人間論および人間学コミュの歴史講演ー聖と俗の挟間にゆれてー

歴史における人間論として展開したものですので、ここに掲載させてもらいます。

ーーーーーーーー聖と俗の挟間にゆれてーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー 1.髪長姫物語ーーーーーーーーーーーー

ーーーー水底に光る仏をひろい上げ祈りこめれば緑の黒髪ーーー
　　　　　　　　　　　
□梅原猛著『海人と天皇』を材料に前回は「持統天皇は怖い女か」と題して講演いたしました。今回は文武天皇の妃になった宮子の話から入ります。彼女は藤原不比等と賀茂朝臣比売の子とされていますが、実は道成寺にはこういう言い伝えがあるのです。Webから引用しましょう。

□「昔この辺りで生まれた海女の子がいました。しかし、いつまで経っても髪の毛が生えません。みんなが心配していました。ある時、母親が海底で光るモノを見つけます。

□それはなんと“千手観音像”です。それを家に持ち帰り、祀ってお祈りをしました。すると髪の毛の生えなかった女の子に、髪の毛が生えてきたのです。その後、藤原氏の養女となり文武天皇の夫人となり、この道成寺を創立したお話。」

□このお話は私のホームページ「やすいゆたかの部屋」の「やすいゆたかの創作集」のコーナーの「物語『海人と天皇』」に詳しく物語にしてあります。この話だけで一時間はかかりますので、ぜひホームページをお読みください。

http://www7a.biglobe.ne.jp/~yasui_yutaka/amatotennou/mokuji.htm

□ともかく髪が生えると絶世の美女になつたのです。物語では抜けた髪の毛を仏のご利益だということで大切に干していたらツバメが宮子の髪を都に運んでそれを藤原不比等の目に留まって、こんな長い髪の娘はきっと美しいだろうと思い、持統天皇にお願いして朝廷の命令で探させたのです。それで紀州に髪長姫のうわさがあることが分かり、藤原不比等が養女に迎えたのです。　

□それで不比等の夫人賀茂朝臣比売が九海士という貧しい漁村の娘宮を「マイフェアレディ」よろしく朝廷での行儀作法を教え込んで、右大臣藤原不比等の娘宮子姫に仕立て上げたのです。

□そして696年8月1日に軽皇子が即位して文武天皇となったのを記念して、妃の一人となりました。あまりの美しさに寵愛を一身に受け、701年に首皇子を出産したのです。

□ここまではシンデレラストーリーで一見めでたいお話ですね。道成寺の創建は、身重になった宮子姫がホームシックにかかったので、千手観音像のご利益だということで、故郷に宮中あげて行幸して千手観音像にお参りしたのです。そして文武天皇の勅願でお寺を建てることになったわけです。本尊の千手観音像の中にこのミニ千手観音像が納められているということなのです。

□この伝承はお寺の格を上げるための作り話のように思われていたのですが、最近の創建時の遺構の調査によりますと大変大きな寺だったので、文武天皇の勅願寺であることは間違いなさそうです。わざわざ紀州の辺鄙な漁村に寺を創建したということは、梅原猛の睨んだところ、この髪長姫伝説もあながちフィクションではないということになります。

□ところで首皇子の出産で、これまでのサクセス・ストーリーは突如暗転します。現在でも民間から皇室に入った女性は失語症になったり、メランコリー(鬱病)になったりで不適応を起こしていますね。

□髪長姫も深刻なホームシックから身重の身をおして故郷に里帰りしましたが、ともかく出産は相当の難産で、産後回復も思うように行かなかったのです。　

□なんとかもともと体力があったので一命をとりとめたもののメランコリーから人を寄せ付けず、皇子を抱こうともしなかったのです。

□結局737(天平9)年、皇后宮で僧玄昉(げんぼう)の看病を受け、やっと正常な精神状態に戻りました。そこへ偶然行幸した聖武天皇にやっと母子対面ができたのです。701年に出産していますからなんと36年ぶりの奇跡ともいえる対面ですね。

□光明皇后と宮子は異母の妹と姉ということになっていますが、宮子は養女なので血縁はなかったのです。

□ともかく玄昉の治療法は公開されていません。皇后宮の中に法華堂があってそこで密室状態の中で何日もかかって治療をおこなったので、いろいろ噂もされたようです。

□たしかに鬱病を治す特効薬など当時はありませんから、裸になって一人の女に戻って一人の男に抱かれることによってしか、回復の方法はなかったかもしれませんね。

コメント(8)

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[1] mixiユーザー 04月06日 20:46

------------ 2.光明皇后の不倫と広嗣の乱----------------

-------帝には観音様に見えしかは玄昉と語る皇后の笑み-------

□玄昉の治療法にセックス療法があったらしいことは、光明皇后のノイローゼ治療がとんでもない結果を生んだことからも想像できます。

□737年には天然痘が流行し、光明皇后の四人の兄たちが次々と亡くなりました。それがどうも藤原氏に誣告の謀略で葬られた長屋王の怨霊の祟りではないかといわれていたようなのです。それで皇后宮はパニックに陥ります。なぜなら、皇后宮は以前は長屋王の大邸宅だったのですから。

□そこで光明皇后が頼りにしたのが僧玄昉です。吉備真備や僧玄昉は唐の最新の医療技術や呪術を学んできているのです。長屋王事件は『続日本紀』では誣告による冤罪事件ですが、藤原氏は自分たちの関与を認めていません。それに長屋王の怨霊を祀ったり、正式な名誉回復もしていません。

□藤原氏にすれば、藤原四子の死が長屋王の祟りだと認めることは、長屋王の冤罪と藤原氏の謀略を認めることに繋がると考えて、むしろ長屋王事件や四子の死も聖徳太子の祟りと考えて、法隆寺の改増築を行ったと思われます。

□もちろん聖徳太子をいくら祀っても長屋王の祟りなら、何の効果もなく、ますます恐ろしい祟りを呼びそうですが、長屋王は父高市皇子の権勢を引き継いでいるだけで、聖徳太子のように徳の高い人物には見えなかったかもしれませんね。徳が低ければ祟りもたいしたことはないということです。

□長屋王は四子に嵌められて自害に追い詰められますが、その時に山背大兄皇子のような一家心中の形をとっています。妻の吉備内親王や息子たちも首をつっています。これは自害しないと斬首されると脅かされたせいかもしれません。

□『日本霊異記』によれば王は自ら子や孫に毒を飲ませた上絞殺し、その後服毒自殺したともいいます。もしそうなら山背皇子を真似て、一族が怨霊になって祟ろうと考えたのかもしれません。

□ともかく有力な後ろ盾であった四人の兄を失い深刻な精神的危機に見舞われてふさぎ込んでしまった皇后の治療は、母宮子を見事に治癒した玄昉以外に考えられません。そこで聖武天皇は直々に玄昉に頼んで治してもらったのです。

□ところが式家宇合の長男藤原広嗣がクレームをつけました。玄昉は皇后宮に入り込んで光明皇后といかがわしい行為に及んでいると聖武天皇に直訴したのです。

□そんなことを言われても、聖武天皇にすればこちらから治療をお願いした手前、その仕方にけちをつけるわけにも行きません。でも執拗に広嗣が訴えるものですから、『源平盛衰記』によりますと、一緒に覗きに行ったのです。すると確かに何やら抱き合っているようにも見えるわけです。

□聖武天皇は内心すごくショックを受けたでしょうが、光明皇后は十一面観音に、玄昉は千手観音となって現れてどうすれば衆生を済度できるかを語ったというのです。つまり聖武天皇は皇后の不倫現場に立ち会っても、あれは観音様が教えを説かれているのだと言って、取り合わなかったということです。なんと寛容な、なんと気の弱い天皇でしょうね。

□この夫婦は実に特別な関係なのです。宮子姫は産後難産で苦しみ、鬱病になって閉じこもりました。それで首皇子は乳母が専ら育てることになります。

□その乳母になったのが藤原不比等の妻である橘三千代です。実は彼女は37歳ぐらいの高齢出産で安宿媛(光明子)を生んだばかりだったのです。

□彼女は元々宮中の女官でした。軽皇子(文武天皇)の乳母も勤めたことがあったのです。それは683年に美努王との間に橘諸兄を出産したところだったということです。なんと偶然にも二代に渡って天皇の乳母を勤めたということです。

□美努王は大宰帥に赴任して筑紫に行きましたが、子供たちを都で育てたかったこともあり、宮中で女官たちを仕切っていたこともあって都に残っていたのです。

□そこで宮子姫の世話をよろしくということで、近づいたのでしょうね、藤原不比等と気が合ってじょじよに親密になっていったのです。

□それで同じ乳房から首皇子と安宿媛は乳を飲んだのです。そして藤原氏は将来この二人を夫婦にして天皇と皇后にしようと目標を定めました。

□それで安宿媛は自分は首皇子を一生支えていく存在だということは重々承知していましたから、そのために命がけで尽くそうと思っていたでしょう。

□でもそれは使命感であって恋愛や憧れの感情ではありません。つまり安宿媛は首皇子を命がけで愛していたけれど、彼女の女としての感情では燃えるものはまったくないし、憧れも感じないので、別の人にそれを求めざるを得なかったということです。

□唐帰りの最先端の高僧となると憧れの対象にはぴったりですね。それに宮子の病を奇跡的に治癒したとなると、彼女の胸に激しく燃え上がるものがあったかもしれません。

□おそらく少しだけ安宿媛の方が早く生まれただけですが、すっかり姉のような意識で幼いころから世話を焼こうとしたのではないでしょうか。

□それに父軽皇子や祖父草壁皇子同様、腺病質で自信無げなところが首皇子にはあって、その分安宿媛は母性本能をくすぐられて世話をやこうとしましたし、首皇子は安宿媛に対して依存心があり、また劣等感を抱いていたと想像されます。

□その分安宿媛への憧れと執着は強く、また安宿媛から認められたいという気持ちが強かったと思われます。安宿媛に認められることが最大の喜びであったかもしれません。

□そのためには偉大な天皇にならなければならないと願っていました。どうせなら藤原氏が最も尊崇し、信仰しているかにみえる聖徳太子の目指していたような理想の国づくりがしてみたいというのが念願だったのです。

□ところが現実はどうでしょう。平城京は巨大な都で人口は十万人を超え、役人だけでも一万人に達しています。そして太政官という組織があって、そこで重要施策は審議され、仕上がって、天皇は詳しい事情はよくわからないまま御璽を押すだけが仕事です。

□それに太政官を取り仕切っている実力者がいて、その意向ですべて決まってしまうようになっています。当時は長屋王が皇親勢力を代表し、元正上皇の住まいも長屋王の邸宅内にあったといわれています。

□長屋王は実質的に国政を担当していた高市皇子の嫡男として、政治上のことに詳しく、学識においても儒教、仏教だけでなく道教にも大変造詣がありました。

□そして自宅で宴会を開いて、漢詩などを披露しあっていたようです。つまり当時の文化の中心は長屋王の邸宅であったといわれています。

□長屋王は不改常典を盾に藤原氏が朝廷を外戚支配しようとしていることに、強い警戒心を持っていました。つまり藤原不比等が貴族官僚をまとめあげ、天皇を象徴化して、太政官中心の政治体制を確立しようとしていたのです。

□聖武天皇が即位して、長屋王は正二位左大臣に昇りました。正一位藤原夫人(宮子)を大夫人と称する詔が発せられましたが、これに対し長屋王らは令では皇太夫人なので令に違反することを指摘し、天皇は先勅を撤回したのです。その代わり大御祖（おおみおや）という呼び方をするようにしたのです。

□これでは光明子の立后に賛成するはずがありません。皇后は皇族からと令でもされていたのですから。それで長屋王を排除しようと企んだのです。

□そのきっかけが基皇子の死です。727年に生まれたので、早速立太子をして皇太子にしてしまいました。ところが翌年一歳になる前に病死しました。これを藤原氏は利用して、729年に長屋王が左道を行い、基皇子を呪い殺したという誣告をさせて、すぐさま兵で囲み、自殺に追い込んだのです。

□こうして藤原氏は皇親勢力の親玉を排除して、貴族官僚独裁を樹立したつもりだったのです。邪魔者がいなくなったので、詔勅で光明子を皇后にしました。

□令にはなくても皇族以外から皇后になった例はあるのです。たとえばオキナガタラシヒメつまり神功皇后ですね。彼女は夫仲哀天皇に、神がかりしているときに死んでしまえといったので、それで仲哀天皇がなくなってから、実質的に政治をとっていました。

□だから大王だったのですが、記紀編纂時に皇族出身でなかったのに大王になったのは困るということで、皇后のままだったことにしたのです。

□ともかく光明皇后が実現し、兵権をほぼ掌中にした藤原氏の後ろ盾のもとで光明皇后の発言力は強くなります。聖武天皇はますます何もできないお飾りになってしまうわけです。

□これでは落ち込む一方ですね。ところが藤原氏の専制も長くは続きません。天然痘が猛威を振るい、四子南家の武智麻呂北家の房前　式家の宇合　京家の麻呂の全員が死んでしまいます。前の年には、光明皇后の生母橘三千代もなくなっていますから、光明皇后は後ろ盾をすべてなくしたような有様になるわけです。

□それで精神的にも落ち込み、御仏にすがるとともに僧玄昉の癒し治療を受けたわけで、これが藤原広嗣の乱の原因になったということです。なんとか皇后の病も癒えて、政権を建て直そうとします。皇后は異父の兄である橘諸兄を推薦します。それで相対的に藤原氏の力は後退します。橘諸兄では藤原不比等や長屋王あるいは藤原四子のように聖武天皇をお飾りにしておくだけの権勢はなかったのです。

[2] mixiユーザー 04月08日 09:00

---------------3.聖武天皇と遷都始末-------------------
　
-------この国はすめらみくにぞ朕が理想(あがゆめ)の実りの秋(とき)ぞ今ぞ迎へむ-------
　
□聖武天皇以前、最も天皇として業績が大きかったのはだれでしょう?

□これはなかなか難しい質問ですね。というのは天皇が象徴的な存在でしかないのなら、その時代に偉大な変化や進歩が見られても、その天皇の業績とは言えません。

□推古天皇などは蘇我馬子や厩戸皇子の活躍があってのことですから、推古女帝の業績といえるものは定かではありませんね。

□神武天皇は日本の国を創建したので創業者として偉大だといえますが、あれは西の方からやってきて、暴虐にも侵略して国を建てたわけですから、もともと大和や河内に住んでいた人々にとっては外来の侵略者ですね。侵略されなかった方が平和で豊かな国としてもっと発達していたかもしれません。

□息長帯媛つまり神功皇后は新羅を討伐したということでその息子応神天皇(誉田別天皇)と共に戦の神様として祭られています。

□いわゆる八幡神というのは応神天皇のことです。彼らも侵略者ですね。高句麗好太王碑文で倭が攻めてきたとありますが、筑紫を拠点にして半島に侵略し、その勢いで大和を征服しました。

□もともと仲哀天皇はヤマトタケルの息子ですから、大和朝廷内の内紛で、筑紫に来ていたのかもしれません。まあ軍神なのです。軍事的に強かったということですね。私はあまり軍事的に強いだけなのは評価したくありません。

□仁徳天皇は河内湖と大阪湾をつなぐ堀を作って、治水に成功し、河内王朝の基礎を築いたということで偉大な業績ですね。難波津を作って交易を発展させました。仁徳天皇陵というのはあれは間違いらしいですね。

□中大兄皇子は大化の改新で有名ですが、実際には政敵の粛清で信用をなくして、豪族たちの協力はあまり得られなかったといわれます。だからどこまで改革が進んだのか怪しいところです。

□大海人皇子は天皇中心の律令国家形成に歩を進めましたが、病気がちでした。その意味では持統天皇は皇親勢力と貴族官僚をまとめ律令国家づくりを本格化させた意義は大きいですね。ただ実務的能力はなかったので精神的なまとまりの核みたいな存在です。

□結局律令国家は藤原不比等のイニシアティブでできていきました。大宝律令や平城京遷都なども天皇の力で行われたものではありませんから、平城京を作ったのは元明天皇だという人はあまりいませんね。

□そこで聖武天皇が740年に、藤原広嗣の乱で切れまして、豹変するのです。そして俄然理想の国づくりを強行しようとします。

□もちろん密かにいつかやってやろうと思っていて、その機を覗っていたのでしょうね。

□平城京を棄てて、伊勢に行幸し、それから美濃から近江に出て、山城をとおり恭仁宮到着します。

□これは壬申の乱を真似ているという解釈もあります。その解釈では、天武天皇の国づくりの原点に帰って、貴族官僚独裁を打倒し、天皇親政に戻すクーデターだということですね。

□壬申の乱は近江大津京をやっつけたわけですが、貴族官僚は藤原氏をはじめ大津京の出身が多いわけで、藤原氏へのクーデターの意味があるわけです。

□もちろんこれだけの大掛かりなことですから、天皇一人の胸に秘めて突如決行というわけにはいかないでしょう。橘諸兄との密議の上だったと考えた方が現実的です。

□諸兄も藤原氏で固められた官僚機構を崩すことによって、政権を固めようという腹だったかもしれません。恭仁宮のあたりは橘氏の勢力圏だったということです。

□しかし巨大な都城である平城京を棄てるということは、国家の財政を預かる橘諸兄にすればとても正気の沙汰とは思えなかったでしょうが、帝の着想ということで、それに従っただけということで、自分の責任ではないと考えたのでしょうね。それより藤原氏の支配体制を崩すチャンスだと思ったかもしれません。

□そしてこの遷都の期間に全国に国分寺・国分尼寺をつくり、大仏を造立する詔を出します。ただ平城京を棄てただけではなく、ちゃんと聖徳太子の『憲法十七條』の理想に則って仏教中心の国づくりをするという詔勅です。

□遷都だけでも財政的に大打撃なのに、その上、国々に国分寺・国分尼寺を建てる、そして山の中の紫香楽宮に大仏を造立するというのですから、ぶったまげます。

□ただし大仏に関しましては寄進を集めて造ろうということですね。財政的破綻や人民の負担増の問題はあるにしても、結果的には聖武天皇は仏教を飛躍的に繁栄させ、天平文化を絶頂にしましたね。だから天皇としての存在感はすごく大きいのです。

□聖武天皇は藤原氏の影響か、聖徳太子に強い憧れがありましたから、行基が仏教中心の国づくりを進言したのでしょう。

□行基は始めは許可なく僧になったり、布教したりしたので取り締まられ、集会を禁じられたりしますが、都近くに一万人以上の大集会を主催するなど民衆への影響力も絶大でした。

□橘諸兄は行基を利用することを考え、恭仁宮の予定地に寺を作って行基に与え、そこで聖武天皇と会わせます。

□そこで聖武天皇はすっかり行基に帰依してしまうのです。山上の聖都、そこに大仏を造るなどのアイデアは行基のものだと思われます。

□宗教が絡んできますと確信犯ですから、本人は慈悲の気持ちです。この世を仏国土にし、衆生を救おうという気持ちです。

□せっかく帝になったのだから、仏教を盛んにして苦しんでいる民衆を救うのだという使命感があるわけです。

□実際彼は自然災害や国の乱れなどがありますと、自分の徳が足らないからだと深刻に反省し、落ち込むタイプだったのです。自分の非力というのを痛感し、その責任をすごく感じる人だったのです。

□実際は寺を建て、大仏を造りますと、それだけたくさんの僧侶も要りますね。経費はどんどん嵩んでいって、それが民衆の負担につながるわけです。

□それでも平城京を棄てるという発想はすごいですね。これは現実性はともかくとして、官僚体制への批評としては共感できます。

□強大な律令国家を作るには膨大な人数の官僚機構と膨大な文書の処理が行われるので、なかなか詳細を知らない帝にとっては口出しのしようがなくなるのです。

□また巨大な都では意思の疎通がうまくいきません。官僚機構やその人数を大胆に削減してスリムで単純な機構にするほうが、帝の意向がストレートに反映するのではないかと考えたのでしょう。それに役人を減らすことができればそれだけ人民の負担も軽くなります。

□しかし都の人々にとっては、狭い都になればそれだけ仕事がなくなるのではないかと戦々恐々です。それに不便な辺鄙なところでは行政効率もわるくなり、国家の弱体化につながりかねません。その上、遷都や造寺の経費は膨大ですから、地方の負担は重くなり反乱を誘うことになりかねません。

□その上、難波宮を改修して副都にする計画もありました。恭仁宮の建設がはかどらないので、難波宮を都にしようともしますが、紫香楽宮の大仏造立が気になって、紫香楽宮に行くとそこを都にすると言い出します。

□もともと山の中ですから紫香楽宮は宗教的な意味での聖都にして、実務的には恭仁宮か難波宮にするつもりだったのです。

□大仏や仏教への思い入れが強すぎて、山に篭って政治をしようというのですから、平城京に住み慣れた人々はあきれ果てて、山火事を頻発させて抵抗します。　

□天も聖武天皇を見放したのか地震まで起こって、聖武天皇は完全に行き詰まります。そして役人たちにアンケートをとり都はどこがいいかと尋ねますと、全員平城京だったということで、還都が決定しました。

□やむなく大仏は平城京に隣接した地に東大寺をつくり、そこに大仏殿と共に大仏を造立することになったのです。

□挫折によって平城京に戻ってからは、彼は直接政治にタッチしなくなり、皇后と台頭してきた藤原仲麻呂が仕切るようになります。そして天皇の地位も娘の阿倍皇女に譲り、もっぱら大仏造立に没頭します。

□梅原猛は、『海人と天皇』で聖武天皇が嫡流としての誇りと、海女の子としての卑母コンプレックスの相克に苦しんでいたと捉えています。

□光明皇后に頭が上がらないのも卑母コンプレックスから読み解けます。

□実際母宮子はずっと鬱病で閉じこもっていたわけですから、上流社会に適応できない下流の卑しい女であり、その血が自分の中にもあるという劣等感です。

□しかしそういう劣等感が強ければ、逆にそれを跳ね返そうとする気持ちも強くなります。それが嫡流としての誇りですね。

□皇国は自分のものだから思い通りにしてもいいのだという強い気持をもっていたのです。

□それに矛盾しますが、卑母への差別に反発して仏教的絶対平等主義の傾向もありました。自らを毘盧舎那仏という宇宙の本体仏と同一視する一方、衆生済度の気持が強く、鑑真から戒を授かり、一介の僧として御仏に仕えようという気持ももっていたのです。

□聖武天皇は、やったことは無茶苦茶で破天荒です。まさしく破綻に向かって突き進んだのですが、とても人間的な苦悩が読み取れて、私は好きですね、結局光明皇后には認められなかったかもしれませんが。それはともかくとして聖武天皇の天平文化についての功績は絶大であったといわざるを得ません。

□光明皇后は聖武天皇の暴走を抑えられなかったのですが、それは原因が藤原広嗣の乱にあり、故を糺せば彼女の不倫が原因だったからです。

□国分尼寺は「法華滅罪の寺」といいますが、梅原猛は光明皇后の罪の意識が反映しているというのです。

□もちろん自分の憧れの対象に身を焦がすという不倫が乱を呼んだというのが、直接的な罪です。

□でもそれだけじゃなくて、藤原氏が貴族でありながら自分の娘を皇后にして外戚支配を作り上げるために、さまざまな謀略があったわけで、いちいち相談を受けていなくても、兄たちの動きにその影を見て、藤原氏であることの罪業を皇后も感じていたはずです。

□光明皇后は不倫伝説と聖女伝説を両方もっているのです。施薬院や悲田院を設けたのですが、普通ならそういう社会事業を実現するように取り計らったということですね。

□ところが光明皇后はそれにとどまりません。そういう施設でボランティア活動をしているのです。

□病人の体についた垢を自ら洗い落としたり、癩病患者の膿を口で吸い取ったりしたというのです。

□これは藤原氏が目指す国家が決して国家を私物化して、自分たちだけが贅沢三昧するための国家ではないと言いたいのでしょう。御仏の慈悲を実践するための国家なのだという思いです。

[3] mixiユーザー 04月13日 07:36

-----------------4.孝謙上皇と道鏡----------------------
　
--------朝廷の孤独地獄に喘ぎたる魂救ふに命惜しむや-------

□孝謙天皇は758年一度上皇になりますが、764年に天皇に返り咲きます。これを重祚(ちょうそ)と呼びます。称徳天皇になるわけです。

□それでいよいよ道鏡というお坊さんを天皇にしようとしたわけです。

□天皇は不改常典によるまでもなく、原則的には血縁によって継承されてきたことになっていたわけですが、称徳天皇は血縁なんてナンセンス、その人の徳によって一番立派な人を天皇にしましょうよと言ったのです。

□もちろん言い方は違いますよ、彼女は自分が即位するときに、父の聖武天皇は、次の天皇はお前が決めなさい。そしてその天皇が気に入らなければ、やめさせてもいい、奴を天皇にするのも、天皇を奴にするのも思うままにしなさい。と言ったのだと言って、それで道鏡を天皇にしようということなのです。

□『続日本紀』によりますと天皇に返り咲いたときの宣命にこうあります。

□「かけまくもかしこき朕が天の先帝の御命以て朕に勅りたまひしく、天の下は朕が子汝(いまし)に授け給ふ事をし云はば、王を奴と成すとも、奴を王と云ふとも汝のせむまにまに、たとひ後に帝と立ちて在る人い立の後に汝のために礼(ゐや)なくして従はずなめく在らむ人をば帝の位に置くことは得ざれ、また君臣の理に従ひて貞(ただ)しく浄き心を以て助け侍へ奉らむし帝と在ることは得む、と勅りたまひき。」天平宝字八年十月

□そうなりますと天皇の血統というのはなくなります。それで女を天皇にすれば皇統を絶やすことにもなりかねないということで、それ以後江戸時代まで女帝は置かなかったのです。

□そして明治時代からは皇室典範に男子のみに継承されることになったわけですね。しかし天皇を徳で選んだり、選挙で選んだりしても別にいいわけですね。中国では徳の高い人に譲るのを禅譲といいますし、東ローマ帝国では元老院、市民、軍隊の推戴で選ばれていたのです。

□ただ徳や選挙で選ぶという場合に、実際には軍事力を背景にして選らばれるようになりがちですから、我こそはということで内戦になりやすいかもしれません。民主主義的な政治風土がなければ無理でしょうね。

□しかしそれも公正な選び方ですよね。天皇の子だから天皇にふさわしいということはまったくありません。とくに律令においては天皇の命令は絶対ですから、とんでもない人物が天皇になったら大変なことになるわけです。その意味で孝謙上皇の見識はまことに素晴らしいといえます。何しろ天皇自ら既成の天皇制を否定してしまったのですからね。

□しかし明らかにおかしいのは、それならだれが徳が高いかを天皇が一人で判断すべきではないはずで、みんなで相談して決めましょうというべきです。そこを父帝の言葉というまことに信憑性のない記憶に頼って、私が決めるというのですから、その身勝手さにはあきれ返りますね。

□ではどうして道鏡がいいのでしょうか。そのいきさつを振り返りましょう。

つづく

[4] mixiユーザー 04月15日 05:14

□聖武天皇は745年に平城京に戻ってから、政治から身を引いて実権は皇后と藤原仲麻呂に任せます。そして大仏造立に専念します。

□749年に阿倍内親王に譲位し、孝謙天皇が即位します。満では31歳でした。初めての処女女帝の登場です。中継ぎではなく、聖武天皇の嫡子としての即位でした。しかし子供がいないので直系の皇位継承ができないという問題がでてきます。

□孝謙天皇が即位した年に藤原仲麻呂が皇后宮の長官である紫微中台になり、皇后と仲麻呂による支配体制が確立しました。ですから光明皇太后に従順な象徴的な天皇だったのです。

□その意味で752年の大仏開眼供養で舞を奉納したのです。五節・久米舞・楯伏・踏歌(あられはしり)などの歌舞ですね。女性天皇ならではの華麗なものだったでしょうね。唐・天竺からの来た人の歌舞の奉納もあり、国際的な大イベントだったようです。

□756年に聖武上皇が崩御されたときに、遺勅で天武天皇の第十子新田部皇子の子道祖王(ふなどおほきみ)を立太子したのです。ところが翌年孝謙天皇は、道祖王が太上天皇の喪中にも関わらず侍童(じどう)と密通して、民間に機密を漏らし甚だ不行跡であるとし、廃太子を議したといいます。
　

□聖武上皇にすれば道祖王を孝謙天皇と男女の関係にし、その子に皇位継承すれば直系相続ができると思ったのでしょう。その旨を道祖王に示唆していたので、道祖王は孝謙天皇にモーションをかけたと想像されます。

□ところが孝謙天皇はプライドが高いのでセクハラとしか感じなかった。表向き侍童と密通ということで問題にしましたが、裏にはどうもそういうことがあるようです。侍童と密通とはいわゆるお小姓とのホモ・セクシュアルです。

□孝謙天皇は自分を抱けるのは最高の男性でなくてはならないと思っていた筈です。当時最高の男といえば男ぶりからも知恵からも権力からみても南家武智麻呂の次男藤原仲麻呂しかいないわけです。

□仲麻呂は皇太后を支えて権勢を振るっていました。皇太后より五歳年下でした。皇太后は挫折して政治から身を引いた聖武天皇に代わって仲麻呂を使って朝廷を切り回していたのです。兄の橘諸兄も現役でしたが何しろ遷都の失敗で、諸兄の権威も失墜していましたから。

[5] mixiユーザー 04月16日 20:24

□梅原猛は皇太后と仲麻呂は当然男女の関係だったと見ていますね。仲麻呂にすれば夫に代わって務めを果たしている皇太后を立派でけなげと思い、命がけで支えようと思ったでしょうから、仲麻呂も本気でした。

□玄昉との不倫では罪の意識を感じていた皇太后も、仲麻呂とは同志的な関係でもあり、聖武天皇は挫折して閉じこもっているものですから、不倫という感覚はなくなっていたでしょう。

□皇太后にとって気がかりなのは娘である孝謙天皇の女としての幸福です。三十路になっても精神的に自立できていなくて、基皇子が亡くなったために、皇太子となり配偶者を見つけることもできなかったのです。

□吉備真備が皇太子の教育係でしたが、年齢差も大きくあくまでも師として尊敬していただけで、男女関係ではなかったと思われます。

□それに対して仲麻呂なら母との関係があるものの一回りほどしか年齢差もなく、男性として意識したことは大いにありえます。道祖王が駄目なら仲麻呂に頼むしかないと皇太后も考えたかもしれません。

□仲麻呂にしても皇太后も齢を重ねていきますから、やがては孝謙天皇と組む以外になく、そうしますと男女関係になっておいた方が、何かとやりやすいわけです。皇太后からもそれとなく頼まれると断れません。

□しかし仲麻呂は孝謙天皇に対しては少しも燃えるものはありません。たとえ抱いても何か職務的な感じで白けてしまっているのです。プライドが高い孝謙天皇にはそれはとても耐え難いことです。

□道祖王を廃太子して代わりに天武天皇の皇子である舎人親王の皇子大炊王が立太子します。孝謙天皇が推挙したことになっていますが、大炊王は藤原仲麻呂の子・真従（まより）の未亡人である粟田諸姉を妻として、仲麻呂の私邸に住んでいたようです。

□ですから仲麻呂にとって子飼いの天皇ができるということになります。それと知って大炊王を推薦したとしたら、孝謙天皇と仲麻呂の関係も性的なものを含む寵愛関係にあったのじやないかと邪推してしまいますね。

□早速翌年758年に孝謙天皇は淳仁天皇に譲位します。この段階では孝謙天皇にはまったく権力への執着心はありません。皇太后と仲麻呂の傀儡に過ぎないのですから無理もありません。かたぐるしい儀式ばかりやらされて、その実何の力も振るえないということで馬鹿らしくてやってられないと思ったかもしれません。

□淳仁天皇は即位後すぐに藤原仲麻呂に恵美押勝という美称を贈りました。そして760年には太師(太政大臣)に任命します。ところがこの年に光明皇太后が亡くなるのです。

□孝謙上皇はこれで両親を亡くしてしまったわけです。満で42歳ですが、これまで両親と共に歩んできて、天皇にまでなったのに、今や平城京の巨大な砂漠の中でたった一人に成ってしまったと実感したのです。

□藤原仲麻呂が光明皇太后に捧げたような情熱の何分の一でも孝謙上皇に捧げていたら、あるいは孤独地獄には陥らなかったかもしれませんね。

□でも仲麻呂にすれば子飼いの天皇も実現したので、孝謙上皇には何の関心もなかったのです。光明皇太后の喪中ということもあり、孝謙上皇とはすっかりお見限りです。

□仲麻呂は近江に天皇や上皇用に保良宮という保養地を作りました。そこで孤独地獄から重い鬱病に陥った孝謙上皇を治療させたのです。761年保良宮で孝謙上皇を治療したのが道鏡です。この治療ですっかり道鏡が気に入り、道鏡を天皇にしようという超飛躍した話にまでなるわけです。

[6] mixiユーザー 04月18日 14:57

□道鏡と上皇との間に男女の肉体関係があったかどうかということが議論になっています。実際いろんな歴史書で二人の下半身スキャンダルが書かれていまして、道鏡は性豪になって寵愛を勝ち得るために、蜂に男性自身を刺させて巨根にしたなどとまことしやかに書かれています。しかしそういう史料はみんな平安時代後期からのもので、そこから史実と考えるのは無理があるようです。

□しかし淳仁天皇とのトラブルになったのは、保良宮であまりにいちゃいちゃしすぎたせいでした。それを、天皇に注意されて上皇が切れていますので、まあそこから男女関係を想像されるのは無理もありません。

□ただ両者とも僧籍にあります。つまり鑑真から戒を授かっていて、セックスはしませんと御仏に誓っているわけです。そこで仏教関係者は当時の戒律の厳しさから言って両者に性的な関係があったなどとは考えられないと言います。坂口安吾も、上皇と僧侶の気高い精神的な深い交流として解釈しています。

□梅原猛は両者は真剣に愛し合った、つまり純愛だったといいます。だから性欲に溺れて誑し込まれたような関係とは見なすべきではないということです。でも梅原猛は、二人の関係がセックスレスだったとは考えていません。

□たしかにセックスしていたら純愛でないとはいえませんからね。渡辺淳一いわく不倫こそ純愛だということらしいですから。もっともふたりは不倫というわけでもありません。結婚していないわけですからね。

□しかしこの二人どうして純愛というものが成り立つのでしょう。上皇とそれを治療する僧侶という関係ではとても成り立ちません。阿倍皇女は朝廷の中で聖武天皇や光明皇太后との関係においてのみ存在価値があったわけで、そこにこだわる限り、本当の人格的な人間関係を取り結ぶことなどできないのです。

□ですから道鏡は彼女が天皇であったこと、上皇であることを棄てさせなければなりません。あらゆるしがらみや過去を断ち切って、一人の女としての自分に立ち返って、そこから生き直す覚悟が必要だったのです。

□そんなことはあり得ない。彼女は太上天皇だから、それをやめることなどできっこないと思われるかもしれません。たとえ現実的にはそうでも、自分の中で上皇であることを棄てたと納得できればいいわけです。

□しかし自分の聖性に強いアイデンティティがある以上それはできません。だから道鏡は治療で彼女の太上天皇としての聖性を徹底的に否定し、陵辱しなければならなかったのです。しかし上皇の聖性を陵辱すれば、道鏡は不敬罪で死は免れません。もちろんそんなことは承知の上で、命がけで徹底的に彼女を陵辱したのではないかと思われます。

　つまり治療は密室同然の空間で行われました。といってもここからは私の全くの幻視ですよ。歴史文学の世界です。実証史学ではありません。でもそこまでやらないとあり得ないことではなかったかといいたいのです。

　道鏡の前に吉備真備が治療に当たっているのです。宿曜秘法を使ったといわれていますが、その中身はよくわかりません。髑髏を使った占星術を治療に応用しているわけです。これが効かなかったから道鏡の出番ですが、彼も宿曜秘法を使ったといわれます。

　正直言って、太上天皇の聖性を汚すにはどうしたらいいのか、しかもそれが治療として成功し、その結果道鏡を男としても受け容れるそういう方法は?私はこれは何かとんでもないことをしたと思うのです。罷り間違えばというより、ほとんど確実に死刑になりそうなことをした。

□「あんたの母ちゃんでべそ」みたいなことを言っても、それこそ死刑になるだけですね。中途半端は駄目です。どうせやるなら徹底的に命がけでやらなきゃ。

　私はhttp://www7a.biglobe.ne.jp/~yasui_yutaka/amatotennou/doukyou.htmにそれを書きましたが、大変勇気が要りました。「物の怪調伏」と唱えて、杖で叩くのです。つまり上皇の孤独の哀しみが固まって物の怪になってとり憑いたとして、それを追い出すと言って、恐怖で動けなくなるまで打ち据え、その上、髑髏で体中撫ぜ回します。途中で上皇が本当にショック死するリスクもありますが、それは覚悟の上ですから、ぎりぎりのところで行ったのです。

　それで御終いでは駄目ですよ。聖性を完膚なきまでに陵辱しなくてはいけません。相手は上皇ではなく、とりついている物の怪ということにするのです。そこで恐怖のあまり失禁した上皇の糞尿を体中に塗りたくる、それぐらいやったんじゃないか、これは効きますね、全く聖性を否定し切る行為です。

□でもそこまでやれば完全に死刑ですね。しかし僧たるもの本当に孤独地獄に苦しんでいる魂を救えるなら、自分は死刑になったっていいですよね。

□上皇だって糞尿の塊にすぎないわけです。何を天武天皇や持統天皇の直系だとふんぞりかえっているんだ、このウンチの塊!というわけです。

□ついでにこれでも食らえというわけで、自分の小便をぶっかけます。もちろん相手は「物の怪」です。上皇の体に憑依している「物の怪」にぶっかけるのです。

□これだけでははっきりいって余計に上皇の精神を破壊するだけで、救うことはできません。道鏡自身も糞尿にまみれ、自分の命にかけて上皇様をお救いすると、殺し文句をいいまして、強姦するわけです。

□ここまでやらないと愛のメッセージになりません。相手に通じないわけです。朝廷という地獄から魂を救い出すということですね。それには一人の女に返してやらなければならない、徹底的に聖性の仮面を剥がし、素っ裸の糞尿にまみれた女に返して、それを仏の慈悲で抱きすくめなければならない、そのために不邪淫戒に触れたとしてそれがなんでしょう。別に死刑になっても、地獄に落ちてもいいんだぞということです。

[7] mixiユーザー 04月20日 08:06

□藤原仲麻呂は光明皇太后に義理立てして抱いてくれたけれど、少しも自分を危ないところに置いてまで愛そうとはしてくれなかったわけですね。

□道祖王も聖武天皇の入れ知恵で皇統を守るためにはこれしかないみたいに言って迫ってきた。本当に孤独な魂を救おうと命を投げ出したわけではないわけです。

□ところが道鏡はどうですか、そんなことをすれば九分九厘死刑と分かっていて、孤独地獄に苦しんでいる魂を御仏の慈悲の実践として命を投げ出して救おうとしてくれているわけです。

　でももし上皇に聖なる血統に対する疑問や反発の要素が微塵もなかったら、この道鏡のパフォーマンスは通じたでしょうか?

□恐らく無理でしょう。彼女の祖母は海女の出身で皇室生活に適応できずに36年間息子と対面を果たせなかった。ずっと狭くて暗い堂の中に閉じ籠っていたのです。

□父聖武天皇は卑母コンプレックスに悩みながら、ついに傀儡から脱却して仏国土の理想国家作りに踏み出したけれど、挫折して引き籠ってしまった。天皇の血統といっても結局、藤原のお飾りでしかない。

□それに天智天皇や天武天皇の血を引いているとしてもどれだけ貴い人物がいるのだということですね。孝謙天皇が未婚で子がいないので皇位継承をしようとなると、変態的な道祖王やニートみたいな仲麻呂の居候大炊王しかいない、人間としてまったく嘔吐すべき対象でしかないわけで、これが天皇の血統の聖性の正体だということですね。

□そういうことを彼女は感じていたのではないか、それで糞尿にまみれる事によって、一人の女に帰ることができたのです。ですから道鏡も偉大だけど、私は孝謙上皇も偉大だと思いますね。なかなか太上天皇(上皇)が一人の女に帰るということはできませんし、皇統を否定することはできません。

□それはやすいゆたかの全く不敬極まりないおぞましい妄想的な幻視でしかなく、何の証拠もないじゃないかと言われるかもしれません。

□ではどうして孝謙上皇の病気が治り、しかも道鏡に深く帰依し、天皇にしようとまでするようになったのか、他に説明がつきますか?

□私にはただ優しい言葉をかけ、悩みを聞いてあげたとしても、それに対して素直に心が開けるような状態なら、恩師の吉備真備がとっくに治癒していたと思います。

□説明がつかないものだから、女帝は恐ろしい、性欲さえ満たされたら天皇の位をくれてやろうとさえするし、日本の国が滅んでもいいんだと考えるのが女帝だいう認識です。それで女帝を避けてきたわけです。

□女は下半身で考えるということですね。こんな失礼な女性差別はありません。血統ではなく徳によって皇位を継承すべきであるというのは、それなりに立派な見識ですし、彼女の皇室生活の総括から出てきた結論です。しかも儒教的にも正論なのです。

　とはいえ、道鏡の偉大さというのはあくまでも上皇にとっての個人的なものでして、政治家として道鏡になんらかのポリシーがあったわけではなく、政治的手腕もゼロでした。だからもし道鏡が天皇になっていたら、たちまち貴族官僚は離反し、内乱になったでしょうね。だから和気清麻呂のやったことは正しかったのです。

　この孝謙上皇と道鏡のコンビが762年に淳仁天皇の実権を奪い、藤原仲麻呂を圧倒します。どうも藤原氏の中でさえ、仲麻呂の専制政治は反発を買っていたのが原因らしいですね。そして764年に仲麻呂を乱に追い込み滅ぼしてしまいます。それから見事に称徳天皇として返り咲きます。
　
　いよいよ道鏡を天皇にしようとしますが、和気清麻呂などの活躍でなんとか阻止されます。血統でなく徳で皇位継承をするように国家の律令体制を改変するだけの能力も余地も当時の貴族官僚体制にはなかったわけで、称徳天皇はもう邪魔な存在でしかなくなったわけです。

□そこで770年、天皇は道鏡の本拠につくった由義宮で発病し、平城京に戻され、そこで亡くなりました。噂ではまともな治療を行わなかった、見殺しにされたということです。

[8] mixiユーザー 04月21日 17:17

--------------------まとめにかえて---------------------

　魂が聖と俗の間を揺れ動いて苦悩しているのがよく分かりますね。天皇が中心の律令国家体制が確立したばかりの奈良時代でさえ、天皇親政は困難だったということです。その意味では象徴天皇制こそ日本の伝統なのです。

□そして万世一系の皇統という幻想的な価値を引き継ぎ、自分の肩に背負わされた皇室の人々が、その聖性によって魂をいかに深く傷つけられ、病まざるを得なかったのかがわかります。

□元明天皇と元正天皇についても是非ふれたかったのですが、とても時間的に無理です。下のサイトに「中継ぎの女帝たち」として論じています。

http://www7a.biglobe.ne.jp/~yasui_yutaka/amatotennou/nakatsugi.htm

　歴史学を科学として展開する場合は、史料からここまで分かっているというように論じるわけですが、しかし我々にとっては、分かっていない部分をどう想像するか、推理するかが重要なのです。ですからむしろ歴史文学の領域ですね。文学的想像力でどこまでリアリティの感じられる歴史像を提供できるかという問題なのです。

　なぜ聖武天皇は、豹変して平城京を棄て、遷都を繰り返したのか、現存する史料を如何に並べても分かりっこありません。

□彼の魂の苦悩に迫るしかないわけです。彼が身に受けた天皇家の嫡男としての血、海女の子としての血、不比等の娘安宿媛(光明子)に認められたいという思い。それらから出てくる聖徳太子の夢を実現しようという天皇としての野望ですね。そういう様々なものから彼の苦悩の中身が構成されているわけです。

□なぜ孝謙上皇は道鏡に惹かれ、復位してまで道鏡を天皇にしようとしたのか、これを下半身の欲望からだけ説明してしまっては、彼女の行動のラジカル(根源的)な意味がつかめません。

□何を彼女は言いたかったのか、人間にとって何が大切か、国家は何のためにあるのか、天皇である前に人間であることは可能なのか、愛とは何かを非常にストレートに問いかけています。

□これも史料だけでは分かりませんね。男女関係があったかなかったかもはっきりしません。史料が古いか新しいかとか、仏教の戒律がどうだとかにひっかかって、判断がつかないのです。でも道鏡を天皇にするという意味ですね、これは天皇であった彼女にとって、根源的な価値転換、自己否定を伴っているわけです。血統で皇位を決めることへの批判ですからね。

□そこから彼女の身に何が起こったのか、それはきっとすごい衝撃的なことが道鏡によって引き起こされたに違いないわけです。

□幻想の聖性を無理やり剥ぎ取られ、一人の裸の女、裸の人間に立ち返るような、そういう激しい愛の攻撃が、命がけであった。それは一見、驚愕すべき、おぞましき、身の毛もよだつ行為であったかもしれないということです。

□でも彼女は聖と俗の矛盾を抱えていたので、そこから真実の愛を，仏の慈悲のメッセージをしっかりと受け止めることができたわけです。それで朝廷という孤独地獄から救い出されたわけです。そうでなければ天皇位を一介の僧にくれてやるというようなことを思いつくはずはありませんね。

　このように歴史を通して人間の真実を読み取るということが求められるわけです。ですから歴史学は単なる科学でとどまってはならないわけで、心理学、倫理学、人間学そして哲学でなければならないわけです。根源的に問い直すというのが哲学ですから。

□もちろん歴史学も実証可能性を前提にする科学にとどまるべきだという反論もあるでしょう。しかし、歴史的事実というものは、再現可能ではありません。ですから自然科学的な意味での実証はできないので、あくまでも史料からいって、矛盾なくこのような仮説で解釈することが可能だということしかできないわけです。

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