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日記ロワイアルコミュのそのひとを選んだ、人生が今はじまる

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「あなた、結婚式の前の日ぐらい早く帰ってきなさいよ」
「そんなこと言ってもしょうがないでしょ。仕事なんだから」
「仕事、仕事って。あなた女の子なんだから。
 そんなことじゃ、結婚してから俊之さんに迷惑かけちゃうよ」

残業を終えて帰ってきたわたしは、
玄関を開けると同時の母親とのこんなやりとりに、ようやく現実に戻された。

「今日が最後の家族団欒の日なのに、帰りが遅いからお父さん寝ちゃったじゃない」

時計を見ると、まだ10時を少しまわったところだ。
父はタクシーの運転手をしていて、普段の出勤時間が朝早いため、
次の日が休みでも、10時にはいつも寝てしまう。
それでも、今さら三つ指ついて、
「お父さん、お母さん、わたしは明日お嫁に行きます」
なんて湿っぽい最後の晩になるのが嫌だったわたしは、正直ちょっとホッとした。

台所から顔を出す母。明日の式に備え美容院へ行ってきたようだ。

「あっ、そういえば、なんか今日荷物届いてたわよ、部屋に置いてあるから」

そんな母の声に、荷物?と返しながらわたしはトントンと階段を上り、
2階の自分の部屋の扉を開けた。

部屋は閑散としている。
ベッド、机、テレビ。必要なものはすべて新居に移してしまった。
部屋の隅には今日届いたという荷物が置かれていた。
まずは着替えてしまおうと、スーツを脱ぎ、部屋着を手にとった。

それにしても自分の部屋は落ち着く。
小学校、中学校、高校。そして社会人になってずいぶんたつ今でも、
わたしがいちばん落ち着ける場所は自分の部屋だった。

今日で28年過ごしたこの家で眠るのは、最後になる。

明日、わたしは、この家を出る。
わたしは明日、俊之と結婚をするのだ。


***********************************


2年前の夏、わたしは俊之とはじめて出会った。
友人の秋絵が開いた飲み会、いわゆるコンパの席で隣に座ったのがきっかけだ。
ひとつ年下だった俊之の最初の印象は、決してよくはなかった。
場を盛り上げるためにまるでマシンガンのように話す。しかも大声で。
場を仕切る。よくわからない一気コール。馴れ馴れしくいきなり下の名で呼ぶ。
ひとことで言えば、軽い。そんな印象を持った。
社交辞令的にみんなで交わしたメールアドレスに届く俊之からのメールも
最初は無視をしていた。
それでも懲りずに送られ続ける誘いのメールに、いわばおされるかのように、
ふたりで当時流行っていた映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を観に行くことになった。
最初の飲み会からは、2ヶ月ぐらいたっていたと思う。
久しぶりに会う俊之の印象は、最初に持った印象とはずいぶん違った。
ふたりきりで映画を見て、食事をして、そして別れる。
そんな「普通」の一日の間に持った印象は、寡黙。
必要以上に気を使う性格の俊之は、飲み会では場を盛り上げることだけを考える。
ふたりで会うときは、ひどく緊張をしてあまり話さない。
あとからわかったことだけど、そういうことのようだ。
俊之のそんな性格に興味を持ち、しばらくして、わたしは俊之と付き合うことになった。
26歳のときのことだ。
それから2年。わたしたちは一度や二度の喧嘩がなかったとはいえないけど、
順調に愛をはぐくんできた。
自動車メーカーの下請けの下請け。
それでもまずまず大きな会社で営業の仕事をしている俊之を、
わたしの両親は、しっかり者だと、ひどく気に入った。
半年前にプロポーズをされた。
わたしは、そのプロポーズを受けた。
そして、ついに明日、わたしは俊之と結婚をする。

ひとつの迷いを心の奥に隠しながら。


***********************************


着替え終わると同時に、携帯電話が鳴った。
通話ボタンを押すと同時に、秋絵の大きな声が耳を刺した。

「ちょっと声大きいよ」
笑いながらそう伝えると、聞いているのかいないのか、秋絵は話した。

「どうですか?最後の夜は。明日の結婚式楽しみにしてるから」

そんな出だしで一方的に話し続ける。
短大時代からの親友の秋絵とは、今でも月イチ程度で食事に行く仲だ。
仕事の愚痴、彼氏の話、昔の恋。
まちがいなくお互いのことを知り尽くしている、そんな仲だ。
1年前にわたしよりも先に結婚をしてからは会う機会は減ったけれど、
それでもちょくちょく電話をしては近況報告のやりとりに余念はない。
明日の結婚式でも、秋絵にはスピーチをお願いしている。
本当のところ、あまりに過去を知られすぎているから、何を言われるか心配で、
スピーチは他の友達にお願いしたかったのだけど。
それでもそもそも秋絵が開いた飲み会で知り合ったわたしと俊之は知り合ったのだから、
スピーチはわたしがするしかないよね。
とずうずうしくも自分から買って出た秋絵の申し出を断ることができなかった。

「じゃ、明日わたしはセクシーなドレスで行くからさ」
と言い残し笑いながら電話を切ろうとする秋絵。

「それじゃあ、明日くれぐれもよろしくね」
と伝え、わたしも携帯電話から耳を離そうとすると、
ちょっと待って、と秋絵は急に真剣になって聞いてきた。

「もう迷ってないんだよね、優二のことは」


***********************************


「そんなに優二のこと忘れられないの?
 とりあえずわたしが飲み会開いてあげるよ」

2年前、秋絵が言った言葉だ。
そしてその飲み会で俊之と出会うことになる。

優二。
わたしが俊之と出会う前に付き合っていたその人は、
3年前にわたしを置いてひとり上京をした。
優二との出会いは、少し変わっている。
ちょうど短大の卒業式の日、わたしは秋絵を含めた友人数人と遅くまで飲んでいた。
解散後、秋絵とふたりで街をほろ酔いで歩いていると、
3月の寒空の下でひとりギターを奏で歌う男がいた。
短大の卒業という区切りで少し感傷的になっていたわたしたちは、
足を止め、男の歌声に聞き入っていた。
それから、毎週週末になると同じ場所で弾き語る男を就職した後もしばしば見かけた。
男の名は、優二といった。
いつしか会話を交わすようになり、そして親しい仲になっていった。
わたしよりも4つ年上の優二は、深夜のコンビニでバイトをするフリーターだった。
大学を卒業してから2年、ずっとそんな生活を送ってきたとのことだった。
彼には夢があった。
幼いころから好きだったギターで食べていくこと。
夢に向かう優二に、わたし惹かれた。
そして、いつしかわたしたちは付き合い始めた。

5年付き合った。
岐阜から出てきて一人暮らしをしている優二の家で、
半同棲のような生活を送る時期もあった。
OLとして働くわたしは、深夜のコンビニで働く優二とはすれ違うことが多かった。
それでも、優二の歌声、作る曲、夢を追う姿、すべてを愛していた。
わたしには、優二がすべてだった。
秋絵には何度も言われた。
甲斐性のない男はよしたほうがいいよ。と。
それでも、優二と秋絵、そしてわたしの3人で、たまにゆっくりと飲むことなどもあった。
秋絵が優二のことをよしたほうがいいと言うことも、
すべてわたしのためを思ってのことだということもわかっていた。
わたしは優二なしで生きていくことを考えることなどできなかった。

わたしの両親は、優二のことをよく思っていなかった。
はじめて優二のことを両親が知ったのは。わたしが23歳。優二が27歳のときだった。
特に紹介したわけではない。
父がタクシーを走らせていて、たまたま街で歌う優二とわたしの姿を見たのだ。
当時、優二の部屋に通いきりで、そのことを父も面白く思っていなかったのだろう。
そんなフーテンのようなやつはやめておけ。とわたしに放った。
親の気持ちを考えるとわかる。今ではわかるが、そのころのわたしにはわからなかった。

レコード会社にテープを送ったり、いろいろなオーディションを受けたり。
優二は夢のために試みたが、一向に花開かなかった。

そして、3年前の秋。
わたしが25歳のときに、優二は一方的にわたしにこう告げ、わたしの前から消えたのだ。

「3年だけ待ってくれ。おれもいい年だ。
 3年たっても芽が出なければ、きっぱりと諦めて、おれは戻ってまじめに働く。
 必ず3年で成功してみる。東京で勝負する。だから、3年だけ待ってくれ」

優二の携帯電話は、その日以来通じなくなった。
東京の住所も聞いてはいなかった。
待つも何もなかった。
優二は、わたしの前から消えた。わたしは捨てられたのだ。

しばらく塞ぎこんでいたわたしを見て、秋絵が飲み会を久しぶりに開いてくれた。
そこで出会ったのが、明日結婚をする俊之だった。

わたしは明日結婚をする。
幸せを一緒に掴む。その相手を俊之と決めたのだ。
後悔などすることなど、何もない。

それでも、わたしは秋絵からの何気ない問いに心が揺らぐ。

「もう迷ってないんだよね、優二のことは」

正直に言うと、まだ、迷っている。
迷いは隠してはいる。
それでも、迷っている。

迷いのわけはわかっている。

3年だけ待ってくれ。優二が言ったその言葉。

今日がちょうど、その3年目の日だったからだ。


***********************************


答えはもうわかっていた。
上京と同時に連絡がつかなくなった。
3年待ってくれ。そんな言葉は、単なる都合のいい別れの言葉だった。
わたしを捨てた優二は、きっと東京で新しい生活を送っているのであろう。
ギターを捨てたかどうかはわからない。

わたしは3年待った。
もっと早く結婚をしたいと言った俊之に結婚式の日を明日まで待ってもらったのは、
優二との約束、それがわたし本位の約束でも、それを信じたかったからだ。
俊之には悪いと思っている。
それでも、俊之と付き合いながらも、わたしは優二を待っていた。
3年間、ずっとずっと今日というタイムリミットの日を待っていた。
たとえ、答えがわかっていても、けじめのためにずっと待っていたのだ。
深夜0時。あと1時間で、日が変わる。
過去を拭い、未来掴む。そんな区切りが近づいてきている。

部屋の片隅に目をやった。

今日届いたという荷物が置かれていた。
結婚式を前にして、少し前に一斉に買い込んだ通信販売の品物の何かだと思っていた。

見覚えのないその包みに、わたしははじかれたように駆け寄って、開いた。


***********************************


涙が止まらなかった。
3年間、待った。
わたしは俊之の優しさを受けながらも、優二のことを思い、ずっと待っていた。

包みを開けると、そこには一本のカセットテープと手紙が添えられていた。

優二からだった。


***********************************


3年。長いようで短かった。
東京は、思ったよりも厳しくて、きっとぼくが甘かったのだと思うけど。
ぼくにはギターの才能なんてない。そう思い知らされた3年でした。
約束したとおり、ぼくは東京から戻ることを決めました。
連絡つかなくなってしまってごめん。
携帯の番号を変えてしまったのは、君から連絡を受けないようにするため。
そうしないと、弱いぼくは負けてしまいそうだったから。
君が待っていてくれるとは思ってなかったけれども、
それでも、あのときの約束をずっと覚えていたぼくは、
先日君の家をひとり訪ねました。
君が結婚をすることをそのとき知った。
たまたま玄関から出てきた君のお父さんに見つかって、
今さらなんだ、と怒鳴られた。
娘の幸せを邪魔するなと、すごい剣幕で。
もちろん、ぼくは君の幸せの邪魔などしない。
ぼくが君を幸せにできるなどとも思っていない。
それでも、最後にひとことだけ君に伝えたくて、こんな手紙を書きました。

おめでとう。

追伸 君に贈る曲を作りました。ぼくの今の気持ちです。


***********************************


母の部屋から、古いラジカセを持ってきた。
同封されていたそのカセットテープをゆっくりとセットする。
再生ボタンを押すと、ギター一本で奏でる前奏が流れ始めた。

http://www.youtube.com/watch?v=MJu1c2LKak8&mode=related&search=

涙が頬をとめどなく伝う。

「明日は結婚式なのに、目腫れるじゃない」

わたしは、泣きながら笑った。

泣きながら笑ったとき、時計の針がゆっくりと午前0時をさした。

そのひとを選んだ、人生が今はじまる。

今日が、その日だ。















written under the influence of "斉藤和義「ウエディングソング」”

http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B20613

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