佐川盆地は、仁淀川支流の柳瀬川流域に広がる標高約80ｍの地ですが、南北5ｋｍの間に、シルル紀（約4億3000万年〜）から白亜紀（約9800万年〜）までの約3億年分の地層が見える珍しい場所で、200ｍ進むだけで地層の年代が1億年違う地点もあります。また、蔵法院層（三畳紀中期）、川内ヶ谷層群（三畳紀後期）、鳥ノ巣層群（ジュラ紀〜白亜紀前期）という日本の地層分類の標準となっている地層名には、佐川の地名が付けられています。
また石灰岩地帯の鍾乳洞である不動ヶ岩屋洞窟遺跡と城の台洞穴遺跡からは縄文草創期の土器や石器が発見されており、太古から開けた土地だった事が明らかです。縄文後期の太田川遺跡からは石錘(ｾｷｽｲ)が出土しており、柳瀬川で淡水網漁が行われていた事も判ります。
不動ヶ岩屋洞窟遺跡からは弥生時代後期の遺物も発見されており、10000年近くに亙って住居として利用されていた訳です。町内に古墳は存在しませんが、古墳時代の集落遺跡は確認されています。
律令時代になると土佐国吾川(ｱｶﾞﾜ)郡の一角を成すようになりましたが、承和８(841)年に高岡郡が吾川郡から分離すると、高岡郡に属する事となりました。平安後期には吾川山荘や別府八幡荘等の荘園が成立していたとの史料もありますが詳細は不明です。
鎌倉時代には黒岩氏が在地領主となっていたようですが、南北朝時代には佐川氏と度鹿野(ﾄｶﾉ)氏が南朝方として史料に登場し、佐川四郎左衛門入道が柳瀬川支流の春日川北方に聳える標高202ｍ(比高120ｍ)の松尾山に松尾城を築いて拠点としていました。また、南朝の土佐守護代河間光綱が佐川の庄田を本拠にしていたとの説もあります。
佐川四郎左衛門入道は文和２(1353)年までには足利幕府に服属したようですが、その子息が尚も南朝方に与していた関係で、土佐守護細川氏の被官化は頑なに拒んでいました。このため、応安４(1371)年に管領・土佐守護の細川頼之の命で上洛した四郎左衛門は侍所の軍勢の討伐を受け、土佐へ逃げ帰っています。その後も佐川氏は頻繁に守護細川氏に歯向かったため、幕府の命を受けた周辺国人層の攻撃を受けましたが要害堅固な松尾城は持ち堪えています。
戦国時代になると、佐川氏の子孫と称する中村氏が松尾城に拠って、黒岩の片岡氏・尾川の近沢氏・斗鹿野(ﾄｶﾉ)の米森氏等と競い合っていました。またこの頃から松尾城下は佐川郷と呼ばれるようになった模様です。
中村氏は永正年間(1504〜21)に土佐七守護の一員である高岡郡蓮池城主大平氏に属したようですが、やがて長岡郡岡豊(ｵｺｳ)城主長宗我部氏と結んだ片岡氏が高岡郡で勢力を伸ばし、その手引きを受けた長曾我部元親が元亀２(1571)年に西進して来ると、中村越前守信義は降伏、元親は筆頭家老久武内蔵助(ｸﾗﾉｽｹ)を城主にしたという。しかし、松尾城は水の便が悪かったため、天正元(1573)年頃、久武内蔵助は松尾城西方の柳瀬川と春日川に挟まれた標高200ｍ(比高160ｍ)の山上に佐川城を築いて居城を移しました。
天正13(1585)年、長曾我部元親が関白豊臣秀吉に降伏して土佐一国のみを安堵されると、天正17(1589)年から翌年にかけて太閤検地が実施されますが、久武氏の所領は佐川郷・斗鹿野村等に限定され、佐川盆地の大半は黒岩城主片岡氏の支配下にあり、黒岩は城下町として発展しつつありました。また、旧松尾城主中村氏も佐川郷近辺に散在的な所領を確保していました。
しかし、慶長５(1600)年の関ケ原合戦によって長宗我部盛親が改易されると、佐川盆地の有力国人層も国外退去を余儀無くされ、慶長６(1601)年に土佐国22600石を与えられた山内一豊の筆頭家老深尾重良が10000石の佐川城主として乗り込んで来る事となったのです。
佐川盆地のうち黒岩地区を除く大半が深尾氏の所領となりましたが、元和元(1615)年の一国一城令によって佐川城は破却されてしまい、その東麓の磐井谷に政庁として佐川土居が設けられました。土居の門前には深尾家家臣の居住する家中町があり、その西方の山麓沿いに３筋の町人町が設けられ、家中町と町人町の主要部を合わせた街区は「御郭内」と呼ばれました。佐川領の村は18で、村高は7830石余でした。
深尾重良は藩主山内一豊の弟である康豊の三男重昌を養子にしていましたが、寛永７(1630)年に家督を譲って隠居し、重昌が佐川領を継承しました。重昌は藩内保守派の巨頭として奉行野中兼山が進める藩政改革には反対の立場を取っていました。
寛文２(1662)年、重昌は嫡男重照に所領を譲って隠居しますが、翌年、重照と共に野中兼山を弾劾する三箇条の訴書を甥の藩主山内忠豊に提出、兼山を失脚させる事に成功しています。
重照時代の貞享４(1687)年に作成された『佐川御家来分限帳』によると、佐川家臣団は御士237人・女中22人・足軽９人・下々200人の計468人となっています。
重照は元禄２(1689)年に没しますが、嫡男の重次は先立って没していたため、孫の重方が嫡孫承祖しました。土佐藩は、家老を大頭とする馬廻組12組が戦闘部隊の中核を成していましたが、佐川組は元禄初年の馬廻組の構成・装備に於いて、騎馬30・侍分57・雑兵423・鉄砲90となっており、侍分や鉄砲の数が他組より多い総大将の地位を占めていました。
深尾氏は領民に対し、死罪を含む重罪裁判権を認められており、里分９ヶ村・山分９ヶ村の生産力が土居下の町人町へ集中するように構成されていました。土居下の町人町は高岡郡・吾川郡北部地方に於ける唯一の町場集落で、その商圏は佐川領外にも及んでいました。そして、特権的豪商である御目見町人の営む酒造業と絹織物が盛んで、特に佐川絹は良質な特産品として有名でした。土居下からは、佐川盆地北部を通る松山街道に至る往還が通じ、南方の須崎や東南の高岡(現土佐市)へ通ずる道も整備されていて交通の要衝となっていました。
深尾重方は、領主となるとすぐに藩内の高名な儒学者である谷秦山を佐川に招いて家臣に講義を受けさせ、元禄８(1695)年に伊藤東涯門下の儒学者江田成章を儒臣として登用するなど、学問を奨励しました。
ところが重方は、宝永３(1706)年に第５代藩主山内豊房が重体に陥った際、軽症とのデマを信じて、藩主の死の前日も平常の行動を取ったため、６代藩主山内豊隆から咎められて筆頭家老職を免ぜられ、平家老に准ずる待遇に格下げされてしまいました。このため、重方は息子の繁峯(ｼｹﾞﾐﾈ)に家督を譲って領内鷺州に蟄居し、以来26年間も屏居を続けて享保16(1731)年に没しました。
深尾繁峯は父と同じく学問に熱心で、地元佐川の出身であった儒学者富永惟安を招き儒臣として登用しましたが、元文５(1740)年には長者村で村役人に対する不満から訴訟・逃散(ﾁｮｳｻﾝ)に至る村方騒動が起きています。なお、繁峯時代の延享３(1746)年当時の町分は168軒・686人でした。
宝暦元(1751)年には長者村を含む山分９ヶ村で一揆が起こり、里分庄屋を含めて処分が行われました。これは土佐藩内に於ける最初の大規模一揆でした。
繁峯は宝暦２(1752)年に没し、養子の茂澄(ｼｹﾞｽﾞﾐ；重照の玄孫)が跡を襲いました。茂澄時代の宝暦11(1761)年に於ける町分は204軒・809人で、15年前より町分が拡大・発展している状況が判ります。
茂澄は、宝暦13(1763)年に財政改革を実行、安永元(1772)年には儒臣として山本日下を登用し、家塾名教館を創設するなど文教政策に尽力した後、寛政11(1799)年に隠居して家督を嫡男の繁寛(ｼｹﾞﾋﾛ)に譲りました。
深尾繁寛は、享和２(1802)年に家塾の名教館を拡張して郷校とし、山本日下の子である玉岡を学頭としています。後に名教館からは儒学者伊藤蘭林の指導の下、宮内大臣田中光顕伯爵(1843〜1939)や植物学者牧野富太郎博士(1862〜1957)等の人材が輩出される事となります。
繁寛は文化６(1809)年に没し、息子の重世(ｼｹﾞﾖ)が第８代佐川領主となりましたが、文化９(1812)年に28歳で死去してしまい、弟の重教が家督を相続しました。
深尾重教は、天保元(1830)年に郷校名教館の校舎を長州藩明倫館を模して領内菜園畑に改築しています。また、当時、土佐沖には頻繁に異国船が出没していたため、江戸で旗本の洋式砲術家下曽根信敦に入門して自ら砲術を学び、家臣の那須橘造を長崎に派遣して高島秋帆に砲術を学ばせ、家臣の恩田忠三郎らと図って洋式の大砲を建造するなど、海防政策に尽力しています。
重教は、ペリー来航直後の嘉永６(1853)年11月に死去しましたが、嫡男の重愛(ｼｹﾞﾖｼ)が幼かったため、弟の重��の子である重先(ｼｹﾞﾓﾄ)が養子となって家督を相続しました。然るに、藩主山内容堂が参政に起用した吉田東洋の政治改革の影響で家老職継承は認められなかったのです。
安政２(1855)年に東洋が失脚すると深尾重先は漸く奉行職に任じられましたが、安政４(1857)年に東洋が参政に復帰して本格的政治改革を開始すると、藩政の中央集権化を目指した東洋は深尾家の領民賞罰権を剥奪してしまいました。
これに猛反発した重先は土佐勤王党に接近したため、佐川領内では田中光顕等の勤王党が跳梁跋扈する事となりました。この結果、万延元(1860)年に重先は東洋から蟄居を命じられ、重愛が家督を相続しました。ところが、文久２(1862)年に東洋が暗殺され、土佐勤王党の武市半平太が藩の実権を掌握すると、重先は処分が解かれて復職、重愛は佐川領継嗣の地位に戻っています。
文久３(1863)年に老公山内容堂による土佐勤王党弾圧が開始されると、深尾重先は佐幕派へ寝返って容堂に取り入り、側近として重用される事となりました。
その後、慶応３(1867)年に大政奉還が行われると、容堂は重先を伴って上京、重先は板垣退助等の藩内討幕派の懐柔に尽力します。しかし、慶応４(1868)１月に鳥羽伏見の戦いが勃発すると、板垣等の暴発を抑える事が出来ず、容堂と共に倒幕へ舵を切らざるを得なくなりました。
なお、慶応４年当時の佐川家臣団は、騎馬1302人・下分譜代家来1472人・一季抱ノ者36人・郷士468人・本藩から預かった郷士50人となっています。
鳥羽伏見合戦後、土佐藩には朝敵となった伊予松山藩征討の命が下りますが、その先鋒を務めたのが深尾重愛て、戦う事無く松山藩を恭順させる事に成功しています。
一方、同年２月に土佐藩兵がフランス帝国海軍水兵を殺傷する堺事件が起きると、深尾重先が容堂に代わって事を処しています。重先は同年３月に京師詰を命じられ、７月には参内して明治天皇に拝謁を許されており、権中納言・議定として国政に携わる容堂に代わり、重臣として藩主山内豊範を補佐、土佐藩の運営を委ねられたのです。重先は、明治２(1869)年６月の版籍奉還の際、自らを含めた藩内領主の所領を全て没収して高知城下に集住させる方針を決定、後の諸政改革にも功績を挙げましたが、明治４(1871)年の廃藩置県直前に隠居し、重愛に再び家督を相続させています。
深尾重愛は明治５(1872)年に死去し、家督を相続した嫡男の重孝は明治39(1906)年に至って、重先・重愛の功績により、男爵に叙されました。
さて、明治２(1869)年に佐川土居が廃された後、土居下の町人町は荒廃してしまい、廃藩置県後は高知県高岡郡佐川村となりました。
明治16(1883)年、東京帝国大学教授として招聘されていたドイツのハインリッヒ=エドムント=ナウマン博士が佐川を訪れ、地層調査を行いました。ナウマンは佐川の地層の豊富さに瞠目して、明治18(1885)年にも佐川を訪れて地層調査を行い、佐川の地名に由来する「鳥の巣石灰岩」の命名等を行いました。この結果、佐川は「地層のメッカ」として世界中の地質学者に名を知られる事となったのです。
自由民権運動が起きると、佐川は土佐自由党の拠点の一つとなり、大選挙干渉が行われた明治25(1892)年総選挙の際には、須崎や半山から乱入して来た政府支持派との間で大規模な流血乱闘が発生しています。
経済面では、佐川村は藩政時代からの伝統である製糸業や酒造業が引き続き行われており、明治33(1900)年に町へ昇格しますが、高岡郡・吾川郡北部地方の中心は次第に隣の越知町に移ったため、大正時代にかけて人口は減る一方となってしまいました。
宮内大臣となっていた田中光顕子爵は故郷の衰退を悲しみ、明治33(1900)年には佐川出身者のための麗澤舎を東京に設立、大正３(1914)年には蔵書１万数千冊や明治天皇からの下賜品を故郷に寄付して青山文庫の原型を創設しています。
大正初年、高知市から西方へ延伸されつつあった省線土讃本線は、高岡経由の南線ルートと、佐川経由の北線ルートが候補に挙がっていましたが、起死回生をかけた佐川町は田中光顕伯爵の後援も受けて路線誘致にの尽力したため北線ルートでの建設が決定、大正13(1924)年に佐川経由で須崎までの延伸が実現しました。また、昭和10(1935)年には、佐川駅を起点とする省営バス予土線が開業したため、佐川は交通の要地としての役割を回復、これを活かして石灰工業が発展しました。
しかし、大東亜戦争後は高知県自体の過疎化が進展したため、2016年現在の佐川町人口は昭和時代より減少した12915人に留まり、状況は厳しいようです。
・佐川ナウマンカルスト
http://
・松尾城跡
http://
・佐川城跡
http://
＋青源寺庭園
http://
＋乗台寺庭園
http://
また石灰岩地帯の鍾乳洞である不動ヶ岩屋洞窟遺跡と城の台洞穴遺跡からは縄文草創期の土器や石器が発見されており、太古から開けた土地だった事が明らかです。縄文後期の太田川遺跡からは石錘(ｾｷｽｲ)が出土しており、柳瀬川で淡水網漁が行われていた事も判ります。
不動ヶ岩屋洞窟遺跡からは弥生時代後期の遺物も発見されており、10000年近くに亙って住居として利用されていた訳です。町内に古墳は存在しませんが、古墳時代の集落遺跡は確認されています。
律令時代になると土佐国吾川(ｱｶﾞﾜ)郡の一角を成すようになりましたが、承和８(841)年に高岡郡が吾川郡から分離すると、高岡郡に属する事となりました。平安後期には吾川山荘や別府八幡荘等の荘園が成立していたとの史料もありますが詳細は不明です。
鎌倉時代には黒岩氏が在地領主となっていたようですが、南北朝時代には佐川氏と度鹿野(ﾄｶﾉ)氏が南朝方として史料に登場し、佐川四郎左衛門入道が柳瀬川支流の春日川北方に聳える標高202ｍ(比高120ｍ)の松尾山に松尾城を築いて拠点としていました。また、南朝の土佐守護代河間光綱が佐川の庄田を本拠にしていたとの説もあります。
佐川四郎左衛門入道は文和２(1353)年までには足利幕府に服属したようですが、その子息が尚も南朝方に与していた関係で、土佐守護細川氏の被官化は頑なに拒んでいました。このため、応安４(1371)年に管領・土佐守護の細川頼之の命で上洛した四郎左衛門は侍所の軍勢の討伐を受け、土佐へ逃げ帰っています。その後も佐川氏は頻繁に守護細川氏に歯向かったため、幕府の命を受けた周辺国人層の攻撃を受けましたが要害堅固な松尾城は持ち堪えています。
戦国時代になると、佐川氏の子孫と称する中村氏が松尾城に拠って、黒岩の片岡氏・尾川の近沢氏・斗鹿野(ﾄｶﾉ)の米森氏等と競い合っていました。またこの頃から松尾城下は佐川郷と呼ばれるようになった模様です。
中村氏は永正年間(1504〜21)に土佐七守護の一員である高岡郡蓮池城主大平氏に属したようですが、やがて長岡郡岡豊(ｵｺｳ)城主長宗我部氏と結んだ片岡氏が高岡郡で勢力を伸ばし、その手引きを受けた長曾我部元親が元亀２(1571)年に西進して来ると、中村越前守信義は降伏、元親は筆頭家老久武内蔵助(ｸﾗﾉｽｹ)を城主にしたという。しかし、松尾城は水の便が悪かったため、天正元(1573)年頃、久武内蔵助は松尾城西方の柳瀬川と春日川に挟まれた標高200ｍ(比高160ｍ)の山上に佐川城を築いて居城を移しました。
天正13(1585)年、長曾我部元親が関白豊臣秀吉に降伏して土佐一国のみを安堵されると、天正17(1589)年から翌年にかけて太閤検地が実施されますが、久武氏の所領は佐川郷・斗鹿野村等に限定され、佐川盆地の大半は黒岩城主片岡氏の支配下にあり、黒岩は城下町として発展しつつありました。また、旧松尾城主中村氏も佐川郷近辺に散在的な所領を確保していました。
しかし、慶長５(1600)年の関ケ原合戦によって長宗我部盛親が改易されると、佐川盆地の有力国人層も国外退去を余儀無くされ、慶長６(1601)年に土佐国22600石を与えられた山内一豊の筆頭家老深尾重良が10000石の佐川城主として乗り込んで来る事となったのです。
佐川盆地のうち黒岩地区を除く大半が深尾氏の所領となりましたが、元和元(1615)年の一国一城令によって佐川城は破却されてしまい、その東麓の磐井谷に政庁として佐川土居が設けられました。土居の門前には深尾家家臣の居住する家中町があり、その西方の山麓沿いに３筋の町人町が設けられ、家中町と町人町の主要部を合わせた街区は「御郭内」と呼ばれました。佐川領の村は18で、村高は7830石余でした。
深尾重良は藩主山内一豊の弟である康豊の三男重昌を養子にしていましたが、寛永７(1630)年に家督を譲って隠居し、重昌が佐川領を継承しました。重昌は藩内保守派の巨頭として奉行野中兼山が進める藩政改革には反対の立場を取っていました。
寛文２(1662)年、重昌は嫡男重照に所領を譲って隠居しますが、翌年、重照と共に野中兼山を弾劾する三箇条の訴書を甥の藩主山内忠豊に提出、兼山を失脚させる事に成功しています。
重照時代の貞享４(1687)年に作成された『佐川御家来分限帳』によると、佐川家臣団は御士237人・女中22人・足軽９人・下々200人の計468人となっています。
重照は元禄２(1689)年に没しますが、嫡男の重次は先立って没していたため、孫の重方が嫡孫承祖しました。土佐藩は、家老を大頭とする馬廻組12組が戦闘部隊の中核を成していましたが、佐川組は元禄初年の馬廻組の構成・装備に於いて、騎馬30・侍分57・雑兵423・鉄砲90となっており、侍分や鉄砲の数が他組より多い総大将の地位を占めていました。
深尾氏は領民に対し、死罪を含む重罪裁判権を認められており、里分９ヶ村・山分９ヶ村の生産力が土居下の町人町へ集中するように構成されていました。土居下の町人町は高岡郡・吾川郡北部地方に於ける唯一の町場集落で、その商圏は佐川領外にも及んでいました。そして、特権的豪商である御目見町人の営む酒造業と絹織物が盛んで、特に佐川絹は良質な特産品として有名でした。土居下からは、佐川盆地北部を通る松山街道に至る往還が通じ、南方の須崎や東南の高岡(現土佐市)へ通ずる道も整備されていて交通の要衝となっていました。
深尾重方は、領主となるとすぐに藩内の高名な儒学者である谷秦山を佐川に招いて家臣に講義を受けさせ、元禄８(1695)年に伊藤東涯門下の儒学者江田成章を儒臣として登用するなど、学問を奨励しました。
ところが重方は、宝永３(1706)年に第５代藩主山内豊房が重体に陥った際、軽症とのデマを信じて、藩主の死の前日も平常の行動を取ったため、６代藩主山内豊隆から咎められて筆頭家老職を免ぜられ、平家老に准ずる待遇に格下げされてしまいました。このため、重方は息子の繁峯(ｼｹﾞﾐﾈ)に家督を譲って領内鷺州に蟄居し、以来26年間も屏居を続けて享保16(1731)年に没しました。
深尾繁峯は父と同じく学問に熱心で、地元佐川の出身であった儒学者富永惟安を招き儒臣として登用しましたが、元文５(1740)年には長者村で村役人に対する不満から訴訟・逃散(ﾁｮｳｻﾝ)に至る村方騒動が起きています。なお、繁峯時代の延享３(1746)年当時の町分は168軒・686人でした。
宝暦元(1751)年には長者村を含む山分９ヶ村で一揆が起こり、里分庄屋を含めて処分が行われました。これは土佐藩内に於ける最初の大規模一揆でした。
繁峯は宝暦２(1752)年に没し、養子の茂澄(ｼｹﾞｽﾞﾐ；重照の玄孫)が跡を襲いました。茂澄時代の宝暦11(1761)年に於ける町分は204軒・809人で、15年前より町分が拡大・発展している状況が判ります。
茂澄は、宝暦13(1763)年に財政改革を実行、安永元(1772)年には儒臣として山本日下を登用し、家塾名教館を創設するなど文教政策に尽力した後、寛政11(1799)年に隠居して家督を嫡男の繁寛(ｼｹﾞﾋﾛ)に譲りました。
深尾繁寛は、享和２(1802)年に家塾の名教館を拡張して郷校とし、山本日下の子である玉岡を学頭としています。後に名教館からは儒学者伊藤蘭林の指導の下、宮内大臣田中光顕伯爵(1843〜1939)や植物学者牧野富太郎博士(1862〜1957)等の人材が輩出される事となります。
繁寛は文化６(1809)年に没し、息子の重世(ｼｹﾞﾖ)が第８代佐川領主となりましたが、文化９(1812)年に28歳で死去してしまい、弟の重教が家督を相続しました。
深尾重教は、天保元(1830)年に郷校名教館の校舎を長州藩明倫館を模して領内菜園畑に改築しています。また、当時、土佐沖には頻繁に異国船が出没していたため、江戸で旗本の洋式砲術家下曽根信敦に入門して自ら砲術を学び、家臣の那須橘造を長崎に派遣して高島秋帆に砲術を学ばせ、家臣の恩田忠三郎らと図って洋式の大砲を建造するなど、海防政策に尽力しています。
重教は、ペリー来航直後の嘉永６(1853)年11月に死去しましたが、嫡男の重愛(ｼｹﾞﾖｼ)が幼かったため、弟の重��の子である重先(ｼｹﾞﾓﾄ)が養子となって家督を相続しました。然るに、藩主山内容堂が参政に起用した吉田東洋の政治改革の影響で家老職継承は認められなかったのです。
安政２(1855)年に東洋が失脚すると深尾重先は漸く奉行職に任じられましたが、安政４(1857)年に東洋が参政に復帰して本格的政治改革を開始すると、藩政の中央集権化を目指した東洋は深尾家の領民賞罰権を剥奪してしまいました。
これに猛反発した重先は土佐勤王党に接近したため、佐川領内では田中光顕等の勤王党が跳梁跋扈する事となりました。この結果、万延元(1860)年に重先は東洋から蟄居を命じられ、重愛が家督を相続しました。ところが、文久２(1862)年に東洋が暗殺され、土佐勤王党の武市半平太が藩の実権を掌握すると、重先は処分が解かれて復職、重愛は佐川領継嗣の地位に戻っています。
文久３(1863)年に老公山内容堂による土佐勤王党弾圧が開始されると、深尾重先は佐幕派へ寝返って容堂に取り入り、側近として重用される事となりました。
その後、慶応３(1867)年に大政奉還が行われると、容堂は重先を伴って上京、重先は板垣退助等の藩内討幕派の懐柔に尽力します。しかし、慶応４(1868)１月に鳥羽伏見の戦いが勃発すると、板垣等の暴発を抑える事が出来ず、容堂と共に倒幕へ舵を切らざるを得なくなりました。
なお、慶応４年当時の佐川家臣団は、騎馬1302人・下分譜代家来1472人・一季抱ノ者36人・郷士468人・本藩から預かった郷士50人となっています。
鳥羽伏見合戦後、土佐藩には朝敵となった伊予松山藩征討の命が下りますが、その先鋒を務めたのが深尾重愛て、戦う事無く松山藩を恭順させる事に成功しています。
一方、同年２月に土佐藩兵がフランス帝国海軍水兵を殺傷する堺事件が起きると、深尾重先が容堂に代わって事を処しています。重先は同年３月に京師詰を命じられ、７月には参内して明治天皇に拝謁を許されており、権中納言・議定として国政に携わる容堂に代わり、重臣として藩主山内豊範を補佐、土佐藩の運営を委ねられたのです。重先は、明治２(1869)年６月の版籍奉還の際、自らを含めた藩内領主の所領を全て没収して高知城下に集住させる方針を決定、後の諸政改革にも功績を挙げましたが、明治４(1871)年の廃藩置県直前に隠居し、重愛に再び家督を相続させています。
深尾重愛は明治５(1872)年に死去し、家督を相続した嫡男の重孝は明治39(1906)年に至って、重先・重愛の功績により、男爵に叙されました。
さて、明治２(1869)年に佐川土居が廃された後、土居下の町人町は荒廃してしまい、廃藩置県後は高知県高岡郡佐川村となりました。
明治16(1883)年、東京帝国大学教授として招聘されていたドイツのハインリッヒ=エドムント=ナウマン博士が佐川を訪れ、地層調査を行いました。ナウマンは佐川の地層の豊富さに瞠目して、明治18(1885)年にも佐川を訪れて地層調査を行い、佐川の地名に由来する「鳥の巣石灰岩」の命名等を行いました。この結果、佐川は「地層のメッカ」として世界中の地質学者に名を知られる事となったのです。
自由民権運動が起きると、佐川は土佐自由党の拠点の一つとなり、大選挙干渉が行われた明治25(1892)年総選挙の際には、須崎や半山から乱入して来た政府支持派との間で大規模な流血乱闘が発生しています。
経済面では、佐川村は藩政時代からの伝統である製糸業や酒造業が引き続き行われており、明治33(1900)年に町へ昇格しますが、高岡郡・吾川郡北部地方の中心は次第に隣の越知町に移ったため、大正時代にかけて人口は減る一方となってしまいました。
宮内大臣となっていた田中光顕子爵は故郷の衰退を悲しみ、明治33(1900)年には佐川出身者のための麗澤舎を東京に設立、大正３(1914)年には蔵書１万数千冊や明治天皇からの下賜品を故郷に寄付して青山文庫の原型を創設しています。
大正初年、高知市から西方へ延伸されつつあった省線土讃本線は、高岡経由の南線ルートと、佐川経由の北線ルートが候補に挙がっていましたが、起死回生をかけた佐川町は田中光顕伯爵の後援も受けて路線誘致にの尽力したため北線ルートでの建設が決定、大正13(1924)年に佐川経由で須崎までの延伸が実現しました。また、昭和10(1935)年には、佐川駅を起点とする省営バス予土線が開業したため、佐川は交通の要地としての役割を回復、これを活かして石灰工業が発展しました。
しかし、大東亜戦争後は高知県自体の過疎化が進展したため、2016年現在の佐川町人口は昭和時代より減少した12915人に留まり、状況は厳しいようです。
・佐川ナウマンカルスト
http://
・松尾城跡
http://
・佐川城跡
http://
＋青源寺庭園
http://
＋乗台寺庭園
http://
|
|
|
|
|
|
|
|
城下町 更新情報
-
最新のアンケート
-
まだ何もありません
-
