このように、その位置といい、気密性が欠けていることといい、換気装置の痕跡がないことといい、この「ガス室」はおかしなことだらけなのです。しかし、もっと決定的なことをいいましょう。最近、この「ガス室」が偽物だということを、何と「定説」側論者が言い出したのです。それは、エリック・コナン (Eric Conan)という、「定説」側の論者ですが、彼は、もちろん第二アウシュヴィッツ(ビルケナウ)にある「ガス室」については何ら疑問を投じてはいません。しかし、ことこの第一アウシュヴィッツの「ガス室」に限っては、「そこにある全ては偽物である(Tout y est faux)」と、アウシュヴィッツ解放50周年を特集した、フランスの週刊誌レクスプレス(l'Express)誌上の記事で、ついに認めているのです。
この驚くべき記事が出た背景には、アウシュヴィッツを巡るユダヤ人とポーランド人の間の対立があります。即ち、二つあるアウシュヴィッツ収容所の内、この第一死体焼却棟がある第一アウシュヴィッツは、「ポーランド人受難の地」として語られる傾向が強まりつつあるため、コナンを含めたユダヤ人にとっては意味が薄れつつある、という背景です。しかし、これはややこしい話なので、後述することとして、ここでは、その「定説」側論者コナンがそれを認めざるを得なくなったもう一つの背景と思われる問題についてお話ししたいと思います。それは、この「ガス室」に関するアウシュヴィッツ博物館の説明に一貫性がないということなのです。