サイレント･ラブコミュの夫婦マグワイ

以上で式が終わったのでなく、式は続く。次はいよいよ「ウキアブラ」である。青竹の筒切りのサカヅキに冷や酒を入れてクズコ一から新婦へ新婦は一口飲んで新郎に渡す。新郎が一口飲んでクズコに返すと、今度は新郎の母に次いで父に、あとはクズコからムレコに、ムレコ一からクズコ一へ、クズコ一からクズシリにと一口ずつ飲んで廻す。納めのサカヅキを受けとったクズシリ一は、三度捧げて、「イズモウ」と発声する。これに合わせて「イズモウ」「イズモウ」と全員唱和する。エラギの一の竹笛に合わせてクズシリが ♪ヤクモタチイズモヤエガキツマゴメニヤエガキツクルコノヤエガキヲ……。とヤクモタチの歌を朗吟し、全員がそれを復唱する。スメラオのミコトか出雲の悪漢を平らげて稲田姫と結婚された時、詠まれた歌をそっくりそのまま伝承しているのである。それが終わると、新郎新婦の二人は山入り（ヤマリ）となる。毛布かムシロを持って、山に隠れるのである。後の席にはクズシリ以下と両親の五人で、婚礼用意にそろえた料理で、酒盛りをして祝っていると、やがて山入りした二人が顔を赤らめて戻ってくる。これをからかったり、冷やかしたりは絶対にしてはならないのである。この時、花嫁は蕗の葉か柏の葉などに包んだものをムレコに渡すのである。ムレコは、それを開いて見て「イザナミだ

」と両親とクズシリに報告する。これを聞いてクズシリが「寿」（いのちながし）という。ムレコは、それをたたんで懐に入れて近くの薮で待っている花嫁の両親にそれを届けにゆく。夫婦の道の見届けものである。これを「ミトドケ」または「ミドケ」という。夫婦マグワイ（やまとことばである）の見届けである。