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めどうのエッセイ&写真コミュのある1本の松の木から その1

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 まだ、長野県上田市に住んでいたころの話である。

 平成4年が終わりに近づいたころ、広告会社に勤めていた知り合いの方から電話があった。仮にA氏としておこう。ぼくより10歳年上で、たまに作曲の仕事を回してくれていた人である。
 そんなA氏が、ぜひ会ってもらいたい人がいるという。その人は、A氏の幼馴染みで、1本の木にこだわっているのだが、そのこだわりが、周辺の人から理解されずに、動きがとれずに困っているということだった。詳しい事情は、簡単に説明できないから、とにかく1度実際に会って、直接話を聞いてもらえないか、と言われた。
 1本の木への個人的な思い出については、これまでにも書いた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=65441722&owner_id=1396207

 自分に特別な木があるように、その人にも特別な木があるのだろうと漠然と思い、心情的に共感できるような気がして、ぜひ会ってみたいという返事をしておいた。

 その人、村山隆さん(当時46歳)と初めて会ったのは、年が明けて、当時まだ新築されて間もなかった上田市本郷のA氏宅で、1月30日に持たれた新年会でのことだった。
 その木は、村山さんの自宅から近い、唐臼山と呼ばれる里山の頂上に立っており、その周りで遊んだり、キノコを採ったりと、子供のころから親しんできた大きな松の木で、その枝ぶりを見ると、人の手が入っており、村人から大事に管理されてきたことが分かる。そばに雷避けの祠や、古墳があることからも、神聖な場ではなかったかと思われるという。
 熱っぽく語られる彼の口調から、どれだけ、大切に思っているかが伝わってきた。
 ところが、その新年会から遡ること3ヶ月。平成4年の10月、キノコを採りに行った際、その木に、ヒトクチタケというキノコが生えているのをみて、村山さんは、大変なショックを受ける。そのキノコは、枯れた松に生えるのだ。

 どうやらマツクイムシにやられたらしかった。マツクイムシ被害に遭った木は、幼虫が羽化する前に、根こそぎ切り倒して処理されることになっている。このまま何もしないでいたら、跡形も無く消え去ってしまう。
 少年時代の様々な思い出が頭を巡った。竹で自作したスキーでの沢すべり、刺されながらの地蜂捕り、藪の中に造った基地、探偵ごっこやチャンバラ遊び、マツタケを競い合って採ったこと…、そんな原体験が、松とともに消え去ってしまうような空しい気分に捉われた。

 彼は、その事実を地域の主だった人々に伝え、地元の信濃毎日新聞に手記を投稿した。それは、約1ヶ月後に掲載され、彼のもとに、同調する手紙や葉書が送られてきた。記事を読んで、初めて老木の枯死を知った住民も多かった。
 大松が、下之郷第10班=旧・新田村(しんでんむら)にとってどんな存在だったかを知るために、村山さんは、地元で生まれ育った年長の人々を訪ねて回った。そんな中で、最長老の声が殊更胸を打った。

「あの松は、昔から新田村の象徴木だった。村の宝だった。ただ灰にしてしまってはもったいない。何とか村中でお別れして、永遠に残せないものか。若い衆に動いて欲しい」

 唐臼山は、今では、上田女子短期大学付属幼稚園の敷地の一部になっている。かつて、地域が大学を招致した際に、住民が唐臼山に出入りすることを条件に、土地を安価で売却したという経緯があった。
 
 そこで、村山さんは、地区の有力者に相談し、短大側に松に対する住民の気持ちを伝えてもらい、市の農林課に、伐採を待ってもらうように働きかけた。
 そして、年が明けて、元旦に開かれた下之郷第10班の新年総会で、旧班長からの発議という形で、老松が枯れた原因調査と供養祭を提案した。
 ところが、彼の予想に反して、住民は動かなかったのである。

(つづく)
   ↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=4528437&comm_id=631230

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