ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

半蔵門かきもの倶楽部コミュの第109回 ロイヤー作 『湾岸天使』第7章

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
第七章 京葉倶楽部



「淳、ここでいいのか」
「ああ、ネットで調べてある」
 僕たちは水着のままゲームに出てくる中世のお城のような建物の前に来ていた。
「これがホテルなのか」
「そうだ。昭和の時代に有名だったラブホテルのレプリカだよ」
「昭和っていつのことだよ」
「大昔さ。戦争を本当にやっていた時代だよ。東京も爆撃機で爆弾を落とされたんだぜ」
 自分が住んでいる町が爆撃されるなんて想像がつかなかった。
「とにかくシャワーを浴びて着替えよう」
「どこから入る」
 昭和のシャトーは入り口からすでに迷宮だった。
「おい、ここじゃないか」
 入り口の前には、そこに入り口があることを隠すように壁が立てられていた。
「壁の後ろに玄関がある」
「なんでこんな造りになっているんだ」
「それよりも、水着姿で入ってフロントに不審がられないか」
「大丈夫だよ。このホテルは人と一切顔を合わせないシステムだから」
「それは、ここがチバファクトリーだから?」
「いや、ラブホテルの独特のシステムらしい」
「あった。あれだ」
 淳が指し示す方向に部屋の写真が映し出されている大きなパネルがあった。
「あの写真のパネルを見て好きな部屋を押せばチェックインできる」
「でもタッチパネルじゃないぞ」
「昭和の時代にタッチパネルはなかった。写真の下にあるプラスチックのスイッチを押すんだ」
「どれにする」
「アマンダは一人で一部屋使え」
 まずアマンダから部屋を選ぶことになった。アマンダはパネルを見て、お姫様が寝るような天蓋付きのベッドがある部屋を選んだ。アマンダが部屋の写真の電光パネルの下のスイッチを押すとカードキーが出てきた。
「俺たちはこれだ」
 一番広そうな部屋を渉が選んだ。
「じゃあ、各自シャワーを浴びて着替えをすませたら、このホテルの前のカフェで待ち合わせよう」
「分かったわ」
 中が金ピカでシャンデリアのついたエレベーターで五階にある部屋に僕たちは行った。男同士なので一部屋で十分だった。
「すげー。なんだ、これ」
 部屋に入るなり蓮が叫んだ。
 広い部屋にはルーフバルコニーがあり空中庭園になっていて露天風呂のようなジャグジーもついていた。
「バスルームが二つもあるぞ」
「体が海水でベタベタしているからまずはシャワーを浴びよう」
 各自、シャワーを浴びると、持ってきた服に着替えた。厳重にビニール袋に何重にもパックしていたので服は無事で濡れていなかった。水着はドライヤーで乾かすとポケットに突っ込んだ。
「用意はできたか」
 少しでも大人に見えるように皆クールな洋服を用意してきていた。僕はブラックジーンズに黒のドレスシャツだった。蓮はティシャツの上にジャケットを着ていた。
「ジャケットは暑くないか」
「クールに見えるだろ」
 僕たちは着替え終わるとホテルの前のカフェに行った。まだアマンダは来ていなかった。手持ち無沙汰なのでビールを注文した。通りに面したオープンエアの席に座って待っているとビールが瓶のままで出てきた。ビールの口にはカットされたライムが刺さっていた。
「乾杯」
 僕はビールの小瓶を上に持ち上げた。そして渉の真似をしてライムを瓶の中に押し込むと口をつけた。喉が渇いていたので一気に半分まで飲んだ。よく冷えていたのでビールの苦味はあまり気にならなかった。一本目のビールが飲み終わりそうになってもまだアマンダは姿を現さなかった。
「どうしたのかな」
「女の子だから時間がかかるんだよ」
「まさか先に出てどこかに行っちゃったとかないよな」
「それは無いだろう」
「お待たせ」
 アマンダの声がした。
 声の方を向いた。一瞬誰だか分からなかった。
「本当にアマンダちゃん?」
 淳がすっとんきょうな声を上げた。
「どうしたの? 私よ」
 僕はアマンダを上から下まで眺めた。いつもストレートで下ろしている黒髪は巻き上げられていた。そして肩が出た黒のパーティドレスを着ていた。
「その髪型」
「夜会巻風にしたの。どう? 大人っぽく見えるでしょ」
「ドレスはどうしたんだい」
「古着屋で見つけたの」
「化粧品は?」
 淳が矢継ぎ早に尋ねた。
「ホテルに全部あるってネットの情報があったから持って来なかったけど、本当にあのホテルは充実していたわ。口紅も新品だったし」
 メイクをして鮮やかな紅を口元に引いたアマンダは二二歳と言っても不自然ではなかった。むしろアマンダと比べて僕たちの方が年齢そのままの若さが顔に出ていた。
「じゃあ、まずは街を探索しよう。その後は皆で飯を食べよう」
 渉の言葉に皆頷いた。
 僕は空を見上げた。電線も電柱も無い街並みの空は広かった。太陽は傾いてはいたが、まだあたりは明るく海岸のシュロの木が海風で揺れていた。僕たちの夏が始まろうとしていた。



「流司」
 アマンダがよろけて僕の腕にしがみついた。
「大丈夫か」
 アマンダは一五センチくらいあるヒールを履いていた。
「平気。ちゃんと歩けるよ」
「この後どこに行く」
「バーに行きたい」
「心当たりはある?」
 アマンダは首を振った。
「じゃあ、あそこで調べてみよう」
 街角にあるインフォメーションコーナーに行った。タッチパネル式の端末が据え付けられており、希望の条件を入力するとお薦めの店やスポットが出てくる。アマンダは「デート、いい雰囲気、バー」とキーワードを入れて検索した。すると一番上に「京葉倶楽部」というバーが表示された。
「ねぇ、生演奏のピアノバーだって。ここにしない」
「いいよ」
 アマンダが端末の「OK」のアイコンを押すと、下からレシートのような紙が出てきた。簡単な地図と街区の番号が印刷してあった。チバファクトリーは数字とアルファベットで街区が整理されていて街中にも表示されていた。それに従って行けばお目当ての店にたどり着けるようになっていた。
「向こうの方のようだ」
 二人は歩き出した。
「ねえ、ドレスの下からお腹出ていない?」
 僕はアマンダを見下ろした。
 黒のパーティドレスの下腹部は別に膨らんでは見えなかった。
「大丈夫だよ」
「よかった。食べ過ぎちゃったから」
 街を一通り見て回った後、皆で食事をした。食事の希望は分かれた。渉と蓮はステーキハウスで高級ステーキが食べたいと言った。淳は寿司だった。アマンダはエスニック料理を食べたいと言った。僕は何でもよかったが、ステーキより焼き肉が食べたかった。結局どうせタダなのだから全部行こうということになった。
「ステーキハウス、すごかったね。目の前の鉄板で焼いてくれるなんて初めてだったよ」
 アマンダが興奮気味に言った。アマンダはステーキハウスが一番気に入ったようだった。広いカウンター席に通されるとシェフが目の前で肉を切り分けて焼いてくれ、焼き立てを皿に盛ってくれた。僕はいい意味で予想を裏切られ、大満足だった。そしてこれなら焼き肉に行かなくてもいいということになり四軒目は無しになった。
「でも流司が、パクチーが苦手だとは知らなかった」
 アマンダは思い出し笑いをした。
 パクチーが苦手だということは自分自身も知らなかった。そもそもパクチーを食べたことが無かったからだ。僕は最後に行ったタイ料理屋で付け合せのパセリのようなものを口にしたとたん、その青臭い変な臭いに思わず吐き出してしまった。
 それを見て喜んだのがアマンダだ。
 僕がトイレから戻るとアマンダに何かを巻いたような料理を勧められた。
「何これ」
「春巻きよ。美味しいよ」
「遠慮しておく」
「せっかくだから食べて、はい、あ〜んして」
 アマンダに強引に口に突っ込まれたのは、嫌な予感がした通りパクチーが詰まった生春巻きだった。しかも激辛香辛料入りだった。
 アマンダのいたずらには分かっていても引っかかってしまうのが僕だった。むせながらもパクチーと激辛香辛料を無理に飲み込むと、残りの春巻きはさすがに無理で皿を遠ざけた。
 食事が終わると渉たちと別れた。
 その頃にはすっかり陽は沈み、夜が訪れて街中の電飾が輝き始めた。
「すごい。昼間とは別の街みたい」
 AIのウサギを追いかけて電飾の迷宮に迷い込んだ少女のようにアマンダは光の道を進みながら振り返って言った。見慣れない漢字の電飾が逆に異国感をそそり、超現実的なサイバー空間にいる錯覚を覚えた。
「六本木みたい」
 六本木の交差点のような街区が出現した。だが、僕はなにか違和感を覚えた。
「なにか違う」
「私、分かるよ」
 アマンダが笑った。
 僕は分からなかった。
「まだ分からない?」
 アマンダが僕の顔を覗き込んだ。
「車よ」
 そう言われてあたりを見回すと車は一台も通っていなかった。新宿や六本木の街を模しているが、本物の新宿や六本木は車がたくさん走っている。それが全くなかった。車が通行しないので、道路も車道と歩行者道に分かれておらず、道幅はその分狭かった。だが、通りには人が大勢出ており、信号も無くどこにでも自由に歩けるのでストリートは賑わっていた。まさにテーマパークそのものだった。
「このあたりかな」
 六本木を模した街区の外れの路地裏に入った。
 あたりには五階建てくらいの高さの飲食店の入ったビルが並んでいた。ビルの谷間から三分の一のスケールのライトアップした東京タワーが顔をのぞかせていた。
「あれがそうじゃない」
 アマンダが左手の建物の看板を指差した。他の店のようにネオンで光っておらず、京葉倶楽部と木に彫ってある看板がスポットライトで照らされていた。
「二階みたい」
 上を見上げると窓にピアノの形のネオンが点灯していた。
 階段を昇ると木製の扉があった。扉にはピアノバー京葉倶楽部という金属のプレートが貼ってあった。
 ドアのノブに先にアマンダが手をかけた。
「重い」
 僕はアマンダの手に自分の手を添えて扉のノブを引いた。重厚な木製の扉が開くとピアノの音色が溢れ流れた。
「いらっしゃいませ」
 カウンターの向こうの黒い服のバーテンダーが言った。
 店内を見渡した。照明が落とされた店内は、キャンドルの暖色の灯りでほのかに照らされていた。五人ほどが座れるカウンターがあり、そしてテーブル席が壁にそって四席あった。長方形の狭い店の三分の一はピアノが占めていた。そして、ピアノの上にはディスプレイされた酒瓶がライトアップされて輝いていた。
「素敵」
 琥珀色のボトルが輝くピアノを見てアマンダが言った。
 白のドレスの女性がそのピアノを弾きながら歌い始めた。古い映画のラブソングだった。どこに座ろうかと迷っていると、バーテンダーが、僕たちを招くようにコースターを二枚カウンターに置いた。僕はバーテンダーの元に引き寄せられるようにカウンター席に座った。
「お飲み物は何にいたしますか」
 バーテンダーがアマンダに言った。
「カクテルをお願い」
「どんなカクテルか、ご希望はおありですか」
 アマンダが助けを求めるように僕を見た。
「おまかせします」
 僕が代わって答えた。
「かしこまりました。お客様はいかがされますか」
「バーボンソーダを」
 バーテンダーが頷いた。
「ねえ、お洒落で素敵な店ね。こんな店に来るのは初めてだよ」
 アマンダが声を落として言った。
 バーテンダーはカウンターの奥の棚に並ぶ酒瓶をいくつか取り出すとカクテルを調合し始めた。ピアノの響きが肘をのせているカウンターにまで伝わってくる。バーテンダーはまず、バーボンソーダを僕の前に置いた。グラスにはシャンパンゴールド色の泡が立っていた。
「こちらは、お連れ様のです」
 アマンダの前に置かれたショートスタイルのカクテルグラスにシェーカーから深紅の液体が注がれた。
「わあー、綺麗」
「ルビーダイヤモンドです」
 カウンターにカクテルとバーボンソーダを置くとバーテンダーは後ろに下がった。
 アマンダがカクテルを手にした。
「じゃあ、乾杯」
 アマンダがルビーダイヤモンドに唇をつけた。ルージュに輝くリップとルビーダイヤモンドの煌めきが同期した。
「美味しい」
「そう言っていただけて幸いです」
 バーテンダーが微笑んだ。
「二人の夜の始まりだね」
 アマンダが頬をカクテルと同じ色に染めて言った。
「ああ」
 だがすぐにアマンダは下を向いてしまった。
「どうしたんだい」
「ねぇ、本当に私が付いてきてよかったの? 本心では私なんかじゃなくてもっと綺麗な大人の人としたかったんじゃないの。例えばあの人みたいな」
 アマンダはピアノを弾いている白いドレスの女性を示しながら泣きそうな顔になった。
「いまさら何を言っているんだ。俺にもアマンダしかいない」
「本当?」
「ああ」
「本当に私でいいの」
「どうしてそう思う」
「だって私は……」
 その言葉を僕は遮った。
「何も言わなくてもいい。今のままの、そのままのアマンダでいい。俺が好きなのはアマンダだけだ」
「嬉しい」
 アマンダが僕の胸に顔を埋めた。
「それから、これ」
 僕はポケットからリングを取り出した。
「何?」
「今贈ることができるのはこんなものだけだけど、就職したらもっといいのを買うから」
 僕は安物のファッションリングをアマンダの左の薬指にはめた。
「どういうこと」
 アマンダは、意味が分からないという驚いた表情で見上げた。
「すぐには無理だけど、アマンダが高校を卒業して二人で暮らせるようになったら家族になりたい」
 アマンダの瞳が潤んだ。
 そして号泣し始めた。
「アマンダ、俺は本気だ」
「流司、大好きよ」
 アマンダは泣き止まなかった。まるで幼い子供のように僕の胸にしがみついて泣いた。化粧が落ちて頬に黒い涙のタイガーストライプができて、鼻水を拭こうとして口紅も子供がクレヨンでいたずらをしたようになった。
 いつの間にかピアニストが演奏を止めて、アマンダの後ろにいた。そしてアマンダの肩にやさしく手を置いた。アマンダが振り返った。
「さあ、一緒にいらっしゃい」
「どこに行くの」
「化粧室。お化粧を直しましょう。その顔じゃ、せっかくの夜が台無しよ」
 アマンダが僕を見た。僕は頷いた。
 二人は奥の化粧室に消えた。
「お店の雰囲気を壊してしまったようで、すみません」
 バーテンダーと二人きりになると僕は謝った。
「いいんです」
 バーテンダーは微笑みを浮かべながら布巾でグラスを磨いていた。
 しばらくすると、綺麗に化粧をし直したアマンダが戻ってきた。するとバーテンダーがさっきまで磨いていた細長いグラスをカウンターに四つ並べて、シャンパンを抜いた。そして丁寧にグラスに注いで行った。
「これは店からのお祝いです」
 そう言うと、シャンパンの泡が立つ細長いグラスを前に置いた。いつの間にかピアニストの女性もバーカウンターの内側に入っていた。そしてバーテンダーとピアニストもグラスを手に持って掲げた。
「お二人の永遠の愛に」
「お幸せに」
「乾杯」
 僕はシャンパンを一気に飲み干した。酔が体中を回っていく気がした。店内を再び見渡した。他に客はいなかった。アマンダとの貸し切り状態で他の客に気遣いする必要はなかった。全てが心地よかった。酒も、店も、店の人も僕たちをつつみこむような優しさにあふれていた。チバファクトリーに来て本当によかったと思った。
(まてよ、でもここはチバファクトリーだろ)
 心の中に疑問の影が射した。
(この感じのいいバーテンダーもピアニストも受刑者ということか)
 あらためてカウンターの向こうの二人を見た。とても罪を犯して刑務所に収監されているような人には見えなかった。
「どうかされましたか」
「いいえ」
 いくら酔っていても、何をやらかして刑務所にブチ込まれたのですかと訊くことはできなかった。僕は黙ってバーボンソーダのグラスに残っていた氷を口に入れた。
「おかわりはいかがですか」
「お願いします」
「ピアノがすごくお上手ですね」
 アマンダがピアニストに言った。
「ありがとうございます」
「お名前はなんていうんですか」
「おい」
 僕はアマンダの脇腹を軽く突いた。
「美音といいます。でもこの街で働いている受刑者はこの街でしか使わない別の名前を名乗っています。だから本名ではありません」
「メタバースで使うアバターのハンドルネームみたいなものなのね」
「そんな感じです」
「じゃあ、マスターはなんていう名前なの」
「ブルーです」
「でも、美音さんもブルーも刑務所に入るような人には見えない」
 アルコールも手伝ってかアマンダは思っていることを何でもしゃべってしまう。
「すみません。彼女が失礼なことを言ってしまって」
「構いませんよ」
 美音が微笑みながら言った。
「でもこんなに才能があって優しい人なのにどうして刑務所にいるの?」
「アマンダ!」
 僕はたしなめた。
 美音は嫌な顔一つせずに「構いませんよ」と言った。
 そして窓の外に視線を向けて続けた。
「私が犯した罪は『愛しすぎた罪』です」
「私が犯したのは『人の秘密を覗き見た罪』ですよ。お嬢さん」
 ブルーが笑って言った。
「もう一曲お二人のために弾きますね」
 美音は再び鍵盤に向かうとジャズを奏で始めた。
もう、言葉はいらなかった。アマンダの体温のぬくもり、息遣い、酒精が描き出す夢見心地の世界、そして音楽。その感覚の中に浸って僕はいつまでもここにいたかった。
それを邪魔するかのようにジャズの音色にまざって小さな羽虫のような音がした。見ると小さい模型のようなドローンが店内を浮遊していた。
「あれは何ですか」
「セキュリティのドローンです」
 ブルーが顔を少し曇らせて言った。
「なぜ、ドローンが店に」
「この街の治安を維持するためです。ご承知の通りこの街は受刑者の街ですし、この街に酒や女目当てで来る客は、受刑者よりたちが悪いことがあります。そこで街の秩序を守るためにいつも巡回しているんです」
「どこから入って来たんですか」
「この街の全ての建物にはドローン用の侵入口が最初から設計されているんですよ」
 嫌な羽音を立てて飛ぶドローンを横目で見た。
「でもお客さんは心配ありません。ドローンが取り締まるのは、暴れて人を傷つける者と、不法侵入者だけですから」
「不法侵入者?」
「ええ。ここは普通の刑務所とは違って中に入りたい人が大勢いますからね」
 ブルーは笑いながら言った。
「もし、無断で入るとどうなるんですか」
「ここは国の施設で、しかも重要特別施設に指定されていますから、単なる住居不法侵入よりも重く罰せられます。一年くらいの実刑が言い渡されます」
 僕はアマンダと顔を見合わせた。
「でも、入ってしまえば不法侵入かどうか分からないですよね」
「そうです。そこがこのチバファクトリーのセキュリティホールでした。そこで先週からセキュリティが強化されました」
「どういうことですか」
「お客様も入館の際に手の甲に透明なスタンプを押されたはずですが、あれを使って入館確認をすることになりました」
「入館確認?」
「あのスタンプは特殊な三次元コードになっていて、スタンプの有無と日付によって適法な入場者かどうかを見分けることができるようなったんです」
「でも手を洗ったし、シャワーも浴びました」
「石鹸で洗っても汗をかいても三日間は持つ特殊なインクになっていますからご安心下さい」
「どうかされましたか」
「いえ、大丈夫です」
 アマンダを見た。アマンダも今の話を聞いて青くなっていた。
 小声でアマンダに言った。
「とにかく店をいったん出よう」
 アマンダが頷いた。
 僕はアマンダと京葉倶楽部を出た。

コメント(1)

たしかに、こんな、すてきな場所なら、(普通の刑務所とは違って)中に入りたい人が大勢いるでしょうね。流司とアマンダのロマンス、ちょっと心配になるくらい、順調に進んでいますね。ピアニストの美音もすてきな雰囲気です。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

半蔵門かきもの倶楽部 更新情報

半蔵門かきもの倶楽部のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。