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歌詞から妄想コミュの中島みゆき・bankband/糸

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仕合わせ




なぜめぐり逢うのかを私たちはなにも知らない。
いつめぐり逢うのかを私たちはいつも知らない。




その本屋のPOPにはそう書かれていた。

大学の二部に通いながら僕は詩を書くようになった。
僕が尊敬する講師の目に留まったのはたまたまだった。

その講師は僕が受験を決めるきっかけになった作家だ。

僕はやりたい事もなくただなんとなくフリーターをして生きていた。
カラオケ店でバイトをしていて、成り行きで付き合った真紀さんに振られ、自信のなさに拍車をかけてことさら人生を諦めるようになっていた。

そんな僕の唯一の楽しみは本だった。
僕は一人で本を読んでいるのがとても好きだった。

僕が好きな作家が大学で講師をしてるのを知った。
昔から何のとりえもなく、勉強も出来なかった僕だけど、どうしてもその作家の講義を聞きたかったので必死に勉強してなんとか合格した。

僕の唯一の親友であり、バンドマンの信二がきっかけで僕は詩を書くようになった。

信二の詩はストレートで心臓を直接殴ってくるようなものだった。彼にそう伝えると、「まこともなんか書いてみろよ、文学少年の書くインテリな詩を読ませろよ」とからかってきた。

珍しく酒を飲んで酔っていた事も手伝い、僕はその夜思いつくまま書きかけのレポート用紙に言葉を書きなぐった。

翌日、二日酔いで頭がガンガンしてるなか起きると、泥酔してそのまま僕の部屋で先に爆睡していたはずの信二が何かを読んでいた。

僕はうっすら夕べの事を思い出し、いうことの聞かない身体でレポート用紙を取り上げた。

“しばらくこのネタを酒の肴にされる”と恥ずかしいやら腹立たしいやら自己嫌悪を味わっていると、信二は真面目な顔で「この詩で曲作っていいか?」と聞いてきた。

僕はレポート用紙を読んだ。
確かに僕が書いた詩だった。
だけど、僕が書いた詩ではなかった。

正確に表現すると
僕の手が書いた詩だけど、僕の脳が書いた詩ではなかった。

いつの間にか頭痛は消え、夕べの事をはっきり思い出した。

あの時僕は自分が自分じゃないようなトランス状態でこれを書いていた。
何かが降りてきて、僕の脳と身体を使って書いた感じだ。
とても気持ちよかったのを覚えてる。

それから僕は“何かが降りてきて”がなんだったのか確かめるかのように詩を書いてみた。酔っていなくても“降りてくる”感覚があった。
だから酒の影響ではなく、自然とそうなるのだ。

僕は子供の頃から小説家になりたいという夢があった。でも熱く語れるほどの自信も強さもなくて、ファーストフードのバイトで知り合い付き合っていためぐみちゃんにも冗談のように語った。

彼女は「すごいいいじゃない?がんばって!」って微笑んでくれた。
けど、僕には良い題材も、ストーリーも何も浮かばなくて、何とか書きあげた小説もひどいもんだった。

それでも小説を書いていたが、小説同様自信がなかった事がきっかけで、運命だと思っていためぐみちゃんを失ってしまった。
すべての意欲をなくし、どうせ俺には才能ないしと物書きの夢も諦めた。

それ以来、何かを書くって遠ざかっていたけど、今回の何かが降りてきてピタッとハマる感じが気持ちよくて楽しくて、僕は詩を書くのが習慣になった。

毎回ピタッと来るわけじゃなく、たまにしか来ないけど、来た時の詩は抜群に良いと信二は言ってくれる。

ある日、講義が始まる前に突然ピタッと来て、そのまま夢中で書いていたらいつの間にか講師が横に立っていて覗き込んでいた。

講義が終わると講師に呼ばれ「今度出す小説の帯にその詩を使わせてくれないか?」と聞かれた。

僕は訳の分からないままうなずいてしまった。

僕の詩はそれをきっかけに小さな出版社の目に留まり、とんとん拍子で詩集を出す事になった。

でも、詩集はほとんど売れなかった。
というよりほとんど本屋においてもらえなかった。

僕の物書きになりたいという夢は叶った。けれど現実は厳しい。
それでも僕は詩を綴る事を辞めなかった。
僕は自分を信じてみようと思うようになっていた。


・ビフォアサンライズ “恋人までの距離(ディスタンス)” 
・ビフォアサンセット

僕はこの映画がとても好きだ。

ヨーロッパの長距離列車の中で出会ったアメリカ人学生ジェシーと、フランス人女学生セリーヌ。ふとしたことから意気投合した二人は、翌日の朝までの時間、ウィーンの街を歩き回る。たった1日しかあっていないのに宿命的に惹かれあった二人。半年後の再会を約束して別れる。
ウィーンでの出会いから9年。あの一夜のことを描いた小説を書いたジェシーは、作品のプロモーションでパリを訪れる。ある本屋で記者会見中にセリーヌと再会する。ジェシーの飛行機が出るまでの短い間、二人は秋のパリを歩きながら思い出を語り合う。

僕はこの映画からインスパイアされ詩を書いた。

どこにいたの?生きてきたの?
遠い空の下二つの物語
縦の糸はあなた横の糸は私
織りなす糸はいつか誰かを暖めるかもしれない。
織りなす糸はいつか誰かの傷をかばうかもしれない
何故生きてゆくかを迷った日の跡のささくれ
夢追いかけて走って転んだ跡のささくれ
こんな糸が何になるの
心もとなくて震えた風の中
逢うべき糸に出会える事を
人は仕合わせと呼びます


信二のバンドが曲にのせ唄った。
インディーズとしては驚異的なヒットを記録した。
彼らはメジャーになり、信二は父親と再会する事も出来た。

僕のほうもそれがきっかけでこの詩が収められている詩集が売れ始め、本屋で平積みされるようになった。

サイン会で各地の大きな書店を回った。
その日訪れた本屋のPOPにはこう書かれていた。


なぜめぐり逢うのかを私たちはなにも知らない。
いつめぐり逢うのかを私たちはいつも知らない。


僕は惹かれた。
このPOPに。
このPOPを書いた人に。

どういう想いでこれを書いたんだろう?
どういう人物がこれを書いたんだろう?

たった二行の文章で僕はその人にめぐり逢う運命なのだと感じた。
きっとこのPOPを書いた人物はこの詩集を1mmのずれもなく理解してくれている。
きっとこのPOPを書いた人物はこの詩集を心から愛してくれている。

だからこんなにもこの詩集の為にだけ生まれてきたような言葉を綴ってくれたのだ。

僕はこのPOPを書いた人物と是非会いたいとお願いをした。

「こちらのものが担当者です」と紹介された。
そこには涙を流すめぐみちゃんがいた。



逢うべき糸に出会える事を
人は仕合わせと呼びます



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