映画を追跡コミュの「ディパーテッド」鑑賞記

「ディパーテッド」
監督：マーティン・スコセッシ
脚本：ウィリアム・モナハン
出演：レオナルド・ディカプリオ／ジャック・ニコルソン／マット・デイモン／マーク・ウォールバーグ／アレック・ボールドウィン／マーティン・シーン／ヴェラ・ファーミガ


話題になった香港映画「インファナル・アフェア」のリメイク。マーティン・スコセッシがメガホンを取り、ディカプリオと３回目のタグを組んだわけです。

「アビエイター」を観たときにも感じたことですが、どうも最近のスコセッシは撮りたいものを撮ってない歯痒さが画面から伝わってきます。今回も遠藤周作原作の「沈黙」を撮るためにこの企画を飲んだらしいので、スコセッシ自身は「インファナル・アフェア」に愛着があったわけではないのでしょう。
（黒澤の「酔いどれ天使」のリメイクも彼が撮ると聞いたことがあるのですが、あれはどうなったんでしょうね？？）

しかし、そういった裏事情を観客に悟られてしまうとはそれはプロの仕事ではない筈です。ましてそういう作品に「この一年で最もよく出来た作品であった」ことを意味するアカデミー作品賞を与えるとは最近のオスカーはここまで失墜してしまったということでしょうか。

勿論監督賞にも私は反対。名誉賞だけで監督賞を終生もらえなかったＡ・ヒッチコックやＲ・アルトマンの方が格段にいい仕事をしてきた筈ですから。

「インファナル・アフェア」とは絶え間の無い業とでも訳しましょうか。原題は「無間地獄」でした。当初は組織命令に柔軟に従って少年の頃から「潜入」をしていた二人の男が成長するに従って自分が何者かわからなくなってしまう、組織のために殺人もためらわなかったけれど、殺しても殺しても自分の落ち着ける場所は身分を偽る限りどこにもない。逃げ出せない業に捉えられた二人の男と彼らの上司のやりきれない心情をカーアクションと銃撃戦と盗聴技術とを交えて描く香港ノワールだったわけで、息つく間もなく画面に見入っていたことを覚えています。

ところが今作では、カーアクションも携帯で連絡を取り合うシーンもオリジナルをそのまま拝借。マーティン・シーンがビルから落下するシーンの凡庸さにはオリジナルのファンだったら頭を抱えてしまうのではないでしょうか。

オリジナルの唯一の弱点はケリー・チャン演じるセラピストの人物造形の甘さだと思っていたのですが、本作のセラピストはその上を行く甘さでしたね。患者と性的関係になるとはメチャメチャです。アメリカって精神分析の先進国だったはずですが。

Ｆ・Ｆ・コッポラも本当に撮りたかったのは「地獄の黙示録」でそれを実現するために「ゴッドファーザー」を撮らされたというエピソードを聞いたことがあります。世の中に出ようと野心に燃えるコッポラとすでに評価が確立されているスコセッシを比較するのは両者に対して失礼でしょうが、言及せざるを得ません。

ディカプリオ×スコセッシのコンビは解消した方がいいと思います。ニコルソンも今回の演技は鼻について仕方がなかった、というより脚本が薄っぺらだから演技派といわれる人が何をやっても今回は空回りです。

ディカプリオは「ギルバート・グレイブ」のような地味だけれど光る作品に出たほうがいいと思います。大作で評価されたいという野心が見え見えです。

Ｊ・デップは大作にでたりインディペンデントに出たりと、非常にバランスのとり方が上手いですからね。

この映画で唯一オリジナルと違う味を出せたのはラストで悪役のマット・デイモンに罰が下されるということでしょうか、悪が生き残り終生業に苦しめられる、というのが「インファナル・アフェア」三部作のテーマだったのではなかったのですかね。

ラスト・シーンのrat＝ドブネズミ。あんなわかりやすいラスト、これを映画といっていいのでしょうか？

（★☆☆☆☆）