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真夜中のお茶会コミュの戯曲「だれもいないまひるのゆうえんち」(完結)

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これは中学2年生で書いたいわゆる処女作を、
大人になってから戯曲に書き直したものです。
全き中二病の最中でしたが(BL風味もあるしなんというか…たらーっ(汗))、
10年の時を経て、劇団キャラメルBOX的?に仕上げました。
当時愛読(今でも好きですが)していた萩尾望都の影響も強いです。
戯曲を読んだことがない人にも想像しやすいように
ト書はなるべく細かく書いているつもりですが、
劇団や舞台の規模の幅を考えて設定はかなり自由にするのがくらぽ流です。


なお、元々のイメージソングは東野純直の初期の歌の筈なのですが、
題名を失念してしまいました。
爽やかな曲の多い彼には珍しく夏の苦しい恋を唄ったもので、
イメージ違いで黒歴史なのでしょうか…。
最早東野純直だったのかも怪しくなっています。
「笑いかけないで 僕は怯えてる
二度と君の声は聴きたくない 心さらわれそうさ 凍りついた季節」とか
「赤く赤く流れる僕の血が 貪るように愛した太陽の季節」とか
とても耳に残る歌詞だったのですが。
誰かご存知の方はいませんか〜?

話がズレてしまいました。開幕です。

コメント(21)

「だれもいないまひるのゆうえんち」


登場人物
 ジョシュア(女性が好ましい)
 璋(右に同)・章子
 ギイ

 男(狂言回し的役割、常にジョシュアの傍にいてもよい)
 ジョシュアの母
 ガイドロボット・老教師
 背広の男1
 背広の男2
 他数人
第一幕 第一場

宇宙ステーション内。人々の雑踏。

アナウンス  (フェイドイン)…行きのシャトルは間もなくゲート3から発射いたします。
       Attention please, the shuttle for…(フェイドアウト)

男、一人出て来る。

男      その遊園地は小さな星の海辺の町にあった。
       彼の生まれた町でただ一つ有名な、いや有名だったものだ。
       彼はこの町が嫌いだった。もしかしたら世界が嫌いだったのかも知れないが、
       どちらにしてもそれは子供だったからだろう。
       本当は、今も大して変わってはいないのだが。
       第三セクターの名の下、狭い埋め立て地に十二年前に建設された、
       不似合いな程馬鹿でかい観覧車のあるその遊園地は、
       完成当時の人気も次第に失せ、ついに一年前に消えた。
       殆ど無人同然の公園になっている今となっては、観光名所どころか、
       都市再生の夢の跡でしかない。
       だが、彼は三年前のあの日、その誰もいない真昼の遊園地に、
       懐かしいようなデジャヴュを覚えたのだ。

       人生をやり直す事は不可能だ。
       誰もがそれを知りながら、あの日に戻りたいと願う。
       人間の変化を止める事はできない。
       だが、いつまでも変わらないものもある。
       思い出は滲む。そして消えていく。
       だがどうやっても消えないものもある。
       それが強いものなら強いものである程。
       哀しいものなら哀しいものである程。
       それらを引きずって生きていくには彼等は若すぎる。
       過ぎた日の美しさ、きらめきは忘れるには鮮明すぎる。

       あの日から僕は考えている。
       十年前、彼等がまだ子供だった頃の事を、ずっと。
       どこにも行きたくないけど、どこかに行ってしまいたい。
       そう思って、あの日、彼等はこの世の果てを探す旅に出た。
       そして今日、彼はこの星に帰って来る。

ジョシュア、璋、ギイが出てくる。横一列に並ぶと明るくなる。男少し脇へ。

ギイ     ジョシュア!ギイ!璋!何回言ったら分かるんだお前等は!
       …と言われましても、先生のその怒りの皺が三十二本になるまで、
       これがほんとのシワ32。
璋      (小声で)寒っ。
教師の声   (スヌーピーの大人の声のように意味不明、大きさやスピードで感情を示す) 
ジョシュア  僕達が、何したってんですか。
教師の声   (怒りが増している)
ジョシュア  授業は、腹が痛くなって保健室行ってたんです。
       メイ先生にだってただ処女かどうか訊いただけで…。
教師の声   (激怒)
璋      そんなに邪魔ならさっさと追い出しゃいいだろ?
ギイ     (小声で)璋!
教師の声   (激怒)
璋      まだ女かどうか判んねえんだから、
       どういう風に喋ろうがあんたの知った事じゃないね。

少し沈黙。

ジョシュア  (小声で)勢いだけは体育会系な教師のくせに、おつむは弱いったら。
       あんたこそなんでこの学校にいるんだって感じだよな。
璋      オレは、試験管で生まれた人工授精ベビーだ。
       だが性染色体欠損とやらで性別の判定が難しかったから、
       どっちになっても大丈夫なように共学のここに来たんだよ!
       だから、オレのことを女扱いするな!

チャイム鳴る。

ギイ     あの、そろそろ僕等部活が始まるんで…

教師の声を残したまま三人とも一斉に走り出す。

ジョシュア (一人幕の前で止まり)全く、
       大人になんかいつまでも付き合ってる訳には行かないんだよっ。(去る)
第一幕 第二場

電車の中。並んで座っている三人。男も離れて座っている。

アナウンス   次はー、ビヤパーク前、ビヤパーク前です。

背広姿の男たちが降りていく。

背広の男1   今日はもう、パーっといくぞ、パーっと。
背広の男2   部長がなんだってんだ、俺だって…。
ギイ      (男たちを見送りながら)おれたちも、いつか、
        ああやってあそこへ溜まるようになるのかなあ。
璋       お前の父さんならもう少しいいところで飲んでるさ。
男       ギイには父親がいない。誰なのかも判らないのだ。
        もしかしたら、えらい政府の高官かも知れないと彼等はひそかにワクワクしたものだった。
        二十一世紀も半ばを過ぎ、彼等は魔法も伝説も信じない、
        かさかさした子供に育っていた。
        資源はすべて掘り返され、果てしなく遠い宇宙まで開拓した人間に、
        夢というものはもはや存在しなくなっていた。
        どこか遠くの星では戦争が起きていた。それでもやっぱり、
        良い大学に通い、収入の高い職に就き、家庭を築いていくことだけが、
        彼等のように地球から少し離れた環境のよい惑星にだけ存在する、
        中流以上の家庭の子息、ギムナジウム生たちの典型的な将来パターンだった。
アナウンス   次はー、かのうらー、かのうらです。
ギイ      (無言で立ち上がり出て行く)
男       彼等の間にさよならは無しだ。何も言わずにそこを去る。
        そう言い出したのは璋だった。
        理由は教えてくれなかったが、彼とギイは同意した。
アナウンス   次はー、あきたつー、あきたつです。

ジョシュア立ち上がると出ようとする。出口までついて行った璋がその腕を掴んで引き、キスする格好になる。璋、ジョシュアを押し出す。男も一緒に降りる。電車の発車する音とともに璋消える。ジョシュア、しばらく唇を触ってぼんやりしている。

男       彼が降りるときも、挨拶は、あのゲームみたいなキスだけ。
        彼は璋があの電車の中に住んでいるような気さえしていた。
        家については彼もギイもあまり話したがらなかった。
        そんな事はどうでもよかったのだ。
        ただ、お互いの存在を欲していただけだったから。

        孤独には慣れている筈だった。
        でも、側に解ってくれる人間を探さずやってゆけるほど彼等は強くもなかった。

暗転。
第一幕 第三場

ジョシュアの家。鍵を開けて入るジョシュア。男は外にいる。

男       この頃の彼は、一刻も早く独立したかった。
        長男ではなかったし、第一両親の面倒を看るのは御免だった。
        彼がこんな風になってしまったのは家庭のせいだけではないということは、
        彼自身解っているつもりだった。

ジョシュア、そのまま二階に上がり自分の部屋のデスクパソコンに向かう。

男      (ジョシュアを見上げながら)彼は勉強に大した興味は持っていなかった。
        いや、別に興味があるものもなかったわけじゃない。
        でも彼の母親は言う、
ジョシュアの母 (声)学校で勉強する事は将来役に立つ基本的な事よ。
        ジョシュは分かってるわよね。
男       そうやって実にさっくりと彼は追い立てられるのだ。
        だが、そこまでしてなんの意味があるのだろう。
        役に立つなんて、歯車の一つになる為のものでしかないじゃないか。
        彼は段々自分を見失い始めていた。
        それに、彼はニセモノの優等生だ、なぜなら――……。

電話が鳴る。男は消える。電話の代わりに母の話し声。

ジョシュア   母さん、今日は家に居たのか。でもこの時間に鳴る電話なんて、誰だろ。

階下に降りるジョシュア。居間に向こうを向いた母親がいる。

ジョシュアの母  では先生、御免下さいませ。(電話を切る)
ジョシュア   今の電話、何。
ジョシュアの母 (振り向いて、それから慌てて笑顔を作る)
         あらジョシュ、もう帰ってたの、ただいまって言った?
ジョシュア   言ったよ。
ジョシュアの母  そう?聞こえなかったわよ。
ジョシュア   電話、
ジョシュアの母  あっ、別に大した事じゃないのよ。
         もうじき夕飯出来るから、降りてらっしゃい。
ジョシュア   …そう。

ジョシュア、台所に行って冷蔵庫から牛乳を出し、コップに注いで飲み干す。男、こっそり現れる。

男       彼が、同級生が死んだことを知るのは翌朝だった。

暗転。
第一幕 第四場

騒然としている教室。噂話に興じる者、携帯テレビにかじりつく者。ジョシュアが入ってくると、ギイが近づいてくる。璋は机に伏せて眠っている。

ジョシュア   何があったんだ?校門にマスコミが集まってたぜ。
ギイ      死んだんだよ、隣のクラスの…。
ジョシュア   えっ、もしかしてあいつ?
ギイ      うん、自宅の裏庭で首吊ったって。これから急遽全校集会に変更らしいぜ。
ジョシュア   嘘だろ…?
ギイ      告別式は明日だって。きっとお前が生徒代表で行くんだろ、
        トップ入学の総代さん?
ジョシュア   よせよ…。なあ、遺書とかあったのか?
ギイ      そう、それさ。金取られたとか、殴られたとか名前が書いてあって、
        今、事情聴取されてる奴がいるらしい。
  
ジョシュアにのみスポット。溜息をつくジョシュア。男が現れる。

男       死んだ生徒は都会からの転入生だった。
        見るからに弱そうで幼い少年を、誰もが異質なものだと認めていた。
        実を言えば、彼もその生徒を嫌っていた。
        おどおどした眼、小さく丸い背中、聞き取るのが困難な細い声など総てにムカついていた。
        一度だけ委員会の時に少し話をした事があったが、
        以来見かけると何故か無性に腹が立った。
        殴られているのを見ても止めはしなかったし、
        あまりに機嫌が悪かった日には悪態をついて突き飛ばしたこともあった。
        脅し取られた金額は五十万を超えていたそうだ。
        さすがにこいつは彼も知らなかった。

        いつも誰か生贄を求めている、ここはそういう世界だから。
        大人たちだけはそれを知らない。みんな異常だ。
        でも彼にはリストに載っている者を断罪する権利はない。
        遺族だって本当は何もかも知っているのかもしれない。
ジョシュア   …どうにでもなっちまえ。

暗転。
第一幕 第五場
     
ゲームセンター。並んで座っている三人。男も離れて立っている。

ギイ      おまえさ、生徒代表で弔問に行って、こういう場所は嫌いだって、
        門の前から一歩も動こうとしないっていうのはどうなの?
璋       話したこともない顔も覚えてない同級生の葬式に出る義理なんかねえよ。
        女子はみんな泣いてて、芝居臭くて気持ち悪いったらありゃしねえし。
男       遺族は結局、誰も何も言わなかった。彼自身も持ち合わせる言葉がなかった。
璋       あいつ…、あの死んだやつさあ、何処に行ったんだ?天国か?
ジョシュア   さあ。
ギイ      どうなっちっまったんだろうな、横田のやつ。
ジョシュア   (ギイの方を見て)あっ、そうか、横田って言うんだったっけ、あいつ。
璋       なんだそれ、お前今までその横田の家に居たんだろ?
ギイ      まあ、行けるように祈っててやろうぜ、
        もう死んじゃった奴と話すことなんてできないし、
        地獄行きなんて可哀想すぎるし。
璋       さっすがクリスチャンだな、宗派は極めて怪しいけど。
ジョシュア   しかも自分からゲイだってカミングアウトしてるしな。
ギイ      そりゃあ人類みな兄弟、神を愛するごとくジョシュも愛してるのさ。

三人笑う。男もこっそり笑う。

ジョシュア   昨日電話あったか?担任から。
ギイ      なかったよ。学校来るまで知らなかった。璋のところは?
璋       寝てたからな、よく分からない。
ジョシュア   寝てた?8時ぐらいだぜ?
璋       十時間睡眠でなきゃ、体がもたないんだよ。
ジョシュア   じゃあ、うちのは何だったんだろ。

立ち上がるジョシュアにのみスポット、璋とギイ消える。

ジョシュア  (立ち上がる)自殺、か。なんで自分のことが簡単に殺せちゃうんだかな。
        他人の命と自分の命を比べてさえないんだから。
        いや、他人の命と同じくらい自分の命だって大切なんだから。
       (ふと気づいたように)横田には、
        そういう事さえ言ってくれる人間すら居なかったんだ。
        死ぬ気でやれば何でもできるなんていうのは嘘だ。
        死ぬ気になるっていうことは、ほんとに死ぬことしかできなくなった時だからだ。
        それはほんとに、死ぬこと以外、何も考えられなくなった時なのだ。
        その気持ちを理解するのは、すごく簡単だった。(泣く)
男      (ジョシュアを抱きしめる)

暗転。
第二幕 第一場

翌日、電車の中にジョシュア座っている。いつのまにか遠くに男が座っている(台詞までのどの時点からでも可)。

アナウンス   次はー、じんのうー、じんのうです。

璋が乗り込んでくる。ジョシュア気づいて固まっている。

ジョシュア   どうしたんだよ、一体。
璋       オレはよくこうやってぶらぶらするんだよ、ジョシュこそどうした。
ジョシュア   …まあな。

少しの間黙る二人。璋が上着のポケットから煙草を取り出し、火を点ける。かなり慣れている様子。

璋      (煙草をジョシュアに差し出す)吸うか。
ジョシュア   ああ。(何でもないことのように煙草を銜え途端に激しく噎せる)
璋       おいおい。
アナウンス   次はー、かのうらー、かのうらです。

璋が立ち上がると、ギイが入って来る。一瞬スポットが当たる。上着の下のTシャツには赤いものがどぎつく散っている。

璋       どうしたんだよ、その血は。
ギイ      いやあ、これさっき鼻血出ちゃってさ、Tシャツ全部洗濯中だから。
        君たちこそどうしちゃってんの?
璋       ジョシュが煙草に噎せてやがんの。
ギイ      ははっ、さては初体験だな、初・体・験。
ジョシュア   じゃあお前吸ったことあるのかよ?
ギイ      いや、ないけど…、そうじゃない、この歳で普通に吸ってる璋のがおかしい。
璋       なんだと?

ジョシュアが笑い出すと二人も笑い出す。しかしジョシュアはすぐ笑うのをやめる。

ジョシュア   …手紙が来てたんだ、横田から。

笑い声は止む。ジョシュアは手紙を二人に見せる。暗転。
第二幕 第二場

ジョシュアの家。ジョシュア、何気なくごみ箱を覗き、封筒を取り出してぎくりとする。

ジョシュア   横田からだ…。

封は開いている。読み始めるジョシュア。

ジョシュア   『…本当は、苛められるのがもう嫌だからとか、
        親が成績でうるさいからとかではありません。
        君を好きになってしまったのが、もの凄く苦しいからです。
        僕は君になぜか親近感を持っていました。僕と似てるような気がして、
        せめて友達になれたらと思っていました。
        でも僕のような人間では、
        たぶん優等生の君には目もかけてもらえないでしょう。…』
        僕のために死んだって言うのか?

ジョシュアの母、入ってくる。無言のまま顔を見合わせる二人。

ジョシュアの母  …見てしまったのね…。
ジョシュア   これは二時間サスペンスか?(母に向き直って)…どういうことだよ。
ジョシュアの母  …ジョシュ、あなた、その横田くんと仲が良かったの?
ジョシュア   …いいや。
ジョシュアの母  (溜息をついて)こんな手紙は来なかった事にするのよ、そんな、あなた、
         そりゃあ人から好かれるのは悪いことではないけれど、男の子からで、
         しかもこんな風になって、これであなたの将来が変な方向に行ったら…。
ジョシュア   つまり同性からで、しかも自殺した人間から、ってこと?
        変な方向ってなんだよ?それで手紙を、俺に見つからないうちに捨てたんだな?
        昨日の電話、担任からだったんだろ、なんで言わなかったんだよ。
ジョシュアの母  お母さんが言わなくても、学校に行けば耳に入るでしょう?
         それに、あなたはこんな事でいちいち左右されずに
         あなたの道を歩まなくちゃならないのよ。
ジョシュア   ああ、そうか。自分たちの進んだレールを行けって事か。
        それで俺はだんだん人間らしさが消えていって、最後には機械になっちまうんだ!

ジョシュア、手紙を握り締めテーブルを殴る。

ジョシュア   陳腐で滑稽な悲劇だな。反抗期の息子、与えられた役割を演じるだけ。
        こんな茶番はもうごめんだよ!

男現れる。そこだけにスポット。

男       だがそれよりも彼を苦しめた考えがあった。
        どうしてギイに言われるまで、横田の名前を忘れていたのか。
        あれは、もう一人の彼だったのかもしれない。
        僕はあの連中と同じように横田を痛めつけていた。
        けれど本当は、そのことが自分を痛めつけるように痛かった。
        むしろ愛していたかもしれない。
        その透明なか細さ、消え入りそうな眼差しを。
        いや、きっとそれゆえの憎悪だったんじゃないか。
        横田は僕が押し殺そうとし隠し続けた、もう一人の自分だった。
        いつも泣きそうな顔をして隅で蹲っていたのは僕だった!
        だから僕は彼のことを早く忘れたかったんだ。
        それなのに彼は僕を好きだと書き遺して死んでしまった。
        謝りたかった。友達としてやり直したかった。
        彼にこの気持ちを伝えたかった。ギイの言う通りだ。
        死んだ奴ともう一回話すことなんて出来ない・・・。
第二幕 第三場

明るくなって再び電車の中。呆然とジョシュアを囲む二人。

ジョシュア  (泣いている)俺は、あいつの言うような優等生なんかじゃない、
        全部嘘なんだ、俺はほんとは何にも出来ない嘘吐きだ。
璋       どういう意味だ?
ジョシュア   俺は…兄弟の中で一番出来が悪くて、
        でも兄貴の参考書とか使ってたおかげでそこまで成績悪くなくて、
        でもこの学校受ける時、兄貴も姉貴も行ったとこだから、
        絶対受からなきゃいけないって……一度だけカンニングしたんだ。
ギイ      そうなのか?
ジョシュア   そうなんだ、そしたら一気に学年トップなんてことになって…、
        それでもあとは前と同じように要領だけで済んじゃってて…。
       (泣きじゃくる)そんな弱い俺を、横田はきっとどこかで感じて、
        それを俺もどこかで感じていたんだ。
        だから、あいつが俺の前にいることが許せなかった。
        鏡のように、俺の弱さを見せつけられることが。
        あいつは、俺が殺したんだ、きっと…。
ギイ     (ジョシュアの顔を両手で包むように持って自分の方に向け)
        お前のせいじゃない、お前のせいじゃないよ、解るだろそれぐらい?
        そんな風に思い込むな、今ごろ悔やんだって仕方無いんだ。
        お前は傷つけたわけじゃないって、そう分かればいいんだ。
璋      (ジョシュアから手紙を奪い、破り捨てながら)
        この手紙に囚われるな、こいつは、お前に伝えたかっただけなんだから。
        何かしろなんて言ってないだろ?
ギイ      そうだよ、お前のことを解ってくれたんだから、ほら、気を楽にして。
ジョシュア  (顔を上げる)
ギイ      横田もきっとおれみたいな感じでお前が好きだったのかな。なんとなく分かる。
璋       どんな風にだよ?
ギイ      なんか、お前って危なっかしくて…、気がつくと目で追ってしまうタイプなんだよな。
ジョシュア   どこが?
ギイ      なんていうか、守ってあげたいか苛めたいっていうか…。
        ジョシュの場合は周りの空気が冷たくて、
        でもそれは必死に距離を置こうとしてるからなんだけど、
        でもだから側に居てやらなきゃいけないような…、うん、
        確かにお前横田と似たとこあるよ。
璋       おお、愛されてんなあ、ジョシュ。
ジョシュア   茶化すなよ。
ギイ      でもこんな風に遺書遺されると、残された方はたまったもんじゃないよなー。
ジョシュア   横田のために俺ができることってないかな。
璋       そりゃあ、ずっと憶えててやることじゃねえの、あいつのこと。

ギイ頷く。ジョシュア、電車の窓を開け、破れた紙片を拾って放る。紙片は風に乗って散っていく。三人、手を振りながら窓から口々に叫ぶ。

ジョシュア   よこたのおおばかやろう、わすれねえぞ!さんきゅー!
ギイ      よこた、しあわせにな!
璋       またな、よこた!

男、窓の外に向かって合掌。電車の音。暗転。
第二幕 第四場

少し時間が経過。同じく電車の中。

璋      (遠く見ながら)もうすぐ、神様が殺しに来る。
ジョシュア・ギイ (一斉に璋を見る)
男      『神様が殺しに来る』、これは彼等の隠語で璋の変化を意味していた。
        男性か、あるいは女性への。
        試験管ベビーは徹底した人口調整のため、
        十三歳の誕生日に政府の決定した性別を知らされる。
        その結果は当日、本人にしか伝わらない。
        そして一週間後には体内でホルモンを作るためにDNA治療がなされ、
        変化するとまず髪の色や声質が変わっていくのだ。
ギイ      誕生日はいつだったっけ?
璋       今日。
ジョシュア  (璋の胸座をつかむ)どっちだ、え、どっちなんだ。
璋      (力強く押し退け)おんな。
ジョシュア  (数歩よろめく)
ギイ      …親には言ったのか?
璋       …言ってない。(まっすぐ顔を上げ)ずっと言わない。
        言わないでこのまま男としてやっていく。
ギイ      何言ってんだよ。
璋       女になるぐらいなら死んだ方がましだ。あんなもの、生き物じゃない。
ジョシュア   無理だよ。
璋       無理なもんかよ。女って言っても完全じゃないんだし、お前らと離れた
くない。
ジョシュア   どういうことだ?
璋       オレには生殖機能がないの。その部分の遺伝子が欠けてるから。
ギイ      で、だから?
璋       だから、って…。
ギイ      変化しようが、子供産めまいが、離れるわけないじゃん。
        女になろうが璋は璋だし、おれたちだって変わらないよ、な?
ジョシュア  (慌てて頷く)
璋       そう…か……。

電車の音。暗転。
第二幕 第五場

少し時間が経過。同じく電車の中。

ギイ      ところでさ、いきなりなんだけど、おれの母さんさ、
        再婚するかもしれないんだって、客の一人と。
ジョシュア   ほんとにいきなりだなー。
璋       知ってるやつか。
ギイ      ああ、ちょくちょく家に来る。
ジョシュア   どんな奴。
ギイ     (ちょっと乱暴に)建設会社の社長だか、キザなヤローだよ。
        いつも薔薇の花束抱えてやって来るんだ、生まれた世紀が違うんじゃねえのって感じ。
ジョシュア・璋 (ギイの口調に内心驚きながら同時に)うえー。
ギイ     (おどけて)その度におれは家を追い出される訳ですよ。居場所がさ、
        どこにもないんだよなー。今日もそう。
璋       けどギイの話を聞いてると、母親がいるっていいなあ、って思うな。
        オレんち母親いないからさ。
ギイ      そうなのか?
璋       ん、オレが生まれる前に家出したって聞いた。
        子供作るのがいやだったんじゃないの?親父が相手じゃなあ。
ギイ      へえー。
璋       写真だけ見たことがある…オレとよく似てんだ。瓜二つってぐらい。
ジョシュア   人工授精だとそういうこともあるんじゃない?遺伝子操作とか。
璋      (途端にものすごい顔でジョシュアを睨む)
        それができたらオレはこういう体じゃないんだよ!
ジョシュア  (小さくなる)
ギイ      じゃ、璋はおやじさんと二人暮しなのか?
璋       いや、昼間は家政婦がいる。それに親父はしょっちゅう他の星に出張だし。
ギイ      ひゃー、豪勢だなあ。
璋       親父、科学者だからいろんなとこから金貰ってるんだろ。
        いろんな意味でイっちゃってるけどな。(煙草に火を点けて)
       …母親がいないのもあるけど、ずっと試験管ベビーってことで特別扱いされてきた。
        たとえ周りがそんなつもりじゃなくても。
        小学生の頃ある家のクリスマスパーティに呼ばれた時だな、
        それを確かに感じたのは。みな、幸せそうなのになにか違うんだ。
        存在を許されていないんだ、オレだけどこかで。
        オレを見る目が違うんだ。オレを、試験管ベビーを、
        人間じゃないものみたいに見るやつがまだいるんだ。
        こんなところいつか飛び出してやる、そんな事ばかり考えるようになった。
        いつか、オレが、ちゃんとオレでいられる処に行きたい。
ジョシュア  (おそるおそる)お母さんには?
璋       今さら会っても、どうにもならねえよ。
ギイ      …そういや昔もこんなことやったよな、三人で。一年のとき。
璋       ああ。
ジョシュア   そうそう、璋が合宿中に喧嘩して飛び出してちゃったんだよな。
        あの時も原因は、璋が試験管ベビーだってからかわれたんだ。
ギイ      で、おれとジョシュアが追いかけてって、結局そのまま一日帰らず町の辺りでぶらぶらして、
        翌朝見つかって三日間の謹慎を頂戴したんだ。
璋       オレ等の輝かしい悪行の皮切りだった。うん。
ジョシュア   学校のチャイムをわざと遅らせたり。
ギイ      先生だまして自習にしたり。
ジョシュア   その件は結局誰の仕業か判らずじまいだよな。喜んだ奴もかなりいたみたいだし。
璋       …おれたちって、本当はみだし者だな。
ジョシュア   言えてる。
ギイ      このままどこかに消えちゃおうか。
璋       どこに?
ギイ      おれたちが、ちゃんとおれたちでいられる処さ。
ジョシュア・璋 (顔を見合わせる)
ジョシュア   行ったことのない場所にしよう。

暗転。電車の音。
第三幕 第一場

アナウンス   次はー、はしらみなとー、はしらみなと、終点です。
        ML線快速乗換は九時十七分発5番乗り場、
        JO線乗換は九時二十三分7番乗り場です。
        お降りの際は忘れ物にご注意ください…。(フェイドアウト)

再び車内に並んで座る三人。男はいない。ライトアップされた遊園地の姿が現れる。

アナウンス   次はー、ベイトピアパーク前、ベイトピアパーク前です。
ジョシュア  (窓の外を見ながら)ここ、前にTVで見たことがある。
        だいぶ昔に出来たんだけど、人があまり来ないからそろそろ潰すらしいぜ。
ギイ      それって、淋しいな。微妙に近すぎるから、
        一、二回くらいしか来たことないのに。
璋      (突然立ち上がり)よし、降りよう。
ジョシュア・ギイ (顔を見合わせて)ええ?!
璋       オレたちも門出を祝ってパーッとここで遊んで行こうぜ、
        どうせまだ行く宛もないんだし。
ギイ     (ポケットを探りながら)いいけど…金あるのか?
璋       親父のカード盗ってきちゃった。
ギイ      うっそ、まじ?

ふざけながら電車を降りる三人。

ジョシュア   でも、もう夜だし閉まっちゃうんじゃないか?
璋      (一人先に進みながら)無人のオートパークだから平気だろ。

三人が進んでいくと、一斉に遊園地は明かりが点き音楽が流れ始める。

ジョシュア   な、なんだ?
璋       お前知らないの、ここ夜はセンサーで点灯するんだよ。人が来ねえと真っ暗な訳。
ジョシュア   うるさいな、夜に来たことなかったんだよ!
ギイ      思い出した!ここ、全国で初めての自動遊園地だったんだ。
        第三セクターで金掛けた一大事業、そんでもって今じゃ赤字続きで負の遺産。
        やっぱこんな田舎には所詮無理だったんだよなあ、うんうん。

ガイドロボットが現れる。

ガイドロボット いラっしゃいマせ、さンめイサマでスね?
璋       フリーパス、3つね。(カードを入れる)学割は…ねえのかよ!ふざけんな!
ガイドロボット(パスを出し)でワ、おたのしミくださイまセ。(去って行く)
璋       ふん、だから潰れるんだ、ぼったくりやがって。
ギイ      だから、まだ潰れてないんだって。
璋       どっちでもいいよ、今夜は貸切だ、行くぞ!

走り始める三人。暗転。音楽とはしゃぐ声だけがしばらく続く。

空が明るみ始める。観覧車に乗っている三人。

ギイ      おれは工学部かな。エンジニアになる。ジョシュは法学部?
ジョシュア   うん、多分。璋は?
璋       オレは…山奥に庵を結んで人知れず暮らす。
ジョシュア・ギイ (笑い転げる)
璋       笑うな!
ギイ     (窓の外に気づいて)見ろよ、もうこんな上まで来ちゃったぜ。
璋      (窓に近づいて)…なんか、海しか見えなくて、
        世界の果てにいるような気がするな。
ギイ      もう?
ジョシュア   これから行くところじゃないか。
ギイ・璋   (ジョシュアを見る)
ジョシュア   ギ、ギイが、もう?って訊いたから。
ギイ      そういえばそうなるよな。
璋       けど、なんか…オレたちしかいないみたい。そんな不思議な感じがする。

朝陽が射し始め、それに気づいた三人は東の方を生まれて初めてのように見つめる。暗転。
第三幕 第二場

日が高くなっている。ベンチに座っている三人。

璋       ここにいたらじき見つかっちゃうよな、カードから足がついて。
ジョシュア   誰も知らない場所なら当てがある。そう遠くないとこに、
        おととし家族でキャンプに行った時見つけた古い山小屋があるんだ。
        ここから先足がつかないように、今度の資金調達は俺がするよ。
        うちの銀行口座から引き出せるはずだ。
璋       おっ、いいじゃん。冥王星まで行けるくらい出しちゃえよ。
ギイ      賛成…でも少しだけ待ってくれないか。
        もうここには多分来られないだろうから、この遊園地のこと、覚えさせてくれ。
ジョシュア  (不思議そうに)ああ。

三人立ち上がり、遊園地を見渡す。観覧車の大きな影が三人を覆う。ギイ、観覧車を睨む。

ジョシュア   観覧車を見上げた途端、なぜかとても懐かしいような感じがした。
        何かに似ている。からっぽで、真昼の太陽に眩しい、堅い鉄骨。
       (目をこする)「観覧車 巨大な影を落としつつ 空のギアを音も無く廻す」。
        確かにこの世の果てで全てを動かしているみたいだ。

        でもここは、まだ世界の果てじゃない。
ギイ      行こうか。

三人、進み始める。門の傍ではガイドロボットが待っている。

ガイドロボット おタのしミいたダけまシたでショうか?
        まタのごラいじょうヲおまチしてオりまス。
璋       その時まで故障するなよ、ポンコツ。

暗転。遊園地の音楽、フェイドアウト。
第三幕 第三場

キャンプ場。夜。川原で花火をしている三人。ギイは一発ずつ火花の出るスティック状の花火をポーズをつけて振りかざしジョシュアと璋を笑わせる。やがて全ての花火が終わってしまう。虫の声が聞こえ始める。焚き火を囲んで座る三人。

璋       すごく不思議な本を読んだことがある。オレ達にすごく似てるんだ。
        男二人と女一人のカップル、知ってるか、カップルって3人でも使うらしいぞ。
ジョシュア   へえ、どんなの?
璋       多分なんだけど、未来の破滅をテーマにしてるんだ。
        同性愛も増えて、子供が減って、人類は衰退する。
        今すぐではないだろうけど、そういう可能性についてのフィクションだ。
ギイ      そんなものかもしれないな。地球では同性での結婚はほぼ認められたけど、
        それを理由に人工授精を申請することはまだできないんだ。
        神に背いたソドムとゴモラのように、やがて人類も滅亡するってか。
璋       でもな、滅亡する前の地球って、今オレ等のいる処に似てやしないか?
        オレ等の周りにあるものはみんな美しく、何も間違ってなんかいない、
        そんな気がする。滅びゆくものを美しいと思うのは、おかしいんだろうか。
ジョシュア   一つだけわかってることがある。ここは、地球にもどこにも存在しない、
        この星にだけ残っている俺等だけの楽園だってことさ。
ギイ      その楽園の日々に終止符を打つようだけど…、おれ、そろそろ帰るよ。
ジョシュア   なんで?
ギイ      たぶん、見つかってるから――おふくろと、あいつの死体が。
ジョシュア・璋 (一瞬理解できないでいる)
璋       あいつって、おまえの母さんの再婚相手じゃなかったのか?
ジョシュア   お前、追い出されたって…。
ギイ      嘘だよ。おれが殺したんだ。あいつの会社倒産したんだよ。
        第3セクターの仕事で作った遊園地がポシャって、
        会社の事後処理でとりあえず五百万必要だって、朝いきなりやって来た。
        おふくろが断ったらナイフつきつけてうちの通帳持っていこうとしたんだ。
        それでおふくろと揉み合って、おふくろ死んじゃった。
        おれもう訳がわからなくなってさ、
        気がついたらあいつも血まみれでおふくろの上に倒れてた。
        びっくりしたよー、
       (とってつけたように目を丸くして二人を見つめ、表情を和らげる)
        あんな爽やかな朝なのにさー、気づいたら目の前で人が死んでんの。
        しかも一人はおふくろだし。しばらくぼーっとしてたけど、
        だんだん意識がピント合ってきて、とりあえずおふくろだけ布団に寝かせて、
        家出てきちゃったんだ。だから居場所がなくなったってのはほんと。
璋       なあ、その遊園地ってもしかして…。
ギイ      そう、ここ来る前に寄ったとこ。
ジョシュア   ばかやろう!(ギイを殴る)なんでそういうことを一番に言わないんだよ!
ギイ      言えないよ。
ジョシュア   俺等のこと何だと思ってるんだ、どうしてすぐ連絡しないんだ。
ギイ      …本当は、あの日家を出てから死のうと思ってたんだ。
ジョシュア   え?
ギイ      電車に飛び込んで、死ぬつもりだった。
        でも飛び込めなくて、ずっと見てたらジョシュたちがいたんだ。
ジョシュア  (小声で)俺の理由が結局一番小さなことじゃないか。
璋       …逃げよう。
ジョシュア・ギイ は?
璋       死体が見つかったら指名手配になる。他の星に飛んだ方がいい。
ギイ      どこに?
璋       冥王星さ。明日、朝一番のシャトルに乗って出かけよう。
ジョシュア   そんなに早く?
璋       だって、オレたちみんな『鳴いた』だろ?
ジョシュア・ギイ は?
璋       心の中で激しく叫んだ。それが共鳴したんだ。それに…。
ギイ      それに、もうじき『神様が殺しに来る』からな。

璋、淋しそうに微笑む。暗転。暗闇の中で虫の声だけが林に響き渡っている。
三幕 第四場

男現れる。

男       それは彼等が生きていくための一つの命題になった、この時の彼等には、
        それが最上の解決策だと思われたからだ。
        否定するような理性は持ち合わせちゃいなかった。
        本当にそう思っていたんだ。だが、残酷にも、迎えは翌朝突然にやって来た。

駅。三人がベンチで待っているところに男やって来る。固まる三人。

ジョシュア   先生!
男       よう、元気だったか。僕も、君等ぐらいの頃、
        このキャンプ場に家出したことがあってね。見当をつけてみたんだ。
        GPSは置いて来ちゃったんだろうけど、
        あの町の若い奴は大体ここへ来るんだ。だから、君等の気持ちは解る。
        ご家族が心配してるよ。僕からも説明して聞いてもらうから、安心して帰ろう。
璋      (小声で)あやしいな。
ジョシュア   えっ?
璋       誰にも連絡していないと言ってるが、
        教師として生徒の安否を保護者に知らせるのは当然の務めだからな。
ギイ      何より、おれんちであった事はもう世間に広まっているはずだ。
        何にも言わないのが怪しい。
ジョシュア   先生、僕等、帰りません!

三人、男を突き飛ばし走り出す。

男       彼等は再び逃亡した。まるで坂道を下りだした、止まらぬボールのように。
        誰かが止めてくれなければ止まらない、
        しかしそんな誰かも彼等にはもういなかった。転がってゆく、転がってゆく――。

波の音。三人、一列に並ぶ。

ジョシュア   最終的に着いた場所は、海だった。
男       彼等は、自分たちの町に戻ってしまっていた。理由は失われており、
        このまま留まっていても見つかってしまうのは解っていた。
        しかし、僕等はあまりにも疲れ果てていた。誰も、何も言わなかった。

三人、無言で水平線(客席の向こう)を見つめる。西日が射す。海鳥の鳴き声。車のドアの開く音。三人の体は強張り、刹那、息を止めていたが次の瞬間、海(正面)に向かって手を繋ぎ駆け出す。

ジョシュア   僕等は地獄に行くのだろうか、横田に会えるのだろうか。
        水の限りない青と、璋の髪の毛の茶色が目の前で徐々に混ざり合った。
        そこで僕は気が遠くなった。

波と水の音が大きくなるがフェイドアウト。暗転。
第三幕 第五場

男現れる。
 
男       あれはいつのことだったのか。踏切でのことだった。
        璋が黙ったまま線路に立っている。電車が警笛を鳴らしながら走ってくる。
        璋は動かない、電車を睨んでいる。先に踏切を渡っていた彼とギイは叫ぶ。
        璋は仁王立ちで歯を食いしばり、近づく車体に向かっている。
        ギイが遮断機を乗り越え飛び出す。
        彼も続く。あわやというところで璋の腕をつかまえ、
        線路脇の茂みまで引きずり込んだ。
        全く、『スタンド・バイ・ミー』の映画みたいだった。
璋(声)    死ぬって、どういうことだか感じてみたかったんだ。
男       あの時璋はそう言ったんだ。まるで、自分が死から一番遠い存在であるかのように。

男去る。
病室のベッドにいるジョシュア。家族がベッドを取り囲んでいる。母親が泣き、父親はジョシュアの頬を殴り、肩を抱く。

ジョシュアの母  ごめんねジョシュ、母さんが悪かったわ。あなたの気持ち考えてなかったわね。
         お友達が亡くなってショックだったのよね。
ジョシュアの父  外傷も少なくスキャンも異常が見られなかったので、
         あと一日だけで退院できるそうだ。
ジョシュアの母  3日も寝てたんだからお腹空いてるでしょう、何が欲しい?
ジョシュア   (壁を見つめて)きっと…これで終わりだ。(両拳を握る)

暗転。
男現れる。

男       そして眠れない夜が明け、家に戻ると全てが変化していた。
        ギイの事件と横田の死との関連性を考えたマスコミは騒ぎ出し、
        学校と親によって彼の転校手続が取られていた。
        その後しばらくたって、
        風の便りにギイが裁判の結果別の星の少年院に送られたことを知った。

ジョシュア、違う制服を着て出て来る。璋からのメール、大写しになる。(『件名:ジョシュアへ From 璋(syo-h.amphitoryon@xx.xx)』)

ジョシュア  (途中から璋の声に入れ替わる)『ジョシュアへ。
        こんな風にお前にメールするなんて思ってもみなかった。
        だけどオレにはもう時間がない。だから伝えておく。
        神様がオレを殺しに来た。だから、たぶんもう会えない。
        オレはお前が好きだった。今でももちろん。
        だけど、その「好き」は昔のオレの「好き」とは違う。
        オレはもう、昔のオレではなくなってしまっている。
        オレはジョシュが好きだけど、ジョシュの好きな璋は、
        もうこの世から消えてしまうんだ。きっと完全に変化したら、
        この手紙を書いたことも忘れるんだろう。けど覚えていてほしい。
        オレたち、ギイと三人で過ごしたあの透明な時間たちは、
        けして偽物じゃなかった。
        自分が自分でなくなっていくのは、とても怖い。
        もしオレに会うことがあっても声はかけるな。
        今これを書いてるオレじゃなくなってるんだから。
        今まで、楽しかった。ありがとう。

        変わる前にもう一度、お前とキスしたかった。璋』。(うなだれる)
男       即座に返信したが、璋のアドレスは既に抹消されていた。
        日付は二日前だった。璋はもう、脱皮してしまったのだ。
        彼やギイより先に。それは確実に彼等の終焉を示していた。
        璋はもういないのだ。どこにも。一人なくして、彼等が成り立つ訳がなかった。

璋からのメール消え、次にギイからのメールが大写しになる。(『件名:ジョシュ元気か? From ギイ(guy-meteorique@xx.xx)』)

ジョシュア  (途中からギイの声に入れ替わる)『ジョシュ元気か?
        入院してから一月経ったけど、おれは元気でやってる。
        入院って病院じゃないってのにな。
        あれからすぐに転校してったって聞いた時は、
        ちょっとびっくりしたけど当然だと思った。
        たぶん、まだ連絡が行ってないと思うから伝えとこうと思う。
        璋が、死んだよ。病院で自殺だって。
        おれもついこないだ知ったんだ、面会に来た担任から。

        なあ、覚えてるか?あの日、遊園地で朝陽を見たときのこと。
        あの朝陽におれたちはみんな気づいてしまったのかもしれない。
        どこまで行ってもこの世の果てなんてどこにもないんだってこと。
        あの太陽には、おれたちは決して辿り着けないってことに。
        本当はそんなことどうでもいいことで、知らなくても生きていける、
        むしろ知らない方が生きていけるんじゃないかという気がする。
        ここにはいろんな星から来たいろんな奴がいるけど、
        大体みんなおれたちみたいに大人に裏切られた奴ばっかりだ。
        でもやっぱりここにも社会と同じ階級があり派閥がある。
        弱者の権利が認められる、それが社会のいいところなんだと
        ここに来るまでは思ってた。ここじゃ生きのびるために、
        分相応に潜んで生きるのが最良の道なんだ。
        
        だけど、ほんとは社会こそ今までおれたちを拒んでたものじゃないだろうか。
        社会に知らせてやりたい。おれたちが、今、ここで生きているって事を。
        それは誰にも関係ないかもしれないけど、
        おれたちはみんなきっと関係ないことでつながっている関係なんだ。
        横田の死が突然お前に関わってきてお前を変えたように、
        そしておれたちみんなの運命を変えたように、いろんなことが、
        見えないとこできっとつながってるんだ。
        最近、塀の中で、そんなことを考えてた。
        仮退院が決まったらまた連絡するよ。
        お前にまたいつか会えることを願って。ギイ』。
男       これが、あの日の顛末。まだ、彼等が天使だった頃の出来事だ。
        月日が経つうち彼は計画通り別の星の大学に入学し、家を出て、
        そして子供だった日の記憶を失くしていった。
        大学では同級生の章子という女の子と交際を始めた。
        彼と彼女が知り合ったのはメールで、
        彼女が見慣れない彼のアドレスをパソコンの履歴に見つけて
        送ってみたことがきっかけだった。
        彼女は茶色い髪のとても明るい子で、聡明だが口も少々悪かった。
        手術を繰り返し入院生活が長かったらしいが、飛び級で入学したそうだ。
        誰かに似ていたが、それが誰だとははっきりしなかった。

        勿論、昔に会ったことがあるはずもない。

ジョシュア、去る。暗転。
第三幕 第六場

再び、人々の雑踏。ジョシュアと男が中央にいる。

アナウンス (フェイドイン)…ラメール線快速乗換は十時十二分発3番乗り場です。   
       お降りの際は忘れ物にご注意ください…(フェイドアウト)
ジョシュア  その遊園地は小さな星の海辺の町にあった。
       僕の生まれた町でただ一つ有名な、いや有名だったものだ。
       僕はこの町が嫌いだった。もしかしたら世界が嫌いだったのかも知れないが、
       どちらにしてもそれは子供だったからだろう。
       本当は、今も大して変わってはいないのだが。

       あの日から彼は考えている。十年前、僕等がまだ子供だった頃の事を、ずっと。
男      そして今日、僕はこの星に帰って来た。
       大学に入って最初の夏休み、僕は帰省した。ギイから仮退院したとメールが来て、
       久しぶりに故郷の星で会おうということになったのだ。

携帯電話が鳴る。ジョシュア、消える。男が電話を取ると章子現れる。

章子     もしもしジョシュ?
男      ああ、章子?これから昔の友達と会ってくる。じゃ、また。
章子     ええ、またね。

男が電話を切ると章子消える。老教師、近づいてくる。

老教師     よう、ジョシュア!
男      (振り向いて)先生!どうしてここに?
老教師     ギイに仕事が終わるまで君の相手をしてほしいと頼まれたのさ。
男       それでわざわざ迎えに…(頭を下げる)
老教師     まあ話は道々訊こう。(歩き始める)相変わらずか。
男      (ついて歩き出す)ええ、まあ…。
老教師     ギイは今工場で働いてるってな。章子は同じ大学らしいけど元気か。
男       章子を知ってるんですか?
老教師     知ってるも何も…君等三人、よくつるんで悪さばっかりしてたじゃないか。
        最後まで、僕がキャンプ場に迎えに行った時も逃げ出して。
男       よくつるんで、って…。(立ち止まる)
ギイ(声)   ここには多分来られないだろうから、この遊園地のこと、覚えさせてくれ。
璋(声)    もうすぐ、神様が殺しに来る。
ジョシュア(声)ここは、地球にもどこにも存在しない、
        この星にだけ残っている俺等だけの楽園だってことさ。
璋(声)    いつか、オレが、ちゃんとオレでいられる処に行きたい。
男       章子は、璋なんですか?
老教師     どうして気づかなかったんだ?面影があるだろう。
男       ギイから死んだと…。
老教師     その後再生医療で何度も手術し、やっと進学したんだよ。
        ギイもそこまでは知らなかったのさ。
        その頃にはもう完全に女性化していたんだが、
        脳の一部に障害が残って昔の記憶が不完全らしい。
        確かに彼女はもう璋ではない。それでも彼女の中に璋は確かに生きているし、
        君は今も彼女が好きだろう?
男       …はい。
老教師     あの遊園地も潰れたし、あれからいろいろ変わったね。
男       ええ、去年大学の方でニュースを聞きました。
        宇宙ステーションからにこちらに来る時、あの遊園地の駅を通ったんですが、
        跡地を見ても、もう何も感じませんでした。
老教師     あそこにはまるで最初から何もなかったように、か。
        ギイは、彼の運命を変えた遊園地が消えたという知らせを、
        どういう気持ちで聞いたんだろうね。
        …あそこには本当に何もなかったんだろうか?
男       …いいえ。僕等は…。

ジョシュア、ライトアップされた遊園地に現れる。

ジョシュア   人間は変わる。変わらずにはいられない。
        だが、いつまでも変わらないものだってある。
        思い出は消えていく。消えずにはいられない。
        だが、どうやっても消えないものがある。
男       あの日から僕はずっと考えていた。
        あの透きとおった正体不明の僕等の感情は何だったか、
        それを忘れて生きていけるのか。そうだ。
        皆それぞれに成長してしまったけれど、きっと、今からでも遅くない。
        ギイに会ったら、すぐに章子も呼んで、もう一度あの遊園地へ、あの場所へ行こう。
老教師     本当に仲がよかったんだな、君達は。
男      (我に返って顔を上げ)はい、僕等、ずっとずっと友達でした。    (了)
(あとがき)


ふ〜、やっと日の目を見た?足掛け16年の作品です。
最後の一言を言わせたいがために書いたような作品でもあります。
でももうちょっとラストは演出で余韻を持たせたい感じです。
話の筋は、20代のうちに大きく変えた部分(特にクライマックス)もありますが、
言葉とかはほとんど変わっていません。
そして今この年になって読み返すと、まだ10代でこんなこと考えるなよ…と
老婆心で言いたくなってしまう半面、今まさに身につまされる感じがするなあ。

舞台になった遊園地は、実際地元にあった遊園地で、
これを書いたあと、ほんとに潰れましてあせあせ(飛び散る汗)
自分自身も手術で入退院とか、本当になってしまったのでほんとビックリ。
(子ども産めないのは、どうなんかしら…?)
(あとがき・その2)

書いたつもりで忘れてたこと。
よく「人生はメリーゴーランド」と言いますが、私は
「人生は観覧車」だと思うのです。
水平すぎて浮き沈みが感じられないじゃないかと。
メリーゴーランドも遊園地に乗れば
多少の上下はありますけどね。

さらにいえば、激しく上下しながら回る遊具(名前失念)もあるじゃないかと。

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