小津安二郎コミュの小津安二郎の映画のプロデューサーを取材

昨日は鎌倉駅そばにある、山内静夫さんのお宅に伺った。一献傾けながら、鎌倉文士と昔の鎌倉の飲み屋を取材するためである。料理と酒を持参した。なんの関係もないが、「来たい」というので、うちのかみさんと絵描きのささめやゆきさんを連れて行った。二人とも山内さんの大ファンなのである。紳士という言葉は山内さんの方のようなためにあると思っている。山内さんに一度でもお目にかかった人なら誰でもファンになると思う。
　ぼくと山内さんとささめやさんはそれぞれ年は離れているが、仲がいい。互いの仕事を認め合った仲なのである。

　山内静夫さんのことはこれまで何度も書いているが、白樺派の文豪・里見弴先生のご子息で、ぼくとも昵懇の関係。小津安二郎の名画のプロデューサーだった人である。『晩春』で松竹の宣伝として小津映画に携わってから、『早春』(これは小津映画にはめずらしく、不倫を扱った映画で池部良の不倫相手が岸惠子だった)以降、『秋日和』、遺作となった『秋刀魚の味』まで数々の小津映画のプロデューサーとなった伝説上の人物。いまや小津組で健在の人は4人だけとなってしまった。山内さんは鎌倉の名士で、ぼくともときどき一献付き合ってくださり、お宅にもちょくちょくお邪魔する関係なのである。ちなみに小津の『秋日和』、『彼岸花』は里見先生の原作である。ぼくは小津安二郎の映画というのは、日本人の心のふるさとだと思っている。
　山内さんは去年まで鎌倉文学館の館長を務めており、ぼくと一緒に鎌倉はなし会という落語会も共催してくれていた。最初はぼくが一人でやっていたのだが、山内さんが「一緒にやろうよ」と声をかけて下さり、共催するようになったのである。

　山内さんは御年88歳。三島由紀夫と同年である。山内さんのお兄さんも95歳で健在。里見先生は94歳まで生きた。里見先生のお姉さんに至っては100歳を超えて元気だった。長寿の家系なのである。もう30年以上前だが、お姉さんが白寿のお祝いをやるときに、鎌倉の鶴岡会館で一族郎党が集まって大パーティを開いたことを昨日のように覚えている。
　いまでもぼくは里見先生の孫やひ孫と付き合いがあり、四代にわたって付き合いの持てることを幸せだと思っている。

　小津安二郎が酔うと、食い物の話しかしなかった。酔っ払うと最後は小津と脚本家の野田高梧と里見弴と踊りになった。野田と里見先生は花柳界仕込みで様になっていたが、小津は我流で踊りともいえない踊りだった。
　小津と鎌倉文士の数々の秘話を伺った。楽しく酔っ払って帰宅した。