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【オリバト+】コミュの【アグリーシャークス】

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文:久馬

※久馬さん以外の書き込みはご遠慮ください。

コメント(41)


「で、今日の仕事ってどんなの?」

髪も完璧。 今日はいつもよりはねさせて、元気な感じの仕上がり。さぁて、、服は、、

「マスターがとにかく来いって。内容は知らないわ。」
「子猫探しとかだったりして、、! 『ニャゥウ〜、ほらほら猫ちゃん出ておいで〜♪♪』 なーんて!」
「そんな訳ないでしょ。さぁ、もう4時半よ。さっさと服着なさい。」

レイチェルがドアを開けて催促する

「ッちょ!まだ服着てないって!閉めて閉めて!!ってか、服着なさいって言ってんのに開けるとか確信犯でしょ!!」
「分かる?いいじゃない、減る物でもないし。」

レイチェルがしれっと言ってのける。絶対楽しんでる。このS女め!

「減るの!私の自尊心が減る!」
「はいはい、、『マイ・スィート・テーラー』。」



 マイ・スィート・テーラー(my sweet tailor)
 能力 触れた対象に服を着せる。服ならばどんなものでも着せれる



「わぉ!これこれ!こういう感じの服着たかったのよ!もぅ、レイチェルったら分かってるー!!」
「うざいから先に車に乗ってるわよ。靴に2分以上かけたら先にだすからね。」
「う、分かった。」


そういうとレイチェルは出て行った。
だけど、本当に便利なスタンドだなぁ、オシャレにお金かからないし。

でも、なめてたらいけない。私はあの子のスタンドで何度ひどい目に遭ったことか。
この前だって、、、



brooroorooooon


あ、エンジン音!
ちょっと待ってー!!!


私は焦って靴を履かずに窓から飛び出した
窓から飛びおりながらスタンドを発動させる

「ロンリネス・ソープ!!」



ギュルギュルギュルッッ!!



 ロンリネス・ソープ(lonliness soup)
 ソープを飛ばし、滑らせる。たいていの物は摩擦力を失う



レイチェルの車がスリップする!私のスタンド、『ロンリネス・ソープ』でタイヤを滑らせた!!

「もうー、まだ1分しかたってないでしょ〜!レイチェル。」
「チッ!…普通ここでスタンド使う?事故になってたら弁償だったわよ。」

レイチェルが私を軽く睨む
大丈夫、軽くだから本気じゃないわ。多分

「レイチェルならこれくらいのスリップなんとも無いでしょ!さあ行きましょ!」
「…その服の代金、後で支払ってもらうから。」
「えぇー、そんなに怒らないでよー。」




カラン

「あら、レイチェルにモニカ。珍しく時間通りね。」

シャルロットがカウンターごしに声をかけてきた。彼女は薄い金髪の髪に、ピンクの口紅がよく栄える。夜の開店にむけて準備が忙しく、レジでお金を数えていた 。

「モニカの起こし方がわかってきたのよ。」
「えぇ、私だけの責任ー??」
「他になにがあるの?」
「う…。」


「まぁまぁ、二人共時間通りなんだからいいじゃない。」

その声と共にカウンターの奥の扉が開き、どこか涼やかな女性と思慮深そうな紳士が部屋に入ってくる

「こんばんは。レイチェル、モニカ。」

「ごきげんよう。マスター、ナンシー。」
「今日の仕事は私達が『担当』ね。一体どんな内容なの?」


ナンシーがマスターから資料の入った封筒を受け取り、私達に手渡す

「今日の仕事は、『それ』を捜しだす事だ。」

「…??」
「これ、何の写真なの?」

封筒の中には数枚の資料と引き延ばされた写真 。
しかし、写りが最低でよくわからない 。

「『キティ』だ。」
「子猫ッ!?やったー!」

私はどうだと言わんばかりにレイチェルを見た 。

「…マスター、私達に猫を捜せって言うの?」


レイチェルは不服そうにマスターに問う。
私は構わないけど!猫はかわいいし 。

「フフ、まぁまぁレイチェル。ただのキティじゃないぞ。二人共、資料をよく読んでみろ。」




体長:5メートル
体重:320キロ


「…え?」


・鋭い牙と爪を持ち、堅い鱗に覆われている
・また、発達した顎をもつ、要注意する事


「鱗…。顎…。」


種類:クロコダイル
ペットネーム『キティ』



「…鰐じゃない。」
「えぇー、ワニなのォ!!」

「下水道に潜伏してる事までは把握している。それを君達に捕らえてもらいたい。」
「…よかったわねモニカ。『キティ』捜せて。」

ナンシーがニヤニヤしながら皮肉を言う 。

「よくないー。はぁ、下水道に降りなきゃいけないのかぁ、ヤダなぁ。ナンシー変わってよー。」
「嫌よ。」

「シャル…」
「貴女の仕事でしょ。」

「アニィーーー。」
「…。」

アニーは本を読みながらこっちも見ずに手を振る 。
わかってた。アニーは人が良さそうに見えて、1番リアリストで同情なんてする子じゃないって 。

あぁ、世の中と友人は非常なものね。


「…わかった。やるわよ。」

仕方ない、別にワニは嫌いじゃないし。むしろ動物は大好きだ


「…マスター。だいたい内容は分かったけど、どうして私達に?こういう事件なら警察が担当するものでしょ。それとも、、警察に言えない内容なの?」

資料を読んでたレイチェルがマスターに問う


「うむ、キティはある大富豪のペットだったんだが、ある日婦人の指輪を飲み込んでしまってな。腹を切って取り出そうとした前日に逃げ出してしまったんだ。」

「うわ、酷い!」

「どうやら世間に知られたくない内容がそのリングに刻印しているらしく、極秘で鰐を捕らえようと、独自にハンターを雇ったらしいが、ことごとく返り討ちになったそうだ。そいつの…不思議な『力』にやられて。」


「……ひょっとして、ワニがスタンド使い?」
「…冗談キツいわ。」


「でもマスター。スタンド使える鰐を飼ってたんなら、飼い主だってスタンド使いじゃないんですか?」

テーブル奥のアニーが、本から顔をあげて尋ねる

「いや、依頼者は普通の人間だ。どうやら逃げ出す直前にスタンド使いになったみたいだな。監視カメラに、檻に近づく不審な人影が写っていた。暗くてわかりにくかったが、ソイツは右手に…『矢の破片』を握っていたそうだ。」



その瞬間、全員の表情か変わった


「矢がこの街に!?あれは例の財団が保管しているんじゃ…!」
「…イタリアのギャングが所持しているとも聞いていたけど。」

シャルロットとナンシーが一斉にマスターに問いかけた。
二人はそれぞれ、矢に射られてスタンドが発現した人間。矢に関してはいつも以上に敏感になる。

「……どちらにも確認をとった。矢はどこも歯こぼれはしてないみたいだ。」


「じゃあ、今回の破片は…」




沈黙  


しかしその静寂はマスターの声によってすぐに破られた

「なに、、まずは『キティ』を捕らえる事だ。何かわかるかもしれないしな。」


「…それもそうね。分かったわマスター、今回の任務。私とモニカで遂行する。」
「まぁ。がんばるよ。」

「うむ、頼む。やむを得ない場合は仕方が無いが、出来るだけ生かしておいて欲しい。捕獲次第、『アニー』に連絡しろ。合流して連れて帰る。」


テーブルでにこやかに紅茶を飲むアニー

「二人共、頑張ってきて下さいね。ちゃんと私の出番作っといて下さいよ?」
「わかってるわよ。心配しなくてもすぐに下水道に招待してあげる。」


アニーは足が悪い。下水道に車椅子では少し無理がある
故に彼女は後ろでのバックアップを担当している


「任せといて、マスター。すぐに取っ捕まえてくるわ。」
「では、ご機嫌よう。皆さん。」


そう言って私達は店を出た


________________________



「…どうするレイチェル。ワニのスタンド使いだってー。えぇと、潜伏予測場所は…ライオネル通り地下A-258。この先かぁ。」

洒落たのカフェに入り、ハムエッグチーズサンドを頬張りながら作戦を練る
ここのサンドはいつも出来立てで美味しいから好きよ

「とりあえず、ここのマンホールから降りて北へ上っていきましょう。」

レイチェルが地図を指差しながら説明する
すでに4枚のハニートーストを食べ終わり、今はノンシュガーのブラックコーヒーを飲んでいる所だ

「…甘いのか苦いの、どっちかにしなよ。」
「いいじゃない、両方好きなのよ。…地下水道は複雑に延びているけど、5メートルもの巨体を動かせる所は限られてくるわね。」

その事を考慮して再度地図を見る

「じゃあ、この大きな通路か、その先の巨大水槽かな。」


決まった
苦いコーヒーを飲みきり、店をでる



さぁ、仕事開始!!




「まずは、ここからね。」

マンホールをあけ、地下へと降りる
生臭い上に、湿気が多い
レイチェルに着せてもらった防水スーツがあるけど、臭いが染みそうで嫌!

「はぁ、早くシャワー浴びたいわ。」
「私だって同じよ。愚痴は言わないでモニカ。」

準備しておいたライトで水面を照らしながら進んでいく


…カサ

「あ!レイチェルあれ!!」
「…!?」


ミャオ

「いや、猫が…。」
「…モニカ、私達の捜してるのは鱗がチャーミングな『キティ』よ。毛皮は無いの。」

レイチェルは呆れ顔で先に進んでいく。

「わかってるわよー、だって可愛いかったから。…でも、あの猫首輪してるわ。迷子かしら。おいでおいでー。」

ミャァー?

「ちょっと、猫なんかにかまってないでさっさと……ッ!!モニカ!」
「え?何!?」

レイチェルがゆっくりとしゃがみ、口に人差し指をあてて、『静かに』というジェスチャーをしてきた
レイチェルの傍まで、音をたてずに近づく
その眼下には、だだっ広い水の空間



巨大水槽


様々な水路から水が流れこんでおり、滝のような音が響き渡る
申し訳程度の照明が水面を照らしてはいるけど、それが余計不気味…


「…あそこ。」

レイチェルがゆっくりと右奥を指差す

揺れる水面に浮かぶ影が一つ、静かに佇んでいる

「見つけた!よっし、さっさと終わらせてこんなトコおさらばよ。ロンリ…ッ!」
「待ってモニカ、普通なら先手必勝だけど、相手はスタンド使いよ。能力がわからないうちは近づかない方がいいわ。」

スタンドを出しかけてレイチェルに止められる。

「まずは、、出方を見る…!」

そう言ってレイチェルは小石を投げた!



ッ!?

バシ バシバシィ!!

小石は鰐の体にあたる前に全て弾かれる。
発現したそのスタンド!鰐の周りにいくつもの、『鳥』が現れ、小石を全て弾き落とした

「ふぅん、かわいい鳥達が貴方のお友達なのね。さて…どのくらいの射程距離なのかしら。」
「かわいいなぁ。あれはカモメかしら。あ、、キティがこっち見てる。」

グルルル

カモメは鰐の周りを旋回し、様子を伺っている
しかし、近寄っては来ない

「…近寄って来ないって事はまだ射程距離には遠い?」

捕獲するには、レイチェルのスタンドで身動きを取れない様に封じるのが一番
彼女のスタンドならどんな服でも、そう、くさびかたびらや強力な拘束衣だって着させられる
だけどその為には、スタンドで触れなくてはいけない

「私がやるわ。」
「…気を付けて。貴方は物理的な攻撃はかわせるけど、まだあの子には何か能力があるかもしれない。」

全てを滑らせるロンリネス・ソープの攻撃力は無に近い。でもその代わり、決して攻撃は喰らわない

梯子を下り、水槽の際の通路に降りた
ソープを飛ばせる距離まで少しずつ近寄る

その距離約20メートル


「あと…だいたい15mってとこかしら……?」

じりじりと距離をつめる
キティに攻撃をするには、まだ遠い。しかし、水の中に入るのは得策とは言えないわね
確実にソープを飛ばすには…


「ロンリネス・ソープ!」

背後の煉瓦の接着面に、ソープを染みこませる


 ズ  ズ  ズ ズ ズズ

上からの重力で、煉瓦達が前へと押し出されていく
そして…


 ドシュ ドシュ ドシュッ!

弾かれる様に、キティめがけて勢いよく飛び出した 



「…さぁ、今度は防げるかしら?」

キティへと向かう煉瓦 すると、飛来する煉瓦の上方をカモメ達が旋回する



バシュッ バシャァ ドバシャッ!!

「…な!?」

突然、煉瓦は激しい水柱をたてて水面へと落下した

「……どういう事?今度は煉瓦に触れてはいないのに…。」
「モニカ!!」

上からレイチェルが叫ぶ 

「!!」

キティが突進してくる…!

「怒らせちゃったかな? 意外に速いのね…だけど」


迫る、巨大な影 



「…私は誰にも捕らえられない。」


バクゥ!

キティの顎がモニカを捕らえた!! …が、手応えがない!


「グル? 」

キティは口を開けて確認するが、そこに彼女の姿は無かった




「ふふ、びっくりした?」

不意に声がした キティの前方の梯子にモニカが掴まっている
その距離は飛びつけば噛みつける距離…!

「ガアァァア!」

キティは再び噛みつくが… また、姿が見えない


「!?」
「貴方はもう…」

再び声! 今度は斜め後ろの上空!!

「何も捕らえる事が出来ないわ…。 アナタが私を襲った時、口にソープを塗らせてもらった。 いくら噛もうとしても…」


「グガァァアア!!! 」

キティが反り返り飛びつく! …が

「…全て空振りよ。」


バシャアアアン

またしても噛みつく事が出来ず、そのまま水面に落下した





「摩擦0は誰にも触れられない。何も触れれない。 そう、ロンリー(ひとりぼっち)な気分はどう?」


「……グルルルル 」

キティは配水管にぶら下がったままのモニカを見上げる

「ふぅ…でも、どうやっておとなしくさせよう…?」
「…モニカ!油断しないで!!」

「!?」

ミャー ミャー

いつの間にか、カモメがモニカを中心に旋回している

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「な、何…?」

ミシ ミシ

嫌な音が響く 同時に手にしている配水管から、水が漏れだした



「…嘘でしょ。」

バキィィン!

配水管が折れ、大量の汚水と共にモニカの体が落下する



ハッピー・ジャーニー(happy journey)
カモメ型のスタンドで上空を旋回することで、その下にある任意の対象にかかる重力をあげる



「モニカーーッ!」
「私の体が…『重く』なってる!ヤバイ、このまま落ちたら…!!」



ドッバッシャーーーン

「う、浮かない…沈む!」
「グルルルル」

キティは何もしない そう、ただモニカが水に沈むのを待てばいいだけ


「うぐッ」 (息が…!)


パシャアァァン

「モニカ!」
「ぷはァ!レイチェル!!」

レイチェルが飛び降り、すかさずモニカに救命用具を着せる
助かった!

「ありがとう。でも…」

救命用具の浮力でも、追いつかない…!沈んでいく!!!

「…ヤバイかも。」

「モニカ。…スタンドを解除して。」
「!?」

「グルルル 」

キティはまだ見ているだけ
カモメがなおも上空を舞い、レイチェルの体も重くなっていく

「早く!モニカ!!」
「ええィ!知らないからね! 『ソープ』 解除!!」

「グ??」


キティが口の違和感が無くなった事に気付いた
口をパクパクしてみる …噛める! 
目の前には衰弱した敵!!

途端に湧き上がる 本能 

(噛メル!仕留メラレル!)


「グオオオオン!」

 バクゥ!!

キティは勢いよく二人に噛みついた
そして 鰐が獲物を飲み込もうとする時、必ずそうする様に…
口を上にして…!!



スパァン


再び顎を閉じた時 獲物の感触が無くなった


「 …やっぱり上を向いたわね。 飲み込む為に。 沢山の水を吸ったウールで衝撃を吸収した。 一発目は痛かったけど、これでアナタはお仕舞いよ。 」

「 『ロンリネス・ソープ』。 二度噛みしてくれなきゃ脱出出来なかったわ。 …まぁ、二度噛みするのは本能から言って当然の事だって、私、わかってたけどね。 」

「…知らなかったくせに。」
「っちょ!!」



「グルルゥ! 」

再びカモメが舞った! 空中で二人の体が重くなる!!

「二度も同じ手は喰らわないのよッッ!」

モニカが壁を蹴って落下角度を変えた!

「一つだけ安全な落下ポイントがある。それは…」



「グゴガガガアアァァッッッッッッ!!!!!」

キティの背中に、十分に重くなった二人の体がめり込む


「貴方の 『真上』。 さて、マイ・スィート・テーラー、この子の服を仕立てて頂戴。」
「やっと捕まえたー。さてと、アニーを招待しますか。」


「アニー?終わったわよ。」

『あら、早かったですね。もう一杯紅茶を飲もうと思ってたのに。』

「こっちで『3人』のレディが待ってるのよ。早く来なさい!」

『はいはい、じゃあすぐにマスターと向かうわ。』




ミニチュア・ピンシャー(miniature pinscher)
本体 アニー 

動物を3匹まで小型化し、持ち歩ける
本体はその対象の動物の意思を感じ取れる



「グルルルルル!」
「大丈夫よ、キティ。悪い様にはしないわ。」

そういってレイチェルは背中を撫でた

「まぁ、アニーが来るまではおとなしくしててよねー。」



その様子を見つめる、一人の男

「…彼女達は、いったい? いや、キティ…心配はないみたいだ。 大丈夫、彼女達はいい人間だ。そうだろ?ビアンカ。」


ミャオ

男の腕の中には『毛皮のあるキティ』 

「様子を見て、迎えにいくよ。それまでは彼女達と一緒にいるんだ。」
「グルゥ…」


「あれ、なんだかこの子、急におとなしくなったんじゃない?私の言葉がわかったのかなぁ?」
「まさか、貴女の重さに耐えかねたんでしょ。」
「な!レイチェル!レディに失礼よ!第一アンタの方がよく食べるじゃないッ!」

「私、太らないもの。」


…むかつく。

「あー、帰ったら早速お風呂入らなきゃ。ソープは何にしようかなー。うーん、よし!今日はすっきりしたいしパインにしよ!」
「私は無臭のでいいわ。早く帰ってケーキ食べたい…。」

「……この悪臭の中で食欲ある事に尊敬するわ…。レイチェル。」




キティ捕獲任務 完了 



1話登場スタンド


ロンリネス・ソープ

マイ・スィート・テーラー

ハッピー・ジャーニー
キィ


「あー、今日は疲れたぁー。」
「アナタは何も疲れる事はしてないでしょう、モニカ。」

午後の日差しが照りつける中、アグリー・シャークの扉が開かれ、二人の少女が入ってきた

一人は栗色の髪を弾む様にセットしている。オシャレには余念がないといった雰囲気
名はモニカ
つい先日のキティ捕獲任務を終えた後、レイチェルとパートナーを組み替え、現在は新たなパートナーと任務にあたっている

…と、言うのもここ最近レイチェルの人気が上がってきていて、お客さんがレイチェルが来ないと嘆くので店の売り上げに貢献するためにしばらくはカウンターレディとして働く事になったのだ。


なんか、複雑だわ。

もう一人のパートナーは、髪を短く切りそろえメガネをかけた少女で、足が悪いのか車椅子に乗っている
特別なアクセサリーはつけてないが、どこか幼い艶めかしさと理知的な容姿を宿している少女

「だいいち、アナタが寝坊しなければあんなに手こずらなかったんですよ?」
「もう、いいじゃないー、アニー。ちゃんと今日の任務は達成出来たしさぁ。」

そういってテーブルにアニーの腰掛けるスペースを作る

「あれは、私の機転があってこそです。 あ、どうも。」
「ごめんってば、だって何故か目覚ましが壊れてたのよ。 どういたしまして。」


「壊したの間違いでしょう?」

その会話を聞いていた女がカウンターの奥からモニカと呼ばれた少女を鼻で笑った

「シャルロットひどいー、私がそんなに暴力的に見える?」


キィ

「今までの破壊された目覚まし達がそれを物語っているわ。」
「げ、レイチェル。」

背後の扉からレイチェルが入ってきた。買い物袋を持っている所を見るに、買い出しを終えた様だ

「シャル、ここに置いておくわね。」
「ええ、ありがとうレイチェル。」
「あ、キティの食べ物買ってきて貰えましたか?」

アニーが声をかける

あの任務の後、キティはアニーのスタンドで小型化。あの手この手で体内にひっかかっていた指輪を取り出し、依頼者に返還。現在はアニーが世話をしている
ちなみに指輪に刻印されていた情報というのは何かの番号で、調べてみると婦人の浮気相手のケータイ番号だった

まったく迷惑な話

「ええ、今日は鶏肉にしてみたわ。」
「いいですね、カロリーも少ないし。キティも喜びます。」

そういってスタンドを発現するアニー

小さな立方体のケースの中に体調4cm程になったキティが入っている

「出しますよ?」
「OK。」


トシュゥゥ

「グガ?」

キティが辺りを見回す

「キティ、ご飯です。はい、鶏肉。」
「 ♪ 」

新鮮な胸肉をむさぼり喰らうキティ ちゃんと健康も考慮して骨付きだ
心なしか、、、尻尾もふっている?

「かーわいいよねー。これがあのでっかかったワニとは思えないわ。」
「今からでも元のサイズに戻せますよ?」
「…今はいい。」


キティからわかった情報は少ない 矢について、もう少し何か分かるかと思ったけど…

アニーは自分がストックしている動物の気持ちが分かる
といっても相手は動物 人間の様な思考を持っている訳ではない



『 コンバース マツ  ココ アンゼン 』


アニーが読みとれたのはその言葉だけ
コンバース? USAのシューズブランド??

あー、分からないー。


「おや、おかえりモニカ、アニー。」

「マスター!」
「あ、報告が遅れてすみません。先程帰還しました。」

奥からマスターが顔を出す 手には給料明細

「あ!やったぁ!給料!!」


モニカがマスターに駆け寄ろうとした その時




コンコン


アグリー・シャークの扉がノックされた

「あ、誰か来た。はーい。」

扉に向かう途中で、レイチェルが小さく囁く

「…モニカ、慎重に。」
「?」

見ればアニーも同意の表情


「…あぁ、そうね。」

今は昼と夜の間 アグリー・シャークは営業時間外
この時間に尋ねてくるのは、しがないセールスマンか、珍しい観光客
それとも…





あの事件… 矢について何か知っている人物



コン コン

「今開けまーす。ちょっとお待ちを。」


鍵を開ける

さりげなく構えるレイチェルにアニー


キィ





「…アナタは」
扉をひらくと、そこには一人の男が立っていた。

至って普通。ダサくもイケてもない。
よく言えば人の良さそうな…悪く言えば幸薄そうな…
 

なーんて思ってると、その男が口を開いた



「あの…ここに、あの子…ぃま…」

「??」

何?こいつ?? 何行ってるか聞こえないんだけど。


男はうつむき加減に下を向きながら、相変わらずぼそぼそと何かを口走っていた


「だから……ヮニ、の…」

聞こえない。 駄目、イライラしてくる。


「はい!?ねぇ、お願い。そんな声じゃ小さくて分からないわ。もっとはっきりと、大きな声で言ってくれない?」


「ぁあ…わ、分かりまし…」


「小さーーーいィッ!あぁもう!そんなんじゃナンパもできないわよ!」

「ナ…ナンパ…!?」

ナンパという言葉に赤くなってしまった。なんて男だろう、今日こんな奴がいるんだ、このイングランドに。



「ちょっと、モニカ、脅してどうするのよ。」

「あ、レイチェル。」

背後からレイチェルが顔をだす


「あ、ぁなたも…あの…時」

「…声が小さいわ。それともっと自信を持って喋ってちょうだい。」

「…は、はい…。」



「……ハァ。」
「……フゥ。」

私とレイチェルは同時にため息をついて互いの顔を見つめ合った。

害はなさそうだけど、なんだかめんどくさそう。



「…で、いったい何の様なの?店はもう少ししないと開かないわよ?」
「道に迷ったのなら、地図をあげれるけど。」

「ち、違うんです。…その、え…えと」


男が私たちの顔を見る。 どうやら私たちが何を言いたいかを感づいたらしい。
唾をコクンとのむと、一呼吸してからしゃべり出した。


「こ…ここに、私の友人がお邪魔、していると思うんです、けど。」

うん、さっきより声も大きい 上出来ね。


ん? 友達?


「友達?って言ってもここにいるのは女ばかりだけど…」
「お、女の子です。」

部屋の中に視線を移す

アニーは首を振る シャルロットも知らないみたい。

「…ナンシー?」



「いえ…その子の名前、は 『 キティ 』です。」






ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「え?」


「『キティ』…そう、名は『キティ』。まだ幼いんです。可哀想に…殺されそうになって…」


男の背後から見慣れたものが浮き出る

そう アレは…


スタンドッ!!


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 



どういう事!? こいつ、キティを知っている!?
しかもというか、やはり! スタンド使い!
まずいッ!!

「ロンリネ…!」
「マイ・スイート・テ…!!」

「ああ!待って! 違うんです! 僕は!あなた達に攻撃しようなんて思ってませんッッ!!」


…攻撃するつもりはない?

信用できるかしら、その言葉を。
口からでまかせかもしれない。
本当かもしれない。

でも、ここで1番重要なのは…





関係ない


「…ス・ホープッッ!」
「…ラーァッ!!」


ガシュゥン

「うわぁッ!」

男の体がひっくりかえる。レイチェルが速攻で着せた衣装
…それは『きぬぐるみ』

頭ごとすっぽりかぶるその衣装のお陰で突然視界が悪くなった所に、更に私のソープで足下を奪われたのだ。


「ふふ、レイチェル。これって衣装って言うの?なんだか、すごく可愛いんだけど。このウサギのきぬぐるみー。」
「身に纏うんだから、立派な衣装よ。ちゃんとサイズもきっちりと仕立てているわ。」


「な…なんなんだ?」

転んだままの人工物のウサギが顔を上げる 頭の部分を脱ごうとするが…

「な…何?これ…。ぁ、れ??脱げないんですが…。」

「…ゆっくり話を聞かせてもらって、害がないと分かればとってあげるわ。がまんしなさい。」

「は…はぁ。」

ウサギはポカンとしている
レイチェルはニコニコだ

やっぱりS


「悪く思わないで、でも、痛くは無かったでしょ。転んでも。」
「ふかふかの綿いりだからねー。」

「ま…まぁ。」



そのままズルズルと店に引きずる
背中側にソープを染みこませれば、女でも簡単な事

そのままウサギを中心に私、レイチェル、シャルロット、アニー、マスターが椅子に座って囲む

マスターは、静かに様子を伺っている 


実は、私は彼のスタンドを知らない。見たことがない。
マスターは滅多にその力を人前に出さないから。

でも、なぜだろう、彼がいればそれがどんなスタンドだろうと絶対に大丈夫と思えてくる。



男が口を開く

「……私、ぃや…ぉ、俺は…」

「貴方、ひょっとしてコンバースさんですか?」


男が言い終わらぬうちに、アニーが問う

「…?どうして俺の名前を?」


「…私のスタンド、ミニチュア・ピンシャーは所持している動物の気持ちがわかるんです。貴方を店に入れてからずとキティが貴方の名前を呼んでます。」

「キティ!そこにいるのか!?」

途端に今までとはうって変わって元気に話し出した


「け、怪我してない?食欲ある??」
「え…ええ。さっきも鳥肉を食べた所です。」
「鶏肉!?それはいい!その子の大好物なんだよ!」
「美味しそうに食べてました。骨まで。」
「いいね!カルシウムも採れるし、歯も磨ける!あと、ひなたぼっことかは…」


ガシ

レイチェルがウサギの頭をブレーン・クローでとらえた

「楽しそうだけど、そこまでよ。…質問させてもらうわ。攻撃するつもりじゃないなら、なんでさっきスタンドを出しかけたのかしら?」

レイチェルが背後から問いかける


「いた、た。 スタン…ド?」

「そうよ、『スタンド』。さっき何かしようとしたでしょ。」

「…あ、ぁあ。俺の『超能力』の事か。違うんだ、俺の力は『動物の声を聞ける』能力。あれは、何故か能力を使うと体から像が浮き出るんだ。よく分からないけど。」


「…なるほど。それはいつから使えるの?」

「わからない。物心ついたときには、少し聞こえる程度だったけど、聞くことは出来たな。あの像は最近体からでるようになった。」

「まだ、自由には動かせない?」

「動かすもなにも、俺の超能力は『聞く』だけだって。そんなの出来ないよ。」


「じゃあ、さっきはなんで能力を使おうとしたのかしら。」

「…キティと話しようと思って… …あ。」


レイチェルが頭の部分をとった


「どうやら、聞いてる限り危害はなさそうね。フゥ、改めてこんにちわ。ウサギさん。」
「そーやってしっかり喋ってれば、それなりにいい男に見えない事もないんだけどなー。」


「え…ぁ…。」


また声が小さくなる
…うーん、意識すると駄目みたい




っていうか、キティは鶏肉が好きなのね。

「…スタンドはカモメのくせに。」

「ん、何?モニカ。」
「ううん、なんでもない。」

「…で、コンバースさん。貴方はこの鰐…キティのご友人だそうだけど、その辺りをもう少し詳しくお聞かせ願えるかしら?」

シャルロットがコンバースに問う
シャルロットの口調がかしこまってる時は、彼女が人を信用してない相手と話をする時だ


まぁ、私だってそう簡単には信用してないわよ。





…いい人そうだけど。



「あ、はぃ。…ええと、どこから話そうかな……。キティと、初めて会ったのは、コットンマフィンさんの屋敷で…俺、バイトで飼育員やってたんです。…は、派遣の。」

「…コットンマフィンか。……先件の依頼者だな。」
「え、そうなの!?」

マスターが依頼者の名をあかす
本来は好ましくない事だけど、この状況では関係ない

恐らく彼も もう部外者という訳ではないから

「…そこで、キティと仲良くなったんです。彼女、生まれも育ちもペットショップで…よく、広い河原で自由に日にあたりたいって言ってました。」





『グルルルル』

『そうか、それわかるよ。キティ。まったくその通りだ。河原で浴びる太陽は気持ちいいだろうね。』




「俺は……さっきも言ったとおり、動物達の言葉がわかる…いや、言葉っていうのかな。…そう、うん、言葉…だな。だから、すぐにキティとも仲良くなる事ができた。」





『マジで!あのおばさんそんな趣味あんの!!うわー、見かけによらずスゴイなぁ。…え、俺?無理無理!そんなの出来ないって!キティこそどうなんだよ。』




「でも…」





『え…指輪を……です、か……?』

『そう、あの子が飲み込んでしまって。なんとか吐き出させられないかしら。』


『…やって、みます。』

『お願いね。もし貴方が無理なら…残念だけどお腹を裂くしかないから。』

『!!!』




「コットンマフィン…婦人は、あのキティの腹を裂く、と言ったッ!自分の都合だけで!!あんな…小さな石一つの為に!」





『キティ!頼む!!吐き出してくれッッ!でないとお前は……お前はッ…』

『…グルゥゥ』



『コットンマフィンさん、お願いします!別の指輪じゃあ駄目なんですか!?俺…俺が働いて、指輪を買いますから!』

『…わかってないのね。あの指輪じゃなきゃ駄目なのよ。指輪は、なんとしても取り出すわ。……それにしても変わった飼育員ね。キティは貴方のペットじゃないでしょうに。…たかが ワ ニ じゃない。バッグになってるのだって、沢山いるわ。』

『……ッ!!』

『キティが好きなら、早く指輪を取り出してちょうだい。もう待てないわ。』


『……………………は、い。』




「もう手は無かった。手は届かないし、薬も効果無し。………だから、『破片』に託した。」



「『破片』、ですってッ!?」
「ッじゃあ、アンタが…ッ!」


衝撃

目の前の男が 私達が捜してる男だったなんて

何もせずにお金が降ってきたカンジ…
こんな展開、ありなんだろうか。



「…じゃあ君は、今でもその破片…『矢のかけら』を持っているのか?」


「あ…はい。」



ほんと、退屈しない

『矢』


それに貫かれた者はその『矢』によって選択され、選ばれた者だけが特別な能力…そう、『スタンド』を授かる事が出来るという、信じられない能力を持つ道具

現在発見されている『矢』は、全て何かしらの組織の管理化に置かれ厳重に保管されている

…『矢』がもたらすものは人類にとって最良のものとは限らないからだ
『矢』は資格の無い者を容赦なく殺し、能力を得た人間は破壊を招く場合もある

その『矢』の『破片』が今ここに…
他の組織に確認はとってある。管理下における『矢』はどこも欠けてはいなかった。


つまり…



「…新たな……『矢』という事か。」

「…しかも、まずい事に…これは『破片』だわ。」


マスターとシャルロットが顔を見合わす

コンバースのデニムポケットから出てきたのは2、3cm程の『矢の破片』
これが新たな『矢』で『破片』というのなら…



「コンバース君、君はこれを何処で手に入れた?」

「え…?」


さっきまでとは格段空気が違う みんながコンバースに視線を集中する


「いいか、これはとても、重要な事だ。…この『破片』を、君は何処で……」






ッキィィシャッッァァァアアッッッッッ!!!!!!!!




「ッッ!!!」
「なッ!」
「…え?」




突然

何かが目の前を横切り

コンバースの手のひらから 『破片』 が消えた




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



「……ば…ッ!馬鹿なッ!破片が…ッ!?」
「ッみんな!スタンドを出せッ!!」


マスターの声を合図に、一斉にスタンドを出して構える


「今…俺の手の上に…ちゃんと『あった』のに…!?な、なんなんだッ!??」

コンバースは状況をつかめていない。



いったい何が? 

いや わかっている  これは…



新たな敵スタンド使い!

…しかも、こんな人数の中かっさらうなんて、良い度胸してんじゃない


「ミニチュア・ピンシャー!!『G・B』!」
「アォン!」

アニーがストックしている動物のうち一匹を解放する

透明なケースからでてきたそれは…G・Bという名前のジャーマン・シェパード

『Good Boy』と名付けられたそれは、優秀な警察犬だ


「G・B!私たち以外の臭いを捜して!」
「ワウッ!」

G・Bが鼻を動かす そしてすぐにまど際のカーテンに向かって吠えだした

「そこか!ロンリネス・ソープ!!」

一番カーテンに近かった私がカーテンごとロンリネス・ソープで殴る




クシャ




手応えが…おかしい



「…ククク……惜しいなぁ。だけど、もう無理さ。もう、俺達を攻撃する事は出来ないぜ。なぁ、ボブ。」
「『ドッグ・イヤー』…。ふふふゥ、念の為折っといてよかったよ。このページ。」
「ああ、まったくだピーター。ボブ。俺たちが三人が組めば、向かうところ敵無しだぜ。」


「!?」

スタンドで殴られ、もはや人間が隠れる隙間のないカーテンの中から三人の男の声がする


「誰だァ!!」

そのままカーテンを破りさる! そこには…!!




ペラ   ペラ




一枚の 手紙 がふわふわと漂っていた ……!
「こ、これはッ 手紙!? どういう事!?」

確かに声はした しかしそこに姿は無い
辺りには隠れられる所は何処にも…


「残念だったなァ… 聞かせてもらったぜ。頂いたぜェ。」
「アンタ達が下水道で色々やってんのを見てね、この店を『チェック』させて貰ってたんだよ。」
「そして、ギらせてもらった。 『矢』は俺達のものだ。 ヘヘヘ、あばよ。」


その三人の声は、どうやら手紙からきこえる様だった
手紙はひらひらと窓へと舞っていく

「なッ!そう易々と渡すもんですかッ!」

どうみても怪しいのはこの手紙!これを攻撃すればッッ!

「ヤアァッッ!」

スタンドで手紙を殴る!



グシャ


手紙はクシャリと折れて 吹き飛んだ

「……。 (どういう事?手応えが全くないけど…効いてるの?)」

尚も手紙は宙を舞う


ヒラヒラ ヒラヒラ


「ククク…無駄さ。 もう『切手』も貼った。 『宛名』も書いた。」

また 手紙から声がする

「もう手紙は『出された』んだ。 俺のスタンド、『 ポストマン 』によって一度出された手紙は、いっさいの攻撃を受けないぜ。」
「シャレた能力だね、ピーター。 僕の『 ドッグ・イヤー 』は制限付きだからうらやましいよ。」
「全くだな。手紙にしてしまえば、どんな物でも郵送出来るんだからな。 例え水でも人間でも…しかも、へへ、必ず『届く』ときたもんだ。」


クシャリと折れた手紙は徐々に元の綺麗な形に戻り、再び窓の方へ舞っていく

「そんな!攻撃が通用しないなんてッ!」

どうしよう!このままじゃ『矢』を持っていかれる!!
外に出したらおしまいだわ!


ヒラヒラ と 窓に近づく手紙
窓際には、シャルロット

「シャルロットォ!手紙がでるわッ!! なんとかして!」


「…モニカ、落ち着いて。 出さなきゃ いいんでしょ?」

「ダーメダメ、手紙は『必ず』、届くんだ。 そこに『ポスト』があるかぎり、ドシャブリの雨がふったって、例え戦争がおこってもな!」
「まぁ、少し時間はかかるけどね。 手紙って。 ストとか起きると特にさ。」
「だが、Eメールとかより味があって俺は好きだな。 手書きだし、切手も選べるし。」
「だろ。 だが今現在ここらでストは無いし、表記漏れも…無ァし!まさにッ完璧なレターだぜ。」


何この余裕っぷりを見せつける様な会話!
でも実際やばい…!
あと1m! シャルロットったら、何余裕な顔してるのよッ! やばいって!



ススーーーー


手紙が外へと流れていく


そして




ガタン


「…あ。」


開いていた窓は シャルロットの手によって静かに閉じられた


「…そっか、窓閉じれば良かったんだ。」


シャルロットが哀れんだ目で私を見た

「何よ…、そんな目でみないでよ。 …ッ 攻撃が通じなくて焦ったんだって。」
「焦ってた、ねぇ。 もうすこし冷静に…」

「ふふふ…これで防いだつもりか?」


「ッ!!!」

窓辺のステップに落ちた手紙から再び声がした


「言っただろ。 …手紙は必ず『届く』って。」

そう言うと、手紙は風もないのに舞い上がり、 スッ っと窓の隙間に滑り込む


「キティ!お願いします!!」
「グルルルルァ!」


アニーがキティを解放し、攻撃を仕掛けた
キティのスタンドは『ハッピー・ジャーニー』! 対象を、『重く』するッ!


ズ ズ ズ !!

手紙は窓の隙間の最も下に、押しつぶされる

だが、それでも尚も外へと這いずっていく 止まらない

「ッく!」

シャルロットが端を掴むが…

「…ッなんなの、凄い力ッッ こんなに引っ張っているのに…破れないし、進んでいくわ!」


「クク、じゃあな。 キュートなお嬢さん達♪」
「今度はお客として来たいなぁ。 まぁ、もう来ないけど。」
「『矢』は頂いたぜ。 俺達がな。 あばよ。」


ふわ


手紙は閉じられた窓の向こう側に抜け 風に舞って飛んでいった

シーーーーーーーーン


……

…



「なッ…。」
「ガッデム!逃げられたわ!」

シャルロットが声を荒げてステップに拳を打ち付ける
手紙は風に舞い、小さくなっていく


…敗北

まんまと逃げられた これだけの人数がいながら、矢を奪われてしまった
悔しい!
しかも、あいつ等の変にからかう様な声が余計私を不快にさせる





「 ……。それで…だ。コンバース君。 話を戻すが、君はあの破片を何処で手に入れた?」



「…え?」

マスターはまるで何事もなかったかの様に質問を続けた
コンバースはこの展開についていけてない 彼の感覚では全てが一瞬で、まだ状況がうまく整理できてない様だ

もちろん、私もこの展開にはついていけない


「『破片』だよ。さっき彼らが奪っていった物だ。あれは…」

「…ちょッ、ちょっとマスター!なんでそんなに落ち着いてるの!? 私達その『矢』を奪われちゃったんだよ!?」
「…不覚だわ。最悪。」
「グルルルゥゥ」

キティにもこの状況がわかるのかしら いつになく残念そうに鳴いた


「ああ、『その事』か。…安心しろ。別に大した問題じゃない。」

「ッッ!大した問題よ! アイツ等、あの矢で何をするかッ!! 私、後を追ってくる!!」
「待って!モニカ!! 私も行くわ!」


私達は即座に店を出ようとした
手紙が飛んでいってからまだ15秒も経ってない 追いつけるはず!


「モニカ、シャルロット。 その必要はない。 …彼らは、必ずここに戻ってくる。 私達が焦る必要は無い。」

マスターは静かにそう言った

「…マスター、どういう事でしょう? 何故、あの人達が戻ってくる、と?」

アニーが『G・B』を追跡にだそうとする手を止めてマスターに問いかける


「彼らのスタンド…。全員の能力は分からないが、彼…『ポストマン』についてはだいたい分かっただろう。」

「ええ、ベラベラ喋ってましたからね。 無駄に。」


「『ストライキ』についても言ってたな。『時間がかかる』…とも。」

…そー言えば、そんな事も言ってたっけ


「…それをふまえれば、あのスタンドの弱点が見えてくるはすだ。」


2秒後

「…ッ! マスター。 もしかして…」
「え!なになにレイチェル!分かったの?」

「あぁ…そういう事。 だから『戻ってくる』のね。」
「ちょッ、シャルロットも分かったの!?」

「なんだか、騒いだりして恥ずかしいですね。『G・B』もう、戻しますよ?」
「バウ。」


「ちょっとちょっとォーー!待ってよ!私まだわかんないんだけど!!」


そう言うと、マスターが微笑みながら私に語りかける
その他のみんなはちょっと小馬鹿にした目で微笑みかける


…何よ、いいじゃない

はぁ、マスターだけよ 私をちゃぁんと見てくれるのは


「つまり、モニカ。 こういう事だ。」

そう言うとマスターは携帯を取り出した


「……あぁ、ナンシーか? 非番なのにすまないな。 君の家は確かサウスジル公園の近くだったな。 少し行って貰いたい所があるんだが、今出れるか?」

「……。」

私はまだわからない


「…そうだ。 いや、それはいい。 …あぁ。 そうか、ありがとう。 それで、任務内容なんだが、今から言う住所の所に行って君のスタンドで『ポスト』を壊してきて欲しいんだ。 …そう、その『ポスト』だ。 …あぁ、念の為急いでくれ。」

「ポストを壊す……。 あ、なるほど。」


「…あぁ、かまわん。 後始末は私がちゃんと手配しておく。 ……では。頼んだよ。」

マスターがケータイを切る

「分かったか?」
「えぇ、もうバッチリよ!」


私は笑顔で答えた



手紙は必ず届く 『切手』も 『住所』も 『のり付け』も 完璧だった
表記漏れは 無し


でも、肝心な『届け先』が無ければ

手紙はまた舞い戻る



「でもマスター。 よくあのスタンドが実際の郵便の情勢に左右されるって気付きましたね。」
「彼らが口に出して言ってからな。 左右されなければ『ストライキ』が現在やってるかやってないかなんて、気にしないだろう?」

アニーが紅茶を準備し始める
マスターは少し嬉しそう


「ちゃんと、ご丁寧に『差出人住所』にここの住所も書いてくれていた事も幸いしたよ。 いや、今時そういった事をきちんとしている人間がいる事は実に喜ばしい。 私はそういう人間が好きだよ。 ……さて、コンバース君。もう話を進めてもいいかな?」

「は、はぁ…。」


コンバースはまだついてこれて無かった
「はぁ、それにしてもマスターが向こうの住所をちゃんと見ててくれて助かったわ。」

「モニカ。相手をよく観察する事は重要な事だ。…君は、どうも、その…突っ走りやすい傾向にあるからな。まぁ、君のスタンドは攻撃をかわすのが得意だから、余計にそうなりがちなんだろうが。」

マスターが椅子に腰掛け、アニーの入れた紅茶を飲みながら話す


「本当ね。でもいくらロンリネス・ソープでかわせるって言っても、キティの時は危なかったらしいし、もうそろそろ落ち着いたらどう?モニカ。」

シャルロットもアニーから紅茶を受け取り腰掛ける


「ちぇ、わかってるわよー。気をつけますー。」


「まぁ、とにかく何事もなくてよかった。さぁ、手紙が送り返されてくるまでにはまだ日があるんだ。レイチェル達も座って一息いれよう。コンバース君、君も紅茶でいいね?」

「あ…は、はい。」

言われて私達も席につく


「モニカ、角砂糖取ってよ。」
「ん。はーい、レイチェル。」

「サンクス。」

レイチェルは角砂糖が入ったポッドを受け取ると、角砂糖を一個、二個、三個、四個…五個……


「……レイチェル。それ、飲むの…?」
「?? 何言ってるの?モニカ。紅茶は飲むものよ?」

「うん…そだね。」


レイチェルが美味しそうに紅茶を口に含む

うわー、あの紅茶、ジャリジャリいってるよ…
……私には、無理ね


「あ、確かスコーンがあったわね。私、取ってくるわ。」

シャルロットが席を立ってカウンターの奥へと向かった

「あ、私チョコチップ入ったやつー。」
「シャル、私はメイプル。」
「プレーンをお願いします。」

「貴方達…ついでだからって人使い荒いわね。」

シャルロットが私達を軽く睨む

「あぁ…すまないが私もプレーンで頼むよ。」
「ぇと……俺は…。」


「……ああ、もう!!面倒臭いわね!いちいち!!全種類持っていくわ!それで文句無いでしょ!」


…怒られちゃった

シャルロットが沢山のスコーンが入ったお皿をダンッとテーブルにたたき付ける

顔立ちは凄い優しそうなのにすぐキレるのよね、シャルロットは
せっかくのブロンド美人なのになー



「さて、コンバース君。話を…」
「あぁ、はい…。あの『破片』は小さい頃から持ってたんです。物心ついた時、から…。」


……
…………

コンバースの話をまとめるとこうだ


彼は両親の事を一切覚えいない
気付いた頃には施設に居たそうだ

コンバースは『破片』を、何故かいつも持っていた。それがないと落ち着かず、握りしめたり、ポケットに忍ばせたり…

彼がその『破片』の力を知ったのはつい最近の事
愛猫が、ある日間違ってそれで手を切ってしまったのだ

そして…その猫は数日寝込んだ
彼の毎日の看病もあり、やがて猫は元気を取り戻してた

しかし、コンバースは回復した猫を見てある事に気が付いた


その猫は、特別な猫になっていたのだ

彼はそこで初めて『破片』の力を知り、恐怖した
この『破片』には不思議な力がある だけどこれはあまり多用すべきじゃない
彼の本能がそう告げた

以来彼は『破片』を誰にも見せない様に意識する事にした

『これは…俺のお守りなんだ。 あんな事に使わなくても、持ってるだけで俺は癒される』


だけど、あの日
そう、彼の友人キティが腹を切られると決まった夜 …コンバースは屋敷に忍びこみ、キティの運命を『破片』に託した




「…で、逃げ出したキティを捜して下水道にいる事を突き止めたんだ。そしたら君達が……」
「えぇ!?じゃあアナタあの地下水槽にいたの!??」

「…ッは、はい。」

私は思わず身を乗り出す コンバースはちっさくなる

あそこに、居たんだ…気付かなかった 不覚ッー…!


「なら、キティを止めてくれても良かったのに。」

と、レイチェル

「…だって、君達が保護しに来てるって知らなかったから……」

…まぁ、確かに攻撃してたからね こっちから


んん?

「ちょっと待って、アナタの猫も、その『矢の破片』でスタンド使いになったって言ってたわよね?」
「…スタ……ぁあ、超能力か。うん、そうだよ。名前は『ビアンカ』。ビアンカ、でておいで。」

そう言うとコンバースはおもむろに服を軽くはたいた



スルゥ

コンバースのアンダーシャツから白い物体が滑り降りる


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



「彼女がビアンカ。かわいいだろう?」

「ミャア」


本体名:ビアンカ
スタンド:ホワイトタトゥー

物体の平面に潜める
しかし姿が見えなくなる訳ではなく、物体の表面上に姿は映し出され、絵柄の様になる

「…ッ!」
「モニカ?」

私はテーブルの上に現れた猫を思わず抱きしめた

「ミャォ!?」
「キャーー!やっぱり!あの時の子猫だわ!!」

子猫は驚いて爪で引っ掻いてくる

「…あ、あの……。ビア…ンカ、が…嫌がって…」
「フー!」


ふふ、爪を立てても無駄よ
ロンリネス・ソープで皮膚をコーティングしたから痛くないわ♪

私は暴れる子猫の毛並みにかるくキスをして強く抱きしめた


「ミャアー!」
「…うぅ、ビアンカ。」

コンバースはオロオロするばかり



「モニカ、何してるのよ。嫌がってるじゃない。」

レイチェルが呆れ顔で猫を取り上げる
首を捕まれ、宙ずりのまま手足をバタバタさせて尚も暴れる猫


「レイチェル!この子。下水道で会ったあの猫よ!ほらー、キティを見つける前に…」
「……あぁ、『毛皮のあるキティ』ね。そういえば白い毛並みだったわね。」

そういうとレイチェルは興味なさげに手をはなした
そのまま地面に落下する子猫


ビタン!


「フミャ!」
「あぁ!ビアンカ!」

レイチェル…それは流石に可哀相



「ニャォォン!!」

ビアンカは駆け寄ったコンバースに飛び付くと、あっという間にシャツの中に逃げてしまった

いや、中じゃないわね
シャツの表面に



「ちょっと!止めてくれよ!ビアンカはまだ子猫なんだから!!」

珍しくちゃんと怒るコンバースに、レイチェルは知らん顔


「猫なんだから、これぐらいの高さ問題ないわよ。ビアンカも怪我はなかったじゃない。」
「そういう問題じゃなくて!」

…たしかに



「変わった能力だな…。物体の表面に潜めるのか……?」
「ビアンカー、ミルクですよ。ほらほら。」

コンバースの背中越しにマスターとアニーがビアンカに餌をやろうと誘っている

「ニャア?」

シャツの前側から背後に移動するビアンカ

「成る程、表面上ならシワや段差があっても移動出来るのか…」
「あ、マスター。出てきましたよ。」

シャツからゆっくりと姿を出して二人を見上げる

「大丈夫。私達はあの二人みたいに酷い事しませんよ。さ、ミルクをどうぞ。」
「なによー、酷いのはレイチェルだけよ。」
「私はそんなに酷い事なんてしてないわ。」

アニーの入れたミルクを飲むビアンカ

ちぇー、仲良くなろうと思ったのに
なんで私の時は暴れたのかしら



『グルルル』

「あ、キティも出たいみたいですね。」

アニーが再度キティを出す
サイズが小さくなっているから、同じテーブルの上でも問題はない

「キティ! 元気だったか!?」
「グゥ」

コンバースへ歩み寄るキティ
本当に嬉しそうだ


「こんなに小さくなって…!でも可愛いなぁ。……あ、そういえばさっき手紙の奴らが来た時はもう少し大きかったけど、君は所持している動物の大きさを自在に変えられるの?」

「えぇ、元のサイズよりでかくは出来ませんけど。」

片手にキティを乗せて戯れているコンバース


「いいなぁ。これなら俺の部屋でも一緒に暮らせるぞ、キティ。」
「グルルル」

「あ、でも私が所持している『間』は、という意味ですから、私からあまり離す事は出来ないんですよ。」
「えぇ!そんな!」

コンバースはガクっと肩を落とす

…その肩には、先程まで手の上にいたキティが
どうやら手の平から登ってきたみたい 
頭を得抱えて悩むコンバースをよそに、右肩を得意げに陣取っている


「うぅ、どうしよう…。やっぱりまた下水道に戻すか、そうだ!それか河に……!!…いや、ダメだ。見つかったらキティが危ない…。やっぱり最初の予定通り下水道に……。いや、むしろ…ここに居た方が…」


「…あの、世話なら私がしておきますよ?コンバースさんがよければですけど…」

「えぇ!本当!?」

顔をあげてアニーを見ると、コンバースは手を握って頭を下げた

「ありがとう!なんて言ったらいいか。君は、とても親切な人だ!」

コンバースって、動物が関係すると積極的になる性格みたい

でも、アニーは全然動揺してない
発展はなさそうね つまんないの

「…モニカ。何か変なこと考えてません?」

アニーがジロリと睨む あれ、なんで分かったんだろ
私、アニーに所持された動物じゃないわよー?


「なーんにも無いわよ。ところでさ、コンバース…って呼んでいいわよね。アナタの家はドコにあるの?」

「家は…港の方だよ。すぐ前が海なんだ。」
「へぇー、じゃあ案外私の家から近いかもね。私の家も海に近いし。」

「でも、収入はどうしてるの?その、コットンマフィンの所でまだ働いてるとか?」

シャルロットがみんなの紅茶のおかわりを入れながら聞いた


「…いや、流石にあんな事があったから…。実は、今はその日のバイト暮らしで。」

コンバースは少し恥ずかしげに答える 
…そう言えばさっきのマフィンもおかわりしてたっけ
大変なのね……

「…もっと、食べる?マフィン。」

私はマフィンを更に勧めてみる
でも流石にもういらないかな。沢山食べてたし。

「あ、ありがとう。」


パク

食べた! 7個目!
チョコマフィンを美味しそうに頬張っている 



「ふむ、ならばコンバース君。うちで働いてみないか?」

その光景を微笑みながら見ていたマスターはいきなりそう提案した
突然の誘いにコンバースは目を大きく開く

「ふぇ!ふぉんな!!ふぃふぃん…ん……プハッ…いいですか!?」

「もちろんだ。君の顔立ちはそんな悪くないし、スーツでカウンターに立ってもなかなか様になるだろうよ。うちは私以外は女でやっているからな。男のウェイターが居ればいいアクセントになりそうだ。あ…もちろん最初から難しい事はさせない。安心してくれ。」

コンバースは口を開いたまま 聞き入っている


「…まぁ、パブでの仕事が嫌なら無理にとは言わないが……」
「や、やらせて下さい!お、俺なんかでよければ…。」

その返答にマスターはフフっと笑うと紅茶を置き、右手で握手を求めた
慌ててその握手に答えるコンバース

「よし、交渉成立だ。スーツなどの衣装はこっちが用意する。」
「任せてちょうだい。私が仕立てるわ。」

レイチェルが軽くウィンクする
コンバースはさっきの事が少しひっかかってるのか少し複雑な顔

「…宜しく、頼みます……」
「なによ、まださっきの事を根に持ってるの?しつこい男は女性に嫌われるわよ。」

「…ビアンカはまだ小さいから、あの高さは……」
「はいはい。わかったわよ。『 so sorry 』これでいいでしょう?」


「…まぁ。」

なんとか納得したみたい
最初はオドオドした暗い奴かと思ってたけど、慣れてくれば結構面白い奴ね


「私はモニカって言うの。よろしくねー。」

「アニーです。キティのお世話は私がさせて貰います。」

「シャルロットよ。」

「改めてよろしく。私はレイチェル。服を仕立てるから後で好みを教えてね。コーディネートするわ。」

「そして私がこの店のマスターのジョン・カーズマンだ。まぁ、簡単にマスターと呼んでくれ。あとは、今日は非番だがナンシーという子が一人。合計6人で営業している。」

コンバースは一気に紹介されて、あたふたしている


「は、はい。…えと、モニカ、アニー……シャルロット…レイチェル、マスターですね。…なんだかいきなりだけど、宜しくお願いします。俺の名前は、もうみんな知ってると思うけど…。」

そう言うと肩からキティを降ろし、改めて私たちに向き直った


「俺はコンバース。 コンバース・オールスターです。よろしく。」





新たな仲間が、アグリー・シャークに加わった


手紙が送り返されてくるまで、あと3日程…
その間にスタンドの事とか色々教えなくちゃ

あとは、お酒の作り方と簡単な料理、皿洗いに洗濯、掃除、店番、お使い…

うん!かなり楽になりそう♪♪
やっぱ男なんだし沢山働いてもらわないとねー♪





『破片』を持つ男の身柄確保 完了
2話登場スタンド


ホワイト・タトゥー

ミャー  ミャー



…ウミネコが鳴いている



いやあれはカモメ??


カモメが…4匹 


ふふ、かわいいわね 
あ、近づいてきた 



私の周りを飛んで…





…お


重い!!!?




「うんーーーッ!!?」

「あ、レイチェル。起きたよ。」
「ありがとう、コンバース、キティ。」


!!?

…重いーーッ! 

身に覚えのある重力
額がアルコール臭の染み込んだテーブルから離れない



…最ッ悪の目覚め

「ちょっとォ!コンバース!!よくもやったわね!」
「うわ!俺じゃない!レイチェルだよレイチェル!」

重くて顔が上げられないからよく見えないけれど、そのままスタンドでコンバースのチェアーにソープを飛ばす


「うわァッ!!?」

派手な音をたててすっ転んだ


…いい気味!




「モニカ、コンバースにあたるのは止めなさい。悪いのはオープンまで店で寝ている貴方の方よ。」

レイチェルがテーブルの上にいるキティを掴み私の頭の上に乗せる
アニーの能力が届く範囲では小型で出しておけるのは便利だ


…今回を除いて


「ちょっとー、早くキティの能力解除してよ!いつまで私にテーブルをプレスさせる気!?」

「確かにテーブルを拭くのに邪魔ですね。キティ、解除してあげてください。」
「グルルル」


店の端でテーブルをセットしていたアニーがしれっと言う

「ひどい!あんた達ねェ!それが昨日寝ずに店番していたアタシに言う言葉ァ!?」
「あら、本当に店番してたのかしら。居眠りしていたの間違いじゃない?」



「…日が昇るまではちゃんと起きてたわ。」





そう、私は昨日一人で(マスターとナンシーは店の奥で仮眠していたけど)このアグリーシャークを守っていたのだ

だって、昨日か今日があの『手紙』野郎の返却日



誰かが見張っていなきゃいけない

だから私は進んで遅番を申し出たのよ
昼間はしたい事がたくさんあるんだもん



…はぁ、お昼より夜の方がゆーーーっくり出来ると思ったんだけどなぁ

「あーあ、面白い番組もやってないし、ラジオも飽きてくるし、ほーーんと暇だったわ。」


ハッピー・ジャーニーの能力が解除された
ふぅ…やっと顔を上げられる

「もー、額にあと付いちゃったじゃない。」
「あら、その顔もなかなかキュートよ。」
「何よ!レイチェル!」

いちいちからかってくるレイチェルに腹が立つ


頭にくるわ。ただでさえ昨夜暇すぎてイライラしてたのに。
あのポスト野郎、待たせすぎなのよ!



私はそばにある物を掴んではレイチェルに投げた


ナイフ フォーク メニュー ナプキン
ケチャップ ビネガー ジャパンで人気のWASABI



方向はいい

だけどレイチェルは簡単によけていく


「モニカ、そんなんじゃあたらないわよ。ノーコン。」
「むかつくーッ!!見てなさい!これなら…!!」


ソープを地面に運ばせる!

「!!」
「でやァ!」

勢いよく テーブル を蹴り出す
摩擦がない地面をレイチェルめがけて向かっていくテーブル


  テゥシャー!


「ッく!そこまでやる!?『マイ・スィー…』  ッ!!?」


…何かにぶつかってテーブルの進路がそれる
そのまま他の客席にぶつかって、テーブルは止まった







「ううぅ…。」



……あ。


「あーー、…ごめん。コンバース。」


テーブルの足に引っかかったのは、さっき私が転がせておいたコンバースだった
「モニカ、いいかい。君の能力はすばらしい。才能もあるし、何より魅力がある。」


マスターが私に向かって話しかけている

けど、決し褒めているわけではなくて…


「…だが、店の中でソープを飛ばすのはいただけない。コンバースの痣はどう責任をとるんだ?」

「うぅ…ごめんなさいマスター。…コンバースの分は私が働くわ。」
「ふむ、では今日モニカは皿洗いと買出しと下ごしらえ、それとクリーニングを片付ける様に。」

「…はぁーーい。」

うなだれて事務室をでる

クリーニングもかぁ、やだなぁー。
たまったシーツは臭うのよね。


「モニカ。」

「あ、コンバース。」


カウンターのところでコンバースに呼び止められる

…文句ならもうお腹いっぱいよ

「マスターにだいぶ絞られたね。」
「まぁねー。まぁいいの、私が悪かったんだし。でも…お腹、大丈夫?」

私が懇親の力で蹴り出したテーブルは、コンバースの膝と腰に見事に引っかかっり
お腹の辺りにテーブルの角的なキツイ一撃をお見舞いして飛んでいったみたいだった


「…まぁ、痛くないわけじゃないけど。はは、なんか慣れてきた。」


コンバースがこのアグリーシャークで働き出して今日で三日
まだ短い期間だけど、連日の業務(飲んだり飲ませたり)でだいぶ精神的にタフになってきたみたい

酔った客の相手させた時は面白かったなー
まぁ、シャルロットが乱闘して事なきを得たんだけど


「そ。それならいいや。じゃあ私はシーツをクリーニングに出してくるから。」

そういって私は裏口の扉のノブを回す


「あ、モニカ!」
「?」

コンバースが声をかける

「なに?もしかして手伝ってくれるとか!?」
「いや、このおしぼりも頼むよ。」

そういって大量の使用済みおしぼりがはいったカゴを投げてきた

「えー、わかったー。」



…本当に慣れてきたわよね
この間まで女と話すだけできょどってたのに

まぁ、良い事ではあるかな




ガチャリ

ノブを回す


「じゃあ、もうこれだけね。行ってく…」


ブロロロロ ガタ

「…あ。」

裏口の路地から大通りを走るバイクが見える
荷台に大きなバックパック

国内でよく見るあのマーク


まさしく郵便配達!



カタカ カタ


 カ タ ン 



ブロロロロロロォ



配達員がアグロリーシャークのポストに手紙を投函する

かすかにしか見えなかったけど、あの手紙で間違いない


「来た!コンバース!みんなに知らせて!!あのポスト野郎が戻ってきたわ!」
「 ッ!? わ、わかった!!」


コンバースに声をかけて私は速攻で表へと走る!

担いでいたシーツは路地裏にぶちまけちゃったけど、どうせクリーニング行きだもの 構いやしないわ


郵便受けに投函されてから時間を置くわけにはいかない

手紙が『届いた』ら、配達は終了
おそらく、能力も解除される

あて先不明で強制的に帰ってきた手紙が元の状態に戻るまでに、カタをつけなければならない!!



ガタ ガタ ガタ ガタ
ガタ ガタ ガタ ガタ

「!?」

まずい! ポストが揺れている!?
取り出し口が今にも開いてしまいそうだわ
そうなったらやつらが脱出をしてしまう…ッ!
私のロンリネス・ソープじゃ滑らせるだけ、ッ固定はできない!



 ガ タ  ガ タ



     キィ



少しだけど、確かに取り出し口が開く…!

「やばッ…!!」





  ギシャァァアァガァンッ!!!!!!




「!!これはッ!」



石を砕いた様な音が響くと同時に
みるみるポストが不思議な結晶に包まれていく

透明なその塊に全体を覆われ、ポストの動きは…止まった


透明な…? いや違うわ。この屈折、輝き…






これは宝石の輝き

…さしづめ今日はダイヤモンドってとこかしら




「 『エムプティ・ジュエル』…逃がしはしない。またポストを壊しに休日出勤なんでしたくないもの。 」

「ナンシー!」

いつの間にか、ナンシーが玄関先から降り立ち 正面の庭で待ち構えていた
店の中からマスター達の足音も聞こえる

ナンシーのスタンドによって、ポストは輝くダイヤモンドの結晶に包まれている



彼女のスタンド、それは巨大なタンク(ケース)
彼女が『空っぽの宝石』とよぶそのスタンドは…

まさしく "tank”


巨大な輝く戦車



「戦車"tank"は我が英国が始めて開発した兵器…一次大戦の”ソンム会戦”では輝かしい実績を残した。
けれど悲しいけど兵器は兵器。破壊しか出来ない。」




ギャルルルル!


キャタピラーがゆっくりと宝石と化したポストに向かう
地面にただ呆然と突っ立っているポスト
その中にはあの…手紙が

「砕け散るのね。」


「ええ、ッちょ!?一応無事な形で捕獲できたんだから!潰したら駄目よ!!」

「…中身はまだ手紙なんでしょ。」
「手紙…だとは思うけど。」
「どんなことをしても壊れないって話を聞いたわ。」
「…まぁ。」


不満げなナンシー

「じゃあ、試させてよ。」
「いやいや駄目!もしもの時はどうするのよ!?」
「仕方ないんじゃない?」
「駄ァー目!!」


アグリーシャークスの秘書的な存在、ナンシーの悪い癖

それは自分への絶対的な自信
「絶対にダメージを受け付けないなら、私のスタンドで踏み付けても問題ないわ。」

ナンシーは引き下がらない
重量のある宝石の様な戦車がゆっくりと塊と化したポストに迫る

「やめなさいって!あんたのは踏み付けるなんてレベルじゃないでしょッ!…ッ、ロンリネス・ソープッ!!」




ギャルギャル キャル キャル キャルッ!!



「…モニカ。」

ロンリネス・ソープでキャタピラーを滑らせた
動けず、地面の上で空回りし続ける戦車
私を不満げに睨むナンシー

「な、なによ。やるって言うの?」

正直ナンシーとはあまりやりたくない
彼女のスタンドが生み出す結晶は…あの厳つい砲台で「打ち出す」訳じゃなく、その砲台が照準をあわせた空間にそのまま結晶を「発生させる」能力

素早さで負ける気はないけど、体ごと結晶に捕まったら摩擦0でも抜け出せないわ
その後はあのでっかいタンクでゆっくりと…


動けないエムプティ・ジュエルはその荘厳な頭を回し、私の方へゆっくり向き直る

「…距離、OK……高度…もう少し高めに…」


ギギ  ギ

ギーー ギギ

ナンシーが砲台の角度を微調整する
その動きはトロイけど、そのカメみたいなトロさが余計に不気味!

「フン!いいわ!そっちがその気なら私だってッ!!」


先手必勝

エムプティ・ジュエルにはスピードで打ち勝つ!!






「やめないか、ナンシー、モニカ。」



玄関からマスターが呆れ顔で声をかける
そのすぐ後ろからアニーもこっちをうかがっている

「いやいや、マスター!私じゃないって!主に…ってか、全てにおいて悪いのはナンシーよ!」

「大人げないですよ、二人とも。玄関先で叫ぶのはやめて、はやくその大きなダイヤを中に運んで下さい。」


一言そう言うと、アニーは車椅子の向きを変えてさっさと店の中に消えていった


「……まぁ、マスターに言われれば仕方ないわね。モニカ、ポストは貴女が持ってきてちょうだい。」

「…なんか私の扱いがおかしくない?全然腑に落ちないんだけど。」

「エムプティ・ジュエルに精密な動きは出来ないもの。摩擦を無くせるんだから引っこ抜くくらい簡単でしょ。あなたが適任よ。」


そういうとナンシーは高いヒールを鳴らしながらさっさと引き上げてしまった

「ーーッ!簡単っていっても普通に重さは変わらないんだからね!引っこ抜くから運ぶのは手伝ってよー!」

「嫌。」



バタン

ナンシーは店に入ると無情にも扉を閉めて協力を拒否してしまった




…おかしい

私はこのアグリーシャークスで結構な働きをしてるわよ?
そりゃあ、物は壊すしミスも結構するわ
目分量でカクテルは作るし(感覚を大事にしているのよ)遅刻もするけど


…みんなの愛が感じられない!(マスターからは感じる)



「うぅー、私嫌われてるのかなぁ。」

ポストをひきづりながら玄関に近づく
私の代わりに重たいダイヤを持っているのはロンリネス・ソープ

そう、アナタだけはどこでも私と一緒
ロンリネスな日々の中、常に側にいた私の分身



「…まぁ、毎回寝坊してたら嫌われもするわね。」
「レイチェル!?」

後ろを振り向くといつのまにかレイチェルが立っていた

「早くしなさい、この後そいつ等の始末もあるんだから。…モニカ、ソープがあるんだから引っ張ればいいじゃない。地面の摩擦を消して。」
「あ…、そっか。」

「だからアナタは色々とツメが甘いのよ。ほら、引っ張りやすい様に着衣させるから。」

そう言ってレイチェルは結晶に触れる

ナンシーがつくり出したダイヤモンドが着こなすのは
…掴みやすいフード付きのパーカー


「レイチェル!最高!愛してる!!」
「うざいから今後言わないでね。」


やっぱり、前言撤回

私ってば愛されてる
遅刻も寝坊もそんなのは愛嬌のうちよね


そうして私たちは無事に何事もなくポストマンを回収した


「…で、これからどうする訳。」

ダイヤモンド漬けのポストをかこんで椅子に腰掛けるアグリーシャークの面々
なんか、最近もこんな感じで座ってた気がする


「まず、ナンシーの能力を解除するしかないわ。…もちろん破壊せずに。」

最初に口をひらいたのはレイチェル

「その後は早めに対処しないと逃げられてしまう可能性があります。どうやって彼らを確保しましょう?」

アニーがそれに答える

「うーん、ならキティのスタンドで重くできないかなぁ。」

手紙になる前に押さえてしまえばいいんだし

「少し危険ね。何処まで重力で押さえられるか分からないわ。それに3人よ。手紙野郎以外の能力がわからない。」

シャルロットの意見ももっとも

「…もういっそ、このままでいいんじゃない?」

投げやりなナンシー

「えぇ!ダメだって!それじゃあ俺の”お守り”が戻ってこないじゃないか!」

そしていつだって、ないがしろなコンバース




「うーーん。」

宝石をかこんだまま、この矢を盗んだコソ泥共をどうしたものかと一同首をひねる




「…まぁ、こうしていても仕方ないな。ナンシー、君のジュエルを解除してくれ。」

そんな中、マスターがあっさりと解除の指示をだした


「いいの?…マスター。」

ナンシーはマスターの言葉に特に驚きもしないが、独断関心もなさそうな声で答える


「『私たちは矢を取り戻したい』『敵は目の前』…ならばどのみち、この選択以外には答えはないだろう?」

「でも、無謀だわ。もっと他に…」

レイチェルの反論をマスターが遮った


「レイチェル、今の私達がここで出来る事…それは出てきた彼らを全力で地に叩き落とす事、ただそれだけだ。 このままここで手をあぐねいていても仕方ないだろう?」

「それはそうだけど…」

「まぁ、今回また逃げられたとしてもまた追えばいいさ。どこまでも追跡し喰らいつく。それが鮫”シャーク”だ。」


そう言ってレイチェルに微笑むマスター
こんな状況でも、笑顔で笑っていられるのはマスターが様々な物事を経てきた証拠なんだろう

おだやかな表情の中、まっすぐに揺るがない彼の瞳




「…モニカが言ったら反対する様な内容ですが、マスターの言葉では反対する気がおきませんね。 分かりました。G・B、キティ。準備はいいですか?」

アニーもマスターの言葉を受け、ミニチュア・ピンシャーを発動させて臨戦態勢をとる

「聞き捨てならないわね、アニー。それじゃあまるで私が口八百みたいな言い方じゃない。」

ロンリネス・ソープを出し、構える
出てきた瞬間にソープをぶっかければ相手は床に立つ事も出来なくなるはず

「いえ、モニカ。私は口八百ではなくて無鉄砲だと言ってるんですよ。」
「あ、それ同感だわ。」

シャルロットが私の側で構えながらアニーの言葉に同意する

「……。」

無鉄砲…マスターにもそう注意されたばかりだからヘタに反論ができない
いいのよ、これから成長するの。私は。


「お、俺だって…。」

コンバースは椅子を持ち上げて構える
そういえば、コンバースの能力じゃ闘いには意味がないわね
まだスタンドも上手くだせないみたいだし





「…みんないいわね? じゃあ、解除するわ。」

ナンシーが周囲の様子を伺い、宝石に向き直ると
ゆっくりときらめく結晶が薄くなって消えていく




カ ガ ガタ ガタ


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


「出るわ!」 「ッッ!」





パァン!



まるで小さな爆竹でも爆発させたかの様な音を立てて、ポストの扉が勢いよく開く
すると、中から1枚の手紙が飛び出し、その封が開くと同時に3人の男が空中に飛び出した



「ヤッべェェェェッッ!ヤベェぞッ!!囲まれてちまってる!ボブ!!アラン!!!」
「早くッ!早くするんだ!ボブゥゥ!はやくお前の能力でッ!」
「やってる!やってるぜェ!?アラン!『ドッグ・イ… 


 ぶべッ!??? 」


ソープを飛ばす
照準を合わせる
重力を発生させる
拘束衣を着せる
椅子を投げつける


そのどれよりも早く、何者かの拳が男の頬を殴りつけた


拳を受けた頬からは、ぷつぷつと血がにじ見始め
…そしていっきに赤い糸の様な血が吹き出す




「…ッ!マスター!!」

殴ったのはマスターのスタンド


一瞬、一瞬だったけど確かに見た(感じた)
そのスタンドの圧倒的な存在感

しかしその姿はもう引っ込んでしまい見ることはできない



「いてェ!!痛テェェ!?血が!??俺の血がァ!?」
「大丈夫か!ボブ!」
「おい、何やってるんだ!痛がってる場合か!はや …  く……」


ボブというらしい男が己の頬を押さえて叫んでいる
そんな彼を急かしていた男がふと顔を上げ、私達を見て言葉につまる

大勢のスタンド使いに包囲されているという事実
かわいそうに、その表情は絶望の色を隠せない



「さぁ!もう袋の鼠ってやつよ!さっさと盗んだ矢を返しなさい!」

ロンリネス・ソープを構えて迫る
決して逃がしはしない
すでに足下から男達を囲む様にしてソープを敷いてある
どこに踏み出してもスリップは必死


「…袋の鼠? どうかなお嬢さん、それは少し違うぜ……。」

ふと、一人の男の表情が変わる
汗をにじませたまま笑うその男、『ポストマン』はゆっくりとボブの肩に手を伸ばした

「動くなァ!」
「グルルルルルァア!」

アニーの声と共に ズン!と男達の体が押さえられる

「下手な抵抗はやめなさい。もはや勝ち目はない。」
「抵抗さえしなければ悪い様にはしないわ。4、5発殴らせてはもらうけど。」

近寄るレイチェルとシャルロット
空中に舞うカモメは小さく小回りをしながら旋回を続ける



「ふ…ふふふ…。勝つだって?そんなつもりは、アンタ達にはないさ。なぁ、ボブ。」

『ポストマン』ことピーターに声をかけられて、ボブの顔から焦りが消えた

「そ、そうだ。まだ僕たちは終われない……まだ…」
「…あぁ、そうだな。ボブ、お前なら…お前の『ドッグ・イヤー』なら…」

続けてアランと呼ばれている男もボブを見上げて笑いだす


3人の中に復活する闘志


「無駄よ!終わりにさせる!!『マイ・スィート・テーラー』!既に…」
「僕達はココで捕まる訳にはいかない… 『ドッグ・イヤー』……!」

レイチェルが言い終わらぬ前に、ボブの前に一冊の本があらわれる
恐らくあの本がコイツのスタンド

「本!?」
「関係ない!このまま拘束する!」

…いつの間にかレイチェルのスタンドがボブの側に群がっている

「ぴったりに仕立ててあげるわ。」
「うぐぅ!?」
「特別Sサイズにだけどね、このまま締め上げる!」

マイ・スィート・テーラーが衣装をボブに着せる
病的に白いその服には腕を出す部分はなく、前方で腕を組む形で固定されていた
その白い衣装に栄える何本もの黒いベルト

レイチェルがそのベルトを力一杯引っ張ると、ギシリと音をたてて服が締まっていく

…あれは服というよりもはや拷問具ね



しかし





「…4…45Pだったか…? グゥゥ…47P …違う。……51P、52P……。」

締まってだんだん小さくなっていく拘束衣
だが血が止まり赤い顔をしたボブは、そんな事など気にせずページを数えていく


「レイチェル!なにかまずい!すぐに離れるんだ!あの本は何かをしようとしている!」

コンバースがボブのスタンドに反応する
その視線の先では先程の本が、パラパラと乾いた音をたててめくられていっていた

「ッ!いい加減に落ちなさい!」
「レイチェル!手伝うわ!!」

レイチェルの持つ黒いベルトを掴み、私も体重をかけて引っ張る



「あそこだ…あそこなら……66P。  あった。」


「レイチェル、モニカ!離れて!! エムプティ・ジュエル!!」

ナンシーがスタンドを上から落下させる為に駆け寄る

「駄目だ!ナンシー!!君も 巻 き 込 ま れ る !!」


ナンシーを引きとめるコンバース

「ふ、あはは!もう遅いよ!『ドッグ・イヤーーー』ッッ!」 

「ッ!?こいつッ!」
「うわぁぁぁあ!?」
「くッ!」

ボブのスタンドが一瞬強く光り、私は思わず目をつむってしまった

「モニカ!」

すぐ後ろからレイチェルの声がする

「レイチェ…ッうわ!?」

いきなり肩を掴まれ、斜め横に突き飛ばされた
そこはちょうど事前に私がソープが床に広げてあった場所
私の体は抵抗なく床を滑っていく



ガシャァァン

「いったァ…」

木製の食器棚に当たってようやく私の体が止まる
中の食器は何枚かは割れた様だ

「ちょっと、いきなり何すん…」




シーーーーン








「……ッ!!まさか! そんな!!」


目の前には何かを囲む様に立ちつくすアグリーシャークスの面々

だがその中心に肝心の男達の姿は見えず


レイチェル、ナンシー、コンバースの姿も、忽然と消えていた
「ちょっと…!ドコに行ったのよ!?レイチェル!??」

「……これは、瞬間移動の様な能力でしょうか…。」


愚かにも狼狽を隠せない私と同じく、少し苦い顔をしてアニーが男達がいた場所を睨む


シャルロットは窓に近寄り外を確認するが、すぐに浮かない顔で戻ってきた

「…近くにはいないようね。アニー、G・Bの反応は?」


アニーのG・Bは言葉がわかるのか、一言「クゥン」と鳴いて、その場から消えた

「駄目ですね。この近く、少なくとも犬の嗅覚で嗅ぎつけられる所にはいないみたいです。」
「そう…。」





「行くわよ!アニー!シャルロットッ!!」

「……モニカ。」
「……。」

私は居ても立ってもいられず、玄関のドアを乱暴に開くと二人に向き直った

「どこか分からなくても、捜す事はできるわ!このエリアを虱潰しに走り回って捜索する!」


「モニカ。」

マスターが私を止める

「マスター、私は間違ってないはずよ。レイチェルは私を突き飛ばした…!一発はり倒してやらなきゃ気が済まないってモノじゃない!?」



いつもからかわれてばかりで
いじわるでむかつくけど
レイチェルもナンシーも大事な仲間


私の…友達


「気持ちはわかるが落ち着け。今飛び出すのも、一杯ティーを飲んでから出るのも同じだ。」
「…ッ!?」

いくらマスターでもその言葉は許せない
それに…考えもなしで解除の許可をだしたのはマスターよ!
それをッ!お茶でも飲んでからですって!?


「マスター!そん」

「仲間を…信用してみせろ。モニカ。」



マスターがジッと私を見る

決して冷酷でもなくて、頼りない訳でもない
いつも私たちを見守ってくれるマスターの眼差し…


「あ…」

私の中で、マスターに対して湧きだしていた感情が引っ込んでいく
マスターに怒りをぶつけるなんて、どうかしてたわ


…だけど


「……でも、やっぱり…」


恐い?



目の前にいる間は大丈夫なんだ
どんなにからかわれても、バカにされても

私が話す 相手が答える

確かに、「ここ」にいる


それだけで、救われる安心感



私は
それが無くなるのが恐い

もうロンリネスだけは…イヤ




「彼女達は簡単にやられる人間じゃないさ。逆に言えば、そうでなくては困る。」
「それは分かってるつもりよ。だけど何かしたいの…!」


落ち着く事ができない私にマスターは少し微笑むと、私の言葉を背中でうけながらカウンターにむかった
そのまま、紙とペンを片手に掴み、カウンターにおいてあるノートパソコンを取り出してくる


「だからこそ、これだ。」

そう言ってテーブルにノートパソコンを置くと、電源を入れてインターネットを起動する

「奴らの名前は分かった、『ピーター』『ボブ』『アラン』…そして『アラン』という男が付けていたリング。あれはカレッジリング。紋章から察するにこの近くにあるセントジョージアカレッジの物だったはず。」

マスターが次々と情報を入力していく

「セントジョージアカレッジといえば、優秀な人材を世に排出する事で有名な大学ですね。」
「優秀?は、笑えるわね。…モニカ、貴女はカップを持っていって。」

アニーがポッドを運び、シャルロットはイライラしながらお湯を沸かし始めた

「まぁ…あのナンシーがいるんだ。問題は無いだろう…。あ、シャルロット。ダージリンで頼むよ。」


「…分かったわ。相手はレイチェル達に任せて、私たちはココで奴らの情報を探すって事ね。はぁ、あの二人と一緒なんて…コンバースもつくづく可哀想に。」


そうやって、私たちはパソコンと向き合いながらいつものようにティータイムへと入る
今日の紅茶はシャルロットが入れたから、少し苦い

だけど、その苦みは私の不安な気持ちにカツを入れるのに丁度よかった




−−−−−−−−−−−−−
-----------------


「うわぁぁぁ!?」
「シャラップ!黙って!コンバース!!」
「…面倒な所にでたわね。」



片手で今にもちぎれそうなロープを握りながら、もう片方の手でコンバースの手首を掴むレイチェル
その横には同じくロープを掴み、ため息まじりのナンシーが


「へへ、危なかったが逆転だな!」

ミシ ギシ

「く、苦しかった…やっぱ女は怖いや。」

ギシ ミシ

「だがボブお前のスタンドのお陰でなんとかなりそうだぜ。あとはこの古ぼけた橋を落とすだけだ。」


アラン、ボブ、ピーターの三人はレイチェル達の斜め上で話を進める

彼女達が今掴んでいるロープとは、今にも落ちそうな古い橋の一部…


光に目が眩み、気が付くと足元の感覚がなかった
ないどころか、体が落下している

慌てて側にある橋から垂れ下がったロープを掴んだが、これがまたなんとも古く頼りがない

すぐ下は運河だろうか、目が眩むほどの高さを隔てて、綺麗な川が流れている



ミシ ギシ

橋の両端は崖の様であり、掴まれる部分は見受けられない


「チッ!」

コンバースの重みもあって、レイチェルの掴むロープが軋み始めた

いや、軋みは橋全体で起こっている



「さぁ〜て、落とすか。」

ピーターがナイフをポケットから取り出し、その刃を年期の入ったロープにあてがった

「や、やめろッ!」

コンバースが思わず叫ぶ
彼の手はロープにすら届いていない
掴みたくても掴める距離じゃないし、むしろ、掴まている
仮にレイチェルが手首を離したらそのまま真っ逆さまで川にダイブ
まさに命を握られている状況だ
そんな状況にさらなる追い撃ちをかけてくる三人が、コンバースには悪魔に見えた


「慈悲はないのか!この悪魔!」

「酷いな、そこのにいちゃん。悪魔はねーだろ。」
「スタンド使いだろ?まぁ死にはしないって。」

キコキコと刃を動かしながらピーターは切断を続ける


「俺はそんな助かる様な能力持ってないんだって!このまま落ちたら死ぬ!」

「大丈夫、大丈夫。」

「な!その根拠はなんだよ!!」

「きっと大丈夫。」

「きっとなんて信用できるか!」


落ちて死ぬかもしれない恐怖からか、コンバースはいつもよりも溌剌としている
「ちょっと…落ち着いてよコンバース。」

そう言ってコンバースの手首を掴むレイチェルの手は汗ばんできていた

「……ッ!レ、レイチェル…」

腕が痙攣をはじめている 
そりゃそうだ、彼女達はスタンド使いっていっても普通の人間
スタントマンやボディービルダーでもなんでもない

このままじゃ落ちる!



「コンバース…いい? とにかく落ち着いて聞いて。アナタじゃなきゃ出来ない事があるの。私の話す事をその耳かっぽじってよく聞きなさい。」
「…レイチェル?」

真剣な眼差し、かつウザそうにコンバースに囁くレイチェル



「いったい…」

「いい事?………………

…………


………出来る?」

「……あ、あぁ、分かった。やって…みるよ。」





「まぁ、なんだ。そろそろ ジ・エンド ってやつだな。」
「チャーオ♪」
「これからドコいこっか?」

3人の男はもう勝利を確信し、余裕の表情で会話している

それもその筈、ピーターのナイフが切断を残すはあと…1cm


ボブが『ドッグ・イヤー』を発現し、ページをペラペラとめくり物色していく
その本は分厚く 色はターコイズブルー
様々なページには「ドッグ・イヤー(折り目)」が…


「なぁなぁピーター。矢も手に入ったし、一旦ゆっくりしようぜ。」
「じゃあ、湖畔にでも行く?この前親戚のおじさんと良いトコに行ったんだ。」
「ボブ……湖畔だと……湖畔だとォォォ!!

…いいな。それ。」


まるで旅行のガイドブック
ピーターとアランは喜々としてボブのスタンドをのぞき込んでいる

ナイフを動かす手は止めずに




キコ キコ


ギ  ギギギ






 ブ チ ン 



「うわぁぁぁぁぁ!」

コンバースは叫んだ


漫画みたいな音を立てて年期の入ったロープは切れた
支えを失い グシャリと落下する橋


「さーて、と。これで邪魔な奴らは………



…なにィィ!?」


切断された縄のロープ
曲がったまま、固定され光るオブジェクトと化した橋

それを覆うのは 輝くミルク色の塊


「狙いを定める時間は充分にあった。…『真珠』の結晶で橋のロープを包んだわ。」

そう言って橋からぶら下がり微笑むナンシーの背後には、『エムプティ・ジュエル』の砲台の一部が浮き上がっていた


「このッ!アマァ!!」


「た…助かった。」
「いいえ、コンバース。」

結晶はレイチェルとナンシーの腕をも覆っている
これで二人が手を滑らせる事はない

しかし


「身動きが取れない事にはかわりない!そこから動けないなら!!仕留めるぞ!『ハニー・ビー・ジャム』ッッ!!」

アランが結晶化した橋の上に立つと、その体から無数に小さなスタンドを発現する


ブブブブブブブブブブ
ブブブブブブブブブブブブブブン


「…この羽音は……?」

巨大な真珠の塊と化した橋の結晶越しには、互いの姿は確認出来ない
だが、聞き覚えのあるこの羽音


「蜂だ!レイチェル!!ナンシー!蜂の大群がむかってくるぞ!」

二人よりも低い位置にいるコンバースは一足先にその驚異の姿を確認できる
だが早く確認出来ても、それはコンバースにとって恐怖意外の何者でもない


「俺のスタンド!『ハニー・ビー・ジャム』は素早いぜ!矢をくすねた時みたいになぁ!!そこの宝石女のスタンドに捕らえられるかァーー!?」

迫り来る 大群


「あれは只の蜂じゃない…『蜂蜜の採取服』を着ても防げそうにないわね。」
「…はぁ、濡れるのはイヤだったんだけど。」

ナンシーはうんざりといった表情で呟く

「ナンシー!レイチェル!どうしよう!俺昔アレに刺されてから蜂は苦手なんだよ!」

コンバースが必死で訴える
今や完全に包囲されている状況


ブブブブブ ブブブブブ
ブブブ ブブブブ ブブブ


「そんな事知らないわよ。 …それより、まだなの?」

「えぇ!?あ、う…うん。 
もう、少しだ。待ってレイチェル…今、すぐ後ろまで行っている。」

レイチェルに言葉を投げかけられ、コンバースはひとまずパニックを置いて、視線を男達のいる方へと向けた





 
 ミャァ


「『キャンディマン』って知ってるか?あの映画は恐いよなァ。誰だってあんな映画みたら蜂に恐怖する。コイツらは通常の蜂よかやっかいだぜ。」
「…アラン……ピーター。今猫の声しなかった?」
「は?猫??」




 

 ミャーァ


ピーターの側を白い影が横切る

ホワイト・タトゥー…


「よし!ビアンカ!いくんだ!!」
「ニャオアアーーーッ!」

「…ッ!!??なにィィィ!?」


ピーターの背後の地面から、突如白いものが飛び出す
平面から立体へと飛び出したそれは…



「やるじゃない…あの子猫。見直したわ。」
「よし、飛び降りるわよ!ジュエルを解除する!!」
「ビアンカ!来い!跳ぶんだ!!」

小さな白い獣はピーターのポケットからあるモノをくわえると、躊躇する事なく落下していくコンバースめがけ地面を蹴った



「……矢をッ……アイツ等!!『矢』を持っていきやがった!!damit!チクショウ!!」
「そんなぁ!せっかくココまでやったのに。」
「ナンだと!クソォ!俺が追跡するぜ!逃がすかよォ!!」

アランは背後の二人を振り向いて状況を把握すると、すぐさま目の前で落下を始めるナンシー達に目をやり叫んだ

「ドコまでもついて行くぜ!俺スタンドの射程距離は半端なく広い!」

『ハニー・ビー・ジャム』が軌道を一斉に変え、追跡を開始していく





「ナンシー!もっと手を出して!」

落下しながらナンシーに手を伸ばすレイチェル
右手にはコンバース そしてビアンカはコンバースの片腕の中に抱きしめられていた

「く…」
「触れた!『マイ・スィート・テーラー』!!秒速でパラシュートをひらかせるのよ!!」

ギリギリでのスカイダイビング
川から程遠くない距離でパラシュートはひらき、落下速度を和らげる


「でも、痛そうね…。私、任務ごとに水に突っ込んでいる気がするわ。」

ため息混じりで待ちかまえる水面を眺めるレイチェル
速度を和らげたといっても、充分痛みを味わいそうなこのスピード



「…まぁ、帰ったらあの子にソープ借りるか。」

そう言って少し笑い
激しい飛沫を上げて3人と一匹は派手に着水した
「プハァ!」
「すげぇ…怖かった…」
「早く!流れが速い!あの岸まで泳ぐわよ!」

「そんな暇やるかよ!既に『ハニー・ビー・ジャム』は追いついているぜ!」


ブブブブブブブ ブブ
ブブブ ブブ ブブブブ


「うわッ、上空に!これじゃあ…」
「…ナンシー。岸には行かなくて良いわ。このまま 潜 る !」
「え、もぐ…ガボ!!」

コンバースの頭を押さえ、一気に水の中へと潜る

「「ゴボガボ…ッ!く、苦し   ……あ、あれ?」」 
「「息は出来るでしょ。このまま川下まで一気に泳いでいくわよ。」」

黒いカラーにビビッドな水色のラインが入ったスウェットスーツ
イエローに波模様があしらわれた足ひれ
機能的なゴーグルにシュノーケル と完璧な潜水対策

「「(問題は、ここがどこかという事ね。見た感じ、都会ではなかったけど、イングランドなのかしら…)」」




「シット!やられた!!あの女は確か、『服を着せられる』能力!潜水服か!!」

アランが崖の上から石を蹴り いらつきながら地面を踏み倒す


「…すまない。アラン、ボブ。これは俺の失態だ。」


不意に背後からあがった声にアランが振り向く
そこには悔しそうな表情で地面を見つめるピーターの姿が

「ピーター…。」
「せっかく『矢』の破片を手に入れたのに、簡単に渡してしまった。詰めが…あまかっ」

言葉を遮ってアランがピーターの顔に拳をあてる

「オイオイオイオイオイ ま さ か 「帰って反省会でもしよう」ってんじゃないだろうな?ピーター。」
「…!」

「ピーター。アンタの失態だって?違うね。ただ僕達の甘さが顕著にでただけさ。…でも、やっと見つけた『矢』なんだ。ここで終わらせはしない。」

アランに続き、ボブも背後から声をかける


「…ああ。終われない。その通りだ。


まったくひどい奴らだな、反省もさせてくれないのか。」



ゆっくりと顔を上げ、二人をみやる


「いくぞ。追跡だ。」
「あいよ。」
「まずは、この崖を降らなきゃだね…。あーぁ、もっとボロい服を着てこれば良かった。」
「はぁ、はぁ、ッ撒けたかなッ…?」

息を切らしながら大木の幹に体を預けるコンバース

「…さぁね、もう羽音は聞こえないけど。」
「一旦休憩しましょう。コンバース、あの猫が取り返した『矢』を出してちょうだい。」

濡れた衣類を絞り、乾かすレイチェルにナンシー

「キティだってば。キティ、もういいぞ。出ておいで。」

「ミャア」

コンバースのシャツから姿を現すキティ
その口にはしっかりと、三人組から奪いかえした『矢』の破片が

ナンシーは破片を手に取り、じっくりと観察する

「大きさからいって、2、3個の破片に割れた感じね。…たしか財団に保管されていた矢は端のラインがもう少し反り返っていたはず。やはり『新たな矢』かしら。」
「はぁ、それがまだ2つ程あるかもしれないなんてゾッとするわね。」

ため息をついて空を見上げるレイチェル


3人は渓流を下り、なんとか森の中まで身を隠す事が出来た
『ハニー・ビー・ジャム』の大群はコンバース達の上空にぴったりと張り付いて容易に追跡を止めなかったが、途中、途端に動きが鈍くなり追跡を止めて帰っていった

「あれが、あいつの射程距離の限界だったのね。それでも驚異的な範囲だわ。」
「『矢』を私達が持っている以上、まだ追ってくる。はやく決着をつけて帰りましょう。」
「ミャアー」

嫌そうなコンバースの代わりにビアンカが答える

「決着って…どうするんだ?まさか、殺したりなんて……」
「固めて埋めるわ」

「ええ!?いやそれは駄目だろ!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



「いったァ!」
「おいおい、気を付けろよボブ。この辺りにはサボテンが多いからなァ。」
「ちッ、まだハニー・ビー・ジャムの射程範囲内には居ないみたいだ。この川の河口にあるのは確かユンダ湖か…」

アランを先頭に、ピーター、ボブが崖を降っている
ボブの足取りは危うく、先程もバランスを崩し慌てて近くのサボテンを思い切り掴んだ

「ったく、上手くいったと思ったのにな。」
「まぁ、そんなもんさ。だがピーター、あの『矢』は一度はこの手に握ったんだ、…俺は絶対に諦めないぜ。」

感触を確かめる様に手を握るアラン
その表情は硬い

「僕だってそんなつもりは無い。むしろ、やっとここまで近づいたんだ。なんとしてでも手に入れる。」

手から滲み出る血をデニムで拭きながらボブもアランの言葉に参じる

「…まぁ、2人共落ち着こうぜ。さっきは詰めが甘かった。今度はもっと慎重に、だ。ボブ、『矢』に関するページにもうドッグ・イヤーはないのか?」

いきり立つ二人を落ち着かせながら、ピーターはボブに尋ねる

「残念だけどピーター。もうそのジャンルで当たりそうな所は使っちゃったよ。知っての通り、僕の『ドッグ・イヤー』は一度使ったしたページは二度と使えない。」


ドッグ・イヤー(Dog eared)
ボブ

ボブが実際に行った事のある場所は彼の持つ本に掲示される
そのページに折り目(ドッグ・イヤー)をいれる事で対象の位置や状況を常に監視する事が可能
また、その場所に瞬時に移動が出来る

しかし、一度移動するともうそのページは二度と記帳も使用も出来ない




『エイミー、どこに行くんだ?』


『俺達これから湖に釣りをしに行くんだ。エイミーも来るか?』


『今日は雨になるんじゃないかな?エイミー。』



『なぁ、エイミー。』
『あのさ、エイミー。』
『ねぇ、エイミー』



あの日俺達は一杯になるハズだった空のバスケットを持って、寮にたどり着いた

獲物はまったく取れなかったが、問題じゃない
帰ったらそれもいい笑い話になるだけ


寮のメンバーで暖炉のある部屋に集まって、ボブのおじさん特製のアイスクリームを食べながら映画としゃれ込む

その日もそんな1日になるはず





だったんだ


彼女の姿が見えない事に不思議に思った俺達はクラスメイトに声をかける

「なぁ、トッド、ジェシー。『エイミー』は何処にいるか知ってるか?」


「え…  誰 ? そ れ 。」









…俺達の周りから彼女の存在は全て消えていた
しばらくして、俺達の中からも彼女の名前は消えた


「アランッ、ッッ嫌だ!どうしようッ…。ねぇ、『   』って…どんな顔だっけ?」

「馬鹿を言うな。馬鹿を言うなよ…ボブ。冗談は止めてくれ…ッ!」

「いやだ…『   』。『   』…ッ『   』『   』『   』『   』『   』ッッッッ!!!」



  『   』を忘れたくない!!







学校、自宅、公園、海、商店街
どこへ行っても、どこを捜しても彼女の形跡はなかった

それでも俺達は確かにあるはずの彼女の存在を
彼女の名前、顔、体、声、髪


数年前に俺達にスタンドという概念を教えてくれた恩人の存在を、必死にかき集めた


程なくして俺達は…

以前は存在しなかった墓地の墓石から、彼女の名前を手に入れる



…しかしまだ足りない
彼女の失踪の鍵となるのは、恐らく彼女がいつも持っていたあの『矢』の破片…


「あぁ、そう…。そうなんだ。『エイミー』は確かに破片を持っていた。あの破片を調べれば俺達は『エイミー』に何があったのかを理解出来るはずだ。そしてあの日の真実にたどり着く!!」

「だからこそ、手加減なんて出来ないぜ。おい、ボブ。確か下流に森の近くにある施設は養殖場だけだよな?」

「うん。確か森の側にある湖に、小さな施設が一個だけあったはず。そこへ行くかい?」


斜面から先にある湖を見下ろす
コンバース達が降っていった川は湖に注いでおり、3人が今まさに息を潜めているのはそのすぐ側にある森の中だった

アランとピーターはほぼ同時にボブの肩に手を置く

「あぁ、奴らはここが何処だか分かっていない。必ず何かの施設を探すハズだ。そこで仕留める。」
「なるほど。じゃあ僕から離れないで。一気に追いつく!」


その瞬間、ボブの『ドッグ・イヤー』によって3人の姿は斜面から忽然と消えた

「……。」

「………。」


穏やかな湖畔に面した森林
決して開けた空間でもなく、かといってうっそうと茂っている訳でもない樹木の合間を、3人の男女と一匹の猫が歩を進めている

「……。」

「………。」


鳥の囁き、木の葉の揺れる音
それ以外には音という音もない静寂な空間に、踏まれて折れる枯れ木のパキリという音だけ継続して響く
幹の隙間から見え隠れする水面は真昼の太陽の光を反射して涼しげに光り、そこから吹く心地良い風が3人の汗を乾してくれていた


「……なぁ。」

「…何?コンバース。」
「まさか、こっちの方角じゃないとか言わないでしょうね。」

レイチェルとナンシーがそろって後ろを振り返る
その目線の先には少し困った表情をしたコンバースが


「…いや。別にそういう訳じゃないんだけど……。」

「なんだ。」
「そう。ならいいわ。」


道に迷っている訳では無いのだとわかると、2人はドライにそう言いのけ、再び森の中を前進し始める

先の見えない森林の中を、まっすぐに南へ
方位磁石などは持っていないが、3人の足取りに迷いはない



…現在の居場所はイングランド北東部の山岳地帯
観光地ではないが、避暑地としてはそれなりに名前も知られている人気スポットだ
3人の居場所から少し南に行けば、小さな人口の施設がある
そこには電線も延びており、おそらく電話も繋がっている…らしい


それが、コンバースが野鳥達から『聞き出した』情報だった





「……。」

「………。」


言葉数の少ないレイチェルとナンシーの2人に、コンバースの心は落ち着かない
元来女性が苦手なコンバースは、この言葉の無い張り詰めた沈黙が苦手だった

(モニカのおしゃべりって、あれはあれで結構ありがたいものだったんだなぁ…)

コンバースは今日の朝の一件を思い返し、しみじみと彼女の存在の大きさを痛感する

アグリー・シャークでの業務を何日か無事にこなし、だいぶ慣れてきてはいたものの…
それは四六時中トークがとまらないモニカ、動物の事で意見があうアニー、意外に世話焼きなシャルロット…達との複数の会話の上であり、比較的S(コンバースとモニカは比較的だとは断固として思っていない)なレイチェル、何を考えているかわからないナンシーとだけというこの状況は、彼の気を大いに疲労させた


「あー、あのさ……そういえば…。」

「何?」
「……。」

今度は振り返らずに言葉だけで答える
2人とも決してコンバースに対して特に冷たくしている訳でもないが、ふりまく愛想というものは当然無い


「…その、『スタンド』ってさ。二人はいつから見えるようになってたんだ?」

無言で進む2人に堪えられなくなり、コンバースは話題を絞りだす


「なんだ、そんな事知りたいの。」

「ま、まぁ…(他に話題も思いつかないし)。ほら、俺今までそういう能力のある人に会った事なかったしさ。キティやビアンカくらいで…」
「ニャァ」

先頭で歩いていたビアンカが振り向いて答える


「そうね…私は小さい時に気がついたわ。アナタと同じよ。」

歩むスピードは落とさず、レイチェルが答える

「ふぅん。」
「…もっとも、私はすぐに使いこなせたけど。」

未だに上手くスタンドビジョンを発現出来ないコンバースを尻目にレイチェルは笑う
言い返せないコンバースはバツが悪そうに顔をしかめた

「…じゃ、じゃあ……ナンシーは?」
「私は『矢』から能力を得たわ。つまり、その猫と同じになるわね。」
「へぇー…。」


「……。」
「………。」

「…………。」


駄目だ
会話が続かない


コンバースは早々に現状の打破を諦め、いつもの様にビアンカと会話をする事にした

「はぁ、早く帰って皿洗いにでも専念したいよ。それか湖でのんびり水浴でもしたいな、なぁビアンカ。」
「ミャー。」

水浴が嫌いなビアンカはコンバースの提案をやんわりと断り、歩く速度を速める


「……ちえ。」


「…ニャーオ。」

「え?建物??」


ガサリ

先頭を行くビアンカが木々を抜けて開けた草原に姿をさらす
目の前には、少しばかり大きい『小屋』の様な建物がポツンと建っていた
電気などはちゃんと通ってるらしく、更に向こうの森の方から水道やら電気ケーブルやらがのびている

「住居…ではないわよね。こんな何もない所に。」

レイチェルが門の前まで近づく

「ええと、『水産資源研究所』……。施設みたいね、まぁ、どちらにしろ電話くらいは使えるでしょ。少し拝借させて貰いましょ。」
「水産資源?何だろう…?湖だから貝とかプランクトンかな。それともミネラル??」

そんな会話を挟みながら、3人は敷居の中に足を踏み込む


施設と言っても簡素なもので、少しペンキの剥げた木製の門
荒いセメントの粒が目立つレンガの壁
職員が植えているのか、はたまた自生しているのかわからないが、所々に生えているローズマリーなどのハーブや雑草

そして…静かに継続して音を立てる大きな謎の機材

「大きな機械だなぁ。なんだろこれ。」
「モーターじゃない?」

壁に寄り添って置かれているそれの内部には、幾つかのファンが見える
運転を継続させる為に内部の熱を懸命に外へと排出している様だ

「…呼び鈴はないみたいね。」

ナンシーが玄関と思われる扉の前に立ち周辺を捜す
確かにベルやコールホンはなさそうだ


コンコン

「Hello? 少し電話を貸して頂きたいのだけど。どなたかいらっしゃる?」






シーーーーーーーーン


………


「じゃあ…入るわよ。」

「え、いいのかな…?」
「呼んで出てこないんだからいいんじゃない?」

どうも許可を得る為に呼んだのではなく、勝手に入る為に確認した気がするが、それはもう気にしない事にしよう

コンバースはそう心の中で納得し、ナンシー達について行く



ガチャリ  …キィ


「鍵はかかってないわね…田舎だから当然なのか……それとも」

玄関を通過し、辺りを伺う

少しばかりカントリーな外見とは印象も違い、内部は整った作りとなっている
壁にはいくつもの扉が備え付けられており、その幾つかは少々重さがありそうな鉄の扉だ
2,3歩廊下を進むと、鉄特有の錆びた香りが鼻をかすめる

「空気が湿っぽいわね。」
「Hello? 誰かいる?」

レイチェルが一番近くの扉をノックして声をあげた

…が、反応は無い


「じゃあ、電話を探しましょうか。」
「コンバース、『破片』はしっかり持っているのよ。」
「う…うん。」

いつ『手紙、本、蜂』野郎が追ってくる事かは分からないので、3人は離れない様に一緒になって扉を開けていく


「無し。」

「ハズレ。」

「これは…内部電話ね。紛らわしい…。」



「あ、なんだココ。」


コンバースが4番目の扉をひらく

室内にお響くモーター音
どうやら外にあった機材の内側に面する部屋の様だ

「…水槽だ。」
「随分浅いわね。何か養殖してるのかしら。」

その部屋は少しばかり床が低くなっており、その為、扉を開けた位置からは部屋全体が見渡せた

3つある浅い水槽は部屋の8割を占領しており、中ではなにやら黒い影が回転する様に泳いでいる

「魚かな。」
「ミャー。」

コンバースの声に反応し、ビアンカが3段ほどの階段を降って水槽へと向かう

「落ちるなよー。危ないぞ。」

嬉しそうな彼女につられて、コンバース達もゆっくりと部屋に入っていった

「なに、ナマズ?」

水槽に近づくレイチェル

30cm程の深さの水槽の中に、30cm強の魚が泳いでいる

「あ、いや違うよレイチェル。これは…『チョウザメ』だ。」
「ミャー」

動物が大好きなコンバースは、目を輝かせて水槽を覗きこむ
ビアンカはその隣で手をのばして水面を突いていた

「ふーん、チョウザメね。」

「こいつ等はキャビアを捕る為によくこうやって大量に施設で養殖されてて…もちろんこの水は海水なんだけどさ、海で育てるよりの山地の方が卵が大きくよく育つからわざわざ海から運んだり、現地で孵化させたりするんだ。」

コンバースは得意分野とばかりに、得意げに語る

「それでさ、なんで大きく成長するのかと言うと…」
「高度が高い方が体にかかる圧力が下がり、結果的に成長への負担を軽減するんでしょ。」

言葉を遮ってにこやかに言葉を返すレイチェル

「……なんだ、知ってたのか。」
「常識の範囲じゃない?」

嬉しそうにコンバースを見下す
コンバースはバツが悪そうにうつむいた


そして…


「あれ、水が漏れてる…?」


ピチャリ


うつむいて下を向いたコンバースの視界に湿った地面が映る
足をあげるとオールスターのシューズに薄く水が吸い付き、パチャリパチャ…と水滴が落ちていく


「…さっきまで、地面は乾いていたわ……」

嫌な感覚がよぎった
ナンシーがすぐさま入ってきた扉を見る

「私は…扉を閉めてない。」
「ええ、確かに開けておいた。」


その鉄の扉はしっかりと入り口にはまり、部屋の出口を塞いでいる



一瞬の静寂

…その中で 
 

  チョロ  チョロ 


という水の嫌な音だけがが響く

次の瞬間、ナンシーは扉へと走り、レイチェルは自らのスタンドを発現していた

「『マイ・スィート・テーラー』ッ!…警戒を!コンバース!」
「う、うん…!」

コンバースはレイチェルの側で周囲を見渡す
壁、水槽、天井…見える範囲の何処にも敵の姿は無い

緊張して汗が流れる

朝から瞬間移動に橋からの落下、蜂に追われながらの川下り…と
スタンドの概念や危険性はアグリー・シャークで幾つか話を交えて教えて貰えたけど、だからといって彼がバトルに慣れててる訳じゃない

その手は自然と『矢』を隠した内ポケットに触れていた



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


森の中を進む3人

先導するビアンカ


「あ、そうだ。コンバース、『矢』を返すわ。」
「え、俺が持ってていいのか?ナンシー。まだ2人が持ってた方が安全なんじゃ…」

しばらくして思い出した様に、ナンシーは矢の破片をコンバースに渡す

「…だって、ソレは元々アナタのものでしょ。」

「物心ついた頃から持ってたのなら、矢もそう簡単に貴方から離れていかないわ。自分で守るのね。」

レイチェルも当然という表情で言葉をかけてくる


「あ、ああ。…わかった。」


ナンシーの手からその破片を受け取ると、コンバースの中で少しばかり充実した気持ちがこみ上がる

彼にとって『お守り』代わりだった矢が自身の手元に戻った事もあるが、それよりもなによりナンシーとレイチェルに信用されている様な気がして…その事に小さな安らぐものを感じたのだった



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「ミャーア…」
「あぁ、ビアンカ。もう破片は離さないよ。奴等にみすみす渡したりしない。…コレは『僕』のものなんだッ!」


そう答えると改めて矢を触る
その足下では既にくるぶし辺りまで水面が上がってきていた
「く…扉の隙間から…ッ!」

ナンシーがノブを回し力一杯にひくが、鉄の扉はびくともしない
更にその隙間から、飛び出す様に水が噴き出し始める


まずいかしら…レイチェルも私もパワー型のスタンドじゃない。
…この扉からの脱出はまだ無理ね。


ナンシーはそのままいったん扉をひらく事を諦め、すぐ後ろの仲間を見やる
さっきまで床を湿らせる程だった水は階段の上段を隠す程に増し、水が嫌いなビアンカは壁の表面に身を預け既に天井へと逃れていた

「いくら近くに湖があったからって、これは異常ね。」
「これはアイツ等の攻撃…だよな。」
「それ以外は考えがたいわ。…どうする?」

閉じこめられ水位が上昇していくこの状況
レイチェルのスタンドがある限り、すぐには溺れる事もなさそうだが…

「”ダイビング”は可能だけど、ずっとは保たないわ。ナンシーの『エムプティ・ジュエル』でも壁は破壊出来ないし…」

レイチェルはとりあえず、とダイビングスーツを皆に着せる
小型の酸素ボンベまでついてあるという点がなんとも嬉しい
レイチェル曰く「これくらいのオプションなら衣装の範疇」だそうだ

「えぇ!?破壊出来ないって…だってナンシーのスタンドはあの大きな戦車だろ?壁くらい壊せそうじゃないか!」

まだ完璧に閉じこめられたとは考えてなかったコンバースがレイチェルの言葉に声を上げる

「…私の『エムプティ・ジュエル』は弾を撃ち出す訳じゃない。結晶を生み出すだけよ。打撃の様な破壊は出来ない。」
「そんな…。」

不安を隠せないコンバース
水位は既に腰を越え出している


「なんとか…しなきゃ…。」

コンバースはいつのなく思考を振り絞る

打開策はあるはずだ…そう、キティを檻から出した時のように…
何かいい案を考えないと…ッ!


…もはや扉以外からも浸水してるといしか思えないペース
水源は扉の向こう?
いや、そもそもこんな場所で水が溢れてくる事自体おかしいんだけど…

そう…そうだ……。この水はどうやって流れ込んできてるんだ?



改めて辺りを注意深く見る

敵はどうやってこの現象をおこしているのか
脱出が見込めないならそれを叩くしか無い…!



「アイツ等の能力は…手紙、本…蜂……」

思わず考えている事がつぶやきとなってこぼれる


「ええ…そうね。蜂、形式からいってあの『ハニ・ビー・ジャム』とかいうスタンドの能力ではなさそうだわ。」
「じゃあ、あの少し弱気そうな本の男かしら?建物ごと海の中にでも移動した?」

コンバースの言葉に乗ってくるレイチェルとナンシー


海の中に移動…

ナンシーの言葉にそれもありえるな…とも思ったが、それも少しひっかかった
そんな広範囲で対象を移動させる事ができるなら、パブで全員を飛ばしていたはず…

なら残りは…


「いえ、これは………手紙の男ね。ッち!そういえば、何でも郵送出来るって自慢してたわ。人でも…… ”水” でも。」

レイチェルが舌を打つ


その言葉に反応してか、突如室内に声が響き渡った

「ククク…正解だぜ。」
「追いついたぜ。しかも追いつめた。」
「僕たちに手出しは出来ないよ。だってほら、まだ僕たちは”手紙”のままだもの。」

「…ッッ!」

声のする方角を見る
水の噴き出す扉の隙間に、いつの間にか一枚の手紙が挟まっていた

水にふやけてくしゃりとなったり、切手が剥がれるといった様子はなく、水を浴びながら綺麗な四角形を保つそれは明らかに奇妙だ

「俺がアンタ達が来る事を見越して出した手紙は3通。『ユンダ水産資源研究所』宛1通、同じ施設の『B−5号室』が2通、つまりこの部屋だ。」
「職員は『ハニー・ビー・ジャム』の毒針で眠って貰ってるぜ。どうだ?湖の水は気持ちいいだろ。もうそろそろ水浴に最適な時期だからな。」
「もうそろそろ、胸くらいまで上がってきてるんじゃないの?どうする?大人しく『矢』を渡すかい?」

3人の余裕たっぷりな問いかけが手紙からこぼれる
その手紙のすぐ下には、すでに水の浸かってしまっているがもう1通の手紙が確認出来る
口が開き、水面が盛り上がっているのをみると…どうやらそこから水があふれ出している様だ


「まぁ、おいおい決めてくれよ?俺達はこの手紙の中で、ゆっくり待ってるぜ。」
「まぁ、死にたくなければ答えは簡単だよなぁ。」
「まぁ、3人で相談して決めてよ。大事な事だしね。」


攻撃は出来ない

脱出は困難


コンバースは心臓がドクンと軋むのがわかった
「嘘つき野郎。」

「フェイクって言えよ。その方がカッコイイから。…届けた後だと思わせておけば奪って逃げる時に楽だろ?」

「機転利きそうだったもんねー、彼女達。2枚は本当に出した後で、この1枚は嘘。」


手紙の中で濡れた服を絞る3人

「まぁ、今回のは少しばかり応用だな。しかしよ、早々に手紙の中に入っているってのは…俺達にしても相手が見えないし確認できない諸刃の剣ってやつだ。」

上着を絞りながらアランが呟いた
その側には『ハニー・ビー・ジャム』の一匹が羽音をたてて寄り添っている

「仕方ないだろ。今回は『出した』んじゃなくて直接『届けた』んだ。わざわざこの施設に来てからな。俺達だって溺れる訳にはいかない。水と攻撃から逃れるには手紙を再度『出す』。これが1番だ。」

そういってピーターはポケットから数枚予備の封筒を取り出す
何かのために、と普段からピーターが手紙に詰めてあるのは水やら空気やら、中にはお菓子を同封した物もあるようだ
まだ、それぞれに宛名は書いていない

「その為にお前の蜂がいるんだろ?大丈夫、この帰り様の手紙にはちゃんともう切手も貼ってあるし、宛先の住所も書いた。今回は万が一の事も考えて返信先も同じ住所で書いてある。」

ピーターは濡れた服を指で摘むと、胸元を手紙でパタパタと扇ぎ、小さく折ってポケットにしまった


ポストマン(post man)
ピーター

物質や生物などを、質量や温度を無視して『手紙』に同封し出すことが出来る
出された手紙は実際の郵便物のルールに従わなければならない
出す前ならば本体が持ち歩く事も可能
そして、一度手紙を出してしまえば届くまで破壊される事はない



「あとは、アランの『ハニー・ビー・ジャム』が矢を奪い取るだけだね。うーん、ここのページを使わなきゃ外の様子も見れるんだけどなぁ。」

そういってボブは白紙に戻ったページについた折り目を元に戻す

「しゃあねえよ、でないと追いつけなかったんだ。まあ俺のスタンドに任せとけ。」


ハニー・ビ−・ジャム(honny bee jam)
アラン

女王蜂と働き蜂で構成される蜂の大群
一匹一匹に知能は無く、毒針の殺傷能力もあまり無い
細かい判断は出来ないが集団での作業は得意
虫の姿をしているせいかスタンドのクセに水を嫌がる所がある



「へへへ、既に、『ハニー・ビー・ジャム』は『潜んでる』ぜ。…大量にな。」

そう不敵に笑うアランの側で、女王蜂は懸命に配下からの報告をその触覚で感じ取っていた
「くッ…。」
「いったい、どれだけの水を吐き出すつもりかしら。」
「と、とりあえず!あの水を止めよう!!」

コンバースが扉の足下にある手紙めがけて足を蹴り、水中へと潜る

「ちょっと、コンバース!」
「あー、潜っちゃったわね。あの手紙をどうにかして止まると思う?レイチェル。」

手紙に近づいていく水中のコンバースを見ながら、ナンシーが尋ねる

「…さぁ。前にも話したと思うけど、最初にアイツ等と会った時は手紙をどうこうするって事は出来なかったわ。全ての攻撃を受け流した。」
「ふーん、でも閉じこめる事は出来るかもね。」

ナンシーが嬉しそうに笑う

「まぁ、試してみたらいいんじゃない?」

「そんな余裕与えねーーけどな。」


!?


ブブブブブ ブブブブ

ブブ ブブブ ブブブブブ

「ッツ!いつの間にッ…この虫!!」
「…水中に潜るしかないわね。」

物陰の隙間に隠れていたのか、『ハニー・ビー・ジャム』が空中に集まり2人を包囲する

「溺れさせるまでもねぇ!蜂の巣みたいに全身隙間無くブッ刺してやるぜッ!」

針を突きだした大群が速度を上げて襲いかかる

「ボンベのマスクをはめて…!いい?」
「ええ。」

パシャン!

危機一髪、ギリギリのところで2人の体は水面へと消えた




「どうだ?」
「刺した??」

何もない手紙の空間
ピーターとボブは座りながら、内壁に寄りかかりながら女王蜂を指先の乗せるアランに声をかける

「…いや、すんでの所で潜った。」
「えー。」
「そこは根性で追えよ。」

自分たちの役目は終わったとばかりに二人の男は座りながら文句をたれる

「しゃーねーだろ。こいつ等は水が嫌いなの!…まぁ、こうなるのは想定内だがよ。」

アランは指を持ち上げ、女王蜂に話しかける様に笑った
(あと…もうちょっと……!)

コンバースは必死に近くの物に捕まりながら手を伸ばす
水が噴き出している手紙の近くまで来たのだが、その排出口の小ささと水量から、押し寄せる水流になかなか手を触れられずにいた
例えるなら消防のホースから噴出している水のど真ん中に人差し指を突っ込もうとしているようなものだ

あと少しの所で水流によって手が手紙からそれる

(早く…掴まないと……!?)

コンバースのすぐ側を、何かが横切る
流暢な動き、黒い影

「!!?」

その中の一匹がスィーーーーと目の前を通っていった

(び…ビックリした…。さっきのチョウザメか。水かさが上がったから水槽から出れたんだな。)

よくよく周囲を見渡すと辺り一面チョウザメばかり
養殖されお腹がまるまると太ったその魚は、本来なら乾燥した空間であるはずの室内を悠々自適に泳いでいる
その数は不自然な程多く、まるで自分が養殖水槽の中に入ってるみたいだ


「「コンバース!」」
「「どいて、私がやった方が早いわ。」」

背後から声をかけられる
振り向くとレイチェルとナンシーがすぐ側まで泳いできていた

「「あ、うん。頼むよ!」」

ナンシーがスタンドを発現する巨大な戦車
一番上に備え付けられているアンテナなどが水面からギリギリ飛び出している
水中で部屋の蛍光灯の反射をうけて輝く戦車だなんて、なんともシュールな構図だ

「「距離…20、高度…ほぼ無し。至近距離すぎて調整せずにとも狙いは定められそうね。」」

ギギギーという音を響かせ砲台が少しずつ回っていく


「「正確に位置を捕らえた…。アクアマリンにでも……ッッ!!?」」

ゴボゴボ ゴボ!

急にナンシーが体を動かしもがく

「「ナンシー!?…っは!!」」

ナンシーは何かを懸命に振り払おうとしている
ボンベから酸素を口元に供給する為に通された管、そして彼女の腕と肩に噛みついているのは…チョウザメ!

「「ッチ!コイツ等!!」」

レイチェルが近づく鮫を手で追い払う

「「おかしい、この鮫は元々大人しい魚だし、人を襲ったりなんて滅多に……」」


ブブ  ブブブ 
  ブブブブブブ

「「え?」」

耳元を一匹のチョウザメが横切った時、奇妙な振動音を耳にする
その鮫の動きはどこかおかしく、まるで何か苦しんでるような……

(……なんだ?)


コンバースは集中し、耳を澄ます……




イタイ イタイ

 イタイ 痛イ 

イタイ イタイ イタイ!
 痛イ イタイ!

痛イ 痛イ イタイ
 イタイ 痛イ! イタイ!


「「うわあぁぁあ!?」」

ゴボゴボ!と思わす口元から泡が大量にこぼれる
その瞬間に、コンバースとレイチェルにもゾクゾクと食いついてくる鮫達

「「レイチェル!コイツ等なんだかおかしい!」」
「「それくらいこの状況で理解出来るわ!…ッく!!」」

レイチェルの腕に鋭い痛みが走る
牙で食いついた後から更に突き刺さるような痛み…レイチェルがおかしいと感じるのはこの点だった


ガシイィッ!

そのうちの一匹を鷲掴み、牙を無理矢理引きはがす



 ブブブ ブブ
ブブブブブブ ブ ブブ

あんぐりと口を開け、もがく小さなチョウザメ
その口内には、無数の蜂が所狭しとうごめいていた




「スタンドは精神のヴィジョン…って、誰かが言ってたっけな。『ハニー・ビー・ジャム』を魚の体内に潜ませる事なんで、造作もない事。ピーター、ボブ。ようやくだがブッ刺したぜ。」
「まだ早いだろ。毒が充分に回るまでもう少し待っていよう。」
「追い込まれたなんとかは〜ってね。しりとりでもする?」

誘われ2人の近くに腰掛けるアラン

「だけど、鮫の口内でも水中にはかわりないと俺は思うんだけどな、俺。フジヤマ。」
「ん、そこはコイツ等の気持ち次第。だってスタンドだぜ。水が嫌で戦いませんんなんてどうよ。マ…マ…マントヒヒ」
「まぁ、ぼくは絶対あんな目にはあいたくないね。気持ち悪い。ヒンカク。」
「ボブ、それは形容詞だ。」

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