いざかや　末（すえ）コミュの夏に向けて

リバウンドを制するものはゲームを制す。

兄貴はリバウンドの道をひたすら走り続ける。
どこまでいくのか、それともとまることができないのか。
本人も知る由もない。
ただ、ただ、道を走り続ける。リバウンドという道を。

「太った！！」
といづみちんに言われた。
「わかんない。体重計乗ってないから・・・」と言いかけて
「あたしです」と言った。

いづみちんはスリムビューティーなレディなのだが、もっと華奢でいたいらしい。
「いいじゃん」というと
「あたしがいやなんです」と断固として譲らない。

私は最近「続ける」ということに飢えていた。
何一つ続けていない。
「毎朝砂糖なしのカフェオレを飲んでいるんだ」と
以前お客様のともぞうさんが言っていた。

私は「へえ」と思った。

そんな習慣すらもない。

「僕はどんなに遅く帰ってもジムに行って汗を流しているんだ」と
ある、お客様が話してくれた。

いいなあ。そういうの。

私も一応、元体育人だ。
脳みそが筋肉だとか言われた時代が懐かしい。
今じゃ、ろくにジャムの蓋すら開けられない。

というわけで、決めた。

毎日筋トレをやる。
メニュー：足上げ腹筋20階　もしくわ　三角形の腕立てを10回

「少なくない？」
「いいんです！！毎日続けることに意味があるんです」

一番力のないいづみちんが言った。
継続は力なりだな。いづみちん。

私は営業が終わって今日の分を終わらせてしまおうとカウンターの一席に
座ってＶ字バランスからの足上げ腹筋をした。
みんなで決めた腹筋は仰向けからの足上げ腹筋だった。

「何してるんですか！！」と兄貴
楽しないでくださいと言わんばかりだ。

「じゃあ、やってみて」

そんなの簡単じゃないですか！と言わんばかりに
カウンターの一席に兄貴が座った。
そして上半身と下半身のバランスを取りながらＶ字バランスをした。

いや、しているつもりらしかった。
しかし、私の目には
おっさんがちょっとつらい体勢で横になっている、感じだ。

「一体、何をしているんですか？」
兄貴の上から見下ろして言った。
兄貴は私の質問に憤ったのか、それとも体勢の苦しさからか
見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。

「顔真っ赤だよ」
面白いのでしばらく見ていると、どんどん下あごが前にでてきた。

「下あご！下あご！！」（引っ込めて）と注意すると

「ブヒっ」と豚っ鼻をヒト鳴らしさせた。

豚っ鼻が限界の合図だった。
苦しそうな兄貴。

「よく鳴るんです（豚っ鼻）」と兄貴がカミングアウトする。

「全然っっＶになってない！！」と私が叱ると
「体が固いんです。それ以上いかないんです！！」と言った。

「じゃあ、腹筋もできないじゃないですか！！」と私が言うと
「はい、足を持ってもらう腹筋はできないです」と兄貴が言った。

「やってみて」と私がまた言うと、「はい」と言ったので私が
足を押さえた。

「いきますよ」と勢いよく腹筋を一回した。
確かにとても苦しそうに上体を起こした。

「三橋さん」

「はい」

「ズボンのチャックがあいてます」

今日も相変わらず社会の窓が全開だった。

すると兄貴が「ブヒ」と返事した。

おしまい。