孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの『日本外交　現場からの証言』から、「冷戦の終結が米国の戦略変更―軍事力利用で世界を変える、日本の軍事力を利用―

孫崎享のつぶやき
『日本外交　現場からの証言』から、「冷戦の終結が米国の戦略変更―軍事力利用で世界を変える、日本の軍事力を利用―
2015-08-23 06:54

集団的自衛権は自衛隊を米国が自己の戦略のために使う制度である。これを行えば当然自衛隊に死傷者が出る。攻撃される人々は日本に対しテロを仕掛ける。日本の安全保障に決してプラスにならない。何故この政策を安倍政権は実施しようとするのか。米国に言われたからである。
では、どうして米国は執拗に安倍政権にその実施を迫るのか。その為には米国の安全保障政策の変化を学ぶ必要がある。『日本外交現場からの証言』より
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第二章冷戦の終結が米国の戦略を変えた。これが日米関係に影響を与えた

ソ連は敵になることをやめた

冷戦時代、米国の軍事態勢は、ソ連を敵として設定することで構築されていた。戦略も武器体系も軍の配備も、すべてソ連が敵であることが大前提とされていた。ところが、八〇年末からこの冷戦体制が劇的に変化した。

ミハイル・S・ゴルバチョフ（一九八五年～一九九一年　ソ連共産党中央委員会書記長）が米国指導部に、「われわれは米国の敵になることをやめた」

と言ったのだ。

その時の米国側の当惑ぶりを、コリン・Ｌ・パウエル（一九八七年～一九八九年　国家安全保障問題担当大統領補佐官、一九八九年～一九九三年　統合参謀本部議長）は、『米国の軍事力――今後の課題』（『フォーリン・アフェアーズ』、一九九三年）で、次のように書いている。

一九八八年春、ゴルバチョフは私に、「将来、私は冷戦を終わらせるつもりだ。あなたは

新しい敵を探さなければならない」と述べた。

「信じられない。しかし彼は本気だ」。私は口にこそ出さなかったが、こう思ったもので

ある。

そして、ゴルバチョフのアドバイザーだったゲオルギー・アルバートフ（元ロシア科学アカデミー・米加研究所名誉所長）は、一九八七年一二月八日、ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、われわれは米国に対して『秘密兵器』を持っている。われわれはもう米国を敵と位置づけるのを一方的にやめる。

もしソ連という敵が存在しなくなったら、米国の軍事支出や対外政策は一体どうなるのであろう。と記述した。

ここから米国国内では、以後の「ソ連の脅威なき」情勢を、国家としていかに構築し直すべきかに関して議論が巻き起こった。

第一のグループは、

「ソ連の脅威がなくなったのだから、軍事費を大幅削減すべきだ」

と主張した。その代表格は、ロバート・S・マクナマラ元国防長官だ。

一九八九年一二月一三日付のニューヨーク・タイムズ紙は、

「マクナマラ元国防長官は、上院予算委員会で、ソ連の脅威が減じた今、三〇〇〇億ドルの国防予算は半分に減らせる。この資金は経済の再構築に回せると証言した」

と報じている。

第二のグループは、

「世界最大の軍事力を維持し、この軍事力を利用して世界に君臨して行こう」

と主張した。国防省がこの論を積極的に展開した。

この考え方を最も明確に述べたのは、一九九二年三月八日付のニューヨーク･タイムズ紙だった。その思想は、次のように、今日までの米国戦略の根幹をなしている。

・唯一の超大国としての米国の地位を、十分な軍事力で永久化させる。

・この目的達成のため、集団的国際主義は排除する。危機においては、米国が単独で行動できるようにする。

・有志連合はアドホックベース（臨時的評価）で形成される。

（※有志連合とは、「国際的反テロ連合」とも言われる。冷戦終結後、国際連合平和維持活動の形をとらず、平和維持活動や軍事介入を行なう連携関係の称）

・イラク、北朝鮮などでの、核兵器やその他の大量破壊兵器の拡散を防ぐため、それらの軍事使用規制に関して計画を考える。

こうした戦略が、一九九二年、レス・アスピン元国防長官の下で、公的に軍事戦略『ボトム・アップ・レヴュー』となった。

（※米国防省『ボトム・アップ・レヴュー』の要点は、①ポスト冷戦、②約二一七万人（一九八七年）の兵力を、約一四〇万人にまで削減 → 二カ所での大規模な地域紛争にほぼ同時に対処することができる兵力を保持、③欧州およびアジア・太平洋地域にそれぞれ約一〇万人の前方展開兵力を維持）

日本を軍事分野で加担させる方針が打ち出された

一九九〇年代初め、米国国民の中で一番の脅威は、日本とドイツの経済力であった。

もし、米国だけが軍事分野に力を注げば、その間に、日本とドイツがさらに経済大国化する

こととなり、米国が経済力で負ける可能性が出てくる。

そのため、日本とドイツを放置するわけにはいかない。そこで、日本とドイツを軍事分野に

引き込む方針が出された。

したがって、『ボトム・アップ・レヴュー』では、脅威を、大量破壊兵器の拡散等としているが、

米国が採用すべき政策として、「①米国の指導体制を維持する、②同盟体制の強化を図り、その

ためには同盟国の貢献を必要とする」とした。この同盟国とは、日本とドイツを強く意識している。

ところが、よくよく調べてみると、米国の軍事戦略に日本を巻き込む構想は、一九九二年の『ボ

トム・アップ・レヴュー』よりも前に打ち出されていた。

一九八九年八月、ジェイムズ・A・ベーカー元国務長官が訪日時、

　「ジョージ・H・W・ブッシュ（父）大統領は、日本は自由主義諸国の重要な一員として、さらに責務分担を負うべきであると考えている」

と、すでに言及していたのだ。
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