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真夜中のお茶会コミュの戯曲「おまえが世界をこわしたいなら」(朗読劇Ver.)(完結)

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原作は、藤原薫の同名漫画です。

手術・入院でプータローだった頃、これを書くことだけが日々の支えでした。
元は普通の戯曲だったのを縮めて、
人物減らしたりなんやらで90分くらいの上演を目指したんですけども…あせあせ
絵もとても綺麗なので、是非一度本作を読むこともお勧めします。

主役(級)には、
環奈(セシル) (小林涼子、高橋マリ子、などハーフっぽい可憐な感じ)
         小林涼子ちゃんはドラマ『魔王』の時も可愛かったですハート達(複数ハート)
蓮(セバス) (山本耕司、玉城宏、安藤政信、柏原収史、高杉瑞穂、田中幸太朗)
山下刑事 (西島秀俊、田辺誠一、金子昇、岡田義徳、吉沢悠、大沢たかお、藤木直人)

みたいなイメージを持ってました(5年前)。
今じゃまたちょっと違うだろうなあ…。(もう面倒くさいのでやらない)
あっ、環奈は川島海荷ちゃんかな。


テーマ曲は、スピッツの『青い車』。

重いテーマですが、なんとなく最後に希望を持たせて、爽やかにしようとしていますw

コメント(26)

「おまえが世界をこわしたいなら」(朗読劇Ver.)

《登場人物》

東条蓮(セバス)                  少年1 患者
小泉環奈(セシル)                 

山下刑事                      男1   医師   少年2
野木(シモン)                   人物2  少年3

山下紗希                      人物1  セシル  少女  


マリア(できれば座長的ベテラン俳優が望ましい)   人物3  看護師  店員  
2人がけの椅子が3つある。中央の椅子に蓮と環奈が座っている。蓮にスポットライト。

蓮      今日、泣きたい気分で目が覚めた。変だな、いつもあの夢で悲しくなって…
       どんな夢だっけ。どこから夢で、どこから現実だったのか、よく覚えていない。
       確か、ええと確か…。

車のクラッシュ音。蓮の隣にスポットライトが当たり、マリアが座る。

マリア    あの子…環奈ちゃんだったかしら?まだ眠ってるわ。
蓮      そう。
マリア    さっき、あの子が目を覚ました時、
       一瞬あなたの顔見て安心したみたいじゃなかった?お知り合いだったの?
蓮      違うよ。
マリア    いきなり血まみれの女の子担いで飛び込んでくるんだもん、
       眠気もふっとんじゃったわ。でも、あの子ったら、私の顔を見るなり呟いたの。
       バケモノですって、失礼しちゃう。
蓮      そりゃ何世紀も生きてたらね。しかもその格好はなんだよ。
       初めて会った時は公爵夫人だったろ、あんた。
マリア    あら、スフィンクスほどじゃあないわよ。そして、今は渋谷の占い師。
蓮      またすぐ昏睡か…どうも不安定だな。うまく変化してないのかもしれないな。
       このまま死んでしまうかもしれない…まあ、それもよし。
マリア   (立ち上がりながら)きっとお腹が空いたら目を覚ますわよ。
       ストックはあるの?言っとくけどうちにはないですからね。また採血に行かないと。
       あー、なんだかB型が飲みたくなってきた。
蓮      少しあるよ、大丈夫。夜中に悪かったな…いろいろありがとう。
マリア    やだ、あなたが『ありがとう』を言うなんて、明日は雪かな。
       …結局こうなったわけだ、よかったわ。
       やっぱり引き寄せられるものがあるのかしら、あんなに似てるんだもの…、
       セシルのことは、本当に気の毒だったわ。
蓮      あの子はただの高校生じゃないか、セシルとは似ても似つかない、
       おれはあの子が早くばーさんになって、大往生してくれる日をずっと待ってたんだよ!
マリア   (さえぎって)静かに!今はまだあの子を眠らせてあげましょうよ。
       ほんとに昔から素直じゃないんだから。偶然に感謝しなさい。
      (マリアのスポット消える)
蓮      …偶然?くそくらえ!魔がさしたんだ…!(間)ちくしょう、
       おれの血までやったせいで歯がのびてきやがった。明日は多めに採血しないと。

蓮、鞄から注射器を取り出しコップに注いで飲み干す。

蓮      人間の血液。それが俺たちの生きる糧だ。…こんなもの、飲みたいわけじゃない。
       時々自分が浅ましいとすら思う。でも死のうという気は不思議と起こらない。
       セシルがくれた命だから?おれを鬼に変えてすぐ死んじまったセシル、
       なぜおれをかばった?新しい体は手に余る、右も左もわからない、
       歯は容赦なく伸びる。自分が人と違うことがばれやしないか、
       四六時中ビクビクしていた。真っ先に余所者が疑われるから、
       世界中の町を転々とした。子供を選べば親に泣かれ、
       大人を選べば家族を路頭に迷わせる。老人を殺せば図書館が一つ減ったと町中が嘆く。
       死なせないで済む方法はないのだろうか。どうすれば死なない?
       どうすれば後味の悪さから解放される?無意味な殺人、
       このまま罪を背負っていくのか。すべてが悪循環、しかも罪は増え続けるんだ。
       セシルが望むならそれでいいと思った、一緒にいたかったから。
       一人じゃだめだ、一人じゃだめなんだ、なのになんでおれを一人にするんだよ!
       なんでこんな思いさせるんだよ…。(間)人のこと言えないか、
       あんなに怖がらせて…。セシルが死んでいくみたいで、
       ただそれだけで環奈を仲間にしてしまった。
       ずいぶんと思い上がったことをしたもんだ。何様だ、おれは?

蓮のスポット消える。
中央、蓮の隣の環奈にスポット。閉じた目をゆっくりと開いていく。
口元には血がついている。

環奈     なに?どうしたの?どうしたんだろう、このすごい爽快感。
       力が内側からあふれるみたい。この感じは、えーとえーと、そう、この感じは、
       まるで、生き返って、自分自身を取り戻した、みたいな…どうして?
       何が起こったの?そうだ、私、事故に遭ったんだ。
       お父さんとお母さんが迎えに来てくれて、バイト先からの帰り、
       車からあの人が見えた。それでお父さんに車を止めてと言ったんだ。
       そこから記憶がなくて…。(口を押さえる)口の中が切れてる…そうだ、私、
       事故に遭ったんだ。事故で切ったんだ、きっと…(辺りを見回し)ここは?
       病院じゃないの?どこかのアパートみたい。洗面所は…。

スポット外れ、少し明るくなった中、歩いていく環奈。鏡の前で立ち止まり悲鳴を上げる。
蓮、環奈の傍に来る。

蓮      一人でここまで来たのか…手も足も骨が粉々だったのに、すごい回復力だな。
      ?血は水よりも濃し?…だっけ?ご両親に感謝するんだな。
環奈    (口を隠して)なんのこと…。
蓮      口をどうした?ああ、そうか、歯が伸びたんだな?(環奈に近づいて口を見る)
       慣れないうちは口の中が切れるんだ、実に馬鹿馬鹿しいがな…。

環奈、口を隠し泣き始める。蓮、ビンとコップを持って来て環奈の肩を軽くたたく。環奈、
少し顔を上げる。

蓮     (目の前にコップを差し出して)飲んで。飲めば歯は元に戻るから。
環奈     何これ…血?何の血なの?(驚いてコップを倒し、呆然と床を眺める)どうして?
蓮     (コップを拾ってビンの血を注ぎ足し、環奈の側に置く)
       それを知ってどうする。いいから飲めよ。
環奈     …いや…。
蓮      飲むんだ。(無理に飲ませようとする)
環奈     いや!(押しのける)

コップ再び落ちる。

蓮      思ったより強情だな、あんた。飲めば直るって言ってるだろ。
       一生そのままでいるつもりか?(もう一度ビンから注ぐ)これが最後だ、
       今度こぼしたら放り出すぞ!(自分で血を口に含み、環奈に口移しする)
環奈    (暴れるが蓮にもう一度口移しで血を飲まされる)
蓮      ほら、飲めば直るんだよ。(環奈を小突き倒して去る)

環奈にスポットライト。

環奈     あなたを見た日は、一日中浮かれてごきげんで、こんなに気になる人は初めてで…
       でもその人は、なんだかとても怖ろしい人だった。私はこの人に何をされたの…
      (立ち上がって歩き始める)もう最悪、あんなのキスじゃない!
       あんなファーストキスなんか認めない!…なんだかもう、全部、違う。私、
       これから、どうなるんだろう…。知ってる街が違うところみたい。
       でも石段を登ったら、ほら見えてくる、あれは私の家。
       早くお風呂に入って眠りたい、そうしたらきっと、全部夢になる…。

環奈、幕内に。
座っている蓮にスポット。マリアが来て蓮の隣に座る。

マリア    セバス、環奈ちゃんはどこ?
蓮      逃げた。
マリア    逃げたって、あなたねえ…!(辺りを見回して)何よ、この部屋!
       殺人現場みたいじゃないの!
蓮      俺は、血を飲ませてやっただけだ。(立ち上がる)
マリア    ちょっと、どこ行くの、セバス?
蓮      学校。あと、今の俺はセバスじゃない。大学生の東条蓮だ。
マリア    環奈ちゃんのことはどうするの!
蓮      知るか、勝手に出て行ったんだ。
マリア    あなた、責任感ってもんはないわけ、公衆の面前でまた歯が伸びてみなさい、
       あの子は連続通り魔の犯人にされてしまいますよ、
       それどころか見世物になってしまうわ、セシルみたいに!
蓮      セシルの話はやめろ!((幕内に消える)
マリア    セバス…!セバスったら、どうしてあの子に優しくできないのかしら…。
       …?かわいさ余って憎さ百倍?ってことなのか。久しぶりに会ったあの日も思った、
       ああ、この子、あれからずーっと怒ってるのねって。約束を反故にしたセシルに、
       セバスは何百年も怒り続けてるんだわ。(スポット消える)
中央に座った環奈とその隣の山下刑事にスポット。環奈は気絶している。

山下   (無線で)たった今、行方不明の小泉環奈を自宅にて保護、意識なく、
      これから警察病院に向かいます。いったい…今までどこでどうしてたのかな。でも、
      無事でよかった…。先月からの連続出血死事件は伸展しないまま、
      死体だけが増えていった。刑事になって五年、いろんな殺人事件を扱ってきたが、
      それは初めて見るケースだった。第一の事件で始めて見たマルガイは…一体、
      いつの死体だというくらい、血液と体液が、ほぼ完全に抜き取られていた。
      首の裂傷は刃物によるが、致命傷ではない。死因は失血によるショック死、
      監察医の話では、最初の凶器は特徴のあるものだったという推定で、
      死後の傷はそのカモフラージュとのこと。司法解剖の結果、
      マルガイより出た体液から犯人の血液型がAB型と判明。
      しかしこれが首の傷口からの唾液だということで、
      事件はますます無差別猟奇事件の様相を呈してきた。傷口を、なめた…?
      傷口から…血を吸ったのか?…こいつは逸楽犯、快楽犯だ…。その翌々日、
      今度は交通事故後の一家が被害に遭っていた。前の件ともに首を切られてはいるが、
      どうやら刃物の種類が違うらしい。また一件目と時間差が少ないため、
      これは共犯がいる可能性がある。一人いなくなった長女、小泉環奈は私の妹と同じ、
      十六歳だった。…どちらにしても、少女の無事は期待できそうもないとされ、
      まもなく遺体捜索に切り替わるところだったのだ。

山下、環奈を連れて幕内へ。入れ替わりに現れ座る蓮にスポット。いつの間にか後ろに金髪の少女(シルエットのみ)が立っている。

蓮      大方家に帰ったのだろうと行ってみれば間の悪いことに警察が来ていた。
       後で病院に迎えに行ってうまく誤魔化しはしたが、
       帰りにまた環奈を怒鳴ってしまった。どうしていつもあんな言い方しかおれは…。
       あいつの両親を手にかけたからか。何年ぶり…いや何百年ぶりかな、人を殺したのは。
       せっかくストイックに生きてきたのに、なんでこんな思いさせるんだ。
       …今さら!おれが殺したことに変わりはないんだ…。
       環奈を死なせないためには血が必要だった。環奈の両親の最期の言葉もそうだった。
       でも、セシルに似てなかったら…セシルに似てたから?それだけ?本当に?
少女     そんなこと、どうだっていいじゃない。若い人はすぐに答えを出したがる…。
蓮      セシル?
少女     青い顔してる。具合悪いの?
蓮      …不安なんだよ、何か大事なことを忘れてるような気がするんだ。
少女     人は、心に耐えられない出来事を記憶の底に閉じ込めちゃうのよ。
蓮      それは…僕が弱いってこと?
少女     違うの?
蓮      違う!

少女、幕内へ。マリアが来て蓮の隣に座る。

マリア    環奈ちゃんは?
蓮      寝たよ、泣き疲れて。
マリア    ニュースは見た?
蓮      何の?
マリア    また出血多量の変死体が出たの。被害者はまたもや若い女性のようですって。
蓮      あ、ああ…。
マリア    前の日と犯行が空いてないでしょう?飢えてるわけじゃないのよ、こいつ。
       早く見つけ出してやめさせないと。
蓮      同感だね。必然性のない殺しは迷惑なだけだ。
マリア   ?血族?の仲間にとっても、普通の方たちにとってもね。
蓮      問題は、山積みってことだ。
マリア    解決法を占ってあげましょうか?
蓮      いいよ。いい結果は信じられないし、悪いのが出たら悪いのを信じちゃいそうだから…。
マリア    セバスは少し不幸好きね。
蓮      そんなことないけど…でもこんなに長く生きてても、
       幸せってどんなもんか知らない気がする。

マリアのスポット消える。

蓮      環奈を見ると、どうしてもセシルと比べてしまう。城の地下に居たセシル、
       おれが外へ連れ出して幸せにしてやりたかった。
       だめだ…あいつを忘れられるもんか。
環奈にスポット。

環奈     目が覚めたら、元通りになってると思ったのに。病院で、
       お父さんお母さんが死んだって聞かされた。会わせてもくれないの。
       見ない方がいいって…。おかしいわ、思い通りにならない夢、覚めない夢…
       夢にできない…どうしよう、夢じゃないんだ、全部現実なんだ!
       そこにあの人が現れた。私の婚約者だってことになってた。
       しゃべったのは昨日が初めてなのに。それもまた別の夢かと思ったけど、
       やっぱり病院から一度家に帰ると態度が変わった。明日必要なものだけ用意しろ、
       とか他は買えばいい、とか勝手なことばかり。お願い、怒鳴らないで。大体…、
       どうしてあなたと暮らさなきゃいけないんですか!
蓮      一人で、その体じゃ困るだろ?歯が伸びた時どうする?
       助けてやれるのはおれだけだぞ。
環奈     何これ…。何か、変。どうしてあんな言い方するの?人をこんな体にしといて。
       私、何にもしてないのに、あの人に何にも悪いことしてないのに!
       心の中で好きになっただけなのに!(蓮に背を向けて座る)

環奈のスポット消える。山下にスポット。

山下     さて三件目、一件目と二件目とどっちのナイフが一致するかな。
       三人目の犯人がいるのかも…。そして私は、
       現場のホテルの監視カメラの映像をチェックしている時、ある人物を見つけた。
       女はマルガイとは別人だ、しかし…。こいつ…慌てて探し回ったって言ってたくせに、
       他の女とホテルかよ。映っていたのは小泉環奈の自称婚約者、東条蓮だった。
      (スポット消える)

環奈・蓮・マリア、黒い服に着がえて環奈は白い箱を持って立っている。誰かを見送っている様子。山下は遠巻きにそれを見ている。

蓮      ええ、わかりました。僕がついてれば大丈夫です、幸せにしますよ。
環奈(小声) …よくもしゃあしゃあと…。
蓮      うん?
環奈     あ、あなたが、あなたが殺したくせに!
蓮      ああ、そうだな、そして代わりにお前が生きてるんだ。
環奈     なんで!私だけ生き残りたくなんてなかった、こんなものになりさがるなら、
       死んだ方がましだった!
蓮      随分と元気になったな。助けてもらって礼の一つもなしか。
環奈    (独白)いつか…好きだって言いたかった、こんなことされたら、もう言えないよ。
      (蓮に向かって)助けてくれてありがとうなんて、もう絶対…死んでも言わないから!
      (幕内に走り去る)
蓮      何をやっても、怖がらせるか泣かせるか怒らせるかのどれかだな…。(椅子に座る)

山下、幕内に。マリア、座る。

マリア    環奈ちゃんが蓮のうちに来てもう一週間、でも相変わらず二人は喧嘩ばかり。
       今日もぐずる環奈ちゃんを蓮が引っ張って行った。まるで、
       登校拒否の子供を学校に連れて行く父親みたいだわね。
       学校なんて無理して行くことないのに。
蓮      一日でも早く、普通の生活に戻った方がいいんだよ。普通に普通に、
       目立たないように気配を消して、印象ゼロの人間として暮らすんだから、
       これからずーっとね。
マリア    ずうっと…気の遠くなる、長い、時…。一人でとり残されるほど、
       辛いことはないわねえ。

蓮・マリアのスポット消える。
環奈にスポット。

環奈     変なの…、お腹空くんだ、わたし。血だけじゃなくってご飯も必要なのか。
       友達とも、うやむやな会話しかできなくなっていく。
       新しい住所も電話番号も教えられない。一目ぼれした人と、
       まさか訳あってもう一緒に暮らしてるなんて言えないな…
       しかも一つ屋根の下で暮らすことになったのに、まだ名前知らないんだよ、
信じられる?バイトはいつのまにか辞めたことになってた。あの人、
蓮が手配してくれてたみたい。…根回しのいいやつ。
無断欠勤にならないように?まさか!でも学校も遅れないように送ってくれたし、
自分の講義も気にしてた…案外真面目なのか。

環奈の目の前を人々が通りすぎる。それに野木がまじっている。

人物1    いらっしゃいませ。
野木     Bセット一つ、オニオン抜いてくれる?
人物1    かしこまりました。
環奈     今の人…まあ玉ねぎ嫌いなんてたくさんいるわよね。なんで気になったんだろ。
       …誰もがなんだかぎこちないのは、私の両親の死を知ってるからで、
       私が血を飲むと知ってるわけじゃない。なのになんでこんなに居たたまれないの。
       血を取られた人はどうなるんだろう?ああ、死ぬのか、お父さんお母さんみたいに…。
       …両親が死んじゃったのに悲しみも湧かない。どっかおかしくなってるんだ、私…。
       でもおかしいの、二人ともまだそばにいる気がする。二人の血を使ったから…?
       でも、大体血ってどういうこと?人間の血?そんなもの、どうやって手に入れるの。
       献血?まさか…?考えすぎだよ。そんなことしてまで血を手に入れてるわけがない。
       まして私やあの人みたいのがそのへんにウジャウジャいてたまるもんか。

男が環奈の腕をつかむ。

環奈     …はな…。
男      君、健康?いいバイトあるよ、やらない?売血リンパ、病院でリンパ球がいるんだ。
       …おや、君も仲間か。
環奈     離せ馬鹿っ、一緒にすんなっ!
(男を引っぱたいてそれから呆然とするが突き飛ばす)
     何、今の言葉…私が言ったの?

男、幕内に消える。突然、脈拍音が聞こえ始める。

環奈     何の音?…脈打ってる…心臓?

脈拍音、次第に増え、大きくなっていく。暗転。

環奈の声   いやーっ!
蓮の声    環奈、環奈!

明るくなると、環奈の隣に座っている蓮。はっとして起き上がる環奈。口もとに手をやるが歯は伸びていない。

蓮      うなされてたから。大丈夫?
環奈     歯が…歯がすごく伸びた夢を見たの…怖かった…。
蓮      そう…血が欲しい?
環奈     …欲しくない…。
蓮      恥じることはないんだ、我々の血がそう思わせるんだから。
環奈    …街を歩いてるとね、人の心臓の音が聞こえるの。初めて聞いたときはびっくりして、
       いやでいやで走って逃げたの。でも最近、その音があまり耳障りに聞こえなくて、
       むしろなんだか心地よく響いてきて…。
蓮      だから、血がほしいんだろ?そう言えよ。こないだ採血の仕方は教えてやっただろ?
       指でさわって正中皮静脈を探す、それがわからなかったら隣の尺側静脈…
       そのうちお前も自分でやるんだ。
環奈     欲しくない!そんなの専門的すぎてわかんない!
蓮      ふん、まあ素直に言うなんて思ってないからいいけどね。
       でものどが渇いたらすぐおれに言えよ。
環奈    (のどを隠す)
蓮      そののどじゃない、もう一つののどが欲しがるんだ。そして、もう一つの胃袋…
       鬼の胃袋だよ。お前の中にもあるんだから、それから目をそらすな、血に呑まれるぞ。
       すぐ慣れる、おれが自制の仕方を教えてやるよ。
環奈     そんなもん慣れたくないんですけど…。
マリアが現れる。

マリア    ご機嫌よう。もう日が高いですわよ。今日は結構なお天気ですから、
       朝のお茶でもいかが?
蓮      …あ、ああ、後で行くよ。
マリア    環奈ちゃん、いつまでもベッドに居ちゃ体によろしくありませんことよ、
       ではまた後でね。(幕内に)
環奈     マリアさん、まだよく知らないけどなんかいい人そう…朝のお茶って?
蓮      あー、昔からの習慣なんだよ。朝もお茶、午後もお茶、夜もお茶。
環奈     ふーん…?にしても…、蓮が注射器で人の血を採るのは、どうして?
蓮      …人間を死なすのがいやなんだよ。おれだって昔は普通の人間だったんだから…
       先行くぞ。(立ち上がる)
環奈    …知らなかった…蓮も、悩みながらここまできたんだろうか。マリアさんたちも、
       街で見かけたあの人たちも、人を殺さない方法を、
       一生懸命考えて頑張って生きているのかしら…。

環奈と蓮、幕内へ。入れ替わるようにセシルが現れ、環奈の椅子へ。足には鎖がついている。
蓮が再び戻ってくるが、服装が少し時代がかっている。

蓮      こんなところに地下室が…?
セシル   (起き上がる)
蓮     (セシルに近寄って)君…は誰?ここで何してるん…。
セシル   (座り直して足の鎖が鳴る)
蓮     (ぎょっとする)
セシル    あの夢のせいね…。私はセシル。お久しぶりね、セバスチャン。
蓮      夢?どうして、僕の名前…どこかで会った?
セシル    あなたのこと知ってるわ、ずうっと前からね。
蓮      子供の頃…?なんなんだ、以前からってどういうことだ?
セシル    やめてよ、質問責めは。どうだっていいでしょ、若い人はすぐに答を出したがる。
蓮      僕は知らない、君の事なんか知らないぞ。
セシル    …出て行って。
蓮      え?
セシル    二度とここへ来ないで。あなたのお父様も、ここへ来てはいけないと言ってるんでしょ?
       こっちへ向かってるわ…ほんとよ、私、耳がいいの。早く行って!
蓮      また来る!
セシル    本当に?お父様に逆らえないでいる、あなた、本当に来れる?

足音が聞こえる。蓮、慌てて幕内へ。セシルもゆっくりと反対方向へ消える。
マリアが現れてラジオをかけながらお茶の準備を始める。元の格好に戻った蓮とクッキーを持った環奈が現れる。

マリア    環奈ちゃん、家庭的ですわねえ。蓮、炊飯器も買ってご飯作ってもらいなさいな。
蓮      物を増やしたくないんだ。放浪の身だしな。
マリア    あら、私は服はいくら増えても捨てたことないわよ。環奈ちゃん、
       いろんな時代の服があるから今度見にいらして?
       気に入ったのがあれば差し上げますわ。
蓮      けど環奈、マリアの服は結婚式か学芸会入ってるぜ?
マリア    あら失礼な、?モード?と言ってくださる?
蓮     (くすくす笑う)
マリア    環奈ちゃん!これはなんというお菓子?
環奈     ジンジャーブレッド、ショウガが入ってるんです、
       この子供の形が好きでよく作って…。

蓮、いきなりクッキーをチョップでバラバラに割る。環奈とマリア、驚く。

環奈     どうしてそんな食べ方…クッキーがかわいそうだよ!
マリア    蓮、それは歯の悪いおばあさんがお煎餅を食べる時のやり方よ…。
蓮      どんな食い方しようが勝手だろ?
環奈     だけど…。
蓮      大体どっから食うんだよ、頭からかじる方がかわいそうじゃないのか?。
環奈     焼いたばっかりなんだもん!
マリア   (笑い出して)…なんか久々に楽しいわ。ずっとみんな一緒にいられたらいいわね。
環奈     ずっと…みんな…?
ラジオの声  臨時ニュースをお知らせします。港区青山住宅街のアパートから、
       若い女性が出血多量の変死体で発見されました。
       警察では一連の連続殺人と同一犯の犯行と見て捜査しています…。

蓮がラジオを止める。

蓮      環奈、自制しないとこういう騒ぎになるんだ、よく覚えとけよ。
環奈     血を…飲まずにいたらどうなるの?
マリア    さあ…飢えて死ぬのかしら?今のとこ、そんなことした仲間の話は聞かないわね。
       だって生きるための手段ですもの。
環奈     血を飲んでまで生きて何かいいことあるんですか?浅ましいとは思わないんですか?
マリア    思わないわ。だって好きな人と、ずっと一緒にいられるんですもの。私の場合は、
       普通に生きていれば、別々の人生を送らなければいけなかったの。
ルイ     マリアには、親に決められた婚約者がいたんだよ。
環奈     でも今はマリアさんの相手は…。
マリア    ええ、いませんよ。ほんの五十年前に灰になってしまったの。でもいつかきっと、
       会えるって信じているの。生まれ変わってでもね。

環奈、立ち上がる。

環奈     好きな人…マリアさんは両思いだったからそんなこと言えるんだ。
       好きな人に嫌われてたらどうすればいいの?ああ、のどが渇く…。でも言い出せない。
       どうしても、どうしても血を飲むのはいやなんだもの…。

環奈、座る。
無線の声   住宅街路上にて不審な血液を発見、かなりの量を示しており、事件性あり。
       ただちに現場へ急行してください。

山下、現れる。人々がまた通り過ぎる。

人物2    なんか今日の山下さん、上の空だね。
人物3    連日で疲れてんのさ、妹さんのこともあるし。
人物2    え?妹さんのことって?
人物3    詳しくは知らんが、病気の妹さんがいるらしいよ。
人物2    うそっ!あーおれ無神経なこと言っちゃったなあ。
女の子    カラスが鳴くからかーえろー。お兄ちゃん、待ってえ(笑い声)
山下     あの時ちゃんと待ってやってたらどうなってたかな…。
       童謡にカラスの歌が多いのはなんでだろう。不吉なイメージがあるのに。(歩き回る)

舞台には山下と椅子に座った環奈と蓮が残る。環奈、立ち上がる。

環奈     体がどう変わったのかちゃんと理解するまであのうちに居よう。
       お父さんお母さんの死を無駄にしないように頑張ってみよう。
       それでも耐えられなかったら、死ぬことを考えるのはそれからでいい。(歩き出す)

蓮、立ち上がる。

蓮      警察より先に犯人を見つけないと。
       我々の素性が知れたら環奈だってただじゃすまないんだ。(進み始める)

三人、中央で鉢合わせる。

山下     …やあ。よく会うね。
蓮      そうですか?
山下     ああ、君は、目立つからね。
蓮(小声)  …こいつも鼻の利くたちか。
環奈     刑事さん!犯人、見つかりました?
山下     いや…申し訳ない、まだ捜査中です。何なんだ、この緊張感は…あ、
       じゃあ僕はこれで…。(蓮が現れた方向へ歩き始める)
蓮      帰るぞ。
環奈    (思い直したように)ちょっと…待って…。(山下を追って)刑事さん、あのー…。
山下    (立ち止まって振り返る)
環奈     あの…えと…違うんです…私、
       刑事さんに嫌味なこと言うつもりじゃなかったんです、すみません…。
山下     わかってますよ、そんな風に思ったりしませんよ。
       心配事や悩み事があったらいつでも相談にのりますよ。
環奈     ありがとうございます…そうだ、(鞄からチョコの包みを出して)これ、
       よかったらどうぞ!
山下     えっ。
環奈     捜査がんばってください!(チョコを渡して一礼して蓮のところまで行く)

蓮・環奈、歩き始める。

環奈     あ、頑張ってもらっても困るのか…私まで捕まっちゃうのかな?
蓮      あ?
環奈     何でもないです。

蓮・環奈、中央の椅子に座る。一人残された山下。

山下     妹と同い年の少女はなかなか複雑な恋をしているようだ。
       葬式の日も喧嘩してるみたいだったしなあ…。(電話をかける)もしもし、山下です、
       妹がお世話になってます。今度の休みは会いに行きますのでそう伝えてください。
       ええ、僕も楽しみにしてます…。

山下が少し歩くと捜査一課。

人物2    山下さん、科捜研から電話です。
山下     おう。(電話に出る)もしもし、ああ、…B型?二人分?
       今回のマルガイにB型はいないんだが…胃酸も混じってる?
       朝飯がこみ上げてきそうな話だな…おまえこそ、
       こんなことに慣れっこになったら人間としてどうかと思うぞ?(電話を切る)
人物2    先週の、路上の血液ですか?
山下     そうだ、犯人は被害者の血をいったん全部飲み干して、それからまた全部吐いたそうだ。
人物2    …飲んだ血を吐くんですか…一体何のために?
山下     わからんね。死体は増える一方、やりにくいヤマだ。…いかんな、気ばかり焦る…
       早く解決してあの子を安心させてあげたいのに…。

山下たち幕内に。
いつの間にか座って何か書いている蓮。

環奈     何してるの?
蓮      学校のレポート。大学生ですから。
環奈     そうですか。(サンドイッチを用意して蓮に渡す)じゃあ、はい、夜食。
       おやすみなさい。(立ち上がって幕内へ)
蓮      ん?夜食…と手紙?(開いて)『勝手に作りました。
       要らなかったら私が朝食に食べるので捨てないで下さい。
       体のこといろいろ覚えるまではお世話になります。
       大声に慣れてないので怒鳴らないで下さい。しばらく一緒に暮らす以上、
       名前を知らないのは変です。教えてください』…言ってなかったっけ…。
      (サンドイッチをかじる)チョコクリームサンド?なんでチョコ…
       いろいろ覚えるまで、か…。覚えたら出て行くんだな。(手紙にサインする)
       …東条蓮、と。そしてまた一人の生活が始まるわけか。

椅子の中で眠り始める蓮。桜の花びらが舞い始める。いつしか舞台の端に立っている環奈。蓮が目を覚ます。

蓮      夢?…このところ同じ夢を見る。セシルが見た夢と同じだろうか。
       同じなら何の意味があるんだろうか…幸せになれなかったセシル、もういないのに、
       セシルの言った言葉にどうしてこうも不安になるのか…。(立ち上がり幕下に)
環奈     泣いてる?あの人が泣くなんて…。外はすっかり春で、桜がこんなにきれいなのに、
       私の現実はこれなの?これから人の血を吸って生きるんだ、いつまでもいつまでも、
       生きてる限り…こんな体にした蓮を憎まなくちゃいけないんだろうか。
       今でも気持ちは変わらないのに…。

環奈、蓮と反対方向に消える。
しばらくして蓮が戻ってくる。

蓮      まだ帰ってないのか…朝っぱらからこの時間まで、どこほっつき歩いてるんだ?
       何の連絡も書置きもなしに。まさか…?

電話の音。

蓮     (電話を取る)はい。(間)もしもし、もしもし…?こんな時にイタ電かよ。
環奈の声  (しゃくりあげている)
蓮      …環奈か?環奈?
環奈の声   …蓮…。
蓮      どうしたんだ?おまえ今どこにいるんだよ?
環奈の声   蓮、私、どうしよう…。やめてって言ったのにやめてくれなくて、だから、
       そこに首があったから…。
蓮      落ち着け、今どこなんだ?すぐ迎えに行くからそこを動くんじゃないぞ!

蓮、急いで幕下に消える。血だらけの口をした環奈。

環奈     私の中の鬼は、凶器になった。私が悪いんじゃない、ひどいことするんだもん…。

暗転。明るくなると中央に座っている蓮。マリアが来る。

マリア    環奈ちゃん、今寝たわ。
蓮      あいつ半日以上死体といたんだ、アルコール入りの血で、酔って動けないまま。
       ほんとにばかなんだから…。歯が伸びてたんなら、なんでそう言わないんだよ!
       言えって言っただろ!何のために一緒にいると思ってんだよ!
マリア    タイミングが悪かったわね。正当防衛と言いたいとこだけど、
       世間には通用しないでしょうね。でもすごく怯えてたわ。混乱して…
       みんな捕まっちゃうとか、死んでお詫びとか。私、顔見られてるからって…。
蓮      何言ってんだ、歯型なら消してやったし…。
マリア    で、もうちょっと建設的な話をしませんこと?環奈ちゃんに乱暴しようとした奴らの、
       一人は死んだけど、もう一人は逃げたのよ。
蓮      確かに。あんたは冷静だね。
マリア    伊達に歳を取っちゃいないのよ。綺麗なものからも、汚いものからも、
       エネルギーをもらっているからね。
蓮      逃げた男を捕まえるか、おれたちがどこかに逃亡するかってこと?
マリア    見られた以上それしかないでしょう?
蓮      できればあと二年は動きたくないんだけど…。
マリア    なんであと二年?…ああ、環奈ちゃんの卒業!
蓮      …純粋に?小泉環奈?として過ごせるのは今の学校が最後だと思うから。
マリア    じゃあ、目撃者探しに決まりだわ。…私、逃げた男の味がわかってよ。
蓮      そうだな…しらみつぶしに探すか。死んだ奴の鞄持って来といてよかったよ、
       手帳とか…。
マリア    蓮はだーめ、その場で殺しちゃいそうだもの。彼女についててやんなさい。
       人を殺したってナーバスになってるんだから。(幕下に)
蓮      …生きにくいのはどの時代でも一緒だな…。ずっと考えてる、
       どうしてここにセシルがいないんだろう、何がいけなかったんだろう。
       世代だろうか?世相だろうか?必然のような偶然、そのすべてだろうか…
       世界はいつだって不透明だ。でもあの頃はセシルがいた、それだけで十分だった。
セシル、現れる。蓮、立ち上がる。

セシル    そうね、あなた、嘘つきじゃないわ。来てくれてうれしい。今日は森に行ったの?
蓮      …え?
セシル    あなたの服から緑の匂いがする。
蓮      うん…それで、あの泉に行ってきたよ。確かに、
       一角獣がいてもおかしくない風景だったよ。(花を差し出す)
セシル    これ、私に?(受け取って)…あ、あの、ありがとう…。(初めて微笑む)
蓮      あ、いや、うん…。(照れる)

蓮、抱きしめようと手をのばす。その瞬間、

ニュースの声 青山にある、現在使われていない倉庫から、身元不明の男性の死体が発見されました。
       倉庫には普段から鍵がかけられておらず、警察は会社の管理体制を問うと共に、
       殺された男性の身元を調べています…。

セシル、幕下へ。蓮、腰掛ける。入れ替わりに環奈が走りこんでくる。

環奈     どうしよう、見つかっちゃった。見つかったの!警察に!
蓮      知ってるよ、今ニュースで見た。
環奈     どうしよう、どうしよう、私、これからどうなるの…。(蓮にすがりつく)
蓮      見捨てたりしない、大丈夫だから。(抱きしめようとするがためらって、
       環奈の頭をくしゃくしゃとする)とにかく、何か飲めよ。(紅茶を渡す)
環奈     あつい…。
蓮      熱いよ。おれたちには体温がないんだから。

電話の音。山下や捜査一課の人間、現れる。

山下     はい捜査一課、どうしました?
声      ニュース見たぜ。こ、殺されたの、おれのダチなんだ。おれもその時いたんだ。
       おれ、犯人見てるんだよ。
山下     犯人を見てるって?(逆探知の指示しながら)君は現場にいたんだね?
       詳しく話してくれないか?
声      変なんだよ!血を吸ってたんだ、あの女、絶対おかしいぜ!
山下     変なのはわかってる、今から犯人の特徴を質問するから落ち着いて答えるんだ、
       いいね?女の歳は?
声      若い、女子高生くらい…。
山下     髪型は?
声      それよりあの眼が!
山下     目?
声      眼が、なんかすごくて、青味がかってるような…。
山下     もしもし?目がどうしたって?
声      か、軽い気持ちだったんだよ!あの子、一人で泣きながら歩いてたし、
       おれたちあの日かなり酒入ってて…。(電話の切れる音)
山下     もしもし?切れたぞ、逆探は?
人物3    成功です!
山下     よし、急行だ!

山下ら、幕内に。電話の音。電話まで行く蓮。紅茶を飲んでいた環奈。

蓮      はい、マリア?ああそう、わかった。すぐ行く。(電話を切る)
環奈     どこに行くの?
蓮      自分一人が不幸みたいな顔をするな。セシルに比べたらお前は一人じゃ何にもできない、
       後始末はみんなおれたちだ!同情する気すら失せるね!

蓮の剣幕に怯える環奈。勢いよくドアを閉めて出て行く蓮。

環奈     セシルって、誰…?(後ろにさがっていく)
ドアを叩く音。

山下の声   警察です、話の続きを聞かせなさい!

山下ら現れる。

人物3    うっ、酒臭い…!
山下     匂いだけで酔いそうな部屋だな。
人物3    あっ、山下さん、あれ!電話線外れてます。
山下     つながらないはずだ。
人物3    途中で怖くなったんでしょうか、なんか後ろめたいところありそうだったし…。
山下     自分で電話線引き抜いて逃げたっていうのか?…大の大人が、女の子が怖ろしくて、
       警察に電話してきたんだぞ?
人物3    じゃあ、犯人に拉致された…?
山下     くそっ!探し出さないと、唯一の目撃者だ!

山下ら幕内に。反対側から蓮とマリア歩いてくる。蓮はまだ呼吸荒く、呆然としている。

マリア    目が覚めた?何を考えてるの、あんな殺し方、
       ニュースの奴と同じただの殺人鬼に成り下がるおつもり?
蓮      殺人鬼…?そんなの、とっくに…あんたたちと同じ吸血体質になる前から、
       おれは人殺しなんだよ。
マリア    どういうこと?
蓮      …城の地下で、父がセシルを飼っていた…セシルは、
       金持ち不能者の悪趣味な慰み者になってたんだ。
マリア    初めて聞いたわ…。
蓮      初めて話すよ。この手で、父親を殺した。あの時も、さっきみたいに、
       頭を潰してやったっけ…。
マリア    でもそれは!セシルを助けるためだったんでしょう?自分を助けてくれたセバスを、
       セシルも好きになったんでしょう?だから二人は、愛し合うようになったんでしょう?
蓮      …セシルには、愛なんてなかった。一方通行なんだよ…。
       セシルは何でも同じように受け入れるんだ。いつもどこか遠くにいるようで、
       目の前で父が死んでも、頭から血を浴びても、静かに見てるだけだったよ。
       対等になりたかったのに、先に死んじまった…。
       もう永久に追いつけない、謝ることもできないんだ。
マリア    何を言ってるの?謝るって何を?蓮を変えたのはセシルでしょう?
       お互い好きになって関係したんじゃ…。
蓮      違う!おれがセシルを犯したんだ…。父を殺したあと、頭が錯乱してる中で、
       何かにすがりつきたかったのかもしれない。だけど、まさかそれで、
       この体質が感染るなんて、思ってもみなかった…。
マリア   …でも蓮、いずれ環奈ちゃんにも説明しないと。どうして変化してしまったのか、
       あの事故であなたの血も輸血したからってこと…ああ、忘れてた。
       彼女も愛のない感染なのね…。だったら…気持ちもわかるでしょう?
蓮      それはどういう…。
マリア    いいえ、深い意味はないの。これから親切にしておやりなさいよってこと。
       早く帰んなさい、彼女一人で待ってるんでしょ。(そのまま幕内に)
蓮      親切に?してやってるじゃないか。警察から救ってやったし、血だって飲ませてやった。
       責められる謂われは無い。
セシルの声  責めたいのはあなたの方でしょ?…私のこと、殺したい?
蓮      どうして。
セシルの声  うつしたから。
蓮      どうして…責めたりしない…。
セシルの声  どうして?
蓮      君が、好きだ…。大人になってみれば、子供心に怖いと思ったセシルは、
       ただの少女だった。でもあの頃のおれはまだ二十歳の若造で、セシルは、
       いくつだったんだろうな…。
ガラスの割れる音。環奈が割れたコップを前に座っている。

テレビの声  …他殺体で発見、昨日の倉庫の事件との関連があるものと見て警察は…。

環奈が振り返ると蓮が立っている。

環奈     蓮がころしたの?どうして…どうして!殺すことないじゃない、
       なんでそう悪い方にばかり持っていくの?どうして…。
蓮      おい、ちょっと待て。おれのせいか?
環奈     そうよ、全部蓮のせいじゃない!蓮が、私の前に現れなければ、
       蓮が関わらなかったら、誰も死なない、誰も、誰も!
蓮      セシルと同じ顔して、ずいぶんなこと言うんだな。じゃあどうすればよかったんだ?
環奈     セシルってだ…、
蓮     (続きを言わせまいと環奈にキスする)アザ、消えたな…。(幕内に)
環奈     セシルって、誰?蓮のなんなの?…どうしてもっと素直になれないんだろう。
       こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。だめ、一人じゃだめ、一人じゃだめ。
       誰か、そばにいて…。

環奈、幕内に。入れ替わりに山下ら。

山下     やられたな…。
人物3    ひどいですね!壁に叩きつけて即死させるなんて…。
       そういやホトケは婦女暴行の前科があったんですよね。
山下     ああ…倉庫の変死のやつもだろ。
人物3    こいつら自身にはあんまり同情する気はないな…。

カラスの鳴き声。

山下     夜なのにカラスがすごいな。
人物3    大きな木がありますからね、ねぐらなんでしょう。真っ黒で何も見えませんが。
山下     姿は見えなくても確かにそこにいる…。どこだ、どこにいる。よく考えろ、
       何か見落としてないか?高校生くらいの女の子、青い目…。

いつの間にか山下紗希の病室になる。ベッドに寝ている紗希の傍に行く山下。

山下     紗希、どうだ、具合は。いい天気だな、なあ?
       忙しくてなかなか来れないで悪かったな。今扱ってる事件で、
       お前と同い年の女の子がいるんだ。まあいろいろ大変だったけど…、
       彼女も頑張って生きてるよ。だから…、お前も頑張れ。
人物2    …十年もったのが奇跡ですが、最近衰弱が目立ちます。心の準備はしておいてください。
山下     あっという間じゃなかった。十年は長い。いつも思ってた、
      『まだ生きるつもりか?』死期を宣告された途端、頑張ってほしいと思う自分がいる。
       眠り続ける妹は、夢でも見ているのだろうか。

山下たち幕内に。環奈とマリア現れて向かい合って端の方に座る。マリア、カードを切っている。

環奈     マリアさんがタロット占いできるなんて知らなかった。
マリア    いろんな国を転々としてきたんだもの、食べていくためにも必要だったのよ。
       …これは隠者のカード、真実の愛って意味です。で、隣は運命の輪、
       これは転換期ってことですわね。つまり、運命の恋です。さて、未来のカードは…。

めくると、白いカードが出る。

マリア    ええっ?いやだ、予備のカードだった、ごめんなさい、
       今までこんなことないはずなんですのに、不測の事態ね。
環奈     …何も書いてない未来のカード…、未来はいつも白紙ってことですよね。

蓮が現れて中央の椅子に座る。マリアもすぐに来て隣に座る。

マリア    環奈ちゃん、うちに来てますよ。セシルって誰か聞きに来たの。
       ついでに血族の話もしてるわ…まだ話してなかったのね。
蓮      原因不明の、自分でも納得してないことをどう説明しろって?
電話が鳴る。マリア、幕内へ。蓮が電話を取ろうとすると環奈が中央に戻ってくる。二人、一瞬見詰め合うが、環奈は無言で通り過ぎて幕内に行ってしまう。

蓮     (電話を取って)もしもし?
山下の声   もしもし、こちらは山下です。斉藤彩という女性が殺害されたんだが、
       彼女の携帯の履歴を調べたところ、彼女と最後に電話したのは君なんだよ。
       ちょっと話を聞かせてほしいんだ、東条君…もしもし?
蓮     (電話を切って)ついに来たか。斉藤彩は大学で知り合った、
       血液の供給源として大事な人間だった。
       一度血をもらったらあとは記憶を消すようにしているのだが、彼女は鼻が利くようで、
       存在感ゼロのはずの俺を忘れない珍しい人種だった。
       それを利用して例の殺人鬼探しに一役買ってもらったのだが、
       俺に似たタイプの男を見つけたという連絡があって以来途絶えていた。

山下と他1名現れる。山下、蓮と向かい合うように座る。

山下     しかし、妙な縁だ。
蓮      会いたくないと思ってると会っちゃうんですよ。よくあることでしょ?
山下     心理学かい?
蓮      今の僕の気持ちです。
山下     僕に会いたくないって、何かやましいことでもあるのかい。
蓮      警察に呼ばれて嬉しい人はいませんよ。協力はします、
       でも話すことなんか何もないんですよ。
山下     斉藤彩との関係は?
蓮      斉藤さんは同じ大学ですが、交友関係を話せるほど知りません。
       そんな付き合いじゃなかったし、あの日彼女が誰と居たかなんて、
       検討もつきませんね。
山下     そんな付き合いじゃないってのはおかしいね。
       彼女は不特定多数の男性と交際していたようだが、
       最近は何度か君のアパートに泊まってるだろう。我々が小泉さんを保護した日も、
       彼女とホテルに行ってるよね。恋人だったんじゃないのかい。
蓮      彼女は…僕にとって都合のいい人でした。
山下     …環奈さんは元気かい?この前見かけたよ、青山の倉庫で殺人があったとき。
蓮      え?
山下     野次馬に交じってるのを見たんだ。
蓮      ああ…そう、そうなんです。(煙草を取り出す)
       物騒な所には近づくなと言ってあるんですけどね…吸ってもいいですか?
山下    (了承して)小泉さんの両親も、この連続事件の被害者だったね。ひょっとしたら彼女、
       何か知ってるのかもしれないな。たとえば…
       彼女自身はそれが事件と関係してるとか思ってもいないようなこととか…
       今度改めて小泉さんに話を訊く必要があるかもしれないな。
蓮      そっとしておいてもらえませんか?最近やっと落ち着いてきたところなんです。
山下     じゃあ、君に訊こうか?この連続失血死事件は今のところ六件だ。
       もしかしたら見つかってない死体がまだあるかもしれないけどね。
       君が斉藤彩とホテルに行った日、そこでも一件あった。斉藤彩本人も死んだ。
       両親を殺された環奈さんは君の婚約者だ。六件中三件、確率五十パーセントだよ。
       こんなに犯罪に遭遇するなんて、刑事なら別だが、そうそうあるもんじゃない。
       君の周りでこれだけ人が死んでるんだ、このこと君自身はどう思ってるんだい?
蓮      警察は犯人を早く捕まえないといけない、それだけですよ。
山下     そんなことはわかってる!人殺しが図々しくのさばっているから、
       罪のない被害者が増えるんだ。(我に返り)風がやっと出てきたな…
       ご協力ありがとう、もういいよ。
蓮     (立ち上がる)いいえ、お役に立てませんで。
山下     あと一つ、斉藤彩とは最後に何の話をしたんだい?
蓮      別れ話です、婚約者もいることですしね。(中央を通って下手に消える)
山下    (灰皿を取って)…これを鑑識に回しておいてくれ。
人物3    山下さん、科捜研から報告書上がってます。(報告書を渡す)
山下    (報告書を読みながら)血液型、DNA、全て不一致か…。
人物3    なんでそんなに東条にこだわるんですか?
山下     あんなに怪しくてこんなにシロいところかな。
人物3    じゃ、張り込みですね。
山下     勿論、こうなったら尻尾をつかむまでの根くらべだ。

山下たち幕内へ。
蓮とマリア現れる。

蓮      マリア、今日環奈預かってくれる?
マリア    え?出かけるの?尾行がついたんでしょう?
蓮      あんなのは適当にまくよ。証拠がない限り向こうも手は出してこない。
       用意しなきゃいけないものもあるしな。
マリア    ああ、パスポート。
蓮      環奈を卒業させてやりたいなんて言ってられなくなったな…。(幕下へ)

マリア、たくさんの服やカメラを用意し始める。環奈が現れてそれを見ている。

マリア    こういう服って、何と言うのかしら?初めてですわ。
環奈     フォークロア調…じゃないですかね。
マリア    大自然の中で撮ったら、もっと楽しいのにね。この服なんか、
       フランス南部のイメージよ。次はスイスにする?
環奈     あのー…、確か、パスポート用の写真を撮るんじゃなかったですか?
マリア    あら、そうでした。環奈ちゃんはどこに行きたい?
環奈     私?…学校がありますよ。
マリア    自主休学中でしょう。希望があったら言っといた方がいいわよ。
       長い休暇になるかもしれないから。(カツラをいくつかと鏡を持ってきて)
       どうやって印象を変えましょうね。
       ブロンドとカラーコンタクトでロシアの女の子とか。(環奈を鏡の前に座らせる)
環奈    (ブロンドのカツラをつけて)これじゃ、変装みたい。
マリア    …やっぱり。似てる。
環奈     え?

環奈、鏡を見るとセシルが映っている。そして環奈と入れ替わる。暗転。
明るくなると野木が中央に寝ている。

野木     殺され続ける、過去の記憶に、僕らはゆっくり殺される。
       でも本当の死なんて訪れやしない。こんなに待ってるのに。…神様、
       二度と明けることのない暗闇を僕に下さい。

野木の上に檻が現れる。檻をたたく音。見世物小屋の音楽流れ始める。

男の声    おい起きろ、出番だぞ!
声      紳士淑女の皆様、世にも珍しい生き物を見にいらっしゃい。蛇女、狼男、二つ頭、
       殺しても死なない少年と少女。見なきゃ損だよ、こんなの二度とお目にかかれない!

野木の後ろにスポットが当たり、血だらけのセシルがお辞儀をして微笑む。照明が元に戻ると包帯を頭に巻いている野木。同じく包帯を頭に巻いたセシルが中央に来る。

野木     なあ、ここに来る前のこと覚えてるか?おれは忘れてしまった、
       頭を割られすぎたせいだろうか。
       この先思い出すことといったら殺される自分しかいない。惨めだ、あんまりだ。
       いっそ全て忘れてしまいたい。
セシル    私は忘れない。忘れたら生きていけないもの。忘れた中に、
       大切な人との思い出があったらどうするの?その方がずっとこわいと思わない?
       私…もうすぐさよならよ。またあの夢を見たから…動き出すわ。
野木     夢?
セシル    子供が遊ぶ夢…あなたは見たことない?

セシル、幕内へ。野木、立ち上がる。人々が通り過ぎる。

野木     だめだ、おれはあんたほど強くない。こいつらの前で笑えない。
       殺さないと自由になれない。殺さないと、殺して。
人物     殺せ。
野木     殺してやる。
人物     殺してやる、殺してやる、おまえらみんな殺してやる。
野木    (包帯を外して)今日は、何人殺そうか。

野木にスポットライト。
もう一つスポットライトの当たる先に蓮立っている。雑踏の音。中央明るくなって野木の殺気に気づく蓮。

蓮     (野木に歩み寄り肩をつかんで)おまえ、?野木?だな?
野木    (振り返る)
蓮     (ピストルをつきつけて)話がある、そのまま歩きな。
野木     用があったんだけど…まあいいか、同類と話すのはひさしぶりだ。
蓮      用事って人殺しが?

蓮と野木を残して人々幕内に消える。

野木     そんなもの、しまったら?僕は平気だけど、他の人に当たったら死んじゃうよ。
蓮      まともな台詞、似合わないぞ。
野木     変だな、僕のどこがまともじゃないっていうんだ。
蓮      必要な分だけ採ればいいのに、ミイラにしちまうことだよ。
       人間がいなかったらおれたちも生きてもいけない。
       共存を考えたら騒ぎなんて起こせないはずだ。
野木     いつまでも日陰の身か。
蓮      多少の我慢は誰もがしてる。人間だって生きてるんだ。
野木     そんなこと言いにきたわけ?
蓮      あんたはおれの知り合いを殺してるんだよ。斉藤彩ってひとを。
野木     じゃあ、あなたが彼女の言ってた男か。同じ匂いがするって言ってたな。
       なるほど同類なわけだ…。わかってる?あなたがあの子を殺したんだよ。
蓮      殺したのはお前だ。
野木     いとも簡単についてきた、いやむしろ乗り気だった。何か探ってた。
       彼女の好意を利用したのはあなただ。あなたが殺した。
蓮      言いがかりだな。大体彼女だけじゃない、なぜみんな殺してしまうんだ。
       せっかくうまく暮らしてるおれ達はいい迷惑だ!
野木     知るもんか、僕は後始末だけだ。頭使って大変だよ。細かいことは全部僕任せで…。
      (変化)なぜ殺すかって?おれは人間が嫌いなんだよ。(変化)…ずっと我慢してたよ、
       何度も止めたんだ。彼女にも逃げるように言ったのに。こんなこと、
       自分の首をしめてるだけだってわかって…る、の、に、(変化)
蓮      …おい!
野木     死にたいと思ったことは?
蓮     (間)ない…。
野木     そんなこと、思考が止まらない限りありえない。それじゃあなたは、虚無なんですか。
蓮     (黙って銃のストッパーを落とす)
野木     さっきからおかしな人だ、そんな物でどうしようと言うんだろう。
       そんなもんじゃ死なないよ。馬鹿にしてんの?
蓮      どうかな。これは、特別だから。(ピストルを野木に向ける)
野木    (変化)死ぬの?ほん、ほんとに?よ、よかった…。(泣く)
       僕はあの子ほど強くないから、子供の夢も見れなかっ…。
蓮      …え?(銃を下ろして)今、なんて…。
野木     待ってたんだ、運命が変わるのを。
蓮      お前、セシルを知ってるのか?
野木     殺してよ、今、すぐ。
蓮      セシルを知ってるのかって聞いてるんだよ!
野木     知らない、だれ、それ…。でも、なにされても絶対に怒らない女の子は知ってる。
       ずっと昔、見世物小屋でぼくと一緒にいた。知ってるんだ、
       座長は時々彼女を部屋に入れていた。(変化)あんたの知り合いなの?あの子、
       どういうわけか好き者にばかり好かれるよね。
蓮      …黙れよ。
野木     彼女のその後を知りたい?やっぱり酔狂な金持ちに買われて行ったよ。
蓮      うるさい!
野木     毎日殺されるのと変態の相手するのと、どっち取るかって言われたら、
       殺される方を選ぶけどね。(変化)
蓮      だまれ!

蓮、銃を向けようとするが、野木がいつの間にかナイフを取り出して刺している。銃を落とし膝をつく蓮。それを拾った野木が逆に蓮の頭につきつける。

野木     なに本気でこわがってんの?こんなもんで、おれたちが死ぬかよ、ばからしい。

人影。それに気づいた野木、銃を落として影を追い、幕内に消える。環奈が走ってくる。

環奈     蓮?(振り返りながら)ねえ、私…。
蓮     (血だらけで環奈に倒れこむ)
環奈    (長い叫び)

環奈も倒れる。
マリアが現れ、環奈を世話したあと蓮を椅子に連れて行く。

マリア   (蓮を手当てしながら)しかし、油断しちゃいけない相手だってわかってたでしょう。
       らしくない、どうしたのよ。
蓮      …環奈は?
マリア    隣にいるわ。流血見たショックで寝込んでるわよ、
       迎えに出た途端血まみれで倒れこんでくるんだもの。…あんまり心配させないであげてね。
蓮      野木のやつ、セシルと同じ見世物小屋にいたらしい。
       でもまさか殺人ショーをやってたなんて知らなかった…。
マリア    殺人ショー?嘘でしょう?
環奈    (体を強張らせて起き上がり、隣をうかがう)
マリア    じゃあ…その人も?
蓮      らしいね。おかしくなるはずだよ。
野木の声   Bセット一つ、オニオン抜いてくれる?

環奈、短い叫び声を上げて起き上がるが、何度か誰かに触られたようにびくっとして小さく叫ぶ。見回すが誰もいない。起き上がって鏡を見るが鏡を割ってしまう。拍手の音。環奈、はっとしたように顔を上げるがすぐに頭を抱える。

マリア    哀れな殺人者だわね。ある意味野木も被害者かもしれないわ。
蓮      あんたらね、いっぺん刺されてみなよ。
環奈     名前!あの人の名前…。シモン!
蓮      ただ一つ変なのは、野木は自分が死ねないって思い込んでることなんだ。
マリア    どういうこと?
蓮      おれたちは銀の弾で撃ち抜かれると死んでしまうってこと、あいつは知らないんだ。
      ?血族?なら、誰もが知ってる大事なことなのに。
       死にたいけど死ねないって繰り返すんだ、暗示にでもかかったように。
マリア    イカレタやつの言うことだしねえ。とにかくもう一度探し出して、
       今度こそ楽にしてやらなきゃ。
蓮      わかってる。
環奈    ?私がいいって言うまで死んじゃだめよ?、?私がいいって言うまで死んじゃだめよ?
      …私、どうしちゃったんだろう、ずっと変。わかりそうでわからないことだらけ。

蓮とマリア、眠り始める。環奈、蓮の上着を着て、幕内に。マリア目覚め、環奈を追うように幕内に。蓮は反対側に。入れ替わりに野木が現れて座る。環奈現れる。マリアもあとから現れる。

環奈     こわい、私、どこに向かってるの。でも引き寄せられる。
       誰かが呼んでる気がする。誰なの、あなた、誰?

環奈、野木に近づく。野木、立ち上がる。マリア、端で聞いている。

野木     姉さん。
環奈    (黙ったまま野木に近づく)
野木     ずっと待ってたんだ、姉さんが僕を自由にしてくれるのを。
       姉さんが望むならずっと一緒にいたのに、姉さんはいつも他の男のことを考えてたよね。
       途中まで一緒にいてくれるなら、姉さんは誰でもよかったんだ。
       見世物小屋にまで身を落とすことになった時、もう姉さんのこと忘れようと思った。
       振り回されるだけの僕は、そうでもしないとやりきれなくて。
       あの日からたくさんのことを忘れて生きてきた。姉さんのこと、自分のこと…
       忘れないと生きていけなかった。でもどうしてこんなにいろいろ思い出すんだろう。
       死ぬってこういうことなのかな?あの男が姉さんの言ってた大事な人だろ。
       やっと逢えたんだね。復讐は終わったの?姉さん、僕もう死んでもいい?
環奈     楽にしてやらなきゃ、楽にしてやらなきゃ。
      (暗示にかかったように…銃を上着から取り出し野木を撃つ)
野木、コート一枚を残して灰になる。環奈、駆け寄って叫ぶ。マリア、駆け寄る。

マリア    環奈ちゃん!
環奈     生まれ変わりなんて、そんなこと…でも覚えてる、思い出した、ああ、なんてこと。
マリア    しっかりして、何を言ってるのよ。
環奈     私、私がセシルだったんだわ。
マリア    環奈ちゃん?…あなた、誰…?
環奈    (放心状態で答えない)
マリア    環奈ちゃん、聞こえる?戻ってきて、目を覚まして…。
環奈     目は覚めてる。見てるの、自分のこと、自分のしてきたこと、見えるの。
      …どうして私、あんなに男の人に媚を売ってるんだろう?ああ、そうだ、生きるためだ。
       あの人たちは血をくれる。後ろめたい性癖の人をあえて選ぶ、
       そういう人なら私のことを口外しないから。
       偏執的に私のことを大事にしてくれるから…。そうやって共犯者を作って生きてきた。
       死ぬわけにはいかなかったの。シモンもそう。
       長い孤独を埋めるために仲間に引き入れた。彼の気持ちを利用して、捨てて、殺した…。
マリア    野木は殺さないといけない相手だったわ。でもどうして、どうしてあなたが殺すの?
環奈     あの子、ずっと私を呼んでたの、全然気がつかなかった…。
マリア    あなた、混乱してるわ。
環奈     私がセシルって信じないのね。
マリア    だって…セシルは、私の目の前で死んだんだもの…。
環奈     そうよ、死んだの。私、自分が死んだ時のこと覚えてる。その時、マリアさん、
       確かにあなたもいた。蓮もいた。…みんなで逃げてたよね。

照明が後ろから当たって人が増え、人物がシルエットのみになる。

マリア    ええ、私たちが出会ったあの街で、吸血鬼狩りがありました。
       他の仲間のとばっちりでしたわ。でも、よそ者はみんな疑われました。私たちも逃げた。
環奈     こんな月の夜だったよね。
マリア    ええ、明るすぎる月が、私たちを隠してくれなくて…。
声      いたぞ、あそこだ!

銃声。少女の影が撃たれて倒れる。男の影が抱きかかえる。

マリア    セシル!…銃声がして、振り向くと、セバスが受け止めていた。あっという間だったわ。
       なぜ知ってるの?蓮が話したの?
環奈     蓮が私に、そんな話すると思う?
マリア    じゃあどうして知ってるの?
環奈     どう言えばわかってくれる?浮かんでくるの、追われてる様子、
       自分が灰になって散っていく感じ…そして、最後に見た蓮の顔。ねえ、
       これってどういうこと?私が散った時、蓮は私なんか見ていなかったのよ。
       とても冷たい顔をしてたわ。
マリア    うそ!セバスはセシルを愛してたのよ、目の前で自分をかばって撃たれて、
       今でもそのことで苦しんでる…。
環奈     変なの、そんなにムキになって。見てもないのに、どうして嘘だなんて言うの?
マリア    えっ。
環奈     私が撃たれた直後の蓮の顔は、マリアさんの位置からは見えなかったはずよ。
       だって、蓮は背を向けてたんだもの。
明るくなる。環奈、椅子に座って何か呟いている。マリアは右往左往。

マリア    もう!こんな時に蓮はどこに行ったの?入れ違いだったのかしら、
       彼女がこんな状態じゃ出発するのも…連れて帰ってくるのが大変だったわ。
       時々言ううわ言を聞いてると、どんどんセシルの記憶を遡ってるみたい。
       まさか本当にセシルの生まれ変わりだったとはね。でも、
       蓮の話から想像してたセシルと違うわ…。環奈が言うセバスも、
       私の知っているセバスじゃないみたい。もう、何が本当なんだか…。
      (タロットカードを取り出して占い始める)彼女の中にセシルの部分があるとしたら、
       あの時の二人がまた出会ったのよね。あの時も逃げていたわ。あまりにも、
       状況が同じすぎる…。(結果を見て)そんな、それが、答えなの…?

マリア、環奈を連れて幕内へ。入れ替わりに紗希たち患者や看護師が現れる。その中に混じって紙包みを持った蓮も登場。

蓮      …ああだるい、傷はふさがったのに調子が戻ってこない。
       疲れたな…何も考えないで眠ってしまいたい。どうした、することは山積みなのに。
       死んだら何も考えないですむ、それで終わり、完璧な終わり、
       生きることからの永遠の解放…か。なんだか、そんなのもいいかな…。

紗希、蓮に近寄る。途端に照明が変わる。

紗希     変なの、死んだら終わりだなんて言ってる。なんかおかしい。
蓮      え?な、なんだ、これ。
紗希     人は死んでも終わりなんかじゃないのに。ああ、でもわからなくて当然なのかな?
       生きてる人にはわからないことよね。私もやっと知ったんだもの。
蓮      あ、あんた誰だ?
紗希     私ね、ずっと眠ったままで起きられないの。
       たくさんの管で機械につながれたまま、もう十年。でも、心臓も、もうすぐ止まるわ。
       ああ、やっと死ねる、そう思った時、自分の前世が見えた。
       前世の私は寝たきりの母を看病する娘だった。生きる屍のような母。
       怖くて悲しくて、早く楽にしてあげたくて、毎日母の死を願った。
       そう思うことが罪だとは思わなかった。…植物状態って、
       生と死の宙ぶらりんな状態のせいか、家族の心の声が聞こえるのよね。
       早く死んでくれ、おまえから解放されたい、
       早く死んでくれ早く死んでくれ早く死んでくれ。
       前世の私が母に思い続けていたことが、今自分に返ってきてるって気がついた。
       前世の私は、母にとても悪いことをしていたんだわ。
       母の悲しみを知るために、私は転生してきた。気がつけてよかった。
       この先何度転生しても、これからの私は人の死を願ったりしない。
       知らないうちに罪を増やしたりしない…。
蓮      …現世は前世の罪の償いをするためにあるって言うのか?
紗希     そうよ、すべて意味があるの。生あるものは何度も生まれ変わって成長していく。
       人の魂は死なないし、本当に新たに生まれ変わることもない。
       ただ異なる場面を通り過ぎていくだけ…それが輪廻なの。
蓮      え?ちょっと待てよ、だから何なんだよ?それはおまえのことで、
       おれには関係のないことだろ。おれはあんたと違って死なないし歳も取らない。
       血を飲まないといけない体だし、そのためには時に人も殺してしまう。そんな者にも、
       この世の常識で説明がつく因果とやらがあるっていうのか?
紗希     この世に意味のないものはないし、私なんかが知り尽くせるものでもない。
       全ては驚異に満ちていて、この大きな世界の外側に、
       もっと別の何かが広がっているのかもしれない。…それとも、
       この世界もすでに多面的なのかもしれない。罪であり罰であり因果であり、
       そんなものだけで閉じてしまった特殊な輪廻も、ひょっとしたらあるのかも…。
蓮      なんだって、それは一体…。
紗希    (胸を押さえて)あ、止まる…。(幕内に消える)
蓮      何だったんだ、今のは…。輪廻?この世の全てのことに意味がある?
       今この瞬間にここにいるってことにも意味があるっていうのかよ。時間や、場所や、
       出会ってきた人々…。生きてるわけ、生まれてきたわけ、じゃあ、おれは…?

蓮も幕内へ。
入れ替わりに山下が現れる。奥から泣き声が聞こえる。公衆電話をかける山下。

山下     もしもし、山下だ。裏は取れたか?
声      はるばる出身地まで来た甲斐がありました。
       知人を探して顔写真を照合してもらったところ別人と判明しました。
       本物の東条蓮にはかなりの借金があったようです。たぶん戸籍を売ったんでしょう。
山下     よくやった!なんでもいい、引っ張って来れれば、そこから崩してみせるさ。

電話を切る山下。看護師が出てくる。

山下     長い間、お世話になりました。
看護師    紗希ちゃん、頑張りましたよ。
山下     ええ…。(間)では、仕事がありますので。よろしくお願いします。

幕下へ去る山下。看護師も幕内へ。入れ替わりに蓮・環奈・マリアが現れて環奈のみ中央の椅子に座る。

蓮      発つなら一刻も早くだな。でも野木をどうするか…。
マリア    あの、そのことなら…。
環奈     セバスに初めて会った時、一目でわかった、ずっと待っていた相手だと。
       そういう運命なんだと思った。全て用意されている。
       どんな目に遭っても生き延びたのは、もう一度蓮に会うためだったんだ…でも。
       セシルの一生って何だったんだろう。何か思い残しがあるから記憶が蘇ったのかな。
       前世の、セシルだった時の私は、何がしたかったんだろう。考えたらわかるかな、
       もっと深いところまで。私は、何をするために生まれてきたんだっけ。

ドアをノックする音。

山下     失礼するよ…誰もいないのか?
環奈    (聞こえていない)そんな、どうしてあの時…。(野木を撃った銃を手にする)
山下    (入ってくる)環奈さん…何を持っているんだ、こっちに渡しなさい。
環奈     それは…私の名前じゃないわ。
山下     様子が変だ、クスリか…?(環奈に近づき銃を受け取りながら)いいかい、
       よく聞いて。先日青山の倉庫で死んだ男の携帯が見つかっていないんだが、
       男の死後五時間以上経って使用された痕跡がある。その最後の通話先が君の婚約者、
       東条くんの電話番号だったんだよ。それに、?東条蓮?という名前も本物じゃない。
       彼は他人になりすましているんだよ!

蓮が気づいてこっそり近づく。

山下     君はそのことを知ってるのか?(環奈を見て)あ、青い目…?君は…。

言い終わらないうちに蓮が山下を殴る。倒れる山下。音を聞きつけてマリアが来る。

マリア    何、どうしたの?
蓮      もう警察が動いてる、今すぐ発とう。
マリア    車を回すわ、裏通りの階段の下に来て。(幕内へ)

暗転。蓮と環奈。環奈がへたりこみ、蓮が環奈を抱きかかえる。

蓮      階段だ、動くなよ。
環奈     あの森で、どうして私を殺したの。
蓮     (驚いて環奈を地面に落としてしまう)
環奈     乱暴だわ、セバス…。
蓮      何を言ってるんだ、あの森で、何だって?セバス?
       …?どうして私を殺した??(思わず環奈を突き飛ばす)
声      いたぞ、あそこだ!

銃声。

蓮      そうか、あの時…。

銃を持った山下刑事たち現れる。

山下     東条!彼女から離れろ!(蓮と環奈の間に割って入る)
蓮      あの銃は野木の…、どうしてこいつが持ってるんだ。
マリアの声  蓮!急いで。

環奈、山下を蓮に向けて突き飛ばす。小さく銃声。

蓮      あの時、月明かりの下にセシルを突き飛ばしたのはおれだった…。
       標的になりやすいように、殺すために…なぜ!どうしてだ?
セシルと人物が現れる。

蓮      あれはおれか?違う、前世のおれだ。転生する前に一緒にいた彼女は散ってしまった。
       どうして?わからない。でも生きていれば、必ず再び出会えると信じて待ち続けた。
       数百年後、転生している彼女、セシルを見つける。
       大人になるのを待つのももどかしく連れ去ってしまう。
       ほどなく心を開いてくれるが彼女は敏感に問う。
セシル    あなたは、誰と私を比べてるの?
蓮      どこかで聞いた台詞だと思った。転生する前の彼女も、
       おれの中に別の誰かを探しているようなところがあった。
       別の男のことかと嫉妬しては聞いたっけ。
セシル    あなた…どうして私を殺したの?
人物3    何を言って…。
セシル   (銃を前世の蓮に突きつける)
人物3    セシル、それはおもちゃじゃ…。
セシル   (銃を撃つ)
人物3    どうして…。(倒れる)
蓮     ?どうして私を殺した??
環奈     どうして私を殺したの?誰かの代わりでもよかった、あなたのことが好きになったから。
       辛い思いをして生き延びてやっと逢えたのに、どうして私を殺したの…。(気を失う)
蓮      どうして、どうして?
セシルの声  どうして私を殺したの。
人物3    どうして私を殺した?
女の声    どうして私を殺したの。
男の声    どうして私を殺した?
蓮      どうして、こんなに愛してるのに。なんてこった、一度や二度の生まれ変わりじゃない。
       いつも出会ってたんだ。そしていつもいつも同じことを繰り返してる。
       かわいさ余って憎さ百倍、殺したいほど愛してた。始まりは何だったんだろう。
       殺したのはどっちだったんだろう。どうしておれたちだけが、
       こんなことを繰り返しているんだろう。
       人間が何度も生まれ変わって成長していくっていうなら、
       延々とお互いの復讐するのが転生の理由なんて、そんなことがあるか!(はっとして)
       閉じた、輪廻…?

蓮、山下ともども地面に倒れこむ。山下は死んでいる。起き上がる蓮。胸からは血が流れている。倒れている環奈、気がつく。

環奈     ここは…?私、どうして…。(ゆっくりと立ち上がる)
蓮      憎んでなんかいないのに、殺したくないのに?ただ一緒にいたいだけなのに?
       それなのに、今度また出会った時には、おれはおまえを殺してしまうんだろうか…。

環奈が蓮の方を向くと同時に、暗転。
椅子に座って新聞を読んでいるマリア。

マリア    日本の刑事殉死、殺人容疑の少女、国外逃亡…か。…バス来ないわね。
       乗り物が時間通りなのは日本だけね!…環奈、今どこかしら。
       空港までは一緒だったのよ、手をつないどくんだった。でも、
       環奈は自分から離れていったような気もする。だって、そう考えるのが自然だから。
       もちろん、全て偶然の連続だっただろう。
       でもその偶然がみんな用意されていたものだったとしたら…用意って何?
       誰がそんなもの用意するのよ。…あの二人はあの二人、私は私。
       目に見えるものはほんの一部なのよ。二人のことは二人にしかわからない。でも私、
       二人のことすごく好きだった。…しょうがない、歩くか。
      (立ち上がる時、荷物の中からカードが一枚落ちるのを拾って見る)運命の、輪…。
      …変だけど、私、あの二人に、またいつかどこかで会える気がするわ…。

マリア、幕内へ消える。入れ替わりに環奈現れる。

環奈     どこから夢で、どこから現実だったのか、よく覚えていない。
       でも蓮が死んだことは憶えてる。刑事に撃たれたの、目の前で死んでしまった。
       一日が過ぎて、今日が終わって、明日になってまた一日が過ぎて。
       この先一年経って、十年経って、百年経ったって蓮がいない。どうしよう、
       蓮がいない。でも生きていれば、また逢える。こんなに悲しいのに、
       どうしてそう思えるのかな。私まだ夢を見てるのかな。(階段を降りながら)
       コインや紙幣は骨董品になり、ある雑誌で見かけたスフィンクスは、
       すっかり風化していた。私は名前を買う方法を覚えたし、採血ももう失敗しない。
       時間は確かに流れているみたい。…今日、泣きながら目を覚ました。変ね、
       なんで泣いたりしたのかしら。夢を見たのよ、それで悲しくなって…どんな夢だっけ。
       確か、ええと確か…。

少年たちが話しながら現れる。ハンバーガーショップの中。

少年1    最近よく見かける子でさ…。名前もわからないし顔も横顔しか知らないんだけど、
       とにかく彼女を見た日は、一日気分がいいんだよね。

少女が現れる。

店員     いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。
少女     Aセットを一つ…あの、それオニオン抜いてくれますか。

少女の声に気づいて少年が立ち上がる。少女、気がついて少年と目が合う。

環奈     何かきらきらしたもので子供が遊び続ける夢だった気がする。

音楽。スピッツの『青い車』。暗転。                      (了)

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