阮的台語歌コミュの映画　『881　歌え！パパイヤ』について

　シンガポール映画の『881　歌え！パパイヤ』がとても好きなのでここにも書きます。

1.私の立ち位置
　この映画が大好きなので褒めまくります。台語歌好きですから福建歌謡満載のこの映画は音楽の面からまず大好きです。アジア映画はもちろん大好き。香港映画や中国映画から入って90年代初めはアジア映画を観まくりました。そのときに観た映画、「上海ブルース」も含めて、これまで観た映画の中でも最高に好きなモノの一つです。そういうスタンスでこの映画について書いてみます。

2.経緯
　2008年に私がぼとるねっくえがしらさんに聞いてこの映画を知って、大陸や台湾でDVDを探したけど見つからず、2009年になってネットでこの映画を観ました。そのときもとても気に入ってしばらくみんなに言いまくっていました。

　その後2012年に東京でシンガポール映画祭があり、大阪でもあるかなと期待していたのですが大阪には来ませんでした。

　2013年が明けて、サリーのCD、DVDのついでに私が購入したのはこの映画のDVDはマレーシア版。日本版は倍ほど高かったのでやめました。音声は殆どマンダリン(北京語)、少し福建語、字幕はマンダリンというものです。今回はもうきちんと3回観ました。あとは家にいる間PCでかけっぱなしにして環境ビデオのように流しています。

3.言語について
　私の台湾人の友人は福建語なんて聞いてもわからないと言うし、台湾で会った福建人は台湾語と福建語は別モノ、と言いますが、私にはほとんど同じに聞こえてしまいます。もしかして、彼らのいう通じないというのは、我々の考える通じないというのとは違うかも。東北のお年寄りの話すこしばがよくわからないというくらいの意味かも、と思います。例えば先代の高橋竹山のコンサートのMCは私も8割くらいはわかって、もちろん面白くて大いに笑ったのですが、ヒトに話すときに「津軽弁って同じ日本語なの? ほとんどわからない。」なんて風に言うこともあるかも知れません。そんなモノかな。

　するとやはり福建語と台湾語は違わないのではないか。でも、ネイティブスピーカーが違うと言っているのです。これはいったいどういうことか。英語版のWikiで調べてみるとやはりそうでした。

　中国語⊃閩語⊃閩南語⊃福建語⊃台湾語(台湾福建語)

　ということだそうです。だから台湾語は福建語の一部。台湾語は、福建語という方言のそのまた方言ということです。なぜ台湾語のネイティブも福建語のネイティブ(このヒトは厳密に言うと厦門話のネイティブ)もお互いに「聞いてもわからない。」といったのでしょうか。不思議です。

4.あらすじ
　小木瓜（ミンディ・オン）と大木瓜（ヤオ・ヤンヤン）は、リンおばさん（リウ・リンリン）の指導の下、歌台(getai)歌手としてのレッスンを積み「木瓜姐妹(パパイヤ・シスターズ)」として成功する。そんな彼女たちの前に立ちはだかるのが「榴蓮姐妹(ドリアン・シスターズ)」。やがて2組はチャンピオンを決めるため歌台で激突することとなる。という単純なストーリーです。

　それから、この映画の「歌台(getai：あえてルビを振るとしたら『ぐータイ』、決して『ゲータイ』ではありません。中国語の初級で習う発音「e」の音は、「”え”の口をして”う”を発音する。」と習います。つまりそんな音です。福建語なら『ゴアタイ』)」というのは、シンガポールにおける旧暦の 7月に、シンガポール国内500ヶ所以上で先祖の霊を楽しませる為に開催される歌謡ショーとのことです。つまりは、盂蘭盆会(お盆、中華圏の盂蘭節または中元節)に行われる行事ということなので日本でいうところの盆踊りということになります。だから、木瓜姐妹(パパイヤシスターズ)は歌台のスターということなので、日本でいえば河内屋菊水丸か鉄砲光三郎ということになります。もしくは桜川唯丸か。

5.評価(さあいよいよ褒めまくりますよ。)
1)音楽
　この映画はサイコーの音楽映画です。歌も踊りも素晴らしい。歌はほぼ福建歌謡です。福建歌謡や台語歌を好きじゃないヒトにとってどうなのかはわかりませんが。では私がなぜこんなに福建歌謡や台語歌を好きなのか。それはやはり演歌のような歌謡性のある歌には閩南語がよく似合うからではないかと思います。音を伸ばすところが、たとえばこぶしを効かせるようなところが二重母音のある言語がよく似合う。閩南語には二重母音が多いのです。そして母音で終わる。二重母音ならマンダリンにもありますが、子音で終わらず二重母音で終わる語で言えば閩南語のほうが多い気がします(あくまでも個人の感想です。)。もう一つ、促音があること。これも大きいでしょう。

　具体的な例で言うと、すなわち「一人一半」の「ちっらん　ちっ　ぽあ～」の部分。「ちっ」と溜め込んで「ぽあ～」と伸ばす。ここがもうこの部分だけでご飯三杯いけるぐらいです。これがマンダリンだと「いーれん　いーぱん」となり何か間の抜けた感じになってしまいます。やはり、福建語、台湾語が歌謡性のある歌に合うということがわかっていただけると思います。

　なんて言いながら、全く説得力がないなあということは私もわかっています。たぶん、中華音楽に全く興味のない方にはどうでもイイ話でしょう。いえ、港台の音楽を好きなヒトにとってもそうでしょうね。台語歌や福建歌謡が好きなヒトにならかろうじてわかっていただけるかも。

　実際、ネットのこの映画の評を観ていても、この映画の重要なウェイトを閉める音楽についても否定的な書き方をしているのをよく見ます。音楽がコテコテ、歌詞が暗い、悲惨。1、2曲聴いたら充分。くどい、ひつこい。と、えらい書かれようです。

　でも、私は大好きです。こういうコテコテな歌や労働歌。メロディは明るいのに歌詞は暗い。不幸。悲惨。でも、そういうのを坦々と歌っている、というのがイイ。汗水流して働いたけど財産は何も残らなかった。でも、文句も言わず歩き続けるのが人生だ、みたいな歌って、イイじゃないですか。とても(これは違うジャンルだけど)。でも、美しい歌詞に美しいメロディな曲だけがイイわけではないと思うのです。

2)登場人物
　魅力的な登場人物がいっぱい出てきます。リンおばさん（リウ・リンリン）は本職の歌手とのこと。このヒトは終始福建語で話します。日本語字幕は関西弁になっていたそうです。
　小木瓜（ミンディ・オン）と大木瓜（ヤオ・ヤンヤン）の二人がこの映画の主役です。小木瓜役の女優は私の好みのタイプ、ど真ん中です。これもこの映画の好きな理由の一つです。
　リンおばさんの息子役のグアン・イン（チー・ユーウー）は男前なのにニワトリがペットな変わった青年。「口数が少ない。」とリンおばさんは形容するが聾唖なのかナレーション以外、映画ではヒトコトも発しない。
　あと、歌台の「白馬の王子」王雷や歌后「凱倫」もとてもいいキャラ。もちろんドリアンシスターズも音楽はとてもイイ。

3)プロット(筋)
　プロットが単純で陳腐すぎるという批判がありましたが、これはぼとさんもおっしゃっている通り、音楽映画なので音楽の魅力を最大限引き出すべくできるだけ単純なプロットにしたのでしょう。ホント考えてみれば、ブルースブラザーズだってかなり単純です。

　ファンタジー仕立てや(安っぽい)SFXに対する批判もありますが、まず歌台女神について、私はこれはメタファーだと思います。つまりは魔法を使ってパパイヤシスターズの歌にfeel, feelings (感情)を吹き込んで成功させるというのは、有能なプロデューサーが全くの素人を捕まえてきてそれにボイストレーニングや歌唱指導等をして売れるように仕上げていくという過程を一瞬に凝縮したのだと。そして、女神が提示した条件というのは、ロバートジョンソンの悪魔との取引のようでもあり、また恋愛禁止なんてAKBの峰岸事件の先取りのようでとても面白いと思います。最期にボウズになってしまうところまで同じ(違うか)。

　光線が出たりするSFXというのも、後の小木瓜が死ぬシーンで大木瓜と抱き合って段々やつれて髪が抜けていくというシーンが時間の経緯を現しているように、歌のバトルをより熾烈に表現するのと悪役のヒールの部分をデフォルメしているのだと理解しています。

　ということで、彼女たちの歌と踊りの魅力を最大限に引き出すとともにダレさせることなくストーリーを進めるために簡潔にまとめたすばらしい作品だと思います

5)その他
i)中華歌曲
　「如果生命没有音楽、我們活着也没有意義」というのは某音源販売店のキャッチコピーの中文訳ではなくて、この映画の中で歌台の女神・仙姑にお願いをするとき自分たちにとって音楽がどれだけ大切かということを伝えるために言う言葉です。音楽がなければ生きていても意味がない、という意味です。

　そして、この後に下記のような歌のタイトルを使って更にお願いをするのです。これらタイトルを繋ぎ合わせて意味のある文章にするのです。これがとても面白くて最初に観たときも思わずニンマリしてしまいました。今回いちいち拾ってみました。もちろん抜けもあるかも知れませんが。しかし、英文字幕を観ると当然のことながら意味を単純に訳してあるだけで面白くもなんともありません。というか、意味不明ではないかと思います。なぜ唐突にこんなことを言い出すのかと。日本語字幕は観ていないのですが、恐らく同様に面白くないでしょうね。

一千個傷心的理由(張学友)
一言難尽(張宇)
其実你不懂我的心　(童安格)
心如刀割　(張学友)
我只在乎你　(鄧麗君)
你的千言万語(鄧麗君)
心事誰人知(沈文程ほか)
天涯歌女(周璇 )
浪子的心情(葉啟田)
你照亮我的心(鄧麗君)
世界第一等(劉徳華)
女人何苦為難女人(辛曉琪 )
原来你什麼都不要(張惠妹 )
我要飛上青天(葛蘭 )
千里之外(周杰倫 )
「看天上人間」　新天地　(謝雨欣)
神秘女郎(蔡琴)
泪的小雨(鄧麗君)
一無所有(崔健)
明明白白我的心(陳淑樺 )
没時間(莫文蔚)
真心真意(許志安 )
老鼠愛大米(楊臣剛 )
你怎麼捨得我難過(黃品源)

ii)泰諾
　物語の初め、「歌台界の白馬の王子」王雷、「歌台界のクイーン」凱倫ほか歌台のスターたちにパパイヤシスターズについての感想と意見を求めるくだりで、凱倫がこう言います。

　ありきたりだから「泰諾」路線で売り出すのはやめた方がイイ

　この「泰諾」という意味がずっとわからなかったのです。彼女たちのプロモーションをするリンおばさんもわからなかったみたいで尋ねるのですが、この王雷というおっさんがええ加減なことを言うおっさんで、

　「泰諾」を知らないの? 泰といえば諾。泰があれば諾があり、諾があれば泰がある。空を見上げて「泰諾」に祈る。どうか馬券を当ててチョーだい! 　道を歩けば「泰諾」おはよう! …

　というワケのわからない説明をするのでまったく不明。ネットで調べても薬がヒットするくらいで辞書にももちろん載っていません。途方に暮れてしまい、TSUTAYAに日本語版を借りに行こうか(あるのか?)と思いました。が、よく考えてみれば英文字幕を見ればイイのです。

　見たら、「なーんだ。」テクノということでした。福建語の発音で「テック・ノー」ということなのですね。

6.テーマ
1)死或いは死をどのように受け容れるかということ
　この映画のテーマ、一つは死について。つまり旧暦の7月に地獄の蓋が開いて霊が帰って来るという考え方。本来の仏教的な意味とは違うのですが、お盆の時期にそれを迎える行事をするというのはアジアで共通にあるモノですね。モスリムの国は知りませんが。

　ゴッホの手紙を思い出します。

　死者を死せりと思うなかれ　
　生者のあらんかぎり
　死者は生きん　死者は生きん

　こういう考え方には救われるモノがありますね。ラストのシーン、歌台でまた二人が一緒に歌うシーンがとてもイイ。毎年お盆には会えるということです。生きているヒトがいて覚えている限り。

2)宿命或いは「照千里、守一隅」
　また、もう一つのテーマは、人の宿命というのを受け容れること。つまり人間生まれついての不公平というのは確かにある。しかし、それに対して不平不満を言ったり、他人を羨んだりするのではなく、運命を坦々と受け入れ、自分のできることを地道に行う、すなわち一隅を守って千里を照らすという考え方ですね。

　以上、ホントに面白い映画で私は大好きです。この映画を好きになってくれる方が増えたらイイなあと思って長々と書きました。