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心の治療室コミュの短編小説 渡せなかった愛娘へのプレゼント

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拓也は中距離のトラック運転手をしている。今のご時世、最低月6日は休めるのが相場だが、入社して以来10年、まともに休んだ記憶はない。

深夜に帰り仮眠に近い状態で起き、毎朝栄養ドリンクとともに1日が始まる。

届ける商品は前の晩に積み込み、朝は目的地へと向かうわけだが、荷を下ろし会社に帰って来るのは、夜も遅い時間である。それから翌日の準備。

家に着くのは毎晩、日付変更線は過ぎている。

朝は、まだ薄暗いうちに家を出る拓也。
拓也がいつも通り、玄関を出ようとした時だった。妻に呼び止められ振り返る。
「拓也さん、今日は幸子の五歳の誕生日よ。知ってるわよね」
と妻が言った。
「ああ」
拓也はただ、頷くだけ。
そう言えば、一歳の誕生日以来、祝ってあげてないなと、拓也は思った。

会社に着くと、業務に終われ、娘の誕生日のことは、すっかり忘れかけていた。信号待ちで、車を停める拓也。ちょうど交差点の角におしゃれな玩具ショップが目に入る。

隣に乗っていた、若い助手の後輩が拓也の目線に気付き。
「あの店、最近流行ってますよね。俺の彼女いい年して、よく買い物に行ってますよ」
若い後輩は、そう言い照れくさそうに笑った。

「夜は閉店早いんだよな」拓也は聞く。
「さあ、確か8時くらいまでは、やってんじゃないですか。最近の子供夜更かし多いですからね」

「あ、そうか」
「まさか、先輩、彼女へプレゼントでも……あ、すみません、結婚してるし、娘さんいましたね、失礼しました」
後輩は顔を赤くしながら謝った。

拓也は『8時か』と思いながら、軽くため息をつく。
「先輩、信号変わりましたよ」


つづく

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