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Think About 2030コミュのVol.15 『日本の宝』

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もう20年以上前の話になりますが、東北のある老農夫が
桜の花びらからその年の天候を読むというドキュメンタリー番組を観たことがあります。
桜が咲く春に収録したものを秋に検証するという趣向で、放映は10月頃でしたか。
驚いたことに、農夫が桜の花びらから読んだ通り、その年は冷夏、台風は3回。
他の細かな予想もほとんど的中していたのです。

その時に覚えたショックには、なぜか一種の虚脱感、
得体のしれない不安のようなものが混じっていた記憶があります。
これは、私たちが天気図を学ぶようなこととは明らかに違う。
うまくは言えませんが、私たちの社会は違う道を歩んでいるのではないか・・・。

考えてみれば、つい近年まで
農夫がその年の天候を見誤れば、家族や村の飢えを意味したわけです。
米作り60年のベテラン農夫でも、たかだか60回の経験でしかない。
その1回1回がまさに命を賭けた生への闘い。
彼らが持つ農の知識というものは、何千年、すなわち何千回という生死の挟間で
語り伝えられ、擦り上げられてきた極めて練度の高いものではなかろうか
おそらくその農夫は桜だけでなく他のあらゆる事象から天候を読んだのでしょう。

どうも現代の日本語はこうした種類の知恵を表わす適切な言葉を持っていないようです。
それは科学とも違う。理論でもない。学識とも言えない。
音楽、美術、芸能のような技能とも明らかに異なります。
職人の練達した技術と通じるものがあるものの、はたして技術と呼べるものかどうか。

私が子供だった頃、日射病にかかると、真っ赤になった炭火の一片をコップの水に入れ、
「陽戻し」と称してその水を飲まされたものです。確かに熱はすぐ引きました。
他にも、ドクダミやユキノシタ、アロエといった薬草、塩を使った入浴など
万事に際してあった迷信とも秘伝とも区別のつかない民間療法の類い。
食べられる草や木の実、毒虫や蛇の撃退、山の歩き方、火の起こし方、
つまり自然と付き合う術。
そして、土の味、風の匂い、霧や雲の色合いとかいった繊細なものを識別できる眼力。
そうした諸々の、いわば数千年にわたり民族が醸成し継承してきた
森羅万象に関する種種(くさぐさ)の知恵、感覚、知識。
そして、非科学的という理由だけで近代文明が侮蔑し、破棄してきたもの・・・。

その老農夫の世代が死に絶えたら、
こうしたものの一切を私たちの社会は失ってしまうことになる。
ドキュメンタリーの放映後に私が覚えた不安感は、
今にして思えば、そういうことだったのかもしれない。
代わりに気象予報士がいるではないか、インターネットがあるではないか、
という次元の問題ではないようにも思えます。

貧困が憎めるほどにモノや金を得はしたが、この社会のどこからか、
何か最も肝要なものが急激に空のかなたへ蒸発しつつあるような気がしてなりません。
はたして現在、学校で学ぶような知識体系だけで、
あるいはコンピューターといった私達がいま享受している文明の情報だけで、
この先、日本の繊細な風土や高い文化的水位を維持していけるのかどうか。

昨年、宮本常一(民俗学者)の『忘れられた日本人』を英訳し
出版した米国人ジェフリー・アイリッシュさん*。
彼は、ハーバード大、京大、民間企業などを経て、
現在、鹿児島県の土喰(つちくれ)という11世帯の里山集落で暮らしています。
集落の平均年齢は81歳。
世界中に拝金主義が蔓延しつつある中、彼の経歴や今の生き方をいぶかる人々に、
涼しげな顔でこう返します。
――― お年寄こそ日本の宝、だと。

地方では農村の高齢化が大問題となっていますが、真に問題なのは高齢化なのではなく、
お年寄りという「日本の宝」を活かさない、あるいは活かせない世の中の仕組み、
その責任は私たちの世代にあり、
ひいて、途方もなく大きな害をこうむるのは次世代になるのではないでしょうか。



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