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真夜中のお茶会コミュの戯曲「Fumichigai〜江戸落語「文違い」より〜」(改訂版)

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落語原作第1弾改訂。
現代でも全然違和感ないストーリー。
角野卓造さんはほんとは好きな役者さんの1人です!


《登場人物》

アヤ…キャバ嬢
ツグハル…アヤの客
カドノ…アヤの客、葬儀屋
キース(仮名)…黒服
ヨシアキ…アヤの客
エミリ…新人キャバ嬢
マネージャー

その他、キャバ嬢とお客数人。


 《舞台》


 某キャバクラの店内。
 手前にローテーブル3つとソファ3つ。どちらかの間に仕切り板。
 奥にもいくつかのローテーブルセット。

コメント(21)



      手前中央テーブル席にツグハルとアヤ。他にも何組かそれぞれの席に。

ツグハル    へーぇ、じゃ、アヤの親父さんが必要なの?このお金。

アヤ      そうなのー!それがね、こないだ急にやって来てね、どうしても二百万何とかなら 
        ないか、とか言うんだよ。そんな二百万なんて大金があたしになんとかなるわけ無
        いじゃないのって言ったんだけど。『親子の縁を切ってもいい』とか言われちゃっ
        て事言い出したもんだから、あたしもちょっと考えちゃったの。あの親父と縁が切
        れるなんて、願ったりかなったりでしょ。小さい時から親らしいことは何一つして
        もらったことはないしさ、苦労ばかりさせられてこんなところへ入っちゃったでし
        ょ。そこへまたちょくちょくせびりに来るんだから、ほんとになんて親だと思って
        さ。ツグ君と結婚しても付きまとわれちゃかなわないな、と思ってたんだよ。でも、
        諦めてたところへ向こうから縁を切ってやるって言い出したから、いいタイミング
        だと思ってさ、その二百万で絶縁したいんだよ。それでね、ツグ君には悪いけど、
        メールしたってわけ。それで、どうだった?二百万できた?

ツグハル    それがさ、おれも一所懸命方々駆け回ったけど、百万円しかできなかったんだよ。

アヤ      百万?向こうが二百万って言ってるからさぁ…百万じゃ承知しないと思うな。半端
        なことしてまた後で来られちゃ意味ないしさぁ…。あたしはきっちり二百万渡して、
        その代わり今後一切の連絡は取らない、っていう絶縁状でも作っちゃおうって思っ
        てるんだ…。んー、もう、どうにもならない?

ツグハル    あと二、三日待ってくれたら…。

アヤ      だってさー、もうお店の前に来て待ってるんだよ。

ツグハル    ええー、下へ来てるのか…それじゃダメだな。

アヤ      そうなの、困ったなあ…ま、いいよ。実はね、あたし、他にも当たってるんだ。カ
        ドタクって男がいてね、角野卓造に似てるからカドタクなんだけど、痛客なんだよ。

ツグハル    イタキャク?

アヤ      痛い客。痛いヤツなんだけどさぁ、あたしにベタ惚れしてるし、お金はあるんだよ、
        葬儀屋の三代目って言ってた。葬儀屋って、不況でも絶対食いっぱぐれないっし
        ょ?いつもはメールも店用の携帯で代返頼んでるけど、今日は直接あたしがメール
        したからきっと来てると思うんだ。

     カドノ登場。
     黒服に案内されて手前の仕切られてない方のアヤたちに背中合わせに座る。
     アヤたちの席にキースが近づいてくる。

アヤ      はい、なぁに?

キース     アヤさん、カドノさんがお待ちです。

アヤ      え、もう来ちゃった?(小声)で、どこへ通したの?

キース     斜め後ろの席です。

アヤ      えー、そりゃまずいわ。他のとこは空いてないの?だって…ま、しょうがないか。
        とりあえず誰か新人の子ヘルプにつけといて。話が済んだらすぐに行くから。

    キース、意味ありげな微笑を浮かべて、カドノの席に行き何事か伝える。
    すぐに新人エミリがカドノの席に。エミリ、挨拶してテーブルにつく。
    飲み物を頼んだり談笑している。

アヤ      (ツグハルに)ちょっと、「噂をすれば影」ってやつだね。そのカドタクが来たって
        よ。ふんだくってやるんだからね。たださ、席が斜め後ろなの。で、話が筒抜けに
        なっちゃうでしょ。で、お金出させようってんだから、あたしも甘いこと言うよ。
        それ聞いてツグ君怒ったりしない?

ツグハル    そんなことないよ。

アヤ      だってさぁ、あたしが他でなんか言ってるの聞いたあと、ツグ君口利かなくなっち
        ゃうんだもん。あたし、そういうのヤなんだ。

ツグハル    今日はそんなことないから。いいから行って来いよ。

アヤ       そう?じゃ行って来るね、待っててよ!(ツグハルの手を握って席を立つ)
カドノとエミリ、テーブル席で談笑している。アヤ、カドノのテーブルに着く。

アヤ      ちょっとダーリン、今エミリと何話してたのよ?もーまったく、いくらメールした
        ってちっとも来ないんだから!昨日まで何してたの!

カドノ     そ、そんな、アヤちゃん、…そりゃあ僕も来よう来ようと思ってたけどね、今月は
        忙しくって全然寝る間もなかったんだよ。

アヤ      何が忙しいってのよ!!

カドノ     いやぁ、エミリちゃんとも話してたんだけど。最近ホラ、中央線もよく人身事故で
        止まるでしょ?だから毎日、あっちの葬式行ったり、こっちの葬式行ったりで。

エミリ     忙しいけどその分カドノさんって羽振りがいいんですねー!

カドノ     いやぁ、ま、まあね。この業界は不景気ほど景気良くなるっていうかね。

アヤ      ホントに?ホントに忙しかったの?…こないだ、三丁目の「バラクーダ」に行った
        でしょ!?

カドノ     な、なんで、そんなこと知ってるの?

アヤ      浮気する暇はあっても、あたしに会いに来る暇は無いっていうの? あ、ドリンク
        頼むからね、お願いしまーす。

カドノ     い、いゃぁ…へっへっへ…いや、ちがうちがう、そうじゃない。まあ、聞いてよ。
        あれは付き合いだからしょうがないんだよ。大きなイベントが無事に済んで、ひと
        つ打ち上げって…いや、僕が言い出したんじゃないよ。部長のハマムラが言ったん
        だよ。それでハマムラと僕と新田とで行っただけなんだよ。僕はここへ来ようと思
        ったんだけど、(小指を立てて)ハマムラのコレがあの店にいてさ。『私の顔を立
        ててください』って言われて、断わりきれなかったんだよ。ほんと、浮気でもなん
        でもないんだよ。付き合いだから。フリーで入ったし。

    カドノが話している間、キースが来て全く話を聞かずに飲み物を注文するアヤ。
    カドノはそれに気づいていないで話しつづける。

アヤ     (カドノが話し終わるのを待って)エミリちゃん、この人ね、ちょっと見るとダサい
        でしょ。だけどね、実はそうじゃないんだよ。こう見えてもね、中身はすっごいイ
        ケメンなんだから。方々浮気して歩いちゃさぁ、女を泣かしてんだから。ホントに
        罪な男なんだよー、この人はさぁ…。あぁ、なんでこんな人がダーリンなんだろ…
        悔しくってしょうがないよ、もう、ほんとに!!

カドノ     お、おい…やめてくれよ…ははっ、エミリちゃんの前で。こっぱずかしくってしょ
        うがないよ、はははっ、(エミリに)ねぇ!

エミリ     お2人って、ほんと仲いいんですねー。

カドノ     そ、それほどでもないよ。

エミリ     じゃ、どうぞごゆっくり。(店内奥へ)

アヤ      はい、ご苦労さん。…はぁ。ねぇ、ダーリン、あたしもうイヤになっちゃった…。

カドノ     え、なにが?

アヤ      あのね…ダーリンに会えない間ねぇ、あたしずっと神社にお参りしてたんだよ。

カドノ     いや、いくらお参りされてもなぁ、来れない時はしょうがないんだってば。

アヤ      違うよ、…かあさんがさぁ…かあさんがさぁ…。

カドノ     お母さんが?お母さんがどうしたの?

アヤ      入院してるんだ…。

カドノ     入院? 何の病気?
アヤ      が…ガンだって言ってた。

カドノ     ガンかあ…。で、医者はどう言ってんの?

アヤ      それがね…何しろ年だしささ、すっかり弱り切ってるから、とてもじゃないけどこ
        のままじゃ治らないって言うの。で、しばらく投薬治療しないといけないって。

カドノ     薬か。飲ませたらいいじゃない。

アヤ      簡単に言うけど、二百万もするんだよ!

カドノ     に…二百万!!?薬が!!?そんなに高い…薬局行ったら薬なんていくらでも…。

アヤ      何言ってんの!市販の薬とはわけが違うんだよ。アメリカの新薬で、注射一本で、
        何万円なんだから。あたし、治療受けさせたくってもそんなお金無いし。それで相
        談しようと思ってメールしてるのにちっとも来てくれないんだから…ねぇ、カドち
        ゃん、お願い…あたし、どうしてもかあさん治したいの…だから…二百万くれな
        い?

カドノ     い…いや、二百万は…今は持ち合わせが…。

アヤ      少しくらいはないの?

カドノ      そりゃ、ないことはないけど…銀行口座になら五百か七百万くらいは…。

アヤ      じゃ、悪いけど百五十でいいから貸してよ。五十はなんとかするから。

カドノ     いや…そ、そんないきなりは無理だよ…。

アヤ      そんな事言ってうそなんでしょ!

カドノ     いや、ウソじゃないよ。実際会社のお金だから、これは貸すわけには…。

アヤ      いいじゃんか…かあさんは今日か明日かって具合なんだよ、

カドノ     この金が僕のものだったらすぐにでもあげるよ。でもこの金を渡したら、いろんな
        人に影響が出ていろいろ不都合になるから…。

アヤ      じゃ、何!かあさんが死んだって構わないっていうの!

カドノ      い、いや…そういうわけじゃないけども…。

アヤ      だって、そうじゃん!えぇ!?かあさんを殺す気なの!?

カドノ     そ、そうじゃない…またそういう無茶なことを…。そりゃ僕だってアヤちゃんのお
       母さんは助けたい…。けどね、お母さんを助けるとすると会社がまずいことになる   し…。                                                                                
アヤ      もういいよ!いらない!カドちゃんの気持ちがよーく分かりました。いいよ、お金
        はいらない。そのかわりね、来年結婚するって約束ね、あれ、考え直す!あんたも、
        あんな約束は無かったことにして!!

カドノ     な…ちょっと…なんで?

アヤ      なんでって、そうじゃない!会社と家族の命と比べるような薄情な男と一緒になっ
        たって幸せになんかなれないよ。あとであたしも酷い目に合わされるに決まってる
        んだから!

カドノ     そんなことはないよ、いや、そんなつもりじゃないんだ…ちょっと考えてただけだ
        よ…ったく、すぐにそうやって怒って…怒らないでよ…。

アヤ     (睨みつける)

カドノ     んー、わ、わかった、わかったよ…じゃ。(財布から小切手帳を出し書き込んでア
        ヤに渡す)百五十万。

アヤ      いらない!!

カドノ     そ、そんなに怒らないでよ…ね、僕が悪かったよ…どうか、この金持ってって。ね、
        こうやって謝ってるんだからさあ、僕が悪かった、どうかこの金、持ってって。

アヤ      (ため息をついて)あたしは…別にカドちゃんに謝らせたり、お金貰ったりするほど
        値打ちのある女じゃないけどさ…。かあさんの病気のこと考えるとムシャクシャし
        てさ、つい心にも無いこと言っちゃったんだよ。こっちこそごめんね。じゃ、この
        お金…しばらくの間、あたし、借りとくから…。

カドノ      なに言ってるんだよ、キミと僕との仲でしょ。僕のものはキミのもの、キミのもの
        は僕のもの。キミは僕の人生の永久指名なんだよ。そんな水臭いこと言わない。

アヤ      そうなの?ごめんねダーリン、ありがと。それじゃ、今、さっそくこれ渡したいの。

カドノ      うん、それがいいよ。ここで待ってるから、すぐに行って来て。

アヤ       うん、じゃあたし、行って来るから、待っててね。(カドノの手を握って席を立ち、
        ツグハルのテーブルへ)ツグ君…うまくいったよ、あいつ小切手なんか持ってたよ
        …百五十万ふんだくってやった!(小切手を見せる)

ツグハル     へー。こんなのをポンと出せる奴もいんのか。あのさ、おれ…背中越しに聞こえ
        てきたからずっと聞いてたけど、あいつ、面白いね…『人生の永久指名』って…。
        いまどき、あんな奴がいるんだなあ。

アヤ       あんなやつの機嫌を取らなきゃならないってのもツグ君に迷惑かけたくないからだ
        よ。ねぇ、じゃ、これに五十足してくれる?

ツグハル    じゃ、これ、五十万。それに二万、これ親父さんに、帰りに何か食べて帰ってもら
        って。(封筒を渡す)

アヤ       うん…ありがと…(目を拭う)ほんとに、ありがと。ツグ君にはすっかり世話にな
        っちゃって…それじゃね、これに親父に渡して、すぐに帰してくるから…。

ツグハル     うん、そうしなよ。早い方がいいよ…。

アヤ      じゃ、しばらく待ってて…(席を立って近くのエミリに話しかける)あ、ちょっと
        エミリ、ペシェもらえる?ううん、箱で。

エミリ     すみません、今切らしちゃって。

アヤ      じゃあ、ちょっと買って来て。奥の0番テーブルにいるから。


     アヤ、退場。暗転。


     板で仕切られている0番テーブル席に眼帯をしたヨシアキが座っている。
     アヤが入ってくる。

アヤ      ヨシさん、待たせてごめんね…。

ヨシアキ    アヤ…何言ってんの、おれの方こそムリなこと言ってごめんね。で、お金は用意で
        きたの?

アヤ      うん、いまやっと二百万できたよ、それとね、あと二万入ってるから、これで何か
        食べて。(封筒を渡す)

ヨシアキ     そっか…、また迷惑掛けちゃったけど、他に頼るところが無くてさ。ありがとう。
        それじゃ遠慮無く、こいつは借りてくね。(封筒をポケットに入れる)助かったよ、
        これで眼の手術が受けられるよ。ほんとにありがとう。

アヤ       もー、うちら結婚するんでしょ!ヨシさんのためだったらこんなの苦労のうちに入
        らないよ…。それで、眼はどうなの?メールにはずいぶんと悪いって書いてあった
        けどさ、見せてみてよ。(ヨシアキの眼帯を外す)…なんか…そんなに悪いように
        も見えないけど。

ヨシアキ   (手で遮って)素人に分かるわけないだろ。医者が言ってたよ、パッと見てわかるの
        はたかが知れてるんだって。外は何ともないけどさ、中がずいぶんとやられてる
        んだそうだ。これが一番タチが悪いって。(眼帯を直す)

アヤ       そうなの…なんて病気?

ヨシアキ     これか?これはな…、トレハロース・エキノコックス…ってんだそうだ。ほっとく
        と失明するから早いところ手術しなきゃならないってんだけどさ、何しろ二百万っ
        ていうだろ?そんな急に用立てできないし。でもこれでおれは眼が治るよ。おまえ
        にはムリ言っちゃって、恩に着るよ。じゃ、おれはさっそく医者へ行って、手術し
        てもらって…。

アヤ       ええ?もう帰っちゃうの?もうすぐ上がるし、今夜はうちに泊ってってよ。

ヨシアキ     いやいや、だめだ、医者からアルコールとか激しい運動は禁止されてるんだよ。目
        玉が破裂するかもしれないって。

アヤ       大丈夫だよ、一晩くらい。ねぇ、話したいことがいっぱいあるの。だって、会うの
        二ヶ月ぶりじゃない。

ヨシアキ     いや、おれも話はいっぱいあるんだけどね、今日のところは勘弁してくれ、何しろ
        一刻を争うんだ。

アヤ       なによ、上がるまで待っててよぉ、だって、滅多に会えないじゃない、今夜は泊っ
        てってよ。

ヨシアキ     そんな…そう、困らせんなよ。おれだって泊っていきたいのは山々だよ、だけど、
        眼を治さなきゃしょうがないだろ。せっかく金を作ってくれたってのに。だからさ、
         とにかくおれは今夜は帰るよ。

アヤ       どうしても帰るって言うの?何さ、あたしがせっかく用意して待ってたのに、お金
        持ったらすぐ帰るだなんて…イヤ…やだよ。帰るんだったら、そのお金返して。あ
        たし、上げたくない。

ヨシアキ    …何?おれが泊ってかないと…この金、渡さないってのか?ああ、そうか…わかっ
        たよ。せっかくだけど、これ、お返ししますよ。(封筒を出してテーブルに叩きつ
        け立ち上がる)邪魔したな!

アヤ       ちょ…ちょっと…怒ったの?

ヨシアキ     あたりまえじゃねえか!おまえみたいな箔情な女がいるかよ!もしおれが泊ってく
        ったってなぁ、『早く帰って手術してもらって』って言うのが愛情じゃねえの
        か!?それを、泊ってかないと金は渡さないって、そんな金でなんか治せるか!

アヤ       ヨシさん…じょ、冗談だよ…。

ヨシアキ     冗談にもほどがあるね。

アヤ      (ヨシアキにすがって座らせる)ね、ご、ごめんなさい、悪かったから、このお金…。

ヨシアキ     いらねぇや!!

アヤ       そ、そんなこと言わないで、…頼むから、このお金持ってって…。(封筒をヨシア
        キに持たせるが振り払われる)お願いだから…(泣き始める)お願いだから…怒っ
        ちゃいや…怒っちゃいや…。 ね、お願いだから、怒らないで…。こ、このお金持
        ってって…お願いだから…ヨシさん…。

ヨシアキ     …おれは、別にお前に謝らせたり、お金貰ったりするほど値打ちのある男じゃない
        けどさ、今は病気だろ、だからムシャクシャしてさ、つい心にも無いこと言っちゃ
        うんだよ。こっちこそ悪かった。じゃ、本当にこの金もらって今から医者行ってい
        いんだな?

アヤ      当たり前じゃない、早く行って。

ヨシアキ     そうか、ありがとな。(封筒をポケットにしまって)早けりゃ、早いほどいいって
        言うからさ。じゃ、今からさっそく行ってくるわ。

アヤ       うん、そうして、じゃ、外まで送るよ。

ヨシアキ    いや、構わなくていいよ。会計は…。

アヤ      ううん、あたしのとこから引いてもらうから。じゃ、途中まで。

     アヤ、ヨシアキを支え立ち上がる。

アヤ     (黒服に)お願いします、0番さまお帰りです。(ヨシアキに)ヨシさん、何かあっ
        たら知らせてよ、絶対ね…。何でもいいんだよ…お願い。じゃ、気を付けて…。

     ヨシアキ、手を振って奥から退場。
入れ替わりにキース登場。

キース     アヤさん、今のお客様の忘れ物が。(携帯をアヤに渡す)

アヤ      ほんとだ、ヨシさんの。あたし、預かっておくよ。手術終わったらまたすぐ来てく
        れるよね。(携帯を見て)あら、メール開きっぱなしになってる。さっきまで見て
        たのかな。誰からだろ?『エミ』って、女からだ。

キース     それと、三番のお客様がお待ちです。

アヤ      はーい、すぐ行きますよ…。なんて書いてあるんだろう…『件名:このまえのこ
        と』、わあ、ブリブリのデコメだあ、へぇぇ…。なになに…こないだは、ヨシたん
        と朝までずっと一緒にいられて、エミすっごく嬉しかったよ、ハート。…医者に
        止められたなんて言っておきながら、こんな女に会ってるんだ…んー、もう油断の
        ならない…。

キース     アヤさん。

アヤ      はーい、ただいま行きますよ。(と言いつつ無人の0番テーブルに着く)『例の、
        お兄ちゃんの借金のカタで田舎の金持ちの愛人になるか五百万出すかって話だけど。
        エミの先輩に相談したら三百万はなんとかなったんだけど、残り二百万ができなく
        てヨシたんに相談したら、アヤさんに何とか作らせると言ってたのどうなりました
        か?』作らせる!?手術代って嘘で、あの女のところへ持ってったんだ…。トレハ
        ロース・エキノコックスなんて聞いたことない病気だし、どうも様子がおかしいと
        思ったんだ、畜生…。

キース     アヤさんてば。

     マネージャー登場。

マネージャー  アヤ、何してるんだ!

アヤ      ハイッ!行きますよっ!!!

キース     あの、僕連れて行きます。

     マネージャー退場。

アヤ      うるさいよ、こっちはそれどころの騒ぎじゃないわよ…。なになに、それがきっか
        けでアヤさんとヨシたんが結婚しちゃうんじゃないかとすっごく心配です、ウエー
        ン。泣いてんじゃないわよ!『頼る人が他にいないエミのこと、絶対に見捨てない
        でね、らぶらぶ。ハート。』何がらぶらぶよ!ちきしょう…。

キース     アヤさん、行きますよ。

アヤ      ああ…ヨシさんだけはこんな事無いと思ってたのに…。エミってうちのあのエミリ
        じゃないでしょうね。キース、エミリは?

キース     さあ…。

アヤ      あいつ、ぺシェの箱持って来いつったのに、ブッチしやがったな。今度会ったらた
        だじゃおかないんだから!

     アヤ、キースに引きずられるように退場。暗転。


     アヤとヨシアキがいた0番テーブル席に、
     帰り支度をしたエミリが座ってタバコを吸っている。
     そこに眼帯を外したしたヨシアキが入ってくる。

エミリ      やだ、ヨシたん。どうしたの?帰ったんじゃなかったの?こんなとこアヤさんに見つかったらまずいよ。

ヨシアキ     いや、ここに携帯忘れてさ、こっそり取りに来たつもりだったんだけど。

エミリ      もう誰か片付けたよ。店の人に聞いてこよっか?

ヨシアキ     いや、とりあえずアヤに聞いてみる。エミリんの電話貸して。

エミリ      えー?

ヨシアキ     店のやつじゃなきゃバレないって。ほら、約束のお金。(エミリに封筒を渡す)

エミリ      あー、ありがとー!ヨシたんってほんとに心の優しい人だね!(ヨシアキに携帯を渡し抱きつく)

ヨシアキ     エミリんのためだもん、どんな嘘だってつくよ。(電話をかけ始める)

     ツグハルのテーブル。いらいらとタバコを吸っている。

ツグハル     アヤのやつ、一体何をやってんだろ。ったく女ってのはしょうがねぇなぁ…。った
        く、何してんだ…あ〜ぁぁ…なんだよ、タバコ切れちゃった。アヤ持ってないかな
        …(アヤのバッグを勝手に開ける)お、携帯が鳴ってる。(電話を耳に当てる)

ヨシアキ    もしもし、アヤか?おれだ、ヨシアキだよ。

ツグハル   (携帯を離し)お、男だ!しかも馴れ馴れしい口きいてやがるなー。おれという男が
        いるってのに…まぁ、こういうのも仕事のうちだしな。ひとつ聞いてやろう。(声
        を作って)もしもし、なあに?

ヨシアキ    なんか声が違わない?

ツグハル    え、そ、そんなことないわよ。

ヨシアキ    まあいいや、ところでさっき俺携帯忘れたみたいなんだけど、見つけてくれた?

ツグハル    う、うん。

ヨシアキ    助かったよ、どこでなくしたかと思ってた。ほんとお前には恩に着るよ。これから
        お前のくれた二百万で眼の手術に行ってこようと思ってたんだけど、後で取りに行
        くから、店に置いててくれ。今大丈夫なのか?ツグハルってやつ待たせてるんだ
        ろ?

ツグハル   (また携帯から離れて)な、…何でこんなところでおれの名前が出てくるんだ?(携
        帯に)うん、まあね。

ヨシアキ    お前も頭がいいよな、得意先のイカレポンチに親子の絶縁だって嘘ついて用意させ
        るなんて、さすがおれの女だよ。じゃあ、またあとでな、愛してるよ!(電話切
        る)

エミリ     愛してるよだってー。

ヨシアキ    ほんとに愛してるのはエミリんだけだよ。

エミリ     ふふふ。 

ツグハル    イカレポンチだと?こ、この野郎に渡しやがったんだ!親父が来てたんじゃねぇン
        だ…ふざけやがって、あの女…。
      アヤ、キースに連れられてツグハルの隣に座る。

アヤ      お待たせ、ごめんねー、他でも来店されたお得意さんがいて。(携帯を持っている
        のに気づく)ちょっと、それあたしの携帯でしょ、バッグ開けたの?大事な物だっ
        て入ってるんだよ?まったく、タチが悪いんだから!

ツグハル     た、タチが悪い!?水商売は恋愛で騙すのが商売だ。してみりゃおまえはキャバ嬢
        としては最高だ、まったく大した女だよ!

アヤ       なによ、あんた!まったく、あたしにだってムシの居所がいい時と悪い時があるん
        だよ、言わせておけばポンポンポンポンと、何が言いたいのよ!?

ツグハル     何じゃねぇよ!お、おまえ…本命のいるのは知ってんだ!

アヤ       本命があるのは知ってんだよ。

ツグハル     へっ、こっちゃ五十二万もたかられた!

アヤ       こっちは二百万たかられた!!

ツグハル     な…そ、その上、眼が悪いまで聞かされりゃぁ世話ねぇよ!!

アヤ       眼なんか 悪くもなんともなかったんだ!

ツグハル     何を言ってやがんでぇ!本命に金くれてやったんだろう!

アヤ       本命に金くれてやったんだろう!

ツグハル     何を…この野郎、人の真似ばっかりしてやがって、この野郎!

アヤ       な、何すんのよ、ぶったわね!男はあんただけじゃないんだよ!

ツグハル     こ…この野郎、殺してやる!(つかみかかる)

アヤ       いったー、痛いじゃないの、この野郎!!!殺すなら殺せーっ!

ツグハル     あたりまえだ!望みどおり、ぶっ殺してやらぁ!

     人々が止めに入る。
     騒ぎを聞いたエミリとヨシアキ、そーっと店から出ていこうとするが、アヤとツグハルに
     見つかる。
アヤ      ちょっと、エミリ! こっち来な! どういうことか説明してもらおうじゃないの、
        え? よくもうちらをたぶらかしてくれたわね。

ツグハル    おい、お前だろ、ヨシアキっていう嘘つき野郎は。さっきはよくもイカレポンチと
        言ってくれたな。

エミリ     え? あのお金ってアヤさんのだったんですか? ごめんなさい、そんなこと私ち
        っとも知らなくて。

ヨシアキ    あ、あ、ツグハルってあんた、さっきの電話は…。

アヤ      なに白々しいこと言ってんの、あんたヨシアキさんにメールしただろ!

ツグハル    アヤに今までいくら貢がせたんだよ! アヤの金はなあ、元々はおれの金なんだ
        よ!

エミリ    (思い立って)ツグたん、このお金返すよ。やっぱり悪いことして集めたお金もらっ
        ても、エミリ嬉しくない。(封筒をヨシアキに)アヤさんとお幸せに。

ヨシアキ    えっ。

ツグハル    そうだよ、返せよ!

ヨシアキ    じゃあ、おれもこの金は返す。(封筒をアヤに)

アヤ      えっ。

ヨシアキ    嘘つきの俺なんかより、アヤにはそっちの彼の方がずっと本命にふさわしい男だよ。

アヤ      …あたしは、お金なんかより愛が欲しかったの! こんなお金、あたしだって要ら
        ない、お金だったらいくらでもあげるんだから、一緒に居てほしいの!(封筒を床
        に投げつける)初めてちゃんと好きになった人なんだもん…。

ヨシアキ    じゃあ、この金はどうすんの?

    4人、無言で封筒を見つめる。
    少し間があるが、次の瞬間ツグハルが封筒を拾う。

ツグハル    そんなら、ふられた慰謝料だ!(店を走り去る)

エミリ     あ、私の二百万! (ツグハルを追って外へ出て行く)

アヤ      は? これ集めたのはあたしでしょ?(追いかけて出る)

    続けてヨシアキも店を飛び出して行く。
    その後クラクション、急ブレーキ、衝突の音。暗転。
エピローグ

    救急車のサイレンの音。マネージャーにスポットライト。

マネージャー  皆様、大変お騒がせいたしました。本日はお会計の方は結構でございます。お気を
        つけてお帰りくださいませ。またのご贔屓をお待ちいたしております。

    キースが走ってくる。

マネージャー  お、キースご苦労だったな。さっきの金は回収できたか。

キース     はい。(封筒をマネージャーに渡す)それと、病院からの連絡なんですが…。

マネージャー  やっぱりダメだったか。

キース     はい、歩道でもみ合いになってた所にタクシーが突っ込んできて…。この二百万、
        どうします?
        
マネージャー  そりゃあ、やっぱり葬式代だろう。

キース     あ、そうか。カドノさんとこでやってもらえばいいんですね。

マネージャー  あんだけアヤが「お気に」だったんだ。惚れた女の弔いできりゃ男冥利だろ。

キース     でも、4人分ですよ?

マネージャー  客の分は知らないよ。あーあ、にしても今日は大損害だ。二人ともナンバークラス
        だったのに、また女の子探して来なきゃ。

   ぼやきながらキースとマネージャー、退場。
   暗転。間を置いて音楽。
    
                                   (了)

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