キョンシー･ホラーコミュの【コラム】The Tragedy of "MOMOTARO"～悲劇の"桃太郎"･林小樓伝奇～

『幽幻道士』のパート１と２の間にキン･コウ･フィルム(金格影藝)で制作され､台湾で大ヒットを飛ばしたのが､『新桃太郎』(87年)です。
タイトルを見てをわかる通り､日本人なら誰でも知っている代表的な民話を大胆にアレンジし､アニメ合成やワイヤー･アクションをふんだんに取入れたＳＦアクション･ファンタジーに仕上げました。その斬新な世界観とハイテンションなアクションシーンは観客に強烈な印象を残し､シリーズ化されて日本でも全作が小規模ではありますが劇場公開後､ビデオ化に至っています。
監督は『幽幻道士』パート１のチャオ･ツォン･シン(趙中興)､キャストもテンテンちゃんことシャドウ･リュウ(劉致妤)が元ネタにはない妖精役で登場するほか､キン･トー(金塗)､チェン･ツーチャン(陳子強)､パン･サン(胖三)など『幽幻道士』に出演したメンバーが大挙参加しています。なかでも『幽幻道士』での親方役とは正反対の悪役で､別人のような特殊メイクと迫力のアクションで場をさらうホァン･ヂョンユィ(黄仲裕)は印象的です。

『新桃太郎』ノーカット日本語版動画↓

そして､主役の桃太郎に扮したリン･シャオ･ロウ(林小樓)は､元々子役出身で本作にて久々の映画出演を果たした当時20歳の新進女優でした。彼女は大ヒットを機に一挙に売れっ子となり､愛らしいルックスと幼少時から培った京劇仕込みのアクションで続々と映画主演を重ねていきます。しかし､そんなリン･シャオ･ロウの前には数々の苦難が立ちはだかります。
彼女が映画主演で得た多額のギャラを両親がギャンブルに使い込み､家庭は崩壊寸前の状況に。80年代末には､今や国際派女優となったミシェル･ヨー(楊紫瓊)や｢霊幻道士｣シリーズでおなじみとなったムーン･リー(李賽鳳)らの台頭による折からのアクション女優ブームに乗り､満を持して香港映画界へ進出。ユン･ピョウ(元彪)やチャウ･シンチー(周星馳)ら香港スターと共演したものの､さしたる評価を得ることはかなわず､傷心のうちに台湾へと戻ります。

そして…､2005年12月に台湾で国民的な人気を誇る女性タレント､バイ･ピンピン(白冰冰)がＭＣを務めるトークバラエティにて､ゲストで登場したリン･シャオ･ロウが20代初めのある時期､３人の暴漢による性犯罪の被害に遭っていたことを涙ながらに独白した回(画像中)は､視聴者に大きな衝撃を与えました。
白冰冰といえば､日本にも大変縁の深い台湾のタレントのひとりで､自らも1997年に当時17歳だった愛娘を誘拐殺害されるという悲痛な過去を経験しています。そんな彼女の番組でのリン･シャオ･ロウの独白は､台湾国内から"勇気ある女性"として多くの反響と称賛の声が集まりました。これを機に彼女も性犯罪に対する社会活動や､メッセージ性の強い番組にも参加していくことが増えていきます。

一方､女優としては香港映画界での挫折はあったものの､台湾に戻ってからジャッキー･チェン(成龍)も出演したオールスター大作を掛けているヒットメーカー､チュー･イェンピン(朱延平)監督の作品に起用され､コメディエンヌの才能を開花させ新境地を開拓。さらにやはり国際派スターとして活躍するカネシロ･タケシ(金城武)との共演作では､キスシーンも披露するなど､演技派女優として地位を確立しています。
90年代後半からＴＶドラマに活躍の場を移し､台湾のローカル色あふれる作品に年に２～３本のペースで出演。同時にトークバラエティにも頻繁に顔を出すようになり､時には歯に衣着せぬ発言も辞さない語り口で"小樓姐(シャオロウ姉さん)"と呼ばれるアネゴ肌のキャラとしてお茶の間でも人気を博しています。ただ一時期日本でも人気を博した"華流"と呼ばれる若者向けのドラマには､｢True Loveにご用心｣(2011年､動画配信サイトなどで視聴可)のゲスト出演程度しか参加しておらず､彼女の活躍が日本で充分に伝わっていないのが惜しまれます。
近年は歌手としての活動も目覚ましく､自身の持ち歌こそないものの､公開収録のステージショーや台湾各地の観光名所で開催される祭事のステージにも招かれ､見事な歌声で流行歌(日本で言う演歌や歌謡曲)を披露しています。

リン･シャオ･ロウが『新桃太郎』にて演じた"桃太郎"の演技は､台湾大衆の記憶に深く刻まれており､現在でも彼女がステージやＴＶに登場すると｢桃太郎!｣の声援が飛び､トークバラエティでは当時のエピソードを披露する機会も少なくありません。
そして美貌と共に､演技､アクション､歌､トーク全てをこなせる希少なマルチタレントとして､リン･シャオ･ロウは現在も台湾芸能界で精力的な活躍を続けています。
彼女はまた『幽幻道士４』の宣伝で来日して以来､大の親日家でもあり､プライベートでは何度も日本に訪れています。

というワケで今回､作品トピでは彼女の"キョンシー･ホラー"主演作である『幽幻道士４』､『妖魔伝』､そして『チャイルド･ゴースト』の３本を取り上げて参ります。
｢幽幻道士｣シリーズは知名度の高さから､当コミュではあえて作品トピックは立てていませんでしたが､実質"テンテンちゃん"のシリーズだった第１～３作とは明らかに趣の異なる"番外編"的な展開の為､あらためてトピックを立ててご紹介していきます。

コメント(7)

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[1] mixiユーザー 09月28日 11:58

今回は､リン･シャオ･ロウ(林小樓)の映画初出演作『鄉野人/The Orientation』(80年､未公開)をご紹介します。
といっても､管理人も詳しいところは分りかねるのですが､国民党政府寄りの映画会社で制作された文芸映画のようで､カンフー･アクションもあるなどエンタメの要素も盛り込まれた作品になってるようです。キャストには日本公開作に主演した俳優もいて､なかなか豪華なのも眼を惹きます。
この映画に子役として出演した林小樓は､その演技で台湾のアカデミー賞と呼ばれるゴールデン･ホース賞で"最優秀子役スター賞"を授賞するのです。

『鄉野人/The Orientation』フル動画。かなり貴重です↓
https://www.youtube.com/watch?v=cm9Ii1xHV7o

[2] mixiユーザー 05月04日 22:41

今年2月に放送された､台湾で国民的人気を誇る女性タレント･白冰冰がMCを務めるバラエティー番組｢冰冰Show｣にリン･シャオ･ロウ(林小樓)がゲスト出演した回の動画です↓

この回では､リン･シャオ･ロウともうひとり『新桃太郎』で魔女ボロボロに扮していた孔龍(当時は林光榮)も登場し､台湾アクション映画の様々な裏話のほか､流行歌の歌唱も披露しています。
孔龍こと林光榮といえば…､TV｢来来! キョンシーズ｣で尚智演じる長三道士の元ネタともなった､『幽幻道士』パート１＆２に登場したキョンシー隊を率いる道士役が何と言っても印象的です(画像左)。コミカルな芝居のなかに見せる俊敏なアクションも眼を惹きましたし､パート２における四色泥沼法術での壮絶な最期も強烈でした。
今回管理人も初めて孔龍こと林光榮氏の素顔でのトークと歌を見たのですが､番組中でも吐露しているように70年代初頭から台湾映画界でスタントマンやからみ役･そして武術指導としても活躍していました。｢幽幻道士(キョンシーズ)｣シリーズや『新桃太郎』以外にもこのコミュニティで紹介している作品のいくつかにも出演しています。それ以外でのからみ役で日本でも比較的有名な作品というと､若き日のジャッキー･チェン(成龍)が台湾で主演した『カンニング･モンキー天中拳』(78年､画像中)が挙げられます。ワンシーンのみですが､ジャッキーを小馬鹿にしつつ返討ちに遭ってしまう1人として顔を出しています。

MCの白冰冰は､トピックのTOPでもご紹介している通り､互いに日本との縁や悲痛な体験を経るなど共通項も多いことから､リン･シャオ･ロウを妹のように気遣っていることが画面からも伝わっています。ふたりは同じ20歳で来日して､日本で大々的なデビューが図られるも頓挫したりなど､日本がらみの経緯が酷似しているんです。白冰冰は､日本でアイドル歌手扱いでデビューし(画像右参照)､その後劇画界の大物と結婚･離婚後台湾へ戻ってくるんですが､その時日本で学んだステージ演出を現地に持込んで､大人気を博すことになるのです。実際彼女は現在も日本語の歌を流暢に披露しますし､この番組のOPでも日本語を交えたコミカルなダンスを見せていますね。

[3] mixiユーザー 05月06日 22:55

>>[2]

この4人組の一番右端がカンニングモンキー天中拳での林光榮ですよね！？

劇中14分くらいから。ジャッキーが夢の中でこの4人組と乱闘になるシーン。一瞬負けかけるも、そこらへんに生えてる草（ほうれん草？？）を食べると突然ポパイのテーマが流れて息を吹き返して4人組を返り討ちにするという（笑）

[4] mixiユーザー 05月12日 19:08

>>[3]
コメントありがとうございます。
仰る通りです。よくおわかりになりましたね! まさにこの場面です。

動画もあったので挙げときました(笑･冒頭から25秒位まで)

余談になりますが､挙げて頂いた画像で､右端の林光榮の左隣と､左端にいる2人の男性は､当時ジャッキーが台湾で組んでいたアクション･チームのメンバーなんです。
ジャッキーのアクション･チームといえば､彼が80年代にゴールデン･ハーベスト入りした後のマース(火星)やタイ･ポー(太保)を想い出す方が多いと思うんですけど､実際にはそれより前の台湾時代既に別のメンバーで結成されていたんですね。ただその事実はこれまで大きく取り上げられることはありませんでした。近年ジャッキーが久々に台湾で主演作のロケを行い､その際最初にアクションチームを組んだメンバーと再会したことが話題となって(画像左参照)彼らの存在がクローズアップされ､彼らは正式にジャッキー･アクション･チームの第1期と認められるに至ったのです。当時その近くで彼らの活動を見ていた林光榮もまた､歴史の目撃者だったということが言えます。
ちなみに､林光榮は番組の後半で『天中拳』とは別のジャッキー映画に関する話をしてますね。『ドラゴンロード』(82年､画像右)です。林光榮は『ドラゴンロード』の撮影時ジャッキーとのアクションで誤って顔に蹴りを当ててしまったという話をしているようですが…､実際の本編にはジャッキーと林光榮のからみは出てこないんですね。ただ…この撮影の際ジャッキーは膨大な量のフィルムを回し､台湾中のスタントマンやアクション俳優を呼び集めて長期のロケ撮影を行ったようですから､当然林光榮も呼ばれてジャッキーとからんだのかもしれないですけど…､残念ながらカットされたかもしれないです。