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宮大工とオオカミ様コミュの偽大工:大騒動 1

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宮大工さんの偽者のお話。

お稲荷さま騒動から三年ほど経った晩秋の話。

宮大工の修行は厳しく、中々一人前まで続くヤツは居ない。
また、最近は元より、今から十年以上前の当時でも志願してくる若者は少なかった。
俺は、親方からそろそろ一本立ち出来る位の職人となったと言ってもらえたが、まだまだ親方の足元にも及ばない事は自覚していたので出来るだけ長く親方の下で働き、勉強させてもらうと決めていた。
ある日、俺より2年遅れて弟子入りしたが、才覚をメキメキと発揮し
一年ほど前に独立した弟弟子のJが顔を見せた。
Jは仕事の腕はずば抜けた物を持っているし、本来悪いヤツではないのだが、
実家の神社が大層なモノ持ちで恵まれている上にちょっとそれを鼻に掛ける小生意気な所があり、他の弟子たちからは疎まれていた。しかしなぜか俺にだけは良く懐き、「兄(あに)さん、兄さん」と慕ってくれる可愛いやつだった。

「兄さん、ご無沙汰してました」「おう、Jか!元気に仕事してるか?」
「ええ、お陰さまで。兄さんも相変わらず良い仕事してるそうで、噂は良く聞きますよ。」
「よせやい。弟弟子のおめぇの方が先に一本立ちしといて歯ぁ浮くような世辞を言うない。」
「あれ?なんでお世辞って解ったんですか?」「このヤロウ!そういう事言いやがるのはその口かぁ!」
久しぶりの掛け合いだ。俺もJも大笑いしながら再会を喜んだ。
「で、どうしたい?親方に用でも出来たか?」「ええ、ちょっと...兄さんと親方にご相談が...」
「俺もか?だが親方はちょっと法事で出掛けてるから、夕方くらいに出直すか、それか上がって待ってろい。おカミさんにも挨拶してけや。」
「あ、じゃあおカミさんに挨拶してから、また出直しますわ。」
そう言ってヤツはおカミさんに土産を渡して挨拶し、一度帰っていった。

夕方過ぎに親方が帰って来るのを見計らったように一升瓶を提げてJもやってきた。
「親方、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。」
「おう、おめぇも良い面構えになったな。一本立ちしてから苦労も多かったろう?」
「はい、僕がどれほどお坊ちゃんだったか思い知らされましたよ。
あと、親方と兄さんの様な本当の意味での良い仕事が出来てなかった事も。 宮大工って仕事は、ただキッチリ美しく建てりゃ良いってモンじゃないんですね。お客様だけじゃなく、神様仏様も満足してもらうような心掛けで仕事をしてなきゃダメなんですよね」
滔々と話すJに親方の顔も緩みっ放しだ。娘にしか恵まれなかった親方にとって、弟子たちは息子も同然だ。その息子が立派になって顔を出せば感慨無量だろう。

「で、親方と俺に相談ってのはなんなんだい?」俺は気になっていた事を口に出した。
「はあ...それなんですが...」Jにしては妙にまだるっこしい。また、その尋常ではない雰囲気を俺も親方も感じ取った。
「言ってみねえ。黙ってちゃ解らねえだろが」親方が急かす。
「はい。実は...実は、Z神社の奥宮の修繕を引き受けてしまいまして...」
「「なにっ!」」俺と親方の声がハモッた。「おめぇ...そいつぁ...」俺は滲み出る脂汗を感じながら呻いた。
「あの、Z神社かぃ?間違げぇねえんだな...?」親方でさえ、声が上ずっている。
「一体どういうワケなんでぇ...」親方が手拭で汗を拭う。もう寒い時期だというのに、俺も上着を脱いだ。
Z神社。蛇神様を奉っている小さな神社で、現在では神主は居らず自治体の管理化に置かれている。
そして、この界隈の寺社やその関係者の間でまことしやかに噂されている強力な祟り神だ。
麓の村に先宮が有り、先宮から細い獣道を入り込んでいくと裏山の頂上付近に奥宮が存在する。
この神社には悲しい伝説が有る。

かつて平家の落ち武者がとある姫君を守りつつここまで辿り着き、Z神社に身を寄せた。
だが、当時の村人は源氏の追及を恐れて奥宮に匿った平家の武者を眠っている間に惨殺し、また姫君を庇おうとした神主さえも殺してしまい、姫君を嬲り者にした挙句源氏に突き出そうとした。
しかし姫君は村人の目をぬい、自分を庇って殺された神主の骸を抱き抱え井戸に身を投げてしまったという。
そして、自らの代理である神主と動物好きな優しい姫を殺された事を怒った蛇神様が荒ぶる祟り神となってしまったそうだ。
その後、徳の高い神主さんが蛇神様の怒りを宥めて静まらせ、昭和中期まではその神主さんの家系が 神社を守っていたそうだが、その家系は何故か絶え、その後いつの間にか祟り神に戻ってしまったという。

それから何人かの神主さんが着任したが、恐ろしい目に遭ってほうほうの態で逃げだすか、精神に異常を来たしてしまったものもいるらしい。また、修繕工事を行なう際にも必ず何か災厄が降り掛かり、
人死にが出てもいる。ただ現場で死ぬことは無く、仕事中に何かに噛まれてそれが直らず一月後に死んだとか、ある朝首を縄のような物で絞められて窒息死しているのが見つかったとか、工事中に失踪してしまい
北海道で変死体となって見つかったなど、直接関係を見付け難い死に方なのでなんともしようが無い。
一時、取り壊そうという話が持ち上がったらしいが、その計画をしている時に関係者の変死・失踪が相次ぎ、結局お流れと成ってしまった経緯が有る。偶然の一致としてしまえばそれまでだが、仕事柄こういう事には敏感なのでここしばらくは誰も手を付けずに荒れ放題となってしまっている。

「・・・地元の寄り合いがあり、そこでZ神社の話が出まして...」Jが話し始めた。
Jの実家の神社はココから百キロほど離れた地方都市にあり、Z神社の有るS村はその隣だ。
「もう良い感じに酔っ払ってまして、僕はつい、兄さんの自慢話をしちまったんです。
僕の兄弟子にはオオカミ様が守り神さまとして付いているから、蛇神様なんて怖くないぞって...」

おい。ちょっとまて。

「そうしたら、その飲み会にはS村のヤツも参加してて、
それならその兄弟子とやらは奥の宮を修繕できるのか?と挑発してきて、僕は当たり前だ!兄さんに出来ない仕事など無い!と断言しちまって...」

まてとゆーに。

「後日、それを聞いたS村の村長さんが正式に仕事を依頼したいと...」
「待て、おめぇまさかそれで仕事を...」口をパクパクさせている俺の代わりに親方が声を絞りだした。
「申し訳有りませんっ!」Jはガバっと土下座した。
そう、Jはお稲荷様騒動の時に取り憑かれ入院し、黒髪の巫女さんと、彼女にメキョスと踏まれている女の夢を見た男である。
「このバカやらああっ!!」親方が吼えた。同時にJの脳天に蹴りが入る。
もんどりうって倒れたJの首根っこを掴み上げ、ギリギリと締め上げる。「ギギギ...」Jのあげる妙な声で我に返った俺は 親方を羽交い絞めにして必死で止めた。必死に親方を引き剥がすと同時に俺の横っ面も張り飛ばされた。
「ここここここここのロクデなしないないないないがああああああ!!!」
完全に壊れている親方に「すんません親方!」と叫びつつ当身を喰らわせ、とりあえず失神させた。
このままでは親方自信がヤバイと思った苦肉の策だった。「何があったんだいっ!」「どうしたんですかっ?」
そして大騒動に驚いてやって来たおカミさんと弟弟子に親方を託した。

「大丈夫か、J。」真っ青な顔をしてゼーゼー言っているJに声を掛ける。
「兄さんこそ、鼻血出てますよ...」口の中も鉄の味だ。とりあえず二人して顔を洗い、おカミさんに事情を説明する。
そしておカミさんの入れてくれた茶を啜りながら話を再開した。
「断る訳にはいかないのか。」「...僕の親父も、それならワシがお払いしよう、とかいって一緒になって受けちまって、もしこの期に及んで断ったりしたら...地元での一族の立場が...」
正直に答えるJ。ここで嘘や見栄を出さないのがコイツの良い所だ。
「しかし、なあ...」「兄さんはオオカミ様の所、最近参って無いんですか?」「いや、あれ以来三ヶ月に一遍は酒持って行ってるが...」
「それなら、守ってもらえませんかね?お稲荷様を簡単にノシてしまう方なんだから、蛇神様くらい...」
「しかしそれはあまりにも身勝手じゃないか?相手は神様だぞ。大体、あの時の事だって今じゃ自分でも信じられないんだから...」
それに、だ。確かに蛇神様はオオカミ様やお稲荷様よりも力は弱いと言われている。異論は多々有るが。
しかし、伝説によれば源平の時代から荒ぶる祟り神として恐れられてきたZ神社の蛇神様は果たしてどうなんだ?
また、蛇神様は最も執念深く、恐ろしい神様であるとも言われている。

「・・・着工は何時からの予定なんだ?」「もう今年は難しいので、来年からということで...」
「時間は有るな。とりあえず、なんとか手を考えてみよう。お前も出来る限り回避の方向で動いて見てくれ。」
「はい...それじゃあとりあえず帰ります。親方にくれぐれもよろしく伝えてください。」「ああ、解った。」
その夜、回復した親方に一発ぶん殴られてから、Jの持ってきた酒を二人で酌み交わしつつ相談した。
「あのバカが...ちっとは殊勝な事言うようになったと思った俺がバカだったぜ。ふんとに...」
「まあ、出来の悪いヤツほど可愛いって言うじゃないですか。」
「はっ!モノには限度があらあな!あれほどバカだとは...」
「親方。そういえばオオカミ様のお堂の保守を頼まれてましたね。」
「ああ、おめぇの仕事が良いんで別に傷んじゃいねぇが、もう七年近く経つからなあ。」
「それ、当然俺の仕事ですよね?」「当たり前ぇだあ。神主さんは元より、オオカミ様もきっとおめぇをご指名だろうが」
「明日から行っても良いですかね?」「おお、そりゃ構わねぇが...おめぇ、なんか企んでやがるな?」
「2〜3日、お堂に泊り込んでみようかと...」
「おいおい、そんでもし出てきて下さったら蛇神様退治を頼もうってんじゃねえだろうな?」
「いやあ、万が一姿を見せて下さったら、Z神社の祟り神がどんなもんだか聞いて見ようかと...」
ふうう、と親方はため息をついた。「まあ、好きにするさ。ただ、充分用心しろよ。相手は神様なんだからな。」
「はい、肝に銘じておきます。」翌朝、俺は道具と材料と寝袋を持ち、食料を買い込んでオオカミ様のお堂へ向かった。

正直、自分でもほとんどヤケクソだった。
大体、この時代に神様だの祟りだの、普通の人なら笑い飛ばすか呆れるだけだ。
だが、俺たちのような仕事をしていれば確かに人外の力を感じることが多々有る。
祭りなどでは必ずといって良いほど、亡くなる人が出る。しかしそれで慌てる関係者は少ない。
皆、予定調和のように感じている。「死人は、贄に選ばれちまっただけだ」と。

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