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Think About 2030コミュのVol.21 『化石資源が生んだ言葉』

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「若さとはヨーロッパの発明である」と書いたのは英文学者の吉田健一です。
産業革命が起こるまでの農耕社会では、「若さ」とは「未熟」を意味していました。これは農業や職人の世界を考えれば容易に想像できます。
村の高齢者は「長老」と呼ばれる指導者でした。
職人も30、40年と腕を磨いてようやく一人前。
歌舞伎など芸事の世界も4、50代はまだヒヨっ子。真にその人の芸が光るのは60歳を過ぎてから、などと言われます。
政治界もそうです。「君も若いねえ」「口ばしが黄色い」「ケツが青い」などという言い草は、若さを未熟、経験不足として揶揄するものです。
つまり、経験が重んじられる社会では「若さ」は未熟以外の何物でもなかったわけです。

ところが18世紀の中頃、イギリスから始まった産業革命はこの常識を一変させました。
生産は職人から機械へと移り、労働は単純化されます。
農業のような複雑な労働ではないので、若者も簡単に仕事を覚えます。
ベテラン職人の必要性は薄らぎ、賃金が安くて身体の丈夫な若者が重宝される。
こうして社会そのものが「若さ」を必要とする構造になっていったわけです。
しかし、当時の動力は石炭を使っていたので工場の中は煤煙で充満、都市にはスモッグが溢れていました。
工場での労働条件はひどく劣悪で、当然のことながら、病気も多く発生します。

サッカー、水泳、ラグビー、テニスなど近代スポーツの多くはイギリスで生まれていますが、そのほとんどは産業革命以降。
こうしたスポーツの隆盛は、労働力としての若者の身体を鍛える、あるいは兵士の鍛錬とも無関係ではなかったと思われます。
ドイツでは18世紀後半「体育」、文字通り身体を育てるという教育が確立されます。

産業革命は、鉄道による長距離輸送を可能にしました。
交通の便の向上が、各地で行われていた様々な競技におけるルールの統一化を促し、全国スポーツ大会へと発展します。
こうした道のりを経て1900年、クーベルタン男爵によって「若さの祭典」近代オリンピックが誕生。
「若さ」は筋力、身体能力の卓越、あるいは健康美としての揺るぎない社会的価値観を獲得することになります。

いささか乱暴な言い方をすれば、若さとは産業革命、つまり化石資源の利用と共に発明された価値概念である、ということにもなるはずです。

化石資源の開発と共に発明された概念は他にもたくさんあります。「発展」という言葉も明治時代に輸入された訳語かと思われます。
「薩摩藩の発展のために」などと言う西郷隆盛のセリフはありえません。言うとすれば「薩摩藩の安泰のために」となるはずです。
江戸時代までの日本で手に入るエネルギーといえば太陽光だけ。つまり燃焼エネルギーとなる森林も農地も太陽の光をエネルギーとしています。
したがって、藩の国力は領土の面積や地形、自然条件にほぼ比例していました。つまり領土以上の太陽エネルギーは得られないという面積的制約があったわけです。
「発展」するには他国へ攻め入り、領土を拡大するしかない。それが戦国時代でした。

ところが地下から石炭が発掘され、それが燃料として使われるようになると、国土面積に関係なく工業生産力は上がる。
20世紀初頭のイギリスにおける石炭のエネルギーは国土の森林の3倍にも及んだらしい。つまり、太陽エネルギーの宿命であった面積の制約からも解放されたことになる。
developmentという経済概念が成立し、日本では「発展」という訳語となった。
かくして産業革命は経済構造を変え、先進国では、一流会社、就職、給料といった昇進を目指す経済競争社会へと変貌していきます。

農村へ行くと村長さんなどから「わが村の発展のために」という言葉を聞きます。むろん無意識に「良くなる」という意味に使っているのでしょうが、化石資源が生んだ発展という概念は、太陽エネルギーを基調とするこれからの社会にはそぐわないのではなかろうか。

今の都会では「若さ」という価値も次第に幻想となりつつあるようです。フリーターが溢れているのも経済競争社会に嫌気がさしていることの裏返しでしょう。金がないので服もあまり買わず旅行にも行かず、若者の消費は減る一方らしい。その彼らが古い農家の佇まいや地方の農村文化に異常に興味を示したり、採れたてのダイコンをかじって大はしゃぎしたりする姿をTVで特集していました。

何か産業革命以上の大きな変化が静かに進行しているような気がしてなりません。
いずれにせよ、化石資源が枯渇した社会では、「若さ」「発展」といった言葉はやがて死語となり、代わって、穏やかな里山風景や美味しい野菜、つまり太陽エネルギーが育てた田園社会を賛美する新しい概念が生まれるのではないでしょうか。

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