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真夜中のお茶会コミュのラジオドラマその他 脚本

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コメント(22)

「ぼくはちびた」
*ほのぼの絵本系です。



ぼくは ちびた。
うちで 一番 えらいんだ。
けらいだって、 二人も いるんだぞ。

おんなの けらいが やってきた。
よくしゃべるけど やばんな しゅぞくの ことばは わからない。
なまえは 「まま」 らしい。

あさ、『まま』が おきてこないと ぼくは おおごえで どなる。
ままー、ごはんをもってこい。いますぐだ。
(子猫の声)

『まま』は けらいのくせに ねぼすけなので すぐおきてこない。
だから ぼくは いたずらを してやる。
ゴミぶくろを カサカサ。
カサカサすると ままは とんでくる。
ままが おきてこないのが わるいんじゃないか、けらいのくせに。

おなかが いっぱいになった。
つぎは うんどうだ。


おとこの けらいが やってきた。
なまえは 『ぱぱ』 らしい。
こえも たいども でかいし ちょっと こわい。
いや、こわくなんか ないやい。
ぼくが うちで 一番 えらいんだから。

ぱぱー、うんどうさせろ、おもちゃをだせ。
(子猫の声)

うわー、 よってきた。 にげろ。
じゃなくて、 うんどうだ、 うんどう。
ぱぱに おもちゃの ひもを ふりまわさせて、
ぼくは いえじゅうを はしりまわる。
はあはあ、ちょ、ちょっと きゅうけい。
え、まだやるの?
けらいのくせに しゅじんを こきつかうな。

いっぱい うんどうしたので つかれて ねむくなった。

めが さめると けらいが いなかった。
『ぱぱ』も 『まま』も いなかった。
ごはんは? おもちゃは?

ままー。(子猫の声)
ぱぱー。(子猫の声)

だれも いないの?
うちのなかに ぼく ひとり。

まま、どこにいるの。
ぱぱ、かえってこないの。
そとが だんだん くらくなってくる。
うちも くらくなってくる。

なんだか へんな きもちだよ。
なんだか なきたく なっちゃった。

うわああん うわああん
(子猫の声)

「ただいまー、ちびた、ごめんね? 遅くなっちゃって。」
「元気してたか? うちの ちびは。」

がちゃりと音がして、
『ぱぱ』と 『まま』が かえってきた。

「どうしたの? ちびた 泣いてたの?」

『まま』が よってくる。
な、ないてなんか ないやい。
ぼくは うちで 一番えらいんだぞ。

ちびた なんだぞ。
シナリオ講座の課題「傘」2000字です。
でもオーバーしたのでどこを削ればいいのかわからないあせあせ(飛び散る汗)

『雨上がり』

登場人物

矢野達郎(10)
矢野未央(7)   達郎の妹
矢野圭子(36)  達郎の母
初嶋みどり(28) ピアノ教室の講師


○住宅街の中、白い小さな築10年ほどのアパート(午後・くもり・外)
   手前に煉瓦造の花壇があり向日葵が咲いている。アパートの一室には「矢野」と書かれ   た表札。

○矢野家・居間(内)
   未央(7)がカーペットの上でパズルを作っている。パズルはもうほとんど完成し
   ている。時計の時刻は3時。

○同・玄関(内)
   ランドセルを背負った達郎(10)が入って来る。乱暴に靴を脱ぎ散らかして上が
   る達郎。服に泥がついている。

○同・台所
   冷蔵庫にホワイトボードが貼ってあり、家族の予定が記入されている。「未央・4
   時〜ピアノ/母・5時頃帰宅」など。入ってきた達郎、冷蔵庫を開けてジュースの
   500mlペットボトルを取り出し、直接口をつけて一気に飲む。それは隣接する居間
   からも見える。

○同・居間
   未央、顔を上げて達郎を見る。
未央「達郎、帰ったらまず手を洗うんでしょー? ママがいつも言ってるじゃん」
   達郎、ペットボトルをしまうと顔をしかめながら居間に入って来る。
達郎「うるせーな。呼び捨てにすんな、バカ」
   未央、達郎をにらみつける。
未央「バカじゃないもん、バカって言う方がバカだもん」
達郎「バカ、バーカ」
   達郎、カーペットの上のパズルを蹴り散らかす。
未央「あー!」
   未央、見る間に顔を歪ませて泣き叫ぶ。
達郎「うるせー、泣くなバカ」
   達郎、自分の部屋に駆け込む。

○同・達郎の部屋(内)
   薄い青の壁紙に、サッカー選手のポスターが貼られている。ランドセルを床に投げ
   出し、壁際のベッドにうつぶせに倒れ込む達郎。ランドセルからはビリビリになっ
   た教科書がのぞく。ドアが閉まる音に、はっとして飛び起き教科書を隠すようにラ
   ンドセルに戻す達郎。

○同・玄関(内)
   未央の靴がなくなっている。やってきた達郎、不安げな表情で居間の方を振り返る
   が未央もいない。
   ×××
   ホワイトボードの未央の予定
   ×××
   少し安堵した顔で居間まで戻る達郎。

○同・居間
   床のカーペット上に、先ほど崩されたままの未央のパズルが散らばっている。パズ
   ルの1ピースを手にし、じっと見つめる達郎。

○同・居間(夕)
   窓に雨粒がつき、激しい夕立が降り始める。パズルに夢中になっている達郎。チャ
   イムとドアの開く音。

○同・玄関(内)
   ドアが開き、圭子(36)が買物袋をいくつか提げて入って来る。
圭子「ただいまー。もう大変だったよー、スーパー出たとこで降り始めちゃって。でもギ リギリセーフ。未央は?」

○同・居間
   達郎、そのままパズルを続けている。
達郎「ピアノ」
圭子(声)「あっ、そっかー。でもあの子、傘持ってった?」
   達郎、顔を上げ窓の外を見る。

○同・玄関(内)
   荷物を床に置いて上がろうとする圭子の脇を通って靴をはく達郎。
圭子「ちょっと、どこ行くの?」
   圭子一瞬目を見張るが、達郎が傘立てから未央の傘を手にするのを見て微笑む。
圭子「ありがとう。母さん、夕飯作ってるね」
   達郎、自分の傘も持って外へ。

○ピアノ教室・受付(内)
   初嶋みどり(28)と、息を切らせている達郎。時計の時刻は5時少し前。
みどり「未央ちゃんはまだレッスン中だから、もうちょっと待っててね」
   達郎、教室に近寄り窓をのぞく。ピアノを弾いている未央が見える。口元をきゅっ
   と引き結ぶ達郎。

○同・廊下
   ドアを開けて出て来る未央、足下の傘に気づく。
未央「これ、未央の傘・・・」
   未央、辺りを見回すが達郎はいない。

○住宅街の道(夕)
   雨上がりの通りを走る達郎の後ろ姿。
傘つながりで、今年の2〜3月に書いたラジオ鷲宮での朗読ドラマ。
(元は沖斎SSSでした!


(玄関のチャイムとドアの開く音)

「ただいまー。ねーねー、うちの可愛い子、どこかな?」
 玄関を上がるやいなや、仕事から帰宅した僕は、出迎えた妻にそう訊いてしまう。
「本棚の上で寝てるよ」
 彼女は少しぶっきらぼうに答える。
 “うちのかわいい子”というのは、妻が先月拾ってきた子猫のことだ。鷺宮駅の裏手に捨てられていた子猫を、そのままにしておくには忍びなく、うちまで連れてきてしまったのだ。
「そっかそっか、いい子にしてたか〜?」
 本棚に一直線に向かう僕の背中を、妻の溜息が追いかけて来た。
「親ばか・・・」

(雨の音)

 その日は雨だった。パートの弁当屋に出かけた妻が、なかなか帰って来ない。食事当番だった僕は、キッチンから窓の外を見やった。
「傘、持ってなかったんだ。電話してくれればいいのに」
 妻は女性の中では寡黙で律儀なタイプだ。だから、きっと僕を呼ぶようなことはせず、雨宿りでもしているのではないだろうか。
 僕はコンロの火を消すと、妻のパート先までの道を小走りで走った。
「どうしたの・・・?」
 妻は、いた。びしょ濡れのまま、小さな路地に捨てられた子猫を抱えて途方に暮れている。
 僕は慌てて傘を差し出した。「何してるの、風邪ひくよ?」
「どうしてここに・・・?」
 妻は不思議そうに呟いた。
「迎えに来たんだよ」
「そっか・・・」
 妻は口ごもっている。どう切り出そうか考えあぐねているようだ。
 苛立ち始めた僕を、妻はじっと見つめてきた。故意ではないとわかっているのだが、20センチの身長差のせいで、どうやったって少し上目遣いに見えてしまう。
「連れて帰っても、いいかな・・・?」
 計算じゃないのに、全くこれはズルいよね・・・。僕は諦めて溜息まじりに言った。
「いいけど、君が見つけてきたんだから、飼うのは君の責任だからね」

(雨の音フェードアウト)

 結婚2年目、あんまり動物が好きではない、というか一度も動物を飼ったことがない僕としてはそろそろ子どもの方が欲しかったのだけれど、『君が、責任持って飼うっていうなら、いいよ』とうそぶいた。
 しかし、結局子猫がここまで可愛く思えるとは思わなかった。今では、妻よりも子猫に構うようになってしまった。
 妻も少し嫉妬しているようなので、ちょっとそれも心地いい。

 風呂上がり、僕は妻に声をかけた。
「ねーねー、僕の可愛い子はどこかな?」
「だから・・・」
 少し眉をひそめた妻の頭を少し強めに撫でて、呆気に取られた綺麗な瞳を見つめる。普段言えないようなことを、頑張って口に出してみた。
「ここにいた、僕の可愛い子。あの猫はうちの可愛い子だけど、僕の可愛い子は君だけだよ?」
シナリオ課題「魅力のある男性」その1。(2000字)


『お気に召すまま』

登場人物

新庄晴臣(21)  美容室の店長
高橋真実(15)  新高校1年生
榛名恵(19)   美容師

その他美容室客、スタッフ


○美容室「What you will」・外(昼)
   入口前に、桜や菜の花をあしらったボードが置いてあり、「新学期キャンペーン・学生30%割引」と書いてある。
   そこに現れたのは、ボサボサの長い髪をした高橋真実(15)。店のお洒落な外観を見てうつむきたちすくむ。顔を上げて意を決したように入ろうとするが、ちょうど客が出てきたところで、急いで端の方に逃げる。
   客の見送りをしに出てきた新庄晴臣(21)、真実の姿に気づく。
新庄「ありがとうございましたー。ん? あの、何かご用ですか?」
   真実、びくっとして怯えた表情で晴臣を眺める。
   少し背が高いが、キュロットにパフスリーブのブラウスを着こなし、髪型やメイクなど、新庄はどこから見ても女性に見える。
真実(モノローグ)「か、かわいすぎる・・・! まさにモテ系女子、やっぱりここは私なんかの来る場所じゃ・・・」
   真実、新庄と目が合うが愛想笑いされて目を伏せる。
新庄「あ、わかった! お客様ですね? いらっしゃいませ、どうぞどうぞ」
   新庄、店ドアを開けて真実を迎え入れようとする。
真実「い、いえ、やっぱり私は・・・」
   真実、帰ろうとするが新庄に肩を抱かれる。
新庄「さ、どうぞどうぞ。ちょうど予約の入ってない時間なんで、すぐできますよ」
真実「えっ? あ、あの・・・」 

○同・受付(内)
   新庄に半ば強引に連れて来られる真実。
   店内にもお洒落なスタッフが。
スタッフら(口々に)「いらっしゃいませ」
   受付の榛名恵(19)、ペンを握って微笑んでいる。
恵「本日はカットですか?」
真実「か、カットっていうか、明日入学式なんですけど近所のお店が閉まってて、それでお母さんの友達に教えてもらって・・・」
   恵、無表情でカードに記入する。
恵「カット・・・と。(顔を上げ笑顔を作って)他に指名など、ご希望はございますか?」
真実「ご、ご希望?」
新庄「せっかくだから、一番上手な人に切ってもらったら?」
真実「え・・・(恵に)一番上手な人って、誰ですか?」
   恵、ちらっと新庄を見る。
恵「そうですねえ・・・だったら、やっぱり店長ですね」
   新庄、含み笑いをして奥の方へ。
真実「じゃ、じゃあ、店長さんお願いします!」
   真実、がばっと頭に下げる。呆然とするスタッフ。恵だけぷっと吹き出す。
恵「(くすくす笑いながら)わかりました、ではあちらにどうぞ」
真実「(不思議そうに)はい・・・」
   別のスタッフに先導されてシャンプー台へ向かう真実。
真実(モノローグ)「まさか私、また変な事言っちゃった?」

○同・店内奥
   新庄の所に恵が来る。
恵「 なんか・・・ダサイのが来たね」
新庄「人を見た目で判断するもんじゃないの」
恵「いーじゃん、どうせ聴こえてないし。ハルだって、ちょっとからかってるくせに」
新庄「(しれっと)さあね、何の事?」
   その時真実の悲鳴が聞こえ、2人、目を見張る。

○同・鏡の前
   シャンプー後の真実の肩を、恵がマッサージしている。
恵「女性をご希望なら、最初にそう言ってもらえれば良かったんですけど」
真実「す、すみません。男の人と話したり触られたりとかってほとんどないんで・・・」
恵(小声で)「ったく、どこの箱入りだよ」
真実「あ、そういえば、店長さんって男性なんですか?」
恵「え? なんて言うか・・・大丈夫だと思いますよ? もうすぐわかりますし。じゃ、少々お待ちくださいね」
真実「えっ、それってどういう事ですか?」
   恵、離れる。キョロキョロする真実。
真実(モノローグ)「そういえば・・・最初にいた人はどこに行ったのかな? なんか声がちょっと変だったけど、女の人だったよね?」
   真実の後ろに立つ人影。真実が鏡越しに見ると新庄である。
新庄「どうも、ご指名ありがとうございます、店長のハルオミでーす!」
   真実、口を開けてぽかんとする。一呼吸あってやっと言葉にする。
真実「・・・あの、あなた、やっぱり男性じゃ・・・」
   新庄、鏡越しに人差し指を振る。
新庄「もーっ、そんなの気にしない! 君は明日入学式で、キレイになるためにここに来たんでしょ? 僕におまかせなさい!」
真実「(困惑)いえ、私は単に髪が伸びて鬱陶しいだけで・・・」
   新庄、今度は人差し指をびしっと突き出す。
新庄「いや、君は心の奥ではキレイになる事を望んでるはずだよ。じゃないと、わざわざ入学式の前日に髪を切ろうなんて思わないはずだ。入学式の後でも切る事はできるのに、本当は明日からキレイに生まれ変わりたいと思ってるんだ!」
真実「え・・・」
新庄「どう、図星でしょ?」
   真実、こくんとうなずく。
シナリオ課題「魅力のある男性」2。
なんかすっきりしないので、趣味に走って?みました。
最初のアジトのシーンが400字で、それをなくしたら2000字。


『怪盗執事パンテール・ノワール』

登場人物

塔野航(わたる)(26)  怪盗団の一味
増谷成慈(56)      怪盗団のボス
戸塚洪平(22)      怪盗団の仲間

加納大吾(45)      美術商
加納由紀子(34)     加納の妻

前田良枝(52)      加納家の家政婦


○パンテール・ノワールのアジト(内・昼)
   薄暗い古ぼけたオフィス風の室内に響く電話の音。眼鏡をかけた温厚そうな中年男性、増谷成慈(56)が受話器を取る。
増谷「はい、こちら日本スチュワード協会でございます。はい、男性執事1名ですね。ご希望される容姿、特技などはございますか? 勿論家事から秘書業務まで、語学堪能な者を選りすぐってございます。・・・は、なくても結構でございます。それでは明朝7時よりお伺いいたします。名前は・・・」
   増谷、壁に掛かっている名札の中から、裏返ってない物に目を走らせる。
増谷「飯島、という者が参ります。彼は当協会でもスペリオールという最高ランクの認定を受けておりますのでどうぞ、ご安心くださいませ。は、それでは失礼致します」
   電話を切る増谷。

○加納家・門前(夕方)
   装飾的な門の内側で、髪をぴったりとなで付け、銀縁眼鏡に燕尾服姿の塔野航(26)が外に出ようとする高級外車の横に立っている。
   車の窓が開くと、中にはちょいワル風のスーツを着た加納大吾(45)とドレス姿の加納由紀子(34)がいる。
加納「それじゃ塔野くん、よろしく頼むよ。帰りは遅くなるから、ゆっくりやってくれ」
塔野「わかりました。お気をつけて」
   由紀子、加納に気づかれないように塔野に秋波を送るが、気づかないふりをして爽やかに頭を下げる塔野。
塔野「旦那様、奥様、いってらっしゃいませ」
   発進する車。顔を上げた塔野、にやりと笑う。視線の先には水が張られた庭の屋外プール。

○同・台所(内)
   対面式の広いオープンキッチンで、エプロン姿の前田良枝(52)が流しを洗っている。ドアを開けて塔野が入って来る。良枝、振り向く。
良枝「ああ、ご苦労さん」
塔野「いえいえ。前田さんも、そろそろ上がってください。後は僕がやっておきますので」
良枝「あらそう? 悪いわね、新米なのに」
塔野「いえ、一日も早く覚えたいので」
   塔野、にっこりと微笑んで湯を沸かす。エプロンを脱いで帰り支度を始める良枝。
良枝「でもあなた凄いわねえ。まだここに来て1週間なのに、奥様の味の好みや旦那様の画廊の手伝いまで完璧じゃない。もう引き継ぐ事は何もないわ。さすが日本スチュワード協会派遣の執事さんは違うわあ」
   掃除をしたり画廊で働く塔野の姿が早送りで回想される。
塔野「とんでもない、僕なんてまだまだですよ」
   2人分の紅茶を淹れ砂時計を立てる塔野。
塔野「うちの協会にはランク認定があって、上からスペリオール、エクセレント、フェアとなってます。僕はまだ下っ端で、これからエクセレントの認定試験を受ける予定なんです」
良枝「ふーん、じゃあ、一番上の執事さんはよっぽど凄いのねえ」
塔野「そうですね・・・スペリオールの僕の先輩は、頭の切れも、機動力も、抜群にあって・・・」
   砂時計の砂が全て落ちる。
良枝「キドウリョク? 執事にそんなの要るの?」
   塔野、はっとして笑顔を作り、紅茶を良枝に勧める。
塔野「あ、単なるたとえですよ。問題解決能力が高いっていうか。僕、ミリタリーオタクなんで、たまにそういう言葉使っちゃうんです」
良枝「そうなんだ、意外ね。(紅茶を飲んで)うわあ、美味しい!」
塔野「そうです、人はみかけによらないんですよ。時間をきっちり測って、カップを温めておくのは基本です」
○同・門前(夜)
   加納邸の前に、清掃業者のネームの入ったバンが停まっている。

○同・台所(内)
   塔野が一人、2人分のティーカップを前に座っている。携帯が鳴って、応答する塔野。
塔野「もしもし」

○バンの中
   作業服を着てサングラスをかけた増谷や戸塚洪平(22)が乗っている。
増谷「(冒頭の慇懃さとは真逆の様子)俺だ、到着した。門を開けろ」

○加納家・台所(内)
塔野「へいへい」

○同・居間
   塔野、壁のスイッチを押す。

○同・門前
   門がゆっくり開き、バンが入って行く。その後門が閉まる。

○同・庭
   塔野が水の抜かれたプールサイドに立っている。そこに増谷たちが来る。
戸塚「航さん、乙っす! 一週間でよくわかりましたねー、裏金の場所」
増谷「一週間もやったんだ、充分だろうが」
   塔野、苦々しい表情で眼鏡を外しタイを片手で緩める。
塔野「手厳しいなー、おやっさんは」
戸塚「(増谷に)今回はどうすんすかー、またランドセルでも送るんすか?」
増谷「つべこべ言ってねえでさっさと降りろ」
塔野・戸塚「へいへーい」
   若者2人、プールの底へ降りる。
増谷「・・・ランドセルは、偽者が増えたからもうやめだ」
シナリオ課題「雪」


『ママの秘密』

登場人物

氷川澪(みお)(38)  主婦
氷川大地(36)  澪の夫
氷川六花(りっか)(14)  澪と大地の長女
氷川風花(ふうか)(8)  澪と大地の次女   

少年時代の大地(12) 


○氷川家・ダイニングキッチン(夜)
   近代的なマンションの一室。窓の外は雪が降っている。その横には家族4人
   の写真。
   氷川大地(36)と氷川風花(8)が食卓についている。
   隣のオープンキッチンでは湯気を立てるシチュー鍋の横で氷川澪(38)が
   バゲットを切り、氷川六花(14)がサラダを盆に乗せている。
風花「ねえパパ、ママといつどこで知り合ったの?」
大地「(苦笑して)えー、なに、急に」
風花「いいじゃん、教えてよー」
   食卓まで盆を運んで来た六花、サラダを並べながら、
六花「ナンパでしょ、ナンパ。前にママから聞いたよ」
大地「なんだ、六花は知ってたのかあ。そうそう、学生の時スキーに行ったら、そ
 こでママがインストラクターしてたんだよ」
風花「それでナンパしたの?」
   台所でシチューをよそっている澪、手を止めて食卓の方へ耳を澄ませる。

○回想・スキー場(夕方)
   軽く吹雪いている中、スキーウェアの大地が1人で滑っている。
大地(N)「初心者にちょっと毛の生えた程度だったのに、粋がって上級者コース
 に行こうとしてさ」
   大地、途中で停まり辺りを見回すと誰もいない。地図を上着のポケットから
   取り出すが、風で飛ばされてしまう。
大地「あっ!」
   大地、追いかけようとして転んでしまい、そのままバランスを崩して薮に突
   っ込む。
   半ば雪に埋もれてしまう大地。
大地「いてててて...」
   上方からゴーグルをした澪が滑ってくる。
   綺麗なカーブを描いて大地の目の前で止まると、ゴーグルを外して大地を見
   つめる澪。
澪「大丈夫ですか? この辺、悪天候でお昼からコース外れてますよ。このままだ
 と遭難します」
   大地、澪に見とれていたが、
大地「...以前どこかで会いませんでした?」
   澪、ぷっと吹き出す。
澪「そんな格好で、ナンパのつもりですか?」
大地「(はっとして)いや、えっと...」
   澪、手を差し出す。
澪「下まで一緒に行きましょう」
   大地、手を伸ばしてその手を握る。

○氷川家・ダイニングキッチン(夜)
   六花、台所へ戻っていく。
風花「じゃあママは、パパの命の恩人なんじゃん!」
大地「あはは、そういえばそうだな。でも、前にどこかで会った気がしたのは、ほ
 んとなんだよなあ」
   台所から、震える手を握りしめて怯えたように大地を見つめる澪。窓の外か
   ら強い風が強くなる音。
   六花、怪訝そうに澪を見る。
六花「ママ?」
   澪、はっとして笑顔で六花の方を振り返る。
澪「あ、バゲットも持って行ってくれる? 今シチューよそうから」
六花「うん」
大地「もっと昔にも、遭難したことがあったような気がするんだよなあ」
   六花、カットボードの上のバゲットを皿に乗せようとして触った途端、驚い
   て手をひっこめる。
六花「冷た! 何これ?」
   六花が澪の方を向くと、澪のよそったシチューも凍っている。
六花「ママ! 何これ、どうしたの?」
   風の音がさらに強くなり、窓の外は吹雪き始める。

   ×  ×  ×
   大吹雪の夜、洞窟の中。白い着物姿の澪が震えている少年時代の大地に筵を
   かけて人差し指を唇に当てて微笑んでみせる。
   ×  ×  ×

   大地、腕を組んだり目を閉じたりする。
大地「うーん、夢だったのかなあ」
風花「前にもママに会った事あるの?」
六花「ママ、これってどういう事?」
   澪、引きつった表情で呼吸が荒くなっている。
大地「うーん、そうだったかなあ」
風花「...もういいよ、お腹空いた!」
   風花、食卓を叩く。

○同・玄関(夜)
   勢いよくドアが開いて、吹雪が入り込んで来る。

○同・ダイニングキッチン(夜)
   大地、目を開いて立ち上がる。
大地「うわっ?! なんだ?」
   玄関へ向かう大地。
   風花は台所へ。
風花「ねーママ、早く食べたい」
   澪、我に返ったようにはっとして、コンロに火をつける。
澪「はいはい」
   風花、シチューやバゲットに気づく。
風花「(不思議そうに)ママ...なんで、パンもシチューも凍っちゃったの?」
澪「(風花の方を向くが、目を伏せたまま)...あなたたちが、もう少し大人になっ
 たら話すから。この事はパパには絶対内緒よ」
六花「なんで?」
澪「パパと一緒に居られなくなるの、みんなバラバラになるのよ」
風花「そんなのやだ!」
   六花、風花を抱きしめる。
六花「...わかった。言わないよ」
   澪、微笑む。
   大地、戻って来る。
大地「ドア半開きになってたみたいだ、床濡れてたから拭いてきた」
澪「ありがとう。じゃ、ごはんにしよう」
  澪、再び湯気の立ったシチューをよそう。それを六花が運ぶ。
  シチューの皿を目前に笑顔の風花。
風花「いただきまーす!」
シナリオ課題「葬式」
初の4000字です。
なかなか先に進まなかったのに、キャラクターがひとりでに動くと枚数が足りなくなったたらーっ(汗)


『三度死ぬ男』

登場人物
                     (イメージキャスト)
豊島 泰造(45) 旅館・豊島屋の社長    寺島進
豊島 怜 (40) 泰造の妻        夏川結衣
向井 省吾(45) 泰造の幼馴染      小日向文世

豊島 松子(68) 泰造の母        草笛光子
豊島 公平(16) 泰造と怜の息子   
  
樫井 誠(42)  豊島屋の料理長
水谷 京子(30) 泰造の愛人
   
その他 豊島屋の従業員、弔問客

◯とある山中(夜)
   一台の白いクラウンが、ハイスピードでトンネルから出て来る。
   下り坂のカーブで減速しないまま、曲がりきれずにブレーキの音をさせて崖
   から転落するクラウン、崖下で炎上する。

◯農道(昼)
   陽炎の立つ道の向こうから、豊島泰造(45)が両手をズボンのポケットに突
   っ込んでがに股で歩いて来る。服は薄汚れ、目の周りが腫れているのが近づ
   くにつれてわかる。         
   
◯温泉旅館豊島屋(昼)
   老舗の古風な旅館の玄関口に白黒の幕がかかり、喪服の人々が入って行く。
   立ち話をしている弔問客。
弔問客1「あの泰造がねえ…」       
弔問客2「殺したって死なねえ男だと思ってたけどなあ」
   弔問客たち、入館する。

◯同・大座敷(昼)            
   葬儀式場となっている。読経する僧侶。
   その後ろに豊島怜(40)と豊島松子(68)が喪服で正座している。松子は
   化粧気のない放心した表情で空を見つめ、怜は薄化粧をして口元を引き結び 
   数珠を握りしめている。
   二人の間には豊島公平(18)が正座している。中央の祭壇に飾られている
   豊島の写真を見つめる公平。
公平「オヤジ、なんで…」         

◯農道(昼)
   歩いている豊島。
豊島「くそ、えらい目にあったな…」
   豊島の斜め前を、喪服の向井省吾(45)が扇子を扇ぎながら歩いている。それ
   に気づいて向井を追いかける豊島。
豊島「おーい、省吾!」
   立ち止まって振り向く向井。豊島を見て凍りついたように目を見張る。
向井「泰、ちゃん?」           
豊島「そんな格好して、どこの葬式だ? あ、もしかして田丸んとこのじいさんか?
 ずっとやばそうだったもんなあ」
向井「(聞いていない)ゆ、許してくれ、俺が悪かった!」
   向井、走り出そうとするが腰を抜かす。
豊島「あん? 何だ、昼間っから幽霊見たような顔しやがって、酔ってるのか?」
向井「おまえ、本当に生きてんのか? 本物?(豊島の脚に触る)わっ、本物だ」   
豊島「ふざけてんのか? (向井を脚で払う)俺以外に本物がいてたまるかよ、
 正真正銘、豊島屋の泰造だよ」
向井「じゃ、俺は一体誰の葬式に行ってんのかな?」
豊島「(向井に手を差し出す)誰のだ?」
向井「(手を借りて立ち上がる)お前の…」
豊島「何?(向井を突き飛ばす)まだねぼけたこと言ってんのかよ!」
向井「(転がって)いてて、本当なんだよ、ゆうべ通夜にも行ったし、これから葬式な
 んだ!」
豊島「んな事言ったって、俺生きてんだぞ!(膝を叩き)よし、とりあえず帰ろう。
 俺の代わりに誰が死んでるのか見てやる。省吾、ついて来い」
向井「ま、待てよ泰ちゃん!」
   そのまま歩き出す豊島。向井も慌てて起き上がり追いかける。
◯豊島屋・玄関口(昼)
   豊島と向井が話しながら到着する。
向井「どこで襲われたんだ?」
豊島「足柄のサービスエリアの駐車場だよ。気づいたら夜になってて、財布まで持って
 行かれたから京子のとこにも行けないし、しょうがないからヒッチハイクで戻って来
 たんだよ」
向井「携帯持ってなかったのか?」
豊島「(ポケットからスマートホンを取り出す)持ってたけど、電池切れ」
向井「乗せてくれた人が持ってただろう」
豊島「それが、気のいいトラックの運ちゃんで話が盛り上がっちゃって」       
   玄関から入ろうとする豊島。押し止める向井。
向井「泰ちゃん、そこからはやめとこうよ」
豊島「あん? ここは俺んちだぞ、玄関から入って何が悪い。俺が出て行きゃ、一発で
 丸く収まるに決まってる」        
向井「いきなり死人が出て来たら、皆パニックになるよ」
豊島「だから、俺は生きてるって」
向井「いや、でも葬式やってる当の本人なんだから」
豊島「葬式終わってから出ていったんじゃ、皆に香典泥棒って後ろ指刺されるじゃない
 か。今なら皆大喜びだ」
向井「いやいやいや、ここは裏口から行った方がいいって」             
豊島「なんだよ、面倒だなあ」
   向井、豊島を裏口の方に引っ張って行く。
                      
◯同・大広間の隣の和室(昼)
   読経の声が聞こえて来る。泰造を連れて来た向井、泰造を部屋に入れて
向井「ね、泰ちゃん、俺が先に行って、女将さんたちに事情を話して来るから」
豊島「京子のことは言うなよ」       
向井「わかってるよ」
   泰造、不満げに鼻息を向井に向ける。
   向井、襖を閉めて去る。
   畳の上に胡座をかく豊島、すぐに貧乏揺すりを始める。ハンカチで首筋の汗を
   拭い扇ぐ。ポケットからスマートホンを取り出し
豊島「あ、充電」
   立ち上がって部屋を出る豊島。

◯同・大座敷(昼)            
   焼香が始まっている。困惑した表情で入って来た向井、末席に座る。
   それに気づいた公平、立ち上がって向井の隣に行き小声で話しかける。  
公平「向井のおじさん」
向井「(はっとして真顔に)お、公平くん」
公平「遅かったね」
向井「いや、ちょっとね。お母さん、もう大丈夫?」
公平「ああ、板長がついててくれるから。ただばあちゃんの方がね」
   今いた場所に視線をやる公平。
   怜の隣に樫井誠(42)が座って何か話しかけている。樫井の目を見てしっ 
   かり答えている様子の怜。
   それを見る苦々しい表情の向井。
公平「でも、本当にオヤジは死んだの? 警察は遺体の確認もさせてくれなかった」
向井「遺族にはショックが強いからだよ、あんなに黒こげじゃあ」          
公平「おじさんは見たの?」
向井「一応、幼馴染だからね。俺も信じたくないんだが。でも財布と免許証も持ってた
 しなあ」                
   怜と樫井。
樫井「では女将さん、自分はそろそろ昼の用意に戻りますんで(中腰になる)」
怜「そうね、お願いします」
   樫井、祭壇の方に合掌して立ち上がる。
   向井と公平。            
向井「怜ちゃん、確かに落ち着いてるな。ちっとも悲しくなさそうだ」
公平「実感湧かないんだよ、母さんも俺も。おじさん、親父はあんな場所に何の用があ 
 ったのかな? 県境の山道なんて」
向井「(少し間を置いて)それは俺にも分からないな。誰にでも秘密はあるよ」
公平「(訝しげに向井を見るが)そうかもね」
向井「ところで、あの板長って奴はどうも好きになれないな。事故の前も、俺見ちゃっ 
 たんだ」
公平「樫井さん? 何を?」
向井「ああ。泰ちゃんのクラウンの陰で、何かやってたんだ。警察は、現場にブレーキ 
 痕がないと言ってた。もしかしたら...」
   溜息をつき立ち上がる公平。
公平「樫井さんに限ってそれはないよ。そろそろ焼香も終わるから、俺客の見送りに行
 くよ」
向井「おう、ご苦労さん。後で俺も行く」 
   公平が去った後で小さく舌打をする向井。

◯同・渡り廊下。             
   歩いている豊島。そこに公平が現れ、目を見開いて固まる。
豊島「お、公平。ただいま」
公平「お、オヤジ…? なんで? 生きてたのかよ!」
豊島「へへ、そうなんだよ」       
公平「なんだって今頃帰って来るんだよ!」
豊島「いやー、話すと長くなるんだよな。ま、とりあえずお前の部屋にでも行くか。…ん
 ?」                   
   豊島の視線の先には、門から入って来る京子の姿が見える。
豊島「げげっ! 省吾のやつ、連絡しやがったのか?」
   豊島、廊下に這いつくばる。
公平「何してんだよオヤジ」
豊島「いいから、ちょっと省吾を呼んで来い!」
公平「どうしたんだ? わけわかんないよ」
豊島「今来た女には、俺の事は、死んだ事にしといてくれ!」
シナリオ課題「結婚」
これは結構すらすら書きました。
やっぱり実在のニュースが元です。
書いてて主人公には悲劇なのに、私は爆笑していて、
「かもめ」が喜劇だと言ったチェーホフのことがわかった気がしました。


『次元の違うひと』

登場人物

草薙真吾(39) 新郎
鹿取康子(24) 新婦

中井まどか(28) 康子の友人
稲垣えり(25)  同
紀村ともこ(26) 同
  
真吾の兄(42)
真吾の父(67)
真吾の母(65)
真吾の兄嫁(36)    

草薙もえ     少女の人形(フィギュア)

司会者   
その他 結婚式の招待客

◯結婚披露宴会場(昼)
   白い洋館の外に、雨に濡れる紫陽花。
   入り口のウェルカムボードには「SHINGO&YASUKO」 と書かれてある。
   華やかな音楽とともにドアが開いて、タキシード姿の草薙真吾(39)と鹿
   取康子(24)が腕を組んで登場。 
   式場内には二百人ほどの招待客が幾つかのテーブルに分かれて座り拍手して
   いる。               
   その中を歩いてテーブル毎にハートの風船を置いていく真吾と康子。お腹が
   大きい康子はピンクのエンパイア風ドレスを着て幸せそうに微笑んでいるが、
   真吾は硬く暗い表情。小声で会話する2人。
康子(忌々しそうに)「ちょっとは楽しそうな顔したらどうなの? あなたと私の結婚
 式なのよ(周囲に笑顔で手を振る)」
真吾「しかし…」              
康子「この子が出来たって事は、私たちが愛し合ってる証拠なの。結婚して何がおかし
 いのよ?」
真吾「でも、僕にはあの時の記憶がさっぱりなくて、それに僕には…」
康子「写真だって見せたじゃない」      
   ×  ×  ×
   携帯電話の画面の中に、眠っている真吾と康子がベッドの中にいる写真。康
   子はカメラ目線。           
   ×  ×  ×
康子「とにかく、私はもうあなたの妻なんですからね!」
   真吾の激しい心臓の音。
真吾(M)「もえ、どこに行っちゃったの? 僕、もうダメだよ…!」 

◯同・康子の友人席(昼)
   拍手をしている康子の友人中井まどか(28)、稲垣えり(25)紀村ともこ(26)。 
まどか「しかし、まんまと玉の輿ねー、康子も。契約社員とはいえ、大会社の次男坊か」
えり「まー、昔から大学出てすぐ結婚するのが夢って言ってましたからね」
ともこ「でもさ、お腹の子の父親って、ほんとにあの新郎なの?」
えり「しーっ! それは言わない約束なんです!」
ともこ「だってさ、あの人ってそもそも生身の女に興味なかったんでしょ?」     
   3人、親族席を向く。
   真吾を励ますように見守る真吾の両親、兄、その妻。真吾の母(65)はハンカ
   チで目を拭っている。
   そのテーブルに一つだけ空席があり、席札には「草薙もえ」とある。  
まどか「(心苦しそうに)康子、あれよく許したね?」
えり「ええ、あの家では、とっくに全員がアレを家族の一員だと見なしてたんです。真 
 吾さんが社会復帰できたのは、アレのおかげだって」
ともこ「(溜息)理解できないわー、ほんと」

◯同・新郎新婦席(昼)            
    席に着く真吾と康子。
司会者(マイク声)「新郎新婦による皆様への愛のお裾分けでした。続きまして、新婦
 の康子さんから、新郎の真吾さんへのサプライズがあります!」          

◯同・康子の友人席(昼)
ともこ「サプライズって言えば、この結婚自体サプライズすぎだって」
まどか「はいはい、行くわよ」        
    3人、席を立って司会者の所へ。
◯同・新郎新婦席(昼)
司会者「新婦のご友人のまどかさん、えりさん、ともこさんがお手伝いして下さいます」
   司会者、マイクを3人に向ける。
まどか「康子、真吾さん、ご結婚おめでとう」
えり「今日私たちは、とある人物からお祝いのメッセージビデオを預かって来ました」 
   その間、ともこがプロジェクターに繋いだPCを操作している。
   窓に雨粒。遠くで雷鳴。
まどか「皆様、左手のスクリーンをご覧下さい」
   スクリーンに動画が映し出される。どこかの渓谷を背景に、映ったのは精巧
   な少女のフィギュア。
真吾「(思わず立ち上がり)もえ!」
   招待客、ざわつく。
   動画内のもえがしゃべり始める(声はともこである)             
もえ(声ともこ)「真吾おにいちゃん、結婚おめでとう。実は、おにいちゃんに言わな
 いといけないことがあるの。私、本当は人魚なんだ。もう海に帰らないといけないの。
 今まで、本当にお世話になりました。もえ、とっても幸せだよ。これからは、遠くでお
 にいちゃんを見守ってるね。私の事は忘れて、康子さんと赤ちゃんとお幸せにね」
   ともこらしい指に動かされ、手を振るもえ。                 
   アングルが変わると、橋らしき所から落ちて行くもえのシルエット。      
真吾「もえ、もえーっ!! (スクリーン前まで飛び出し、膝をつく)もえ…」      
   近くで稲妻の落ちる音と光。振り返ると顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっ
   ている真吾。
真吾「誰だ、もえにあんな事をしたのは?!」                
   真吾の兄が真吾の傍に来て、真吾を立たせる。
真吾兄「康子さんはな、お前のもえちゃんへの未練を断ち切ろうとしてくれたんだ」
真吾「もえは僕の妹だぞ! 兄さんも母さんも、もえはうちの家族だって言ってたじゃ 
 ないか! 温泉旅行にだってハワイにだって一緒に行ったじゃないか!」
真吾母「(涙を拭きながら)真吾ちゃん…」
真吾「もえはあんな事絶対に言わない、あんなキモイ声もしてない!」        
ともこ(ショック)「キモオタにキモイって言われた…」              
康子「あ、あの、真吾さん? あれは、ともこが勝手にやったことで…」       
ともこ「はあ? 計画したのは康子でしょ? いつまでも人形を妹とか言ってお風呂にも
 ベッドにも入れてるの、キモイって言ってたくせに!」
えり「ともこさん!」
まどか「ともこ落ち着いて。康子、これは私たちみんなで考えたことよ。ショック療法
 で、きっと真吾さんも普通の男性になってくれるって…。でもやりすぎたって今わか
 った。みんなで真吾さんに謝ろう」      
真吾「やりすぎ? 謝る? ふざけんな! お前らはみんな人殺しだ、一生許さないか
 らな!」
   真吾、兄の制止も振り切って飛び出して行く。
康子「真吾さん! 待って! 誰か引き止めて!」
   立ち上がった康子を残し閉まる会場の扉。
   土砂降りの中、会場から走り去る真吾。   
◯とある川(夕方)
   ずぶ濡れの真吾が、川沿いを遡るように走っている。雨は小降りから次第に
   やんでいく。
   真吾、川の中にもえを探すが、あるのはゴミばかり。
真吾「もえ…。ごめんよ、三次元の女なんかに気を許した僕が悪かった!」
   川の中腹まで来ると、うなだれてしゃがみこむ真吾。           
もえ(声)「…た、助けて、誰か…!」
   真吾、ハッとして顔を上げる。       
   見ると、増水した川の中を流されて行くもえ。
真吾「もえーっ、待ってろ、今行くよ!」
   もえの所まで勢いよく泳いで行く真吾。
   もえを連れて、岸まで辿り着く。       
もえ「おにいちゃん、助けに来てくれたのね。私、信じてたよ、また会えるって」
真吾「もえ、もう離さないよ」            
もえ「うん、ずっとおにいちゃんだけのもえでいるね。おにいちゃんも、ずっともえだ
  けのおにいちゃんでいて」
真吾「勿論だよ。帰ろう、うちへ」
   いつの間にか出た夕日を背に、もえを抱いて歩いて行く真吾。
                      
◯都会のマンション(夜)
   枯れ葉が舞う夜の住宅街。まどか、えり、ともこの3人が買物袋を提げて歩     
 いている。
まどか「ふー、それにしてもなんとか離婚せずに済んで良かったわね」
ともこ「別に離婚しても、康子の自業自得じゃない」
えり「まあまあ。でも、なんで離婚せずに済んだんですか?」            
まどか「それがね…」
   まどか、「草薙」と表札のあるドアを開ける。                
   玄関から、居間でTVゲームに興じている康子の後ろ姿が見える。
   近づいて行く3人。
えり「康子?」
   康子が食い入るように見ている画面は、女性向け恋愛ゲーム。
まどか「お互い領域侵犯しないことを理由に共存してもいいことになったんだって」
   困惑や諦めの混じった表情の3人。
   ゲーム内の登場人物の声に、うっとりする康子。
康子「二次元の男は、この三次元め、なんて言わないもんね…」       (了)
ラジオ鷲宮さまのドラマ企画で書き下ろした「泣き虫魔女ミトラの旅」スピンオフシナリオです。
どうぞ本編と一緒にお楽しみ下さいるんるん



「泣き虫魔女ミトラの旅」外伝・ひとしずくの希望

これは、何処か遠い、あなたの知らない場所、あなたの知らない時代の話だ。

その頃、私は孤独だった。
誰よりも大切な婚約者の命を失い、抜け殻のようになった私は宛てのない旅をしている。
途中立ち寄った街で、紛争が起きた。
逃げ惑う人々の中、修行を終えやっと一人前の術師となった私にも、
感じ取れるほどの魔力の波動があった。
波動に導かれるようにして、崩れた神殿らしきところへ歩みを進める。

  「何者か? どこにいる?  私は魔術師ラミレスだ。必要ならば助けに行く」

遠くから赤子の泣く声が聞こえる。
声のする方へ近寄ると、倒れた太い石柱が空中で止まっている下に、
血まみれの女性がうずくまっていた。

 「た、助けて…」

掠れた、弱々しい声。
見ると、泣き叫ぶ赤ん坊を抱いている。

 「これは…まさか、この赤ん坊がこれだけの魔力を…?
  しっかりしなさい! 私の手を・・・」

 「私は、もうだめです…。この子だけは、
  ミトラだけは助けてください…、お願い…」

女性は、震える腕で私に赤ん坊を差し出した。
恐る恐る赤ん坊を抱き上げると、赤ん坊はピタリと泣くのを止めた。

 「良かったね、ミトラ…頑張って、強く生きてね・・・」
 
女性が言い終わらないうちに、宙に止まっていた柱が、その頭上目がけて倒れてきた。

 「危ない!」

手を伸ばそうとしたが、一瞬のことで赤ん坊を抱いたままの私にはなす術がなかった。

 「…また、救えなかった…」

立ち尽くす私に、赤ん坊が笑いかけてきた。

 「いや、君だけでも、私は救えたのか…」

邪気のない笑みを浮かべる小さな頬に、私の涙がひとしずく落ちていった・・・。



十年後。


大きな物音に私は目を覚ました。

 「すみませんお師匠さま! またやってしまいました…」

 「・・・ここは?」

顔を上げて辺りを見回すと、見慣れた自室の机だった。
どうやら、ずっと以前の夢を見ていたようだ。

 「もー、私ったら、どうしてこんなにトロいの…ううっ」

 「一体どうしたのです、ミトラ?」

本の山に囲まれて座り込んでいたのは、かつての赤ん坊。
少女になった彼女は涙を拭いて笑顔を作った。

 「あっ、お師匠さま、起こしてしまってすみません。
  本棚の埃を払ってたんです…す、すぐに片づけますね!」

 「念力を使えばすぐに戻せますよ。やってごらんなさい」

 「え? は、はい……えいっ! …あ、あれ?もう一度…えいっ!
  だ、ダメですお師匠さま〜。ぐすっ」

 「仕方ありませんね。ちょうど見たい資料もありますから、私がやりましょう。
  あなたはお茶でも淹れて下さい。レオも呼んで、休憩にしましょう」

 「は、はい…失礼します」

 「やれやれ、変わらないのは泣き虫なところだけですか・・・」

紛争から逃れた私たちは、やがて小さな村で暮らすようになった。
あれほど強力だったミトラの魔力は、成長するにつれて失われていったかのようだった。
しかし、彼女の力はそれだけではないと私は思っている。
少なくとも、彼女を育て導いてきたこの12年、温度を失っていた私の人生が、
生きた血の通ったものとなった。
古代の力を魔術に応用する研究と、彼女の魔力をもう一度目覚めさせ、
一人前の魔術師にすることが今の私の仕事だ。
婚約者を失った傷が癒えたとは言わないけれど、ミトラの成長を支えとすることで、
ささやかで穏やかな日々を過ごしてきたのだ。

 「お師匠さま?、お茶がはいりました。レオも呼んできましたよ。」

 「わかりました。では、行くとしましょう」

 「お師匠様、それは何ですか?」

 「これですか、これは幻の怪鳥についての資料ですよ。長年研究してるもので・・・」

 「あっ、大変! お茶っ葉を取り出すのを忘れていました、先に行ってます!」

 「・・・やれやれ」

そして私は、いつものように彼女たちとの生活に戻る事にした。
そう、明日もきっといつものように来ると信じて・・・。


(完)
シナリオ課題『憎しみ』



『歪んだ鎖』

登場人物

前野香菜(26)  家庭教師

神谷龍太郎(46、58) 香菜の父、神谷鉄鋼取締役
神谷希実子(12) 龍太郎の娘、中学生

杉山浩輔(27)  香菜の恋人、杉山合金社長

杉山合金の従業員


◯とある山中(朝)              
   一本の太い木に、布を裂いて作ったひもがかけられ、先端が輪になっている。  
   その前に佇む前野香菜(26)。
   後方には白いBMWのワゴン。カーナビにはTVニュースが流れている。
TV(ニュースキャスター)「昨日夕方、東京都大田区で、会社役員神谷龍太郎さん
 宅が全焼し、焼け跡から神谷さんが遺体となって見つかった火災で、警察は神谷さ
 んの頭部に殴打の後が見られることから、行方不明になっている神谷さんの長女を
 重要参考人として…」     
   香菜、輪に頭を入れて首を括ろうとする。     
   枝にかけていたひもが切れ、宙に投げ出される香菜。             
  × × ×
           
◯神谷家・居間(夜)
   一人ブランデーを片手に葉巻をくゆらせるガウン姿の神谷龍太郎(58)。
   室内にはクラシックの曲がかかっている。玄関の開く音がして、香菜が入っ
   て来る。
神谷(振り向いて)「お帰り」        
香菜(無言で睨みつける)
神谷「杉山…浩輔くんのことは残念だったな。まあ、男にはそれぞれ立場ってもん
 がある。早く忘れることだ」             
香菜「…忘れる?」
神谷「そうだ。お前は若い、人生もまだやり直しがきく」(向き直る)
香菜「何を…」
   香菜、神谷のそばまで歩いていくと、ローテーブルの上のガラスの灰皿を持   
   ち上げ、神谷の頭上に打ち付ける。
   悲鳴をあげて床に倒れる神谷。      
香菜「若くても、やり直せなくなった人はどうすればいいの、ねえ! ねえ!」       さらに何度も神谷を殴打する香菜、動かなくなった神谷を置いて、部屋を出
   る。絨毯に転がった葉巻から煙がたちのぼっている。   
  × × ×

◯神谷家・庭(昼)
   地面に倒れ込む香菜。
   ちょうど玄関から神谷(46)が出て来る。               
神谷「あっ!」
   香菜に近寄り抱き起こす神谷。      
神谷「先生、大丈夫ですか?」
   香菜、目を覚まして神谷を見て悲鳴。  
神谷「や、す、すみません!(手を離す)今日からうちに来られる、前野先生ですよ  
 ね?」
香菜「え?」
   辺りを見回す香菜。家の雰囲気が新しくなっている。
神谷(明るく)「転んで頭でも打ちましたか? とにかく上がって下さい。おーい、
 希実子! 家庭教師の先生がいらっしゃったぞ、挨拶しなさい!」
   神谷に招かれて、家に入って行く香菜。
  × × ×

◯杉山合金(夕方)         
   小さな町工場の並ぶ工業地帯。便箋と封筒を手にした香菜が駆け込んで来る。
   その左手薬指には小さなダイヤのついた指輪が。
香菜「浩輔? 浩輔どこ?」
   歩いて行く先に、首を吊った杉山浩輔(27)の遺体を見つける香菜。     
   香菜、膝から崩れ落ち、手から便箋が落ちる。               
   便箋には「幸せに さようなら」と書かれている。
   駆けつける杉山合金の従業員たち。
従業員1「希実子さん!」
従業員2「社長! お、おれたちのために…?」
香菜(振り返って)「どういうこと?」
従業員1「今朝、神谷鉄鋼に社長が直談判に行ってたんです」
◯神谷鉄鋼(朝)         
   大きなビルの前で停まる黒塗りの車。
   降りて来るスーツ姿の神谷(58)。
   そこに作業用のジャンパーを着た杉山が近寄って行く。
杉山「おとうさん! 契約打ち切りってどういうことですか!」              
   社内をどんどん歩いて行く神谷。
神谷「どうもこうもないよ。君の工場には今後発注しない。それに俺は君の父親じゃ
 ないし、希実子との結婚も認めていない」   
杉山「そんな! おつきあいを認めてくれたじゃないですか!」          
神谷「交際にまで口を出すことはせんが、希実子には、いずれもっといい結婚相手を見
 つけるつもりだ」
   立ち止まる杉山。エレベーターに乗り込む神谷。
神谷「とりあえず、今自分にできる最善の事をするんだね」
   閉じるエレベーター。          
   がっくりと膝をつき、頭を抱える杉山。
杉山「うわあああああああ!」

◯神谷家・外(夜)
   家の前に停まる白いBMWのワゴン。
   運転席で涙を流す喪服の香菜。助手席には先程の手紙。 
  × × ×
   浩輔が香菜の薬指に指輪をはめる。
   笑い合う2人。
  × × ×
香菜「浩輔…」                
   家をにらみつける香菜。                    
  × × ×

◯神谷家・台所(深夜)
   2時をさす時計の秒針だけが音を立てている。
   香菜が食卓につき、テーブルの上の小さいペットボトルに錠剤を数個溶かして
   いる。
   ドアの隙間から、それをパジャマ姿の神谷希実子(12)が覗いている。
   無表情でペットボトルを振る香菜。
   ドアを開けて台所に入って来る希実子。 
   それを見て息を飲む香菜。
香菜「き、希実ちゃん、どうしたの?」   
希実子「先生こそどうしたの? 忘れ物?」
   香菜、一瞬希実子から目を逸らすが、笑顔を作る。
香菜「今日はちょっとお父さんに大事なお話があるんだ。希実ちゃんはもう寝てていい
 よ」                   
希実子(怪訝そうに)「…何の話? 眠れないから、もうちょっとここにいる」    
香菜「えっ(真顔になる)」
希実子「私には聞かせられない話なの? もしかして、私の事?」
香菜「…そうじゃないけど、希実ちゃんは、お父さんの顔見て大丈夫なの?」
希実子(困って)「それは......」
   玄関の鍵が開く音。希実子、びくっとして台所から出ていく。        
   階段を駆け上って行く音と同時に玄関のドアが開く音。           
   唇をきゅっと引き結び、ペットボトルを手に玄関まで出ていく香菜。
◯同・玄関(深夜)
   赤い顔の神谷(46)が上がり口に腰掛けて靴を脱いでいる。
香菜「お帰りなさい」
神谷(やや呂律回っていない)「お、先生。すいませんなあ、こんな時間まで、ご苦労
 様です」                 
   上がり口に立て膝になる香菜。
香菜「あの、実は香菜ちゃんのことでお話が......」
神谷「いやあ、明日にしてもらえませんかね? なにせ今日はかなり飲んでしまった
 もんで」
香菜(戸惑って)「あ、あの、でも、大事な話で、急ぐものですから」        
   神谷、不満げに香菜を見上げる。
香菜「あっ、でも、すぐ済みますので!」   
神谷(長い鼻息)「大事な話がすぐ済むんですか? なんだ、あいつ生理でも来たかな」
   神谷、下卑た笑い声を出す。
   眉を寄せ、唇を噛む香菜。
香菜「そんなんじゃありません! と、とにかくお水でも飲んで下さい」
   神谷にペットボトルを差し出す香菜。 
神谷「あ、こりゃどうも」
   神谷、渡された水を一気に飲み干す。 
神谷「ふー。で、話って何ですか? 奥で聞きましょう」
   立ち上がろうとする神谷、足に力が入らず廊下にずり落ちる。
神谷「お…?」
   神谷、目を瞑って廊下に倒れ込み、すぐに鼾をかき始める。それを冷たく見
   下ろす香菜、白い綿手袋をはめる。

◯同・神谷の寝室(深夜)         
   ドアを開けて、神谷を引きずって入って来る香菜。布団脇には睡眠薬の瓶
   が置いてある。
   香菜、布団の上まで神谷を連れて来ると瓶を手にする。
神谷「うーん、希実子…」
   香菜、睡眠薬の瓶を落としてしまうが、それを拾って神谷の手に一度握らせ、
   床に転がす。
神谷「泣くな、希実子…すまん…」     
   香菜、一瞬その声に止まるが、目を瞑って首を振る。
   部屋のガスファンヒーターのガス管の取付部分からホースを外したものを、
   取付口に差し込んで栓をひねる香菜。
   シューッという音が広がる。
香菜「あの子は…私は泣かないよ、おとうさん」
   ドアを閉め出ていく香菜。                
                            (了)
シナリオ課題「裏切り」



「ユダの涙」

登場人物

伊作(20) 代官所の下男
お結(17) 大浦村の娘・キリシタン

一平太(23) 大浦村庄屋の息子

長吉(45)代官手代
代官
伊作の父(回想)
幼い伊作(回想)

村人達
役人達
子ども達

◯天草地方・大浦村番所そば(夕)
   百姓の子ども達が数人でかごめかごめをして遊んでいる。輪の中心には伊作
  (20)がうずくまっている。
   番所から、長吉(45)が出てくる。
子ども達「後ろの正面、だれだ」
   子ども達の輪を割るように入ってくる長吉。顔を上げて立ち上がる
   伊作。無表情である。
長吉「伊作、今晩だ」           
   伊作、うなずく。

◯大浦村入り口(夜)
   集まって行く捕り物姿の役人達数人。その中に伊作と長吉がいる。
   伊作、ごくりと喉を鳴らす。
                       
◯同・村人の家・中(夜)    
   祭壇に粗末な蝋燭があり、観音像と見紛う聖母子像と十字架を照らしている。
   それに向かって手を合わせ、祈っている村人ら。
                        
◯同・村入り口(夜)
   提灯を手に、歩いているお結(17)。
   頬かむりをした一平太(23)が、お結の後ろから口を塞ぎ羽交い締めにする。 
   地面に提灯が落ちる。暴れもがくお結。

◯同・村の中(夜)
   灯りが漏れている一軒の小屋に近づいて行く伊作と役人たち。         
   物音に振り返る伊作。           

◯同・村入り口(夜)
   一平太に薮の中に引きずり込まれ押し倒されるさるぐつわのお結。      
   そこへ伊作がやってきて提灯をかざす。
伊作「おい、何をしている」

◯同・村人の家・中(夜)            
   戸が勢い良く開き、長吉達役人が傾れ込んでくる。
役人「その方ら、詮議の筋がある!」

◯同・村入り口(夜)
   一平太、驚いて体を起こす。伊作が近づいて来て二人揉み合う。
   伊作、一平太を殴り飛ばす。
一平太「そ、その娘は切支丹だ!」     

◯同・村人の家・中(夜)
   散り散りに逃げようとする村人を、厳しい表情の長吉らが縛り上げていく。

◯同・村入り口(夜)
   伊作が向き直ると、お結は襟元を直している。その隙に走り去る一平太。
伊作「あっ」
   伊作、気づいて一平太を追おうとするが間に合わない。伊作の後ろで立ち上
   がるお結。伊作、お結のさるぐつわを外してやる。            
伊作「早く行け」
お結「(目を見張るがすぐに)ありがとうございます」               
   走り出すお結。伊作がお結のいた場所を見ると、暗がりに光る物が落ちてい
   る。伊作が拾い上げると、それは十字架のペンダント。            
   ×  ×  ×
   伊作の父が、笑顔で十字架のペンダントを持っている。            
伊作の父「伊作、でうすさまはいつでもお前を見守っていなさる」
   幼い伊作に十字架を渡す伊作の父。     
   ×  ×  ×               
役人(声)「引っ立てい!」
   はっとした伊作が見ると、村人の家から縄で繋がれた村人たちが引き立てら   
   れて行くのが見える。十字架を腰の巾着にしまって、それを追いかける伊作。

◯同・村の中(夜)
   役人達の列に合流する伊作。長吉が気づいて寄ってくる。
長吉「おい、どこにいた」            
伊作「村から逃げようとした者がいて、追ったのですが見失いました」
   長吉、不満げだが、伊作の頭をくしゃくしゃに撫でる。
長吉「お前は倅も同然だ、俺をがっかりさせるなよ」
   無表情の伊作。

◯代官所(夜)                
   蓑を着せられてそれに火をつけられ、苦しみながら焼け死んでいく村人たち。
   それを見ながら楽しげに酒を飲んでいる代官。
◯同・村入り口(朝)               
   風呂敷包みを抱えたお結が出てくる。一平太に襲われた場所でしゃがみこみ、
   眉を寄せて何かを探している。      
伊作「探し物か」
   お結が顔を上げると伊作が立っている。   
   巾着から十字架を出して見せる伊作。     
お結「(こわごわ立ち上がる)どうして?」
伊作「ゆうべ、落としたんだろう」   
   お結に十字架を渡す伊作。
お結「(十字架をつけ)違う、あんた代官所の者なのに……」
伊作「ただの拾われた下働きだ。それより、ゆうべの男は……」           
お結「庄屋の息子。ずっと言い寄ってくるんだ」                  
   村の外へ歩きだす二人。           
伊作「奉公先まで送る。夜もしばらくは、親に迎えに来てもらうといい」
お結「大丈夫、でうすさまが守ってくれるから」                  
伊作「でうすさまか……えろい、えろい、らま、さばくたに」
お結「(驚いて)こんなところで!」
伊作「誰も聞いちゃいない。ほんとうに、守ってくれるのか?」           
お結「あんたもなの?」            
伊作「わからない。親父がそうだった」
お結「少なくても、死んだらぱらいそには行けるっていうよ」
伊作「生きてるうちにご利益がないようなものは信じない。死んだら何にもならん」
お結「(笑う)おら、お結って言うんだ」
伊作「(少し照れて)伊作」
   歩いて行く二人の後ろ姿。それを少し離れて一平太が憎々しげに見ている。    
◯代官所・白州(夜)
   体に縄をかけられた伊作が、役人に連れられて入ってくる。正面に代官、下
   脇に長吉が控えている。
代官「(伊作を睨んで)伊作とはその方か」
伊作「は……」
代官「大浦村の者より訴えがあった。そちが、隠れ切支丹と通じておると」
   伊作、黙って地面を見つめる。
代官「それはまことか、申せ」             
長吉「伊作、黙っているならばこのくるすの持ち主を改めねばならん」
   伊作、はっとして顔を上げると、長吉がお結の十字架を持っている。
伊作「それは、俺の親父の物でございます」
長吉「嘘をつけ。お前の親が死んだ時、それはとうに捨てたぞ」
伊作「いえ、それは俺の親父の形見です」
代官「飽くまで言い張る気か」
   代官、役人達に合図する。役人達が縄をかけられたお結を連れて来る。
   やつれたお結の姿に目を見張る伊作。
代官「この者がくるすを持っておったということだ。見覚えがあるのではないか?」
長吉「伊作、お前とこの娘は何も関わりない。そう申し上げるのだ」
   伊作、顔を上げて代官を見る。
伊作「いえ、この者に、俺がそれを渡しました」
長吉「伊作!」                  
伊作「でも、ただ父の形見というだけで、それだけです」
代官「ぬけぬけと、このくるすを持っているだけで邪宗の証じゃ!」
   白州に、聖母子像が象られた踏み絵が持って来られる。
代官「本当に切支丹でないというならば、これを踏めるか?」
   青くなっているお結。伊作、長吉とお結を交互に見る。            
長吉「頼む伊作、頼むから踏んでくれ!」      
   お結は首を横に振って伊作を見つめている。伊作、額から汗を流しながら喉
   をごくりと鳴らす。
   伊作、お結を見ると初めて微笑む。
伊作「お代官さま。俺も、あのお結も、切支丹ではございません」
   伊作、立ち上がって、踏み絵を踏む。
   ほっと肩で息をする長吉。呆然と涙を流すお結。舌打ちをする代官。      
代官「では娘、お前も切支丹ではないということだな?」
   お結、がっくりとうなだれる。
お結「おらは……おらは、切支丹です」
   伊作、お結の方を見る。
伊作「やめろ!」
代官「(高笑いして)そうか! その娘を引っ立てい!」             
   役人達に連れて行かれるお結。伊作、それを止めようとするが、長吉達に邪   
   魔される。
   膝をついた伊作、顔を歪め涙を流す。
伊作「生きてるうちに幸せにできないようなもの、信じられるか……!」
   下弦の月が、雲に隠されていく。               (了)    

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