眠れぬ夜の物語コミュの??．節制

キィ・・・キィ・・・

ブランコのゆれる音が
夜の空に消えていく

空を見上げれば
四方のビルに切り取られた空に
綺麗な満月が浮かんでいる

それはまるで
写真に収まっているかのよう
手を伸ばせば
捕まえられそうで
僕は幼い頃
ここから見上げる空が好きだった

「あ・・・・」

誰かの、声が聞こえた
僕は一度その声のほうを見て
また空を見上げる
そこにいたのは一人の女性
見たところすごくおとなしそうな人だ

「・・・・」
「・・・・」

お互いに言葉を交わさずに
少しの間、静寂に身を任せる

「・・・・・おそいよ」
「・・・・おう」

やっぱり、あのときの女の子
・・・だったのか。

空を見上げれば
四方のビルに切り取られた空に
綺麗な満月が浮かんでいる

それはまるで
写真に収まっているかのよう
手を伸ばせば
捕まえられそうで
僕は幼い頃
ここから見上げる空が好きだった

この空を見つけたのは
今から十三年近くも前のことだったと思う
親とケンカして家を飛び出したとき
小学生になったばかりの僕は
当然行く当てなんてなくて
街の中を適当に歩いた結果
たどり着いたのがここだった

そこには、先客がいた

ぼうっと空を見上げて
その子はその気もなしに
ブランコを揺らしていた

キィ・・・キィ・・・

『なに・・・してるの?』
『月をみてるの』

空を見上げれば
四方のビルに切り取られた空に
綺麗な満月が浮かんでいる

それはまるで
写真に収まっているかのよう

その夜を境に僕達は
この公園で会うようになった
期間は一月ほどだったかな？

その子と出会って一月後
僕はこの街から引っ越した
僕とその子を出会わせた『親の転勤』が
ぼくとその子を引き離した。

「うそつき」
「・・・・返す言葉もない」
「ずっと一緒にいるって言ったのにね」
「そうだったねぇ」

それが、十年経った今こうして会っているのは
どうゆう因果だろう?

『僕は君のこと好きだよ』
『ずっと、一緒にいてくれる?』
『・・・・・・うん、一緒にいる』

果たすことの出来ない約束
それを知っていて
それでもそう言いたかった。

「だから、戻ってきたじゃん。」

そう言って僕は彼女のほうを見る
彼女は少し顔をうつむかせて
僕の隣のブランコに座った

「もう、おそいよ」
「・・・」

まぁ、そりゃそうだ
十年も経てばそうだよな。

「・・・次にあったらそう言おうと思って結構がんばったんだよ?」

がんばった？

「で・・・結果は?」

彼女は少し戸惑いながらつぶやくように
言葉を紡ぐ

「もう、おそいよ」
「なんだ、期待損じゃん」
「それはそうだよ、十三年だもん」
「まぁ、そうだな」

彼女は、彼女の幸せを歩んでいるんだ

よかった

「実を言うと、僕も今、付き合ってる人がいるんだ」
「うわ、ひど～い、女の子待たせるだけ待たせといて自分は乗り換えるんだぁ」

そう、彼女が茶化す

「なんだよ、待ってなかったじゃん」
「・・・・待ってたよ、待ってなかったら、逢えるわけないでしょ?」

わかってる
それは、僕も同じだから

「ねぇ、こうゆうのも浮気って・・・いうのかな？」
「・・・さぁ、どうだろうね」

いまでも、彼女のことが好きだ
でも、それは、今の恋人に向けるものとは違う
止まった、時の中の気持ち

それが今、やっと動き出した

「ねぇ、今もあの時と同じ言葉、言える?」

空の月を眺めながら彼女が聞いてくる。

「まだ・・・同じ想いはもってると思う、でも、あの言葉を繰り返すことは出来ないとも思う。」

これは、僕の心からの言葉

「そうだよねぇ、私も一緒だもん」

想いの形は変わらない
それでも想いの在り方は変わっていく

このビルに切り取られた空のように・・・

僕はブランコから立ち上がり
彼女をみる。

「それじゃ、僕は行くから」

それを彼女は笑顔で見送ってくれる

「うん、今度はちゃんとお別れできたしね」

空を見上げれば
四方のビルに切り取られた空に
綺麗な満月が浮かんでいる

それはまるで
写真に収まっているかのよう
手を伸ばせば
捕まえられそうで
僕は幼い頃
ここから見上げる空が好きだった
でも、それも今日で終わり
僕たちは結局、お月様を捕まえることなく
ただ見上げて眺めることを選んだんだ

だから僕達は同じ言葉を口にする

『さよなら、想い出の人』