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恋しい小説コミュのワタユメ…7

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7 一周したら…


「あっ、はいッッ」
ドキドキに負けないぐらいの声が出た。
ぅわぁぁぁ…別の意味で恥ずかしいよ。
「西藤君。彼女、知ってるの?うわぁ、ホントに?西藤君が、誰かを覚えてるなんて、びっくり。 記憶力はいいはずなのに、人の顔は覚えない癖、あったじゃない?治したのね、うんうん」
「先生…。人聞きの悪い言い方、やめて頂けます?」
「…麻生さん。悪いことは言わないわ、早く行きなさい。みんなが待ってるわよ」
「ひっヒドイ…。教え子をそんな風に言うなんて」
「あのね…」
「そっそうです、先生。この方は、すごくすごくいい方です。3年前、ひとりであたふたしてる私を助けてくれたんです」
「えっ?」
「あっ麻生さん?…かなりびっくり。麻生さんのこんな声、初めてかも!3年、かぁ。…そうだわ。一緒に周ってきたら?西藤君なら、任せられるわ。OBイチ文化祭をこよなく愛してることだし」
『一緒に周ってきたら?一緒に周ってきたら?一緒に周ってきたら?』
先生の、衝撃的な言葉が、頭を何週もしてる。
ドキドキと追いかけっこ。
ちょっちょっ…ちょっと待って。
ぜぜぜ、絶対に…ダメ。
こんな状態じゃ、バレちゃう!
でも、願ったり叶ったりってこういうこと。
そのために来たんだし。
あぁー、どうしたらいいのぉ?
色んな思いが、言ったり来たり。
声には出てないものの、ちゃんと顔に出てたみたいで…。
「先生。こんな可愛いコ、困らせちゃダメだよ。彼氏と来てるんだよね?」
!!!ちっ違う。来てない。ひとり…。
ブンブンブンブン。
首を横に振るのが、精一杯。
出て欲しくない方が、前面に出て、声なんて出ないよ。
「じゃあ、お友達と」
ブンブンブンブン。
「じゃあ、…僕じゃあ不服とか」
ブンブンブンブンブン。
思わず1回増やしたぐらい、力強かった。
「不服どころか、光栄です」
…言えたら、どんなにいいだろう。
はぁぁぁ…。
「そう言う西藤君の方が、困らせてるわよ。いちいち聞かないで、オトコだったらエスコートしてあげなさい。それぐらいは、できるでしょ?」
えっ、えっ、えぇーッッ。ウソウソ、ウソーッッ。
「じゃあ、後でね」
えっ?せっ先生、行かないでーッッ。
先生の後姿に無言の声。
それに重なるように聞こえた、私の名前。
「じゃあ、周ろうか?アソウさん」
「…えっ?」
ふたりきりになって、
名前を呼ばれて、
出たのは…。
またまた変な声。
せっかく会えたのに。
会いに来たのに。
どうして、私ったら…。
「遠慮しないで、言ってね。僕と周らないといけないわけじゃないし。こんなことまで、先生の言うこと聞くこともないよ」
変わらない笑顔が、聞きたくない言葉を紡ぐ。
違う…。
そうじゃない。
そう…。
「ちっ違うんです。名前、呼ばれたから」
ホントは色んなことが混じってのことだけど、
きっとコレが一番。
私は一度も、名前を言ったことがない。
「先生が何度も言ってたし、違った?『…アソウさん。悪いことは言わないわ、早く行きなさい』って」
ぅわっ。にっ似てる。すごく…クスッ。
今日初めて、笑顔が出た。
学生時代、
『笑顔のハル』
なんて言われてたけど、コレはぜんぜん違う。
笑おう。
なんて、思ってない。
「やっと笑ってくれた。今の似てたでしょ?得意なんだ、モノマネ。先生は最後まで、お気に召さなかったけどね」
ニシフジさんの笑顔も、ちょっと変わった気がした。
あの時の、
最後の笑顔。
一緒に貰ったキャンディーの甘さとそっくりの。
「下の名前、聞いてもいい?」
「ハルです。カタカナでハル。麻生は、麻に生まれるって書きます」
「麻生ハルちゃん。可愛い名前だね。麻に包まれ生まれたハル。その通りだね」
かぁぁぁ。
「ハル」って名前、誉められたのは初めてじゃない。
むしろ、言う度に褒めてくれる。
カタカナってトコが、特にイイらしい。
でも。
こんなにも嬉しいのは、初めて。
スキな人に誉められた一番が「名前」だなんて。
すごくすごく、嬉しいよ。
だって、この名前は…。
「そうだ!オレの名前もだね。ニシフジヤスフミ。漢字はね…」
そう言って、
私の左手を支え、
私の手のひらに、
ニシフジさんの右の人差し指が、
ふっ触れた!
きゃぁぁぁ。
「東西の西に、花の藤。安心の安に、歴史の史。…どう?」
「…」
即答なんて、出来ない。
もう沸騰間近状態。
ピーって、音が出そう。
「ハルちゃん?」
………きゃぁぁぁぁぁぁ。
「…あっ、ははははいッッ」
返事の勢いに任せ、スッと手を引いた。
これ以上は、ダメ。ダメ!ダメ!!
オマケに、「ハルちゃん」だよ?
もう真っ赤なのを通り越して、どうなってるか怖いぐらい。
「…あの時と同じ。真っ赤なハルちゃん。行こっか?」
『あの時と同じ』
!!!ウソじゃなかった。
あの日の私を、覚えてくれてた。
3年も前のことを。
覚えててくれてた。
嬉しい。
ホントに嬉しい!
先生のおかげだけど、こうして一緒にいる。
そして、ずっとわからなかった名前まで。
こんなにシアワセでいいのですか?

「オレも、ここの卒業生。ハルちゃんのふたつ上」
「じゃぁ、あの時は遊びにいらしてたんですね。それなのに…ゴメンなさい」
「謝らないで。オレが勝手にしたことだし、楽しかったしね」
『楽しかったしね』。
西藤さんの言葉は、魔法のようだ。
ふんわりと包み込んでくれる、まるで綿菓子のように。
「ノド、渇いたよね?あそこで買ってくるから待ってて」
「えっ…あのっ、だ…」
断る間もなく、人ごみに消えてしまった。
人ごみの中から、風景が広がる。
文化祭独特の屋台。
今年のコたちも、けっこうガンバってるみたい。
西藤さんにしかなかった視野に、楽しげな光景が加わる。
そうだ。
今日は、文化祭に来てたんだ。
「お待たせ。オレンジジュースで、良かったかな?」
「はい。私スキです。オレンジ」
右手にあった、カワイイカップに入ったオレンジジュース。
私の両手にすっぽり入る。
太陽の光を受けて、キラキラしてる、オレンジ色。
…あっそうだ。お金。
「あのっ。おいくらでした?」
「いいよ。オレの奢り」
「だっダメです!奢って頂く理由なんて…」
一緒にいるだけでシアワセ。
それだけでいい。
「年上だし…」
「関係ありません!払います。払わせてください」
可愛くないほど意固地になっていると。
「…ぅうーん。じゃぁ、あそこのケーキ食べない?美味しそうだったよ。オレ、こう見えて、甘いのスキなんだ」
お金ではなく、
ケーキの要求。
「3年前、食べ損ねちゃったし。ハルちゃんのトコのカフェのケーキ」
笑顔の西藤さんに、泣き顔を返しそうだった。
嬉しくて、
ホントに嬉しくてシアワセ過ぎて。
「はい。じゃぁ、買ってきます」
「待って。一緒に行こう」
「はい」
どんどんスキになる。
でも…。
どうすれば、この思いを伝えられるの?

オレンジジュースとケーキと西藤さん。
私のスキが、集まってる。
オレンジジュースがスキ。
ケーキがスキ。
こんなにも簡単に言えるのに。
どうして一番の、
西藤さんがスキ。
は、言い出せないんだろう。
思うだけで、ドキドキして。
酸素が、足りなく感じて。
どうにかなってしまいそう…。
「ハルちゃんは今、何をやってるの?大学生?」
「いいえ。お勤めです。事務のお仕事をしてます」
「じゃぁ、オレより先輩?」
「そっそんな!3年目ですけど、まだまだです」
「…アレも美味しそうだなぁと思って、奢って貰おうと思ったのになぁ。先輩に」
「えっ?」
「ウソウソ。ハルちゃんが欲しいなら、オレが奢るよ」
ポンポン。
笑いながら、大きな手が、私の頭を撫で叩く。
今のは、
嬉しい反面、ちょっと悔しい。
お子様扱い、受けちゃった…。
「おっ奢りますよ?私、お勤め先輩ですから」
なので、反撃してみた。
私自身、ビックリ。
受身の私が、前に出てる。
「じゃぁ、時間」
「時間…ですか?」
「そう。今度は外で会いたい…かな」
「………えっ?」
想像の範疇を越えた返事に、頭の中は真っ白。
「…ハルちゃんはやっぱりカワイイね。次、どこに行く?」
スッと立ちながら、ポツリ。
その時の、西藤さんの目線の先には、
私はいなかった。
「ハルちゃん。行こう」
でも、次の瞬間、満面の笑み。
私の瞳も、ちゃんと捉えた。
私が真っ白になってた間、
応えられなかった間、
さっきの…、
はぐらかされちゃった。

色んなことを話してたら、一周してた。
そろそろ終わる頃合い。
サヨナラをする時間。
「ハルちゃん。今日はありがとう。楽しかったね」
「はい。こちらこそ、お時間頂きありがとうございます」
お決まりの言葉。
さっきまでが、急に遠く感じ出す。
この後は…帰るんだよね。
…みんななら、どうするんだろ。
「ハルちゃん…」
「…」
「帰る」と言う答えを出しながらも、わかっていそうでわからない答えとが混じって、頭の中がまとまらない。
「また、会えるかな?」
「…あっあの、私…かっ帰ります。今日はありがとうございました」
『また、会えるかな?』の応えに、『帰ります』と返していた。
「はい」って、
言えなかった。
『…祭はもうすぐ終了します。生徒の皆さんは…』
執行員の声が、校内を響かせる。
私の背中を、外に追い出す。
逃げるように、後にした。



      →ワタユメ…8へ続く
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