある個室に通され店員は目も合わせずにお決まりな台詞を吐いた。
「ご注文がお決まりになりましたら、あちらのインターホンでお知らせください。」
口元がニヤついてたのをオレは見逃さなかった。クソッ!

「私のオススメはこのすん辛ラーメンだね。いや、初めてなら基本のすんどんラーメンを薦めるべきか…」

どっちでもいいよ。とっとと食ってとっとと出る。
「んじゃあ、すんどんラーメンで。」
イシイはインターホンに手を伸ばし注文する。
「えーっと、すん辛ラーメンと、すんどんラーメンで。」
ガチャンと受話器戻して笑顔のイシイ。
「ニヤニヤしてますけど、んなに旨いんですかココ。」
とりあえず話題を振る。無言は無言で嫌なもんだからな。
「旨いよ〜。魚介と豚骨のスープのバランスが…背油が浮いてるんだけどギトギトじゃあなくて上品なんだよ。」
いろいろ考えて飯食ってんだな。主食がコンビニ弁当のオレは腹が一杯になればそれでよし。

「失礼します。」
ラーメンの講釈にもやっぱり適当な相槌を打ってやり過ごしているうちにラーメンが出てきた。
「すん辛ラーメンです。」
「はい私。」
「すんどんラーメンです。」
さて食うか。さっさと食ってさっさと出る。
「いただきまーす。」

「おい。マキ。」

ドドドドドドド…ドドド…

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