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真夜中のお茶会コミュの戯曲「れじどんす・るもんど〜江戸落語「長屋花見」より〜」

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大急ぎで書いている落語原作シリーズです。
ブクオフで「ヘタリア」を読んでしまったせいか、
江戸の貧乏長屋じゃなくて、
外国人がいっぱい住んでるとこにしたら?と思って。
最初に「金さん」と「留(トメでなくリュウと読んでしまった)さん」が出てきたので、
いける!と思いました。
家賃滞納はフランスならありそうだし(?)
でも人種差別とか言われかねないですねたらーっ(汗)

そして見事にG8の中で、またカナダを忘れていました(爆)
でも多分他の国より一番許してくれそうだよね…?



《登場人物》



ツキモト…205に住む日本人

金…204の住人(男性)韓国人

劉…203の住人、中国人

ドラヘ…202の住人(男性)ドイツ人

タイガ…201の住人(男性)ロシア人

シクスピア…101の住人、アメリカ人

スルトクレ…102の住人(男性)ユダヤ人

バンブ…103の住人、イタリア人

ビクトリアン…104の住人、イギリス人

大家…フランス人

メイプル…105の住人(男性)カナダ人

《舞台》

 フランス革命記念日の前日。
 フランスのとある郊外にある「Residence LeMonde(世界)」という名のアパルトマン。
 その隣に日本かぶれのフランス人の大家が住んでいる。

コメント(12)

第一幕 第一場

ツキモトと金がドアの前にいる。

金      で、一体、なに?
ツキモト   いゃぁ、実は、大家さんがね、私に住人のみなさん集めて来てくれ、って言うものだから。
金      ふーん、何の用だろうねえ。
ツキモト     なんだか分からないけど、私はなんとなく家賃の催促じゃないか、と思います。
金      大家が家賃をどうするんだ?
ツキモト   どうしようったって、決まってるでしょう、みんなから家賃を取ろうってことですよ。
       (呼び鈴を鳴らして)劉さーん、105のツキモトです。
金      家賃を?大家が?そりゃぁ、図々しい話だな。
ツキモト   図々しいってことはないでしょう。

劉、ドアを開ける。

劉       こんにちは。あ、金さんも。
ツキモト    こんにちは。あのですね、こうこうこういうわけなんです。
金       しかし、なんだなぁ、大家がわざわざみんなを集めて催促をするっていう
        からには、みんな相当に溜めてるんじゃないかと思うんだけど。
ツキモト    どうですか?劉さんちなんか。
劉      いやぁ、面目ないね。
ツキモト   面目ない、なんてとこを見ると、あんまり持ってってないんですね。
劉      いや、それがね、一回払てあるだけに、面目ない。
金      そんなら何も面目ないなんてこたないよ。家賃なんてモノは毎月一回払
        えばそれでいいもんだ。
ツキモト   金さん、そりゃ、毎月一回払ってってりゃ、誰も面目ながりはしないでしょ。
金      まぁ、そう言やあそうだ。じゃぁ、半年前に一回くらいか?
劉      半年前なら大威張りね。
ツキモト   一年前?
劉      一年前なら面目なくないね。
金       じゃあ、三年くらいか?
劉      三年前なら大家の方から礼に来るね。
ツキモト   来ませんよ。じゃあ一体、いつ持ってったんです?
劉      まぁ、月日の経つのは早い言いますが…あれは私がここに越して来た月だたから、
        指折り数えて十八年くらいにはなる?
ツキモト   十八年? 劉さんて学生じゃないんですか…?金さんちは?
金       なにが?
ツキモト     いや、家賃は?
金      あれ、家賃…そんなものは、どうだっていいや。
ツキモト   いや、家賃を払ってるかどうか、聞いてるんですけど。
金      ツキモトさんの気の済むように、どっちでもいいようにしといてくれよ。
        あんたに任せるから。
ツキモト   そんなもん任されたくありませんよ。

ドアを出た劉と、金とツキモト、次のドアの前へ。

ツキモト     (呼び鈴を鳴らして)ドラヘさーん、105のツキモトです。
劉        劉ある。
金        金もいるよ。

ドラヘ、ドアを開ける。

ドラヘ       こんにちは。
ツキモト     こんにちは。あのですね、こうこうこういうわけなんです。
劉        ドラヘさんとこはどうなてる?
ドラヘ       まことに、かたじけない。
ツキモト     いや、謝られてもしょうがないですけど、家賃、どうなってます?
ドラヘ       その、家賃、というのは、何です。
金       おいおい、家賃、知らないやつがいたよ!
ツキモト     しょうがないなぁ…。じゃあ次に行きましょう。

ドアを出たドラヘと、劉と金とツキモト、次のドアの前へ。

ツキモト     (呼び鈴を鳴らして)タイガさーん、105のツキモトです。
ドラヘ       ドラヘです。
劉        劉ある。
金        金もいるよ。

タイガ、ドアを開ける。

タイガ      こんにちは。
ツキモト     こんにちは。あのですね、こうこうこういうわけなんです。
ドラヘ      タイガさんはどうしてる?
タイガ      何が?
劉       何が、じゃないよ。家賃よ。
タイガ     家賃?そんなもん、未だにもらったことがない!
金        あれ、この野郎、自分が家賃もらう気でいやがる。家賃てものは、
         あんたが大家に持ってく金じゃねぇか。
タイガ     おれから?へぇ、そいつは、初耳だなあ。
ツキモト     ほんとかなあ…。これで一階の住人全員集まりましたよね。
         じゃあ二階に行きましょう。

ドアを出たタイガと、ドラヘと劉と金とツキモト、退場。
暗転。
第一幕 第二場

大家の家の前に集まる住人達。

タイガ      肝心の大家さんが留守じゃないか。
劉        まあ、待つよろし。
金        シクスピアさんは?あんたはなかなかきちんとしたとこがあるから、
         家賃は持ってってるだろう?
シクスピア    いや、そう云われると恥ずかしいが…確かに持ってってる。

どよめく住人たち。

タイガ      えらい! 感心だ。
劉        いつ持てた?
シクスピア    そうだなぁ…おれが、おふくろの背中におぶさって…。
ツキモト    何十年前の話ですか。
劉        中国四千年の歴史からすれば一瞬ね。
ドラヘ      古過ぎる…。
金        スルトクレさんは?
スルトクレ    家賃については、実は涙なくては語れぬ物語が…まずは、ひととおり聞いておくれ…。
ツキモト     芝居がかってきたなあ…。
タイガ      まぁ、語ってみな。
スルトクレ    じつは、五年以前に亡くなった父の遺言で…。臨終の枕元におれを呼んで、
         苦しい息の下でこう云ったんだ。『これ、せがれや…おれも長い間、
         このアパルトマンに住んでいたが、いまだに家賃を払ったことがねぇ。
         どうぞお前の代になっても、家賃を払うような、そんな大それた考えだけ
         は持ってくれるなよ…』と、涙ながらにおれの手を握った…まもなく、
         息は絶えにけり…神のみこころのままに…。
金        どこの世界にそんな遺言する親父がいるんだよ!
シクスピア    バンブさんとこは?
バンブ     家賃についちゃ、涙ぐましい物語が…まずはひととおり…
金        もういいよ! どうせ親父の遺言だってんだろ!
バンブ     あたり。
ツキモト    なんだか、もうどうしようもないな…。
ドラヘ      ビクトリアンさん、お宅は?
ビクトリアン   実は店賃についちゃ、浮世の義理は辛ーいって話がありましてねぇ…。
         まずはひととおり…。
劉        またあるよ。
タイガ      手っ取り早くたのむよ!
ビクトリアン   払ったのは十八年前だとか、家賃を知らないとか。ご近所一帯が店賃を
         出してないってのに、うち一軒が払っては、近所付き合いの手前、面目が
         立たなくてね。家賃は払いたい。払いたい気持ちはやまやまだけど、それ
         は自分の胸にグッと堪えて、ウキヨのギリとの板挟み…。
金        なにを下らないことを言ってやがる!
ツキモト     なんで逆に変な日本語ばかり知ってるんだろう。
金        しかし…こりゃぁどうにもしょうがないな。こうして聞いてみると、今月
         入ってきたツキモトさんを除いて、だれ一人払ってないわけだ。
ビクトリアン   ことによると訴訟で、追い出しを食わせられるかも知れないな。
シクスピア    まぁ、そうなったらそうなったときのことだ。とにかく大家さんを待って
         みようじゃない。
バンブ      そうだ、みんな、なるべく頭を低くしてるんだ。そうしときゃ、大家さん
         が小言を言ったって、小言がスーッと頭の上を通り越えていくからさ。
ドラヘ      本気か?
劉        あ、帰ってきたある。

大家、新聞を読みながら登場。

金        …小難しいツラしやがって、新聞なんぞ読んでるぜ…。あの顔つきから
         して、やっぱり追い出しだな、こりゃぁ…。
タイガ      おいおい、脅かすなよ。
ツキモト     じゃあ、私挨拶行ってきます。(大家に近づいていく)
バンブ      みんな、頭、下げてろよ…。

めいめいの思いつきで頭を低くしようとする住人達。

ツキモト     大家さん、こんばんは。えぇ、みなさん集まりました。どういう用で
         しょうか?
大家        なんだ、そんなとこで寝そべったりヨガみたいなかっこしたり…。
         いいから、みんなこっち入って。(鍵開ける)
ツキモト     (住人達を見て)さすが、日本じゃ考えないわ…。あ、いいえ、お話だった
         らここで結構です。すいませんが、家賃のことでしたら、もう少し待っ
         ていただきたいんですが…。
大家       家賃?あぁ、そうか…そんなら心配しなくていいよ。今日は家賃のこ
         とで呼んだんじゃないんだ。えー、みんな、入ってきて。

住人達、大家の家に入って行く。暗転。
第一幕 第三場

大家の家のリビングに集まる住人達。

金       じゃあ大家さん、家賃はもう諦めましたか。
大家      いや、諦めたわけじゃないよ。
タイガ    おぉ、結構執念深いねえ。
大家      執念深いとはなんですか。ま、家賃はいずれ入れてもらわなきゃならな
        いけども、私だってあんな歴史だけはとりえのある建物をお貸ししてるん
        だし、家賃はそう気にしちゃあいませんよ。
ビクトリアン ええ、そりゃぁ、私らだって、あんなオンボロアパート借りてるんです
        から、家賃なんてぜんぜん気にしちゃあいませんから、大家さんもどうか
        ご安心なすって。
大家      だれが安心なんぞするもんですか。まあ、みんな楽じゃないでしょうけ
        ども、少しずつでも入れてくれなくちゃねぇ。だけど、楽じゃないと言え
        ば、近所でうちの建物のことを「無法横丁」なんて言ってるそうですね。
劉      無法横丁のおばけアパルトマンといえば、音に響いているあるね。
大家      なんだって、そのおばけアパルトマンてのは?
スルトクレ   部屋が十室あるのに、住民は九人しかいないから。
大家      そんなはずはない。ちゃんと一人は家賃を払ってくれてるし、あんたたちと
        合わせて十人でしょう。
バンブ    えぇ、まぁ、はじめのうちは確かに十人いたように思います。けどねぇ、
        どうも最近、メープルさんはいつ帰るかわからないんで、建物入り口の
        ドアが開けっ放しになってますね。
大家      おいおい、危ないなあ、それは。戸締まりがしてなくっちゃ不用心でし
        かたないよ。泥棒でも入ったらどうするつもりです?
金      泥棒? いやいや、うちの建物に泥棒なんか入らないよなぁ!?
ドラヘ     出たことはあるかもしれんが。
大家      ええ?そんな人聞きの悪い…。まぁ、今日はそんなことで呼んだんじゃ
        ないんだって。話は変わるけど、明日は革命記念日です。
ツキモト    あ、そういえば。
大家      外をぞろぞろと人が通るでしょう。
タイガ    みんなどこへ行くんですか。
大家      決まってるでしょう、前夜祭です。
金      へぇ、結構ですねぇ。おれたちだってあんな風にみんなで賑やかに出歩
        いてみたいもんですねぇ。
大家       そう、それなんですよ。みんなを呼んだ用ってのは…。
住人達     えぇ?
大家      ツキモトさんは先週日本からやってきたばかりだから、これからフラン
        スに慣れていかなくちゃいけない。みなさんも故郷の国を離れてここに来
        たけども、うちの町はど田舎だしパリのようにコミュニティができにくい。
        それに、うちの建物を外国人が多いせいで無法横丁だのおばけアパルトマ
        ンだの言われるのは癪に障ってしょうがない。ここはひとつ、ツキモトさ
        んの歓迎も兼ねて、陽気にみんなで前夜祭の花火見物に行こうじゃないか。
        どうだい?
金       へぇ…花火ねぇ…で、どこへ行こうって言うんです?
大家      近所の公園で今夜打ち上げるそうだ。近間でいいから、どうだい?(ツ
        キモトに)フランス人も、花火と桜が大好きなんだよ。
バンブ    てことは、ここの連中がぞろぞろ出かけて、公園一回りして帰ってこよ
        うってわけですか?
大家      そんなぐるっと歩くだけなんてつまんないでしょう。やっぱりここは、
        飲み物とつまみをもってって、楽しくやらなくっちゃあ。
タイガ     飲み物、つまみですかぃ?てことは今から買出しに行くんですか?
大家      いやいや、そっちの方は私が用意したから安心して。あんたがたは身体
        だけ持ってってくれりゃぁいい。
ビクトリアン へぇ! 大家さんが酒、肴を心配してくれたんですか!?
大家      ああ、ここにサケが三本ある。それにこのベントー箱の中には日本のご
        ちそうが入ってるんだ。昨日、パリに行った時に買っておいた。つまみっ
        たってこれだけなんだが、どうだい? みんなで出かけるか?
スルトクレ    え?日本のサケが三本に?日本のごちそう?それみんな大家さんのおご
        りですか!?
大家      どうだい?行くかい?
バンブ    行きますよ。行きますとも…。それだけ用意ができてりゃぁ、公園はお
        ろか、南極へでも行っちまいます。
大家      ペンギンが花火しようってわけじゃないんだよ。あそこの公園でいいん
        だ。じゃ、みんな行くかい?
住人達    (うなずく)
大家      そうかい。そうと決まれば善は急げだ。さっそく繰り出そうじゃないか。
        それじゃ、スルトクレさん、今日はひとつ幹事を務めておくれ。
スルトクレ    えぇ、ぼくですか? 幹事…ってことになりますと、お毒味役ってこと
        で、ひとより余計に飲み食いもしなきゃぁなりませんねぇ。
金      おぃおぃ、幹事になるとそんな役得があるのか?じゃぁ、大家さん、お
        れも幹事に立候補します。
大家      あぁ、じゃ、あんたさんも幹事におなり。
シクスピア   じゃ、これで出かけましょう。さぁ、みんな、これから大家さんにごち
        になるんですよ。

口々に、というかバラバラに礼を言う住人達。

ツキモト   どうもありがとうございます。
タイガ     ごちそうさまです。
ドラヘ    哀れな親子が助かります。
シクスピア   ドラヘさん、子持ちだったの?!
ドラヘ     今驚くとこじゃないでしょ。
大家      おぃおぃ、そんなにみんなに礼を云われると、ちょっと決まりが悪いな
        ぁ…。まぁ、後の喧嘩は先にしとかなきゃならんと言うから、ちょぃと種
        明かしをするとだね…。
劉      種明かし?
大家      あぁ、実はこの瓶の中身は本物のサケじゃないんだ。
住人達    えっ!?
大家      フランスでは、野外でアルコールは飲めないんだ。それに、日本のサケ
        は高くてね。お店の人に「茶」というのを教えてもらって、それを薄めて
        入れてあるんだ。サケに見えるだろう?
ツキモト   え…、あの、これ…番茶ですか? 
ビクトリアン  それじゃあ、酒盛りじゃなくて、お茶会?
大家      まぁ、そういったところだね。
金       でも、大家さん、ごちそうは本物なんでしょう?おれ、日本のごちそうな
        ら知ってるぜ。
大家      まぁ、ふたを取って、自分で見てごらん。お店の人に頼んでもらったんだ。
金      (覗き込んで)うわあ、ひっくりかえってる!ひでえ!
ツキモト   (覗き込んで)おせちだったんですか。あ、中身はすごいな。エビに紅白な
        ますに昆布巻に、黒豆、数の子、ごまめ、蒲鉾、伊達巻、栗きんとん…。
大家さん    あれ、昨日持って帰る前はちゃんと入ってたのに。
スルトクレ  (覗き込んで)ダメだな、ぼくはエビは宗教上食べられないよ。
ビクトリアン  私も、ベジタリアンだからお肉食べないよ。動物系の油もね。
ドラヘ     なんだこの、黒いぐるぐる巻いたのと、小さい骨の曲がった茶色い魚は。
シクスピア   ぼくに言ってくれればカリフォルニアロールでも買ってきたのに!あれは
        転がってもすでにロールだからね、あっはっは。
ツキモト    皆さんご心配なく、そもそもなますの酢がぶちまけられて、普通に食べら
        れそうなのは昆布巻とごまめと数の子、あとなますそのものくらいです。
        これじゃおにぎりの具だけみたいなもんだけど…。 
大家      まぁ、いいじゃないか。見た目にはジャポネーズで、誰にもわからない。
        外からは日本のごちそうでサケ呑んでるように見えてこれぞゼンだよ。
ツキモト    その使い方、最早訂正できなくなってんだろうなあ…。
金      そりゃぁ見えるでしょうよ。見えますけどね、やってる当人としちゃね
        ぇ…どうだい? みんな、これでも出かけるかい?
バンブ    え、サカナの卵とピクルスとマメ?それは、あんまり魅力的じゃないな…。
タイガ    あ、そうだよ、おれこの頃胃の具合がよくないんだ。カブならやっぱ煮
        込んだボルシチがいいな!
大家      ほう、そうですか。分かったよ。それなら、溜まってる家賃を明日こそ…。
タイガ    お、大家さん、そんな脅かしっこ無しですよ…。
シクスピア   みんな、大家さんがせっかく用意してくれたんだから、その気持ちに
        応えて、行こうじゃないか…忍びがたきも忍び…。
第二幕 第一場

歩いている住人達。

タイガ   そういえば、こないだの晩さ。
劉     うん。
タイガ    眠ってたら、天井の方がやけに明るいと思ったら、お月様よ。
劉       おまえとこは寝たまま月が見えるか?
タイガ    あぁ、よく見える。
劉      どうして?
タイガ    どうもうちは薄暗いから、出窓をつけようと思ったんだけどな。そんな
       金ないもんだから、天井の方にこう、ブーン!と穴を開けてみたってわけ
        だ。だから、寝ながらにして天体観測だぞ。
劉      それは風流あるね。
タイガ     やってみな、二階の特権だぜ。
劉      あぁ、さっそく帰ったら…。
大家      こらこら、家賃も払わずに、うちを壊すやつがあるか!
タイガ    すいません…。

住人達、公園の近くまで行く。賑やかにポップな音楽が聞こえてくる。

ツキモト   この町にもこんなに人がいたんだなあ…。
スルトクレ   しかし、大家さん、ずいぶん大勢、人が出てますね。ぇ
大家      なんせフランス一のお祭りだからね。
スルトクレ    この人通りを見て、考えたんですけどねぇ…。
大家       なにを?
スルトクレ   これだけの人から一ユーロずつもらっても大変なものですぜ。
大家      そんなみみっちぃことを言うもんじゃぁねぇ。もっと大きなことを言わ
        ないか!?
金      大家さんッ!
大家      な、なんだ?
金      最近ハンカチで鼻をかみませんねぇっ。いつも思ってたけど、あれって
        一回かんだのはそのまま捨ててたんですよねえ?
大家     …よしなさいよ、下らないよ。通る人が笑ってるじゃないか。しょうが
        ないなぁ、まったく…。お、着いたぞ。
ツキモト   うわあぁ、賑わってるなあ。
大家      さて、この丘の上の方が見晴らしがいいぞ。(先に行こうとする)
バンブ     いや、なるべく下の方へ行きましょうよ。
大家      下の方?
バンブ     下の方がいいですよ、下の方。な、みんな。
タイガ    そうそう。
大家      どうして? 下の方はほこりっぽいよ?
バンブ     いゃぁ、ほこりなんかどうでもいいんですよ。それよりね、上の方で本物
        を呑んで、食ってるでしょ。ひょっとしたら何かの拍子に、ソーセージか
        何かが転がってこないとも限らない…。
大家      そんな賤しいことを云うんじゃぁないよ。まぁ、どこでもいいや。あん
        たたちの好きなところへタタミを敷いて。
バンブ    タタ?…そうそう、タタミでした。タタミ、どこ行った?

金とスルトクレ、いつの間にかみなに遅れて、立ち止まって羨ましそうに見ている。

スルトクレ   いいなあ、俺も、シャンパンくらい呑みたいよ。
金       ねね、おねーちゃん、それ一杯もらってもいい?
シクスピア    おぃ、見ろよ、タタミの係りを。本物呑んでんのを見てるぜ。おーい、
        タタミ! タタミだよ!おぃ、タタミを持って来なよ!…ぜんぜん、気が
        つかないねぇ。あ、抜け駆けで他人からもらおうとしてる。
劉       図々しいあるね。
ビクトリアン そんなんじゃぁダメだよ。本人はタタミなんか持ってるつもりじゃない
        んだから…。おーい、タタミのビニールシート、持ってこい!
大家       おぃおぃ、タタミのビニールシート とはなんて言い草だ?
ビクトリアン だって、そう言わなくちゃ気がつきませんから…。
金・スルトクレ  (慌ててやってくる)
スルトクレ    ごめんごめん、いやね、あすこで、あんまりうまそうに本物やってるも
         んだから、つい…。
大家       こっちだって始めるよ。さぁ、タタミを敷くんだ…。
住人達     (ビニールシートを広げ始める)
ツキモト     本物ったって、お酒は外で飲んじゃいけないって…。
タイガ     そりゃワインのことだろう。フランスでワインなしのお祭りなんて考えら
        れるか?
ツキモト    え、えー、ワインだってお酒じゃないの…?
大家     (バンブに)おぃ、どうするんだ、外にコップなんか置いて。
バンブ     こうやって、一列に坐りましてね、通る人に…。
大家      物乞いやってどうするんだよ。みんなでまぁるくなって坐れるように敷
        かなきゃいけないだろ…。じゃぁ、さっそくとサケの瓶を真ん中に出して、
        コップをめいめい取りな。さぁ、きょうは私のおごりだと思うと気詰まり
        だろうから、ンなこた忘れて、遠慮なくやってくれな。
金       だれがこんなモノ、遠慮して呑むやつがいるもんか…。
大家      なにィ?
金       いぇ、こっちのことで…。
大家      さぁ、幹事、ぼんやりしてないで。どんどんオシャクをして回らなきゃ  
        いけないよ。
スルトクレ   え、オシャクってなんですか?
ツキモト     あ、じゃあ私がやりますよ。(瓶を取って)じゃぁタイガさん、一杯ど
        うぞ。

タイガ     そ、そうかい?じゃぁ、ついでもらおうか…。ほんの少しでいいよ。な
        んせ日本のチャはあんまり…。
ツキモト   (遠慮なく注いでしまう)
タイガ     …お、っとっとっと…とっと、も、もういいよ!おぅ!少しでいいっての
        に、おれに何かうらみでもあるのか?

ツキモト    いえ、す、すみません。
大家       なんだい、日本のオシャクはそういうもんだ。いっぱい注いでもらった
        ら喜ばなくっちゃいけないんじゃないか。

タイガ      喜べって…冗談じゃないや…おれは便所が近いから、あんまり水物はや
        りたくねぇんで…。

バンブ      じゃ、おれにくれよ。さっきから喉が渇いてしょうがないんだ。(ツキ
        モトに注いでもらう)うん、うん…なるほど、へへっ、昔一度だけサケを
        飲んだことがあるけど、こりゃぁ色だけは本物そっくりだ。(飲んで)こ
        れで呑んでみると違うんだからなぁ…ねぇ、大家さん。

大家       なんだ?

バンブ     大家さん、いいサケですねぇ。

大家      そうかい、そりゃぁ嬉しいことを言ってくれるねぇ。

バンブ      こりゃぁ、ウジですか?
ツキモト   (吹き出す)
大家      サケがウジってことがあるか。ナダだよ。ナダの酒とお言いなさいよ。
バンブ    いゃぁ、これだけの酒ともなると、ウジですね。
大家      サケに詳しいなら、イッコンけんじましょうか、くらいのこと、言って
        みなさい。
バンブ     イ、イッコン、ケンジシマショウ?
ツキモト    私でもそんな日本語知らないんですけど…。
バンブ     じゃぁ、金さん、イッコンケンチジマショウ。(瓶を金にぐいと突き出す)
金      いゃぁ、いいよ。
バンブ    おぃ、断るなよ。みんな呑んでるじゃないか。あんたひとりだけ逃れよ
        うったってそうはいかないよ。
劉       これもすべて前世の因縁だと思って、諦めるある。
大家      おぃ、妙な勧め方しなさんな。あれ、ビクトリアンさん、あんた、さっ
        きからみてるけど、ほんのひと口しか呑まないな。どんどんおやりよ。
ビクトリアン  いゃ、私は下戸なので…。
大家      そんなこと言わずに、やってごらんよ。このサケはいいサケだから、下
        戸でも呑めるよ。
ビクトリアン えぇ…私は普段、あまり冷たいのは飲まないので。
大家      そうかい?冷やはやらないのかい?
ビクトリアン ええ、いつも沸かしたのをやってますから。
大家      沸かしてどうするんだよ、サケだよ…スルトクレさん、あんたも幹事だ
        からってオシャクばっかしてないで一杯やりな。
スルトクレ   下戸です!
大家      下戸なら下戸で、食べるものがあるじゃぁないか。花火が始まるまで
        の腹ごしらえといこう。
ドラヘ    …一難去ってまた一難ときたか…。
大家      なにぃ?あんたには特に好き嫌いはないんだろう?このカマボコを食
        べてみなって。(なますを差し出す)
シクスピア   それ、なますじゃないの? 
ドラヘ     ええ、じゃあ…(なますを口にして)う、こ、こりゃ、酸っぱい!
大家      なんだって、酸っぱいカマボコがあるもんか。これはカマボコなんです。
        じゃあツキモトさん、なんかお取りなさいよ。
ツキモト    ああ、じゃあ、卵焼きをひとつ…。(数の子を取る)
シクスピア   それは数の子…。
大家      しーっ!卵焼きだから、音を立てないように食べておくれ。
ツキモト    えっ?音を立てない?この卵焼きを音を立てずに食うのは至難の業だ…。
大家      そこを一つ、やっとくれ、と頼んでるんだ。それがゼンさ、やっとくれ。
ツキモト     そこを一つ、ったって(数の子をほおぼる)…あむっ…う、うぐうぐっ
        …うぐぐぐっ…!
金      おい、ツキモトさん、どうした、しっかりしなよ。
ドラヘ    かわいそうに、丸呑みにして、喉につっかえたんだ。背中をひっぱた
        いてやって。
劉      ツキモトさん、しっかり!(背中を叩く)

ツキモトの背中を叩くのと同時に花火が上がるドーン、という音。

大家      革命ばんざーい。ターマヤー。

暗転。
第二幕 第二場

少し時間が経っている。花火は止んで、またポップ音楽がどこかから聞こえる。

ツキモト   あー。た、助かったぁ…みなさん、数の…いや卵焼きには気をつけてく
        ださい、これを音を立てずに食べるのは命懸けですよ。
劉       フランスでは空気読んだ方が負けね、覚えるある。
シクスピア   フランスの花火もなかなかハリウッドばりに進化してきたよねえ。
タイガ     しばらく休憩かあ。
ビクトリアン  休憩ってことはまたにせサケですな。
住人達    (ため息)
大家      おいおい、どうも弱った連中だなぁ。あんたたちはどうも心構えが後ろ
        向きで良くない。気分直しに、幹事さん、景気良く酔っ払っておくれ。
スルトクレ    えっ!?酔うんですか?酔わないふりをするってんならできますけどね、
        酔ったふりなんて、考えたこともないよ…。
大家      そこをひとつ、場を盛り上げると思って酔っとくれ。別に恩を着せる気
        はないけど、お前さんの面倒はずいぶんみてるはずだよ。
スルトクレ  大家さんにそう云われちゃ、一言もありません。酔わせていただきます!
大家      まぁ、ご苦労だが、『一宿一飯の恩義』というやつだね。頼むよ。
ドラヘ     よしよーし、花火はもうすぐ終わりでちゅよー。(赤ん坊をあやしながら
        ツキモトに)大家さんの、「ひとつ」ってのは何が一つなんだ?
ツキモト    ええと、私にもよくわからないんです。
スルトクレ   それじゃぁ、大家さん。
大家      なんだい?
スルトクレ    はい、…酔いました。
大家      なんだい、そりゃぁ…そんな酔っぱらいがいるもんか…。じゃぁ、金さ
       ん、あんたも幹事だろう。さぁ、うまいところ酔っとくれ。
金      いやなときに幹事になっちゃったなぁ…えぇ、そりゃぁ幹事ですから、
        酔えと言われれば、酔いますけど、なにぶん手ぶらじゃ酔い辛いや…。
        そのコップを貸してくれ(コップを持って)よし、さぁ、酔ったぞぉ、あ
       ぁ、酔ったとも!
大家      お、その調子、その調子。
金      おれは日本のサケ呑んで酔ったんだぞ!茶で酔ったと思うかぁ、ふざけ
        んなあ!
大家      余計なことを言わなくていいよ。本物じゃないなんて誰も気づかないよ。
金      いゃぁ、断らないと気が違ったと思われちゃいますから。さぁ、酔っぱ
        らった。酔っぱらった。すっかりいい気持ちになってきたぞ。こうなりゃ
        ぁ土地でも売り飛ばしちまおう。
大家      いいねぇ、景気がいいよ。しかし、土地なんて持ってたのかい?
金      子どもの時に作った箱庭が…。
大家      なんだ…。
タイガ     よし、おれもやってやる。さぁ、酔った! 貧乏人だ、貧乏人だとバカに
        すんな!借りたもんなんかどんどん利息をつけて返してやるよ!
住人達    (タイガに喝采する)
大家      いいぞ、いいぞ。
タイガ    ほんとだぞ、大家がなんだ! 家賃なんか払うもんか!
大家      悪いサケだなぁ。どうだ、ビクトリアンさん、いいサケだろぅ。えぇ?
        サケがいいから、いくら呑んでも頭に来ないだろ?
ビクトリアン  頭には来ないけど、飲みすぎて腹がダブついて…。
大家      ドラヘさんはどうだい、酔っぱらった心持ちは?
ドラヘ    酔った心持ち?…そうですねぇ、去年の秋に池へ落っこちたときとそっ
        くりです。
大家      変な心持ちだなぁ。でもあんたは感心だ。うちの連中の手本だ。おぃお
        ぃ、みんなも、ドラヘさんにどんどんオシャクしてあげとくれ。

住人達がドラヘにお酌しようとすると、赤ん坊が泣き出してしまう。

ドラヘ    (赤ん坊を抱いて)あ、っすみません、こいつウンチしやがった。(脇へお
        むつを替えに行く)
金     おう、こうなりゃぁ、おれが、みんなの分もまとめて面倒見るから、どん
       どん注いでくれ!(住人達が群がるようにお酌)おっとっと、ずいぶんこぼ
       しちまった…。もっとも、こぼしたって惜しいような酒じゃぁねぇが…。さ
       ぁ、呑むぞ!
ツキモト    あっ、大家さん、大家さん。
大家     なんだなんだ?
ツキモト   近々、うちのアパルトマンにいいことがありますよ、きっと…。
大家      そりゃあ嬉しいねぇ。そんなことがわかるかい?
ツキモト   わかりますとも。
大家      どうして?
ツキモト   (コップの中を指して)覗いてご覧なさい。酒柱が立ってます。
大家     (覗き込む)

花火の音とともに暗転。しばらくすると、一人の男がスーツケースを持って登場。


男(メイプル) 出張から帰ってきたら、誰もいなくなってる…!
        やっぱりここはおばけアパルトマンだったのか…?

暗転。                             (了)

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