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真夜中のお茶会コミュの戯曲「少年残像」(完結)

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これもまた何年か前に、
十代の頃に好きだった漫画家、由貴香織里の短篇を元にしたもの。

こないだフランスの本屋で売られてて、ちょっと感動した目がハート

なんていうか、堺雅人さんが眼鏡で殺人鬼やってくれたらそれだけでいい、
そんな気持ちでばーっと書き上げた(原作も短いから)、
でも愛のつまった作品です。

ロルは藤原竜也とか小栗旬がイメージだったんだけど…今だと水嶋ヒロか佐藤健かなあ?
ニノかトマもいいかな。(ジャニかい)
BLがダメな人のために、女性がやればいいんじゃ…と思ったりもします。


イメージ音楽は特にないんですよね…。
なんか、メリーゴーランドのオルゴールが出てくるので、
そんな曲があればいいなと思ってます。

コメント(23)

「少年残像―Boy’ s Next Door―」

《登場人物》(声は常にマイクを通されるものとする)

エイドリアン・クレイ
ローレンス・ヒル(ロル)(女性が演じる方が好ましい)

ヴィクトリア(ヴィック)                   少年のエイドリアン 
ダラス                            道化師

エイドリアンの母・女1

女教師・女2                         ロルの母


看護師・女3                         テレビリポーター 
グレッグ                           ロルの父 
裁判官                            警官
弁護士                            陪審員長
検察官                            医者

ダラスの手下 1〜5
子ども数人
近所の人
報道陣

ウォルフガング・A・クレイ(ウォルフィ)…イグアナ

《舞台》

 暫定的に、「アルジャーノンに花束を」みたいな感じ。舞台後部には前後を隔てる低めのレンガの塀(随時移動可能)がある。一番奥にはスクリーン。
プロローグ


スクリーンに字幕現れる。

字幕        このまま 愛し 殺してしまえたら なんて幸せ

舞台中央に安置されている台の上に、横たわっているロルが青白く照らし出される。その前で嘆き悲しむ両親。

ロルの父      間違いなく…うちの息子です。
ロルの母      ローレンス!あああ、なぜ、なぜこんなこと…!

それをかき消すように海外のニュース映像が後ろのスクリーンに映される。
音声は日本語吹き替え。映像の横には別の字幕が映される。

音声        たった今、被害者が目隠しされて惨殺されるという、
          ロサンゼルスを震撼させた連続殺人事件の容疑者が逮捕されました。
          逮捕されたのは、なんと二十五歳の小学校教師、エイドリアン・クレイ。
字幕        愛してる 愛しているよ 僕の狂った世界の中で 君だけが 誰よりも醜くて
音声        ブラインドマン逮捕、逮捕です。
          ただ今ロス上空からヘリでお送りしております。
字幕        誰よりも綺麗 君だけが綺麗
音声        ブラインドマン連続少年殺人事件の最後の被害者、十六歳のローレンス・
          ヒルは、他の少年たちと同じく繁華街で売春を行っていた事が判明しました。
字幕        次の日には 紙くずになる 活字たちも スーツで武装された 
           即興のリポートも
音声        彼なら知ってますよ、人当たりのいい人で、まさかそんな…。
字幕        決して語ることのない たった一つのほんとうのこと

映像消える。
警官に付き添われ手錠をされたエイドリアンが登場し、報道陣がそれを囲んで押すな押すなの大騒ぎになる。

リポーター1    おい、出てきたぞ!
リポーター2    たった今、殺人鬼エイドリアン・クレイがロス市警に護送されます。

カメラのフラッシュと野次の喧騒。
後ろのスクリーンに再び字幕が現れる。同時にマイクを通した男性の声(英語)も流れる。

字幕         なぜみんな狂ったように叫んでいる?
男性の声       Why are they all yelling madly ?
字幕         ああ、そうか。
男性の声       Uh , I‘ ve got it .
字幕         この光の洪水 人々のざわめき そうだ 移動遊園地だ
男性の声       Flood of lights, hum of conversation…, yeah, it’ s a carnival.

途端に喧騒をかき消して、照明の色様々な光とともにカーニバルのにぎやかな音楽が流れ始める。
エイドリアンを囲んでいた一陣は四方に消え、手錠も消えている。
一段奥から帽子をかぶった道化師が少年のエイドリアンを連れて登場。

道化師        坊ちゃんも嬢ちゃんも寄ってらっしゃい、今日は年に一度のカーニバル。
           苦しいことなんて全て忘れて、楽しみましょう!
女の声        エイドリアン、お前の本当のお母さんは、この遊園地なのよ。
道化師       (帽子を脱ぐと中から包帯だらけのウサギのぬいぐるみを取り出し弄んでいる)
エイドリアン少年  (道化師の帽子からナイフを取り出す)
女の声        お前はあの帽子の中から出てきたのだから。
エイドリアン少年  (ナイフをエイドリアンに渡す)
女の声        さあ早く、エイドリアン。こんなもの、要らないのよ。

エイドリアン、ナイフを両手に捧げ、宙に向かって一気に振り下ろす。
音楽止んで、断末魔。
暗転。
第一幕 第一場


路地裏。
目隠しをされ死んだ少年と凶器のナイフを手に立ち尽くすエイドリアン。

エイドリアン     わかってるよ、お母さん。ほら、もう大丈夫。
           どうしようもなく汚いモノだから、いっそこの方が綺麗です。

ロル登場。
近づいてくる靴音に振り返るエイドリアン。そのナイフを持つ手が震え始める。
しばらく見つめあう二人。
反対側からダラスの手下も来る。

ダラスの手下1    おい、ロル!早くしろよ、またボスに怒られっぞ!

エイドリアン、我に返って居たたまれなくなり、ダラスの手下を突き飛ばし逃げる。その時コートから紙袋が落ちる。

ダラスの手下1    なんだよてめえ!(死体に気づき)う、うわあ!なんだよこれ、死んでんぞ!
           例の連続殺人、ブラインドマンじゃねえか!すげーっ、見ろよロル!
ロル        (紙袋を拾い、中から首輪とネームプレートを取り出す)

暗転。
後ろのスクリーンには街中をひたすら走るエイドリアンの映像。

エイドリアンの声   僕は人殺しだ、ニュースで連日報道され、
           ロサンゼルス中を恐怖に陥れている目隠し男、ブラインドマンだ。
           もう六人の少年と関係し、挙句に殺してしまった。
           僕はこの捩れた欲望と衝動を抑えることができない。
           僕は狂っているのだろうか?だがそんなことよりも、
           あの少年に顔を見られてしまった。もうおしまいだ、おしまいだ、おしまいだ!

暗転。
第一幕 第二場


子どもたちの遊ぶ声とともに明るくなる。子どもたちが走り過ぎて行く小学校の渡り廊下。
教材を抱えて歩いているエイドリアン。その後ろから女教師現れる。

女教師        クレイ先生、なんということでしょう!
エイドリアン    (ぎょっとして振り向き)な、何事ですか。

女教師、ヴィックとグレッグを呼ぶ。
グレッグはアザだらけで女教師にすがるように泣きじゃくっている。
ヴィックも少々傷ついているが、こちらは反抗的な態度。

女教師      見てください、このグレッグのアザ!
         全くヴィックの乱暴ぶりには呆れてしまいます!本当に女の子とは思えませんわ!
エイドリアン   ……(少し安堵して)また君か、ヴィック。
        (子どもたちに目線を合わせながら優しい笑顔で)今度のケンカの原因は?
ヴィック    (しばらくむっつりしているが、女教師につねられるか小突かれるかして促され)
         グレッグが…、「捨てられっ子」って言った!
エイドリアン  (ヴィックの話を一生懸命聞いていたが、グレッグに向き直り)グレッグ…、
         そういう言葉を何て呼ぶか知ってるかい?『偏見』だよ。
         この国を蝕んでいる昔からある病気だ。親がいない、
         それがたまたま君に起きなかった事というだけで、それを幸運と思いこそすれ、
         彼女を非難するなんて…。
ヴィック     やめろよ…
エイドリアン   え?
ヴィック     それじゃまるであたしが運の悪い子みたいじゃんか!
        (エイドリアンを突き飛ばし走っていく)
女教師      ヴィック!ヴィクトリア!
グレッグ    (ヴィックとは反対方向に走って行く)
エイドリアン  (軽くため息をつきながら立ち上がる)
女教師      せっかくクレイ先生がいいお話をなさってたのに…!
エイドリアン   いえ、私の思慮が足らなかったようです。同じように里親の元で育ったというのに…。
女教師      え…?
エイドリアン  (歩き出す)母子家庭だったんですが、母が強盗に殺されてから、
         しばらくは施設を転々としていました。
女教師      ご…ごめんなさい、そうとは知らず…。
エイドリアン   いいんですよ。それに、ヴィックもああ見えて本当は優しい子なんです。
         家が近所なので、よくうちのウォルフィを可愛がってくれます。
女教師      まあ、ウォルフィってクレイ先生の愛犬ですか?
エイドリアン   ふふ…いいえ、何でしょう?

塀の上から突然身を乗り出すロル。

ロル      (ネームプレートをちらつかせながら)それって、このペット用の首輪の主?
         迷子札の電話番号まで入ってるね。
エイドリアン   なっ…!(声の方に振り向く)
ロル      (塀を飛び越えエイドリアンたちの前に着地)「ウォルフガング=A=ク
レイ」、
         いい名前だね。
エイドリアン   ゆうべの…!(独白)なんて事だ、あれを、あれを落としていたなんて…!
女教師      あら…君は?クレイ先生のお知り合い?
ロル       ええ…。
エイドリアン  (独白)もうだめだ、彼が全て話してしまう…!
ロル       今晩ちょっとつきあってくれない?エイドリアン兄貴。ひさしぶりにさ。
女教師      まあ、クレイ先生にこんな可愛い弟さんがいらっしゃったなんて。お名前は?
ロル       ローレンス、みんなロルって呼ぶよ。(首輪をつけてみる)どう、似合う?
         オニイチャン。じゃあ今夜、この店まで来てくれよ。
        (カードをエイドリアンの胸ポケットに入れる)
         でなきゃこの落とし物は俺がもらうよ。来たら返してやる。じゃ、また今夜!
        (手を振りながら上手へ走り去る)
エイドリアン  (独白)何だ…?あの少年は何を考えているんだ?
         僕の…僕の正体を知っているはずなのに…あの…無機質な瞳の少年は…!

暗転。
第一幕 第三場

 
夜。ダラスの店。大音量の音楽に踊る男女。
その中でスーツにコート姿のままで階段を昇っていくエイドリアン。
次第に音楽遠ざかる。

エイドリアン   (ポケットから取り出したカードを見ながら)下は普通のクラブだ。
          だが、ここはまさか…?

エイドリアンがドアを開けると、ベッドには手錠で繋がれたダラスの手下に馬乗りになっているロル。

ロル       (ドアの音か気配にか振り返る。薄く笑っている)いらっしゃい。遅かったね、
          お客さん。(ベッドから降りる)
ダラスの手下2   おいロル、今から楽しむつもりでこうしたんじゃなかったのかよ!
ロル       (上着を着ながら)出よう。洗面所がつきあたりにある。
ダラスの手下2   ちょっと待てよ、もうすぐボスが帰ってくるんだぜ、
          お前に手ェ出そうとしたのがばれたら殺されちまう!助けてくれ!ローレンス!

部屋から出る二人。ドア閉まる。
二人、洗面所に入る。

ロル        ボスが用心深くてね、よくベッドの裏に盗聴器が仕掛けられてたりするんだ。
          人に聞かれちゃまずい話でしょ?
エイドリアン    き、君はまさか…、ここは組織的な売春宿で、
          君は体を売って生活しているのか?学校は?親御さんはどこにいるんだ?
ロル       (一瞬の間ののち、くすくす笑いながら)熱血教師だね、あんた…。でも、
          そんな説教する権利あんの?昼間は模範的な教師づらしてても、
          夜な夜な街で少年を漁って殺しまくってる変態野郎のくせに!
エイドリアン    や…やめろ!君らのような手合いは何が目的なのかわかってるんだ、ほら!
          これが僕の今の全財産だ!
         (コートのポケットから札束を取り出しロルに向かってぶちまける)
          これで満足か?さあ、その首につけている物を返せ!
ロル       (悲しみ、傷ついた表情)
エイドリアン   (ロルの対応に少し驚きながら)と…とにかくそれを返せ!早く…早く!
         (毟り取るようにロルから首輪を外す)ん?違う、違うぞこれは!
ロル        それはニセモノ。
エイドリアン    本物は?どこへやった!
ロル        ダチんところ、俺がいなくなったり殺されたりしたら、
          自動的に警察の手に渡るよ。
エイドリアン    何だって!…僕に…僕にどうしろって言うんだ…!奴隷になれとでもいうのか?
ロル        それもいいね。…俺をここから助けてよ。自由になりたいんだ。
エイドリアン    この商売から足抜けさせろってことか…?逃げればいいじゃないか!
ロル        そんなに甘くないよ。何度も逃げて、…その度捕まって半殺しだ。
          挙句に薬漬けにされた奴もいる。
          ヤクでも何でも彼の許可なく動かすことはできないんだ。
         (上着を脱いで刺青を見せ)これは俺がボスの所有物って証だ。
          ボスのダラスはこの辺り中を仕切ってる。
          これを見たら誰も手を貸そうなんて思わないよ。みんな命は惜しいもんね。
エイドリアン    なら、なおさらそんな事、僕には無理だ。
          ただの貧乏教師に何が出来るっていうんだ?無茶苦茶すぎる!
ロル        どうしても…返して欲しい?
エイドリアン    当たり前だろう!
ロル        じゃあ…どこにあるか教えてあげる。
         (エイドリアンの手を取り指を口に入れようとする)
エイドリアン   (ロルを払いのけて)やめろ!汚らわしい!(ドアから走り去る)

エイドリアンの走って行く靴音。
洗面所の床に座り込んだロル、口の中からネームプレートを取り出して眺める。

エイドリアンの声   危険だ、あの少年は危険、逃げろ、逃げなくては、
           あの瞳につかまってしまう…!

暗転。
第一幕 第四場(二十年前)


薄明るくなると、少年のエイドリアンがどこか疲れたような憮然とした表情で
毛布にくるまれて椅子に座っている。手にはマグカップ。

女の声1       あの子、母親の死体のそばで五日間も一人で過ごしたらしいわよ。
           すごい心臓よね。
女の声2       シッ!よっぽどショックが大きかったのよ、まだ七歳なのよ。

声のした方から女が一人出てきてエイドリアン少年の前に。

女          エイドリアン・クレイ君ね?少しお話してもいいかしら?
エイドリアン少年  (うなずく)
女          血が付いてたわね、服にも手にも。お母さんからナイフを抜こうとしたの?
エイドリアン少年  (間をおいてうなずく)
女          すぐ救急車か警察を呼ばないとだめよ。でも怖かったわね。
           どうしてお母さんの目にガムテープを貼ったの?
エイドリアン少年   こっち見て、怒ってるみたいだったから。(スポットが当たる)
           そんな目で見ないでよ。いつも僕を見てくれなかったくせに、
           死んでからなんて、今さら!今さら僕を見ないでよ、血だらけの手をした、
           弱くて醜い僕を!…みんな目隠し、目隠しすれば大丈夫。
           ママはもう、僕を見ない。(暗く笑う)

暗転。


第一幕 第五場


明るくなるとエイドリアンの部屋。
正面のドアが開いて息を切らせたエイドリアン入ってくる。
イグアナか大きなトカゲのウォルフィが迎えに出る。

エイドリアン   は、はは…。やあ、ただいま…。ごめんな、君に新しい首輪と迷子札を買ったのに、
         …落としてしまったんだよ、ウォルフィ…!今、ご飯にするよ。
        (冷蔵庫から野菜を取り出しウォルフィに与える)そうだ、あの少年の瞳は、
         この無表情な爬虫類の目に似ている。
         僕のすべてを知っていると冷たく語っている目…。僕はあの瞳が、怖いんだ。
         このまま一生脅されるくらいなら、彼も殺してしまおうか。そうだ、
         殺してしまえば、誰にも秘密は…。

照明が変わり、再び道化師が風船をたくさん持って現れる。

道化師      いらっしゃい、お坊ちゃん。風船はいかが?
         年に一度のカーニバルがやってきたよ。さあ、おいで!
女の声      ほーら、ピエロが呼んでるわ。エイドリアン、風船が欲しいでしょ?
         行けばもらえるわよ。
道化師      メリーゴーランドにバンパーカー、射的小屋に観覧車。
         マジックハウスではとっておきの魔法をお見せしますよ、とっておきのね。

エイドリアンの表情、次第にひきつってくる。
後ろのスクリーンには、やがて「Don’t dis me!」という言葉がエンドレスで流れ始める。

道化師      今なら秘密はこの帽子の中に隠せるよ、エイドリアン!
         この帽子の中はどこに続いてるか知ってるかい?俺たちの生まれた地獄の遊園地さ。
         俺は地獄の道化師だ。おまえも、やがてそこに帰っていくんだよ!
         ほら、お母さんが迎えに来たぞ!

突然、目にガムテープを貼った血だらけのエイドリアンの母が現れる。
叫ぶエイドリアン。
一瞬の闇。
再び明るくなると母親も道化師も消えている。朝。

エイドリアン  (ベッドに横になっていたが起き上がり)夢、なのか…?
        (ウォルフィを抱きしめる)

暗転。
第二幕 第一場


塀の前をヴィックが走ってくる。手にはメリーゴーランドのようなオルゴール。
後から男が追いかけてきて捕まるヴィック。エイドリアン登場。

男        この泥棒猫め!警察に突き出してやる!
エイドリアン   待ってください!その子は私の生徒なんです!

ロル登場。気づかれず成り行きを見守っている。

男        ああん?それがどうした、こいつが万引きしたのには変わりない!
エイドリアン   じゃあ、じゃあそのオルゴールは僕が買いますから…、
        (コートのポケットを探って)しまった、ゆうべあそこで…。
ロル      (札束を取り出し)あんたの金ならここだよ、エイドリアン。(渡す)
エイドリアン  (しばらく呆然としているが、受け取って)これで、これでお願いします。
        (全部差し出す)
男        こ、こんなにいらないよ、恐喝じゃないんだから。払ってもらえればいいんだ。
         十五ドルで結構さ。(残りの金を返すと来た方向に帰っていく)
エイドリアン   ヴィック!もうこんな事するんじゃない!今のご両親なら、
         頼めば何でも買ってくれるぞ?
ヴィック    (ロルに)あんた誰?
エイドリアン   こら、ヴィクトリア!
ロル       俺はこの石頭先生の弟のロルだ。
ヴィック    (不審げにじっと見て)ちっとも似てないよ。
ロル       …そうだな、歳もちょっと離れてるしね。
         でも故郷にいた頃は自慢の兄貴だったよ。優しくてよく勉強も教えてくれたし、
         フットボールではいつも活躍してたし。でも期待されたプレッシャーもあって、
         体壊しちゃって…途端に糸が切れたみたいに、そのまま家を飛び出してったんだ。
         両親は兄貴のことしか眼中になかったから、しばらくして俺も家出した。
         俺は兄貴を追ってここまで来たんだよ。
エイドリアン  (独白)何のことだ?ロルの本当の兄の話か…?いや、
         こんな話をゆっくり聞いている場合じゃない。(ヴィックに)さあ!
         ご両親がきっと心配してるぞ、もう帰るんだ。これを持って!
        (オルゴールを渡す)
ヴィック    (オルゴールを手にするがつき返し)…これ、先生預かってて。
エイドリアン   なぜだい?
ヴィック     誰かに買ってもらったって言ったら…きっと、あの人たち気にするから、
         先生の所にウォルフィに餌やる時、聞きに行くから…!(走って行く)
エイドリアン   …わかったよ。(独白)反抗しているようでも、
         里親にちゃんと心を開きかけてるのか、ヴィック…。
ロル      (いつの間にかオルゴールを手にしている)いい先生なんだね、エイドリアン。
エイドリアン   え?
ロル       昔が懐かしくて、あの小学校の前をよく通ってたんだ。その度に思ってたよ、
         本当に生徒たちにいい笑顔で接してるって。
         彼らを大事に思っているのが伝わってきた。
エイドリアン   前から僕を知っていた…?

歩き始める二人。

ロル       でも何故かその顔が忘れられなかった。あんたの笑顔はいつも壊れそうで、
         どこか悲しそうだったから…。それがどこから来るのかと思ってたけど、
         ついにあんたの秘密を知ってしまった。
エイドリアン  (立ち止まる)
ロル      (行き過ぎるが戻ってきて)しゃべりすぎる?さっきの兄貴の話は本物だよ。
         あんたは…五年前の兄貴に少し似てたんだ…家を出る前の兄貴に。
エイドリアン   …兄貴には、会えたのか?
ロル       ううん、多分、もう会えないよ。一生ね…。
エイドリアン  (独白)僕は…なぜこんな話を続けているんだ。この子を殺さなければならないのに。
         殺さなきゃ…殺さなければ…?

暗転。
第二幕 第二場


エイドリアンの寝室。ベッドに腰掛けウォルフィと戯れているロル。

ロル       おっ、君がウォルフィだね。悪いね、君の鎖は俺が持ってるんだ。
         まだしばらく返せないけど。

エイドリアン、着替えて入ってくる。

ロル       これ返すよ、さっきの残り。(ポケットから札束を出して)
         この金がないと文無しだろ?
        (手をのばしたエイドリアンをベッドの上に引き倒し金をばらまく。
         上に乗って笑いながら)昨日の仕返し。
         こんな仕事やってる奴が傷つくなんて思わなかった?
         好きでやってるんだろうって?ただ足を広げればいいってもんじゃない、
         そのためにはモラルやプライドなんて、何の役にも立ちゃしない。感情なんて、
         ない方がましなだけだ。でも、他の連中なら、我慢も許してやることもできた…。
エイドリアン  (独白)この目だ、この目に魂を奪われてはいけない。
ロル       あんたからは、あんただけは、そんな風に俺を扱わないって思ってた…。
        (エイドリアンにキス)これを、汚らわしいって言ったね。その通りかもしれない。
         でも…なぜ人は、こんな事までして快楽を分け合うんだと思う?みんな、
         誰だって自分の魂の片割れを求めて生きているけど、
         それは探したって見つからないから、人は、
         二つの体を無理矢理にでも一つに繋いで、それはとても滑稽で、
         とても悲しくて不自然だけど、束の間、心を分け合って解けあいたいんだ。
         それが、たとえ金で買った一夜の夢だったとしても。大嫌いで大好き、って。
エイドリアン   だ…だめだ…。君を…殺してしまう…!
ロル       いいよ、殺しても。そのあと俺を食べてくれるなら。

照明、だんだん弱くなってくる。

ロル       朝晩煮込んでトロトロのシチューにしてさ。骨までちゃんとしゃぶってよね。
         全部すっかりあんたの腹の中に入ったら、俺はあんたの血となり肉となり、
         あんただけの物だね…。

抱き合う二人。暗転。オルゴールの音。
第二幕 第三場(二十年前)


オルゴールの音が続いている。
明るくなるとエイドリアンの母がいる。
少年のエイドリアン、そばで絵を描いている。

エイドリアンの声   あなたは移動遊園地で生まれたのよ、母はそんな話をよくしてた。
           情緒不安定な女だったから、時々ポツポツと話すだけ、
           それを僕はただぼんやりと聞いていた。手を上げたりはしなかったが、
           目を見て話すこともなかった。
           どんなに必死に気を引こうとしてもそれは無駄なことで、彼女はまるで、
           僕の存在を否定しているようにも見えた。

電話が鳴る。電話を取りに行くエイドリアンの母。

エイドリアンの母  (嬌声で)ハロー、今日の七時ね、いいわ。お待ちしてます。
          (電話を切ってエイドリアン少年に)今日は早く寝なさい。
エイドリアン少年   ママ…。
エイドリアンの声   母は、男を家に連れ込んでは金を受け取っていた。僕はあれが嫌いだった。
           意味がわからなくても何かとても嫌な感じがした。大人になると心が濁って、
           あれに飲み込まれるのだと漠然と思った。でもある日、
           めずらしく母が遠くの町へ連れて行ってくれた。カーニバル、
           移動遊園地が来ていたんだ。

オルゴールの音がカーニバルの音楽に取って代わる。
風船を持った道化師と子供たちが現れる。風船をもらっていく子供たち。

エイドリアン少年   風船だ!ピエロが風船を配ってるよ。僕、行ってくるね、お母さん。
          (道化師に向かって走り出す)
エイドリアンの声   でも、風船は僕のところまで来ないで無くなってしまって、
           僕の分は無かったんだ。

音楽止む。エイドリアン少年にのみスポットライト。

エイドリアン少年  (振り向いて)ママ…?
エイドリアンの声   母はいなかった。
エイドリアン少年   ママ、僕の分の風船が無いんだ、僕が要らない子だから?だからなの?

暗転。

エイドリアンの声   七歳の子供がどこをどう走ったのか。
           何度か警察に保護されそうになったのを振り切って、
           行きに乗った地下鉄の記憶をさかのぼって無賃乗車、そしてヒッチハイク。
           あの奇跡的な帰巣本能、一人にされる恐怖が辿らせた執念の家路…
           丸二日かかってやっと帰ることができた。
           まだそれでも心のどこかで期待していたのかもしれない、
           後悔した母の愛情ある反応を。

明るくなると家の前。疲れきって窓の下によりかかるエイドリアン少年。
家の中は窓から影絵のように見えており、エイドリアンの母と男が映っている。

エイドリアンの母   ええ、嘘だったのよ、エイドリアンは甥っ子なんかじゃないわ。
           私が十六の時に遊びに行ったカーニバルで、
           ピエロの男に襲われて出来た実の息子よ。だから、
           生まれた元の場所に置いてきてやっただけよ!
男          俺を騙してばかりいたのか?
           さっきの電話の男からも金を受け取っていたんだろう!
エイドリアンの母   ええそうよ、男はあんただけじゃないのよ、バカなやつ!
           碌な稼ぎもないくせに!
男          黙れ…!(ナイフを出しエイドリアンの母を滅多刺し)この売女め!

エイドリアン少年、家の中へ。男、慌ててナイフを落とし逃げ去る。

エイドリアンの母   エイドリアン…どうして…?救急車、救急車を呼んでちょうだい…。
           早く…、また遊園地に連れて行ってあげるから、ね…?
エイドリアン少年   それで…(ナイフを拾い上げ)また僕を置いてくの?
         (プロローグのエイドリアンのようにナイフを振り上げ一気に母に振り下ろす)
 
暗転。
第二幕 第四場


明るくなると写真や絵の人物、人形などの目を塗りつぶしているエイドリアン少年。

エイドリアンの声   身寄りもない少年を世間は疑いもしなかった。やがて僕は、
           自分のような子どもを創りたくない心からか、教師の道に進んだ。

エイドリアン、現れてエイドリアン少年の傍に立つ。

エイドリアン     でも駄目なんだ、夜は裏腹に、
           母のように金で体を売る者たちを求めてしまう。
           それもなぜか歳若い少年たちで…。そして、それが汚くてたまらなく憎くて、
           僕は…何度も何度もナイフを振り下ろす!
エイドリアン少年   だって、あれは汚いもので、必要ないんだから!汚い僕を見て責めるから、
           目を塞がなきゃ…殺さなきゃいけないんだ!僕を見下げないように!

男性の声(英語)が低く流れ始める。同時に後ろのスクリーンに字幕(訳)が現れる。

エイドリアン     あんな奴ら死んで当然なんだよ!
           ただ金と快楽のためだけに虫のように交わって、死んでしまえばいい…!

スポットライトが当たるとそこにはロルがいる。

ロル         あんたは誰を殺してるの?母親?それとも体を売る少年たち?
           それとも…、自分?
エイドリアン    (両方とも我に返ってロルを見る)
ロル        (エイドリアン少年に近づいて抱きしめながら)もういいんだよ、大丈夫。
           もう殺さなくてもいい、もう許してやってよ…エイドリアンを。
エイドリアン少年  (安心したように泣き出す)
エイドリアン     君は…君は僕が怖くないのか…?皆みたいな目で見ないのか?
           君は…変だ、おかしいよ…!
ロル         うん…。あんたは確かに狂ってて醜くて、
           誰もあんたのことを分かろうとしないかもしれない。でも、
           もしあんたが地獄行きなら、俺が一緒に地獄の底まで堕ちてやるよ。
           俺もあんたと一緒で狂ってるんだよ、俺の殺人鬼…。
エイドリアン少年   僕はもう、僕を殺さなくていいのか…。
          (立ち上がりエイドリアンにタッチするように上手へ)

エイドリアンにスポット。

エイドリアン     ローレンス…僕の狂った世界の中で、君だけが綺麗、綺麗。
           最近のローレンスはよく笑顔を見せてくれる。
           出会った頃には想像もできなかったような無邪気な笑顔。きっと昔は、
           いつもこんな顔をしていたのだろう。
ロル         エイドリアン!

明るくなると舞台端でロルが風船をたくさん持ってエイドリアンに手を振る。

エイドリアン     だって、ローレンスが笑うんだ。君の眩しすぎる残像が焼きついて、
           離れない…。

走って行って中央で抱き合う二人。
風船がロルの手を離れて上に昇っていく。
暗転。
第二幕 第五場


エイドリアンの家の前でウォルフィと遊んでいるロルとヴィック。

ヴィック    ほんとは、ロルとクレイ先生は恋人同士なんでしょ?
ロル      …なぜそう思う?
ヴィック    女のカンよ。
ロル     (苦笑して)なるほど。

車のブレーキ音。ロル、敏感に察知する。

ロル      そろそろエイド…クレイ先生が帰ってくるから家に入ってコーヒーでも飲んでなよ。
ヴィック    ロルは?
ロル      俺は…今夜は用ができたんだ。帰れそうもないから、
        君がウォルフィに餌もやってくれ。それと…(ポケットから何か出し)
        これを…!(ヴィックに渡す)
ヴィック    ロル…?
ロル      頼んだよ。さ、行きな。
ヴィック   (ドアの方に行きかける)
ロル      …なあヴィック!
ヴィック   (立ち止まり振り返る)なに?
ロル      もし、俺が先生と愛し合ってても、君は…先生を好きでいる?
ヴィック    バカね、そういうの?ヘンケン?って言うんだよ。先生もロルもウォルフィも、
        みんな好きに決まってるでしょ?(手を振って家の中へ)

ダラスの手下たち現れ、ロルのそばに立つ。

ダラスの手下3 ローレンス、車に乗れ。

ロルとダラスの手下たち、消える。車の音。
ヴィック、もう一度家から出てきて、車の消えた方向を見届ける。

ヴィック    これが、あたしとロルの最後の会話になった。
        それからロルが先生のところに戻るのは二週間もあとだった。

暗転。
第三幕 第一場


ダラスの部屋。
女とソファに座ってスクリーンに映っているテレビアニメを見ているダラス。  
後ろに手下が二人来る。

ダラスの手下4  (写真を手に)ダラスさん!こないだ例の連続殺人でやられた奴の写真だ!
          見てくださいよ!うちのレイモンドが消えたって聞いてたんで、
          ブンヤから手を回したんすよ、警察は今んとこ肝心な情報は伏せてやがる…
          ねえダラスさん!

ダラス、振り向きもせずダーツの矢を後ろに投げる。
それが手下4の写真を持った手にちょうど刺さり絶叫する手下4。
手下1はそれを見て縮み上がる。

ダラス       うるせえな、ちゃんと聞こえてるし、しっかり見てるさ…。(手下1に)で、
          おまえはローレンスの報告か。仕事をすっぽかしてコソコソやってるって、
          どこのどいつだ、今度の奴は?
ダラスの手下1   そ…それが、俺…町でロルの最近遊んでる男を見たんですけど、
          その男が似てるんですよ。レイモンドが殺された時、
          俺を突き飛ばして逃げた男に…。
ダラス       心配するな、もう手は打ってある。(ドアに向かって合図)

ドアからずぶ濡れで引き出され咳き込んでいるロルを手下たちが取り囲む。
ダラス、オーディオの電源を入れる。第一幕第三場の洗面所での会話が再生される。

ダラス       今度は便器の裏まで舐めまわして調べることだな、ローレンス。
         …この俺から自由になりたいだと?本気で俺から逃げる度胸なんざ無いお前が?
          男ともども、このままで済むと思うなよ…。出せ、奴の何を握ってるんだ。
ダラスの手下3   ダメですダラスさん、ロルの奴、
          車の中で目を離したすきに証拠を飲み込んじまいました。
ダラスの手下5   死ぬほど水を飲ませても殴っても吐きません。
ダラス       そんなにまでして男を守りたいっていうのか…?あいつは、
          例のブラインドマンなんだろう?そいつと逃げて、
          お前がまともに生きていけるとでも思ってるのかよ。
          お前は何度俺の元を逃げ出したって、いつも連れ戻されて来る。結局、
          俺の手の中に居てえんだ。
ロル        …確かにそうだったかもしれないけど、今は違うよ、兄さん…。
          昔のあんたはもう死んだんだ。エイドリアンが、
          俺を過去から解き放ってくれた…!
ダラス     (大笑いする)汚れた過去とはおさらばってわけか?あれしか取柄がねえってのに、
          お前が一体何の役に立つってんだよ?
          お前は一生、この掃き溜めから這い出て生きてはいけねえんだよ!
          刺青くらいじゃわかんなかったみたいだな。そうだ、
          昔っから頭悪かったもんな、お前。親と一緒になって、
          俺を追い詰めてることに気づきもしねえで…。
         (テーブルから注射器を取り出す)お前は一生俺から逃げられねえってことを、
          わからせてやるよ。
ロル       (ダラスの手下たちに取り押さえられながら呆然とダラスを見ている)

照明がますます薄暗くなる。
薬を打たれ、男たちに弄ばれるロルの姿がぼんやりと浮かび上がる。

ロル       音色の狂ったオルゴールの旋律が、頭の奥で鳴り響いてる。あれは、
         気の触れたカーニバルの行進曲…。

ゆっくりと暗転。
第三幕 第二場


エイドリアンの部屋。
薄暗い中でうつむいたロルがオルゴールを抱えて座っている。
鍵を開けて入ってくるエイドリアン。
ロルはエイドリアンの顔も見ず、表情も変えない。

エイドリアン   ローレンス…?二週間も何の連絡もなしで…!
         一体どれだけ心配したと思ってるんだ!(ロルに詰め寄って)
         またいつもの気まぐれなのか?あの店に何度行っても、
         君は辞めたってことばかり。一体どういうことか、説明するんだ…!

ロル、何も言わずにしがみつく。
その途端、オルゴールが床に落ち、少しいびつに鳴り始める。

エイドリアン   (ロルを抱きしめて)ローレンス…!いや、もうそんな事、どうでもいい…!
          君が戻ってきてさえくれれば…。
ロル        …俺もだよ、エイドリアン…。今でもあんたが好き。誰よりも、
          誰よりも好きだけど…。
エイドリアン   (ロルの顔に痣があることに気づく)…ローレンス?どうしたんだ、
          その顔は!殴られたのか…?(ロルの服の袖をまくり)これは、
          注射の跡か…?ロル、君はまさか…。
ロル        …そんな事、もういいんだよ。知る必要はない。
         (ゆっくりと後ろのポケットから銃を取り出し)
          あんたには関係ない事なんだから。(銃をつきつけ)さよならエイドリアン、
          楽しかったよ、恋人ごっこ。俺はロスを出て兄貴の所へ行くよ。
         (紙切れを見せながら)兄さんが見つかったんだ、
          ニューヨークで成功したってこの手紙が来た。
          一緒に暮らそうとずっと俺を探してたって、だから行くよ。
          あんたは俺をダラスから奪ってくれそうもないし、
          本当はあんたの前にも何人も誘ったんだけど、
          みんなダラスに始末されちゃったんだよね。

いつしかオルゴールの音がカーニバルの音楽に替わっており、ロルの後ろには道化師と目隠しで血だらけのエイドリアンの母がいる。

ロル        せめてあんただけは、俺の手で殺してあげる。そう、ゲームは終わり、
          あんたはもう要らないんだよ!
道化師       カーニバルはおしまいだ、お前は必要ないんだよエイドリアン!
エイドリアンの母  お前の分の風船は最初からないのよ!
道化師       さあ、帰るぞ、地獄へ!

道化師とエイドリアンの母、大声で笑い始める。
ロルだけは冷たくエイドリアンを見ている。
エイドリアン少年、エイドリアンの後ろに現れる。

エイドリアン    出会った頃のような感情のない瞳…!その目で僕を、
          僕の中身を、弱さを、醜さを…!
エイドリアン少年  やめて、僕を見ないで!蔑まないで!

暗転。
スクリーンにはつないだ二人の手と字幕が映される。

字幕         ねえ エイドリアン 俺を あんただけの物に

映像消え、エイドリアンとロルにスポット。
ストップモーションでナイフを出しロルを刺しているエイドリアン。
銃も手紙も離したロルが、エイドリアンにキスをしてゆっくり倒れていく。
スクリーンに次の字幕が映る。

字幕        血も肉も 心臓さえも
ロル        初めの、約束…。やっと、俺を自由にしてくれたね…。
字幕        ホラ もうすっかり 貴方のもの
ロル        エイドリア…ン…。(倒れる)
字幕        アナタノ モ ノ
エイドリアン   (散らばっている手紙を見て)白紙…?(銃を拾う)弾倉が空…?
          何もかもが、真っ白だ…。

暗転。
第三幕 第三場

ドアを叩く音とダラスの手下たちの話し声。

ダラスの手下3   ローレンス!うまくやったか?迎えに来たぜ!
ダラスの手下5   ヤク漬けにした上、相手の男を殺してこいたあ、
          ダラスもほんとにおっかねえよなあ。
ダラスの手下3   全くだ。実の弟だってのにな。
ダラスの手下5   おいロル!早くしろ、ずらかるぞ!
ダラスの手下3   にしても静かだな。入ってみるか。

明るくなると部屋の中で死んだロルを抱いているエイドリアン。
何かしらぶつぶつと楽しそうにささやいている。

エイドリアン  (ドアを叩く音に)なんだよ、うるさいなあ。ロルが起きるじゃないか。
ロルの声      ねえエイドリアン、俺の事好き?
エイドリアン   (抱きしめながら)ああ、好…

ドアが開いてダラスの手下たちが部屋に入ってくる。

ダラスの手下3   う、うわあっ!お前、何してやがる!
ダラスの手下5   そいつはもう死んでるじゃないか!
ダラスの手下3   お前が殺したのか?おい!
エイドリアン    …うるさいな。ローレンスが起きるだろ。

ダラスの手下たち去り、入れ違いにサイレンとともに警察官が来てエイドリアンとロルを引き離す。ロルは死体袋に入れられる。

エイドリアン   やめろ!ロルをどうする気だ!返せ!僕のものだ!離すんだ!
         ロルが死ぬわけないじゃないか、ロル!ローレンス!(絶叫)

袋に入れられたロルは幕外に運ばれる。
エイドリアン、手錠を嵌められスーツを着せられ椅子に座らされる。
その斜め前に弁護士が現れる。後ろの塀の上には裁判長や陪審員たちが並ぶ。


第三幕 第四場


弁護士     証人として被告の元同僚であるミセス・ロイドを召喚します。

スポットの先には女教師。

裁判官     あなたは、真実を述べることを誓いますか?
女教師     はい、誓います。
弁護士     ミセス・ロイド、あなたは被告が逮捕されるまでの二年間ほど、
        被告と同じ小学校に勤めておいででしたね?
女教師     はい。彼が大学院を卒業して新任してから丸二年経っています。
弁護士     その間、被告の勤務態度は同僚の目から見てどうでしたか?
女教師     それは、公平に見ても真面目で熱心でした。
        特に子どもたちの声にはよく耳を傾けていました。
        私が担任のクラスの児童とクレイ先生の担任のクラスの児童との間に
        時々揉め事があって、よく相談していました。本当です、
        こんなことをする人だなんて思えない…。
検察官     異議あり、裁判長、弁護側の質問は意図的です。
裁判長     異議を認めます。証人はイエスかノーで答えるように。
        弁護側は質問を変えてください。
弁護士     あなたは、ローレンス・ヒル少年にも面識があるようですね?
女教師     はい、一度学校に来たことがあります。いいえ、
        何度か校門までクレイ先生を迎えに来ていました。話したのは最初だけですが、
        弟だと言っていたので気にも留めませんでした。でも仲はとても良さそうでした。
弁護士     ありがとう。以上で質問を終わります。

スポット消える。

弁護士     以上が、この恐るべき事件の真相なのです。七人も殺害した被告、
        エイドリアン・クレイの行為は極刑も余儀ないものではありますが、
        奇しくも最後の被害者となったローレンス・ヒルは、彼の最愛の人だったのです。
        恋人の存在によって殺人鬼が人間に生まれ変わったのです。
        そして最後の殺人は過剰防衛とされていますが、
        ヒル少年が自らを殺すように仕向けた委託殺人なのです。どうか寛大な決断を…。
裁判官      被告は起立してください、陪審員は全員一致の評決に達しましたか?
陪審員長     達しました。
裁判官      被告エイドリアン・クレイは有罪ですか、無罪ですか?
陪審員長     有罪です。

どよめきが起こる。陪審員長、判決文を裁判官に渡す。

裁判官      判決文、被告エイドリアン・クレイは有罪。
         ただし被告の幼児期の悲惨な体験や家庭環境、
         それによって形成された被告の心的外傷および異常な性向、
         事件当時の精神状況は極度の耗弱状態であったことを考慮に入れ、
         死刑ではなく合計百四十年の懲役を科すものとする。

遺族の怒号や野次が飛ぶ。

エイドリアン  (立ち上がる)何故だ…?何故、ロルの処へ送ってくれないんだ!
        (被告席から飛び出そうとするが取り押さえられる)ローレンス!

牢の鍵が閉まる音とともに暗転。
第三幕 第五場


鳥の声。明るくなると病院の屋上。
中央のベンチに腰掛けて空を見つめているエイドリアン。
舞台裾の方に医者と看護師がいる。

看護師      エイドリアン、だいぶ顔色がいいみたい。
         やっぱりたまには外の光を見た方がいいものね。
医者       全く…。こうして見ていると、
         二年前に世間をあれほど騒がせた殺人鬼とはとても思えないな。
         刑務所からここへ送られてきた時は、
         拘束服が必要で手の施しようもない状態だったが…。
看護師      今では素直でスタッフにも時折笑顔さえ見せてくれます。エイドリアン!
        (向かって手を振る)調子はどう?
エイドリアン  (子どもたちに接していた時のような優しい笑顔で手を振り返す)
看護婦      相変わらず一言もしゃべってはくれませんけど…。
医者       あの笑顔、彼にはいいことなのかどうかわからんが…。
エイドリアン  (目を閉じる)

暗転。
塀の上にスポットが当たると風船をたくさん持ったロルが立っている。
エイドリアンが目を開けると明るくなり、医者たちは消えている。

エイドリアンの声   だって、ローレンスが笑うんだ。
           その眩しい残像が目の奥に焼きついて、離れない…。

ロル、風船を離して手を差し出す。
エイドリアン、ベンチを足がかりにして塀に昇りロルと抱き合う。塀の向こう
側に消える二人。
暗転。

ロルの声       エイドリアン、俺のこと、好き?
エイドリアンの声   好きだよ。


エピローグ


スクリーンに字幕現れる。

字幕        このまま 愛し 殺されてしまえたら

字幕が消えると少し髪の伸びたヴィックがウォルフィを抱いて登場。塀の傍で遊んでいる。
ウォルフィにはあのネームプレートの首輪がついている。女が3人通りかかる。

女1        屋上から身を投げて、即死ですって。
女2        まあ…。
女3        でも、病院側は管理体制の落度を全面的に否定してるらしいじゃない?
女1        ええ、屋上の外側には高い鉄柵があって、
          その鍵も閉まっていたはずだ、って…。
女3        そんな不思議な話、あるわけないのにねえ。
女2        その鉄柵の閉め忘れなんじゃないの?事前に点検してたのかしら?
女1        でもどっちにしろ、誰も落ちたところは見てないんだそうよ。
女2・3      まあ…。

スクリーンに空へ昇っていく風船の映像が映る。それを見てヴィック空を見上げる。

ヴィック    見て、あの二人だよ、ウォルフィ。

音楽。カーニバルからオルゴールに変わっていく。                (了)
(あとがき)

 …というほどのものはございませんあせあせ(飛び散る汗)「おまえが〜」の後、何かさくっと書けて、でも訴えるようなものとして書いたやつです。
 由貴センセは元々映画監督志望だったそうで、だからこの作品もとても映画的なカメラワークがあり、戯曲にもし易かった。まあカット割が多いと基本的には場面がコロコロ変わるので、結構大変なのですが、セットを作らず人間だけでやるならそう難しくはないんじゃないかなと思います。

 BL嫌いな人には大変申し訳ない。
 でもこれはこの二人でなくてはならなかった話だと思います。
 無理やりボーイッシュな女の子にして、ヴィクと入れ替えてもいいのかもしれない。

 まあ、「風と木の詩」のジルベールといい、悪魔的美貌?の少年は
 少女漫画には欠かせないiconですからね…。
 

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