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生活保護を受ける人の親族に対して、仕送りができるかどうかを自治体が尋ねる「扶養照会」について、全国74自治体を調べたところ、親族から受給者への仕送りにつながった例が、照会したうちの1%未満にとどまることがわかった。朝日新聞が、2021年度まで2年間の実績を調べた。
扶養照会されたら、生活に困っていることを親族に知られてしまう――。そんな思いから生活保護の申請をあきらめる人もいます。仕送りにつながるケースがわずかでも、扶養照会を続けるべきか。記事後半では、専門家の提言を紹介します。
扶養照会は、民法上で「扶養義務」がある3親等までの親族が対象。主に親や子、きょうだいに照会する自治体が多く、厚生労働省は、高齢の親族などは対象から外しても「差し支えない」としている。
今回の調査で、各自治体が照会対象としてリストアップした親族のうち、実際に照会した割合（照会率）を計算すると、数%から約8割まで差があることもわかった。
照会では、仕送りのほか、定期的な訪問や電話などによる「精神的な支援」が可能かも聞く。
親族に知られることを理由に申請をあきらめる人がいるとして、生活困窮者の支援団体などの間では批判の声が強い。
朝日新聞は扶養照会について、全国の県庁所在市、政令指定市と東京23区の計74市区にアンケートや情報公開請求を実施し、今年1月までに回答を得た。調べたのは、20、21年度に保護の開始が決まった世帯に関し、照会した親族の数▽照会を受けて仕送りした親族の数▽仕送りの金額など。
74市区では、両年度に開始が決まった計20万6513世帯について、親族のべ22万7984人に扶養照会をしていた。その結果、仕送りをした親族はのべ1564人（約0・7%）だった。1千人への照会で、仕送りにつながったのは7人に満たない計算になる。両年度に74市区で保護の開始が決まった世帯数は、全国の5割強にあたる数字になる。
照会したうち仕送りが得られた割合を自治体別にみると、全体の8割にあたる60市区で1%未満だった。うち水戸市など8市区は、2年ともゼロだった。
「家族頼みの制度、時代遅れ」
ここから続き
親族からの仕送りの有無は生活保護を受けられるかどうかの判断に影響しないが、仕送りがあれば、その分、受け取る保護費は減額される。74市区の照会で、それぞれ同一年度内に得られた仕送りは、2年間の総額で1億4365万円。仕送りが得られなかった世帯も含め、生活保護の開始世帯数で割ると、1世帯あたり年696円だった。国は、扶養照会にかかる経費の一部を自治体に補助しており、この2年間で74市区への補助額は2億6981万円だった。補助の対象は、最初の照会で仕送りにつながらなかった親族に、翌年度以降も照会をする場合にかかる人件費などだ。
74市区のうち、集計できる59市区で21年度の照会率を計算すると、リストアップした親族の約78%に照会した自治体もあれば、約5%のところもあった。
生活保護では、保護が必要な生活水準でも多くの人が受給していない「漏給（ろうきゅう）」が問題となっており、扶養照会も漏給の大きな要因とされている。本来は対象となる所得層のうち、受給者は2〜3割とする国や研究者の推計も複数ある。
22年12月時点の生活保護世帯は約164万。単身世帯が約84%を占め、高齢単身世帯だけで全体の約51%になる。未婚率の増加などを背景に、世帯の単身化が進んでおり、40年には全ての世帯の4割弱に達すると推計されている。
社会保障政策に詳しい橘木（たちばなき）俊詔（としあき）京大名誉教授（公共経済学）は「制度が始まった戦後間もないころと比べると、家族のきずなは希薄になり、家族のいない単身者も増えている。3親等という広い範囲の親族に扶養義務を課す家族頼みの制度は時代遅れで、極端に言えば意味がない。家族に照会することをやめるか、対象を限るべきだ」と指摘。「生活保護を恥だと考える文化が根強いのも問題で、扶養照会が拍車をかけている。親族からの仕送りに期待するのではなく、政府が責任を持って支給する制度に変えた方がいい」と話す。
ケースワーカーの経験がある桜井啓太・立命館大准教授（社会福祉論）は、「現時点で扶養照会をすべて廃止することは難しい」としたうえで、「対象を配偶者や未成熟の子どもに対する親に狭め、受給者本人と相談して同意をもらったうえ、仕送りしてくれる蓋然（がいぜん）性が極めて高い場合だけに照会するように変えるべきだ」と提案する。「誰に照会するかなど自治体の判断はまちまちで、自治体任せにしている点で国は責任を放棄しているとも言える。本当に必要な親族だけに照会するよう、国が範囲を狭めて明確に示すべきではないか」と話している。（贄川俊、川野由起）
扶養照会とは
扶養義務者による扶養は「保護に優先する」という生活保護法の規定に基づき、自治体が扶養できるかを親族に尋ねる仕組み。申請者への聞き取りや戸籍調査をもとに把握した親族で、対象になる人に文書が送られるのが一般的だ。
厚生労働省は2021年以降、保護を受ける本人が照会を拒んでいる場合は特に丁寧に事情を聞き取ることを求め、家庭内暴力（DV）があった相手などは照会の対象から外すことを明示している。
生活保護費は国が4分の3、残りを自治体が負担するのが原則で、22年度は国の予算で約2兆8千億円があてられた。
コメントプラス
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長島美紀
（SDGsジャパン 理事）
2023年3月27日11時44分 投稿
【視点】相対的貧困率という言葉があります。OECD（経済協力開発機構）の定義によれば、「世帯の所得がその国の等価可処分所得（手取り収入を世帯人数の平方根で割って調整した額）の中央値の半分（貧困線）に満たない人々の割合」のことで、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、2018年の日本における貧困線は127万円、相対的貧困率は15.4％とされ、6人に1人は、相対的貧困といわれています。2021年にはOECD加盟国37カ国のうち、相対的貧困率がもっとも高かったのはコスタリカ（20.3％）、日本は7番目(15.7％)で、G7でも最低となりました。
相対的貧困率が高い一方で、収入が最低生活費未満の人が生活保護を受けている割合（捕捉率）が約2割であるというあまりに低い数字が出ています（ドイツは6割、イギリスは5〜6割、フランスが9割）。この捕捉率の低さの背景にあるのが生活保護を受けることを「恥」と捉える意識（スティグマ）と、生活保護制度への無理解です。2013年国連社会権規約委員会は、日本の生活保護について、スティグマが生活保護の申請を思いとどまらせていることに懸念を表明し、公的な福祉的給付の申請手続きの簡素化と、申請者が尊厳を持って取り扱われること、生活保護に関する教育の重要性を指摘しています。
10年近く経った今、しかなしながら今なおこのスティグマが生活保護の需給を躊躇させる要因であることは、この記事で指摘されている通りです。また、2021年にはメンタリストDaiGoさんが「生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」、「ホームレスの命はどうでもいい」など差別的な発言をしたことからもわかるとおり、経済的困窮者への差別的な眼差しは社会を根強く覆い、困窮した人々を追い詰めています。DaiGoさんの発言後、厚生労働省が「生活保護は国民の権利である」と緊急にPRしたことも話題になりましたが、生活保護は憲法25条で保障される権利であり、権利を行使することは何ら恥ずべきことではありません。
記事で最後に桜井氏が指摘されているように、国はより多くの人が取り残されないよう、明確な対策が求められます。
生活保護を受ける人の親族に対して、仕送りができるかどうかを自治体が尋ねる「扶養照会」について、全国74自治体を調べたところ、親族から受給者への仕送りにつながった例が、照会したうちの1%未満にとどまることがわかった。朝日新聞が、2021年度まで2年間の実績を調べた。
扶養照会されたら、生活に困っていることを親族に知られてしまう――。そんな思いから生活保護の申請をあきらめる人もいます。仕送りにつながるケースがわずかでも、扶養照会を続けるべきか。記事後半では、専門家の提言を紹介します。
扶養照会は、民法上で「扶養義務」がある3親等までの親族が対象。主に親や子、きょうだいに照会する自治体が多く、厚生労働省は、高齢の親族などは対象から外しても「差し支えない」としている。
今回の調査で、各自治体が照会対象としてリストアップした親族のうち、実際に照会した割合（照会率）を計算すると、数%から約8割まで差があることもわかった。
照会では、仕送りのほか、定期的な訪問や電話などによる「精神的な支援」が可能かも聞く。
親族に知られることを理由に申請をあきらめる人がいるとして、生活困窮者の支援団体などの間では批判の声が強い。
朝日新聞は扶養照会について、全国の県庁所在市、政令指定市と東京23区の計74市区にアンケートや情報公開請求を実施し、今年1月までに回答を得た。調べたのは、20、21年度に保護の開始が決まった世帯に関し、照会した親族の数▽照会を受けて仕送りした親族の数▽仕送りの金額など。
74市区では、両年度に開始が決まった計20万6513世帯について、親族のべ22万7984人に扶養照会をしていた。その結果、仕送りをした親族はのべ1564人（約0・7%）だった。1千人への照会で、仕送りにつながったのは7人に満たない計算になる。両年度に74市区で保護の開始が決まった世帯数は、全国の5割強にあたる数字になる。
照会したうち仕送りが得られた割合を自治体別にみると、全体の8割にあたる60市区で1%未満だった。うち水戸市など8市区は、2年ともゼロだった。
「家族頼みの制度、時代遅れ」
ここから続き
親族からの仕送りの有無は生活保護を受けられるかどうかの判断に影響しないが、仕送りがあれば、その分、受け取る保護費は減額される。74市区の照会で、それぞれ同一年度内に得られた仕送りは、2年間の総額で1億4365万円。仕送りが得られなかった世帯も含め、生活保護の開始世帯数で割ると、1世帯あたり年696円だった。国は、扶養照会にかかる経費の一部を自治体に補助しており、この2年間で74市区への補助額は2億6981万円だった。補助の対象は、最初の照会で仕送りにつながらなかった親族に、翌年度以降も照会をする場合にかかる人件費などだ。
74市区のうち、集計できる59市区で21年度の照会率を計算すると、リストアップした親族の約78%に照会した自治体もあれば、約5%のところもあった。
生活保護では、保護が必要な生活水準でも多くの人が受給していない「漏給（ろうきゅう）」が問題となっており、扶養照会も漏給の大きな要因とされている。本来は対象となる所得層のうち、受給者は2〜3割とする国や研究者の推計も複数ある。
22年12月時点の生活保護世帯は約164万。単身世帯が約84%を占め、高齢単身世帯だけで全体の約51%になる。未婚率の増加などを背景に、世帯の単身化が進んでおり、40年には全ての世帯の4割弱に達すると推計されている。
社会保障政策に詳しい橘木（たちばなき）俊詔（としあき）京大名誉教授（公共経済学）は「制度が始まった戦後間もないころと比べると、家族のきずなは希薄になり、家族のいない単身者も増えている。3親等という広い範囲の親族に扶養義務を課す家族頼みの制度は時代遅れで、極端に言えば意味がない。家族に照会することをやめるか、対象を限るべきだ」と指摘。「生活保護を恥だと考える文化が根強いのも問題で、扶養照会が拍車をかけている。親族からの仕送りに期待するのではなく、政府が責任を持って支給する制度に変えた方がいい」と話す。
ケースワーカーの経験がある桜井啓太・立命館大准教授（社会福祉論）は、「現時点で扶養照会をすべて廃止することは難しい」としたうえで、「対象を配偶者や未成熟の子どもに対する親に狭め、受給者本人と相談して同意をもらったうえ、仕送りしてくれる蓋然（がいぜん）性が極めて高い場合だけに照会するように変えるべきだ」と提案する。「誰に照会するかなど自治体の判断はまちまちで、自治体任せにしている点で国は責任を放棄しているとも言える。本当に必要な親族だけに照会するよう、国が範囲を狭めて明確に示すべきではないか」と話している。（贄川俊、川野由起）
扶養照会とは
扶養義務者による扶養は「保護に優先する」という生活保護法の規定に基づき、自治体が扶養できるかを親族に尋ねる仕組み。申請者への聞き取りや戸籍調査をもとに把握した親族で、対象になる人に文書が送られるのが一般的だ。
厚生労働省は2021年以降、保護を受ける本人が照会を拒んでいる場合は特に丁寧に事情を聞き取ることを求め、家庭内暴力（DV）があった相手などは照会の対象から外すことを明示している。
生活保護費は国が4分の3、残りを自治体が負担するのが原則で、22年度は国の予算で約2兆8千億円があてられた。
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長島美紀
（SDGsジャパン 理事）
2023年3月27日11時44分 投稿
【視点】相対的貧困率という言葉があります。OECD（経済協力開発機構）の定義によれば、「世帯の所得がその国の等価可処分所得（手取り収入を世帯人数の平方根で割って調整した額）の中央値の半分（貧困線）に満たない人々の割合」のことで、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、2018年の日本における貧困線は127万円、相対的貧困率は15.4％とされ、6人に1人は、相対的貧困といわれています。2021年にはOECD加盟国37カ国のうち、相対的貧困率がもっとも高かったのはコスタリカ（20.3％）、日本は7番目(15.7％)で、G7でも最低となりました。
相対的貧困率が高い一方で、収入が最低生活費未満の人が生活保護を受けている割合（捕捉率）が約2割であるというあまりに低い数字が出ています（ドイツは6割、イギリスは5〜6割、フランスが9割）。この捕捉率の低さの背景にあるのが生活保護を受けることを「恥」と捉える意識（スティグマ）と、生活保護制度への無理解です。2013年国連社会権規約委員会は、日本の生活保護について、スティグマが生活保護の申請を思いとどまらせていることに懸念を表明し、公的な福祉的給付の申請手続きの簡素化と、申請者が尊厳を持って取り扱われること、生活保護に関する教育の重要性を指摘しています。
10年近く経った今、しかなしながら今なおこのスティグマが生活保護の需給を躊躇させる要因であることは、この記事で指摘されている通りです。また、2021年にはメンタリストDaiGoさんが「生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしい」、「ホームレスの命はどうでもいい」など差別的な発言をしたことからもわかるとおり、経済的困窮者への差別的な眼差しは社会を根強く覆い、困窮した人々を追い詰めています。DaiGoさんの発言後、厚生労働省が「生活保護は国民の権利である」と緊急にPRしたことも話題になりましたが、生活保護は憲法25条で保障される権利であり、権利を行使することは何ら恥ずべきことではありません。
記事で最後に桜井氏が指摘されているように、国はより多くの人が取り残されないよう、明確な対策が求められます。
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