東海道本線沿線観光コミュの初島

　熱海市中心部から南東に約10kmに位置する面積0.437k?・周囲約４kmの島で、現在の人口は243人。
　『三島大明神縁起』によれば、薬師如来の申し子として天竺に生まれた三島明神は無実の罪に問われて追放され、唐・高麗を経て日本に渡来、富士山の神に出会って一緒に島を作り始め、伊豆に十の島を創生、その中で一番最初に作った島なので初島と呼ばれると記されている。
　地質学的に見ると、全て火山島である伊豆七島とは異なり、海底が隆起して海上に姿を現した海成段丘の島で、現在初島灯台が建っている海抜51ｍの島内最高地点である第一段丘付近は、20000年程前に海上に姿を現したと観られている。
　島内からは約7000年前の縄文時代の遺跡も発見されており、太古から有人島だった事が明らかになっている。観応２(1351)年に18戸の家がある事を記した史料も残る。
　江戸時代までは伊豆諸島の一つにカウントされていたが、明治11(1878)年に伊豆諸島が静岡県から東京府に移管された際、静岡県に留まったため、静岡県唯一の有人島となり、静岡県の最東端という事にもなった。現在は熱海市に属す。
　昭和時代前半までは訪れる人も稀な漁民の島だったが、昭和39(1964)年に富士急が、トロピカルガーデン・ゴーカートコース・ハワイアンプール等を備えた初島バケーションランドを島の東部にオープンした結果、東京から日帰りで行ける島として人気を呼ぶようになった。この初島バケーションランドが現在の初島アイランドリゾートの前身である。
　バブル景気絶頂期の平成元(1989)年に、不動産・リゾート開発会社の日本海洋計画が「初島クラブ」というリゾート施設を島の南部に建設する事を計画、サントリー・富士急・トヨタ・日本長期信用銀行・フジケンコー等も出資して大規模なリゾート開発が断行された。しかし、平成５(1993)年に初島クラブがオープンした時には既にバブルが崩壊しており、リゾート会員が集まらずに当初から苦しい経営が続いた挙句、平成11(1999)年に会社更生法の適用を申請して倒産してしまった。初島クラブの倒産は日本長期信用銀行の破綻に大きな影響を与えたとされ、後に出資・融資を推進した取締役が告訴されている。その後、リゾートトラストの支援の下、新会社の「リゾートトラスト初島」となり、施設の名称も「エクシブ初島」と変更され会員制リゾートとして営業中。
　初島港には林芙美子文学碑がある。林芙美子の小説『うず潮』は主人公が初島から熱海港の夜景を見るシーンで締めくくられている。
　「路地の細い道を抜けるとすぐ海に出る。昏(ｸﾗ)い海の向こうに、ちらちらと熱海の不夜城の灯がたなびいて、明滅していた。～中略～島は森閑と無人島のような静寂。昏い。向こうの、きらめく燈火の下には、それぞれの人の世があり、悲劇や喜劇が演じられているのであろう……。来の宮の沖合いには、いか釣り船の明るい灯が二つゆるく流れていた。水の面は黒檀に染まり月光が照りかえっている。～中略～熱海の灯が、光の霧を噴いている。千代子は息を殺してじいっと夜の海を見つめた。私はいったい何を恐れていたのだろうか……月の光を溶かしてうず潮は昏く流れている。速度も見えぬながら、只、海鳴りの音を立てて、はてもなく、うず潮は流れているのだ……。」

　港の正面には、悲しい伝説を秘めたお初の松が立つ。初島の美しい娘お初は17歳の時、対岸の伊豆山のお祭りで、右近という若者と知り合って恋仲になり、右近が「百夜通えば結婚する」と約束したため、毎夜右近が海岸で焚く火を目印に海上三里を盥(ﾀﾗｲ)に乗って通ったが、99日目の夜、お初に横恋慕した男が目印の火を消してしまったため、方角を見失ったお初は遭難、波に呑まれて死んでしまった。右近はお初の弔いに諸国巡礼に旅立ち、火を消した男は突如重病になって七日七夜苦しんだ挙句絶命したと言われる。お初を偲んで植えられたのがこの松だされる。
　港の西南方の内陸部に初木神社がある。初島の守護女神である初木姫を祭り、神殿の下には古代の祈りの場であった磐倉(ｲﾜｸﾗ)の遺跡が残るため、太古から信仰の場であった事が明らかである。初木姫は、人皇第５代孝昭天皇〔位；475B.C.～393B.C.〕の御代に、日向から東国順憮に向かう途中、伊豆沖で遭難、一人この小島に漂着したとされる。姫は磯辺を彷徨し、対岸に人がいるのだろうかと焚き火をして合図をしたところ伊豆山彦という一男神がこれに応えた。姫はこれに力を得て、萩を組んで筏にし、草で織った帆を巻いて伊豆山小波戸崎に渡る事に成功、その後、初木姫は伊豆山の中腹に登り、木の中に棲む日精・月精という双子を見つけて育てたとされる。日精・月精の誕生は人皇第12代景行天皇31年(A.D.101)とされており、初木姫は500年以上生きていた計算になる荒唐無稽な伝説であるが、孝昭天皇は尾張連の娘を妃として東方豪族と結んだ大王であり、何らかの史実が反映された物語だと推定される。或いは、父景行天皇の命で東征を行なった日本武尊(ﾔﾏﾄﾀｹﾙﾉﾐｺﾄ)の妃で、海神を鎮めるため浦賀水道に身を投じた弟橘媛(ｵﾄﾀﾁﾊﾞﾅﾋﾒ)が初木姫のモデルとなった可能性もある。
　大正２(1913)年に裕仁皇太子(後の昭和天皇)が海軍の水雷艇で来島し、植物採集をした行啓記念碑が初木神社境内に建つ。東郷平八郎侯爵元帥の筆。
　初木神社近くの海岸には、初島ところてんの創始者丸宮重助(1888～1935)像もある。
　神社の少し西方に初島海洋資料館があり、入場は無料で、初島の自然に関する解説が行われている。
　初島アイランドリゾートは島の東端にあり、江戸時代にはは江戸城の採石場であった。初島アイランドリゾートの中心施設はアジアンリゾートで、熱帯植物の咲く温室もある。
　島内最高地点には初島燈台が建ち、燈台資料展示館と合わせて有料で見学出来る。初島燈台は昭和34(1959)年に設置された高さ16ｍの燈台で、燈火の海抜は63ｍになる。光の届く距離は約32kmで、熱海市街からも良く見える。なお、初島に電気が通じたのは昭和29(1954)年である。赤色燈は48000カンデラ、緑色燈は43000カンデラである。燈台からは天気が良ければ富士山や伊豆大島も望める。
　初島アイランドリゾートには「海水浴・場」では無く「海水・浴場」の「島の湯」もある。海岸線の地下40mから汲み上げた井戸水を沸かしたもので、海水がゆっくりと島に浸透する間に海水以上の多量のミネラル分(ナトリウム・マグネシウム・カリウム・カルシウ等)が溶け込んでいて、ねっとりした肌触りの気持ち良い泉質になっている。露天風呂はオーシャンヴューの眺望を誇る。
　民宿や食事処も多い。
　熱海港から船で約30分。